説明

階段昇降機

【課題】狭い場所でも操作でき、簡単な構成で安全かつ確実に支持することができる階段昇降機を提供することである。
【解決手段】本実施の形態における階段昇降機100は、車椅子が着脱可能または車椅子と一体化され、或いはシート210を備え、人を搭乗させて階段を昇降する際に用いる階段昇降機100であって、階段昇降時に、人が搭乗可能な状態における階段昇降機100の最前部より後方である退避位置から、階段昇降機100を支持する作動位置まで移動可能な伸縮支持脚300と、異常不検出時には伸縮支持脚300を退避位置に保持し、異常検出時には伸縮支持脚300を作動させるとともに、伸縮支持脚300が作動位置から退避位置へ移動することを阻止する支持装置600を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、階段を昇降する場合に使用する階段昇降機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、階段を昇降する場合に階段昇降機が用いられている。この階段昇降機は、高齢化社会における介護、または荷物運搬等に利用されることが多い。この階段昇降機については、種々の研究および開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、操作性を高く維持しつつ、簡単な構成で安全かつ確実に支持することができる階段昇降機について開示されている。
【0004】
特許文献1記載の階段昇降機は、階段昇降機の前方に突出した回動自在の支持部と、階段昇降機の姿勢角度が所定のベクトル量を超えた場合、支持部をロック状態とする制御部とを備えた支持装置と、支持部の先端部近傍に設けられた走行部と、走行部を弾性支持する保持部と、を含み、保持部は、支持部の自重以上の負荷が加わった場合に、走行部を退避させ、支持部の先端部を階段に接地させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−262599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1記載の階段昇降機は、操作性を高く維持しつつ、簡単な構成で安全かつ確実に支持することができるという面で充分な効果を奏する。
しかしながら、階段の踊り場が狭い場所の場合もあり、当該踊り場での取り扱い容易性が望まれている。すなわち、ここでの狭い場所とは、車椅子の鉛直上方からの投影面積よりも大きく、できる限り車椅子の該投影面積に近似するサイズである。
【0007】
本発明の目的は、狭い場所でも操作でき、簡単な構成で安全かつ確実に支持することができる階段昇降機を提供することである。
【0008】
(1)
本発明に係る階段昇降機は、車椅子が着脱可能または車椅子と一体化され、或いは座席を備え、人を搭乗させて階段を昇降する際に用いる階段昇降機であって、階段昇降時に、人が搭乗可能な状態における階段昇降機の最前部より後方である退避位置から、階段昇降機を支持する作動位置まで移動可能な支持アームと、異常不検出時には支持アームを退避位置に保持し、異常検出時には支持アームを作動位置まで移動させるとともに、支持アームが作動位置から退避位置方向へ移動することを阻止する支持アーム作動手段と、を含むものである。
【0009】
この場合、支持アームが、異常を検出していない、通常時において、人が搭乗可能な状態における階段昇降機の最前部(車椅子が着脱可能なものについては、車椅子が装着された状態における車椅子も含んだ全体の最前部、車椅子と一体化されている場合も同じ。)よりも前方に突出しないため、狭い領域での操作性を向上することができる。
【0010】
すなわち、通常時(異常不検出時)においては、支持アームの先端部が、階段昇降機の最前部より前方に突出しないため、回転半径を小さくすることができ、狭い場所で方向を容易に変えることができる。
さらに、この場合、支持アームの先端部が、人が搭乗可能な状態における階段昇降機の最前部(支持アームを除いた部分)よりも前方に突出しないため、乗降の際に使用者の足が引っかかることも防止できる。
【0011】
(2)
第2の発明に係る階段昇降機は、一局面に従う階段昇降機において、支持アームは、退避位置から作動位置まで自重により移動可能に構成され、支持アーム作動手段は、異常不検出時に支持アームを退避位置で保持し、異常検出時に支持アームを作動位置まで移動可能とするロック手段と、支持アームが退避位置から作動位置方向へ移動することを許容し、支持アームが作動位置から退避位置方向へ移動することを阻止するワンウェイクラッチ手段と、を有するものである。
【0012】
この場合、異常不検出時には、ロック手段により退避位置に支持アームを保持でき、異常検出時には、作動位置まで支持アームが自重により移動し、かつ、ワンウェイクラッチ手段により支持アームが作動位置から退避位置方向へ移動することが機械的に阻止される。したがって、支持アームを駆動するためにモータなどを別途設ける必要が無く、構成をコンパクトにできるとともに、ワンウェイクラッチ手段により機械的に移動が阻止されるため、より確実に階段昇降機を支持することができる。
【0013】
(3)
第3の発明に係る階段昇降機は、一局面または第2の発明に係る階段昇降機において、支持アームは、多段の伸縮機構を有するものである。
【0014】
この場合、支持アームは、多段の伸縮機構を有するので、支持アームの配置の自由度があがり、階段昇降機のコンパクト化を図ることができる。さらに、支持アームの長さの自由度があがるので、段差の大きな階段でも対応することができる。
【0015】
(4)
第4の発明に係る階段昇降機は、一局面、第2または第3の発明に係る階段昇降機において、階段昇降機の前方への傾きを検出する角度検出手段と、階段昇降機の車輪の接地状況を検出する接地検知手段と、を備え、角度検知手段の検知結果が所定以上であり、かつ接地検知手段により車輪が接地していないと検知したときに異常と判断するものである。
【0016】
この場合、角度検知手段の検知結果が所定以上、前方に傾いている場合であり、かつ接地検知手段により階段昇降機の車輪が接地していないと検知したときに異常と判断するので、例えば、単に前方に傾けただけの場合などに不用意に支持アームが作動位置に移動することを防止できる。その結果、操作性と安全性とを確実に両立することができる。なお、本発明において、車輪は階段昇降機に設けられた前輪、後輪その他の車輪のいずれであっても構わない。
【0017】
(5)
第5の発明に係る階段昇降機は、第4の発明に係る階段昇降機において、車輪は支持アームの先端に設けられたものであり、前記車輪は支持アームが退避位置にある場合において、人が搭乗可能な状態における階段昇降機の最も前方に位置する車輪よりも後方であってもよい。
【0018】
この場合、平地走行時において、ある程度の大きさを持つ(例えば8インチ)最前の車輪により段差が乗り越えられるため、支持アームの先端に設けられた車輪が段差に引っかかって、接地検知手段が破損するおそれが低くなる。よって支持アームの先端に設けられた車輪は小さくてすみ、接地検知手段を保護するために特別な構造を採用する必要も無いため、シンプルに構成でき、その結果、操作性が向上する。
【0019】
(6)
第6の発明に係る階段昇降機は、第4の発明に係る階段昇降機において、大径の車輪を着脱可能な車輪保持部をさらに有し、支持アームの退避位置における支持アームの先端に設けられた車輪は、着脱可能な車輪よりも後方に設けられてもよい。
【0020】
この場合、平地走行時において、大径の車輪、例えば16インチ以上の車輪により、より大きな段差が乗り越えられるため、支持アームの先端に設けられた車輪が段差に引っかかって、接地検知手段が破損するおそれがより低くなる。一方、昇降時においては大径の車輪は取り外せるため、階段昇降の障害にならない。よって支持アームの先端に設けられた車輪は小さくて済み、接地検知手段を保護するために特別な構造を採用する必要も無く、大径の車輪が階段昇降に支障にならないため、シンプルに構成でき、その結果、操作性が向上する。
【0021】
(7)
第7の発明に係る階段昇降機は、一局面、第2から第6の発明に係る階段昇降機において、作動位置における支持アームの先端部は、人が搭乗可能な状態における階段昇降機の重心よりも前方になるように配置されている。
【0022】
作動位置における支持アームの先端部が、階段昇降機の重心よりも前に配置されているので、階段昇降機のバランスが崩れた際に、バランスを確実に確保することができる。
【0023】
(8)
第8の発明に係る階段昇降機は、一局面、第2から第7の発明に係る階段昇降機において、支持アームが作動位置に移動した後に、作動位置から退避位置方向への移動を可能とする支持アーム復帰手段が設けられていてもよい。
【0024】
この場合、支持アームが作動位置に移動した後、支持アーム復帰手段により異常不検出時に通常の使用に戻ることができる。
【0025】
(9)
第9の発明に係る階段昇降機は、第8の発明に係る階段昇降機において、支持アーム復帰手段は、操作者の操作によって、ワンウェイクラッチ手段を解除するアクチュエータと、支持アームを索状部材により作動位置から退避位置方向に移動させる復帰駆動機構を備えるものである。
【0026】
この場合、操作者の操作によってアクチュエータを作動させて支持アーム復帰手段を解除でき、復帰駆動機構により支持アームを索状部材により作動位置から退避位置方向に移動させることができる。したがって、操作者は支持アームを退避位置方向に移動させるために直接触る必要が無いため、操作が容易となる。また、ワイヤおよびチェーン等の索状部材を用いているので、支持アーム復帰手段の配置の自由度を高めることができるので全体として階段昇降機をコンパクトにできる。
【0027】
(10)
第10の発明に係る階段昇降機は、第9の発明に係る階段昇降機において、復帰駆動機構は、ロック機構として機能するものである。
【0028】
この場合、復帰駆動機構がロック機構としても機能するため、復帰駆動機構とロック機構を別々に設ける必要が無く、階段昇降機をコンパクトに構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1の実施の形態に係る階段昇降機の一例を示す模式的側面図である。
【図2】図1に示す駆動脚装置の駆動脚部の動作の一例を説明するための模式図である。
【図3】図1に示す駆動脚装置の駆動脚部の動作の一例を説明するための模式図である。
【図4】図1に示す駆動脚装置の駆動脚部の動作の一例を説明するための模式図である。
【図5】本実施の形態に係る支持装置の模式的斜視図である。
【図6】図5の支持装置の伸縮支持脚の概略構造の一例を示す模式的斜視図である。
【図7】図6の支持装置の伸縮支持脚の伸張時の構造を示す模式的斜視図である。
【図8】上段ロック、中段ロックおよび孔の詳細を説明するための模式的拡大図である。
【図9】図6および図7で説明した制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図10】階段昇降機の傾斜時の動作を示す図である。
【図11】第2の実施の形態に係る階段昇降機の例を示す模式的側面図である。
【図12】第2の実施の形態に係る階段昇降機の例を示す模式的側面図である。
【図13】第1の実施の形態と、さらに他の例とを説明する模式図である。
【図14】第1の実施の形態と、さらに他の例とを説明する模式図である。
【図15】第1の実施の形態と、さらに他の例とを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。本実施の形態においては、階段昇降機に座席が設けられている場合について、説明を行う。なお、本発明は、これに限定されず、車椅子が取り外し可能に設けられる階段昇降機であってもよく、また車椅子と一体になっていてよい。さらには昇降の対象としては人に限定されず、他の荷物運搬用の階段昇降機、その他任意の階段昇降機に適用することができる。
【0031】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る階段昇降機100の一例を示す模式的側面図である。
【0032】
図1に示すように、階段昇降機100は、搭乗部200、支持装置600(図5参照)、駆動脚装置400を含む。更に支持装置600は、伸縮支持脚300、伸縮機構500および制御装置700を含む。
【0033】
さらに、図1に示すように、階段昇降機100には、操作者(介護者)が把持することができる把持部220が更に設けられている。
【0034】
また、図1に示すように、搭乗部200には、被介護者をのせることができるシート210が設けられている。
【0035】
図1に示すように、階段昇降機100の下方、すなわち搭乗部200の下方に該当する部位に、伸縮機構500が設けられており、伸縮機構500の下部に伸縮支持脚300が配設されている。
なお、当該伸縮機構500は、後述するように、階段昇降機100に固設されている。更に伸縮機構500の近傍に制御装置700も設けられている。
また、本実施の形態に係る階段昇降機100において、主に平地を走行するための大径車輪252が階段昇降機100に設けられた車輪保持部(図示せず)を介して、着脱可能に設けられるように構成されていても良い。更に大径車輪252は、車輪250や後述する一対の駆動脚部420が走行時に障害物等に衝突しないようにこれらが比較的上方になるように取り付けられるように構成されていてもよい。
【0036】
(駆動脚装置)
さて、駆動脚装置400には、階段を昇降するための一対の駆動脚部420が設けられている。以下、一対の駆動脚部420の動作詳細について説明する。
【0037】
図2から図4は、図1に示す駆動脚装置400の駆動脚部420の動作の一例を説明するための模式図である。図2(a)、図2(b)、図3(c)、図3(d)および図4(e)は、順に駆動脚部420の駆動工程をあらわしている。
【0038】
まず、図2(a)に示すように、駆動脚装置400には、駆動部が内蔵されており、駆動部にクランク410が接続されている。クランク410には、駆動脚部420が取り付けられている。このクランク410が、矢印R1の方向に回転することにより、駆動脚部420が鉛直下方向に移動する。
【0039】
次に、図2(b)に示すように、さらに、クランク410が矢印R1の方向(図2(a)参照)に回転した場合、駆動脚部420が階段の水平面部に接地する。この駆動脚部420は、下端部が直角に曲折して設けられている。すなわち、駆動脚部420の先端は、略L字状に形成されている(図1参照)。それにより、階段の水平面部に確実に接地することができる。
【0040】
次いで、図3(c)に示すように、さらに、クランク410が矢印R1の方向(図2(a)参照)に回転した場合、駆動脚部420が階段の水平面部に接地して、鉛直下方向に押す力が発生し、その反力により、駆動脚装置400および階段昇降機100が、階段の水平面部から斜め鉛直上方向に移動する。さらに、図3(d)に示すように、さらに、クランク410が矢印R1の方向に回転した場合、階段昇降機100の車輪250が、一つ上の階段の水平面部に接地する。
【0041】
続いて、図4(e)に示すように、さらに、クランク410が矢印R1の方向に回転した場合、階段昇降機100の車輪250が、一つ上の階段の水平面部に接地しつつ、駆動脚装置400および駆動脚部420が、一つ下の階段の水平面部から斜め鉛直上方向へ移動する。
【0042】
この図4(e)に示す場合、階段昇降機100は、駆動脚部420が階段と接地しておらず、車輪250のみが階段と接地しているため、階段昇降機100自体が前後方向に移動自在な状態となっている。
【0043】
この場合に階段昇降機100が、階段を降りる方向に急激に移動すると、車椅子200に乗っている被介護者が不安を感じる場合がある。このとき階段昇降機100の姿勢角度は所定のベクトル量を超えた状態となる。このベクトル量は、制御装置700に設けられた加速度センサ(ジャイロセンサ等も含む)によって検出される。
【0044】
この加速度センサとして2軸のものを用いた場合、ベクトル量としての角変位(角度)は、2軸から得られるの重力加速度の比率から算出することができる。また角速度は角変位の変化率を、角加速度はこの角速度の変化率をマイコン等の演算装置で算出して、得ることができる。
【0045】
なお、ベクトル量としては、角変位、角速度、角加速度の何れかを単独で用い、所定の値として、ただ1つの固定値だけを持つこともできるが、角変位ごとに許容される角速度を設定し、これを所定の値とすることもできる。このようにすれば、急激に姿勢が変化した場合、すなわち運動エネルギーが大きい場合にもより確実に安全性を確保できるようになる。
【0046】
(伸縮支持脚)
以下、本実施の形態に係る階段昇降機100は、所定のベクトル量を超えた場合、支持装置600の伸縮支持脚300により機械的に階段昇降機100を支持する点について説明する。
【0047】
図5は、本実施の形態に係る支持装置600の模式的斜視図であり、図6は、図5の支持装置600の伸縮支持脚300の内部構造を示す模式的斜視図であり、図7は、図6の支持装置600の伸縮支持脚300の伸張時の構造を示す模式的斜視図である。
【0048】
ここで、図5は、カバー部材690を設けた状態を示しており、図6および図7は、構造を説明するために、カバー部材690を取り除いた状態を示している。
【0049】
図5に示すように、支持装置600は、カバー部材690により内部が保護されている。また、支持装置600は、一対の保持部材691および保持部材691を固定する保持部材692により階段昇降機100本体に固定される。
【0050】
また、図5に示す伸縮支持脚300の補助車輪360は、平地走行の支障とならないように、前後左右の方向(図中の矢印R11)に回転することができる。
【0051】
また、図6および図7に示すように、支持装置600の内部には、主に伸縮支持脚300、伸縮機構500および制御装置700を備える。
【0052】
伸縮支持脚300は、それぞれ一対の上段アーム301、中段アーム302、下段アーム303からなり、下段アーム303の先端には、階段等に接地するための接触部304が設けられている。また一対の下段アーム303を渡すように、軸が設けられ、当該軸に取り付けられた補助ブラケット361を介して補助車輪360が設けられる。補助車輪360は、階段昇降機100の前後方向に揺動可能に設けられ、バネによって階段昇降機100の後方に向かって付勢されている。つまり、補助車輪360が接地しているときは、バネの付勢力に打ち勝って、補助車輪360は階段昇降機100の前方に揺動し、逆に補助車輪360が接地していないときは、バネの付勢力によって補助車輪360は階段昇降機100の後方に揺動する。そして、補助車輪360には、接地センサとして、補助車輪360のこの揺動を検知する検知部365が設けられる。
【0053】
また、上段アーム301の内部に中段アーム302が収容され、中段アーム302の内部に下段アーム303が収容されている。それぞれ一対の中段アーム302および下段アーム303の内両側には、各アームの延在方向に沿って、多数の矩形状の孔302h,303hが設けられる。
【0054】
(伸縮機構)
中段ロック560は、孔303hに挿入される方向にバネによって付勢されている。同様に上段ロック550は、孔302hに挿入される方向にバネによって付勢されている。
【0055】
ここで、図8は、上段ロック550,中段ロック560および、孔302h,303hの詳細を説明するための模式的拡大図である。なお同様の機構が左右対称に設けられている。
さて、図8に示すように、上段ロック550および中段ロック560が軸C51を中心に揺動可能に設けられており、上段ロック550および中段ロック560の先端形状は、矢印Gの方向に中段アーム302,下段アーム303が自重移動により伸縮しやすいようテーパー形状となっており、矢印Gと逆方向には、中段アーム302,下段アーム303が縮まない形状となっている。つまり、矢印G方向へのワンウェイクラッチを構成している。すなわち、上段アーム301、中段アーム302、下段アーム303が伸びる方向では、孔303h、孔302hの側壁が上段ロック550および中段ロック560のテーパー形状部分に沿ってG方向に移動するため、軸C51を中心に上段ロック550および中段ロック560は容易に揺動し、上段アーム301、中段アーム302、下段アーム303は自由に伸張することができる。一方、上段アーム301、中段アーム302、下段アーム303が縮む方向、つまりG方向とは反対方向の力を受けた場合、上段ロック550および中段ロック560のテーパー形状が設けられた側の先端が、軸C51を中心に、孔303h、孔302hに食い込む方向に回転(図8では反時計方向)することで、上段アーム301、中段アーム302、下段アーム303は自由に収縮することができなくなっている。
【0056】
その結果、上段アーム301,中段アーム302,下段アーム303が伸びる方向(矢印G方向)には自由に移動させ、逆に縮み方向(矢印Gと逆方向)の移動は阻止することができる。
【0057】
また、一対の中段アーム302の下側に中段解除ソレノイド561が設けられ、一対の上段アーム301の下側に上段解除ソレノイド551が設けられる。
【0058】
上段解除ソレノイド551または中段解除ソレノイド561がONした場合、矢印P51の方向に力が加わる。その結果、上段ロック550および中段ロック560が軸C51を中心に回動(図8では時計方向)し、上段ロック550および中段ロック560の先端が、強制的に孔302h,303hから抜き出される。
【0059】
次いで、図6および図7に示すように、ケーブルベア598は、ガイド599内に沿って移動する。ケーブルベア598内には、中段解除ソレノイド561への電源ラインおよび配線ケーブル等が収容されている。その結果、ケーブルベア598により電源ラインおよび配線ケーブルを保護することができる。
【0060】
また、上段アーム301の上部には、巻き上げモータ512が設けられており、巻き上げモータ512の軸には、プーリー509、プーリーカバー510およびクラッチ511が設けられる。プーリー509には、ワイヤWが取り付けられ、ワイヤWの他端は、補助車輪360の軸近傍に取り付けられている。
また、上段アーム301には、リミットスイッチLSが設けられている。
【0061】
(制御装置の動作)
図9は、図6および図7で説明した支持装置600に内臓された制御装置700の動作を示すフローチャートであり、図10は階段昇降機100の傾斜時の動作を示す図である。
【0062】
図9に示すように、制御装置700が加速度センサからの情報に基づいて階段昇降機100のベクトル量、すなわち前方への傾き(図10の矢印R100の方向)が所定以上であるか否かを判定する(ステップS1)。ここで、制御装置700が所定以上の傾きではないと判定した場合(ステップS1のNo)、は別の処理に戻る。
一方、前方への傾きが所定以上であると判定した場合(ステップS1のYes)、制御装置700は、接地センサからの情報に基づいて補助車輪360が接地しているか否かの判定を行う(ステップS2)。
【0063】
補助車輪360が接地していると判定した場合、制御装置700は、別の処理に戻る。
一方、補助車輪360が接地していないと判定した場合、制御装置700は、ロック手段解除処理を実施する(ステップS3)。
【0064】
(ロック手段解除処理)
ここで、ロック手段解除処理について説明を行う。ロック手段解除処理において、まず、制御装置700は、ワイヤWを保持するプーリー509が巻き上げモータ512から切り離されて、自由に回転可能な状態となるようクラッチ511を動作させる。
その結果、プーリー509が回転しながら、ワイヤWが伸びつつ、上段アーム301内から中段アーム302および下段アーム303が自重により伸張する。
【0065】
そして、接触部304が接地することにより、中段アーム302および下段アーム303の伸張動作が停止し、上述の通り、上段ロック550および孔302hと、中段ロック560および孔303hとが嵌合して、接触部304が床面からの反力を受けても、中段アーム302および下段アーム303が上段アーム301内に縮むことが阻止される。
【0066】
このように、伸縮支持脚300は退避位置(図6参照)から作動位置(図7または図10参照)へ自重移動(図7の矢印Gの方向)して固定される。
【0067】
(復帰駆動動作)
次いで、伸縮支持脚300の復帰駆動動作について説明する。制御装置700は、階段昇降機100の傾きが所定以下になると、自動的に伸縮支持脚300の復帰信号が与えられ、中段解除ソレノイド561および上段解除ソレノイド551をONして、中段ロック560および上段ロック550を孔302h,303hと干渉しない位置に移動させる。つまり中段ロック560および上段ロック550を孔302h,303hから引き抜く。
【0068】
そして、クラッチ511を接続し、モータ512を駆動させて、プーリー509を回転させてワイヤWを巻き取る。そして、リミットスイッチLSにより上段アーム301内へ中段アーム302および下段アーム303が収容された場合に、モータ512の駆動を停止する。なお、上段解除ソレノイド551および中段解除ソレノイド561が同時にONされることとしたが、これに限定されず、所定時間後、例えばコンマ数秒後にONされてもよい。また、自動的に伸縮支持脚300の復帰信号が与えられるのではなく、把持部220に設けられたスイッチ操作により、与えるようにしても良い。
【0069】
(第2の実施の形態)
次に、図11および図12は、第2の実施の形態に係る階段昇降機100の例を示す模式的側面図である。以下、第2の実施の形態に係る階段昇降機100aが第1の実施の形態に係る階段昇降機100と異なる点について説明を行う。
【0070】
図11および図12に示すように、階段昇降機100aにおいては、伸縮機構500の代わりに移動機構500aを備える。すなわち、図11および図12に示すように、伸縮支持脚300の代わりに、支持脚303aを備える。支持脚303aは、第1の実施の形態と異なり、伸縮機構を有さない。
【0071】
また、支持脚303aの下端には、補助車輪360が設けられる。図11に示すように、支持脚303aは、階段昇降機100aの背面側に延在して配設されている。そして、階段昇降機100aの前方への傾きが所定以上である場合に、図12に示すように、支持脚303aが下方へ突出する機構になっている。
【0072】
(他の例)
図13、図14および図15は、第1の実施の形態における伸縮支持脚300の概略と、さらに他の例とを説明する模式図である。
【0073】
図13は第1の実施の形態に係る伸縮支持脚300の一例を示し、図14は他の例の伸縮支持脚300bの一例を示し、図14は他の例の伸縮支持脚300cの一例を示す。また、各図(a)が伸縮前を示し、(b)が伸縮後を示す。
【0074】
上述したように、図13(a),(b)に示すように、第1の実施の形態に係る伸縮支持脚300においては、一対の上段アーム301、一対の中段アーム302、一対の下段アーム303が設けられている。
【0075】
一方、図14(a),(b)に示すように、伸縮支持脚300bにおいては、上段アーム301b、一本の中段アーム302b、一本の下段アーム303bが設けられてもよい。
【0076】
さらに、図15に示すように、伸縮支持脚300cにおいては、パンダグラフを1または多数連結したアーム301cが設けられてもよい。
【0077】
なお、第1の実施の形態においては、伸縮支持脚300は、上段アーム301の内部に中段アーム302が収容され、中段アーム302の内部に下段アーム303が収容されることとしたが、これに限定されず、収納スペースがあるのであれば、並行に配置してもよく、他の任意の構造を用いてもよい。
【0078】
なお、本実施の形態においては、クラッチを利用することとしているが、これに限定されず、電磁ブレーキ等を用いてもよい。
また、ワイヤWの代わりに、チェーン、紐等の他の任意の部材を用いてもよい。
さらに、自重により上段アーム301、中段アーム302、下段アーム303が伸張することとしたが、これに限定されず、個別にモータを備えた伸張機構を設けてもよく、さらに伸張機構と併せてロック機構(伸縮阻止機構)を設けてもよい。
【0079】
以上の実施の形態に係る階段昇降機100では、伸縮支持脚300が、通常時において、人が搭乗可能な状態における階段昇降機100の最前部よりも前方に突出しないため、狭い領域での操作性を向上することができ、また乗降の際に搭乗者である被介護者の足が引っかかることも防止できる。
【0080】
また、多段の伸縮機構を有するので伸縮支持脚300の配置の自由度および伸縮支持脚300の長さの自由度があがり、階段昇降機100のコンパクト化の要望および段差の大きな階段対応の要望のいずれにも対応することができる。
【0081】
また、伸縮支持脚300の先端部が前方に突出しないため、回転半径を小さくすることができ、狭い場所で方向を変えることができる。また、補助車輪360は、前後左右(矢印R11の方向)に回動が可能であるため、狭い場所での方向転換を阻害しない。
【0082】
さらに、異常不検出時である通常時には、ワイヤWにより図6に示す退避位置に伸縮支持脚300を保持でき、異常検出時には、図7に示す作動位置まで伸縮支持脚300が自重により移動し、かつ、上段解除ソレノイド551、中段解除ソレノイド561、上段ロック550、中段ロック560、孔302h、孔303hのそれぞれの組み合わせからなるワンウェイクラッチ手段により伸縮支持脚300が作動位置から退避位置方向へ移動することが機械的に阻止される。
したがって、構成をコンパクトにできるとともに、ワンウェイクラッチ手段により機械的に移動が阻止されるため、より確実に階段昇降機100を支持することができる。
【0083】
また、加速度センサの検知結果が所定以上であり、かつ補助車輪360に設けられた接地センサにより補助車輪360が接地していないと検知したときに異常と判断するので、例えば、単に前方に傾けただけの場合などに不用意に伸縮支持脚300が作動位置に移動することを防止できる。その結果、階段昇降機100の操作性と安全性とを確実に両立することができる。
【0084】
さらに、補助車輪360が揺動可能に設けられているので、階段昇降機100の平地走行時において、最前の車輪251により段差が乗り越えられるため、伸縮支持脚300の先端に設けられた補助車輪360が段差に引っかかることにより生じる接地センサの破損を防止できる。また、大径車輪252、例えば8インチ以上の取り外し可能な大径車輪252を取り付けた場合には、当該取り外し可能な大径車輪252により段差が乗り越えられるため、伸縮支持脚300の先端に設けられた補助車輪360が段差に引っかかることにより生じる接地センサの破損を防止できる。
【0085】
さらに、作動位置における伸縮支持脚300の先端部が、階段昇降機100の重心よりも前方に配置されているので、階段昇降機100のバランスが崩れた際であっても、伸縮支持脚300によりバランスを確実に確保することができる。
【0086】
また、操作者は、把持部220に設けられたスイッチにより上段解除ソレノイド551、中段解除ソレノイド561を動作させ、モータ512、プーリー509、ワイヤWにより伸縮支持脚300を作動位置から復帰位置方向に移動させることができる。したがって、操作者は伸縮支持脚300を退避位置方向に移動させるために直接触る必要が無いため、操作が容易となる。また、ワイヤW等の索状部材を用いているので、配置の自由度を高めることができ、全体として階段昇降機100をコンパクトにできる。
【0087】
この場合、プーリー509およびクラッチ511からなる復帰駆動機構がロック機構としても機能するため、復帰駆動機構とロック機構を別々に設ける必要が無く、階段昇降機100をコンパクトに構成することができる。
【0088】
以上のように、本実施の形態においては、シート210は座席に相当し、階段昇降機100,100aは階段昇降機に相当し、図6に示す状態が退避位置に相当し、図7に示す状態が作動位置に相当し、伸縮支持脚300が支持アームに相当し、ワイヤWが索状部材に相当し、上段アーム301、中段アーム302、下段アーム303が多段の伸縮機構に相当し、プーリー509およびクラッチ511がロック手段および復帰駆動機構に相当し、上段解除ソレノイド551、中段解除ソレノイド561、上段ロック550、中段ロック560、孔302h、孔303hが、支持アーム作動手段およびワンウェイクラッチ手段に相当し、車輪251が最も前方に位置する車輪に相当し、取り外し可能な大径車輪252が大径の車輪に相当し、補助車輪360が先端に設けられた車輪に相当し、モータ512、プーリー509、ワイヤWが支持アーム復帰手段に相当し、上段解除ソレノイド551,中段解除ソレノイド561がワンウェイクラッチ手段を解除するアクチュエータに相当し、プーリー509およびクラッチ511がロック機構に相当する。
【0089】
また、本発明の好ましい一実施の形態は上記の通りであるが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他になされることは理解されよう。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用および効果を述べているが、これら作用および効果は、一例であり、本発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0090】
210 シート
100,100a 階段昇降機
300 伸縮支持脚
W ワイヤ
301 上段アーム
302 中段アーム
303 下段アーム
509 プーリー
511 クラッチ
551 上段解除ソレノイド
561 中段解除ソレノイド
550 上段ロック
560 下段ロック
302h,303h 孔
251 車輪
252 車輪
360 補助車輪
512 モータ
509 クラッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車椅子が着脱可能または車椅子と一体化され、或いは座席を備え、人を搭乗させて階段を昇降する際に用いる階段昇降機であって、
階段昇降時に、人が搭乗可能な状態における階段昇降機の最前部より後方である退避位置から、階段昇降機を支持する作動位置まで移動可能な支持アームと、
異常不検出時には前記支持アームを退避位置に保持し、異常検出時には前記支持アームを作動位置まで移動させるとともに、前記支持アームが作動位置から退避位置方向へ移動することを阻止する支持アーム作動手段と、を含むことを特徴とする階段昇降機。
【請求項2】
前記支持アームは、前記退避位置から前記作動位置まで自重により移動可能に構成され、
前記支持アーム作動手段は、
異常不検出時に前記支持アームを前記退避位置で保持し、異常検出時に前記支持アームを前記作動位置まで移動可能とするロック手段と、
前記支持アームが前記退避位置から前記作動位置方向へ移動することを許容し、前記支持アームが前記作動位置から前記退避位置方向へ移動することを阻止するワンウェイクラッチ手段と、を有することを特徴とする請求項1記載の階段昇降機。
【請求項3】
前記支持アームは、多段の伸縮機構を有することを特徴とする請求項1または2に記載の階段昇降機。
【請求項4】
前記階段昇降機の前方への傾きを検出する角度検出手段と、
前記階段昇降機の車輪の接地状況を検出する接地検知手段と、を備え、
前記角度検知手段の検知結果が所定以上であり、かつ前記接地検知手段により前記車輪が接地していないと検知したときに異常と判断する請求項1から3のいずれか1項に階段昇降機。
【請求項5】
前記車輪は前記支持アームの先端に設けられたものであり、前記車輪は前記支持アームが退避位置にある場合において、人が搭乗可能な状態における階段昇降機の最も前方に位置する車輪よりも後方であることを特徴とする請求項4に記載の階段昇降機。
【請求項6】
大径の車輪を着脱可能な車輪保持部をさらに有し、
前記支持アームの退避位置における前記支持アームの先端に設けられた車輪は、前記着脱可能な車輪よりも後方に設けられたことを特徴とする請求項4に記載の階段昇降機。
【請求項7】
前記作動位置における前記支持アームの先端部は、人が搭乗可能な状態における前記階段昇降機の重心よりも前方になるように配置されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の階段昇降機。
【請求項8】
前記支持アームが作動位置に移動した後に、前記作動位置から前記退避位置方向への移動を可能とする支持アーム復帰手段が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の階段昇降機。
【請求項9】
前記支持アーム復帰手段は、操作者の操作によって、ワンウェイクラッチ手段を解除するアクチュエータと、
前記支持アームを索状部材により前記作動位置から前記退避位置方向に移動させる復帰駆動機構を備えることを特徴とする請求項8に記載の階段昇降機。
【請求項10】
前記復帰駆動機構は、前記ロック機構として機能することを特徴とする請求項9記載の階段昇降機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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