説明

降圧ペプチド

【課題】ACE阻害作用を有する新規ペプチドおよびその用途を提供する。
【解決手段】下記の(1)または(2)に示すアミノ酸配列のいずれかからなるペプチドを提供する:(1) Asn-Asn-Tyr-Pro-Ser-Asp-Ile-Asp-Gln-Trp-His-Asp-Lys(配列番号1)、(2)
Gly-Glu-Gly-Leu-Ile-Val-Tyr-His(配列番号2)。当該ペプチドは、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、抗高血圧剤、食品、特に高血圧症の予防用食品の有効成分として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ペプチドおよびその用途に関する。より詳細には、本発明はアンジオテンシン変換酵素阻害作用(以下、「ACE阻害作用」という)を有し、当該作用に基づいて降圧作用を発揮する新規ペプチド、およびその用途に関する。本発明のペプチドは、上記するようにACE阻害作用に基づいて降圧作用を発揮するため、高血圧症の予防ないし治療に有効である。
【背景技術】
【0002】
高血圧症それ自体は自覚症状が無い疾病である。しかし、これを放置すると心臓病や脳血管障害といった重大な疾患を二次的に引き起こすため、高血圧症を予防しまた治療することは、従来より大きな課題となっている。
【0003】
高血圧症にはアンジオテンシン変換酵素(Angiotensin Converting Enzyme、以下「A
CE」という)が深く関与することが知られており、ACEを阻害することにより高血圧症を予防ないし治療することが可能である。このため、ACE阻害作用を有する化合物を有効成分とする抗高血圧剤の開発が従来から多くなされている。
【0004】
しかし、高血圧症を予防ないし治療するためには、ACE阻害作用を有する化合物を長期間服用することが必要となるため、当該化合物としては、ACE阻害作用を有しながらも副作用が低いことが重要な要件となる。また、予防医学的な健康管理の考え方が普及してきた現在、医薬品よりもむしろ高血圧症を予防する作用を有する機能食品の開発が求められている。
【0005】
なお、下記の特許文献1〜5および非特許文献1〜6には、ACE阻害作用を有するペプチドが種々開示されている。しかしながら、これらのペプチドはいずれも本願発明のペプチドとは相違し、特許庁電子図書館のテキスト検索およびGoogleスカラー、PubMedによる検索において同一配列のペプチドは見られず、本願発明のペプチドは、従来知られているペプチドとは異なるアミノ酸配列を有する新規ペプチドであることが判明した。
【特許文献1】特許第3068656号公報
【特許文献2】特開2002−145899号公報
【特許文献3】特開2002−338594号公報
【特許文献4】特開2005−255670号公報
【特許文献5】特開2007−261999号公報
【非特許文献1】Journal of Nutritional Biochemistry 13 (2002) pp.80-86
【非特許文献2】診断と新薬、第39巻、第2号、2002年、85−90頁
【非特許文献3】日本食品科学工学会誌、第50巻、第10号 457-462頁 (2003).
【非特許文献4】日本食品科学工学会誌、第50巻、第6号286-288頁 (2003).
【非特許文献5】日本食品科学工学会誌、第50巻、第7号 310-315頁 (2003)
【非特許文献6】日本食品科学工学会誌、第51巻、第1号 34-37頁 (2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規ペプチドの提供、より詳細にはACE阻害作用を有し、当該作用に基づいて高血圧症の予防または治療に有効に用いることができる新規ペプチドを提供することを目的とする。また、本発明は上記ペプチドの用途、具体的には、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(以下、「ACE阻害剤」という)、抗高血圧剤および食品としての用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、特定のアミノ酸配列からなるペプチドにACE阻害作用があることを見出し、かかる知見に基づいて、当該ペプチドによれば、そのACE阻害作用に基づいて、高血圧症を予防または改善することができることを確信した。
【0008】
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであって、下記の態様を包含する:
項1.下記の(1)または(2)に記載するアミノ酸配列のいずれかからなるペプチド:
(1) Asn-Asn-Tyr-Pro-Ser-Asp-Ile-Asp-Gln-Trp-His-Asp-Lys(配列番号1)
(2) Gly-Glu-Gly-Leu-Ile-Val-Tyr-His(配列番号2)。
項2.項1に記載するペプチドの少なくとも一つを含有する組成物。
項3.項1に記載するペプチドの少なくとも一つを有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)。
項4.項1に記載するペプチドの少なくとも一つを有効成分とする抗高血圧剤。
項5.項1に記載するペプチドの少なくとも一つを有効成分とする食品。
項6.高血圧症の予防用食品である項5に記載する食品。
項7.ローヤルゼリー若しくはそのアルコール変性蛋白質をトリプシン処理してなる蛋白分解物およびそれを含む食品以外の食品である、項5または項6に記載する食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明のペプチドは、いずれもACE阻害作用を有するため、当該ACE阻害作用に基づいて、降圧作用を発揮することができる。このため本発明のペプチドは高血圧の予防ないし治療に有効である。すなわち、本発明のペプチドを摂取することにより、血圧を低下させることができ、高血圧症、さらには高血圧に起因する各種の疾患を予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明が対象とするペプチドは、下記(1)または(2)のいずれかのアミノ酸配列からなることを特徴とする:
(1) Asn-Asn-Tyr-Pro-Ser-Asp-Ile-Asp-Gln-Trp-His-Asp-Lys(配列番号1)
(2) Gly-Glu-Gly-Leu-Ile-Val-Tyr-His(配列番号2)。
【0011】
当該本発明のペプチドは、その取得の由来や取得方法によって特に限定されるものではなく、上記アミノ酸配列ならびにそのACE阻害作用に基づいて、ペプチド合成法、遺伝子工学的手法、単離精製法および発酵法等、従来公知の方法を用いることによって、製造または調製することができる。
【0012】
上記ペプチド(1)および(2)は、実施例に示すように、ACE阻害作用を有することを特徴とする。
【0013】
当該ペプチド(1)および(2)は、ACE阻害作用を有する限り、いずれも等電点のpHに調整して遊離(フリー)のペプチドとして使用してもよく、または等電点より酸性側または塩基性側のpHに調整後、溶媒を凍結乾燥、噴霧乾燥等により除去するか、またはエタノール等の溶媒を加えて沈殿させるなどの方法により、酸付加塩(塩酸塩等の無機酸塩またはフマル酸塩等の有機酸塩)あるいは塩基塩(例えばNa,K等のアルカリ金属塩)の形態で調製することもできる。なお、塩基塩は、昇圧物質であるナトリウムの含量をできるだけ抑えるのが好ましい。このようなペプチドは、溶液の形態で使用してもよいが、通常固形物、例えば結晶、アモルファス或いは粉末の形態で単離し、使用するのが望ましい。
【0014】
本発明のペプチド(1)および(2)は、いずれもそれ自体単独で、また食品、医薬品または試薬として許容される無毒性の担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて、ACE阻害剤として利用することができる。この場合、ACE阻害剤に配合されるペプチド(1)または(2)の割合は、当該ACE阻害剤がACE阻害活性を有する限り特に制限されず、一般に、0.01〜100重量%の範囲から適宜選択することが可能である。なお、ACE阻害剤のACE阻害作用は、後述する実施例3に記載する方法によって評価することができる。
【0015】
また本発明のペプチド(1)および(2)は、いずれもそれ自体単独で、食品、医薬品または試薬として利用することができる。従って、本願発明が対象とするペプチド(1)または(2)のいずれか一方、またはペプチド(1)と(2)の両方を含有する組成物は、当該ペプチドのACE阻害作用または当該作用に基づく降圧作用を利用した組成物であることが好ましく、具体的には、食品組成物、医薬品組成物、および試薬組成物が含まれる。
【0016】
本発明のペプチド(1)および(2)を、食品組成物または医薬品組成物として調製する場合、いずれも食品または医薬品において許容される無毒性の担体、希釈剤または賦形剤とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、注射剤(使用時に、蒸留水またはアミノ酸輸液や電解質輸液等の輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)などの形態に調製して、食品用もしくは医薬用の製剤にすることが可能である。当該製剤中のペプチド(1)および(2)の含有量は、いずれも当該製剤がACE阻害作用を有する限り特に制限されないが、一般に、それぞれ0.01〜100重量%の範囲から適宜選択することが可能である。
【0017】
また、本発明のペプチドを配合して調製しうる食品の具体的形態としては、例えば、飲料類〔清涼飲料(コーヒー、ココア、ジュース、ミネラル飲料、茶飲料、緑茶、紅茶、烏龍茶等)、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、酒類(日本酒、洋酒、果実酒、はちみつ酒等)等〕、スプレッド(バタークリーム、チョコレートクリーム、チーズクリーム等)、ペースト(フルーツペースト、野菜ペースト、ゴマペースト、海藻ペースト等)、洋菓子(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、マフィン、ワッフル、ガム、グミ、ゼリー、キャンデー、クッキー、クラッカー、ビスケット、スナック菓子、ケーキ、プリン等)、和菓子(飴、煎餅、かりんとう、あられ、団子、おはぎ、大福、カステラ、あんみつ、羊かん等)、氷菓(アイスクリーム、アイスキャンディ、シャーベット)、レトルト食品(カレー、牛丼、雑炊、おかゆ、スープ、ミートソース、デミグラスソース、ハンバーグ、おでん種、茶碗蒸し等)、即席食品(即席ラーメン、即席うどん、即席そば、即席焼きそば、即席スパゲティ、即席味噌汁の素、粉末スープ、粉末ジュース、ホットケーキミックス等)、瓶詰・缶詰、ゼリー状食品(ゼリー、ゼリー状飲料等)、調味料(醤油、みりん、酢、砂糖、蜂蜜、味噌、ドレッシング、旨味調味料、複合調味料、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、ふりかけ、つゆ、だしの素、ブイヨン、たれ、ルー等)、養蜂産品(はちみつ、ローヤルゼリー、プロポリス、花粉荷(花粉だんご)、蜂の子等)、乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルト、生クリーム等)、加工果実(ジャム、マーマレード、シロップ漬、干し果実等)、加工野菜(野菜ジャム等)、穀類加工食品(麺、パスタ、パン、ビーフン等)、漬物(梅干し、たくあん、キムチ漬、浅漬け、ピクルス等)、漬物の素(即席漬けのもと、キムチ漬のもと等)、魚肉製品(かまぼこ、ちくわ、はんぺん等)、畜肉製品(ハム、ソーセージ、サラミ、ベーコン等)、珍味(するめ、塩辛、みりんぼし、薫製等)、乾物(味付け海苔等)、惣菜類(あえもの、揚げ物、炒め物、焼き物、煮物、酢の物等)、冷凍食品(エビフライ、コロッケ、春巻き、とんかつ、シューマイ、餃子、ハンバーグ、たこ焼き、今川焼き(回転焼き)、肉まん、あんまん等)、油脂食品(サラダオイル、マーガリン、バター)等を挙げることができる。
【0018】
本発明のペプチドを添加・配合して調製しうる食品としては、いわゆる健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、病者用食品・病者用組み合せ食品(厚生労働省、特別用途食品の一種)又は高齢者用食品(厚生労働省、特別用途食品の一種)としてもよく、その場合であれば、前述するようなタブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ錠など)、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤(ハードカプセルとソフトカプセルとのいずれも含む。)、シロップ、ドリンク(液剤)とすることもできる。また本発明はペット用食品として、ドッグフードやキャットフードなどに添加・配合することも出来る。本発明に係るペプチドを添加・配合した食品の調製は、それ自体公知の方法で行うことができる。
【0019】
本発明のペプチドは、高血圧症の予防、高血圧傾向の緩和または血圧調節を目的として、継続的に摂取することが可能であり、このため、高血圧予防のための機能性食品、特に特定保健用食品等として有用である。特に、本発明のペプチドを含む特定保健用食品等の食品は、好ましくは血圧が正常高値(収縮期血圧が130-139mmHg、拡張期血圧が85-89mmHg)及び軽症高血圧(収縮期血圧140-159mmHgないし拡張期血圧90-99mmHg)の両方のヒトに対して高血圧を予防するために好適に用いることができる。
【0020】
高血圧を予防する目的で本発明のペプチドまたはこれを含有する組成物を用いる場合、一般的に体重60kgの成人が摂取する1日あたりのペプチド量としては10mg〜10g、好ましくは0.1〜5g、より好ましくは0.5〜3g、特に0.5〜1gの範囲を挙げることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0022】
実施例1 ペプチド(1)の調製
(1)ローヤルゼリー蛋白加水分解物の調整
ローヤルゼリーにエタノールを加えて得られたローヤルゼリーのエタノール変性蛋白100gに精製水1200mlを加え、37℃の水浴中で撹拌しながら20重量%水酸化ナトリウム溶液
を加えてpH8.0に調整した後、トリプシン(ウシ膵臓由来、Roche社製)250mgを加えて1mol/L水酸化ナトリウム試液でpH8.0に保ちながら37℃で24時間処理して、酵素分解した。次いで得られた反応液を沸騰水浴中で30分間加熱して酵素を失活させた後、50%希塩酸でpH4.5に調整した。これを遠心分離(10000rpm、20分間)して、得られた上清液をメンブランフィルター(0.8μm)で濾過したものを凍結乾燥して、ローヤルゼリー蛋白加水分解物70.2gを得た。
【0023】
(2)合成吸着剤による分取
上記で調製したローヤルゼリー蛋白加水分解物50gを水800mLに溶解し、これを下記条件で合成吸着剤(ダイヤイオンHP20(三菱化学製))を充填したカラムに供した。
【0024】
<カラムクロマトグラフィー条件>
カラム:11cmφ×22cm(容量:2100mL)
固定相:合成吸着剤(ダイヤイオンHP20)
移動相:水、メタノールまたはその混合液(メタノール濃度:0,20,40,60,80,100%)
カラム温度:室温
検出器:UV検出(検出波長:275nm)。
【0025】
メタノール濃度60%の移動相で溶出した画分をフラクション5(Fr.5)として採取した(収量:14.46g)。
【0026】
(3)大口径カラムによる分取
上記で採取したFr.5のうち1gを、0.05%の割合でトリフルオロ酢酸を含有する15%濃度のアセトニトリル水溶液4.5mLに溶解した。これを下記条件でTSK-gel(ODS)を充填した
大口径カラムに供した。
【0027】
<逆相カラムクロマトグラフィー条件>
カラム:55mmφ×300nm
固定相:TSK-gel ODS 120T(東ソー製)
移動相:15%アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸
カラム温度:室温
流速:42mL/min
検出器:UV検出(検出波長:220nm)。
【0028】
波長220nmにおけるUV検出によってピーク画分(フラクション1〜9)をそれぞれ分
取した。この操作を5回繰り返して、保持時間が約73〜85分のフラクション5(Fr.5-5)を採取した(5回採取の合計収量:0.24g)。
【0029】
(4)中口径カラム(20mmφ)による分取
上記で採取したFr.5-5(0.24g)を、0.2%のトリフルオロ酢酸3mLに溶解した。このう
ち1mLを、下記条件でCOSMOSIL-5C18-ARII(ナカライテスク製)を充填した中口径カラム
に供した。
【0030】
<カラムクロマトグラフィー条件>
カラム:20mmφ×250nm
固定相:COSMOSIL-5C18-ARII(ナカライテスク製)
移動相A:0.05%トリフルオロ酢酸
移動相B:50%メタノール/0.05%トリフルオロ酢酸
グラジェント条件:移動相B濃度35%→100%(0分→240分)
カラム温度:40℃
流速:8mL/min
検出器:UV検出(検出波長:220nm)。
【0031】
波長220nmにおけるUV検出によってピーク画分(フラクション1〜11)をそれぞれ
分取した。この操作を3回繰り返して、保持時間が約67〜77分のフラクション4(Fr.5-5-4)を採取した(3回採取の合計収量:51mg)。
【0032】
(5)中口径カラム(20mmφ)による分取
上記で採取したFr.5-5-4(51mg)を、0.2%のトリフルオロ酢酸3mLに溶解した。このうち1mLを、下記条件でCOSMOSIL-5C18-ARII(ナカライテスク製)を充填した中口径カラム
に供した。
【0033】
<カラムクロマトグラフィー条件>
カラム:20mmφ×250nm
固定相:COSMOSIL-5C18-ARII(ナカライテスク製)
移動相:22.5%メタノール/0.05%トリフルオロ酢酸
流速:8mL/min
カラム温度:40℃
検出器:UV検出(検出波長:220nm)。
【0034】
波長220nmにおけるUV検出によってピーク画分(フラクション1〜8)をそれぞれ分
取した。この操作を3回繰り返して、保持時間が約91〜97分のフラクション6(Fr.5-5-4-6)を採取した(3回採取の合計収量:6.0mg)。
【0035】
(6)ペプチドの同定(アミノ酸配列の決定)
上記(5)で取得したフラクション6(Fr.5-5-4-6)に含まれているペプチドの同定を東レリサーチセンターに依頼し、エドマン分解によるN末端アミノ酸配列分析によりアミノ酸配列を測定した。その結果、Fr.5-5-4-6には、下記のアミノ酸配列を有するペプチドが含まれていることが確認された。
・ペプチド(1)のアミノ酸配列
Asn-Asn-Tyr-Pro-Ser-Asp-Ile-Asp-Gln-Trp-His-Asp-Lys(配列番号1)。
【0036】
実施例2 ペプチド(2)の調製
(1)ローヤルゼリー蛋白加水分解物の調整
ローヤルゼリーにエタノールを加えて得られたローヤルゼリーのエタノール変性蛋白100gに精製水1200mlを加え、37℃の水浴中で撹拌しながら20重量%水酸化ナトリウム溶
液を加えてpH8.0に調整した後、トリプシン(ウシ膵臓由来、Roche社製)250mgを加えて1mol/L水酸化ナトリウム試液でpH8.0に保ちながら37℃で24時間処理して、酵素分解した。次いで得られた反応液を沸騰水浴中で30分間加熱して酵素を失活させた後、50%希塩酸でpH4.5に調整した。これを遠心分離(10000rpm、20分間)して、得られた上清液をメンブ
ランフィルター(0.8μm)で濾過したものを凍結乾燥して、ローヤルゼリー蛋白加水分解物70.2gを得た。
【0037】
(2)合成吸着剤による分取
ローヤルゼリー50gを水800mLに溶解し、これを下記条件で合成吸着剤(ダイヤイオンHP20(三菱化学製))を充填したカラムに供した。
【0038】
<カラムクロマトグラフィー条件>
カラム:11cmφ×22cm(容量:2100mL)
固定相:合成吸着剤(ダイヤイオンHP20)
移動相:水、メタノールまたはその混合液(メタノール濃度:0,20,40,60,80,100%)
カラム温度:室温
検出器:UV検出(検出波長:275nm)。
【0039】
メタノール濃度60%の移動相で溶出した画分をフラクション5(Fr.5)として採取した(収量:14.46g)。
【0040】
(3)大口径カラムによる分取
上記で採取したFr.5のうち1gを、0.05%の割合でトリフルオロ酢酸を含有する15%濃度のアセトニトリル水溶液4.5mLに溶解した。これを下記条件でTSK-gel(ODS)を充填した
大口径カラムに供した。
【0041】
<逆相カラムクロマトグラフィー条件>
カラム:55mmφ×300nm
固定相:TSK-gel ODS 120T(東ソー製)
移動相:15%アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸
カラム温度:室温
流速:42mL/min
検出器:UV検出(検出波長:220nm)。
【0042】
波長220nmにおけるUV検出によってピーク画分(フラクション1〜9)をそれぞれ分
取した。この操作を5回繰り返して、保持時間が約85〜93分のフラクション6(Fr.5-6)を採取した(5回採取の合計収量:0.38g)。
【0043】
(4)中口径カラム(20mmφ)による分取
上記で採取したFr.5-6(0.38g)を、0.2%のトリフルオロ酢酸5mLに溶解した。このう
ち1mLを、下記条件でCOSMOSIL-5C18-ARII(ナカライテスク製)を充填した中口径カラム
に供した。
【0044】
<カラムクロマトグラフィー条件>
カラム:20mmφ×250nm
固定相:COSMOSIL-5C18-ARII(ナカライテスク製)
移動相A:0.05%トリフルオロ酢酸
移動相B:50%メタノール/0.05%トリフルオロ酢酸
グラジェント条件:移動相B濃度45%→100%(0分→240分)
カラム温度:40℃
流速:8mL/min
検出器:UV検出(検出波長:220nm)。
【0045】
波長220nmにおけるUV検出によってピーク画分(フラクション1〜13)をそれぞれ
分取した。この操作を5回繰り返して、保持時間が約56〜61分のフラクション5(Fr.5-6-5)を採取した(5回採取の合計収量:31mg)。
【0046】
(5)中口径カラム(10mmφ)による分取
上記で採取したFr.5-6-5(31mg)を、0.2%のトリフルオロ酢酸3mLに溶解した。このうち1mLを、下記条件でCOSMOSIL-5C18-ARII(ナカライテスク製)を充填した中口径カラム
に供した。
【0047】
<カラムクロマトグラフィー条件>
カラム:20mmφ×250nm
固定相:COSMOSIL-5C18-ARII(ナカライテスク製)
移動相:25%メタノール/0.05%トリフルオロ酢酸
流速:2mL/min
カラム温度:40℃
検出器:UV検出(検出波長:220nm)。
【0048】
波長220nmにおけるUV検出によってピーク画分(フラクション1〜6)をそれぞれ分
取した。この操作を3回繰り返して、保持時間が約58〜63分のフラクション3(Fr.5-6-5-3)を採取した(3回採取の合計収量:4.8mg)。
【0049】
(6)ペプチドの同定(アミノ酸配列の決定)
上記(5)で取得したフラクション3(Fr.5-6-5-3)に含まれているペプチドの同定を東レリサーチセンターに依頼し、エドマン分解によるN末端アミノ酸配列分析によりアミノ酸配列を測定した。その結果、Fr.5-6-5-3には、下記のアミノ酸配列を有するペプチドが含まれていることが確認された。
・ペプチド(2)のアミノ酸配列
Gly-Glu-Gly-Leu-Ile-Val-Tyr-His(配列番号2)。
【0050】
実施例3 アンジオテンシン変換酵素阻害作用(ACE阻害作用)の評価
(1)各溶液の調製
(a)25mU/mL ACE溶液・ホウ酸緩衝液(pH8.3)
ウサギ肺由来のアンジオテンシンI変換酵素(シグマ社製)0.25Uまたは1U/vialにpH8.3ホウ酸緩衝液1mLを加えて溶解して調製する(0.25Uまたは1U/mL、冷凍保存)。この液をpH8.3ホウ酸緩衝液で適宜希釈し、25mU/mL溶液を調製する(用時調製)。
【0051】
(b)12.5mMのhippuryl-L-histidyl-L-leucine溶液・ホウ酸緩衝液(pH8.3)
Hippuryl-L-Histidyl-L-Leucine(HHL・H2O、分子量447.8、ペプチド研究所製)にpH8.3ホウ酸緩衝液を加え、沸騰水浴中で3分間加熱して溶かし、12.5mM溶液を調製する{HHL・H2O 5.5935g + pH8.3ホウ酸緩衝液 1mL : 12.5mM(用時調製)}。
【0052】
(c)内標準溶液
m-メチル馬尿酸(分子量:193.20)12mgに水/アセトニトリル混液(9:1)を加えて溶
かし、100mLとし、内標準液とする(冷蔵庫保存)。
【0053】
(d)ホウ酸緩衝液(pH8.3)
A液:0.2M ホウ酸溶液(0.3M塩化ナトリウムを含む)
ホウ酸12.4gと塩化ナトリウム17.5gを水に溶解して1000mLになるように調整する。
B液:0.05M四ホウ酸ナトリウム溶液(0.3M塩化ナトリウムを含む)を調整する。
上記A液に、B液を加えてpHを8.3に調整する(冷蔵庫保存)。
【0054】
(2)実験方法
実施例1および2で得られたペプチド(1)および(2)のそれぞれを精製水に溶解して、これを25μl試験管にとり(反応液濃度として0.1mg/mL)、これにウサギ肺由来の25mU/mL ACE溶液・ホウ酸緩衝液(pH8.3)50μlを加え、37℃で5分間インキュベートした。基質と
して12.5mMのhippuryl-L-histidyl-L-leucine(HHL、ペプチド研究社製)溶液・ホウ酸緩衝液(pH8.3)50μlを加え、37℃で60分間インキュベートした。次に反応を停止するため、0.5M塩酸溶液125μLを加え、内標準溶液として0.625mM m-メチル馬尿酸アセトニトリ
ル溶液100μLを加え、反応生成物の馬尿酸を抽出するため酢酸エチル750μLを加えた後、ボルテックスミキサーにより攪拌、遠心分離した(2000rpm, 5min)。その有機層0.5mLを取り、60℃窒素ガス気流下で蒸発乾固し、残留物をHPLC用移動相0.5mLに溶かして試料溶液
とした。
【0055】
別に、ホウ酸緩衝液(pH8.3)25μlを試験管にとり、これにウサギ肺由来の25mU/mL ACE溶液・ホウ酸緩衝液(pH8.3)50μlを加え、37℃で5分間インキュベートした後、以下
、上記の試料溶液と同様に操作し、標準溶液とした。また、ホウ酸緩衝液(pH8.3)75μlを試験管にとり、37℃で5分間インキュベートした後、以下、上記の試料溶液と同様に操
作し、空試験液とした。試料溶液、標準溶液および空試験液の各20μlにつき、下記の条
件でHPLC法を行い、各試料について、m-メチル馬尿酸のピーク面積に対する馬尿酸のピーク面積の比を求めた。
【0056】
<HPLC条件>
カラム:L-column ODS 4.6×150mm(財団法人 化学物質評価研究機構製)
移動相:10mM KH2PO4(pH3.0)/アセトニトリル=17/3
カラム温度:40℃
流量:1.0mL/min
流入量:20μL
検出器:UV(測定波長:228nm)。
【0057】
上記HPLCにより得られた、各試料についてのm-メチル馬尿酸のピーク面積に対する馬尿
酸のピーク面積比に基づいて、下式によりACE阻害率(IC(%))を算出した。
【0058】
【数1】

【0059】
結果を表に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
以上から、配列番号1および2にそれぞれ示すアミノ酸配列からなるペプチド(1)およ
び(2)はいずれもACE阻害作用を有しており、当該ACE阻害作用に基づいて、降圧作
用を発揮することが明らかとなった。このことから、ペプチド(1)および(2)はいずれも抗高血圧症剤、すなわち、高血圧症の治療または予防剤の有効成分として有用であると考えられる。
【0062】
[処方例]
以下に、本発明のペプチド(1)または(2)を含む処方例を示す。
処方例1 粒状の食品
下記の原料を常法により混合し、打錠機で成型して錠剤とした。この錠剤を常法により食品用にフィルムコートして、粒状の健康食品とした。
(1粒当たりの組成)
ペプチド(1)または(2) 250 mg
デンプン 90 mg
ショ糖脂肪酸エステル 10 mg
合 計 350 mg
【0063】
処方例2 ドリンク
下記の材料を水に十分攪拌後、全量を100mLとした。
(1本分の組成)
ペプチド(1)または(2) 1 g
レモン果汁 20 mL
プロポリス 0.3 g
ビタミンC 0.2 g
はちみつ 13 g
水 適 量
合 計 100 mL
【0064】
処方例3 顆粒
下記の材料を常法に従い顆粒状にし、スティック状のアルミ分包とした。
(1本分の組成)
ペプチド(1)または(2) 300 mg
乳糖 1000 mg
食物繊維 100 mg
はちみつ粉末 20 mg
ビタミンC 5 mg
合 計 1425 mg
【配列表フリーテキスト】
【0065】
配列番号1及び2は、ACE阻害作用を有するペプチドのアミノ酸配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)または(2)に示すアミノ酸配列のいずれかからなるペプチド:
(1) Asn-Asn-Tyr-Pro-Ser-Asp-Ile-Asp-Gln-Trp-His-Asp-Lys(配列番号1)
(2) Gly-Glu-Gly-Leu-Ile-Val-Tyr-His(配列番号2)。
【請求項2】
請求項1に記載するペプチドの少なくとも一つを含有する組成物。
【請求項3】
請求項1に記載するペプチドの少なくとも一つを有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【請求項4】
請求項1に記載するペプチドの少なくとも一つを有効成分とする抗高血圧剤。
【請求項5】
請求項1に記載するペプチドの少なくとも一つを有効成分とする食品。
【請求項6】
高血圧症の予防用食品である請求項5に記載する食品。

【公開番号】特開2010−37261(P2010−37261A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201358(P2008−201358)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(598162665)株式会社山田養蜂場本社 (32)
【Fターム(参考)】