説明

除振装置

【課題】(1)地動外乱に対する除振性能・・・床振動に対する振動絶縁(2)直動外乱に対する制振性能・・・ステージ移動の駆動反力による揺れ抑制上記(1)の除振性能を高いレベルに維持したままで、(2)の制振性能に大幅な改善を図ることのできる除振装置を提供する。
【解決手段】定常時に気体を流し続ける状態で駆動される気体ばねを用いて、この気体ばね内部から気体の供給側と排気側に通ずる流路の流路抵抗だけに依存して決まる剛性をKd1、前記流路を含むすべての流路を遮断した場合に決まる剛性をKd2として、前記剛性が前記剛性Kd1から前記剛性Kd2に移り変わる周波数領域を動剛性遷移領域としたとき、この動剛性遷移領域、あるいはこの動剛性遷移領域よりも低い周波数領域に、前記気体ばねの前記剛性と負荷質量で決まる共振周波数を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体製造装置、精密計測装置などの精密機器の設置に用いられる除振装置等に関し、それらの除振対象物を支持した気体ばねの内圧を制御することによって、振動を低減する振動制御分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
1.世の中のトレンド・・・商品側からの要請
半導体製造プロセス、液晶製造プロセス、精密機械加工などの様々な分野で、微細な振動を遮断・抑制するための振動制御の利用が広がっている。これらのプロセスで用いられる走査型電子顕微鏡、半導体露光装置(ステッパ)などの微細加工・検査装置は、装置の性能を保障するための厳しい振動許容条件が要求される。今後、製品のさらなる高集積化・微細化と共に、加工プロセスの高速化と装置の大型化が進み、振動許容条件はますます厳しくなる傾向にある。
【0003】
2.除振装置が除去すべき外乱
除振装置において除去すべき外乱は、設置床の振動に起因する地動外乱と、除振台の上に入力される直動外乱に大別される。
地動外乱となる振動の発生源として、歩行振動と呼ばれる人の移動によるものは1〜3Hz、エアコンなどのモータによるものは6〜35Hz、建築物の共振や地震などの揺れは0.1〜10Hz程度である。超高層・免振ビルでは0.2〜0.3Hz近傍に固有振動数を有する。また風揺れによって、建築物は0.1〜1.0Hzの微振動が発生する。したがって、除振台には、高周波の振動抑制だけではなく、低い周波数の振動を取り除くことも要求される。
直動外乱による振動の発生源として、除振台にたとえば位置決めステージが搭載されている場合、ステージの加減速運転によって、除振台を含めた構造物は打撃を受け、かつ駆動反力によって揺動する。この打撃による振動および駆動反力に起因した揺れを抑制しなければステージの性能を維持できない。
要約すれば、除振装置は地動外乱による「除振」に加えて、直動外乱による「制振」の両方を併せ持つ機能が要求される。
【0004】
3.アクチュエータの種類
アクティブ除振台の制御に用いられるアクチュエータは幾種類かあり、それぞれの特徴を要約すれば次のようである。リニアモータ(ボイスコイルモータ)は発生変位が大きいが、発熱が大きく、発生力が小さい点に課題がある。
ピエゾアクチュエータはコンパクトで応答性に優れるが、発生変位がせいぜい数十ミクロンと小さく、また長期にわたる耐久性に課題がある。超磁歪アクチュエータは、応答性に優れるが、発生変位もピエゾアクチュエータの2倍程度と小さく、リニアモータ同様に発熱と漏洩磁束に課題がある。
これらに対して、空気圧アクチュエータは上述した各アクチュータと比べて応答性は劣るが、ピストン外径と供給源圧力の選択により、発生力を容易に大きくできる長所を有する。またアクチュエータ自体がエアーの圧縮性により、床面からの振動を絶縁する効果(除振性能)を有する。また、空気ばね圧力を制御することで、直動外乱を制振制御することができる。すなわち、「除振」と「制振」の両方を併せ持つことができるという点が、他方式のアクチュエータには無い空気圧式の特徴である。
【0005】
4.アクティブ除振台の従来例
図31に、空気圧アクチュエータを用いた従来のアクティブ除振台のモデル図を示す。このアクティブ除振台は、特許文献1、特許文献2にも記載されているように公知のものである。床面100には、定盤101を支持するための複数組の空気圧アクチュエータ(102a、102b)が配置されている。この定盤101の上に精密装置(図示せず)が搭載される。空気圧アクチュエータ(以下、102aで説明する)は、垂直方向の荷重を支持するための、内部に高圧空気が充填された空気室103と、この空気室103の上部にダイヤフラム104を介して内挿されたピストン105から構成される。106、107a、107bは、定盤101の垂直・水平方向の加速度と、床面100に対する定盤101の相対変位をそれぞれ検出するための加速度センサ及び変位センサである。108は、床面100の加速度(基礎の振動状態)を検出する加速度センサである。これら各センサからの出力信号がそれぞれコントローラ109に入力される。空気室103には、配管110を介して、コントローラ109により制御されるサーボ弁111が接続されている。ノズル−フラッパ型の電空変換器であるサーボ弁111により、空気室103へ供給・排気される圧縮空気の流量を調整することで、空気室103の内圧が制御される。
空気圧アクチュエータは、前述した長所に加えて、定盤101のレベル調節が比較的容易にでき、流量絞り機構による振動減衰が調整可能で、質量変化による除振性能の変化が小さいなどの長所も合わせもっている。除振台が支持する装置の大型化のトレンドに伴い、空気圧アクチュエータの長所を生かした空気ばね式除振台が、超精密機器の微振動制御に広く用いられているようになっている。
【特許文献1】特開2006-283966号公報
【特許文献2】特開2007-155038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、半導体製造装置や検査装置に用いられる除振台に求められる性能は、製品の高集積化につれて益々高くなっている。例えば半導体分野では、既に65nmの線幅で大量生産が可能となっており、その製造装置であるステッパに用いられている空気ばねの固有振動数は2Hz以下である。しかし、さらなる高集積化と微細化のために、より固有振動数の小さい柔らかいばねの実現が求められている。空気圧アクチュエータの空気ばねを低剛性するため、空気室の容積を増大する、あるいはサブタンクを用いるなどの方策により、地動外乱に対する振動絶縁効果(除振性能)を向上させることができる。しかし、その結果、アクチュエータの応答性が低下するため、除振テーブル上に搭載されるステージ(図31の112)が質量移動することで発生する直動外乱に対して、振動抑制効果が低下してしまうという除振性能向上とは相矛盾する問題が生じる。この搭載ステージは生産性向上のために、近年益々大型化、高速化しており、除振台には一層俊敏な制振制御と位置制御の実現が求められている。
【0007】
周知のように、制御対象に対して、速度、加速度、圧力あるいは圧力微分フィードバック、フィードフォワード等の制御系の選定と工夫(シンセシス)により、装置の除振と制振の性能改善は可能である。たとえば、
(1)加速度フィードバック(図31の加速度センサ106を利用)を施せば、質量mの増加と等価となり、条件次第ではあるが、固有振動数を低下させ、共振ピークを低減させるなどの効果が得られる。
(2)定盤101直下に配置された地動加速度センサ(図31の108)からの信号を用いて、フィードフォワードを施せば、広い周波数領域で大幅な除振性能の改善ができる。
【0008】
図32は、空気圧アクチュエータを用いた除振装置の除振性能をモデル的に示すグラフである。図中のグラフa、b、cは比例変位フィードバックだけを施した場合であり、a、b、cの順で空気室の容積は小さく、共振周波数は高い。同図中のグラフa’、b’、c’は、上記a、b、cのアクチュエータに対して、制御系の選定により除振性能の改善を図ったものである。すなわち、比例変位フィードバックに加えて、加速度フィードバック(上記(1))と地動加速度フィードフォワード(上記(2))を施した場合を示す。より優れた制振性能を得るためにグラフaのアクチュエータを選べば、グラフa’に示すように、除振性能の改善効果には限界がある。逆に、より優れた除振性能を得るためにグラフc’の特性を選べば、空気室の容積が最も大きなグラフcのアクチュエータを選定せざるを得ず、制振性能には限界がある。要約すれば、制御系の選定と工夫を施した場合でも、地動外乱に対する除振性能(振動絶縁性能)と、直動外乱に対する制振性能はトレードオフの関係にあり、共に優れた性能を同時に実現することは従来、困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、従来、相矛盾する関係にあるとされた空気圧アクチュエータ式除振装置の下記基本性能、すなわち
(1)地動外乱に対する除振性能・・・床振動に対する振動絶縁
(2)動外乱に対する制振性能・・・ステージ移動の駆動反力による揺れ抑制
において、上記(1)の除振性能を高いレベルに維持したままで、(2)の制振性能に大幅な改善が図れる条件があることを、「気体ばね剛性が周波数に依存して変化する」という動剛性の概念を導入することで、初めて理論的に見出したものである。すなわち、アクチュエータ外径、供給源圧力、制御バルブ流量、アクチュエータ内部の空気室容積などを、従来アクチュエータで常識的とされた仕様にはとらわれない数値に設定し、かつ組み合わせることで、気体ばね剛性の絶対値と位相が周波数に依存して大きく変化する領域が存在することを、本発明者の鋭意検討によって明らかにしたものである。この周波数領域を、本発明では「動剛性遷移領域」と呼ぶことにする。
【0010】
しかして、請求項1の発明に係る除振装置は、定常時に気体を供給側から排気側に流し続ける状態で駆動される気体ばねにおいて、この気体ばね内部から前記供給側と前記排気側に通ずる流路の流路抵抗だけに依存して決まる剛性をKd1、前記流路を含むすべての流路を遮断した場合に決まる剛性をKd2として、前記剛性が前記剛性Kd1から前記剛性Kd2に移り変わる周波数領域を動剛性遷移領域としたとき、この動剛性遷移領域、あるいはこの動剛性遷移領域よりも低い周波数領域に、前記気体ばねの前記剛性と負荷質量で決まる共振周波数を設定したものである。
【0011】
すなわち、本発明においては、動剛性遷移領域という従来にない新たな概念を導入し、この動剛性遷移領域に着目したアクチュエータの構成により、気体ばねの動剛性を従来アクチュエータの剛性よりも低い値に設定することができ、柔らかいばねが実現できるとともに、動剛性遷移領域においては、前記柔らかい気体ばねの実現と、応答性の向上を図るための「パラメータ選択が同一方向」であり、従来のような相矛盾する関係では無く、除振性能を高いレベルに維持したままで、制振性能に大幅な改善を図ることができるようになる。
【0012】
さらに、動剛性遷移領域では動剛性の位相はプラスの方向に進むため、本来ならば質量とばねのインピーダンスで決まる共振条件が成立せず、共振ピークは大きく抑制される。
【0013】
請求項2の発明に係る除振装置は、除振対象物を基礎に対して支持する気体ばねと、気体を供給側から前記気体ばねに吸気してかつ排気側へ排気する流量制御バルブと、前記除振対象物の変位及び又は振動状態を検出するセンサと、このセンサからの情報に基づいて前記流量制御バルブを調節することで、前記除振対象物の振動を低減する気体圧力を前記気体ばねに与える制御手段から構成される除振装置において、前記除振装置と同一の圧力条件下での前記気体ばねの静剛性と共振周波数をk0及びf0 (Hz)、周波数f(Hz)の函数としての前記気体ばねの動剛性絶対値を│Kd(f)│、無次元動剛性の絶対値を│Kd0│=│Kd(f)│/k0としたとき、f=f0(Hz)における│K d0│<1に設定したものである。
【0014】
すなわち、本発明は、前記気体ばねの基本特性である前記静剛性k0、前記共振周波数f0 (Hz)、共振点における前記気体ばねの前記動剛性絶対値│Kd(f0)│を設定することで、本発明が成立する基本的条件を定義したものである。本発明を用いれば、除振器を構成する各要素の詳細パラメータと、圧力、流量等の動作状態を把握することなく、共振周波数が動剛性遷移領域、あるいはこの動剛性遷移領域よりも低い周波数領域に設定されていることを実験的方法でも検証できる。
【0015】
請求項3の発明に係る除振装置は、前記気体の気体定数をR[J/(Kg・K)], 比熱比をκ、円周率をπ、前記気体の平均温度をTc (K)、定常状態における前記気体ばね内部容積をVa(m3)、前記気体ばね内部から前記供給側と前記排気側に通ずる流路の流体抵抗をRa(Pa・s/Kg)、動剛性パラメータをγ=κRTc/(VaRa)、前記fと前記γの関数である無次元動剛性Kd0を複素数表示して以下の式(数2)として定義したものである。なお、数1と数2は同じ式である
【数2】

【0016】
本発明によって、理論的に見出された動剛性パラメータγと、このγと周波数fの関数である無次元動剛性Kd0が、本発明が有効に成立するアクチュエータの構成条件を決定する上で、また基本性能を把握する上で、明確な評価指数となる。除振装置において、空気ばね1セット分が受け持つ負荷質量が決まれば、除振装置の要求仕様をベストな条件で満足できる設計パラメータ、すなわち、アクチュエータ外径、供給源圧力、制御バルブ流量、アクチュエータ内部の空気室容積などの仕様を具体的かつ容易に選定できる。
【0017】
請求項4の発明に係る除振装置は、動剛性パラメータγが一定条件下において、変数fに対する変数│Kd0│のグラフ曲線部の接線と、│Kd0│=0及び│Kd0│=1で交わる周波数の値をそれぞれf1及びf2としたとき、f1<f0<f2となるように、除振装置の各パラメータを設定したものである。
【0018】
本発明においては、変数fに対する変数│Kd0│のグラフ曲線部の接線と、│Kd0│=0及び│Kd0│=1で交わる周波数の値をそれぞれf1及びf2として、動剛性遷移領域の下限値と上限値を定義している。その結果、本発明の成立条件を決める上で、特性曲線が│Kd0│→0及び│Kd0│→1に連続的に漸近するために生じる不透明さを払拭し、本発明が効果的に活かされる設計仕様を、明確かつ具体的に決定できる。すなわち、共振点f0を動剛性遷移領域の下限値f1以上に設定することで、空気ばねの供給流量などの具体仕様を、経済的側面から実用レベルの範囲に収めることができる。また、共振点f0を動剛性遷移領域の上限値f2以下に設定することで、本発明の性能面での効果をより確実に達成できる。
【0019】
請求項5の発明に係る除振装置は、f=f0の条件下において、変数γに対する変数│Kd0│のグラフ曲線部の接線と│Kd0│=1の交点の座標をγ=γ0、γ=γ0における│Kd0│=│K*d0│、空気ばねの動剛性パラメータの具体値をγa、空気ばねの無次元動剛性絶対値の具体値を│Kda│としたとき、γa>γ0、あるいは、│Kda│<│K*d0│として構成したものである。
【0020】
本発明においては、共振周波数f0が予め固定された場合に、変数γに対する変数│Kd0│のグラフ曲線部の接線と、│Kd0│=1で交わるγの値をγ=γ0として定義している。その結果、本発明の成立条件を決める上で、特性曲線が
│Kd0│→1に連続的に漸近するために生じる不透明さを払拭し、本発明が効果的に活かされる動剛性パラメータの下限値γ0を、明確かつ具体的に決定できる。
【0021】
また、γ=γ0が決まれば、γ=γ0における│Kd0│=│K*d0│の値も1対1で決まるために、無次元動剛性絶対値│K*d0│から本発明の成立条件を求めてもよい。
【0022】
請求項6の発明に係る除振装置は、γa>22、あるいは、│Kd0a│<0.91として構成したものである。
【0023】
アクチュエータを高圧で駆動する程、本発明を効果的に活かすことができるが、この場合、共振周波数f0はピストン径等に無関係にピストンの隙間xP0だけでほぼ決定される。ピストン隙間xP0は、性能面を重視するならば、xP0=1〜2mm、装置の軸方向高さ調整時の裕度などの実用面を重視するならば、xP0=6〜7mmが適切であるが、性能面と実用面の両面を満足する条件として、xP0=5mmを選択した場合、共振周波数f0=8.34Hzである。すなわち、γa>22、あるいは、│Kd0a│<0.91として構成すれば、性能面と実用面の両面を満足する除振器が実現できる。
【0024】
請求項7の発明に係る除振装置は、流量制御バルブの供給側の気体圧力をPS(Pa)、排気側の気体圧力をP0(Pa)、定常状態における流量制御バルブの供給側から排気側に流れる気体の質量流量をGS(Kg/s)としたとき、流体抵抗Ra=(PS+
P0)/(4GS)として求めたものである。
【0025】
本発明においては、除振装置の実施条件として分り易い気体圧力PSと質量流量GSだけから流体抵抗Raを近似的に求めることで、性能評価に必要な動剛性パラメータγの概略値を容易に推定できる。
【0026】
請求項8の発明に係る除振装置は、前記気体ばねの内部容積Va≦6.0×10-6m3として構成したものである。
【0027】
本発明においては、アクチュエータの立ち上がり時間を十分に小さくできる条件を、前記気体ばねの内部容積の許容される下限値から提示したものである。
ピストン変位xが目標位置x0の90%に到達する時間を立ち上がり時間Trとして定義する。Vaに対するTr曲線のグラフの変曲点に相当するVaの下限値を、近似した2つの直線の交点から求めることで、本発明の効果である高速応答性を活かせる条件を明確に定義できる。
【0028】
請求項9の発明に係る除振装置は、前記気体ばねのピストン外径DP≦39mmとして構成したものである。
【0029】
本発明においては、ピストン外径DPを上記範囲に選択することにより、性能面と実用面の両面を満足するピストン隙間の条件下で、アクチュエータの立ち上がり時間を十分に小さくできる。
【0030】
請求項10の発明に係る除振装置は、前記気体ばねよりも剛性が小さい補助アクチュエータが、前記気体ばねと並列に配置されており、かつ前記気体ばねが分担して支持する前記除振対象物の荷重は前記補助アクチュエータが支持する荷重よりも小さくなるように構成したものである。
【0031】
本発明においては、前述した気体ばねの優れた制振性能を失うことなく、さらに除振性能の向上が図れると共に、徐振器としてより高い負荷質量を支持できる。
【0032】
請求項11の発明に係る除振装置は、前記気体ばねが分担して支持する質量をΔm、前記気体ばねと前記補助アクチュエータ全体で支持する総質量をm0として、前記気体ばねの荷重分担率をξ=(Δm/ m0)×100として定義したとき、15%<ξ<50%の範囲に構成したものである。
【0033】
本発明においては、前記気体ばねの荷重分担率をξ>15%にすることで、荷重サポート式アクチュエータの過渡応答特性を劣化させないで、支持荷重の増大が図れる。また、ξ<50%の範囲で用いることで、マイクロアクチュエータを2台分用いた場合と比べて、経済的メリットを失わない。
【0034】
請求項12の発明に係る除振装置は、複数の前記気体ばねに対して、補助アクチュエータを共用化して配置したものである。
【0035】
本発明においては、複数のマイクロアクチュエータに対して、補助アクチュエータを共用化することで、除振装置全体の大幅な構造の簡素化と、コストダウンが図れる。
【0036】
請求項13の発明に係る除振装置は、除振対象物を基礎に対して支持する気体ばねと、気体を供給側から前記気体ばねに吸気してかつ排気側へ排気する流量制御バルブと、前記除振対象物の変位及び又は振動状態を検出するセンサと、このセンサからの情報に基づいて前記流量制御バルブを調節することで、前記除振対象物の振動を低減する気体圧力を前記気体ばねに与える制御手段から構成される除振装置において、前記除振対象物の荷重を前記気体ばねと分担して支持する補助アクチュエータが前記気体ばねと並列に配置されており、かつ前記補助アクチュエータはその内部の気体圧力が概略一定値を保つように、あるいは剛性が前記気体ばねよりも小さくなるように電子制御するように構成したものである。
【0037】
本発明においては、荷重サポート用アクチュエータの空気室の圧力が一定圧になるように、圧力センサからの情報を基に電子制御を施した。電子制御を施すことで、アクチュエータに加わる外乱による圧力変動だけではなく、空気供給源側の圧力脈動に対しても、俊敏に空気室の一定圧化制御ができる。
【0038】
請求項14の発明に係る除振装置は、荷重の同一支持点近傍に請求項1記載の空気ばねを複数個配置したものである。
【0039】
本発明においては、動剛性パラメータが大きくとれる空気ばね(マイクロアクチュエータ)を、同一の支持点近傍に複数個配置することで、制振性能(制御応答性)を劣化することなく支持荷重を増大することができる。
【0040】
請求項15の発明に係る除振装置は、変位、速度、加速度、圧力、圧力の微分を検出するセンサのいずれかを複数個の空気ばねで共用するように構成したものである。
【0041】
本発明においては、複数個の空気ばね(マイクロアクチュエータ)を同一の支持点近傍に配置することで、各アクチュエータに用いるセンサを共有化したものである。この構成により、除振装置の簡素化とコストダウンが図れる。
【0042】
請求項16の発明に係る除振装置は、請求項1記載の除振装置における気体ばねの下段に配置されて、前記気体ばねよりも内部容積の大きな補助アクチュエータから構成したものである。
【0043】
本発明においては、前述した気体ばねよりも剛性が低い補助アクチュエータを下段に備えることで、前述した気体ばねの優れた制振性能を十分に維持したままで、除振性能の一層の向上が図れる。
【0044】
請求項17の発明に係る除振装置は、流量制御バルブの供給側気体圧力をPS、排気側気体圧力をP0、定常状態における前記気体ばねの動作点圧力をPa、前記供給側気体圧力PSと前記排気側気体圧力P0で決まる中立点圧力をPm=(PS-
P0)/2としたとき、定常状態において、前記動作点圧力Paが前記中立点圧力Pmよりも供給側気体圧力PSに近い側に設定したものである。
【0045】
本発明においては、ピストン外径が小さくても、圧力容器規格で制約される最大供給源圧力PS=1MPaに近いところに、前記気体ばねの動作点圧力をPaを設定できるため、動剛性パラメータγを大きくとれて、優れた制振性能と除振性能を得ることができる。
【0046】
請求項18の発明に係る除振装置の設計方法は、定常時に気体を供給側から排気側に流し続ける状態で駆動される気体ばねを有した除振装置の設計方法であって、この気体ばね内部から前記供給側と前記排気側に通ずる流路の流路抵抗だけに依存して決まる剛性をKd1、前記流路を含むすべての流路を遮断した場合に決まる剛性をKd2として、前記剛性が前記剛性Kd1から前記剛性Kd2に移り変わる周波数領域を動剛性遷移領域としたとき、この動剛性遷移領域、あるいはこの動剛性遷移領域よりも低い周波数領域に、前記気体ばねの前記剛性と負荷質量で決まる共振周波数を設定することを特徴とする。
【0047】
本発明によれば、動剛性遷移領域という新たな概念を導入したことによって、除振性能を高いレベルに維持したままで制振性能が大幅に改善された除振装置を容易に設計、開発できるようになる。
【0048】
請求項19の発明に係る除振装置は、除振対象物を基礎に対して支持する気体ばねと、気体を供給側から前記気体ばねに吸気してかつ排気側へ排気する流量制御バルブと、前記除振対象物の変位及び又は振動状態を検出するセンサと、このセンサからの情報に基づいて前記流量制御バルブを調節することで、前記除振対象物の振動を低減する気体圧力を前記気体ばねに与える制御手段から構成される除振装置において、前記除振装置と同一の圧力条件下での前記気体ばねの静剛性と共振周波数をk0及びf0 (Hz)、周波数f(Hz)の函数としての前記気体ばねの動剛性をKd(f)、無次元動剛性をKd0=Kd(f)/k0としたとき、f=f0(Hz)におけるK d0の絶対値、もしくは、K d0の位相で、あるいはk0とKd(f)の絶対値、もしくは、Kd(f)の位相で、除振性能及び、又は制振性能を評価する方法を示すものである。
【0049】
本発明の評価方法により、たとえばK d0の絶対値│Kd0│がより0に近ければ、柔らかいばねとなり、K d0の位相φがより90度に近ければ、共振ピークが抑制されることが分かる。この方法により、本発明適用の活用レベルを明確に数値評価できる。この評価方法は、除振器を構成する各要素の詳細パラメータと、圧力、流量等の動作状態を把握することなく、また、除振器をブラックボックスとした場合でも適用できる。
【0050】
請求項20の発明に係る除振装置は、除振対象物を基礎に対して支持する気体ばねと、気体を供給側から前記気体ばねに吸気してかつ排気側へ排気する流量制御バルブと、前記除振対象物の変位及び又は振動状態を検出するセンサと、このセンサからの情報に基づいて前記流量制御バルブを調節することで、前記除振対象物の振動を低減する気体圧力を前記気体ばねに与える制御手段から構成される除振装置において、前記気体の気体定数をR[J/(Kg・K)], 比熱比をκ、前記気体の平均温度をTc (K)、定常状態における前記気体ばね内部容積をVa(m3)、前記気体ばね内部から前記供給側と前記排気側に通ずる流路の流体抵抗をRa(Pa・s/Kg)、動剛性パラメータをγ=κRTc/(VaRa)として定義したとき、前記動剛性パラメータγの値で、除振性能及び、又は制振性能を評価する方法を示すものである。
【0051】
本発明の評価方法により、本発明を適用した除振装置の制振性能・除振性能の目標値を実現するための具体仕様、すなわち、アクチュエータ外径、供給源圧力、制御バルブ流量、アクチュエータ内部の空気室容積などを、前記動剛性パラメータγの値で決定できる。
【発明の効果】
【0052】
本発明の適用により、優れた除振性能を維持したままで、高い制振性能が得られる精密除振装置が実現できる。すなわち、
(1)制振性能の向上・・・たとえば、除振台に搭載されるステージの大型化・高速化に伴い、高い周波数成分を含む加振力増大への対応が図れる。
(2)除振性能の向上・・・商品の高集積化と微細化のための、より柔らかいばねによる床振動絶縁性能の向上が図れる。上記(1)(2)を、共にベストな状態で両立できる除振台の要請に応えることができる。その効果は絶大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、本発明を次のステップで説明する。
[1] 本発明による精密除振台の原理と基本構成
[2] 本発明を応用した精密除振台のその他の実施例
【0054】
まず上記[1]について、[第1実施形態]を基に説明する
[第1実施形態]
1.本発明による精密除振台の基本構造
図1は、本発明の実施形態1に係るアクティブ精密除振台の一例を示すモデル図である。この精密除振台は、例えば、露光装置(ステッパ)などの半導体関連の製造装置、走査型電子顕微鏡、レーザ顕微鏡等の精密計測機器のように、性能を保障するための振動許容条件が極めて厳しい精密装置を対象に用いられる。すなわち、本実施形態の精密除振台は、床面1に設置された基礎ベース台2(基礎)と、その上面に配置された複数組(3a、3bのみを図示)の空気圧アクチュエータ(気体ばね)とを備え、これらの空気圧アクチュエータにより支持された定盤4の上に精密装置(図示せず)が搭載される。空気圧アクチュエータ(以下、3aで説明する)は、垂直方向の荷重を支持するための、内部に高圧空気が充填された空気室5と、この空気室の上部にダイヤフラム6を介して内挿されたピストン7から構成される。このピストン7が定盤4を支持する。なお通常アクティブ除振台は、6自由度の姿勢および振動を自在に操作するために、垂直Z方向以外に水平X方向とY方向を制御するためのアクチュエータも配置されるが、モデル図1では垂直方向を支持するアクチュエータのみを図示している。8、9a、9bは、定盤4の垂直・水平方向の加速度と、床面1に対する定盤4の相対変位をそれぞれ検出するための加速度センサ及び変位センサである。10は、床面1の加速度(基礎の振動状態)を検出する加速度センサである。これら各センサからの出力信号がそれぞれコントローラ11(制御手段)に入力される。空気室5には、配管12を介して、コントローラ11により制御されるサーボ弁13が接続されている。本実施例における、サーボ弁13(流量制御バルブ)は、図1に一例を示すようなノズル−フラッパ型の電空変換器を用いた。すなわち、電磁石14の励磁によってアーマチャアと一体のフラッパ15が揺動運動して、吸気側ノズル16とフラッパ15の開度、及び、排気側ノズル17とフラッパ15の開度を連続的に調節するように構成されている。
【0055】
例えば、図示の中立位置からフラッパ15が排気側ノズル17に寄る方向に揺動すれば、吸気側供給源18から空気室5への空気流量が増大して、空気室5の圧力が上昇する。逆に、フラッパ15の先端が吸気側ノズル16に寄る方向に揺動すれば、空気室5から排気側への空気流量が増大し、空気室5の圧力を低下させる。実施例のサーボ弁は、常時、空気を流通させながらフラッパ15の揺動角度の調節によって空気流量を制御する構造のため、応答性が極めて高く、微小な空気流量の制御が可能である。19は除振台に搭載された位置決めステージである。
【0056】
前述した空気室4、ダイヤフラム6、ピストン7、サーボ弁13などから構成される空気圧アクチュエータ3a、コントローラ11の各要素部品の基本構造、及び、これらの要素部品を組み合わせた精密除振システムは、一見して、公知のものである。しかし、本発明の除振装置の性能は従来例と比べて大きく異なる。以下、除振装置としての本発明の効果を、理論解析により明らかにする。
【0057】
2.空気圧アクチュエータの理論解析
2−1.基礎式
最初に、本発明による空気圧アクチュエータを対象にした理論解析結果の一例を、従来例との比較のもとで説明する。
【0058】
空気圧アクチュエータの出力変位x、速度u、空気室圧力Paは、下記に示す運動方程式(数3)、(数4)と、アクチュエータ空気室の熱力学的な平衡条件を示すエネルギ方程式(数5)を連立して解くことにより得られる。
【数3】

【数4】

【数5】

【0059】
上式、及び以下示す式(数6)〜(数9)において、APはピストン面積、Psは供給源圧力、P0は排気側圧力、ρsは供給源気体密度、mは質量、gは重力加速度、cは減衰係数、Vaは空気室容積、κは比熱比、Rは気体定数、Tsは供給源の気体温度、Taは空気室内部の気体温度である。
【0060】
供給源側から空気室に流入する気体の質量流量Gin、空気室から大気側へ流出する気体の質量流量Goutは次式(数6)、(数7)により得られる。
【数6】

【数7】

【0061】
気体流量を調節するサーボ弁は、ノズル−フラッパ型(図1の13)を用いる。a0はフラッパ弁の中立位置における開口面積、xcはアクチュエータを設置する床面の変位、x0はアクチュエータ変位の目標値、KPは比例変位フィードバック・ゲインである。アクチュエータ相対変位x-xcと、目標値x0との偏差をε=(x-xc)- x0としたとき、比例変位フィードバックを施すことで、ε→0になるように流量Gin、Goutが制御される。この偏差εは、変位センサ(図1の9b)から検出される。
【0062】
サーボ弁のノズルを通過する気体の質量流量は、圧縮性流体の等エントロピ流れにおけるノズルの式を用いる。供給源側から空気室に流入する気体の質量流量Ginを式(数8)、(数9)に示す。但し、式(数6)におけるQa(Ps,Pa)=Gin/ainである。
【0063】
空気室から大気側へ流出する気体の質量流量Goutは、式(数8)、(数9)において、Ps→ Pa、Pa→ P0、ρs→ρaとすればよい。
【数8】

但し、Pa/Ps<{2/(κ+1)}2/(κ-1) のときは
【数9】

【0064】
2−2.除振性能と過渡応答特性解析結果
表1に、本発明による空気圧アクチュエータの基本仕様を、従来式の空気圧アクチュエータと対比して示す。本発明と従来例との構造上の顕著な違いは、負荷質量(支持荷重)が同一であるにもかかわらず、アクチュエータの外径と隙間が極度に小さく、供給圧力が高いという点である。
【表1】

【0065】
図2に、本発明の実施例(A)の周波数に対する除振性能を従来例(B)と対比して示す。表1で記載した以外のパラメータの値は、空気の気体定数R=287[J/(Kg・K)]、比熱比κ=1.40、絶対温度Ts=Pa=288K、減衰係数c=150N・s/mである。実施例では、アクチュエータの作動気体に空気を用いたが、本発明では用途に応じてどのような種類のガスを用いてもよい。以下、いずれもアクチュエータの制御方法は、比例変位フィードバックだけを施した場合である。ここで除振性能とは、アクチュエータ出力変位xに対する、アクチュエータの設置床面に加わる地動外乱変位xCの比(=x/xC)である。従来例が、f=5〜8Hzの範囲で鋭敏な共振ピーク(最大+25dB)を有するのに対して、本発明の場合は同周波数領域でなだらかな凸面(+3dB程度)を有する。f>10Hzにおける除振性能は、両者に大きな違いはみられない。
【0066】
図3に、本発明の実施例(A)の過渡応答特性を従来例と対比して示す。時間t=2.5sで、目標変位をx0=2.0→2.5mmに変化させた場合である。従来例(B)が、目標変位に到達するのに3.5秒程の時間を有するのに対して、本発明の整定時間は0.5秒(従来例の1/6)である。
【0067】
図4は、本発明の実施例(A)の周波数応答特性を従来例(B)と対比して示したもので、図3で示した、本発明(A)の優れた過渡応答特性を裏付けるものである。周波数応答特性とは、各周波数におけるアクチュエータ(ピストン)出力変位x に対する目標入力変位x0の比(=x/ x0)である。同図において、従来例(B)がf=0.1Hz近傍から降下を始めるのに対して、本発明では、f=1.0Hz近傍までフラットである。本発明は、従来例に対して全周波数領域で10〜20dB程応答性が高い。以上、要約すれば、本発明の実施例の除振装置は、除振性能を従来品とほぼ同一に維持したままで、過渡応答特性を従来品に対して1/6に低減することができる。この過渡応答特性(周波数応答特性)が、直動外乱に対する制振性能の高さを示している。
【0068】
2−3.流量が除振性能と過渡応答特性に与える影響
表1の仕様において、本発明の実施例(A)と従来例(B)ではバルブ流量が異なっている。そこで、バルブ流量が除振性能と過渡応答特性に与える影響について、本発明の実施例(A)と従来例(B)の対比の基で考察する。表1の仕様で、バルブ流量だけを変えた場合の本発明の実施例(A)の除振性能を図5に、時間t=2.5sで目標変位をx0=2.0→2.5mmに変化させた場合の過渡応答特性を図6に示す。同様に、従来例(B)の場合について、除振性能を図7に、過渡応答特性を図8に示す。
【0069】
本発明の実施例(A)の場合は、バルブ流量は除振性能に大きな影響を与える。図5のグラフから、バルブ流量をQ=4.76NL/minから38.0NL/minまで増大させると、低い周波数まで除振効果が得られるようになる。しかし、図6のグラフに示すように、バルブ流量は過渡応答特性に大きな影響は与えず、流量を低減させても応答特性は劣化しない。
【0070】
従来例(B)の場合、図7のグラフに示すように、本発明の実施例(A)の場合と大きく異なり、バルブ流量は除振性能にほとんど影響を与えず、流量の増大によって僅かに共振ピーク値が低下するだけである。また、図8のグラフに示すように、バルブ流量を増大させると、高い周波数の脈動成分は低減するが、過渡応答時間に大きな改善はみられない。
【0071】
2−4.本発明の制振性能について
本発明による空気圧アクチュエータの優れた応答特性は、制御系にフィードフォワードを施したときに顕著な効果に結びつけることができる。たとえば、前述したように、除振台に搭載された位置決めステージ(図1の19)が高速移動したとき、定盤を含む構造体はこの移動方向と共にヨーイングおよびピッチング振動を起こす。このステージの挙動に係る振動加速度、あるいは、床振動の加速度を検出し、この振動の伝達パスを電気的に模擬したフィードフォワード信号を生成して、振動を相殺するようにアクチュエータを駆動する。このとき、アクチュエータの応答性が高い程、より高い周波数領域まで制振制御が有効となり、高周波数成分を含む衝撃的外乱を低減することができる。
【0072】
3.動剛性を求める理論解析
3−1.動剛性の概念導入について
前述した解析結果は、本発明の実施例(A)、従来例(B)のいずれも同一荷重の条件下で、かつアクチュエータの制御方法は、同一ゲインによる比例変位フィードバックだけを施した場合であった。前述したように、速度、加速度、圧力フィードバック、フィードフォワード等の制御系の選定と工夫により、装置の除振と制振の性能改善は可能である。しかし、上述した制御系の工夫を施した場合の「改善効果のレベル」は、あくまで制御対象である空気圧アクチュエータの「素性の良否」に大きく依存する。そこで、本発明による除振器の「素性」を、従来例との対比のもとで、下記の条件下で評価することにする。
(1)除振器の搭載物の動特性(質量、粘性、ばね)は考慮しない。
(2)比例・速度・加速度フィードバックなどの制御は施さない。
【0073】
以下、図9のモデル図を基に、空気圧アクチュエータの空気室にエネルギ方程式を再度、単独で適用する。式(数5)の右辺第2項で、dVa/dt=APdx/dtとおけば、次式(数10)が得られる。
【数10】

【0074】
図9のモデル図において、50は空気圧アクチュエータのシリンダ、51は空気室、52は吸入口、53は排気口、54はダイヤフラム、55はピストン(質量は無視)である。以下、ピストン55を垂直方向に、x=Δx0・sin(ωt)で正弦波駆動させたときの空気室51における発生荷重faを求める。図1の除振台のモデル図において、サーボ弁13と空気室5を繋ぐ配管12の流体抵抗を無視すれば、図9のモデル図は、空気室51をサーボ弁で流量制御した場合と等価になる。この場合、吸入口52はサーボ弁の吸気側ノズル16に、排気口53は排気側ノズル17に対応する。56はシリンダ底面である。
【0075】
3−2.エネルギ方程式の線形化
以下、エネルギ方程式を線形化する。気体の供給源とアクチュエータの空気室の温度は一定と仮定し、Tc=Ts=Taとする。式(数10)の右辺第1項を、吸入口面積ainと圧力Paで偏微分すると、式(数11)が導かれる。
【数11】

ここで、Gin=ainQin(PS,Pa)、Gout=aoutQout(Pa,Po)とすれば、式(数12)となる。
【数12】

【0076】
ところで、吸入側抵抗をRin、排気側抵抗をRoutとすれば、
【数13】

【数14】

【0077】
式(数11)右辺の[ ]内は
【数15】

だから、式(数15)を式(数10)に代入すると、線形化されたエネルギ方程式(数16)が求められる。
【数16】

【0078】
3−3.空気圧アクチュエータの動剛性
式(数16)において、流量制御バルブの開度が変化せず一定値を保つとして、Δain=0とすれば、式(数17)となる。
【数17】

ここで、空気室の発生荷重をfa= AP・Paとすれば、式(数18)となる。
【数18】

【0079】
さて、良く知られているように、密閉容器における気体の剛性k0(静剛性と呼ぶ)は次式(数19)で表すことができる。
【数19】

【0080】
外力に対するピストン変位が剛性であり、この外力と平衡する発生荷重の符号を考慮して、空気圧アクチュエータの動剛性Kd(s)を求める。式(数18)をラプラス変換すると、式(数20)となる。
【数20】

ここで
【数21】

とおけば、Raは空気室から見た気体の供給側と排気側に通じる流体抵抗の並列和である。動剛性Kd(s)を無次元化すると、
【数22】

動剛性パラメータγを、次のように定義する。
【数23】

上記結果から、動剛性パラメータγが等しく構成された空気圧アクチュエータは、同一の無次元動剛性の特性を有することがわかる。
【0081】
3−4.空気圧ばねの時定数
式(数16)において、空気圧アクチュエータの容積変化が無く、dx/dt=0とすれば、式(数24)が成り立つ。
【数24】

【0082】
Δfa= AP・ΔPaとして、式(22)をラプラス変換すると、制御バルブの吸入側開口面積の微小変化分Δainに対する発生荷重の微小変化分Δfaの伝達関数が次のように求められる。
【数25】

【0083】
式(数25)において、F0=RaAP(Qin+Qout)である。時定数Tdを下記の式(数26)のように定義すると、時定数Tdは動剛性パラメータγ[式(21)]の逆数に等しい。時定数Tdは、密閉容器内に気体を充填させる際の、圧力変化のレスポンスの高さを示すものである。また時定数Tdが小さい程、系の安定限界に対するゲイン余裕、位相余裕を大きくとれる。すなわち、十分に大きなフィードバックゲインを設定できるために、制御応答性の向上が図れる。
【数26】

【0084】
3−5.動剛性の絶対値と位相特性
動剛性パラメータγ[式(数23)]を各種変えて、周波数に対する無次元動剛性[式(数22)]を求めた。図10は無次元動剛性Kd0(jω)= K(j・2πf)の絶対値、図11は位相特性である。
(1)無次元動剛性Kd0(jω)の絶対値は、周波数fが小さくなると│Kd0│→0に漸近し、fが大きくなると│Kd0│→1に漸近する。
(2)無次元動剛性Kd0(jω)の位相特性は、周波数fが小さくなるとΦ→90degに漸近し、fが大きくなるとΦ→0degに漸近する。
(3)動剛性パラメータγが大きくなると、上記(1)(2)の特性は、周波数fの高い方向へ平行移動する。
【0085】
表1のアクチュエータ仕様から求められる本発明の実施例(A)の動剛性パラメータは、γ=51.4である。本実施例において、流量制御バルブが中立状態での吸気側ノズルと排気側ノズルのそれぞれの開口面積をamaxとして、動作点における吸気側開口面積ain=amax×0.645、排気側開口面積aout=amax×(1-0.645)に設定している。このときの空気ばねの動作点圧力Pa=933KPaである。この条件下で、式(19)の流体抵抗Raを求めるのに必要なRin=7.37×108(Pa・s/kg)、Rout=4.75×109(Pa・s/kg)である。同様に、従来例(B)の動剛性パラメータは、γ=0.65であり、Rin=1.50×1010(Pa・s/kg)、Rout=1.49×109(Pa・s/kg)である。各γにおける無次元動剛性の絶対値と位相特性を図10と図11中に、鎖線と一点鎖線で記載している。
【0086】
動剛性パラメータγ=0.65である従来例(B)では、周波数f>1Hzでは、無次元動剛性の絶対値│ Kd0(jω)│→1となる。すなわち、式(数22)から動剛性(無次元ではない)の絶対値│Kd│は、f>1Hzでは周波数に依存しない静剛性の式(数19)と等しくなる。
【0087】
【数27】

上式(数27)において、同一の荷重[fa=(Pa-P0)AP]を支持するという前提条件で、PaAPは変えられないものとすれば、柔らかい空気ばね(除振性能の向上)を実現するためには、ピストン高さx P0を大きくせざるを得ない。しかし、その結果、「発明が解決しようとする課題」で前述したように、応答性(制振性能)を犠牲にせざるを得ないという相矛盾する関係に陥るのである。
【0088】
動剛性パラメータγ=51.4である本発明の実施例(A)では、周波数fが30〜40Hz以下の領域で、無次元動剛性の絶対値│ Kd0(jω)│<1である。すなわち、式(数22)から、動剛性の絶対値│Kd│(無次元ではない)は充分に高い周波数まで、常に下記条件を保つことができる。
【数28】

【0089】
さらに、式(数23)、(数26)からわかるように、動剛性パラメータγの逆数が空気ばね時定数Tdであり、γが大きい程、すなわち時定数Tdが小さい程、容器内に気体を充填させる際の圧力変化のレスポンスは高い。すなわち、本発明(A)では、柔らかい空気ばねの実現(│Kd│が小さい)と、応答性の向上(Tdが小さい)を図るための「パラメータ選択が同一方向」であり、従来例(B)のような相矛盾する関係では無い。
【0090】
3−6.動剛性遷移領域
ここで、「動剛性遷移領域」とは、定常時に気体を供給側から排気側に流し続ける状態で駆動される気体ばねにおいて、この気体ばね内部から前記供給側と前記排気側に通ずる流路の流路抵抗だけに依存して決まる剛性をKd=Kd1、前記流路を含むすべての流路を遮断した場合に決まる剛性をKd=Kd2として、前記剛性が前記剛性Kd1から前記剛性Kd2に移り変わる領域である。但し、周波数に対する動剛性の特性曲線が曲面を有するために、無次元動剛性Kd0(jω)の特性曲線を用いて、その絶対値と位相特性が、大きく変化する周波数領域を「動剛性遷移領域」として、次のように定義することにする。図12は、動剛性パラメータγ=22の場合における無次元動剛性の絶対値│Kd0│と周波数fの関係を示すグラフである。左右対称なグラフの直線部分の接線が、│Kd0│=0と│Kd0│=1で交わる周波数の値を、それぞれf1、f2とすれば、動剛性遷移領域は、f1<f<f2である。たとえば、動剛性パラメータγ=22の場合の動剛性遷移領域は、0.55Hz<f<7.5Hzとなる。動剛性遷移領域の下限値f1と上限値f2を明確に定義することにより、本発明の成立条件(後述)を決める上で、特性曲線が│Kd0│→0及び│Kd0│→1に連続的に漸近するために生じる不透明さを払拭し、本発明が効果的に活かされる設計仕様を具体的に決定できる。
【0091】
4.本発明が成立する条件
4−1.共振点f0の設定条件
さて、本発明が成立するパラメータの選定条件について、表2、図10、図11を用いて以下考察する。
【表2】

【0092】
表1の空気圧アクチュエータ仕様を用いて、後述する式(数29)から空気ばねが密閉状態での共振周波数を求めると、本発明の実施例(A)ではf0=8.83Hz、従来例(B)ではf0=6.57Hzである。しかし、図2の除振性能の比較において、従来例(B)が、f0=6.57Hz で+25dB程度の鋭敏な共振ピークを有するのに対して、本発明の実施例(A)の除振器では、共振点f0=8.83Hzにおける共振ピークは+2.5〜5dB程度と小さい。このように、共振点におけるピークが充分に抑制されることが、本発明が効果的に活かされるパラメータの選定条件の根拠となる。その理由として、通常f>f0の周波数領域では、除振レベルはmω(ωは角速度)に比例して急峻に降下する。そのため、共振点f0を低い周波数に設定する程、広い周波数領域で除振性能が得られる。しかし、前述したように、従来の除振器では除振性能と制振性能がトレードオフの関係にあり、共振点f0を小さく設定することは、制振性能を劣化させてしまうのである。本発明の適用により、共振点f0を「動剛性遷移領域」に、すなわち、f1<f0<f2となるように設定すれば、除振性能と制振性能を共に満足する除振器が得られる。
【0093】
この動剛性遷移領域よりもさらに低い周波数領域に共振点f0を設定すれば、空気ばねの剛性は一層柔らかくなり、│Kd0│→0に漸近する。また、位相特性Φ→+90degに漸近する。しかし、実用的には前記「動剛性遷移領域」内に共振点f0を設定するのが好ましい場合が多い。たとえば、表1の本発明の実施例(A)の場合、バルブ流量Q=9.52→74.1NL/min(7.8倍)に増大させれば、動剛性パラメータはγ=51.4→400となる。図10のグラフを用いて、γ=400の曲線を直線近似すると、動剛性遷移領域の下限値f1=9.5Hzである。共振点f0はバルブ流量によって変わらないためf0<f1であるが、上記のようなバルブ流量の設定は、経済面からも現実的ではない場合が多い。
【0094】
本発明が見出した動剛性遷移領域で共振ピークが抑制される理由は、図11の位相と周波数の関係を示すグラフから説明できる。通常の場合、-180degの位相遅れをもつ質量のインピーダンス-mω2と、位相遅れを持たないばねのインピーダンスk0(静剛性)の絶対値が一致したとき、すなわち、k0-mω2=0のとき、系は共振状態となる。しかし、たとえば本発明の実施例(A)では、共振周波数f0=8.83Hzで、ばねのインピーダンスKd(動剛性)の位相はφ=+42.8deg進んでいる。そのため共振条件は成立せず、周波数f0においても、本来ならば存在するはずの鋭敏な共振ピークは発生しない。無次元動剛性の周波数に対する位相特性(図11)と絶対値(図10)は、いずれも式(20)から得られるもので、1対1に対応している。したがって、空気ばねの密閉状態での共振周波数f0において、無次元動剛性の位相φ>0となるように、すなわち、絶対値│Kd0│<1になるように、アクチュエータのパラメータ(動剛性パラメータγに集約される)が選定されれば、共振ピークが抑制されて、本発明が成立する根拠となる。
【0095】
本発明を様々な条件下で除振器として適用した結果では、共振周波数f0において、絶対値│Kd0│<0.90になるように動剛性パラメータγが選定されれば、従来除振器と比べて、本発明の効果は一層顕著であった。
さらに、絶対値│Kd0│<0.80になるように動剛性パラメータγが選定されれば、除振性能、制振性能共にベストな状態を保つ除振器が実現できる。
【0096】
4−2.動剛性パラメータγの下限値の設定条件
さて、空気ばねの密閉状態での共振周波数f0は、後述するように、除振装置に配置された空気ばねを直接実測してもよいが、式(数19)から求められる空気ばねの静剛性をk0、空気ばね一個分が除振装置で受け持つ等価質量mとしたとき、次式から求めることができる。ちなみに空気ばねが密閉状態とは、供給側及び排気側の流路を遮断した状態を示す。
【数29】

ここで、mg=AP(Pa- P0)、Va=xP0APを式(数29)に代入すると
【数30】

【0097】
本発明の実施例のように、供給源圧力PSが十分に高く、動作点圧力Pa≫ P0とすれば、式(数31)が成り立つ。
【数31】

【0098】
したがって、高圧で駆動されるアクチュエータの場合、共振周波数f0はピストン径等に無関係にピストン(アクチュエータ)の隙間xP0だけでほぼ決定される。表1の仕様における本発明の実施例(A)を、式(数29)あるいは式(数30)で厳密に計算した結果では、前述したようにf0=8.83Hz、式(数31)による近似計算(xP0=5.0mm)ではf0=8.34Hzである。ちなみに、ピストン隙間xP0は、性能面を重視するならば、xP0=1〜2mm、装置の軸方向高さ調整時の裕度などの実用面を重視するならば、xP0=6〜7mmが適切であった。実施例では、性能面と実用面の両面を考慮して、xP0=5mmを選択している。
【0099】
図13は、式(数22)を用いて、周波数fが一定条件下(f=f0=8.34Hz)において、動剛性パラメータγに対する無次元動剛性の絶対値│Kd0│を求めたものである。変数γに対する変数│Kd0│のグラフ曲線部の接線と│Kd0│=1の交点の座標をγ=γ0、γ=γ0における│Kd0│=│K*d0│、空気ばねの動剛性パラメータの具体値をγa、空気ばねの無次元動剛性絶対値の具体値を│Kda│とする。このとき、本発明が成立するためには、γa>γ0、あるいは、│Kda│<│K*d0│として、アクチュエータを構成すればよい。図13の実施例では、γ0=22、│ K*d0│=0.91である。
【0100】
さて、たとえば、精密機器を対象とする空気式アクティブ除振装置では、図32のグラフに一例を示したように、周波数1<f<10Hzの範囲に注力して、適用対象に合せるための性能スペックの選定がなされているが、それは以下の理由による。f>10Hzでは、シート状の防振ゴムで振動絶縁性能が得られるため、f>10Hzだけ振動絶縁ができればよい用途に対しては、空気圧アクチュエータの適用はオーバースペックとなる場合が多い。f<1Hzで空気圧アクチュエータの適用が制約されるのは、主に技術的理由による。f=1Hz近傍を境界線として、それ以下の周波数で共振点を持つような柔らかい空気ばねを実現するためには、たとえば、シリンダの高さx P0を300mm以上にせざるを得ない。その結果、前述したように、従来の空気圧アクチュエータでは、制振制御(応答性)と位置制御(変位の原点復帰)の機能が著しく低下してしまうのである。積層ゴムの場合は、荷重をかけた状態でf=1.5〜2.0Hzで振動絶縁性能が得られるが、せん断荷重に弱く除振台には使いにくい。また、空気圧アクチュエータが空気圧の調節で除振台の位置決め制御ができるのに対して、これらの防振材料(シート状の防振ゴム、積層ゴム、コイルスプリングなど)だけでは位置決め制御は難しい。除振装置の性能スペックの選定が、周波数f=1Hz近傍からf=10Hzの範囲に注力してなされている点に留意すれば、動剛性パラメータγの選定のポイントは、本発明が見出した「動剛性遷移領域」が、周波数f=1Hz近傍からf=10Hzの範囲をどれだけカバーできるか、ということである。動剛性パラメータをγ=22に設定したとき、図13のグラフから、動剛性遷移領域は、0.55Hz<f<7.5Hzであり、具体的ニーズの多い周波数f=1Hz近傍からf=10Hzの範囲をほぼカバーしている。上記条件ならば、従来除振装置と比べて、除振性能を満足したままで、十分に優れた制振性能(過渡応答特性)が得られる。
【0101】
4−3.流体抵抗Raの近似的な求め方
式(数21)から求められる流体抵抗Raは、空気室51(図9)から見た気体の供給側と排気側に通じる流体抵抗の並列和であるが、近似的には下記のようにして求めることができる。定常状態において、サーボ弁の吸入ノズルを通過する質量流量と、排気ノズルを通過する質量流量は等しいため、以下の式(数32)が成り立つ。
【数32】

【0102】
気体ばね1個分が受け持つ等価質量をm、ピストン面積(受圧面積)をAPとすれば、動作点圧力Paは、(Pa-P0)=mg/APの式から求められる。したがって近似的には、Rin=(PS-Pa)/Ga 、Rout=(Pa-P0)/Gaである。この値を式(数21)に代入すればよい。さらに、動作点圧力をPa=(PS-P0)/2+P0に設定して、かつRin=Routと仮定する。このとき、空気室からみた流体抵抗Raの概略値は次式から推定できる。
【数33】

【0103】
5.動剛性と無次元動剛性を実験的に求める方法
以上、空気圧アクチュエータの動剛性Kd、無次元動剛性Kd0を理論的に求める方法について述べたが、上記Kd、Kd0は実験的にも求めることができる。図9のモデル図を用いて実験方法を説明する。まず、空気圧アクチュエータを除振装置から取り外した状態で、
(1)上面のピストン55を床面に対して固定した状態で、シリンダ底面56に振動加振器の出力部を密着させる。
(2)シリンダ底面56を床面に対して固定した状態で、上面のピストン55に振動加振器の出力部を密着させる。
【0104】
上記(1)(2)いずれかの方法を採用すればよい。このとき、ピストン高さxP0、流量制御弁の開度(吸気側開口面積ainと排気側開口面積aout)、供給源圧力PSは除振装置における使用条件と同一に設定しておく。シリンダ50には空気室51の圧力Paを検出する圧力センサ、振動加振器の出力部には変位xを検出する変位センサを装着する。周波数をスイープさせて振動加振器を駆動し、検出圧力Paから発生荷重fa=(Pa-P0)APを求めれば、発生荷重faに対するピストン変位xの大きさと位相の周波数特性、すなわち、空気圧アクチュエータの動剛性Kd(s)を求めることができる。
【0105】
空気ばねの静剛性k0と密閉状態での共振周波数f0は、空気室51の圧力Paを除振装置における使用条件と同一の値に維持した状態で、たとえば、以下の方法で測定する。静剛性k0は、空気ばねに静荷重Δfをかけたときのピストン変位Δxから、k0=Δf/Δxである。このk0から、無次元動剛性Kd0(s)= Kd(s)/ k0が求められる。空気ばねの密閉状態での共振周波数f0は、空気ばね上面のピストン55を自由端として、空気ばね1セット分が受け持つ等価質量mを空気ばねに搭載する。サーボ弁(流量制御バルブ)の供給側及び排気側の流路を遮断した状態で、シリンダ底面56を振動加振器で加振させて得られる除振特性から、ピストン変位xがピークとなる周波数f0を求めればよい。
【0106】
上記方法により、除振器を構成する各要素の詳細パラメータと、圧力、流量等の動作状態を把握することなく、共振周波数が動剛性遷移領域、あるいはこの動剛性遷移領域よりも低い周波数領域に設定されていることを検証できる。また、除振器をブラックボックスとした場合でも、本発明の適用効果を評価できる。
【0107】
[2]本発明を応用した精密除振台のその他の実施例
1.荷重サポート式アクチュエータ
1−1.基本構造
以下、本発明による精密除振台を適用した他の実施例について説明する。
図14は、本発明の実施形態2に係るアクティブ精密除振台の一例を示すモデル図である。本発明である空気圧アクチュエータが、ピストン径が小さい程、動剛性パラメータが大きくとれることに注目し、
(1)動剛性パラメータが大きな、小径の空気圧アクチュエータ
(2)ばね剛性が0に近く、かつ荷重の大半を支持するアクチュエータ
上記(1)(2)の2つのアクチュエータを並列配置して除振台を支持することにより、(a)除振器の支持荷重を増大できる、(b)バルブ流量を削減できる、などの効果が得られる。
【0108】
200は床面201に設置された基礎ベース台、202はこの基礎ベース台の上面に配置された、リング形状の荷重サポート用アクチュエータ、203は前記荷重サポート用アクチュエータ202の中央部に配置された小径の空気圧アクチュエータである。以降、この小径の空気圧アクチュエータ203を「マイクロアクチュエータ」と呼ぶことにする。この2つのアクチュエータ202、203が組み合わされて、一セット分の空気圧アクチュエータとして使用される。本実施形態の精密除振台は、床面201上に、前記一セット分の空気圧アクチュエータが複数組配置される(図示せず)。複数組空気圧アクチュエータにより支持された定盤204(2点鎖線で示す)の上に精密装置(図示せず)が搭載される。マイクロアクチュエータ203は、垂直方向の荷重を支持するための、内部に高圧空気が充填された空気室A205と、この空気室の上部にダイヤフラム206を介して内挿されたピストンA207から構成される。
【0109】
208、209は、定盤204の垂直・水平方向の加速度と、床面201に対する定盤204の相対変位をそれぞれ検出するための加速度センサ及び変位センサである。210は、床面201の加速度(基礎の振動状態)を検出する加速度センサである。これら各センサからの出力信号がそれぞれコントローラ(図示せず)に入力される。
【0110】
空気室A205には、基礎ベース台200内に形成された流路218を介して、コントローラにより制御されるサーボ弁A211が接続されている。
【0111】
荷重サポート用アクチュエータ202は、垂直方向の荷重を支持するための、内部に高圧空気が充填された空気室B212と、この空気室Bの上部にダイヤフラム213を介して内挿されたピストンB214から構成される。
【0112】
また、前記空気室Bには、配管215を介して、前記空気室Bの圧力を制御するためのサーボ弁B216が接続されている。217は前記空気室Bの圧力を検出する圧力センサである。本実施例における、各サーボ弁211、216は、いずれも第1実施例で用いたノズル−フラッパ型の電空変換器を用いた。
【0113】
さて、実施例における2つのアクチュエータの役割は、表3に示すように、次のようである。
【0114】
(1)マイクロアクチュエータ
総質量mの20%の荷重を分担して支持する。同時に、変位センサ209と2つの加速度センサ208、210の情報を基に、前記ピストンAの位置(定盤204の位置)xが常に目標値x0を保つように、また設置床201の振動に起因する地動外乱と、定盤204の上から入力される直動外乱を抑制するように、前記空気室Aの圧力Paが制御される。
【0115】
(2)荷重サポート用アクチュエータ
総質量mの80程度の荷重を分担して支持する。同時に、前記ピストンBの位置x(=前記ピストンAの位置)が変動しても、圧力センサ217からの情報を基に、式(数34)、(数35)に示すように、前記空気室Bの圧力Pcが一定値Pc0を保つように、バルブの吸気量Gcin、排気量Gcoutが制御される。
【数34】

【数35】

【0116】
上記(1)(2)の役割を有する2つのアクチュエータの組み合わせにより、第1の実施例で示した本発明の空気圧アクチュエータの特徴、すなわち、「優れた除振性能と制振性能が両立できる」という長所を失うことなく、除振器の支持荷重を増大させることができる。実施例における荷重サポート用アクチュエータの仕様を表3に示す。また同表におけるマイクロアクチュエータ203の仕様は、第1の実施例における発明(A)の仕様(表1)と同一であり、動剛性パラメータγ=51.4である。
【0117】
1−2.荷重サポート方式とマイクロアクチュエータ単独の性能比較
2つのアクチュエータの組み合わせから構成される本実施例では、m=300Kgの荷重を支持できる。荷重の分担としては、荷重サポート用アクチュエータ202がm=240Kg、マイクロアクチュエータ203はm=60Kg(第1の実施例と同じ)である。マイクロアクチュエータが受け持つ支持荷重(m=Δm)に対するアクチュエータ全体の支持荷重(m=m0)を、マイクロアクチュエータの荷重分担率ξとして定義すれば、本実施例の場合はξ=(Δm / m0)×100=(60/300)×100=20%である。図15は、本実施例における荷重サポート付きアクチュエータの除振性能を、マイクロアクチュエータ単独の場合と比較した解析結果である。本実施例の場合、マイクロアクチュエータ単独の場合と比べて除振性能は向上しており、たとえば、f=10Hzで除振性能は0→-12dBに改善される。除振性能が向上する理由として、圧力一定になるように制御されている荷重サポート用アクチュエータ202のばね剛性がKc≒0であり、このKcとマイクロアクチュエータ動剛性Kdとの並列和が、アクチュエータ全体のばね剛性になるからである。
【0118】
図16に、荷重サポート付きアクチュエータの実施例の過渡応答特性を、マイクロアクチュエータ単独の場合と比較した結果を示す。時間t=2.5sで、目標変位をx0=2.0→2.5mmに変化させた場合である。整定時間は共に0.5〜0.6秒程度であり、荷重分担率ξ=20%の本実施例の応答時間の遅延は僅少である。図17に、図16の過渡応答時における、(a)荷重サポート用アクチュエータ空気室Bの圧力特性、(b)マイクロアクチュエータ空気室Aの圧力特性を対比して示す。
【0119】
図18は、マイクロアクチュエータの仕様が一定のままで、マイクロアクチュエータの荷重分担率ξを変えて、過渡応答特性(時間t=2.5sで、目標変位をx0=2.0→2.5mmに変化)を比較した結果である。すなわち、荷重サポート用アクチュエータの動作点圧力は同一のままで、サポート用アクチュエータの受圧面積を変えて、支持荷重を60〜600Kgの範囲で変えた場合を示す。この結果から、マイクロアクチュエータの荷重分担率ξ=15%程度までが、応答性を劣化させない限界であることがわかる。荷重分担率ξ>50%になると、マイクロアクチュエータを2台分用いた場合と比べて、荷重サポート方式適用の経済的メリットがなくなるためξ=50%を上限値とした。したがって、実施例では、荷重分担率を15%<ξ<50%の範囲に設定して用いた。
【表3】

【0120】
ちなみに、本発明の気体ばね(マイクロアクチュエータ)の一個分が除振装置において受け持つ等価質量とは、アクチュエータ1セット分が受け持つ総質量から荷重サポート用アクチュエータが受け持つ質量を差し引いた分(荷重分担率ξ相当分)を示す。
【0121】
マイクロアクチュエータのピストン外径(DP=30mm)を同一のままで、供給圧力をたとえばPS=1000→5000KPa(5倍)にすることによって、支持荷重の増大が図れる。しかし、この場合、圧力容器規格として製品に許容される条件[通常、1MPa(1000KPa)以下とされる]を超えるだけではなく、バルブ流量も供給圧力に比例して大幅に増加してしまう。本実施例の場合、表3に示すように、荷重サポート用アクチュエータ202の圧力制御に必要なバルブ流量QC=0.475NL/minであり、マイクロアクチュエータの1/20程度である。そのため、本実施例の荷重サポート付きアクチュエータでは、マイクロアクチュエータ単独で供給圧力を増大させた場合と比べて、バルブ流量の増加は僅少である。
【0122】
1−3.荷重サポート式と外径の大きなアクチュエータ単独の性能比較
アクチュエータの供給源圧力(PS=1000KPa)を同一のままで、ピストン外径をたとえば、DP=30→67.1mm(面積で5倍)にすることによって、支持荷重をm=60→300Kgまで増大できる。図19は、前述した本発明の実施例と、ピストン外径をDP=67.1mmの除振性能を比較したものである。表3に示すように、質量、ピストンの隙間、供給源圧力、バルブ流量、比例変位フィードバック・ゲインは同一条件である。単体アクチュエータの場合は、f=8.5Hz近傍に共振ピークを有し、また本発明の実施例と比べて、除振性能も明らかに低下する。図20は、時間t=2.5sで、目標変位をx0=2.0→2.5mmに変化させた場合の過渡応答特性を比較したものである。本発明の実施例の整定時間T=0.6秒程度に対して、単体アクチュエータの場合はT=3.5秒程度に遅延してしまうことが分かる。
【0123】
1−4.荷重サポート用アクチュエータを共用化した除振器
図21は、本発明の実施形態3に係る精密除振台の一例を示すモデル図である。図14の実施例では、荷重サポート用アクチュエータとマイクロアクチュエータを一対で構成したが、1個の荷重サポート用アクチュエータを複数個のマイクロアクチュエータに対して共用化して用いることもできる。
【0124】
250は床面上に設置された基礎ベース台、251はこの基礎ベース台の上面に配置された荷重サポート用アクチュエータ、252は定盤、253a、253b、253c、253dは前記定盤上の4隅に配置されたマイクロアクチュエータである。荷重サポート用アクチュエータ251のばね剛性を極力小さく、かつ荷重の大半を支持するように構成する点は、前述した実施例と同様である。
【0125】
1−5.荷重サポート用として適用可能なアクチュエータの形態
実施例では、荷重サポート用アクチュエータの空気室B212の圧力が一定圧になるように、圧力センサからの情報を基に電子制御を施した。実施例で圧力制御に用いたノズル・フラッパ型のサーボ弁は、応答性が数百ヘルツ以上と高い。高い応答性を有する流量制御弁と圧力センサを用いて、電子制御を施すことで、アクチュエータに加わる外乱による圧力変動だけではなく、空気供給源側の圧力脈動に対しても、俊敏に空気室の一定圧化制御ができる。
【0126】
しかし、除振器の適用対象によっては、ばね剛性Kcが十分に小さくできるならば、どのような形態のアクチュエータと制御方法を選択してもよい。あるいは、大気圧以下の真空圧を利用した真空アクチュエータを用いてもよい。式(17)に示すように、空気圧アクチュエータのばね剛性k0は圧力Paに比例するため、より低い真空圧を動作点とする真空アクチュエータを用いれば、ばね剛性を十分に小さくできる。この場合、真空圧力が一定になるように電子制御を施してもよく、また制御は施さなくても空気室(真空室)内部が十分に低い真空圧を維持できればよい(図示せず)。
【0127】
あるいは、隙間の変化に対して吸引力、反発力の変化が小さい、すなわち剛性の小さい磁石を利用してもよい。電子制御によって磁気吸引力を制御できる磁気制御軸受を用いれば、剛性を正から負の範囲で、かつ任意の大きさに調節できる。リニアモータなども同様に利用できる。ピストンの可動範囲は小さくなるが、変位を検出して圧力を制御する静圧制御気体軸受に、隙間の変化に対して発生圧力の変化を小さくするような制御を施せば、剛性の小さなアクチュエータとして利用できる。
【0128】
荷重サポート用アクチュエータのばね剛性Kcの値を、偏差(変位と目標値の差)ε(=x-x0)が小さな区間だけKc<0(負の剛性)になるように制御すれば、マイクロアクチュエータのばね剛性KdとKcの並列和がアクチュエータ全体の剛性となるため、動作点近傍において限りなく柔らかいばねが実現できる。空気圧を制御する前述した実施例の場合は、ε>0のときは圧力を上昇させ、逆にε<0のときは圧力を下降させればよい(図示せず)。
【0129】
荷重サポート用アクチュエータに独立した空気室を軸方向に多段に形成して、各空気室の間に仕切りを設け、かつ共通の中心軸を出力軸とする多段アクチュエータを用いれば、荷重サポート用アクチュエータの支持荷重の増大が図れる。多段アクチュエータは公知の構造であるが、たとえば、中心軸を空洞にして、この空洞部に前記マイクロアクチュエータを1個、あるいは複数個配置すれば、荷重サポート方式アクチュエータ全体の省スペース化が図れる(図示せず)。
【0130】
2.複数個のマイクロアクチュエータを並列配置する方法
2−1.基本構造
図22は、本発明の実施形態4に係る精密除振台の一例を示すモデル図である。動剛性パラメータが大きくとれるマイクロアクチュエータを、同一の支持点近傍に複数個配置することで、制振性能(制御応答性)を劣化することなく支持荷重を増大することができる。300は床面301に設置された基礎ベース台、302a、302b、302cは前記基礎ベース台の上面に配置されたマイクロアクチュエータである。この3つのマイクロアクチュエータが並列配置されて、一セット分の空気圧アクチュエータとして使用される。303はこれらの複数組空気圧アクチュエータにより支持された定盤(2点鎖線で示す)である。マイクロアクチュエータ302aで代表して説明すれば、前記マイクロアクチュエータは、垂直方向の荷重を支持するための内部に高圧空気が充填された空気室304aと、この空気室の上部にダイヤフラム305aを介して内挿されたピストン306aから構成される。
【0131】
307、308は、定盤303の垂直・水平方向の加速度と、床面301に対する定盤303の相対変位をそれぞれ検出するための加速度センサ及び変位センサである。309は、床面301の加速度(基礎の振動状態)を検出する加速度センサである。これら各センサからの出力信号がそれぞれコントローラ(図示せず)に入力される。310は基礎ベース台300の内部に形成された空気流路であり、各アクチュエータの空気室304a、304b、304cに連絡している。311は前記コントローラにより制御されるサーボ弁であり、空気流路310に接続されている。
【0132】
実施例では、3つのマイクロアクチュエータ302a、302b、302cに対して、加速度センサ307、309、変位センサ308、及びサーボ弁311を共用して用いることで、シンプルな構成が実現できた。
【0133】
図23は、複数個のマイクロアクチュエータを1セット分のアクチュエータとして、定盤を支持した精密除振台の全体構成を示すモデル図である。350a、350b、350c、350dは、複数個のマイクロアクチュエータから構成されるアクチュエータ、351a、351b、351c、351dは3つのマイクロアクチュエータの中心部に配置された変位センサ、352は基礎ベース台、353は定盤である。但し、上記モデル図において、水平x方向、y方向のアクチュエータは図示していない。
【0134】
複数個のマイクロアクチュエータを並列配置する本実施例の構造と、前述した荷重サポート用アクチュエータを組み合わせれば、支持荷重をさらに増加できると共に、制振性能、除振性能のさらなる向上が図れる。たとえば、図14のリング刑状の荷重サポート用アクチュエータの中央部に、複数個のマイクロアクチュエータを配置すればよい。(図示せず)
【0135】
あるいは、外径が小さく動剛性パラメータの大きなマイクロアクチュエータを、定盤の下に「碁盤の目」のように数多く、薄くシート状に配置すれば、大きな支持荷重、制振性能、除振性能を共に兼ね備えた薄型の除振台ができる。各マイクロアクチュエータの圧力は個別に制御してもよく、また数個分を独立ユニットとして、ユニット別に制御してもよい。(図示せず)
複数個のアクチュエータを並列配置した構造において、除振装置が支持する負荷質量mの値が大きく変更された場合、負荷質量mを支持するために必要なアクチュエータの個数を選択すればよい。従来のように、負荷質量mに合せて供給源圧力を変えるのではなく、各々が最適な条件で設定されたマイクロアクチュエータの有効数を選択することで、バルブ流量を最小限に抑えたままで、優れた除振性能と制振性能を維持できる。未使用のアクチュエータは、たとえばノズルを介さないで、空気室を大気解放にしておけばよい。この方法は、複数個のマイクロアクチュエータが、「碁盤の目」のように配置された構造により、一層効果的に活かすことができる。(図示せず)
【0136】
3.複数個のアクチュエータを直列配置する方法
3−1.基本構造
図24は、本発明の実施形態5に係る精密除振台の一例を示すモデル図である。本実施例は、次の2つのアクチュエータが直列位置されて構成される。
(1)上段に配置された小径の空気圧アクチュエータ
(2)下段に配置された内部容積の大きな空気圧アクチュエータ
【0137】
2つのアクチュエータを上段と下段に直列配置する本方法では、次の二つの制御方法が適用できる。
(1)下段アクチュエータで絶対変位x2を制御して、上段アクチュエータで絶対変位x1を制御する。
(2)下段アクチュエータで絶対変位x1を制御して、上段アクチュエータで相対変位x1-x2を制御する。
【0138】
いずれの方法も、制振性能を大きく低下させないで、除振性能の向上とバルブ流量の低減が図れるが、まず上記(1)の実施例について説明する。
【0139】
400は床面に設置された基礎ベース台、401はこの基礎ベース台の上面に配置された下段アクチュエータ、402はこの下段アクチュエータの上段に配置された上段アクチュエータ(マイクロアクチュエータ)である。この2つのアクチュエータ401、402が組み合わされて、一セット分の空気圧アクチュエータとして使用される。上段アクチュエータ402は、垂直方向の荷重を支持するための、内部に高圧空気が充填された空気室A403と、この空気室の上部にダイヤフラム404を介して内挿されたピストンA405から構成される。
【0140】
下段アクチュエータ401は、内部に高圧空気が充填された空気室B406と、この空気室の上部にダイヤフラム407を介して装着されたピストンB408から構成される。410、411は定盤412と床面の垂直・水平方向の加速度をそれぞれ検出するための加速度センサである。413は床面に対する定盤412の相対変位(x1-xc)を検出するための変位センサ、414は床面に対するピストンB408の相対変位(x2-xc)を検出するための変位センサである。
【0141】
これら各センサからの出力信号がそれぞれコントローラ(図示せず)に入力される。415は上段アクチュエータ402用のノズル-フラッパ型サーボ弁、416は下段アクチュエータ401用のメカニカル・サーボ弁、417はサーボ弁415と空気室A403をつなぐ流路、418はメカニカル・サーボ弁416と空気室B406をつなぐ流路である。
【0142】
ノズル-フラッパ型サーボ弁415は、たとえば第1実施例で用いたものと同様である。メカニカル・サーボ弁416は、主にパッシブ除振台で用いられているもので、419はサーボ弁のスプール、420はセンサ部、421は吸入口、422は排気口である。センサ部420の先端は常時ピストンB408に接触しており、下段アクチュエータ401の空気室B406の圧力は、スプール419の移動によって制御される。ピストンB408が目標位置x2=x20に到達したとき、スプール419が吸入口421と排気口422を遮蔽するように、センサ部420の先端位置設定が予めになされている。したがってピストンB408の位置が安定した定常状態では、メカニカル・サーボ弁416は空気流量を消費しない。
【0143】
3−2.除振性能と過渡応答特性
図25は、本実施例の除振台の除振性能を、バルブ流量を変えて比較した場合である。解析条件として、上段アクチュエータのピストン外径DP=20mm、ピストン平均隙間はxP0=5.23mm、供給源圧力PS=1280KPa、負荷質量m=29.8Kgである。下段アクチュエータのピストン径はDP2=100mm、ピストン平均隙間はxP2=55mm、供給源圧力PS2=300KPaである。上段アクチュエータ402の制御方法は、比例変位フィードバックと積分フィードバックを施しており、比例変位フィードバック・ゲインGP=5.0×10-5m、積分フィードバック・ゲインGI=1.3×10-5m/sである。同図のグラフから、周波数f=10Hzで-10dBの除振性能が得られる。本発明の第1実施例(図5)で示したように、上段アクチュエータ(マイクロアクチュエータ)単体では、バルブ流量Qを低減すると除振性能が低下する。しかし、2つのアクチュエータを上段と下段に直列配置する本実施例では、バルブ流量を低減しても除振性能の低下は小さい。
【0144】
図26は、バルブ流量Q=8.26NL/minの条件下(他は上記同一の条件)において、時間t=5.0sで、目標変位をx0=10→9.0mmに変化させた場合の過渡応答特性を示すものである。上段アクチュエータ単独の場合と比較すれば整定時間は遅延するが、本発明の第1実施例の従来例(B)[ピストン径DP=96mm、ピストン平均隙間xP=18.1mm]と比較すると、過渡応答特性は十分に改善されていることが分かる。
【0145】
図27は、上記解析条件において、下段アクチュエータのピストン平均隙間xP2だけを変えた場合について、除振性能を比較したものである。下段アクチュエータのピストン平均隙間xP2を増大すると、除振性能は改善される。下段アクチュエータの容積増大が、アクチュエータ全体の除振性能改善に繋がることが分かる。
【0146】
3−3.本発明のパッシブ除振台への適用
図28は、本発明の実施形態6に係る除振台の一例を示すモデル図である。上段、下段のアクチュエータ共にメカニカル・サーボ弁を用いることで、電子制御が不要で、除振性能と応答特性の優れた、かつ、共振ピークの小さなローコストなパッシブ式除振台が実現できる。本実施例では、アクチュエータを直列配置した場合の前述した二つ目の制御方法、「下段アクチュエータで絶対変位x1を制御して、上段アクチュエータ(マイクロアクチュエータ)で相対変位x1-x2を制御する方法」を用いている。
【0147】
450は床面に設置された基礎ベース台、451はこの基礎ベース台の上面に配置された下段アクチュエータ、452はこの下段アクチュエータの上段に配置された上段アクチュエータ(マイクロアクチュエータ)である。この2つのアクチュエータ451、452が組み合わされて、一セット分の空気圧アクチュエータとして使用される。上段アクチュエータ452は、垂直方向の荷重を支持するための、内部に高圧空気が充填された空気室A453と、この空気室の上部にダイヤフラム454を介して内挿されたピストンA455から構成される。下段アクチュエータ451は、内部に高圧空気が充填された空気室B456と、この空気室の上部にダイヤフラム457を介して内挿されたピストンB458から構成される。459は下段アクチュエータ451用のメカニカル・サーボ弁、460はメカニカル・サーボ弁459と空気室B456をつなぐ流路、461は上段アクチュエータ452用のメカニカル・サーボ弁、462はメカニカル・サーボ弁461と空気室A453をつなぐ流路である。463はメカニカル・サーボ弁459のスプール、464はセンサ部である。センサ部464の先端は常時定盤465に接触している。466はメカニカル・サーボ弁461のスプール、467はセンサ部である。センサ部467の先端も常時定盤465に接触している。上段アクチュエータ452及び下段アクチュエータ451の空気室A453、空気室B456の圧力は、それぞれのスプール466、463の移動によって制御される。定盤465が目標位置x1=x10に到達したとき、また定盤465とピストンB458の相対変位x1-x2が目標位置x1-x2=Δx02に到達したとき、各スプール466、463がそれぞれの吸入口と排気口を遮蔽するように、各センサ部464,467の先端位置設定が予めになされている。
【0148】
2つのアクチュエータを上段と下段に直列配置して、かつ動剛性パラメータの大きな空気圧アクチュエータ(マイクロアクチュエータ)を上段と下段のいずれかに適用した場合、除振性能を示すグラフにおいて、従来例(たとえば、図2参照)に見られるような鋭敏な共振ピークは発生しない。その理由は、2つのアクチュエータのそれぞれの空気バネ剛性の直列和(KT=Kd+K2)がアクチュエータ全体のばね剛性KTであり、動剛性Kd同様に、ばね剛性KTもその絶対値と位相特性が周波数に対して依存性を有するからである。すなわち、動剛性遷移領域において、インピーダンスKTの位相はφ>0となり、そのため共振条件が成立しにくく、周波数f0においても、本来ならば存在するはずの鋭敏な共振ピークが抑制されるのである。
【0149】
この共振ピークが抑制される現象は、パッシブ除振台に適用したとき極めて効果的である。アクティブ除振台の場合は、加速度フィードバック制御などを施すことで共振ピークを低減することができるが、パッシブ除振台の場合はメカニカル・サーボによる比例変位フィードバックしか施せないからである。
したがって本発明により、従来のパッシブ除振台では困難であった共振ピークの小さな除振特性を有する除振台が実現できる。
【0150】
本実施例の説明では、2つのアクチュエータを上段と下段に直列配置した構造を示したが、除振性能が満足できるならば、「動剛性パラメータの大きな空気圧アクチュエータ+メカニカル・サーボ弁」の一段構成のアクチュエータでも、共振ピークの小さな除振特性を有するパッシブ除振台が実現できる。この場合、図28の下段アクチュエータ451とメカニカル・サーボ弁459を省略した構造にすればよい。
【0151】
[3] 本発明の補足説明
【0152】
以下、本発明に適用するアクチュエータの適切な空気ばね内部容積の大きさについて考察する。図29は、時間t=2.5sで目標変位をx0=2.0→2.5mmに変化させた場合の過渡応答特性を、空気室容積の大きさVaを変えた場合について比較した解析結果である。Va=AP・xP0=(DP/2)2π・xP0であるため、ピストン外径DPとピストン隙間xP0を設定する必要がある。ピストン隙間は、前述したように、性能面と装置の軸方向高さ調整時の裕度などの実用面の両面を考慮して、xP0=5mmを選択した。このxP0の条件下で、DPを10〜70mmの範囲に変えてVaを設定した。制御方法は、比例変位フィードバックだけを施しており、フィードバック・ゲインGP=2.0×10-5mである。供給源圧力は圧力容器規格として製品(除振台)に許容される条件の上限値PS=1000KPa(1MPa)に設定している。また、それぞれのピストン受圧面積APと動作点圧力Paで平衡する値に負荷質量mを設定している。バルブ流量はいずれもQ=9.52NL/minである。図29中に、各空気室容積の大きさVaにおけるピストン外径DPと動剛性パラメータγの値を記載している。Vaが小さい程、動剛性パラメータγの値は大きく、また立ち上がり特性は急峻になる。
【0153】
図30は図29の解析結果を基に、立ち上がり時間Trと空気室容積の大きさVaの関係を整理したものである。ピストン変位xが目標位置x0の90%に到達する時間を立ち上がり時間Tr(rise time)として定義している。図中のグラフから、Vaに対するTr曲線において、Va≦6.0×10-6m3の範囲(ピストン隙間xP0=5mmの場合は、DP≦39mmの範囲)に空気室容積の大きさVaを設定すれば、立ち上がり時間Trを充分に小さくできることがわかる。
【0154】
「2つのアクチュエータを直列位置する方法」の実施例では、メカニカル・サーボ弁を用いたパッシブ式除振器について前述した。動剛性パラメータを適切に設定することにより、本発明のアクチュエータ単体でも比例変位フィードバック制御だけで、除振性能と制振性能が共に優れて、かつ共振ピークの小さい除振器が実現できる。そのため、前述した実施の形態の多くは、電子的な比例変位フィードバックではなく、比例変位フィードバックの機能を持つメカニカル・サーボ弁を用いても同様の効果が得られる。メカニカル・サーボ弁は位置センサの機能を併せ持っているため、本発明におけるセンサとは、メカニカル・サーボ弁のような機構的センサも含むものとする。この場合、「センサからの情報に基づいて前記流量制御バルブを調節する」という動作は、「センサ部と一体化したスプールの移動によって、流量制御バルブを調節する」という動作と等価である。
【0155】
この機構的センサの別の形態として、たとえばピストンの外周端を軸方向にテーパ形状にしてダイヤフラムを装着し、ピストンが上昇すれば受圧面積が減少し、ピストンが下降すれば受圧面積が増大する構造にすれば、目標位置x0を一定に保つような復元力をピストンに持たせることができる。この場合も、一種の機構的センサであり、用途次第では電子的に制御するための変位センサを省略できるため、振動状態を検出するための、たとえば加速度センサだけを用いてもよい。また、ピストンの上下運動によって、空気室の圧力が変化すると共に、流量制御バルブを通過する流量も変化する。したがって、ピストン(機構的センサ)が、制御バルブ流量を間接的ではあるが制御することになる。
【0156】
除振器の制振性能と除振性能を向上させるために、空気室に絞り(オリフィス)を介して補助タンク(サブタンク)を設ける方法が従来からなされている。絞りと補助タンクの設置は、空気室の高い周波数の圧力変動には影響を与えないで、低周波数の圧力変動のみに有効に作用するロ−パスフィルターの作用を有する。この場合、絞りはどのような形態(たとえば、狭いスリット形状、ポーラス形状など)でもよい。この作用により、主空気室の容積を小さくできるため、制振性能の向上が図れる。本発明の除振器にも絞りと補助タンクの設置は可能であるが、本発明の基本的な適用効果を判定する際には、サブタンクの容積は考慮しないで、主空気室の容積Vaの大きさだけで、動剛性Kd0の絶対値と位相を評価すればよい(図示せず)。
【0157】
本発明を適用したマイクロアクチュエータは、ピストン外径が小さい程、動剛性パラメータγを大きくとれるため、より優れた制振性能と除振性能を得ることができる。しかし、ピストン外径によって支持できる荷重が制約されるため、高い供給源圧力が必要となる。しかし、圧力容器としての規格から、供給源圧力は1MPa以下にする制約がある。流量制御弁の動作点圧力をPaとすれば、空気圧アクチュエータの支持荷重fa=AP(Pa-P0)であるため、できる限り動作点圧力Paを供給源圧PSに近い高い圧力値に設定するのが好ましい。具体的には、流量制御バルブの供給側気体圧力をPS、排気側気体圧力をP0、定常状態における前記気体ばねの動作点圧力をPa、前記供給側気体圧力PSと前記排気側気体圧力P0で決まる中立点圧力をPm=(PS-
P0)/2としたとき、定常状態において、前記動作点圧力Paが前記中立点圧力Pmよりも供給側気体圧力PSに近い側に設定するのが好ましい。除振台の様々な使用条件の基で検討を重ねた結果、0.65PS≦Pa≦0.95PSの範囲になるように、動作点圧力Paを設定すれば、実用上は流量制御を施す上で支障がないことが分かった。前述したように、本発明の第1、第2実施例では、供給源圧PS=1000KPaに対して動作点圧力Pa=933KPaであった。具体的には、図1において、サーボ弁13のフラッパ15の位置が吸気側ノズル16側に近接したところで平衡状態になるように、ピストン外径(ピストン受圧面積)、供給源圧PS、気体ばねの一個分が除振装置において受け持つ等価質量mを設定すればよい。
【0158】
サーボ弁の吸気側ノズルと排気側ノズルの形状(内径、流路抵抗など)は、対称である必要はなく、むしろ非対称の方が好ましい。すなわち、ノズルの開度に対する流量特性が、前述した動作点近傍(0.65PS≦Pa≦0.95PSの範囲)で、線形性のよい特性になるように吸気側ノズルと排気側ノズルの形状を決めればよい(図示せず)。また、本発明の実施例の多くは、ノズルーフラッパ型のサーボ弁を用いた場合を示したが、本発明を適用できる流量制御弁の形態はこのノズルーフラッパ型に限定されるものではない。たとえば、スプール型の3方弁、4方弁などを負重合形(平衡状態でも、常に流量が流れているバルブ)にして用いてもよい。動作点圧力Paを供給源圧PSに近い圧力値に設定する考え方、吸気側と排気側の流路を非対称にする考え方も上記同様に適用できる(図示せず)。
【0159】
本発明の実施例における空気ばねの供給圧は、たとえば実施形態1、実施形態1では1MPaの高圧源を用いた場合を示した。本発明は、逆に大気圧以下の真空圧を動作点圧力として利用する場合でも適用できる。この場合、供給源側圧力を高圧(たとえば大気圧)、排気側圧力を真空圧に設定してもよく、あるいは供給源側、排気側共に真空圧に設定してもよい。いずれの場合でも、無次元動剛性[式(20)]、動剛性パラメータ[式(21)]などの式を用いて、本発明適用の効果を評価すればよい(図示せず)。
【0160】
「荷重サポート用として適用可能なアクチュエータの形態」で説明したように、2つのアクチュエ−タのどちらか一方のばね剛性K2の値を、偏差(変位と目標値の差)ε(=x-x0)が小さな区間だけK2<0(負の剛性)になるように制御すれば、メインアクチュエータのばね剛性KdとK2の並列和がアクチュエータ全体の剛性となるため、動作点近傍において限りなく柔らかいばねが実現できる。
【0161】
「2つのアクチュエータを直列位置する方法」の場合、2つのばねの一方を他のばねと絶対値が等しく、かつ負の剛性になるように設定すれば、直動外乱に対して剛性を無限大にできる。この考え方は既に公知であるが、本発明が見出した動剛性遷移領域、あるいはこの動剛性遷移領域よりも低い周波数領域に2つのアクチュエータの共振周波数を設定して、両者のばねの動剛性絶対値を低くすれば、一層優れた振動絶縁性能(除振効果)が得られる。
【0162】
本発明からなるマイクロアクチュエータ単体の場合、あるいは荷重サポート式のいずれの場合でも、アクチュエータのピストンに加わる水平力(剪断力)に対しては、曲面中心の差動による復元力を持つボールを、ピストン上面と上盤に介在させる、などの方策により対応できる。あるいは、ピストン上面とその対抗面の間に静圧空気軸受を設け、水平力がピストンには加わらない構成にしてもよい。(図示せず)
【0163】
「荷重サポート式アクチュエータ」及び「2つのアクチュエータを直列位置する方法」の実施例では、動剛性パラメータが適切に設定された空気圧駆動のマイクロアクチュエータを用いた。しかし、上記2つの方式を効果的に実現するマイクロアクチュエータは気体式には限定されない。用途によっては、応答性の高いリニアモータ(ボイスコイルモータ)、超磁歪アクチュエータ、ピエゾアクチュエータ、あるいは、非圧縮性流体で駆動される流体アクチュエータなどでもよい(図示せず)。
【0164】
「荷重サポート式アクチュエータ」の実施例では、荷重サポート用アクチュエータの空気室が常に一定圧を保つように電子制御されている場合を示した。空気室が常に一定圧を保つことで、ばね剛性がゼロの除振器になる。この機能に加えて、より高い周波数でアクティブ制御できるアクチュエータの機能を付加することもできる。荷重サポート用アクチュエータの空気室に、たとえばピエゾアクチュエータを直結して容積を微小変化させるようにすれば、サーボ弁の応答性をはるかに超えた高い周波数の圧力制御、すなわち高い周波数の直動外乱、地動外乱を抑制する制御が可能となる(図示せず)。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明(A)の実施形態1を示す精密除振装置のモデル図
【図2】本発明(A)と従来例(B)の除振性能を比較した解析結果のグラフ
【図3】本発明(A)と従来例(B)の過渡応答特性を比較した解析結果のグラフ
【図4】本発明(A)と従来例(B)の周波数応答特性を比較した解析結果のグラフ
【図5】本発明(A)において、バルブ流量を変えて除振性能を比較した解析結果のグラフ
【図6】本発明(A)において、バルブ流量を変えて過渡応答特性を比較した解析結果のグラフ
【図7】従来例(B)において、バルブ流量を変えて除振性能を比較した解析結果のグラフ
【図8】従来例(B)において、バルブ流量を変えて過渡応答特性を比較した解析結果のグラフ
【図9】空気圧アクチュエータ解析のためのモデル図
【図10】無次元動剛性の絶対値と周波数の関係を示すグラフ
【図11】無次元動剛性の位相と周波数の関係を示すグラフ
【図12】動剛性遷移領域を定義する無次元動剛性と周波数の関係を示す図
【図13】無次元動剛性の絶対値と動剛性パラメータの関係を示す図
【図14】本発明の実施形態2を示す精密除振装置のモデル図
【図15】本実施例とマイクロアクチュエータ単独の除振性能を比較した解析結果のグラフ
【図16】本実施例とマイクロアクチュエータ単独の過渡応答特性を比較した解析結果のグラフ
【図17】本実施例の空気室Bと空気室Aの圧力時間変化を示す解析結果のグラフ
【図18】本実施例において、荷重分担率を変えて過渡応答特性を比較した解析結果のグラフ
【図19】本実施例とΦ67.1mmアクチュエータ単独の除振性能を比較した解析結果のグラフ
【図20】本実施例とΦ67.1mmアクチュエータ単独の過渡応答を比較した解析結果のグラフ
【図21】本発明の実施形態3を示す精密除振装置のモデル図
【図22】本発明の実施形態4を示す精密除振装置のモデル図
【図23】実施形態4において精密除振台全体を示すモデル図
【図24】本発明の実施形態5を示す精密除振装置のモデル図
【図25】本実施例において、バルブ流量を変えて除振性能を比較した解析結果のグラフ
【図26】本実施例において、バルブ流量Q=8.26NL/minの場合の過渡応答特性解析結果を示すグラフ
【図27】本実施例において、ピストン平均隙間を変えて除振性能を比較した解析結果のグラフ
【図28】本発明の実施形態を6示す精密除振装置のモデル図
【図29】空気ばね内部容積を変えて、過渡応答特性を比較したグラフ
【図30】立ち上がり時間と空気ばね内部容積の関係を示すグラフ
【図31】従来の空気圧アクチュエータを用いたアクティブ精密除振装置のモデル図
【図32】従来の空気圧アクチュエータを用いた除振装置の除振性能を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定常時に気体を供給側から排気側に流し続ける状態で駆動される気体ばねを有した除振装置において、この気体ばね内部から前記供給側と前記排気側に通ずる流路の流路抵抗だけに依存して決まる剛性をKd1、前記流路を含むすべての流路を遮断した場合に決まる剛性をKd2として、前記剛性が前記剛性Kd1から前記剛性Kd2に移り変わる周波数領域を動剛性遷移領域としたとき、この動剛性遷移領域、あるいはこの動剛性遷移領域よりも低い周波数領域に、前記気体ばねの前記剛性と負荷質量で決まる共振周波数を設定したことを特徴とする除振装置。
【請求項2】
除振対象物を基礎に対して支持する気体ばねと、気体を供給側から前記気体ばねに吸気してかつ排気側へ排気する流量制御バルブと、前記除振対象物の変位及び又は振動状態を検出するセンサと、このセンサからの情報に基づいて前記流量制御バルブを調節することで、前記除振対象物の振動を低減する気体圧力を前記気体ばねに与える制御手段から構成される除振装置において、前記除振装置と同一の圧力条件下での前記気体ばねの静剛性と共振周波数をk0及びf0 (Hz)、周波数f(Hz)の函数としての前記気体ばねの動剛性絶対値を│Kd(f)│、無次元動剛性の絶対値を│Kd0│=│Kd(f)│/k0としたとき、f=f0(Hz)における│K d0│<1であることを特徴とする請求項1記載の除振装置。
【請求項3】
前記気体の気体定数をR[J/(Kg・K)], 比熱比をκ、円周率をπ、前記気体の平均温度をTc (K)、定常状態における前記気体ばね内部容積をVa(m3)、前記気体ばね内部から前記供給側と前記排気側に通ずる流路の流体抵抗をRa(Pa・s/Kg)、動剛性パラメータをγ=κRTc/(VaRa)、前記fと前記γの関数である無次元動剛性Kd0を複素数表示して以下の式(数1)として定義したことを特徴とする請求項2記載の除振装置。
【数1】

【請求項4】
動剛性パラメータγが一定条件下において、変数fに対する変数│Kd0│のグラフ曲線部の接線と、│Kd0│=0及び│Kd0│=1で交わる周波数の値をそれぞれf1及びf2としたとき、f1<f0<f2であることを特徴とする請求項3記載の除振装置。
【請求項5】
周波数fが一定条件下において、変数γに対する変数│Kd0│のグラフ曲線部の接線と│Kd0│=1の交点の座標をγ=γ0、γ=γ0における│Kd0│=│K*d0│、空気ばねの動剛性パラメータの具体値をγa、空気ばねの無次元動剛性絶対値の具体値を│Kda│としたとき、γa>γ0、あるいは、│Kda│<│K*d0│として構成されていることを特徴とする請求項3記載の除振装置。
【請求項6】
γa>22、あるいは、│Kd0a│<0.91として構成されていることを特徴とする請求項5記載の除振装置。
【請求項7】
流量制御バルブの供給側の気体圧力をPS(Pa)、排気側の気体圧力をP0(Pa)、定常状態における流量制御バルブの供給側から排気側に流れる気体の質量流量をGS(Kg/s)としたとき、流体抵抗Ra=(PS+
P0)/(4GS)であることを特徴とする請求項3記載の除振装置。
【請求項8】
前記気体ばねの内部容積Va≦6.0×10-6m3であることを特徴とする請求項3記載の除振装置。
【請求項9】
前記気体ばねのピストン外径DP≦39mmであることを特徴とする請求項8記載の除振装置。
【請求項10】
前記気体ばねよりも剛性が小さい補助アクチュエータが、前記気体ばねと並列に配置されており、かつ前記気体ばねが分担して支持する前記除振対象物の荷重は前記補助アクチュエータが支持する荷重よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の除振装置。
【請求項11】
前記気体ばねが分担して支持する質量をΔm、前記気体ばねと前記補助アクチュエータ全体で支持する総質量をm0として、前記気体ばねの荷重分担率をξ=(Δm/ m0)×100として定義したとき、15%<ξ<50%の範囲であることを特徴とする請求項10記載の除振装置。
【請求項12】
複数の前記気体ばねに対して、補助アクチュエータが共用化して配置されていることを特徴とする請求項10記載の除振装置。
【請求項13】
除振対象物を基礎に対して支持する気体ばねと、気体を供給側から前記気体ばねに吸気してかつ排気側へ排気する流量制御バルブと、前記除振対象物の変位及び又は振動状態を検出するセンサと、このセンサからの情報に基づいて前記流量制御バルブを調節することで、前記除振対象物の振動を低減する気体圧力を前記気体ばねに与える制御手段から構成される除振装置において、前記除振対象物の荷重を前記気体ばねと分担して支持する補助アクチュエータが前記気体ばねと並列に配置されており、かつ前記補助アクチュエータはその内部の気体圧力が概略一定値を保つように、あるいは剛性が前記気体ばねよりも小さくなるように電子制御されていることを特徴とする請求項1記載の除振装置。
【請求項14】
荷重の同一支持点近傍に請求項1記載の空気ばねを複数個配置したことを特徴とする除振装置。
【請求項15】
変位、速度、加速度、圧力、圧力の微分を検出するセンサのいずれかを複数個の空気ばねで共用したことを特徴とする請求項14記載の除振装置。
【請求項16】
請求項1記載の除振装置における気体ばねの下段に配置されて、前記気体ばねよりも内部容積の大きな補助アクチュエータから構成される除振装置。
【請求項17】
流量制御バルブの供給側気体圧力をPS、排気側気体圧力をP0、定常状態における前記気体ばねの動作点圧力をPa、前記供給側気体圧力PSと前記排気側気体圧力P0で決まる中立点圧力をPm=(PS-
P0)/2としたとき、定常状態において、前記動作点圧力Paが前記中立点圧力Pmよりも供給側気体圧力PSに近い側に設定されていることを特徴とする請求項2記載の除振装置。
【請求項18】
定常時に気体を供給側から排気側に流し続ける状態で駆動される気体ばねを有した除振装置の設計方法であって、この気体ばね内部から前記供給側と前記排気側に通ずる流路の流路抵抗だけに依存して決まる剛性をKd1、前記流路を含むすべての流路を遮断した場合に決まる剛性をKd2として、前記剛性が前記剛性Kd1から前記剛性Kd2に移り変わる周波数領域を動剛性遷移領域としたとき、この動剛性遷移領域、あるいはこの動剛性遷移領域よりも低い周波数領域に、前記気体ばねの前記剛性と負荷質量で決まる共振周波数を設定することを特徴とする除振装置の設計方法。
【請求項19】
除振対象物を基礎に対して支持する気体ばねと、気体を供給側から前記気体ばねに吸気してかつ排気側へ排気する流量制御バルブと、前記除振対象物の変位及び又は振動状態を検出するセンサと、このセンサからの情報に基づいて前記流量制御バルブを調節することで、前記除振対象物の振動を低減する気体圧力を前記気体ばねに与える制御手段から構成される除振装置の評価方法において、前記除振装置と同一の圧力条件下での前記気体ばねの静剛性と共振周波数をk0及びf0 (Hz)、周波数f(Hz)の函数としての前記気体ばねの動剛性をKd(f)、無次元動剛性をKd0=Kd(f)/k0としたとき、f=f0(Hz)におけるK d0の絶対値、もしくは、K d0の位相で、あるいはk0とKd(f)の絶対値、もしくは、Kd(f)の位相で、除振性能及び/又は制振性能を評価することを特徴とする除振装置の評価方法。
【請求項20】
除振対象物を基礎に対して支持する気体ばねと、気体を供給側から前記気体ばねに吸気してかつ排気側へ排気する流量制御バルブと、前記除振対象物の変位及び又は振動状態を検出するセンサと、このセンサからの情報に基づいて前記流量制御バルブを調節することで、前記除振対象物の振動を低減する気体圧力を前記気体ばねに与える制御手段から構成される除振装置において、前記気体の気体定数をR[J/(Kg・K)], 比熱比をκ、前記気体の平均温度をTc (K)、定常状態における前記気体ばね内部容積をVa(m3)、前記気体ばね内部から前記供給側と前記排気側に通ずる流路の流体抵抗をRa(Pa・s/Kg)、動剛性パラメータをγ=κRTc/(VaRa)として定義したとき、前記動剛性パラメータγの値で、除振性能及び/又は制振性能を評価することを特徴とする除振装置の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2010−14159(P2010−14159A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172817(P2008−172817)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000224994)特許機器株式会社 (59)
【Fターム(参考)】