説明

雄ねじ部材の固定構造

【課題】軸方向の張力を受ける雄ねじ部材を連結用板材に確実に連結することができ、その連結位置を容易に調整でき、かつ張力に直交する横方向荷重が繰返し作用しても雄ねじ部材の疲労破壊を確実に防止することができる雄ねじ部材の固定構造を提供する。
【解決手段】軸方向の張力Ftとこれに直交する横方向荷重Frが作用する雄ねじ部材10と、雄ねじ部材を通す貫通穴12aを有する平板状の連結用板材12と、貫通穴12aを通した雄ねじ部材10と螺合する固定用ナット14と、連結用板材と固定用ナットの間に挟持され横方向荷重Frの方向に揺動可能な揺動座金16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向の張力とこれに直交する横方向荷重が作用する雄ねじ部材の固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図2はエレベータパーキングの全体概略図である。この図において、31はケージ、32はワイヤーロープ、33はドラム、34はロープシーブ、35はカウンターウエイトであり、モータ36と減速機37によりドラム33を回転させ、これに巻き付けられたワイヤーロープ32を介してケージ31を昇降させ、これと同期してワイヤーロープ32を介して昇降するカウンターウエイト35により、ドラム33の回転負荷を軽減するようになっている。なおこの図において38は車両を載せるパレットである。
【0003】
この図において、例えばワイヤーロープ32をカウンターウエイト35に固定する箇所には、ワイヤーロープ32に連結された位置調整ボルト39が用いられる。この位置調整ボルト39には、ワイヤーロープ32の張力とワイヤーロープ32の位置変動により横方向荷重が作用する。
【0004】
張力と横方向荷重が作用する雄ねじ部材の固定構造は、例えば特許文献1に開示されている。
【0005】
図3は、特許文献1のエレベーターの概略図であり、図4は図3の要部の拡大斜視図、図5は吊りロッドの拡大斜視図である。
【0006】
図5に示すように、吊りロッド40の上端側には、ナット42が二段になって備わる。この二段のナット42で吊りロッド40はロッド吊り部材41に吊り下げ支持される。ナット42を二段に備えたのは、緩み止めのためである。またナット42が緩んで脱落しないよう割ピン43を備えて二重の安全を施している。
【0007】
図4に示すように、吊りロッド40の下側には、上側と同じ要領で二段のナットを備え、吊りロッド40に主索固定台53を吊るようにしている。またレールクリップ(図示せず)等を用いて主索固定台53をガイドレール52に固定するようにしている。支持腕54には3本の主索51が主索吊りロッド44によって吊られる。主索吊りロッド44はスプリングバネ等で形成された緩衝部材45を介し支持腕4に支持される。主索吊りロッド44の上端側に止めナット46を備えて主索吊りロッド44が支持腕54から抜けないようにしている。主索吊りロッド44と主索51は留金具47で確実に結合されている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−139260号公報、「エレベーター」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した位置調整ボルト39や吊りロッド40(以下単に、「雄ねじ部材60」と呼ぶ)は、図6に示すように、カウンターウエイトやロッド吊り部材に設けられた連結用板材62と連結するため、その周囲に雄ねじ部を有し、これと螺合するナット64a,64b,64cで連結用板材62を挟み締め付けるようになっていた。
【0010】
しかし、雄ねじ部材60には、これに連結されたワイヤーロープ、チェーン等(以下「ワイヤー等61」と呼ぶ)の張力Ftが作用すると同時に、これに直交する横方向荷重Frが繰返し作用する。
【0011】
従来の構造では、横方向荷重Frにより曲げモーメントが、雄ねじ部材と連結用板材の連結部に作用するため、雄ねじ部材の特定の位置に曲げ応力が繰返し作用し、この部分が疲労破壊により折損するおそれがあった。
【0012】
すなわち、雄ねじ部材の雄ねじ部は、従来の構造では、雄ねじ部材に自由度がない状態のため、曲げ応力を雄ねじ部材の曲げ剛性で受けてしまい、雄ねじ部材の表面に曲げ応力が発生する。また、雄ねじ部の切り欠き係数が大きいため、小さな曲げ荷重で疲労亀裂が発生し折損にいたる可能性があった。
【0013】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、軸方向の張力を受ける雄ねじ部材を連結用板材に確実に連結することができ、その連結位置を容易に調整でき、かつ張力に直交する横方向荷重が繰返し作用しても雄ねじ部材の疲労破壊を確実に防止することができる雄ねじ部材の固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、軸方向の張力とこれに直交する横方向荷重が作用する雄ねじ部材と、
該雄ねじ部材を通す貫通穴を有する平板状の連結用板材と、
前記貫通穴を通した雄ねじ部材と螺合する固定用ナットと、
連結用板材と固定用ナットの間に挟持され、前記横方向荷重の方向に揺動可能な揺動座金と、を備えた、ことを特徴とする雄ねじ部材の固定構造が提供される。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記揺動座金は、前記雄ねじ部材を通す内径と、前記貫通穴よりも大きい角形平板部と、該角形平板部の連結用板材側に一体的に突出し前記横方向荷重に直交する方向に延びる線状凸部とを有する。
【発明の効果】
【0016】
上記本発明の構成によれば、連結用板材の貫通穴に雄ねじ部材を通し、貫通穴を通した雄ねじ部材に固定用ナットを螺合することにより、軸方向の張力を受ける雄ねじ部材を連結用板材に確実に連結することができ、かつその連結位置を容易に調整できる。
【0017】
また、連結用板材と固定用ナットの間に張力に直交する横方向荷重の方向に揺動可能な揺動座金が挟持されているので、雄ねじ部材に横方向荷重が繰返し作用しても、揺動座金が揺動することにより雄ねじ部材に生じる曲げ応力を大幅に低減又は皆無にでき、その疲労破壊を確実に防止することができる。
【0018】
また、前記揺動座金が、角形平板部とその連結用板材側に一体的に突出し前記横方向荷重に直交する方向に延びる線状凸部とを有する構成により、雄ねじ部材に横方向荷重が繰返し作用しても、線状凸部の頂部で揺動座金が揺動することにより雄ねじ部材に生じる曲げ応力を実質的に皆無にでき、その疲労破壊を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明による雄ねじ部材の固定構造の実施形態図であり、(A)は側面図、(B)は(A)のB−B線における矢視図である。
この図に示すように本発明の雄ねじ部材の固定構造は、雄ねじ部材10、連結用板材12、固定用ナット14、及び揺動座金16を備える。
【0021】
雄ねじ部材10は、この例では全長にわたり外周に雄ねじ部10aを有する中実の丸棒である。またこの例で、雄ねじ部材10の上端は、留金具9を介してワイヤーロープ1に連結されている。なお留金具9は不可欠ではなくこれを省略してもよい。
この構成により、雄ねじ部材10には、ワイヤーロープ1からの軸方向の張力Ftが作用すると共に、ワイヤーロープ1の吊点の変動等に起因する張力Ftに直交する横方向荷重Frが作用する。
【0022】
なお、本発明はワイヤーロープ1に限定されず、チェーン等であってもよい。また、雄ねじ部材10に作用する張力Ftと横方向荷重Frの向きはこの例に限定されず、逆方向でも、その他の方向であってもよい。
【0023】
さらに、雄ねじ部材10の下端部には、直径方向に貫通する貫通穴10bが設けられている。この貫通穴10bに図示しない割りピンを挿入し、割りピンの軸より外側部分を折り曲げておくことにより、固定用ナット14が振動等で抜けるのを防止することができる。
【0024】
連結用板材12は、張力Ftに直交する方向に延びる平板状部材であり、雄ねじ部材10を通す貫通穴12aを有する。連結用板材12は、カウンターウエイトやロッド吊り部材に一体的に設けられている。貫通穴12aの内径は、雄ねじ部材10を隙間を隔てて通すように、雄ねじ部材10の外径より例えば1〜2mm大きく設定されている。
【0025】
固定用ナット14は、この例では上側ナット14aと下側ナット14bからなるダブルナットであり、貫通穴12aを通した連結用板材12より下側の雄ねじ部材10と螺合する。固定用ナット14にはゆるみ止めの強固なハードロックナットを用いる。
この構成により、上側ナット14aと下側ナット14bの間に隙間を開けた状態では、それぞれ回転させて雄ねじ部材10に沿って自由に移動することができる。また、上側ナット14aと下側ナット14bを逆方向に回転させて密着させることにより、各ナット(上側ナット14aと下側ナット14b)の雌ねじ部と雄ねじ部材10の雄ねじ部10aとの摩擦力を高めて振動等による緩みを防止することができる。
なお、固定用ナット14はダブルナットに限定されず、ワイヤーロープ1のより戻りがある場合には、ロックナットと割りピンの組み合わせであるのがよい。
【0026】
この図において、連結用板材12の上側にも据付用ナット15を備えている。この据付用ナット15は、据付時のセット用であり、実際の使用時には、連結用板材12から1〜2mmの隙間を隔て、揺動座金16の揺動を妨げないように設定するのがよい。
【0027】
揺動座金16は、連結用板材12と固定用ナット14の間(この例では連結用板材12の下側)に挟持され、横方向荷重Frの方向に揺動可能に構成されている。
この例において、揺動座金16は、角形平板部16aとこれと一体成形された線状凸部16bとからなる。角形平板部16aは、雄ねじ部材10を通す内径と、貫通穴12aよりも大きい外径とを有する。また線状凸部16bは、角形平板部16aの連結用板材側(この例で上側)に一体的に突出し、横方向荷重Frに直交する方向に線状に延びる。
線状凸部16bの頂部断面はこの例では約90度の角度をなす鋭角であるが、この角度は揺動座金16の揺動を許す限りで、90度以上であってもよい。また頂部断面を円弧にしてもよい。
【0028】
また、ワイヤロープ1のねじり戻りにより、雄ねじ部材10に軸回りの回転力が発生し、固定ナット14との摩擦により揺動座金16に回転力が作用する。揺動座金16は横方向荷重の方向にのみ揺動可能なため、回転すると曲げ応力が作用しない効果を失う。そのため、揺動座金16の回転を固定するために、形状を角形(この例では4角形、他の角形でも可能)として、連結用板材12には揺動座金16の回り止め部材17を設けている。
すなわちこの例において、回り止め部材17は、連結用板材12の下面に溶接等で固定されている。またこの回り止め部材17は、角形平板部16aの辺の1つに近接して位置し、角形平板部16aがその軸心を中心に回転しないようになっている。
特に、回り止め部材17を、角形平板部16aの辺のうち、線状凸部16bのある辺に近接して配置することのより、音が発生しなくなる。
【0029】
上述した実施形態の構成により、雄ねじ部材10に横方向荷重Frが作用しても、揺動座金16の線状凸部16bの頂部を支点として揺動座金16が揺動するので、雄ねじ部材10には曲げ応力が作用せず、雄ねじ部材に生じる曲げ応力を実質的に皆無にでき、その疲労破壊を確実に防止することができる。
【0030】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されない。すなわち本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による雄ねじ部材の固定構造の実施形態図である。
【図2】エレベータパーキングの全体概略図である。
【図3】特許文献1のエレベーターの概略図である。
【図4】図3の要部の拡大斜視図である。
【図5】吊りロッドの拡大斜視図である。
【図6】従来の雄ねじ部材の固定構造図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ワイヤーロープ、9 留金具、
10 雄ねじ部材、10a 雄ねじ部、10b 貫通穴、
12 連結用板材、14 固定用ナット、
14a 上側ナット、14b 下側ナット、
15 据付用ナット、16 揺動座金、
16a 角形平板部、16b 線状凸部、
17 回り止め部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の張力とこれに直交する横方向荷重が作用する雄ねじ部材と、
該雄ねじ部材を通す貫通穴を有する平板状の連結用板材と、
前記貫通穴を通した雄ねじ部材と螺合する固定用ナットと、
連結用板材と固定用ナットの間に挟持され、前記横方向荷重の方向に揺動可能な揺動座金と、を備えた、ことを特徴とする雄ねじ部材の固定構造。
【請求項2】
前記揺動座金は、前記雄ねじ部材を通す内径と、前記貫通穴よりも大きい角形平板部と、該角形平板部の連結用板材側に一体的に突出し前記横方向荷重に直交する方向に延びる線状凸部とを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の雄ねじ部材の固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−127333(P2010−127333A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300617(P2008−300617)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000198363)IHI運搬機械株式会社 (292)
【Fターム(参考)】