説明

限局的カルシウムチャネル調節方法

哺乳類においてカルシウムチャネルの活性を限局的に調節するための発明が開示される。1つの局面では、本発明は、領域内でGEM蛋白質または変異型を発現するために、あらかじめ決められた組織または臓器の領域に、GEM蛋白質またはその変異型をコードする核酸配列を接触させる段階を含む方法を特徴とする。典型的な方法は、カルシウムチャネルの活性を調節するために、さらにGEM蛋白質または変異型を発現する段階も含む。本発明は、不適切なカルシウムチャネル活性に伴う医学的状態の治療を含む、広範囲の有用な用途を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、開示が参照として本明細書に組み入れられる2002年10月2日付けのU.S. Provisional Application No. 60/415,649に基づく優先権を伴う出願である。
【0002】
米国政府の利益の説明
本発明の資金は、国立衛生研究所National Institutes of Healthの助成金番号R37 HL36957およびP50 HL52307として、米国政府によって部分的に提供された。したがって、米国政府は本明細書に請求される発明に対して特定の権利を持つ。
【0003】
発明の技術分野
カルシウムチャネルは、多くの重要な生物機能を持つ電気的に応答する蛋白質を含む。本発明は限局的に(非特異的ではなく)カルシウムチャネルを調節するための組成物、方法、およびシステムを提供する。本発明は望ましくないカルシウムチャネル活性に伴う医学的状態の治療を含め、広範囲の有用な用途を持つ。
【背景技術】
【0004】
背景
遺伝子調節、記憶、および細胞死のような多くの生物学的課程において、細胞内カルシウム(Ca2+)が重要な役割を果たすことが、一般的に認められている。Muth, J.N. et al. Trends Pharmacol Sci 22, 526-32 (2001);およびCarafoli,E. et al. Crit Rev Biochem Mol Biol 36, 107-260 (2001)を参照されたい。
【0005】
具体的には、異常な細胞内Ca2+レベルが様々な細胞、組織、および臓器において不適切なカルシウムホメオスタシスを助長すると報告されている。心臓および神経組織は、特にカルシウムに感受性であると考えられている。例えば、不適切なカルシウムホメオスタシスの存在下では、特定のニューロンは、異常な神経伝達物質の放出、樹状細胞のCa2+過渡現象、およびCa2+活動電位を示すと考えられている。
【0006】
不適切なカルシウムホメオスタシスによって、多くの疾患、特に中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)、ならびに内分泌および心血管系に影響を与える疾患が、発生または悪化すると考えられている。
【0007】
電位依存性カルシウムチャネルは、Ca2+の細胞内の流れを制御するために役立つと考えられる。これらのチャネル(電位型カルシウムチャネルVDCCとしても知られている)は、脱分極に応答する蛋白質の不均質なクラスとして開示されている。これらおよび他のチャネル蛋白質による細胞内カルシウムの流れの転換は、広範囲の生物学的応答に影響を与えると考えられる。全体的には、Catterall, W.A. Ann. Rev. Cell Dev. 16:521 (2000)およびUS. Pat. No. 5,436,128を参照されたい。
【0008】
ほとんど全てのカルシウムチャネルが、T, L, N, P, およびQ型に分類できる。これらの名称は、主にチャネルの電気生理および薬理学的性質に基づいている。Catterall、上記、およびDunlap, K. et al. Trends Neurosci. 18:89 (1995)を参照されたい。
【0009】
例えば、L型カルシウムチャネルは、ジヒドロピリジン(DHP)アゴニストおよびアンタゴニスト、ならびに他の特定の化合物に感受性だと考えられる。これらのカルシウムチャネルの構造および機能は、分子レベルで開示されている。例えば、Catterall、上記;U.S. Pat. No. 6,365,337; U.S. Pat. Publication No. 2002009772; Perez-Reyes, E. et al. J. Biol. Chem. 267:1792 (1991); およびこれらに引用される参考文献を参照されたい。
【0010】
また、Ertel, E. A et al. Neuron 25: 533 (2000)(様々な電位依存性カルシウムチャネルについて、これらの蛋白質の分子構造および機能を開示している)も参照されたい。
【0011】
L型および他のカルシウムチャネルがどのように調節されているかを理解しようと試みられてきた。これについては、Ca2+チャネル輸送および特定のグアノシントリホスファターゼ酵素(GTPase)の関連が報告されている。具体的には、一部のCa2+チャネルサブユニットと、Gem(Kir/Gemとも呼ばれる)と呼ばれるras様GTPaseの間の相互作用が開示されている。
【0012】
Gemの構造および機能は報告されている。Maguire, J. et al. Science 265:241 (1994)(例えばマウスおよびヒトのGem蛋白質の分子構造を開示している)を参照されたい。Gemは、適切な条件下ではCa2+チャネルの、βサブユニットを介する輸送の防止を助けていると提案されている。
【0013】
心臓は電気的刺激を生成することによって、固有のリズムを維持しているとほぼ一般的に信じられている。この刺激が、伸筋の収縮を誘導する。これらの収縮は、血管系を通して血液を移動させるエンジンである。全体的には「心臓および心血管系(The Heart and Cardiovascular System)」Scientific Foundations. (1986)(Fozzard, H.A. et al. ed.)、Raven Press, NYを参照されたい。
【0014】
特定のチャネル蛋白質は、心臓の正常な機能に密接に関連していると考えられている。例えば、いくつかのチャネル蛋白質の遺伝的変異は、不整脈のような心臓疾患を促進または少なくとも悪化させる可能性がある。グループとして、そのような心臓疾患は、異常なチャネル蛋白質機能との関係を示すために「イオンチャネル疾患」と呼ばれてきた。Marban, E. Nature 415: 213 (2002)を参照されたい。
【0015】
異常なチャネル蛋白質は、肥大、アポトーシス、リモデリング、細動、狭心症、および場合によっては梗塞(「心臓発作」)を含む他の心臓疾患に影響を与えると考えられる。Bers, D.M. Nature 415, 198-205 (2002); およびMarban, E. 上記を参照されたい。
【0016】
いくつかの心臓疾患の予防、治療、または少なくとも重症度の軽減の手段として、特定のチャネル蛋白質の活性を制御する試みがされてきた。
【0017】
例えば、いくつかの合成Ca2+チャネル阻害薬(「Ca2+チャネル遮断薬」とも呼ばれる)の使用が承認されている。いくつかのCa2+チャネル遮断薬は、優先的に心臓の房室(AV)結節に影響を与えると考えられる。これらの薬剤は、しばしば「房室結節ブロック」剤などと呼ばれる。全体的には、Goodman & Gilman「治療薬の薬理学的基礎(The Pharmacological Basis of Therapeutics)」第9版、Hardman, J.G et al. Eds. (1996)中、Robertson, M. and D. Robertson、Chapters 32-35, pp. 759-800およびそれに引用される参考文献を参照されたい。
【0018】
L型カルシウムチャネルは、いくつかのカルシウムチャネル遮断薬の特異的な標的であると報告されている。Feron, O. et al. Br J Pharmacol 118, 659-64. (1996); およびKurita, Y. et al. Cardiovasc Res 54, 447-55. (2002)を参照されたい。
【0019】
しかし、多くのCa2+チャネル遮断薬は、治療に用いられると、潜在的に生命を脅かすような副作用を伴う可能性があるという報告がある。これには、低血圧、便秘、および心ブロックが含まれる。Ca2+チャネル遮断薬の医療における使用に伴うこれらおよび他の欠点についての総説は、Missiaen, L. et al. Cell Calcium 28, 1-21 (2000); およびRobertson,M.、上記、を参照されたい。
【0020】
遺伝子療法は、特定の心臓疾患の予防または治療の手段として提案されてきた。Marban, E.、上記;Miake, J. et al. Nature 419: 132; Marban, E. et al. Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. Vol. LXVII: 527 (2002); およびMiake, J. et al. J. Clin. Invest. 111: 1529 (2003); およびこれらに引用される文献を参照されたい。
【0021】
関心のあるあらかじめ決められた領域内で、カルシウムチャネルを調節できる発明があると、望ましい。好ましくは、発明はその領域に対して限局的に特定の治療用組成物を送達し、その領域の外では非特異的なチャネル調節の可能性を低下または排除するものである。カルシウムチャネルの限局的および関心のある領域内での調節に、カルシウムチャネル遮断薬を使用する必要のない発明があれば、特に好ましい。
【発明の開示】
【0022】
発明の概要
本発明は全体的に、あらかじめ決められた関心領域内で、カルシウムチャネルを調節するための組成物、方法、およびシステムに関する。具体的には、本発明は基本的に、少なくとも領域の近く、および好ましくは領域内で、チャネルを調節する治療用蛋白質の限局的な送達を提供する。本発明の好ましい実施は、領域外でのカルシウムチャネル活性の不要な調節の可能性を低下または排除する。重要なことに、本発明の使用は、カルシウムチャネルを限局的に調節するために、有害な可能性のあるカルシウムチャネル遮断薬に依存しない。
【0023】
ほぼ全てのカルシウムチャネル遮断薬の使用は、生命を脅かす可能性のある副作用によって、妨げられることが観察されている。本発明者らは、これらの副作用の大部分は、比較的非特異的である薬剤活性に起因すると考えている。すなわち、副作用は、しばしば意図した標的領域の外のカルシウムチャネル蛋白質の活性を、意図せずに変化させた結果であると考えられる。広範囲のカルシウムチャネル遮断薬の使用には、これらおよび他の問題が問題となっている。
【0024】
また、細胞は、カルシウムチャネル活性を制御するための天然の戦略を展開しており、これはGemと呼ばれる哺乳類のグアノシントリホスファターゼ(GTPase)を利用したものであることも分かっている。Gem蛋白質(またはその変異型)を限局的に投与する、すなわち、あらかじめ決められた組織または臓器領域に投与して、その領域内でカルシウムチャネル活性を特異的かつ標的を定めて調節するというのが、本発明の目的である。理論に縛られることは望まないが、本発明によるGem蛋白質の限局的な送達により、領域外でのカルシウムチャネル活性に有意に影響を与えることなく、カルシウムチャネル活性を限局的に調節することができると考えられる。そのようなGem蛋白質(または変異型)の標的を定めた特異的な送達を行なうと、有害な可能性のあるカルシウムチャネル遮断薬を利用する必要性が低下、または多くの場合排除されるだろう。したがって、本発明を使用することによって、患者の健康および予後が改善すると期待される。
【0025】
したがって、1つの局面では、本発明は哺乳類のあらかじめ決められた組織または臓器の領域の少なくとも近く、および好ましくはその中で、カルシウムチャネル蛋白質の活性を調節(すなわち、上昇または低下)するための方法を提供する。大部分の場合、カルシウムチャネルはL型である。1つの態様では、本方法には、以下の段階の少なくとも1つ、および好ましくは全てが含まれる:
a) 少なくとも1つの哺乳類Gem蛋白質またはその変異型をコードする少なくとも1つの核酸配列(例、1、2、または3)を、領域に接触させる段階。好ましくはそのような接触は、Gem蛋白質またはその変異型を領域内で発現するために充分な条件下で行われる;および
b) 領域内のカルシウムチャネルの活性を調節するために充分なレベルで、GEM蛋白質または変異型を発現する段階。
【0026】
前述の方法を実施すると、本明細書で時折「遺伝的カルシウムチャネル遮断薬」活性と呼ばれるものが提供される。この用語は、本方法では、使用者によって遺伝的に制御できるやり方で、Gem蛋白質の天然の活性を活用することを意味する。そのような活性には柔軟性があり、特定の治療用途に適合するように適応できる。例えば、本方法は、一般に遺伝的カルシウムチャネル遮断薬活性を限局的に、すなわち、主に治療の必要な組織または臓器の領域に伝達することを意図している。大部分の場合、領域外のチャネル蛋白質の有意な調節は、かなり低下しているか、しばしば完全に避けられる。重要なことに、本発明の遺伝的カルシウムチャネル遮断薬の限局的伝達は、ほぼ全ての従来のカルシウムチャネル遮断薬の以前の使用に影を投げかけてきた全身性の続発症を、実質的に低下または排除できる。したがって、本発明は、ちょうど必要とする所に、遺伝的に制御可能で、天然に存在するカルシウムチャネル遮断薬を限局的に送達するための、合理的な手法を治療者に提供する。
【0027】
本方法に使用する核酸配列は、許容可能な経路の1つまたはその組み合わせによって、哺乳類に投与できる。通常は、核酸は単独、または1つまたは複数の適当なマイクロデリバリー媒体と組み合わせて、領域に運搬される。そのような媒体の例には、リポソーム(好ましくはカチオン性)およびポリマー(好ましくは親水性)の製剤、ならびに本明細書に開示されるような特定の組み換え動物ウイルスベクターが含まれるが、これらに限定されない。核酸は、アンチセンスDNAまたはRNAを含むDNA、RNA、ならびに通常の核酸類似体である可能性がある。DNAが選択される態様においては、そのようなDNAはホルモン、酵素、受容体、または関心のある薬剤のような、他の治療用蛋白質をコードする可能性がある。使用する特定の核酸の選択は、望ましい治療転帰のような、認識されるパラメータによって導かれる。
【0028】
したがって、1つの態様では、本発明は、Gem蛋白質または変異型をコードする核酸を、親水性ポリマーおよびカチオン性リポソーム製剤のうち少なくとも1つと共に領域に接触させる、L型カルシウムチャネルの活性を上昇または低下させる方法を提供する。好ましくは、そのような接触は、領域内でGem蛋白質または変異型が発現するために充分な条件下で行われ;さらに核酸によってコードされるGEM蛋白質または変異型の発現は、領域内のカルシウムチャネルの活性を調節するために充分なレベルで行なわれる。
【0029】
しかし別の態様では、Gem蛋白質または変異型をコードする核酸を、組み換え動物ウイルスの一部として提供するのが、有用である。これらの場合には、ウイルスを使用することで、様々な重症度の医学的状態を予防または治療するために必要な、遺伝的カルシウムチャネル遮断薬活性の比較的高いまたは低いレベルを提供するようにデザインできるので、際立った信頼性および柔軟性が提供できる。
【0030】
例えば、本発明で使用するために好ましい1つの組み換え動物ウイルスは、本明細書に開示される手順に従って操作された、アデノウイルスである。明らかであるように、ウイルスは特定の疾患を持つ集団または患者群に適合するように操作できる。その代わりに、またはそれに加えて、遺伝的病歴によって関連する特定の患者または患者群に使用するように、ウイルスをより特異的に調整することもできる。いくつかの態様では、組み換え動物ウイルスは、あらかじめ決められた組織または臓器の領域内で、Gem蛋白質または変異型の、構成性の、部分的または完全な制御を提供するように適合できる。したがって、本発明によって取り組む医学的状態が慢性および比較的重症な場合には、治療用Gem蛋白質の強く、かつ時には構成性の発現を提供する組み換えウイルスの選択が望ましい。そのような発現は、例えば、少なくとも約1ヶ月またはそれ以上で、2から3ヶ月までのように、比較的長時間続く可能性がある。しかし、適応症が急性で、おそらくはるかに重症度が低いまたは一過性の態様では、Gem蛋白質の制御された限局的発現は、はるかに短い時間、すなわち、数日間から数週間のように、約1ヶ月未満が望ましい可能性がある。本発明に係る組み換え動物ウイルスの遺伝的制御および限局的投与は、以下に記述する戦略の1つまたは組み合わせによって実施できる。
【0031】
本発明はまた、望ましくないカルシウムチャネル活性に伴う医学的状態の、予防、治療、または重症度低下のための治療法を提供する。1つの態様では、本発明には、以下の段階のうち少なくとも1つ、および好ましくは全てが含まれる:
a) 組織または臓器のあらかじめ決められた領域に、Gem蛋白質またはその変異型をコードする少なくとも1つの配列を含む組み換え動物ウイルスのような、少なくとも1つの核酸(例、同じものを1、2、または3つ)を接触させる段階であって、接触が領域内でGEM蛋白質または変異型が発現されるために充分な条件下で行われる段階、b) カルシウムチャネルの活性を調節するために適した条件下で、GEM蛋白質または変異型を発現する段階;および
c) 医学的状態を予防または治療するために充分に、カルシウムチャネル活性を調節する段階。
【0032】
Gem蛋白質または変異型をコードする核酸は、許容できる経路の1つまたは組み合わせによって、哺乳類に投与できる。特に、核酸は単独で、または本明細書に開示されるような1つまたは複数のマイクロデリバリー媒体と組み合わせて、運搬できる。
【0033】
本発明の方法は柔軟で、望ましくないカルシウムチャネル活性に伴う医学的状態の1つまたは組み合わせと取り組むために使用できる。好ましくは、チャネルはL型カルシウムチャネルである。広くは、そのような状態は、例えば、CNS、PNS、内分泌、または心血管系に影響を与えることが既知であるか、疑われている。1つの特定の態様では、本方法は、以下に記述するような一連の心臓の状態を予防または治療するために使用できる。
【0034】
別の局面では、本発明は哺乳類において関心のあるあらかじめ決められた組織または臓器内で、カルシウムチャネル蛋白質の活性を調節するための治療システムまたはキットを提供する。好ましくは、カルシウムチャネルはL型である。1つの態様では、システムには以下の成分の少なくとも1つおよび好ましくは全てが含まれる:
a) 少なくとも1つの哺乳類Gem蛋白質またはその変異型をコードする核酸配列、
b) 少なくとも1つの透過剤;および任意で
c) 哺乳類において関心のある組織または臓器の領域に、透過剤および核酸配列を投与するための器具。
【0035】
1つの態様では、選択された核酸配列は、i) 哺乳類GEM蛋白質またはその変異型をコードする少なくとも1つの配列;ii) DNA組み換えを促進するために調節された少なくとも1つの核酸配列;およびiii) ウイルスの必須機能を提供する少なくとも1つの核酸配列を、機能的に連結された成分として含む核酸配列を通常含む、組み換え動物ウイルスである。
【0036】
さらに、本発明に使用される組成物、特に特定の組み換え動物ウイルスが、本発明によって提供される。
【0037】
本発明の他の使用および利点は、以下の情報から明らかになるだろう。
【0038】
発明の詳細な説明
上述のように、本発明は哺乳類のあらかじめ決められた組織または臓器領域内で、カルシウムチャネルの活性を上昇または低下させるための、組成物、方法、および治療システムまたはキットに関する。本発明は、異常なカルシウムチャネル活性が既知または疑われる医学的状態の予防または治療における使用を含め、広範囲の有用な用途を持つ。
【0039】
また上述のように、本発明は、少なくとも1つ(同じものを、好ましくは5、より好ましくは1、2、または3未満)哺乳類Gem蛋白質または変異型をコードする少なくとも1つの核酸配列を、関心領域に接触させる段階を含む方法を提供する。この文脈では、複数形を含め、「領域」という用語は、特定の生物学的機能に関連する、組織または臓器のあらかじめ決められた部分を意味する。好ましくは、その機能は、カルシウムチャネル蛋白質の活性、通常はL型カルシウムチャネルの活性を含む。生物学的機能が、その組織または臓器の領域に特異的な態様もあるが、1つまたは複数の他の組織または臓器もその機能を持つような態様もある。
【0040】
L型カルシウムチャネル活性を持つあらかじめ決められた臓器領域の例には、4つの心臓領域(大きな静脈、心房、心室、および大血管)およびその結合(大静脈心房、房室、および心室動脈)のうちの1つまたは複数が含まれる。より好ましい心臓領域は右心房で、具体的には洞房(SA)結節および房室(AV)結節を含む静脈洞である。SA結節は、静脈洞-心房接合部にあるために、本明細書では心臓の「ペースメーカー」とも呼ばれることもある。一般に、各心拍はSA結節から開始することが受け入れられている。電気刺激はSA結節から両心房を通って、AV結節に伝わる。刺激はAV結節を通って、両心室に伝わり、収縮を引き起こすと考えられている。心室の各収縮により、心拍動が起きる。全体的には、「グレイ解剖学(Gray’s Anatomy)」38th Edition. Edinburgh; New York, Churchill Livingstone, 1995を参照されたい。また、U.S. Patent Application No. 20020155101も参照されたい。
【0041】
他のあらかじめ決められた組織および臓器の領域は、本発明の範囲内である。その例には、カルシウムチャネル蛋白質、特にL型のカルシウムチャネル蛋白質に関連することが既知または疑われる、中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)のあらかじめ決められた領域が含まれる。そのような領域の例には、小脳、海馬体、歯状回、視床皮質領域、大脳皮質、および黒質が含まれる。Sharp, A.H. et al. Neuroscience, 105: 599 (2001); Takada, M. et al. Eur. J. Neurosci. 13(4): 757 (2001); Budde, T. et al. Eur. J. Neurosci. 10(2): 586 (1998); およびHell, J. W. et al. J. Cell Biol. 123(4): 949 (1993)を参照されたい。
【0042】
特定の領域が、受け入れられている解剖学的呼称と関連しているのは、明らかだろう。全体的には、Gray’s Anatomy、上記を参照されたい。その例には、脳の大脳皮質および小脳、ならびに心臓の心房および心室が含まれるが、これらに限定されない。そのような解剖学的領域は、特定の生物機能に関連している場合もあるが、していない場合もある。
【0043】
本発明に係るさらに他のあらかじめ決められた領域には、血管、および特に動脈および静脈の平滑筋が含まれる。
【0044】
本発明の具体的な方法には、関心のあるあらかじめ決められた領域に、少なくとも1つ、および好ましくは1つの哺乳類Gem蛋白質または変異型をコードする核酸配列を接触させる段階が含まれる。核酸配列および標的領域の間の適切な「接触」は、Gem蛋白質または変異型をコードするDNAとの直接の接触、およびGem蛋白質または変異型を持つ(すなわちコードする)組み換え動物ウイルスとの感染性接触のようなより間接的な接触を含め、本明細書に説明される戦略の1つまたはその組み合わせによって実行できる。
【0045】
アミノ酸配列をコードする核酸の送達の一般的な方法は開示されている。例えば、U.S. Patent No. 5,652,225およびNo.5,328,470ならびにその引用文献を参照されたい。またVitadello, M et al. (1994) Human Gene Therapy 5: 11(筋肉における遺伝子移入を開示);Stratford-Perricaudet, L.D. (1992) J. Clin. Invest. 90: 626(マウス心臓および筋肉への長期的遺伝子移入を提供);Takeshita, S. et al. (1996) Lab. Invest. 74: 1061(筋肉への直接の遺伝子移入を報告);Wolff, J. A. et al. (1990) Science 247: 1465(インビボでの筋肉への直接の遺伝子移入を開示);およびTakeshita,S. et al. (1996) Lab. Invest. 75: 487(血管への裸のDNA遺伝子移入を開示)も参照されたい。
【0046】
したがって、哺乳類Gemまたは変異型(例、マウスもしくはラットのような齧歯類、ウサギ、またはヒトの蛋白質)をコードするDNAのような核酸を、関心のあるあらかじめ決められた組織または臓器領域に送達して、カルシウムチャネル機能を調節し、および特にそのカルシウムチャネル蛋白質の不適切な機能によって影響される医学的状態を予防、治療、またはその重症度を低下させることができる。
【0047】
関心のある特定のポリマーは、U.S. Patent No. 5,652,225および5,328,470に開示されており、例えば、血管および特に動脈細胞のような、関心のあるあらかじめ決められた領域への核酸の取り込みを可能にするように選択された、特定の親水性ポリマーを含む。好ましくは、親水性ポリマーはヒドロゲルポリマーである。他の親水性ポリマーも、本発明の遺伝物質を保持し、動脈細胞と接触すると遺伝物質の移入が起こる限り、うまく働くだろう。適当なヒドロゲルポリマーは報告されており、これにはポリカルボン酸、セルロースポリマー、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸ポリマー、ポリアミド、ポリビニルアルコール、およびポリエチレンオキサイドからなる群より選択されるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0048】
血管または心臓組織のような、関心のあるあらかじめ決められた組織または臓器領域には、DNA含有親水性ポリマーでコードされたカテーテルのような、アプリケーターを用いた手法を含め、ほぼ全ての許容される手段によって、DNAを組み込んだ親水性ポリマーを接触させることができる。好ましくは、アプリケーターは関心のある領域に対してある程度の圧力を加えることができ、核酸含有親水性ポリマーと動脈細胞との間の接触を改善する。したがって、1つの態様ではバルーンカテーテルが好ましい。好ましくは、親水性ポリマーは、バルーンカテーテルの膨張可能なバルーンの少なくとも一部を被覆している。
【0049】
またDonahue, J. K et al.に付与されたU.S. Pat. Application No. 20020094326およびNo. 20020155101(他の適当なカテーテルおよび関連技術を開示)を参照されたい。
【0050】
DNAの操作および取り扱いを簡略化するために、関心のあるあらかじめ決められた領域への導入の前に、DNAは好ましくはベクター、例えばpUC118, pBR322のようなプラスミドベクター、または例えばE. Coliの複製開始点を含むような他の既知のプラスミドベクターに挿入される。Sambrook et al.「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)を参照されたい。プラスミドベクターには、マーカーポリペプチドが治療する生物体の代謝に悪影響を与えなければ、アンピシリン耐性のβラクタマーゼ遺伝子のような選択マーカーも含まれる可能性がある。さらに、必要ならば、DNAは、動脈細胞において蛋白質の発現を促進する能力のあるプロモーター/エンハンサー領域に機能的に連結していても良い。適当なプロモーターの例には、763塩基対のサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターが含まれる。通常は、CMVプロモーターが使用される場合には、エンハンサーは必要ではない。RSVおよびMMTプロモーターも使用できる。他の適当なプロモーターは、以下に説明されている。
【0051】
関心のあるあらかじめ決められた組織または臓器領域に核酸を送達するために適した方法は、例えばU.S. Pat. No. 5,652,225に開示されている。そのような方法は一般に、ポリマーのような望ましいマイクロデリバリー媒体に核酸を接触させ、核酸・ポリマー組成物を形成させる段階、およびしばしば柔軟で関心のある領域の近くおよび領域まで突き進むことのできる固体ロッドもしくは他の基質またはカテーテルのような適当な手段を用いて、領域に組成物を接触させる段階を含む。用途によっては、針のような比較的非柔軟性の基質も使用できる可能性がある。
【0052】
Gem蛋白質または変異型をコードする核酸が直接に関心のある組織または臓器領域に適応される態様では、添加する核酸の正確な量は、核酸の目的、および関心のある領域で発現される核酸の能力に依存する。したがって、裸のDNAを投与するためにカテーテルまたは関連した器具が使用される態様では、使用されるDNAの量は、約0.01〜100μg/mm2、好ましくは約0.1〜50μg/mm2の間である。他の許容できる投与戦略に関する情報は、例えば、U.S. Pat. No. 5,652,225を参照されたい。
【0053】
必要ならば、DNAはカチオン性リポソームのようなマイクロデリバリー媒体と共に使用できる。リポソーム調製、ターゲッティング、および内容物の送達についての手順の総説は、Mannino and Gould-Fogerite, Bio Techniques, 6: 682 (1988)を参照されたい。またFelgner and Holm, Bethesda Res. Lab. Focus, 11(2): 21 (1989)およびMaurer, R. A., Bethesda Res. Lab. Focus, 11(2): 25 (1989)も参照されたい。
【0054】
また、例えばU.S. Pat. No. 6,605,274(心臓への遺伝子送達を開示);No. 6,586,410(遺伝子送達のための脂質・核酸組成物を報告);No. 6,475,779(遺伝子送達ポリマーの配合を報告);およびNo.6,620,617も参照されたい。
【0055】
上述のように、組み換え動物ウイルスをマイクロデリバリー媒体として使用することが有用な場合も多い。この発明態様では、ウイルスは望ましくは、所望の哺乳類Gem蛋白質(または変異型)を少なくとも1つ(例、1、2、3または4コピー)コードする核酸配列を含み、好ましくは接触される領域内でGem蛋白質を発現するために一般的に充分な条件で接触が行われる。核酸が適当な組み換え動物ウイルス中に包含されている態様では、一般的に好ましい条件は、ウイルスのその領域への感染を促進する条件である。組み換えアデノウイルスの良好な感染を受けやすい条件の例は、以下に説明されている。いずれにしろ、領域内でGem蛋白質または変異型が充分に発現すると、以下に記載する様々な生物学的および電気生理的分析によって決定される、領域内でのカルシウムチャネル蛋白質の活性が調節され、好ましくは低下する。好ましくは、本方法で処理されるカルシウムチャネルは、L型である。適当なGem蛋白質または変異型は、齧歯類(例、ラットまたはマウス)、ウサギ、またはヒトのような霊長類に由来する。
【0056】
以下の考察でさらに明らかになるように、特定の医学的状態に取り組むために、本明細書に記述されたように特定の組み換えウイルスを作製し、使用することができる。この識別は、主にカルシウムチャネル活性、特にL型の活性を基本的に完全に、または部分的に遮断する能力に基づく。より具体的には、カルシウムチャネル活性、特にL型の活性に対して各々が異なる調節効果を持つ、様々な組み換えアデノウイルスコンストラクトを作製し、使用することが可能であることが分かった。パネルの各メンバーが、特定量のカルシウムチャネル抑制活性を提供できるような、本発明に従って作製した組み換え動物ウイルスのパネルを提供することは、本発明の目的である。そのようなコンストラクトは、さらに必要ならば、特定の医学的状態の予防、治療、または重症度の低下のために適応できる。
【0057】
例えば、不整脈、細動、心肥大、線維症および心臓リモデリングを含むがこれらに限定されないいくつかの異なる心臓の状態を治療することは、本発明の特定の目的である。本明細書に記載された特定の組み換え動物ウイルス、および特に強いレベルの野生型Gem蛋白質発現を提供するアデノウイルスコンストラクトは、例えば不整脈および細動のような、不適切な伸筋収縮に起因する心臓疾患の治療に非常に適していることが分かった。しかし、そのようなコンストラクトは、心肥大、線維症、およびれモデリングの関与する適応症を治療するためには、それほど適していない。その代わり、これらの疾患に取り組むためには、はるかに弱いGem活性が必要であることが分かった。したがって、本明細書に規定されるGem蛋白質の変異型をコードする組み換え動物ウイルスを作製および使用して、これらおよび関連する心疾患を予防、治療、または重症度の低下を行なうことは本発明の目的である。一般に、そのような変異型は良いリン酸およびグアニン結合活性を提供するが、許容されるカルモジュリン結合を提供する能力ははるかに低い。そのような組み換えウイルスおよび変異型の好ましい例は、以下に説明されている。
【0058】
望ましいならば、本発明は、複数の手法を用いて、Gem蛋白質または変異型をコードする核酸が関心のある組織または臓器領域中で発現される、組み合わせ治療戦略を提供するために使用できる。したがって、1つの態様では、Gem蛋白質または変異型をコードする組み換え動物ウイルスがこの方法で使用された後、本明細書に開示される方法を用いて、Gem蛋白質または変異型をコードするDNAの直接の投与を行なう。または、そのようなDNAの直接投与は、組み換え動物ウイルスと同時に使用するか、感染前のような別の時に使用することもできる。
【0059】
別の態様では、ヒトGem蛋白質またはその変異型を2、3、4、5またはそれ以上で約10までの数のコピー数でコードする核酸のような、Gem蛋白質または変異型を2つまたはそれ以上コードする核酸を用いると有用な場合がある。哺乳類Gem蛋白質およびその変異型の全長コピーをコードする核酸も予見される。
【0060】
好ましい発明の方法は、適当な電気生理学的測定1つまたはその組み合わせによって決定されるL型カルシウム電流(ICa,L)を、少なくとも約10%阻害する。そのような測定の実施に関する一般的な開示については、Fogoros RN. 「電気生理学的試験(Electrophysiologic Testing)」Blackwell Science, Inc. (1999)を参照されたい。
【0061】
特定の態様では、そのような方法は、本明細書で「標準的な電気生理学的測定」と呼ばれるものによって決定されたところで、適当な対照と比較して少なくとも約5%、好ましくは約10%、より好ましくは約20%から50%、L型カルシウムチャネルを阻害する段階を含む。そのような測定法の好ましい例は、以下の段階の少なくとも1つ、好ましくは全てを含む:
1) Gem蛋白質または変異型を含む核酸配列(例、組み換え動物ウイルス)を、適当な対照と比較して、少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約10%、およびより好ましくは約15%から40%の形質導入効率を提供する条件下で、哺乳類の心臓のあらかじめ決められた領域へ投与する段階、
2) 心臓内でGem蛋白質または変異型を、対照と比較して蛋白質発現が少なくとも約20%増加、好ましくは少なくとも約50%増加、より好ましくは少なくとも約100%増加、一般的に好ましくは約150%から500%増加するレベルで、発現する段階;および
3) 感染した心臓の少なくとも1つの測定可能な電気的性質、例、ベースライン値と比較した、伝導、心室応答率、放電率および/または脈拍数、好ましくは放電率または脈拍数のうちの少なくとも1つ、の増加または減少を検出する段階。理解されるように、ベースライン値はしばしば、選択された特定の組み換え動物ウイルスに関して異なる。
【0062】
本方法で使用される形質導入効率および蛋白質発現レベルを決定する方法は、主にインビボおよびエクスビボの用途を意図するものと、インビトロの使用(例、初代、二次、不死化細胞の培養)を意図するものとに分けられる。そのような方法は、そのような蛋白質をコードする本明細書に開示される組み換え動物ウイルスを含む、哺乳類Gem蛋白質または変異型をコードする任意の核酸に使用できる。
【0063】
本方法がインビボおよび/またはエクスビボの用途に使用される態様において、標準的なパッチクランプ法のような電気生理学的測定である。電気生理学(EP)効果は、心拍数、伝導速度、または不応期をEPカテーテルを用いてインビボで測定することにより決定できる。好ましい調節率は、ベースライン値から少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10パーセントの差である。例えば、心拍数または他の測定された性質のベースライン値と比較して少なくとも約12、15、20または25パーセントの増減のように、ベースライン値からのより大きな増減も達成できる。
【0064】
標準的な電気生理学的測定の好ましい態様では、モニターされる電気的性質は、QT間隔であり、この場合、測定にはさらに、適当な対照と比較した時に、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約20%、哺乳類被験者においてQT間隔が短縮する(およびそれを検出する)段階が含まれる。
測定の別の好ましい態様では、モニターされる電気的性質は、心臓のPR及びAH間隔のうちの少なくとも1つであり、この場合、測定にはさらにPRおよびAH間隔の片方または両方が延長する(およびそれを検出する)段階が含まれる。この態様では、これらの間隔の片方または両方は、適当な対照と比較した時に、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約20%延長する。
【0065】
心臓におけるGem蛋白質の過剰発現が、QT間隔の実質的な低下を引き起こした以下の実施例1を参照されたい。
【0066】
標準的な電気生理学的測定のさらに別の好ましい態様では、測定においてモニターされる電気的性質は、活動電位持続時間(APD)である。この例では、測定ではさらに、適当な対照と比較した時に、APDが少なくとも約25%、好ましくは少なくとも約40%短縮する段階が含まれる。典型的には、APDは便宜的に、APD50またはAPD90に論及することによって測定される。
【0067】
Gem過剰発現がAPを低下させたことを示す以下の実施例1を参照されたい。
【0068】
標準的な電気生理学的測定は、柔軟性があり、意図される用途に適合するように調節できることが理解される。例えば、1つの態様では、測定にはQT間隔単独のモニタリング、またはAPDおよびPR間隔のような1つまたは複数の他の電気的パラメータと組み合わせてのQT間隔のモニタリングが含まれる。または、APDを単独でモニターするか、またはPRおよびAH間隔のうちの少なくとも1つと組み合わせてモニターすることもできる。特定の測定戦略の選択は、必要な選択性および感受性の度合いのような、認識されるパラメータによって決定される。
【0069】
上述のように、上記の一般的方法は、インビボ、または場合によってはエクスビボにおいて、Gem蛋白質または変異型を限局的に送達するために使用できる。しかし、特定の態様では、インビトロ手法1つまたはその組み合わせによって、カルシウムチャネル蛋白質活性をモニターすると有用な場合がある。
【0070】
例えば、1つの手法では、L型カルシウムチャネルに起因するゲート電荷を測定することによって、チャネルの総数が見積もられる。電荷は、ニトレンジピンのようなL型チャネル遮断剤を用いてシグナルを比較することによって、分離およびモニターできる。そのような測定は、一般に「標準的カルシウムチャネル計数測定」と呼ばれ、以下の段階のうち少なくとも1つおよび好ましくは全てを含む:
a) Gem蛋白質またはその変異型を発現する組み換え動物ウイルスの感染した細胞または組織のような、哺乳類Gem蛋白質または変異型をコードする核酸配列の接触した細胞または組織を得る段階、
b) 細胞または組織の一部に、適当な量のニトレンジピンを対照として接触させる段階;
c) 細胞または組織中のチャネル蛋白質数の指標としてL型カルシウムチャネル電流を決定する段階。好ましくは、L型カルシウム電流チャネルの数は、対照と比較した時に、このアッセイによると少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約10%低下している。
【0071】
例えば、Gem蛋白質の過剰発現によってL型カルシウムチャネルの相対的な数が低下したことを示す実施例1を参照されたい。
【0072】
Gem蛋白質または変異型の発現を定量する他の方法には、ウェスタンブロットの様な免疫学的試験、および定量的PCRのような組み換えDNA解析が含まれる。時には、これらの試験は「標準的Gem蛋白質検出アッセイ」または関連した言葉で呼ばれる。そのような態様では、Gem蛋白質は、対照と比較して少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約100%、および約300%から1000%まで過剰発現することが望ましい。
【0073】
心臓における内在性Gem蛋白質の存在およびGem形質導入動物における過剰発現を示す以下の実施例2を参照されたい。
【0074】
本発明の方法の様々なパラメータを測定するための適当な対照は、当業者には周知である。好ましい対照には一般的に、Gem蛋白質または変異型をコードしない、同一または類似した核酸を平行して使用することが含まれる。そのような例では、Gemをコードする配列は、望ましいならば適当な「スタッファー」またはリンカー配列で置換できる。多くの場合、特に特定の核酸の生物学的活性が既知の場合には、対照の使用が不要であることが理解されるだろう。
【0075】
上述のように、本発明は関心のあるあらかじめ決められた組織または臓器領域内で、カルシウムチャネルの活性を限局的に調節(好ましくは低下)するための方法を特徴とする。好ましくは、本方法は、1つの態様ではGem蛋白質蛋白質(またはその変異型)をコードする組み換え動物ウイルスであり得る、本発明に係る核酸を、領域内でその蛋白質を発現するために充分な条件下で、その領域に接触させる段階を含む。通常の方法では、その領域内でL型カルシウムチャネルの活性を調節するために充分なレベルで、Gem蛋白質または変異型を発現させる段階がさらに含まれる。1つの態様では、本方法は、少なくとも1つの透過剤を哺乳類に投与する段階をさらに含む。透過剤は、本明細書では時には「血管」または「微小血管」透過剤と呼ばれる。理論に縛られることを望まないが、本開示から理解されるように、特にGem蛋白質または変異型を関心のある領域に送達するために組み換えアデノウイルスを利用する時には、適当な透過剤を使用すると本発明の使用を促進すると考えられる。特に、微小血管透過剤は、本方法で使用されるように組み換え動物ウイルスの活性を助けることができると考えられる。
【0076】
血管透過剤は、特定の医学的適応症を予防、治療、または重症度を低下させるために必要に応じて、段階(a)の前、間、またはその後に投与できる。1つの態様では、透過剤は段階(a)の前に投与される。任意で、透過剤は段階(a)の後でも送達できる。例えば、透過剤は段階(a)の後、および段階(b)の前に送達できる。また任意で、透過剤は必要ならば段階(a)の途中に投与できる。通常は、透過剤は、関心のあるあらかじめ決められた領域の近くまたはそこに直接、潅流または愛護的に投与される。特定の潅流速度の選択は、治療が望まれる特定の組織または臓器によって決定される。しかし、関心のある組織または臓器領域を通る典型的な好ましい潅流速度は、約0.5 ml/minから約500 ml/minの間である。心臓組織が治療される態様では、約1から約100 ml/minの間の潅流速度がしばしば有用である。
【0077】
使用する血管透過剤の量は、選択された透過剤、望まれる潅流速度等のような認識されるパラメータに依存する。しかし、大部分の用途では、透過剤は約0.01μmol/Lから約500μmol/Lの間の量が使用される。好ましくは、透過剤は哺乳類に投与される前に、薬学的に許容される適当な媒体と組み合わされる。
【0078】
選択された透過剤の1つまたは組み合わせは、関心のある組織または臓器領域に組み換え動物ウイルスが充分な接触をするために必要な、ほぼ任意の時間、哺乳類に投与できる。1つの態様では、血管透過剤は、約10秒から約5または6時間の間、領域に潅流される。特定の潅流時間の選択は、治療が望まれる特定の組織または臓器領域によって決められる。心臓組織が治療される態様では、潅流の時間は、約2時間未満で、好ましくは約30秒から約1時間の間である。
【0079】
本発明に使用される適当な血管透過剤の1つまたは組み合わせは、開示されている。例えば、Donahue, J.K et al.に付与されたU.S. Pat. Application No. 20020094326およびNo. 20020155101を参照されたい。また、Neyroud, N et al.、下記も参照されたい。
【0080】
具体的には、本剤と共に使用される許容される血管透過剤には、以下が含まれる:サブスタンスP、ヒスタミン、アセチルコリン、アデノシンヌクレオチド、アラキドン酸、ブラジキニン、エンドセリン、エンドトキシン、インターロイキン2、ニトログリセリン、一酸化窒素、ニトロプルシド、ロイコトリエン、活性酸素、ホスホリパーゼ、血小板活性化因子、プロタミン、セロトニン、腫瘍壊死因子、血管内皮成長因子(VEGF)もしくはその誘導体、毒、血管活性アミン、または一酸化窒素シンターゼ阻害剤、ブラジキニン、血小板活性化因子、プロスタグランジンE1、ヒスタミン、zona occludens毒素、インターロイキン2、血漿キニン。U.S. Patent Application No. 20020094326; No. 20020155101; およびそれらに引用される文献を参照されたい。
【0081】
血管透過剤がアミノ酸配列である態様では、そのような配列の機能的断片またはその誘導体が、特定の発明用途には充分である可能性がある。「断片」、「機能的断片」またはこれに類似した用語は、対応する全長アミノ酸配列(またはその配列をコードするポリヌクレオチド)の機能の少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約95%を持つ、アミノ酸配列(またはその配列をコードするポリヌクレオチド)の部分を意味する。そのような断片における機能の検出および定量方法は既知であり、本剤に特異的な標準的な生物学的測定を含む。
【0082】
例えば、好ましいVEGF誘導体は、VEGF165である。例えば、US Pat. No. 6,020,473およびNo. 6,057,428を参照されたい。
【0083】
VEGFを含む様々な血管透過剤が、Sigma-Aldrich (ミズーリ州セントルイス)のような様々な供給源から提供されている。
【0084】
また、適当な血管透過剤は、U.S. Patent Application No. 20020094326およびNo. 20020155101に開示されており、L-N-モノメチルアルギニン、L-N-ニトロアルギニンメチルエステル、および8-Br-cGMPを含む。
【0085】
本発明で使用するために適当な別の透過剤は、Robertson, M. and D. Robertson、上記に開示されており、様々な血管拡張剤を含む。例には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシンII受容体アンタゴニスト、ニトロ血管拡張剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、直接の血管拡張剤、アドレナリン作動性受容体アンタゴニスト、カルシウムチャネル遮断薬、または交感神経作用薬が含まれるが、これらに限定されない。
【0086】
さらに別の血管透過剤およびそれの使用方法は、Neyroud, N. et al. Methods in Enzymol. 346: 323 (2002)に開示されている。特に、組み換えアデノウイルスと心臓で使用するための様々な血管透過剤が開示されている。U.S. Patent Application No. 20020094326およびNo. 20020155101を参照されたい。
【0087】
本発明に使用するために適した血管透過剤は、無菌水、無菌生理食塩水、特に等張生理食塩水のような、1つまたは複数の生理的に許容できるキャリアとしばしば組み合わされる。他の生理的に許容できるキャリアは、当技術分野で周知である。
【0088】
多くの発明態様のために好ましい他の血管透過剤は、時折「低カルシウム」溶液と呼ばれるものである。Neyroud, N. et al.上記;およびU.S. Patent Application No. 20020094326およびNo.20020155101を参照されたい。
【0089】
通常は、そのような溶液が血管透過剤として使用される時には、カルシウム塩が約500μmol/L未満、好ましくは100μmol/L未満で、多くの用途には約1〜約50μMの間が有用である。本発明に使用するために許容できるカルシウム塩は、塩化物であるが、しかし他の塩も予期され、それぞれ硫酸塩、硝酸塩または燐酸塩、および酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、リンゴ酸塩、メタンスルホン酸塩、イソチオン酸塩、テオフィリン酢酸塩、サリチル酸塩などのようなカルシウムの無機および有機酸付加塩を含む。第低アルキル4級アンモニウム塩なども適している。「薬学的に許容できるアニオン」には、CH3COO-、CF3COO-、Cl-、SO32-、マレイン酸、オレイン酸からなる群が含まれる。
【0090】
血管透過剤の好ましい組み合わせには、セラトニン、VEGF(特にVEGF165)、およびニトログリセリンのうちの少なくとも2つの使用が含まれる。組み合わせは、単独で使用しても、組み換え動物ウイルスの活性を助けるための低カルシウム溶液と組み合わせて使用しても良い。
【0091】
Gem蛋白質または変異型をコードする核酸配列が組み換え動物ウイルスである態様では、本発明の方法で使用するウイルスの量は、治療する医学的状態、選択したGem蛋白質、および組み換えベクターの特定のデザインのような理解されたパラメータによって、変り得る。しかし、大部分の態様では、約106から約1012プラーク形成単位(p.f.u.)の動物ウイルスが許容され、好ましくは約107から約109 p.f.u.である。ウイルスが組み換えアデノウイルスである態様における更なる情報については、Neyroud, N. et al.上記を参照されたい。
【0092】
上述のように、多くの場合に望ましくない副作用として発現する、通常のカルシウムチャネル遮断薬の使用を低下させ、好ましくは回避することは、本発明の目的である。しかし、本発明には柔軟性があり、単独で使用することもできるが、治療が適用される場合にはそのような遮断薬と組み合わせて使用することもできる。本発明がそのような薬剤の1つまたは組み合わせと共に使用される態様では、遮断薬は本発明の方法の使用の前、間、または後に、哺乳類に投与できる。本発明と合わせた特定のカルシウムチャネル遮断薬の投与は、哺乳類の一般的な健康状態、および治療する特定の医学的状態のような認識されるパラメータによって決定される。しかし、本発明の使用は、カルシウムチャネル遮断薬の使用ついての量または治療期間を実質的に低下させる手段を治療者に提供すると考えられる。
【0093】
好ましいカルシウムチャネル遮断薬の例には、特定のフェニルアルキルアミン、ジヒドロピリジン、ベンゾチアゼピン、ジフェニルピパジン、およびジアリルアミノプロピルアミンが含まれる。さらなる特定のカルシウムチャネル遮断薬には、以下のものが含まれる:アムロジピン(NORVASCTM)、ベプリジル(VASCORTM)、ジルチアゼム(CARDIZEMTM)、フェロジピン(PLENDILTM)、イスラジピン(DYNACIRCTM)、ニカルジピン(CARDENETM)、ニフェジピン(ADALATTM)、ニモジピン(NIMOTOPTM)、およびベラパミル(CALANTM)。Roberston, R.M. and D. Robertson、上記(心血管疾患の治療のための様々なカルシウムチャネル遮断薬の使用を開示)を参照されたい。
【0094】
本発明に使用するために好ましい組み換え動物ウイルスは、霊長類、および特にヒトの患者で受け入れられているまたは使用されているものである。好ましくは、動物ウイルスは組み換えアデノウイルスである。アデノウイルスゲノムは、関心のある核酸配列をコードし、発現するが、宿主内で複製する能力に関しては不活化されているように、容易に操作できる。例えばBerkner et al. (1988) BioTechniques 6: 616; Rosenfeld et al. (1991) Science 252:431-434; およびRosenfeld et al. (1992) Cell 68: 143-155を参照されたい。アデノウイルス株Ad type 5 dl324またはアデノウイルスの他の株(例、Ad2, Ad3, Ad7等)に由来する適当なアデノウイルスベクターが、当技術分野で周知である。またNeyroud, N. et al.、上記;Graham,F.L、およびPrevec、下記を参照されたい。
【0095】
複製不能組み換えアデノウイルスベクターは、他の既知の技術に従って生産できる。Quantin, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 2581-2584 (1992); Stratford-Perricadet et al., J. Clin. Invest., 90: 626-630 (1992); およびRosenfeld, et al., Cell, 68: 143-155 (1992)を参照されたい。
【0096】
複製不能組み換えアデノウイルスベクターは、本発明の大部分の用途に一般的に好ましい。しかし、いくつかの態様ではアデノ随伴ウイルス(AAV)または関連ウイルスを使うと有益である。アデノ随伴ウイルスは、天然に存在する欠損ウイルスで、効率良い複製および生産的なライフサイクルのためには、ヘルパーウイルスとしてアデノウイルスまたはヘルペスウイルスのような他のウイルスを必要とする。一般的に、Muzyczka et al. Curr. Topics in Micro. and Immunol. (1992) 158: 97を参照されたい。またこれは、そのDNAを非分裂細胞に組み込むことのできる数少ないウイルスの1つでもある。高頻度で安定的組み込みを示すことが、報告されている。例えばFlotte et al. (1992) Am. J. Respir. Cell. Mol. Biol. 7: 349-356; Samulski et al. (1989) J. Virol. 63: 3822-3828; およびMcLaughlin et al. (1989) J. Virol. 62: 1963-1973を参照されたい。AAVを300塩基対しか含まないベクターでも、パッケージされ、組み込まれることができる。
【0097】
本発明に使用するためのさらに別の組み換え動物ウイルスには、ヘルパー依存性アデノウイルス、ならびにアデノウイルス、AAV、およびヘルパー依存性アデノウイルスのキメラが含まれる。「キメラ」というのは、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、およびRNAウイルスのような1つまたは複数の他のウイルスから得られる1つまたは複数の成分を含む、組み換えアデノウイルス、AAV、またはヘルパー依存性アデノウイルスを意味する。
【0098】
本発明に用いるための更なる特定の組み換えアデノウイルスは、CreまたはFlpリコンビナーゼによって操作できるまたは操作された配列を持つ。そのようなウイルスを作製するための一般的な方法は開示されている。例えば、Hardy, S., et al. J. Virol 71: 1842 (1997); Hoppe, U.C. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98: 5335 (2001); Johns, D.C., et al. J. Neurosci 19, 1691 (1999); およびNeyroud,N. et al.、上記を参照されたい。
【0099】
またU.S. Pat. No. 6,534,314; No. 6,379,943、およびこれらに引用される文献(Cre/loxおよびFlpに基づく組み換えを用いた様々なウイルスベクターの作製および使用のための材料と方法を開示)も参照されたい。また、U.S.Pat. No. 6,200,800; Sauer (1993), Methods in Enzymology 225: 890; およびSeibler,J., et al., (1998) Biochemistry, vol. 37: 6229も参照されたい。
【0100】
また、U.S. Pat. No. 6,610,290(心筋症の治療のための特定のAAVベクターを開示);No. 6,436,907(筋肉組織への遺伝子移入のためのアデノウイルスベクターを報告);No. 6,610,287(神経系の遺伝子療法のためのヘルペスウイルスに基づくベクターを報告);No. 6,485,965; およびNo. 6,387,368(遺伝子送達媒体としての特定のアデノウイルス-AAVキメラ(ハイブリッド)の使用を開示)。
【0101】
簡単に述べると、本発明に使用するための組み換えアデノウイルスの作製のための好ましい方法は、リコンビナーゼ、好ましくはCreまたはFlpを、(a) 2つの遺伝的に不適合性のlox配列(L1およびL2と呼ばれる)を含むアデノウイルスアクセプターベクター、および(b) L1およびL2配列が隣接するGem蛋白質(または変異型)をコードする配列、またはL1およびL2配列と適合性の配列を含むドナーベクターに接触させ、Gem蛋白質またはその変異型を、適合性lox配列における組み換えによってドナーベクターからアクセプターベクターへ移動させる。適当なアクセプターおよびドナーベクターは、報告されている。例えば、U.S. Pat. No. 6,200,800; No. 6,379,943; Sauer (1993)、上記;およびSeibler, J., et al. (1998)、上記を参照されたい。
【0102】
本明細書で使用される「部位特異的組み換え」というのは、ドナーDNAまたはベクターから、アクセプターDNAまたはベクターへのDNAの移動を指す。「lox配列」というのは、リコンビナーゼ、通常はCre, FlpまたはIntファミリーのリコンビナーゼの他のメンバー、によって触媒された時に、組み換え(例、DNAクロスオーバーおよび交換)を受けるヌクレオチド配列を指す(Argos et al. (1986) EMBO J. 5:433)。適当なlox配列には、例えば、Creリコンビナーゼによって認識されるlox配列、およびFlpリコンビナーゼによって認識されるfrt配列が含まれる。理解されるように、「リコンビナーゼ」という言葉は、lox部位において部位特異的組み換えを触媒する能力のある任意のリコンビナーゼを指す。適当なリコンビナーゼには、例えば、CreリコンビナーゼおよびFlpリコンビナーゼが含まれる。Sauer et al. (1993)、上記;Buchholz et al. (1996) Nucl. Acids Res. 24: 4256-4262; およびBuchholz et al. (1998) Nat. Biotechnol. 16: 657-662を参照されたい。
【0103】
本発明で使用する組み換え動物ウイルスを作製する方法では、一般に、同一または適合性(すなわち、互いに組み換え可能な)lox配列間で起きるリコンビナーゼを介した交換反応を利用する。同一または適合性lox配列の間の効率良いDNA交換によって、ドナーからアクセプターベクターへのDNAの移動が可能になる。重要なことに、一旦ドナーからアクセプターベクターに移動したら(すなわち、分子間移動)、移動したDNAは安定化、すなわち遺伝的にその場に「ロック」される。効果的で安定なDNA交換反応に加え、好ましくは本方法は、ドナー配列(すなわちGem蛋白質または変異型)をレシピエント細胞または組織のゲノムに組み込むために使用される。本方法の実施に成功すれば、ドナーによって運搬されるGem蛋白質または変異型による細胞または組織の形質転換が起きる。
【0104】
したがって、本発明で使用するために適した組み換え動物ウイルスは、機能的に連結した成分として:i) Gem蛋白質またはその変異型をコードする配列;およびii) 前述のリコンビナーゼシステムの1つを用いて、組み換えを促進するように適応された少なくとも1つの核酸配列、を含む核酸配列を含む組み換えアデノウイルスである。好ましくは、ウイルスはさらに重要または必須のアデノウイルス機能を提供できる少なくとも1つの配列を含む。
【0105】
一般に、本発明の実施のために適した核酸およびアミノ酸配列は、GenBank (National Center for Biotechnology Information (NCBI))、 EMBLデータライブラリー、SWISS-PROT (University of Geneva、スイス)、PIR-Internationalデータベース;およびAmerican Type Culture Collection (ATCC)(10801 University Boulevard, Manassas, VA 20110-2209)を含むがこれらに限定されない様々な公開の供給源から得られる。Genbankの説明には一般に、Benson,D.A. et al. (1997) Nucl. Acids. Res. 25: 1を参照されたい。
【0106】
本発明に使用するさらなる特定の核酸(ポリヌクレオチド)は、GenBankから得られる公開情報にアクセスすることによって、容易に得られる。
【0107】
例えば、1つの手法では、所望のポリヌクレオチド配列はGenBankから得られる。PCRに基づく増幅およびクローニング手法を利用したものを含め、通常のクローニング手順を1つまたは組み合わせて使用して、ポリヌクレオチド自身を作製することもできる。例えば、オリゴヌクレオチド配列の調製、適当なライブラリーのPCR増幅、プラスミドDNAの調製、制限酵素によるDNA切断、DNAの連結、適当な宿主細胞へのDNAの導入、細胞の培養、およびクローニングされたポリヌクレオチドの単離および精製は、既知の技術である。例えば、Sambrook et al.「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」(第2版、1989);Ausubel et al. (1989)「分子生物学の最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」, John Wiley & Sons, New Yorkを参照されたい。
【0108】
哺乳類Gem蛋白質およびその特定の変異型の構造および機能は開示されている。Maguire, J. et al.、上記;Beguin, P. et al. Nature 411: 701 (2001); J.S. Trimmer、上記;Fisher, R. et al. J. Biol. Chem. 271: 25067 (1996); およびMitsiades, L.A. et al. Oncogene 20(25): 3217 (2001)を参照されたい。さらにScience’s STKE January 8, 2002のJ.S. Trimmerも参照されたい。
【0109】
特に、ヒトおよびマウスGem cDNA配列の核酸配列は、Genbankからそれぞれアクセッション番号O100550およびU10551として報告されている。Genbankアクセッション番号NP005252は以下のヒトGem蛋白質配列(SEQ ID NO. 1)を報告している。

【0110】
SEQ ID NO:1のヒトGem蛋白質は、本明細書では時には「野生型」「WT」または「正常」ヒトGem蛋白質と呼ばれる。もちろん、SEQ ID NO:1に示された配列のアリル変異体のような他のヒトGem蛋白質配列もしばしば許容される。
【0111】
特に、Kir/GemはPC12細胞の形質膜へのサブユニットの移動を阻害することによってL型カルシウムチャネルを抑制すると考えられる。Kir/Gemの発現は、心臓および骨格筋では一般に低く、胸腺、脾臓、および腎臓では高い。
【0112】
本明細書で使用される「コード配列」または特定の蛋白質を「コードする」配列という用語は、適切な調節配列の制御下に置かれると、インビトロまたはインビボで転写(DNAの場合)およびポリペプチドに翻訳(mRNAの場合)される核酸配列である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドンおよび3’(カルボキシ)末端の翻訳終止コドンによって決定される。コード配列には、原核生物または真核生物mRNAから得られるcDNA、原核生物または真核生物DNAから得られるゲノムDNA配列、および合成DNA配列が含まれるが、これらに限定されない。転写終止配列は、通常コード配列の3’に位置している。
【0113】
本明細書で使用される「機能的に連結」という用語は、そのように記述された成分がその通常の機能を発揮するように構成された、要素の配列をさす。したがって、コード配列に機能的に連結された制御配列は、コード配列の発現を実施する能力がある。制御配列は、その発現を指揮する機能を果たす限り、コード配列と隣接している必要はない。したがって、例えば、転写されるが翻訳されない介在配列が、プロモーター配列とコード配列の間に存在しても、プロモーター配列はコード配列に「機能的に連結していると考えられ得る。
【0114】
上述のように、本発明は哺乳類Gem蛋白質またはその変異型をコードする組み換えアデノウイルスと使用され得る。「変異型」という用語は、上記にSEQ ID NO: 1として示された蛋白質配列と少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%または約99%まで同一である蛋白質をコードする核酸配列を意味する。
【0115】
理解されるように、2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列の同一性の割合を決定するためには、配列は最適の比較のために整列される(例、最適の整列のために第1および第2のアミノ酸配列または核酸配列の1つまたは両方にギャップを挿入し、比較のために非相同配列を無視することができる)。好ましい態様では、比較のために整列された1つの参照配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも70%、80%、90%、100%である。そして、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置のアミノ酸残基またはヌクレオチドが比較される。第1の配列のある位置が、第2の配列の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドで占められていれば、これらの分子は、その位置に関して同一である(本明細書ではアミノ酸または核酸の「同一性」は、アミノ酸または核酸の「相同性」と同等である。)
【0116】
2つの配列の間の同一性の割合は、2つの配列の最適の整列のために導入する必要のあるギャップの数および各ギャップの長さを考慮して、配列に共通する同一の位置の数の関数である。配列の比較と、2つの配列の間の同一性の割合の決定は、数学的アルゴリズムを用いて行なえる。好ましい態様では、2つのアミノ酸配列の同一性の割合は、Needleman and Wunsch ((1970) J. Mol. Biol. 48: 444)アルゴリズム、またはE. Meyers and W. Miller ((1989) CABIOS, 4:11)のアルゴリズムを用いて決定される。
【0117】
さらに適当なGem蛋白質変異型は、蛋白質の少なくとも1つのアミノ酸が削除されるように修飾されたcDNAのような核酸配列によってコードされる。削除されたアミノ酸は、隣接するまたは隣接しない欠失で、基本的に全長蛋白質配列の約1%、より好ましくは約5%、さらに好ましくは約10、20、30、40から約50%までであり得る。
【0118】
または、Gem変異型をコードするcDNAは、コードされる蛋白質の少なくとも1つのアミノ酸が、保存的または非保存的アミノ酸によって置換されるように修飾されていても良い。例えば、フェニルアラニンで置換されたチロシンアミノ酸は、保存的アミノ酸置換の例であり、アラニンで置換されたアルギニンは非保存的アミノ酸置換を表す。置換されたアミノ酸は隣接するまたは隣接しない置換で、基本的に全長蛋白質配列の約1%、より好ましくは約5%、さらに好ましくは約10、20、30、40から約50%までであり得る。
【0119】
一般的にはあまり好ましくはないが、Gem変異型をコードする核酸は、コードされた蛋白質に少なくとも1つのアミノ酸が付加されるように修飾され得る。好ましくは、アミノ酸の付加はcdsのORFを変化させない。典型的には、コードされた蛋白質に約1〜50アミノ酸、好ましくは約1〜25アミノ酸、より好ましくは約2〜10アミノ酸が付加される。特に好ましい付加部位は、選択された蛋白質のCまたはN末端である。
【0120】
本発明で使用される特定のGem変異型は、Beguin, P et al.、上記;およびそれに引用される文献によって開示されるアッセイに従うと、良いリン酸およびグアニン結合を特徴とする。好ましいGem変異型は、正常Gem蛋白質のカルモジュリン結合活性の約50%未満を持ち、好ましくはそのような活性の約80%未満、通常はそのようなカルモジュリン活性の約90%未満またはそれ以上が欠如している。蛋白質および特にGemのカルモジュリン活性を決定する方法は、開示されている。例えば、1つのそのような測定法では、カルモジュリン・セファロースへの結合および標準的免疫学的技術を用いた結合した蛋白質の検出が行われる。Beguin, P et al.、上記;Fisher,R. et al. J. Biol. Chem. 271: 25067 (1996); Moyers, J.S. et al. J. Biol. Chem. 272: 11832 (1997);およびそれらに引用される文献を参照されたい。
【0121】
より特異的なGem変異型では、適当なカルモジュリン結合アッセイによって決定される、検出可能なカルモジュリン活性がほぼ全て欠如している。1つの態様では、Gem変異型をコードする核酸は、約1〜約50アミノ酸、好ましくは約10〜約40アミノ酸の間のCまたはN末端の欠失を特徴とする。好ましくは、欠失は蛋白質のC末端にある。別の態様では、Gem蛋白質変異型は、269の位置(W269G)で単一アミノ酸の変化を持つ。このGem変異型についてのさらなる情報は、Beguin, P et al.、上記を参照されたい。さらにSEQ ID NO: 1も参照されたい。
【0122】
本発明で使用する別の特定のGem変異型は、SEQ ID NO: 1として上に示される野生型ヒトGem配列の、天然に存在するアリル変異体である。
【0123】
上述のように、本発明で使用するアデノウイルスのような好ましい組み換え動物ウイルスは、iii) 既知の方法を用いてCreまたはFlp組み換えを促進するように適応させた少なくとも1つの核酸配列を特徴とする。そのような核酸配列の例には、例えばU.S. Pat. No. 6,534,314に提供されるlox配列が含まれる。好ましい組み換えウイルスは、一般的にそのような配列を2つ持つ。他の適当なlox部位も報告されており、本発明で使用される可能性がある。U.S. Pat. No. 6,379,943(loxP, lox511および他の配列を開示する)を参照されたい。
【0124】
本明細書に開示される本発明の方法で使用する好ましい組み換えアデノウイルスは、機能的に連結された成分として、以下の核酸配列を含む:i) 第1の逆方向末端反復配列(ITR)、ii) 第1のlox P部位、iii) 哺乳類GEM蛋白質またはその変異型、好ましくはヒト野生型Gemまたはその変異型、をコードする少なくとも1つの配列、iv) ポリアデニル化シグナル(An)、v) 第2のlox P部位、およびvi) 第2の逆方向反復配列(ITR)。好ましくは、ウイルスは所望のGem蛋白質をコードする1つの配列を持つ。
【0125】
本発明で使用する別の好ましい組み換えアデノウイルスは、必須のウイルス機能を促進または供給するか、そうでなければ有益な制御配列を提供することによってコードされているGem蛋白質の生産を助けることを意図した少なくとも1つの配列を、機能的に連結された成分として含む。1つの態様では、組み換えアデノウイルスは、さらに以下の配列の少なくとも1つを含む:viii) アデノウイルスパッケージング部位(ψ)、ix) Gem配列に機能的に連結した強いウイルスプロモーター、x) 内部リボソーム進入部位(IRES);およびxi) アデノウイルス初期遺伝子またはその機能的断片、例えば、E2, E4, またはその両方。
【0126】
好ましいウイルスプロモーターは、763塩基対のサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターである。ラウス肉腫ウイルス(RSV)(Davis, et al., Hum Gene Ther 4:151 (1993))およびMMTプロモーターも使用できる。これらの天然プロモーターを用いて、特定の蛋白質を発現できる。エンハンサーのような発現を増強する他の要素、またはtat遺伝子およびtar要素のような、発現を高レベルにするシステムも含まれる可能性がある。他の適当なプロモーター要素に関する考察は、Neyroud, N et al.、上記も参照されたい。
【0127】
U.S. Published Patent Application US20020022259A1(特定の心臓細胞中で遺伝子発現を促進するための適当なエンハンサー要素を報告)も参照されたい。
【0128】
本明細書で使用される「制御配列」という用語は、プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流の調節ドメイン、複製開始点、内部リボソーム進入部位(IRES)、エンハンサー等を合わせて指し、これらは合わせてレシピエント細胞中におけるコード配列の複製、転写、および翻訳を提供する。選択されたコード配列が、適切な宿主細胞中で複製、転写、および翻訳されることができる限り、これらの制御配列の全てが、常に存在する必要はない。
【0129】
本明細書で使用される「プロモーター領域」という用語は、RNAポリメラーゼが結合し、下流(3’方向)のコード配列の転写を開始するDNA調節配列をさす、通常の意味で使用される。
【0130】
望ましいならば、本発明の組み換え動物ウイルスは、通常は(しかし必ずそうとは限らない)Gem蛋白質または変異型をコードする配列とインフレームで融合した、少なくとも1つで好ましくは1つの検出マーカーをさらに含む。好ましいマーカーは、β-Gal蛋白質のような、着色した産物を提供する(または提供するようにできる)ものである。他の適当なマーカーには、GFP(緑色蛍光蛋白質)、RFP(赤色蛍光蛋白質)、ルシフェラーゼ等のような、蛍光、リン光、または化学発光マーカーが含まれる。
【0131】
したがって、本発明の特定の態様では、本方法で使用する組み換えアデノウイルスは、この順で機能的に連結した以下の成分を含む:i) 第1の逆方向末端反復配列(ITR)、ii) 第1のlox P部位、iii) パッケージング部位(ψ)、iv) サイトメガロウイルスプロモーター、v) 哺乳類GEM蛋白質またはその変異型をコードする配列、vi) 内部リボソーム進入部位(IRES)、vii) ポリアデニル化シグナル(An)、viii) 第2のlox P部位;ix) アデノウイルス初期領域2および初期領域4遺伝子をコードする配列;およびx) 第2の逆方向反復配列(ITR)。好ましくは、ウイルスは約35キロ塩基から約40キロ塩基の間の分子量を持つ。
【0132】
機能的に連結した成分の各々の具体的な核酸配列は、開示されている。例えば、U.S. Pat. No. 6,379,943; No. 6,534,314; Hardy, S., et al.、上記;Hoppe, U.C. et al.、上記;Johns, D.C., et al.、上記;およびNeyroud, N. et al.、上記を参照されたい。
【0133】
アデノウイルスのようなCre-loxを介した組み換え反応を実施するための材料と方法は、市販されている。例えば、所望の蛋白質をコードする組み換えアデノウイルスを作製するための、様々な遺伝しクローニングおよび発現システムは、BD Biosciences Clontech, Palo Alto, CA 94303-4230 (USA)から販売されている。
【0134】
上述の組み換え動物ウイルス成分に関して、そのような成分は、リンカーの存在がウイルスの意図する機能を乱さない限り、リンカー配列を挟んで存在する可能性があることが、理解されるだろう。そのようなリンカーは、一般には制限酵素部位を含む配列を含むが、必要に応じて他のタイプのリンカーを含む可能性がある。
【0135】
したがって、本発明の別の局面では、機能的に連結した成分として以下の核酸配列を持つものを含め、本明細書に開示された任意のGemをコードする組み換えアデノウイルスを提供する:i) 第1の逆方向末端反復配列(ITR)、ii) 第1のlox P部位、iii) 哺乳類GEM蛋白質またはその変異型、好ましくはヒト野生型Gemまたはその変異型、をコードする少なくとも1つの配列、iv) ポリアデニル化シグナル(An)、v) 第2のlox P部位;およびvi)第2の逆方向反復配列(ITR)。好ましくは、ウイルスは所望のGem蛋白質をコードする1つの配列を持つ。1つの態様では、ウイルスはさらに、以下の配列のうち少なくとも1つを含む:viii) アデノウイルスパッケージング部位(ψ)、ix) Gem配列に機能的に連結したCMVプロモーターのような強いウイルスプロモーター、x) 内部リボソーム進入部位(IRES);およびxi) アデノウイルス初期遺伝子またはその機能的断片、例えば、E2, E4, またはその両方。
【0136】
望ましいならば、組み換えアデノウイルスはさらに本明細書に開示される検出可能配列のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0137】
いくつかの用途では、哺乳類Gem蛋白質(例、野生型ヒトGem)をコードする組み換えアデノウイルスを、心臓に限局的に送達することが有用である。1つの態様では、限局的送達は、心臓の房室(AV)結節および洞房(SA)結節のうちの少なくとも1つを形質転換するために特異的にデザインされている。送達を実行するために許容される方法は、Neyroud, N et al.、上記に記述されている。さらにUS Pat. Application No. 20020094326およびNo. 20020155101も参照されたい。
【0138】
簡単に述べると、適当な組み換えアデノウイルスが、上述のように作製される。典型的な潅流プロトコールは、心房の心筋細胞のうちの少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約10%に、Gem蛋白質または変異型をコードするウイルスを移入するために通常は充分である。約0.5から約500 mlの潅流容積が好ましい。また、好ましい冠潅流速度は約0.5〜500 ml/minの間である。また、好ましい潅流プロトコールは、AV結節動脈を含む。ポリヌクレオチドを含む形質転換した心臓細胞、通常は心筋細胞は、AV結節またはその近傍に適切に配置される。
【0139】
形質転換した心臓の調節を検出するための例証となる戦略は、上記に開示されており、またFogoros RN、上記に開示されている。1つの戦略は、通常の心電図(ECG)を実施することである。本発明の使用による心臓の電気的性質の調節は、ECGを検査することにより容易に観察される。
【0140】
本発明は、不適切なカルシウムチャネル活性、好ましくはL型チャネルの活性によって影響を受ける広範囲の状態の予防、治療、または重症度の低下に使用できる。心臓内では、例には、不整脈、細動、肥大性心筋症、および肥大性閉塞性心筋症、持続性洞性徐脈、S-Aウェンケバッハとして発現する洞房(S-A)ブロック、完全洞房ブロックまたは洞停止(洞刺激が心房を活性化しない)および高度房室ブロック、心臓性失神、特にストークス・アダムス失神が含まれる。本発明の方法はまた、徐脈頻脈症候群および他の原因の徐脈の患者またはそれに感受性の患者の治療にも有用である。
【0141】
本発明の使用が適切な他の心臓の状態には、上室性不整脈(Af, AF等);心室性不整脈(特発性VT);血管攣縮性狭心症のような虚血性心疾患;全身性高血圧;および関連した心臓の適応症が含まれる。
【0142】
本発明の方法に使用される核酸配列の投与は、単回、または何日か、何週か、または数ヶ月の間をおいた一連の投与であり得る。本明細書で使用される「単回」という用語は、唯一の投与で良く、徐放性の投与でもあり得る。被験者は哺乳類(例、ヒト、チンパンジー、サルのような霊長類、またはウシ、ヤギ等のような家畜、ならびにイヌおよびネコのようなペット)の可能性があり、少なくとも1つの組み換え動物ウイルスまたは本明細書に記述される他の適当な核酸配列、通常は同一のものを含んだ薬学的組成物としての治療を含む。そのような本発明の薬学的組成物(いくつかの態様では生きたウイルスを含む)は、当技術分野で周知の方法に従って調製し、使用できる。例えば、Neyroud, N. et al.、上記;Graham, F.LおよびPrevec, Methods in Mol. Biol., The Human Press, Inc. Clifton, NJ Vol. 7(遺伝子移入プロトコール(Gene Transfer Protocols))109-128 (1991); 同書、363-390を参照されたい。
【0143】
例えば、治療に有効量の所望の組み換え動物ウイルスまたは他の適当な核酸配列を含む製剤は、単一用量または複数用量の容器中、例、例えば水の注入、等張生理食塩水のような無菌液体キャリアの添加が使用前に必要な場合がある密封アンプルおよびバイアル、で提供される可能性がある。潅流用途のための他の組成物も有益である可能性があり、これには抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質を含む可能性のある、水性および非水性無菌注射溶液が含まれる。望ましいならば、水性および非水性無菌懸濁液は、懸濁剤および濃化剤を含んでもよい。
【0144】
特に、実施例3および4は本発明に係るGem蛋白質の限局的送達が、細動時に心拍数を低下させ、肥大を低下させたことを示す。
【0145】
望ましいならば、本明細書に記述されるような他の関心のある組織および臓器のために、本方法は容易に適応できる。例えば、R. Malinowらは脳に核酸を直接注入する方法を開示した。
【0146】
さらに、本発明の方法は、特定の血液循環の動脈または小動脈にGem蛋白質または変異型を提供し、その特定の領域で血管拡張を行なうために使用できる。例えば、レイノー減少または間欠性跛行の治療のために虚血性の手足に血液供給をする動脈、または脳血管虚血疾患の治療のために脳動脈、または狭心症の治療のために冠動脈への送達である。特定の方法に関しては、D Dichek, E Nabel, D Heistadによる文献を参照されたい。
【0147】
上述のように、本発明はさらに哺乳類の組織または臓器のあらかじめ決められた領域においてカルシウムチャネルの活性を調節するための治療システムまたはキットを提供する。好ましくは、カルシウムチャネルはL型である。1つの態様では、組成物および透過剤を投与するために調節された器具は、注射針、ステント、またはカテーテル器具としてシステムに提供される。特定の態様では、器具は適当なポンプまたはポンプ装置に結合している。好ましい組成物は、生理食塩水のように生理的に許容されるキャリアを含む可能性がある。VEGF165、ニトログリセリン、およびカルシウム塩を約500μmol/L未満含むような低カルシウム溶液を含むがこれらに限らず、本明細書に開示された任意の透過剤は、必要ならばシステムと共に使用できる。
【0148】
本発明は、単独、または遺伝子療法を含むような他の方法と組み合わせて実施できる。Donahue, J. et al. (1998) Gene Therapy 5:630; Donahue, J. et al. PNAS (USA) 94: 4664(心臓への迅速で効率の良い遺伝子療法を開示);Akhter, S. et al. (1997) PNAS (USA) 94: 12100(心室筋細胞への遺伝子移入の成功を示す);およびこれらに引用される文献を参照されたい。
【0149】
望ましいならば、既存の心筋細胞を本明細書に開示される組み換え動物ウイルスでエクスビボで形質転換し、カテーテルまたは注射によって、哺乳類のあらかじめ決められた組織または臓器領域(例、心臓組織)に移植することができる。適当なことに、既存の心筋細胞は、修飾後(例、組み換えアデノウイルスまたは本明細書に開示される他のシステムでの形質転換後)に細胞の送達を促進するために、治療を受ける被験者から採取し、後に被験者に再投与することができる。
【0150】
修飾された細胞は、レシピエント、すなわち細胞が投与された被験者から採取された場合がある。洞房結節細胞のような心臓細胞は、カテーテルまたは他のプロトコールにより被験者から採取し、例えば、本明細書に開示されたGem蛋白質または変異型による形質導入により修飾し、そしてその後の被験者に投与できる。
【0151】
本発明に係る治療のための好ましい被験者には、家畜化した動物、例、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ等;ラット、ハムスター、マウスのような齧歯動物;ウサギ;およびサル、チンパンジー等のような霊長類が含まれる。特に好ましい哺乳類は、ヒトの患者であり、好ましくは不適切なカルシウムチャネル活性により影響を受ける疾患を持つまたは持つと疑われる患者である。
【0152】
本発明のさらなる特定の利点には、局所的な効果を伝える能力(標的を定めた限局的遺伝子送達による)、可逆的な効果(野生型または変異型Gem蛋白質を発現するためのテトラサイクリン誘導プロモーターを用いたアデノ随伴ベクターを含むがこれに限定されることはない、報告済みおよび新世代の誘導可能ベクターを含む、誘導可能ベクターの使用による)、段階的効果(誘導剤の用量のタイトレーションにより段階的効果が得られる、上述のような誘導可能ベクターの使用による)、遺伝子コンストラクト自身に基づく治療の特異性、ウイルスコンストラクト自身に基づく内在性機構(神経またはホルモン)による治療活性の調節能力、および電子的ペースメーカーおよびAICDを含む移植可能なハードウェアおよび関連費用と病的状態の回避が含まれる。
【0153】
本発明の他の利点には、臓器レベル(例、脳、心臓、血管系)で限局的に、または臓器、例、中隔動脈、のあらかじめ決められた領域のようにさらに限局的に、形質導入する能力が含まれる。好ましい本発明の方法は、例えば、観血的臓器手術(例えば心臓)、および心臓に関しては代替中隔切除(医原性梗塞の場合のように)よりもはるかに侵襲性は低い。
【0154】
本発明の他の使用および利点は、U.S. Provisional application No. 60/415,649に説明されており、これには、Gemおよび/またはGem変異体の遺伝子移入によるカルシウムチャネル活性の調節;心臓の収縮機能の改変;心臓の興奮性、例、AV結節の電気伝導、の改変;L型カルシウム電流の阻害による他の多様な生理的過程、例、励起カップリング、励起・分泌カップリング、および記憶、の調節;本明細書に記載の方法と体細胞遺伝子移入とのカップリング;および段階的かつ制御可能な効果を得るための本方法を誘導可能なプロモーターと組み合わせて使用することのための本明細書に記載された方法の使用が含まれる。
【0155】
以下の考察および実施例は、限局的遺伝的カルシウムチャネル遮断薬をどのようにして作製および使用するかを示す。より具体的には、体細胞遺伝子移入によって、心臓でGem蛋白質を過剰発現した。アデノウイルスを介したGemの送達を行なうと、心室筋細胞におけるL型カルシウム電流密度のピークが低下し、収縮性が低下した。房室(AV)結節へのGemの限局的送達を行なうと、心房細動時の心拍数が低下したが、弱い活性のGem変異体を心臓全体に送達すると、大動脈バンディングによって誘導される肥大が弱まった。実施例が示すように、Gemの遺伝子移入は、遺伝的カルシウムチャネル遮断薬として機能し、これを局所的に適用すると、全身性の続発症なしに、心臓不整脈および肥大を効果的に治療できる。したがって、Gemをコードする組み換えアデノウイルスは、心臓に形質導入され、心臓特異的カルシウムチャネル遮断薬に期待されるように、L型カルシウム電流の抑制と、これに伴う心臓の収縮性の低下が誘導された。実施例は、異常な心臓リズムおよび肥大のモデルにおいて、標的を定めたGem遺伝子移入の有用性を特に示す。
【0156】
本明細書に開示される全ての資料は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0157】
以下の限定しない実施例は、本発明を例示するものである。
【0158】
実施例1:モルモットの心室筋細胞におけるGemの過剰発現
モルモットの心室筋細胞において、Gemの過剰発現がL型カルシウム電流(ICa,L)を阻害することができるかどうかを知るために、実験が行なわれた。モルモットの心臓の左室(LV)腔にアデノウイルスが注入され、3日後に、LV細胞が単離された。Gemが過剰発現すると、対照細胞におけるピーク密度、10 mVにおいて4.7±0.5 pA/pF(n=11)から、Gem形質転換細胞では10 mVにおいて0.5±0.2 pA/pF(n=8)にICa,Lが劇的に減少した(図1a, b)。ICa,Lに対するGemの阻害効果は、βサブユニットを除去することによる、L型カルシウムチャネルのαおよびβサブユニットの間の相互作用の防止による。これに基づき、効果のより弱いW269G変異体が調べられた。W269G変異体の過剰発現は、ICa,Lを穏やかであるが有意に(対照に対して30%の阻害、10 mVで3.3±0.2pA/pF、n=10)低下させたが、これは通常のGemの細胞質ゾルの分布から、核への変異体Gemのトランスロケーションと一貫していた。Beguin, P. et al.上記を参照されたい。
【0159】
図1A〜Dは、以下にさらに詳しく説明される。
【0160】
図1A〜Dモルモットの心室筋細胞における心臓L型カルシウム電流に対するGemの阻害効果を示す。(図1A)、対照、野生型Gem形質導入細胞、およびW269G変異体の形質導入細胞における代表的なL型カルシウム電流。(図1B)、対照、野生型Gem形質導入、およびW269G変異体形質導入細胞における、L型カルシウム電流の電流・電圧の関係。L型カルシウム電流密度は、対照細胞(○、n=11)と比較して野生型Gem形質導入細胞(▲、n=8)で有意に低下したが、W269G変異体(■、n=10)はわずかな効果を示した。(図1C)、対照、野生型Gem形質導入、およびW269G変異体形質導入細胞における、カルシウムチャネルゲート電流の代表的な記録。(図1D)、対照、野生型Gem形質導入、およびW269G変異体形質導入細胞における、カルシウムチャネルゲート電荷のプールされたデータ。Q対Vのデータは、以下の等式Q=Qmax/[1 + exp(V-V1/2)/k]を用いてボルツマン分布に適合したが、ここでV1/2は最大電位の半分、kは傾斜因子である。カルシウムチャネルゲート電荷は、対照細胞と比較して、野生型Gem形質導入細胞では有意に低下していたが、W269G変異体形質導入細胞では回復していた。
【0161】
次に、Gemの過剰発現によるICa,L抑制の機序が調べられた。機能的なチャネル数が低下していると予測された。これは、Gemがカルシウムチャネルのβサブユニットと結合し、αサブユニットの形質膜への輸送を阻害するという所見と一貫している。Beguin, Pl. et al.、上記を参照されたい。チャネル数を評価するために、L型カルシウムチャネルに起因するゲート電荷を測定し、L型チャネル遮断薬である10μmol/Lのニトレンジピンを用いてカルシウムチャネル特異的成分を単離した。Bolger, G.T. et al. Biochem Biophys Res Commun 104, 1604-9 (1982);およびBean, B.P. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81, 6388-92 (1984)を参照されたい。Gemを過剰発現すると、対照と比較したニトレンジピン感受性ゲート電流が著しく低下した(図1c, d)。脱分極時のゲート電流は、脱分極時の電荷の動きを計算するために積分された(Qon)。対照Qonは、Gem形質導入筋細胞よりも有意に大きかった(+30 mVで2.2±0.2 fC/pF, n=6 対 +30 mVで0.67±0.1 fC/pF, n=6, P=0.001)。対照におけるV1/2=0.5 mV, k=13.3 mVおよびGem形質導入細胞におけるV1/2=-0.3 mV, k=9.8 mVという平均のデータセットに対するボルツマン分布の同時適合で示されるように、Qonの電圧依存性は、対照およびGem形質導入細胞で同等だった。W269G変異体は、これらのパラメータにわずかな影響しか与えなかった(+30 mVで1.8±0.1 fC/pF, V1/2=5.5 mV, k=15.5 mV, n=6)。これらの結果は、Gem形質導入細胞では対照細胞と比較して、細胞膜における機能的カルシウムチャネルの数が、実際に低下していることを示す。ただし、表面に存在するチャネルは、正常なゲート特性を持っていると考えられる。
【0162】
心室筋細胞における活動電位に対するGem過剰発現の影響が調べられた。Gemが過剰発現すると、静止膜電位(-84.6±0.4 mV対-84.9±0.4 mV)または1相脱分極は変化することなく、活動電位持続時間(APD)が短縮する(図2A〜C)。APD50およびAPD90の両方が、対照細胞と比較してGem形質導入細胞では有意に短縮したが、W269G変異体の過剰発現はほとんど影響がなかった(図2A〜D)。特に、Gem形質導入筋細胞では、強いプラトー相が鈍くなった。活動電位の修飾は、ICa,Lが低下するといっそう顕著になった。ニトレンジピン感受性イオン電流として計算されるICa,L密度と、APD90の間には明らかな相関があった;いずれも、Gem形質導入筋細胞では対照細胞と比較して低下していた(n=21, r=0.87, P<0.0001)(図2E)。
【0163】
図2A〜Eは、以下にさらに詳細に説明される。
【0164】
図2A〜Eは、活動電位に対するGemの効果を示す。(図2A〜C)、対照(図2A)、野生型Gem形質導入細胞(図2B)、およびW269G変異体形質導入細胞(図2C)における代表的な活動電位。野生型Gem形質導入細胞における活動電位は短縮しており、強いプラトー相が欠如していた。(図2D)、対照、Gem形質導入、およびW269G変異体形質導入細胞における、活動電位持続時間のプールされたデータ。活動電位持続時間は、対照細胞(n=12)と比較して野生型Gem形質導入細胞(n=12)において有意に低下していたが、W269G変異体形質導入細胞では回復していた。(図2E)APD90およびL型カルシウム電流密度の間の高度に有意な相関(r=0.866、p<0.0001)。■、対照(ニトレンジピン−)、○、野生型Gem形質導入、▲、対照(ニトレンジピン+)。
【0165】
実施例2:心臓カルシウムチャネル遮断のインビボ表現型
LV腔注入法により、心臓での形質導入効率が15〜25%になったという報告がある。Miake, J. et al. J Clin Invest 111, 1529-36 (2003)。ウェスタンブロット解析(図3)で、全ての心室腔においてGemが過剰発現し、対照レベルと比較して、Gem形質導入動物では300±60%となったことが確認された(P=0.002)。心臓における内在性Gemの存在が観察された。
【0166】
無傷動物における電気生理学的表現型を評価するために、LV腔へのアデノウイルスの注入の3〜4日後に、心電図が測定された。対照動物と比較して、Gem形質導入動物では、QT間隔が短縮していた(例、図3, b)。Bean, B.P. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81, 6388-92 (1984)を参照されたい。単離されたGem形質導入心筋細胞における活動電位の記録と一致して、形質導入の3日後に測定されたEKGのQTc間隔は、術直後の同じ動物と比較して、Gem形質導入動物では短縮していた(165±3.5 ms対148±2.3 ms, n=9, P<0.05)。反対に、GFPのみ(165±3.3 ms対166±1.8 ms, n=6)またはW269G変異体(166±1.8 ms対163±1.1 ms, n=7)で形質導入された動物においては、QTc間隔の変化は観察されなかった。興味深いことに、Gem形質導入動物の1つで、PQ間隔の延長が観察されたが(中央パネル、図3, b)、これはAV結節におけるGemの特に強い発現によって誘導されたと考えられる。次の項では、心不整脈のモデルにおいて、AV結節が標的とされた。
【0167】
図3A〜Eは、以下にさらに詳細に説明されている。
【0168】
図3A〜Eは、モルモットの心臓へのGem形質導入による心カルシウムチャネル遮断のインビボ表現型を示す。(図3A)、各領域(RA, LA, RV, LV)における心臓組織のウェスタンブロットは、AdCIG-Gem形質導入動物におけるGemの過剰発現を示す。(図3B〜D)、対照(図3B)、Gem WT形質導入(図3C)、およびW269G変異体形質導入動物(図3D)のEKG記録。Gem WT形質導入動物では、対照動物およびW269G変異体形質導入動物と比較して、QT間隔は短縮しており、PQ間隔は延長していた。(図3E)、平方根法により計算されたQTc間隔のプールされたデータ。野生型Gem形質導入動物では、術直後と比較して遺伝子送達の3日後には、QTc間隔は有意に短縮していたが、対照およびW269G変異体形質導入動物では変化がなかった。
【0169】
実施例3:Gem遺伝子移入によるAV結節伝導の限局的修飾
心房細動は、速い心拍数が息切れおよび運動耐性の低下を引き起こす、心律動の異常である。カルシウムチャネル遮断によるAV結節伝導の阻害は、薬物治療の基幹であるが、そのような治療はAV結節外でのカルシウムチャネル遮断に起因する副作用を伴う。
【0170】
ブタにおけるアデノウイルス遺伝子送達の冠動脈内潅流モデルが報告されている。これは、阻害性G蛋白質、Gαi2の過剰発現により、AV結節伝導の修飾に成功したものである。Donahue,J.K. et al. Nat Med 6, 1395-8 (2000)を参照されたい。AV結節におけるGemの過剰発現は、同様にAV結節伝導を遅延し、心房細動における速度コントロールに有用であろう。同じブタモデルにおける遺伝子移入の7日後に、Gem形質導入動物では、表面EKGにおいてPR間隔の延長、および心内心電図においてAH間隔の延長(ただしHV間隔は延長しない)を示し、AV結節の伝導の遅延が確認された(図4、c-e)。心房細動の急性エピソードにおいては(図4,a)、AV結節におけるGemの過剰発現は、心房細動時の心室拍動数の20%低下を引き起こした(図4, f)。この効果は、βアドレナリン刺激およびコリン作動性阻害の状況下で継続した(図4, g)。したがって、AV結節へのGem遺伝子移入により誘導された限局的カルシウムチャネル遮断は、心房細動において、心拍数を効果的に低下させる。
【0171】
図4A〜Gは、以下にさらに詳細に説明される。
【0172】
図4A〜Gは、Gem遺伝子移入によるAV結節伝導の限局的修飾を示す。(図4A)Gemの遺伝子移入前の、洞調律および心房細動時の代表的なEKG記録を示す。スケールバー=200 ms。(図4B)Gemの遺伝子移入の7日後の、洞調律および心房細動時の代表的なEKG記録を示す。スケールバー=200 ms。(図4C)形質導入の前(0日)および7日後(7日)の、表面EKG上のPR間隔。*, 0日におけるPR間隔に対してp<0.05(n=4)。(図4D)形質導入の前(0日)および7日後(7日)の心内心電図のAH間隔。*, 0日のAH間隔に対してp<0.05(n=4)。(図4E)形質導入の前(0日)および7日後(7日)の心内心電図のHV間隔。(図4F)形質導入の前(0日)および7日後(7日)の洞調律および心房細動時の心拍数。*, 0日の心拍数に対してp<0.05(n=4)。(図4G)形質導入の前(0日)および7日後(7日)の、イソプロテレノール(ISP)またはアトロピンにより刺激した心房細動時の心拍数。*, 0日の心拍数に対してp<0.05(n=4)。
【0173】
実施例4:Gem過剰発現による心肥大の減少
心臓の過度の過剰成長は、異常な心室機能および致死的な不整脈を引き起こす。L型カルシウムチャネルを通したカルシウムの流入は、インビトロで筋細胞の肥大に影響を与える。例えば、いくつかの臨床試験において肥大の退縮を誘導するためのカルシウムチャネル遮断薬の有効性を説明するLubic, S.P et al. J Mol Cell Cardiol 27, 917-25 (1995)を参照されたい。また、Arita, M. et al. Jpn Circ J 54, 575-80 (1990); およびSmith, V.E. et al. J Am Coll Cardiol 8, 1449-54 (1986)も参照されたい。
【0174】
L型カルシウムチャネルの慢性的遮断は、自然発症高血圧ラットにおいて、カルシニューリンの活性化および心肥大の発生を抑制することが報告されている。Zou, Y. et al. Hypertens Res 25, 117-24 (2002)を参照されたい。それでも、カルシウムチャネル遮断薬が、心臓への直接の効果によって心肥大を抑制する能力が、研究されている。Manolis, A.J. et al. Am J Hypertens 11, 640-8 (1998); およびIto, H. et al. Circ Res 69, 209-215 (1991)を参照されたい。上述のように、多くのカルシウムチャネル遮断薬が、体の他の部分に影響を与える(例、血圧を低下させる)。この問題に対処するために、アデノウイルスを介したインビボ遺伝子送達系を用いたGemの広範な心臓特異的過剰発現が実施され、マウスにおいて60%の形質導入効率が得られた。心臓への野生型Gemの形質導入を行なうと、何匹かのマウスは死亡した。この結果は、形質導入効率が高すぎ、かつ大部分の心臓細胞でカルシウム流入が強く遮断された場合に、予測された。したがって、カルシウムチャネル遮断がGem WTよりも弱いW269G変異体が代わりに使用された。
【0175】
W269G発現が、圧負荷に誘導される心肥大を減少させるかどうかを試験するために、W269Gまたはβガラクトシダーゼのいずれかを投与したマウスにおいて胸部大動脈を外科的に収縮させたが(TAC)、いずれの介入においても、擬似手術を行なった対照も用いた。TACの7日後に、擬似手術群と比較したβ-gal-TACでは、心臓重量と脛骨長の比(HW/TL)の上昇で評価された、心肥大は明らかだった。興味深いことに、W269Gが過剰発現すると、β-gal-TAC群に比較してHW/TLの上昇が減少した(図5A)。W269Gが筋細胞のサイズの調節によって心臓のサイズを変化させるかどうかを調べるために、1週間大動脈バンディングを行なったマウスから得られた心臓において、LV心筋の筋細胞断面積を測定した。心臓重量データを補強するように、組織学的解析で、TACの心筋細胞断面積の上昇が観察されたが、これはβ-gal-TACと比較するとW269G-TACでは大きく減少していた(図5B)。
【0176】
左室圧容量測定では、収縮期機能の拡大およびLV容積の低下を伴う心肥大の特徴的な機能異常が観察されたが、これらの変化は、擬似手術よりもβ-gal-TACで重症度が高かった(図5C〜F)。変異体Gemが発現するとβ-gal-TAC対照と比較して収縮期機能の様々な指標が低下したが、これらの2群の間には拡張期機能には有意な差はなかった(図6)。
【0177】
さらに、肥大した心臓に不整脈を起こしやすくする重要な病的過程である心線維症の発生を、W269Gが減少させるかどうかが評価された。コラーゲンの組織学染色では、β-gal-TAC群に広範囲の繊維化が観察された(擬似手術群では観察されなかった)。そのような線維症の程度は、β-gal-TACと比較して、W269G-TACでははるかに低下していた(図5G);同様に、コラーゲンの沈着を測定するヒドロキシプロリンの取り込みも低下していた(図5H)。これらを合わせると、これらのデータはW269Gの心臓特異的発現は筋細胞および臓器の肥大を減少させ、心室機能を回復させ、さらに病的な圧負荷時の線維症を抑制することを示す。
【0178】
図5A〜Hは、以下にさらに詳細に説明されている。
【0179】
図5A〜Gは、W269G変異体の過剰発現による、心肥大の進行の減少を示す。(図5A)擬似手術(n=10)、β-gal-TAC(n=7)、およびW269G-TAC(n=7)の7日後のHW/TL。(図5B)擬似手術、β-gal-TAC、およびW269G-TACの手術を受けた心臓(各群n=4)における筋細胞断面積の測定。(図5C〜F)代表的なWT-擬似手術、β-gal-Tac、W269G-擬似手術、およびW269G変異体-TACマウスの圧容量ループ。(図5G)擬似手術、β-gal-TAC、およびW269G変異体-TAC心臓から得られた代表的なトリクローム染色切片。(図5H)擬似手術、β-gal-TAC、およびW269G変異体-TAC群(各群n=5)におけるヒドロキシプロリンのプールされたデータ。*, 擬似手術群に対してp<0.01、#, β-gal-TAC群に対してp<0.05。
【0180】
実施例に概説された操作には、必要に応じて以下の材料および方法が使用された。
【0181】
A. プラスミドの作製およびアデノウイルスの調製
Gemの全長コード配列は、アデノウイルスシャトルベクターpAdCIGのマルチクローニング部位にクローニングされ、pAdCIG-Gemが作製された。このコンストラクトは、サイトメガロウイルスプロモーターに制御され、緑色蛍光蛋白質(GFP)をレポーターとして持つ、バイシストロン性コンストラクトである(内部リボソーム進入部位を通して)。点変異W269Gは位置指定突然変異導入法によりGemに導入され、ベクターpAdCIG-Gem W269Gが作製された。アデノウイルスベクターの作製に関する詳細な方法は、記述されている。Hardy, S. et al. J Virol 71, 1842-9 (1997); Hoppe, U.C. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 5335-40 (2001); およびJohns, D.C. et al. J Neurosci 19, 1691-7 (1999)を参照されたい。
【0182】
コンストラクトの構造は、図7に模式的に示されている。
【0183】
モルモットの心臓へのインビボのアデノウイルス形質導入は、記述されているようにして行われた。Mazhari, R. et al. J Clin Invest 109, 1083-90 (2002)。アデノウイルス(160μl、約3 x 109プラーク形成単位(p.f.u.)に相当)は、大動脈および肺動脈を50〜60秒クランプしながら、モルモット(280〜340 g)のLV腔に注入された。
【0184】
B. 筋細胞の単離および電気生理学
遺伝子送達の72時間後に、酵素消化によりモルモットの左心室から筋細胞が単離された。Hoppe,U.C. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 5335-40 (2001)を参照されたい。膜電流と活動電位は、37℃で細胞全体のパッチクランプ技術を用いて記録された。小さな過分極化電圧段階に応答した非代償性静電容量電流が、細胞表面積の測定手段として、オフライン積分のために記録された。活動電位は、3秒ごとにかけられる短い脱分極電流パルス(2 ms, 100〜300 pA, 閾値より10〜15%高い)によって、開始された。形質導入細胞は、明らかな緑色蛍光によって認識された。
【0185】
ゲート電流を測定するために、2 mmol/L CdCl2および0.1 mmol/L LaCl3によって、イオン電流が遮断された。Colecraft, H.M. et al. J Physiol 541, 435-52 (2002)を参照されたい。漏電および容量性過渡電流は、-100 mV保持電位からP/-4プロトコールによって差し引かれた。電荷移動(Q)は、ベースラインとして定常状態レベルを用いて、各図形の曲線下面積を計算することにより定量した。
【0186】
対照とkir/gem形質導入動物における遺伝子送達の72時間後のECGパラメータの比較を示す表は、図8に示されている。
【0187】
C. 血行動態解析
マウス(トランスフェクションまたは擬似手術の7日後)に麻酔をかけ、挿管し、人工呼吸し、圧容量カテーテルによって調べた。Georgakopoulos, D. et al. J Physiol 534, 535-45 (2001)を参照されたい。1.8 Fのカテーテル(SPR-719,Millar, TX)を左室心尖部を通して縦軸に沿って設置し、圧容量ループを得るために刺激/解析システムに接続した。心機能の心拍数調節を評価するために、2Fのペーシングカテーテル(NuMed, Nicholville, NY)を食道に設置し、心房ペーシングを得た。Arita, M. et al. Jpn Circ J 54, 575-80 (1990)を参照されたい。If阻害剤ULFS-49(Boehringer Ingelheim; 15〜20 mg/kg-1, I.P.)を用いてまず自然洞調律が観察された。Georgakopoulos, D. et al. J Physiol 534, 535-45 (2001)を参照されたい。
【0188】
図9A〜Bは、血行動態に対するkir/gemの効果をまとめたグラフを示す。
【0189】
D. AV結節に対する限局的遺伝子移入
AV結節へのアデノウイルス遺伝子移入は、記述されるようにして行われた。Donahue,J.K. et al. Nat Med 6, 1395-8 (2000)を参照されたい。
【0190】
簡単に述べると、カテーテル挿入の直前に、ブタ(25〜30 kg)に25 mgシルデナフィルを経口投与した。無菌手術手技を用いて、右頚動脈、右内頚静脈、および右大腿静脈にアクセスし、各血管にイントロデューサーシースが挿入された。ベースラインEP試験の後、右大腿動脈経由で右冠動脈にカテーテルを挿入した。0.014インチのガイドワイヤでAV結節枝を選択し、ガイドワイヤの上から2.7 Fの潅流カテーテルをAV結節動脈まで挿入した。カテーテルを通して、以下の溶液が潅流された:3分間かけて5μg VEGF165および200μgニトログリセリンを含む10 mlの正常生理食塩水(NS)、30秒間かけて1.0 x 1010 p.f.u.アデノウイルスおよび20μgニトログリセリンを含む1 ml NS、および30秒間かけて2.0 ml NS。
【0191】
E. マウスの肥大実験
マウス心臓へのアデノウイルスの遺伝子移入は、以下のように実行された。簡単に述べると、胸部へ局所2%リドカインゲルを塗布し、横隔膜の約0.5 cm上部で右横切開を行い胸腔にアクセスした。次に麻酔マウスを18〜21℃の核心温度になるまで水ジャケットを用いて冷却した。左鎖骨下動脈の開始点の遠位部で大動脈をクランプした。下行大動脈および下大静脈の両方を9分間にわたりクロスクランプし、ウイルス(1 x 109 p.f.u./ml)を20μlのリポフェクタミンおよび1μg/kgのヒスタミンと共に右内頚静脈に注入した。大動脈クランプを外した後、必要ならば心臓サポートのためにイソプロテレノール(3〜10 ng/kg/min i.v.)および/または経食道ペーシング(NuMed, Hopkinton, NY)を使用し(Georgakopoulos,D. et al. J Physiol 534, 535-45 (2001))、30〜40分間かけてマウスを37℃に温めた。動物の胸部を閉鎖し、抜管した。続く解析は、トランスフェクションの3日後に行われた。トランスフェクション後、マウスを仰臥位にし、第1肋骨の上の胸膜外腔から進入して横行大動脈を単離した。27ゲージ針に対して横行大動脈の周囲に7-0ナイロン結紮縫合糸を縛り、65〜70%の狭窄を作製した。
【0192】
F. 統計解析
記載の全てのデータは、平均±SEMである。統計的有意差は、適切な場合は反復測定ANOVAおよび対応のあるスチューデントのt検定を用いて決定し、p<0.05ならば統計的有意差を示すとした。
【0193】
上述の考察および実施例は、心臓において遺伝的カルシウムチャネル遮断薬をどのようにして作製し、使用するかを示す。特に、Gem WTの過剰発現は、モルモットの心室筋細胞においてICa,Lを顕著に阻害し、APDの著しい短縮が誘導されたが、W269G変異体は、弱い効果しか示さなかった。さらに、Gem WTのインビトロ送達はQT間隔を短縮させ、これは単離された心筋細胞におけるAPDの短縮と一貫していた。Gem WTとGem変異体の間の効力の明確な差異を利用して、標的とした病的状態によって、いずれかの遺伝子が移入された。ICa,Lに対するGem WTの顕著な阻害効果は、200万人以上のアメリカ人が罹患する一般的な不整脈である心房細動の治療のために、AV結節伝導の遺伝的修飾に有効だった。AFが慢性になると、AV結節遮断薬を使用した心拍コントロールの達成のための治療が行われる。Wyse, D.G. et al. N Engl J Med 347, 1825-33 (2002)。ICa,LはAV結節における刺激伝導の基礎をなすものであるから、AF時の心拍コントロールにはカルシウムチャネル遮断薬が好ましいが、心臓の非AV結節カルシウムチャネルの遮断による収縮抑制、または非心臓チャネルの遮断による低血圧のために、しばしば忍容されない。実施例に示されるように、本発明者らはAV結節動脈を介したGem WTの遺伝子移入による、AV結節伝導の限局的修飾を達成した。得られた領域選択性ICa,L遮断は、心臓のポンプ腔におけるカルシウムチャネル機能を損なうことなく、AF時に心拍コントロールを行なうために有効である。
【0194】
本開示は、特定のGem変異型すなわち実施例に記述された変異体Gemの形質導入による、心臓のリモデリングおよび肥大を予防するためにも、本発明が使用できることを示す。細胞内Ca2+の変化は、心肥大およびそれに伴う心筋症の開始および進行と関連づけられてきた。Gem変異体の心臓特異的発現は、後負荷を減少させることなく、心肥大を減少させたが、これはGem変異体がインビボで心肥大に対して直接の効果を持つことを意味する。さらに、新生ラット心筋細胞を用いたインビトロ実験では、フェニレフリンによって誘導された肥大の進行をGemの過剰発現が抑制したことが示された。
【0195】
本開示はさらに、本発明が心臓の収縮性の調節に使用できることを示す。血行動態試験では、擬似手術を行なったマウスと比較して、変異Gemの形質導入心臓では、わずかな負の変力性の傾向が見られることが示された(図6)。さらに、モルモット心臓におけるGem WTの過剰発現は、かなりの負の変力効果を引き起こし、これはGem(WTまたは変異体)の遺伝子移入が、心臓の収縮性の低下に有用であることを示している。全体のポンプ効果を改善する手段として、心肥大における収縮活性を低下させるために、負の変力薬は、肥大性閉塞性心筋症(HOCM)の患者の第1選択薬である(Spirito, P. et al. N Engl J Med 336, 775-85 (1997))。この考えに従って、重症HOCMの治療手段として、医原性心筋梗塞が開発された。Nielsen,C.D. et a. Cardiol Rev 10, 108-18 (2002). Sigwart, U. Lancet 346, 211-4 (1995). Chang, S.M. et al. J Am Coll Cariol 42, 296-300 (2003)。しかし、この過激な破壊的治療の有用性は、特定の状況に限定されている。本発明は、心筋が生きて興奮可能なままで、局所的に非活動的にされるという点で、魅力的な代替手段を提供する。
【0196】
本発明は特定の方法および態様に関して記述されてきたが、本発明を逸脱することなく、様々な修飾および変更が可能なことは明らかだろう。本明細書に開示される全ての文書は、参照として本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】A〜Dはモルモットの心室筋細胞における心臓L型カルシウム電流に対するGemの阻害効果を示すグラフである。
【図2】A〜Eは活動電位に対するGemの効果を示すグラフである。
【図3】モルモットの心臓に形質導入されたGemによる心臓カルシウムチャネルの遮断のインビボ表現型を示す、Aは代表的なゲル、B〜Eはグラフである。
【図4】A〜GはGem遺伝子移入によるAV結節伝導の限局的修飾を示すグラフである。
【図5】W269G変異体の過剰発現による心肥大の進行の減衰を示す、A〜F, Hはグラフで、Gは写真である。
【図6】擬似手術またはTAC後のβ-GalおよびW269G形質導入マウスの左心室機能を示す表である。
【図7】本発明の特定の組み換えアデノウイルスコンストラクトを示す模式図である。
【図8】対照およびkir/gem形質導入動物における、遺伝子送達の72時間後のECGパラメータの比較を示す表である。
【図9】A〜Bは血行動態に対するkir/gemの効果をまとめたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類の組織または臓器のあらかじめ決められた領域において、カルシウムチャネルの活性を調節するための方法であって、
a) 領域内でGEM蛋白質または変異型を発現するために充分な条件下で、GEM蛋白質またはその変異型をコードする核酸を領域に接触させる段階;および
b) カルシウムチャネルの活性を調節するために充分なレベルで、GEM蛋白質または変異型を発現する段階、
を含む方法。
【請求項2】
組織または臓器の領域が、特定の生物学的機能に関連している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
組織または臓器の領域が、特定の解剖学的呼称を持つ、請求項1または2のいずれか一項記載の方法。
【請求項4】
あらかじめ決められた領域が心臓、中枢神経系(CNS)、または血管系の中にある、請求項1記載の方法。
【請求項5】
あらかじめ決められた領域が心筋または平滑筋を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
標準的な電気生理学的測定によって決定されるL型カルシウム電流(ICa,L)を、少なくとも約10%阻害する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
L型カルシウムチャネルの数を少なくとも約10%低下させる段階をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの血管透過剤を哺乳類に投与する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
血管透過剤が、方法の段階a)の前に投与される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
血管透過剤が、方法の段階a)の後に投与される、請求項1または9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
血管透過剤が、約0.5 ml/minから約100 ml/minの間の速度で、組織または臓器領域に潅流される、請求項8記載の方法。
【請求項12】
血管透過剤が、約10秒間から約5時間の間、領域に潅流される、請求項10記載の方法。
【請求項13】
血管透過剤が、カルシウム塩が約500 mM未満である溶液を含む、請求項8記載の方法。
【請求項14】
血管透過剤が、カルシウム塩が約100 mM未満である溶液を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
方法が、段階a)の前に、組織または臓器領域にVEGF165およびニトログリセリンのうちの少なくとも1つを投与する段階を含む、請求項8記載の方法。
【請求項16】
核酸がGem蛋白質または変異型をコードする組み換え動物ウイルスであって、かつ、方法が哺乳類に組み換え動物ウイルスを約107から約1012プラーク形成単位(p.f.u.)の間で投与する段階をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
方法が、段階a)の後に、組織または臓器領域にVEGF165およびニトログリセリンのうちの少なくとも1つを投与する段階をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項18】
方法が、少なくとも1つの標準的カルシウムチャネル遮断薬を哺乳類に投与する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
標準的カルシウムチャネル遮断薬が、方法の段階(a)の前、間、または後に投与される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
組み換え動物ウイルスがDNAウイルスである、請求項1記載の方法。
【請求項21】
DNAウイルスが組み換えアデノウイルスである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
組み換えアデノウイルスが、機能的に連結した成分として、i) GEM蛋白質またはその変異型をコードする配列;ii) リコンビナーゼを用いた部位特異的DNA組み換えを促進するように適応させた少なくとも1つの核酸配列、およびiii) 必須のアデノウイルス機能を提供する少なくとも1つの核酸配列、を含む核酸配列を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
リコンビナーゼがCreまたはFlpである、請求項22記載の方法。
【請求項24】
組み換えアデノウイルスが、機能的に連結した成分として以下の核酸配列:i) 第1の逆方向末端反復配列(ITR)、ii) 第1のlox P部位、iii) アデノウイルスパッケージング配列(ψ)、iv) 強いウイルスプロモーター、v) GEM蛋白質または変異型をコードする配列、v) ポリアデニル化シグナル(An)、vi) 第2のlox P部位、およびvii) 第2の逆方向反復配列(ITR)、をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項25】
組み換えアデノウイルスが、内部リボソーム進入部位(IRES)をさらに含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
組み換えアデノウイルスが、少なくとも1つのアデノウイルス初期遺伝子(E2およびE4)またはその機能的断片をさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
組み換えアデノウイルスが、選択マーカーをコードする配列をさらに含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
選択可能マーカーが、蛍光、リン光、または化学発光蛋白質をコードするインフレーム融合である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
組み換えアデノウイルスが、以下の機能的に連結した成分:i) 第1の逆方向末端反復配列(ITR)、ii) 第1のlox P部位、iii) パッケージング部位(ψ)、iv) サイトメガロウイルスプロモーター、v) GEM蛋白質または変異型をコードする配列、vi) 内部リボソーム進入部位(IRES)、vii) ポリアデニル化シグナル(An)、viii) 第2のlox P部位、ix) アデノウイルス初期領域2および初期領域4遺伝子をコードする配列、およびx) 第2の逆方向反復配列(ITR)、をこの順でさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項30】
組み換えアデノウイルスが、約35キロ塩基から約40キロ塩基の間の分子量を持つ、請求項29記載の方法。
【請求項31】
組み換えアデノウイルスが、約108から1012 p.f.u.の間の力価で、哺乳類に投与される、請求項21記載の方法。
【請求項32】
組み換え動物ウイルスによってコードされるGEM蛋白質または変異型の発現が、接触の少なくとも約12時間後から、標準的なGem蛋白質検出アッセイによる決定により、領域において検出できる、請求項1記載の方法。
【請求項33】
GEM蛋白質または変異型の発現が、ウイルスとの接触の少なくとも約24時間後から、標準的な電気生理アッセイにより決定されるL型カルシウムチャネルの活性を調節するために充分である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
GEM蛋白質または変異型の発現が、ウイルスとの接触の少なくとも約24時間後から約1ヶ月後までの間、標準的な電気生理アッセイにより決定されるL型カルシウムチャネルの活性を調節するために充分である、請求項32記載の方法。
【請求項35】
組み換え動物ウイルスによってコードされるGEM蛋白質が、SEQ ID NO: 1として示されるヒトGEM蛋白質配列と同一である、請求項1記載の方法。
【請求項36】
組み換え動物ウイルスによってコードされるGEM変異型が、SEQ ID NO: 1として示される蛋白質配列と少なくとも70%同一である、請求項1記載の方法。
【請求項37】
組み換え動物ウイルスによってコードされるGEM変異型が、約1から約100アミノ酸の間のC末端またはN末端の欠失を持つ、請求項36記載の方法。
【請求項38】
標準的なカルモジュリン結合測定で決定される、カルモジュリンに対するGEM変異型の親和性が、少なくとも約50%低下している、請求項37記載の方法。
【請求項39】
組み換えウイルスによってコードされる変異型が、SEQ ID NO: 1として示される蛋白質配列から、単一アミノ酸の変異を持つ、請求項38記載の方法。
【請求項40】
単一アミノ酸変異が、GEM蛋白質配列の269(W269G)の位置である、請求項19記載の方法。
【請求項41】
あらかじめ決められた領域が、心臓の心室または心房内にある、請求項1記載の方法。
【請求項42】
あらかじめ決められた領域が、さらに房室(AV)結節、洞房(SA)結節、またはプルキンエ線維(ヒス束)としてさらに定義される、請求項41記載の方法。
【請求項43】
L型カルシウムチャネル活性が、AVおよびSA結節のうちの少なくとも1つにおいて低下し、さらにAPD50またはAPD90によって測定された活動電位持続時間(APD)が少なくとも約25%短縮する段階を含む、請求項40記載の方法。
【請求項44】
GEM蛋白質または変異型の発現レベルが、L型カルシウムチャネルの静止膜電位を検出可能なほど変化させるために充分ではない、請求項43記載の方法。
【請求項45】
GEM蛋白質または変異型の発現レベルが、2相の活動電位の脱分極を検出可能なほど変化させるために充分ではない、請求項43記載の方法。
【請求項46】
心房のあらかじめ決められた領域でL型カルシウムチャネル活性を低下させ、かつ、標準的な電気生理アッセイによって決定されるQT間隔が少なくとも約10%短縮させる段階をさらに含む、請求項41記載の方法。
【請求項47】
心房のあらかじめ決められた領域でL型カルシウムチャネル活性を低下させ、かつ、標準的な電気生理アッセイによって決定される心臓のPR間隔またはAH間隔のうち少なくとも1つを、少なくとも約10%延長させる段階をさらに含む、請求項41記載の方法。
【請求項48】
GEM蛋白質または変異型の発現レベルが、心臓のHV間隔を検出可能なほど延長するためには充分ではない、請求項47記載の方法。
【請求項49】
望ましくないカルシウムチャネル活性に伴う医学的状態を予防または治療する方法であって:
a) 組織または臓器のあらかじめ決められた領域に、その領域中でGEM蛋白質または変異型を発現するために充分な条件下で、GEM蛋白質またはその変異型をコードする核酸を接触させる段階、
b) カルシウムチャネルの活性を調節するために適当な条件下で、GEM蛋白質または変異型を発現する段階;および
c) 医学的状態を予防または治療するために充分にカルシウムチャネル活性を調節する段階、
を含む方法。
【請求項50】
医学的状態が、心機能の障害に関連している、請求項49記載の方法。
【請求項51】
房室(AV)結節または洞房(SA)結節のうちの少なくとも1つに、核酸を直接投与する段階をさらに含む、請求項49記載の方法。
【請求項52】
心機能の障害が、不整脈、細動、肥大性心筋症、または肥大性閉塞性心筋症である、請求項50記載の方法。
【請求項53】
心不整脈が心房細動である、請求項52記載の方法。
【請求項54】
組み換え動物ウイルスがGem変異型をコードし、かつ心機能の障害が1つまたは複数の心肥大である、請求項50記載の方法。
【請求項55】
組み換え動物ウイルスがGem変異型をコードし、かつ心機能の障害が、1つまたは複数の心肥大、線維症である、請求項50記載の方法。
【請求項56】
組み換え動物ウイルスがGem変異型をコードし、かつ心機能の障害が、1つまたは複数の心臓リモデリングである、請求項50記載の方法。
【請求項57】
コードされているGem変異型が野生型Gem蛋白質の269の位置における変異を含む、請求項54〜56のいずれか一項記載の方法。
【請求項58】
Gem変異型がW269G変異を含む、請求項57記載の方法。
【請求項59】
少なくとも1つのカルシウムチャネル遮断薬の投与をさらに含む、請求項49記載の方法。
【請求項60】
カルシウムチャネル遮断薬の投与が、方法の段階(a)の前または後である、請求項59記載の方法。
【請求項61】
標準的なAV結節遮断薬の投与をさらに含む、請求項49記載の方法。
【請求項62】
核酸が、Gem蛋白質または変異型をコードする組み換え動物ウイルスである、請求項49記載の方法。
【請求項63】
哺乳類の組織または臓器のあらかじめ決められた領域におけるL型カルシウムチャネルの活性を調節するための治療システムまたはキットであって、
(a) 哺乳類のGem蛋白質または変異型をコードする核酸を含む組成物、
(b) 少なくとも1つの透過剤;および任意で
(c) 哺乳類の組織または臓器のあらかじめ決められた領域に、組成物および透過剤を投与するために適応させた用具、
を含むシステム。
【請求項64】
核酸配列が、機能的に連結された成分として:i) 哺乳類GEM蛋白質またはその変異型をコードする配列;ii) 部位特異的DNA組み換えを促進するために適応させた少なくとも1つの核酸配列;およびiii) 必須のアデノウイルス機能を提供する少なくとも1つの核酸配列、を含む組み換え動物ウイルスの一部である、請求項63記載の方法。
【請求項65】
用具が注射針、ステント、またはポンプに機能的に連結されたカテーテル器具である、請求項63記載の治療システム。
【請求項66】
組成物が生理的に許容できるキャリアをさらに含む、請求項63記載の治療システム。
【請求項67】
透過剤が、セロトニン、ブラジキニン、血小板活性化因子、プロスタグランジンE1、ヒスタミン、血管内皮成長因子(VEGF)、zona occludens毒素、インターロイキン2、血漿キニン;またはその機能的断片のうちの1つである、請求項63記載の治療システム。
【請求項68】
透過剤が、VEGF165およびニトログリセリンのうちの少なくとも1つである、請求項63記載の治療システム。
【請求項69】
透過剤が、L-N-モノメチルアルギニン、L-N-ニトロアルギニンメチルエステル、または8-Br-cGMPである、請求項63記載の治療システム。
【請求項70】
透過剤が血管拡張剤である、請求項63記載の治療システム。
【請求項71】
血管拡張剤が、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシンII受容体アンタゴニスト、ニトロ血管拡張剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、直接の血管拡張剤、アドレナリン作動性受容体アンタゴニスト、カルシウムチャネル遮断薬、または交感神経作用薬である、請求項70記載の治療システム。
【請求項72】
ニトロ血管拡張剤がニトログリセリンである、請求項70記載の治療システム。
【請求項73】
(a)および(b)の片方または両方が、生理的に許容できるキャリアをさらに含む、請求項62記載の治療システム。
【請求項74】
血管透過剤が、約500μmol/L未満のカルシウム塩を含む溶液である、請求項63記載の治療システム。
【請求項75】
血管透過剤が、約100μmol/L未満のカルシウム塩を含む溶液である、請求項74記載の治療システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図5H】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−508073(P2006−508073A)
【公表日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542064(P2004−542064)
【出願日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【国際出願番号】PCT/US2003/031274
【国際公開番号】WO2004/030630
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(398076227)ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー (35)
【Fターム(参考)】