説明

防食機能付コネクタ

【課題】電線とこれらに接続される端子との接触部位の腐食を、一括して効率よく抑制することが可能な防食機能付コネクタを提供する。
【解決手段】防食機能付コネクタは、それぞれが導体52を有する複数の電線50の端末にそれぞれ装着され、かつ、その導体52を構成する金属と異なる金属により構成される複数の端子10と、ハウジング20と、防食体30と、を備える。ハウジング20は、端子挿入孔22と、これらの端子挿入孔の後ろ側に位置してこれらの端子挿入孔に跨る形状の防食体収容空間24とを画定する。防食体は、弾性変形可能な材料からなり、貫通孔32を有する。電線圧着部14と導体との接触部位が貫通孔内に位置するように防食体の位置が設定される。防食体が貫通孔を囲む内周面のうち少なくとも前記接触部位の前後に位置する部分33,34が拡径方向に弾性変形して端子または電線と密着することにより当該接触部位への水分の浸入を抑止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれが導体を有する複数の電線の端末にそれぞれ装着される複数の端子を含むとともに、当該電線の導体を構成する金属と当該端子を構成する金属とが互いに異なる異種金属である場合にもその異種金属同士の接触による腐食を有効に抑止できる防食機能付コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導体を有する電線の端末には、その導体を構成する金属と同系の金属(一般には銅または銅合金)からなる端子が装着されるのが一般的であったが、近年、軽量なアルミニウム系材料からなる導体を有する、いわゆるアルミ電線の使用に伴い、当該電線の導体を構成する金属と端子を構成する金属との相違に起因する腐食、すなわち、異種金属同士が接触することによる腐食が問題となっている。例えば、電線に含まれるアルミニウム製導体に銅製の端子が圧着された場合、銅の標準電極電位は+0.34Vであり、アルミニウムの標準電極電位は−1.66Vであることから、前記導体と前記端子との間に2.00Vもの大きな標準電極電位差が存在することになる。従って、両者の接触部位に、例えば雨天時の走行や洗車、或いは結露などによって水分が付着すると、電気的に卑であるアルミニウム導体のイオン化が進行してその腐食が進行することになる。
【0003】
このような腐食を防ぐための手段として、従来は、異種金属同士の接触部位に対し、耐水性の塗装、熱収縮チューブの被着、あるいは樹脂のインサートモールド成形を施すことで、その接触部位への水分の付着を方防止する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−285983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の従来技術は、いずれも、端子一つずつに対して施される処理であるため、端子数の増大に伴ってその処理のために要する時間及びコストは著しく増大する。このような不都合を回避する手段として、複数本の端子をまとめて防水コネクタのハウジングに収容することにより、一括防水することが考えられるが、このような防水コネクタのハウジングは、端子同士の嵌合部位も含めた端子全体を防水するために当該ハウジング内への水分の浸入を完全排除するように設計されていることから、高価かつ大型である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記の事情に鑑み、複数本の電線とこれらに接続される端子との接触部位の腐食を、高価かつ大型の防水ハウジングを用いることなく、一括して効率よく抑制することが可能な防食機能付コネクタを提供することを目的とする。
【0007】
この目的を達成するための本発明に係る防食機能付コネクタは、それぞれが導体を有する複数の電線の端末にそれぞれ装着され、かつ、その導体を構成する金属と異なる金属により構成される複数の端子と、これらの端子を一括して収容するハウジングと、前記端子と前記電線の導体との接触部位の腐食を防ぐための防食体と、を備える。前記各端子は、相手方の端子と嵌合して電気的に導通するように接触する電気接触部と、この電気接触部の後ろ側に位置し、前記電線の端末に圧着されて当該電線の導体と電気的に導通するように接触する電線圧着部とを有する。前記ハウジングは、前記各端子の電気接触部がそれぞれ当該端子の軸方向に沿って挿入される複数の端子挿入孔と、これらの端子挿入孔の後ろ側に位置してこれらの端子挿入孔に跨る形状を有し、前記防食体を収容することが可能な防食体収容空間とを画定する。前記防食体は、弾性変形可能な材料からなり、前記各電気接触部の通過を許容して当該電気接触部の前記端子挿入孔への挿入を可能にする複数の貫通孔を有し、当該端子挿入孔に当該電気接触部が挿入された状態で前記電線圧着部と前記電線の導体との接触部位が前記貫通孔内に位置するように前記ハウジング内における前記防食体の位置が設定される。当該防食体は、前記貫通孔を囲む前記防食体の内周面のうち少なくとも前記電線圧着部と前記電線の導体との接触部位の前後に位置する部分が拡径方向に弾性変形して前記端子または前記電線と密着することにより当該接触部位への水分の浸入を抑止する形状を有する。
【0008】
この防食機能付コネクタでは、当該防食機能付コネクタに含まれる端子の電線圧着部と当該電線圧着部が圧着される電線の導体との接触部位の防食が、共通の防食体によって効率よく一括的に抑止される。すなわち、当該防食体の各貫通孔に対応する端子の電気接触部を挿通しながら当該電気接触部をこれに対応する端子挿入孔に挿入するという、通常のコネクタにおける端子挿入作業と同じ作業を行うだけで、前記防食体の貫通孔内に前記端子の電線圧着部と前記電線の導体との接触部位が収容されて外部の水分の浸入から保護される状態を形成することが可能である。また、前記防食体は少なくとも前記接触部位の前後で前記端子または前記電線と密着することにより当該接触部位を前記貫通孔内で保護できるものであればよく、従来の防水コネクタのようにハウジング内への水分の浸入を完全排除する必要がないので、当該ハウジングの著しい大型化や著しいコストの上昇を伴うことなく、前記各接触部位の防食が達成される。
【0009】
前記端子としては、前記電気接触部と前記電線圧着部との間に、当該電線圧着部と前記電線の導体との接触部位よりも大きな断面を有して前記貫通孔を囲む前記防食体の内周面と密着する断面拡大部を有するものが、好適である。この断面拡大部は、前記接触部位よりも前側の位置で前記防食体の内周面と密着することにより、当該防食体内での前記接触部位の保護をより確実にする。
【0010】
一方、前記各貫通孔を囲む前記防水体の内周面は、前記接触部位を挟む前後の部位に全周にわたって他の部分の内周面よりも内方に突出するシール部を有し、これらのシール部がそれぞれ拡径方向に弾性変形した状態で前記端子または前記電線に密着するものが、好適である。この防水体では、前後のシール部が拡径方向に弾性変形すればよく、貫通孔を囲む内周面全体が大きく拡径する必要はないので、より小さな抵抗で各貫通孔内に前記端子を挿通することができ、かつ、この端子または電線に前記各シール部を確実に密着させて前記接触部位を保護することができる。
【0011】
この場合も、前記端子はその電気接触部と電線圧着部との間に前記のような大きな断面を有する断面拡大部を有することが、より好ましい。その場合、当該断面拡大部が前記両シール部のうちの前側のシール部に密着するように当該シール部の位置が設定されればよい。
【0012】
前記防水体は、例えばゴムのように比較的柔らかい弾性材料で形成されるから、最も外側に位置する貫通孔と当該防水体の外側面との間の部分が薄肉であると、当該貫通孔に端子が挿入される際にその薄肉の部分に亀裂などが生じ易く、逆に当該部分の肉厚を大きくすると防水体全体の大型化を招くことになるが、当該防水体のうち前記端子の挿入入口部分である後端部に、当該後端部よりも前側の部分よりも外向きに突出するフランジ部が形成されることにより、当該防水体全体の大型化を避けながら最も外側の貫通孔と防水体の後端部すなわち端子挿入入口側の部分の外側面との肉厚を大きく確保して前記亀裂などの不都合を回避することが可能である。
【0013】
本発明に係る防食機能付コネクタは、前記端子挿入孔に前記電気接触部が挿入された状態の端子を係止するために前記ハウジングに取付けられるリテーナをさらに備えてもよい。このリテーナは、前記各端子挿入孔への前記電気接触部の挿入を許容する挿入許容位置と、当該端子挿入孔に当該電気接触部が挿入された状態で当該端子挿入孔からの当該電気接触部の離脱を阻止するように当該端子を係止する係止位置との間で移動可能となるように前記ハウジングに取付けられる。そして、この場合に、当該リテーナを利用して前記防食体による前記各接触部位の防食機能を向上させることが可能である。具体的には、前記リテーナが前記挿入許容位置から前記係止位置に移動するのに伴って当該リテーナが前記防食体を圧縮するように当該リテーナの取付位置が定められればよい。このリテーナによる防食体の圧縮は、前記各貫通孔を囲む防食体の内周面と端子または電線との密着度合いを高め、これにより、当該防食体が前記接触部位への水分の浸入を阻む機能を高めることができる。
【0014】
前記リテーナを具備する場合にも、前記防水体の後端部に前記フランジ部が形成されることは、有効である。この場合、当該フランジ部が前記リテーナの後端よりも後方に位置するとともに、前記ハウジングが、前記リテーナの後端よりも後方に位置するハウジング後部を有してこのハウジング後部が前記フランジ部を受け入れる凹部を含む内周面を有することにより、当該ハウジングは前記リテーナの機能を確保しながら前記フランジ部を含む防水体全体をコンパクトな形状で収容することが可能である。
【0015】
また、本発明に係る防食機能付コネクタでは、前記各貫通孔を囲む前記防水体の内周面と、前記端子の電線圧着部と前記電線の導体との接触部位の表面との間には、両者の隙間を埋めるような流動性を有する防水材、例えばグリース、が介設されることが、より好ましい。このような流動性を有する防水材と前記防水体の弾性変形との相乗効果とにより、前記接触部位のより効果的な防水が実現される。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、複数本の電線とこれらに接続される端子との接触部位の腐食を、高価かつ大型の防水ハウジングを用いることなく、一括して効率よく抑制することが可能な防食機能付コネクタが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るコネクタの断面側面図であって図2のI−I線断面図である。
【図2】前記コネクタの背面図である。
【図3】前記コネクタの斜視図である。
【図4】図1のIV−IV線断面図である。
【図5】図1のV−V線断面図である。
【図6】前記コネクタの端子の斜視図である。
【図7】前記コネクタのハウジング及びこれに収容される防食体を示す、図1相当の断面側面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線断面図である。
【図9】図7のIX−IX線断面図である。
【図10】前記コネクタのハウジングに当該コネクタの端子を挿入した直後の状態を示す断面側面図である。
【図11】図10のXI−XI線断面図である。
【図12】図10のXII−XII線断面図である。
【図13】(a)は前記コネクタの端子の断面拡大部を示す断面正面図、(b)及び(c)は当該断面拡大部の変形例を示す断面図である。
【図14】本発明の第2の実施の形態に係るコネクタの側面図である。
【図15】図14のXV−XV線断面図である。
【図16】図15のXVI−XVI線断面図である。
【図17】前記第1の実施の形態に係るコネクタの図15相当の断面正面図である。
【図18】前記第1の実施の形態に係るコネクタの図16相当の断面平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態では、本発明に係る防食機能付コネクタとして図略の雄コネクタと結合可能な雌コネクタを開示するが、本発明はこれに限定されない。例えば、雄コネクタや、複数の電線同士を短絡させるためのジョイントコネクタ、複数のアース用電線をアース部位に一括接続するためのアース用コネクタなどにも本発明は適用可能である。
【0019】
図1〜図12は、第1の実施の形態に係るコネクタを示し、このコネクタは、複数の雌型の端子10と、これらの端子10を一括して収容するハウジング20と、防食体30と、リテーナ40とを備える。
【0020】
前記各端子10は、導体52及びこれを被覆する絶縁被覆54を有する複数の電線50の端末にそれぞれ装着されるとともに、当該導体52を構成する金属と異なる金属により構成される。この実施の形態では、電線50としてその導体がアルミニウムからなる、いわゆるアルミニウム電線が用いられるのに対し、前記各端子10は銅または銅合金からなる板材により構成される。
【0021】
前記各端子10は、図略の相手方の雄端子が嵌入されることにより当該雄端子と電気的に導通するように接触する電気接触部12と、この電気接触部12の後ろ側に位置する電線圧着部14とを有し、電線圧着部14は、一対の導体バレル15と、その後方に位置するインシュレーションバレル16とを有する。一方、前記各電線50には、その端末部分における絶縁被覆54を除去して導体52を露出させる処理が施されている。前記導体バレル15はその露出した導体52を抱き込むようにして当該導体52に圧着され、前記インシュレーションバレル16はその露出した導体52の後方における絶縁被覆54を抱き
込むようにして当該絶縁被覆54に圧着される。
【0022】
さらに、この実施の形態に係る端子10では、前記電気接触部12と前記電線圧着部14との間に断面拡大部13が形成されている。この断面拡大部13は、後述の防食体30との密着を確実にするために端子10の断面を拡大するように樹脂成形物が付加されたものであり、前記導体バレル14と前記電線50の導体52との接触部位における断面よりも一回り大きい断面(ここでは図4に示すような矩形に近い断面)を有する。
【0023】
具体的に、この実施の形態に係る断面拡大部13は、図13(a)に示すように、前記端子10を構成する金属板のうち前記電気接触部12と前記電線圧着部14との間に位置する中間部分13aと、これに充填される樹脂成形物13bとにより構成される。前記中間部分13aは、特定方向(図では上向き)に開放された有底断面を有し、前記樹脂成形物13bは当該中間部分13a内に例えば圧入されることによって固定される。
【0024】
この断面拡大部13の形状は、前記樹脂成形物13bの形状を変更することで自由に設定することが可能である。例えば図13(b)に示すように樹脂成形物13bの上半部の断面形状を外向きに凸の曲線、例えば半円とすることで、この樹脂成形物13bが後述の防食体30から受ける面圧を均等化することができる。さらに、図13(c)に示すように前記樹脂成形物13bの幅方向両端が前記金属板の中間部分13aの両端縁を上から覆う形状であれば、断面拡大部13の外形をより滑らかにすることが可能になる。
【0025】
前記ハウジング20は、合成樹脂等の絶縁材料からなり、図7に示すように、複数の端子挿入孔22と、防食体収容空間24とを画定する形状に成形されている。前記各端子挿入孔22は、コネクタの前後方向(図7では左右方向)に沿って互いに平行に延び、その後端側から前記各端子10の電気接触部12が当該端子10の軸方向に沿って挿入されることが可能である。各端子挿入孔22の前方には、当該端子挿入孔22に挿入された雌型の電気接触部に対して嵌入されるべき相手方の雄型電気接触部、いわゆるタブ、が外側から挿通される端子挿通孔23が形成されている。
【0026】
また、ハウジング20は、前記各端子挿入孔22に挿入される端子10のうちの電気接触部12を係止する位置にそれぞれランス26を有する。この実施の形態では、前記各電気接触部12にその底面から下方に突出する被係止片17が形成される一方、各ランス26は、当該電気接触部12の挿入時に前記被係止片17と接触することにより当該被係止片17から退避する方向に撓み変形して当該被係止片17の通過を許容し、その通過後、すなわち電気接触部12の挿入完了後に弾性復帰して前記被係止片17を後方から係止する舌片状をなす。
【0027】
前記防食体収容空間24は、前記各端子挿入孔22の後ろ側(図7では右側)に位置してこれらの端子挿入孔22に跨る形状、換言すれば、後方から見て全ての端子挿入孔22を包含する形状を有する。この実施の形態では、前記防食体収容空間24の後ろ側にも、前記各端子挿入孔22に対応した複数の端子受入れ孔28が設けられている。換言すれば、前記防食体収容空間24は、端子軸方向に並ぶ端子挿入孔22と端子受入れ孔28とを当該端子軸方向と直交する方向に横切るように、形成されている。また、この防食体収容空間24の位置は、前記各端子10の電気接触部12が前記端子挿入孔22に挿入された状態で当該端子10の電線圧着部14が(本発明では少なくとも電線圧着部と電線の導体との接触部位が)前記防食体収容空間24内に位置するように、設定されている。
【0028】
前記防食体30は、ゴム等の弾性材料からなり、前記防食体収容空間24に収容される。この防食体30は、前記防食体収容空間24に対応した形状(この実施の形態では略直方体形状)をなし、かつ、前記端子挿入孔22と同数の貫通孔32を有する。これらの貫通孔32は、前記各端子挿入孔22に対応する位置に設けられ、前記防食体30をコネクタの前後方向すなわち前記各端子10の挿入方向に貫通するとともに、この貫通孔32内に前記電気接触部12が後ろ側から前側に向かって挿通されて前記端子挿入孔22に挿入されるのを許容する孔径を有する。さらに、前記端子10の電気接触部12が当該端子挿入孔22内に挿入された状態で当該端子10の電線圧着部14と電線50の導体52との接触部位が前記貫通孔32内に位置するように、ハウジング20内における前記防食体30の収容位置が設定されている。
【0029】
さらに、この貫通孔32を囲む防食体30の内周面のうち、前記接触部位を挟む前後の部位(この実施の形態では貫通孔32の前後両端に位置する部位)には、全周にわたって当該内周面の他の部分よりも内側に突出する突条であるシール部33,34がそれぞれ形成されている。すなわち、これらのシール部33,34は、前記貫通孔32を囲む内周面の他の部位よりも小さな内径を有する。
【0030】
これらのシール部33,34のうち前側のシール部33の位置は、前記端子10の電気接触部12が前記端子挿入孔22に挿入された状態において当該端子10の断面拡大部13と前記シール部33とが全周にわたり密着するように、設定されている。また、後ろ側のシール部34の位置は、同様の状態において前記端子10の後端のすぐ後ろに位置する電線50と前記シール部34とが全周にわたり密着するように、設定されている。
【0031】
なお、図1及び図10では便宜上、変形前の防食体30の断面の輪郭が端子10及び電線50の輪郭とともに実線で描かれているが、同図において両輪郭がオーバーラップしている部分は、実際は主に防食体30の弾性圧縮変形によって吸収され、その変形分の弾性復帰力により接触圧が確保される。
【0032】
前記リテーナ40は、前記各端子挿入孔22に挿入された電気接触部12をそれぞれ二重係止するために前記ハウジング20に取付けられる。具体的には、図7及び図10に示すように前記各端子挿入孔22への前記電気接触部12の挿入を許容する挿入許容位置(仮係止位置)と、この挿入許容位置よりも上側の位置であって図1に示すように当該端子挿入孔22に当該電気接触部12が挿入された状態で当該端子挿入孔22からの当該電気接触部12の離脱を阻止するように当該電気接触部12を係止する係止位置(本係止位置)との間で移動可能となるように、前記ハウジング20に取付けられる。
【0033】
このリテーナ40は、底壁42と、この底壁42の左右両側から立ち上がる左右の側壁44と、これらの側壁44よりも前方に位置する端子係止部46とを有する。前記側壁44の上端には内向きに突出する被係止突起45が形成される一方、ハウジング20の左右外側面には、外向きに突出する仮係止突起25Aと、この仮係止突起25Aのすぐ上側の位置で外向きに突出する本係止突起25Bとが形成されている。前記仮係止突起25Aは、前記被係止突起45に対してその下側から係合することにより前記リテーナ40を前記挿入許容位置に仮係止する位置に設けられ、前記本係止突起25Bは、前記被係止突起45に対してその下側から係合することにより前記リテーナ40を前記係止位置に本係止する位置に設けられている。
【0034】
端子係止部46は、各端子挿入孔22に対応する複数の係止突起46aを有する。これらの係止突起46aは、図7及び図10に示すように前記リテーナ40が挿入許容位置にあるときに前記端子挿入孔22の底面以下に没入して当該端子挿入孔22への電気接触部12の挿入を許容する一方、当該挿入後の状態で図1に示すように前記リテーナ40が係止位置まで上げられることにより前記端子挿入孔22の底面よりも上側に突出して当該端子挿入孔22に挿入された電気接触部12を後方から拘束してその抜けを阻止するように、形成されている。
【0035】
さらに、このリテーナ40の各位置について、当該リテーナ40が挿入許容位置にあるときは図8,図9,図11及び図12に示すように当該リテーナ40の底壁42が前記防食体収容空間24内の防食体30から下方に離間する一方、当該リテーナ40が当該挿入許容位置から係止位置まで上げられるのに伴って図4及び図5に示すように前記底壁42が前記防食体30の下面に押付けられてこの防食体30をハウジング20の天壁(防食体収容空間24の上側の壁)との間で上下方向に圧縮するように、当該リテーナ40の取付位置(前記各位置及びリテーナ40の形状が設定されている。
【0036】
次に、このコネクタの使用手順の例及びその作用を説明する。
【0037】
1)各端子10の電線圧着部14が対応する電線50の端末に圧着される。具体的には、前記電線圧着部14のうちの導体バレル15が各電線50の端末において露出する導体
52に圧着され、インシュレーションバレル16が当該導体52のすぐ後ろ側に位置する絶縁被覆54に圧着される。前記のように、前記導体52はアルミニウムからなり、前記導体バレル15を含む端子10全体が銅または銅合金により構成されているため、当該導体52と当該導体バレル15との接触部位に水分が付着すると、電気的に卑であるアルミニウム導体のイオン化が進行してその腐食が進行することになる。この腐食は、後に詳述する防食体30により抑止される。
【0038】
2)一方、ハウジング20では、当該ハウジング20にリテーナ40を装着する前の段階で当該ハウジング20の防食体収容空間24内に防食体30が装填されることが可能である。その装填後にリテーナ40はハウジング20に装着される。初期段階では、当該リテーナ40は図7,図8及び図9に示す挿入許容位置に仮係止される。
【0039】
3)各端子10の電気接触部12が、ハウジング20における各端子挿入孔22に挿入される。具体的に、当該電気接触部12は、まずハウジング20の後端の端子受入れ孔28に挿入され、さらに防食体収容空間24内の防食体30のうちの対応する貫通孔32に挿通されて前記端子挿入孔22内に挿入される。この挿入が完了した状態、すなわち、図10〜図12に示す状態において、前記各電気接触部12はこれと対応するランス26により一次係止される一方、当該電気接触部12の後ろ側の電線圧着部14及びこれが圧着される電線50の端末は、前記貫通孔32内に格納される。
【0040】
このとき、前記電線圧着部14における導体バレル15と電線50の導体52との接触部位の前後では、前側シール部33が端子10の断面拡大部13に全周にわたり密着し、後側シール部34が端子10の後端の直後方の電線50に全周にわたり密着するから、前記接触部位への外部からの水分の浸入が前記両密着によって有効に抑止され、これに起因する当該接触部位での腐食(特にアルミニウム製の導体52の腐食)が効率よく一括的に抑止される。この防食体30は、特に水分の浸入の阻止が求められる前記接触部位を局所的に、しかも、全ての端子10について包括的に、保護するものであるから、従来の防水コネクタのようにハウジング内への水分の浸入を完全排除するための構造を有するものと異なり、ハウジングの著しい大型化や著しいコストの上昇を伴うことなく、前記各接触部位の防食を行うことができる。
【0041】
4)前記各端子10の挿入が完了した後、リテーナ40が前記挿入許容位置から係止位置に向けて押し上げられる。これにより、リテーナ40の被係止突起45はそれまでの位置すなわち仮係止突起25Aに係合される位置から本係止突起25Bに係合される位置に移行し、これにより、リテーナ40は図1,図4及び図5に示される係止位置に本係止される。この係止位置にあるリテーナ40の端子係止部46は、当該端子係止部46に含まれる各係止突起46aが各電気接触部12の後端を後方から拘束することにより、全ての端子10を一括して二次係止する。その際、当該リテーナ40の底壁42がハウジング20の天壁とともに防食体30を上下方向に圧縮することにより、前記端子10及び前記電線50のアセンブリと前記防食体30との密着(特に両シール部33,34での密着)の度合いを高め、これにより当該防食体30が当該電線圧着部14内への水分の浸入を阻む機能が高められる。
【0042】
なお、本発明においてリテーナ40は必須のものではなく、仕様に応じて適宜省略され得るものである。また、防食体30の形状は、端子10の個数や配列などに応じて自由に設定されることが可能である。例えば、貫通孔32を囲む防食体30の内周面と端子10及び電線50のアセンブリとが密着する部位は適宜設定可能であり、少なくとも前記接触部位を挟む前後の位置で当該密着が達成されればよい。また、この条件を満たす範囲で、前記シール部33やシール部34の省略が可能である。あるいは、貫通孔32の孔径を一定とするのではなく当該貫通孔32にテーパー(例えば前端に向かうに従って縮径する方
向のテーパー)が与えられてもよい。
【0043】
本発明の第2の実施の形態に係る防食機能付コネクタを図14〜図16に示す。このコネクタは、第1の実施の形態に係るコネクタの構成要素と同等の構成要素を具備するが、その防水体30のうちの端子挿入入口部分すなわち後端部に、当該後端部よりも前側の部分よりも外向きに突出するフランジ部37が形成されている。
【0044】
前記防水体30は、例えばゴムのように比較的柔らかい弾性材料で形成されるから、最も外側に位置する貫通孔32と当該防水体30の外側面との間の部分が薄肉であると、当該貫通孔32に対して後方から端子10が挿入される際にその薄肉の部分に亀裂などが生じ易く、逆に当該部分の肉厚を大きくすると防水体30全体の大型化を招くことになる。しかし、当該防水体30のうち前記端子10の挿入入口部分である後端部に前記のようなフランジ部37が形成されることにより、当該防水体30全体の大型化を避けながら、最も外側の貫通孔32と防水体の端子挿入入口側の部分の外側面すなわち前記フランジ部37の外側面との間の部分39の肉厚を大きく確保することができ、前記亀裂などの不都合を回避することが可能である。
【0045】
さらに、この第2の実施の形態に係る防食機能付コネクタの特徴として、前記フランジ部37が前記リテーナ40の後端よりもさらに後方に位置するとともに、前記ハウジング20が、前記リテーナ40の後端よりも後方に位置するハウジング後部27を有し、このハウジング後部27は、前記フランジ部37を受け入れる凹部27aを含む内周面を有している。これにより、当該ハウジング20は、前記リテーナ40の機能を確保しながら、コネクタ全体の大型化を招くことなく前記フランジ部37を含む防水体30全体を収容することが可能である。
【0046】
例えば、図17及び図18に示す、前記第1の実施の形態に係るコネクタと比較すると、当該コネクタでは、最も外側に位置する貫通孔32と防水体30の外側面との間の部分39の肉厚が非常に小さくなっているのに対し、図15〜図17に示す第2の実施の形態に係るコネクタでは、前記防水体30の後端部がフランジ部37であることにより、当該フランジ部37の外側面と最も外側に位置する貫通孔32との間の部分39の肉厚が大きく確保されることが可能である。しかも、このフランジ部37がリテーナ40の後端よりも後方に位置することにより、当該リテーナ40の作動が可能となっているのに加え、当該リテーナ40の後方に位置するハウジング後部27の凹部27aが前記フランジ部37を受け入れることによって、前記第1の実施の形態に係るコネクタの外形と同等の外形を維持しながら(すなわちコネクタ全体の大型化を招くことなく)、ハウジング20が前記フランジ部37を含む防水体30全体を収容することが可能となっている。
【0047】
本発明は、前記防水体に加え、流動性を有する防水材、例えばグリースの使用を妨げない。このような流動性を有する防水材が、前記各実施形態に係る貫通孔32を囲む防水体30の内周面と、前記端子10の導体バレル14と前記電線50の導体52との接触部位の表面との間に両者の隙間を埋めるように介設されれば、当該防水材と前記防水体30の弾性変形との相乗効果とにより、前記接触部位のより効果的な防水が実現される。
【0048】
本発明に係るコネクタは、その端子として、当該端子が装着される電線の導体と異なる金属からなるものを少なくとも含んでおればよく、これに該当しない端子も併せて含むものを除外する趣旨ではない。例えば、本発明に係るコネクタは、装着されるべき電線を構成する導体と異なる金属からなる複数の端子(例えばアルミニウム製導体を有する電線に装着される銅製または銅合金製の複数の端子)と、装着されるべき電線を構成する導体と同じ金属からなる端子(例えば銅または銅合金製導体を有する電線に装着される銅または銅合金製の端子)とを併有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0049】
10 端子
12 電気接触部
14 電線圧着部
15 導体バレル
16 インシュレーションバレル
20 ハウジング
22 端子挿入孔
24 防食体収容空間
27 ハウジング後部
27a 凹部
30 防食体
32 貫通孔
33,34 シール部
37 フランジ部
40 リテーナ
42 リテーナの底壁
46 端子係止部
46a 係止突起
50 電線
52 導体
54 絶縁被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防食機能付コネクタであって、
それぞれが導体を有する複数の電線の端末にそれぞれ装着され、かつ、その導体を構成する金属と異なる金属により構成される複数の端子と、
これらの端子を一括して収容するハウジングと、
前記端子と前記電線の導体との接触部位の腐食を防ぐための防食体と、を備え、
前記各端子は、相手方の端子と嵌合して電気的に導通するように接触する電気接触部と、この電気接触部の後ろ側に位置し、前記電線の端末に圧着されて当該電線の導体と電気的に導通するように接触する電線圧着部とを有し、
前記ハウジングは、前記各端子の電気接触部がそれぞれ当該端子の軸方向に沿って挿入される複数の端子挿入孔と、これらの端子挿入孔の後ろ側に位置してこれらの端子挿入孔に跨る形状を有し、前記防食体を収容することが可能な防食体収容空間とを画定する形状を有し、
前記防食体は、弾性変形可能な材料からなり、前記各電気接触部の通過を許容して当該電気接触部の前記端子挿入孔への挿入を可能にする複数の貫通孔を有し、当該端子挿入孔に当該電気接触部が挿入された状態で前記電線圧着部と前記電線の導体との接触部位が前記貫通孔内に位置するように前記ハウジング内における前記防食体の位置が設定され、かつ、この貫通孔を囲む前記防食体の内周面のうち少なくとも前記電線圧着部と前記電線の導体との接触部位の前後に位置する部分が拡径方向に弾性変形して前記端子または前記電線と密着することにより当該接触部位への水分の浸入を抑止する形状を有する、防食機能付コネクタ。
【請求項2】
請求項1記載の防食機能付コネクタであって、前記端子は、前記電気接触部と前記電線圧着部との間に、当該電線圧着部と前記電線の導体との接触部位よりも大きな断面を有して前記貫通孔を囲む前記防食体の内周面と密着する断面拡大部を有する、防食機能付コネクタ。
【請求項3】
請求項1記載の防食機能付コネクタであって、前記各貫通孔を囲む前記防水体の内周面は、前記接触部位を挟む前後の部位に全周にわたって他の部分の内周面よりも内方に突出するシール部を有し、これらのシール部がそれぞれ拡径方向に弾性変形した状態で前記端子または前記電線に密着する、防食機能付コネクタ。
【請求項4】
請求項3記載の防食機能付コネクタであって、前記端子は、前記電気接触部と前記電線圧着部との間に、当該電線圧着部と前記電線の導体との接触部位よりも大きな断面を有して前記貫通孔を囲む前記防食体の内周面と密着する断面拡大部を有し、この断面拡大部が前記両シール部のうちの前側のシール部に密着するように当該シール部の位置が設定されている、防食機能付コネクタ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の防食機能付コネクタであって、前記防水体のうち前記端子の挿入入口部分である後端部に、当該後端部よりも前側の部分よりも外向きに突出するフランジ部が形成されている、防食機能付コネクタ。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の防食機能付コネクタであって、さらに、前記端子挿入孔に前記電気接触部が挿入された状態の端子を係止するために前記ハウジングに取付けられるリテーナを備え、このリテーナは、前記各端子挿入孔への前記電気接触部の挿入を許容する挿入許容位置と、当該端子挿入孔に当該電気接触部が挿入された状態で当該端子挿入孔からの当該電気接触部の離脱を阻止するように当該端子を係止する係止位置との間で移動可能となるように前記ハウジングに取付けられ、当該リテーナが前記挿入許容位置から前記係止位置に移動するのに伴って当該リテーナが前記防食体を圧縮するように当該リテーナの取付位置が定められている、防食機能付コネクタ。
【請求項7】
請求項6記載の防食機能付コネクタであって、前記防水体のうち前記端子の挿入入口部分である後端部に、当該後端部よりも前側の部分よりも外向きに突出するフランジ部が形成され、当該フランジ部は前記リテーナの後端よりも後方に位置し、前記ハウジングは、前記リテーナの後端よりも後方に位置するハウジング後部を有してこのハウジング後部が前記フランジ部を受け入れる凹部を含む内周面を有する、防食機能付コネクタ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の防食機能付コネクタであって、前記各貫通孔を囲む前記防水体の内周面と、前記端子の電線圧着部と前記電線の導体との接触部位の表面との間に、両者の隙間を埋めるような流動性を有する防水材が介設される、防食機能付コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−55030(P2013−55030A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−20002(P2012−20002)
【出願日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】