説明

集電装置用防音側壁、その製造方法およびそれを備えた鉄道車両

【課題】組立精度が高く、歪取りが殆どなくて作業性が良好であり、軽量化を達成することができ、更に、製造コストを更に低減可能な集電装置用防音側壁、その製造方法、およびそれを用いた鉄道車両を提供する。
【解決手段】集電装置用防音側壁3a,3bには、主部材として、二枚の面板と当該面板を接続する複数の接続板とから成る押出中空形材20が用いられている。鉄道車両1は、屋根構体1a上に設置されるパンタグラフ2に対応して、その車体幅方向両側の屋根構体1a上に、集電装置用防音側壁3a,3bを備えている。集電装置用防音側壁3a,3bは、長尺な押出中空形材20から、押出中空形材20の長手方向に互い違いに順次に切り出して製造することができる。また、車両走行時には、集電装置用防音側壁3a,3bの内部に面板と接続板とで形成される空洞部に気流を通すことで、側壁自身が発する空力騒音を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道車両の屋根上に設置されるパンタグラフや集電舟等の集電装置に隣接して当該屋根に設けられ、鉄道車両が高速走行する際に集電装置から発生して沿線周囲に及ぶ騒音を抑制する集電装置用防音側壁、その製造方法、およびそれを備えた鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両、特に、220Km/h以上で走行する高速鉄道車両においては、車体屋根上に設置された集電装置から発生する空力騒音および集電騒音が主要な車外騒音の一つである。これら集電装置の騒音は、車体屋根上から発生するため、軌道に設置された遮音壁を越えて軌道の周辺に伝播することになる。
【0003】
そこで、鉄道車両側の対策として、集電装置の車体幅方向両側に設置される防音側壁によって、前記集電装置からの騒音が軌道周辺へ伝播するのを抑えることが考えられる。このような集電装置から発生する騒音が、軌道周辺へ伝播するのを抑える例としては、特許文献1および特許文献2が挙げられる。
【0004】
特許文献1は、枠フレームと土台フレームとをホロー材で構成する集電装置の防音側壁である。前記枠フレームと土台フレームとの間には、二枚の面板およびハニカム芯材からなる本体部を構成している。この本体部は、内外の面板どうしを各フレーム側で一義的に決まる間隔を保った平行状態に連結し、一様な厚みとした簡単なハニカム芯によって相互を結合する構造となっている。
【0005】
特許文献1に記載の防音側壁は、枠フレームと土台フレームとからなり、両フレームの間に、二枚の面板およびハニカム芯からなる本体部を設置した構造であって、前記本体部は、内外の面板とハニカム芯をろう接または接着に結合した構成となっている。この本体部は、その厚さが一様な構造の場合には、比較的簡単に製作することができる。しかし、その厚さが変化する場合には、全体に亘ってハニカム芯と内外の面板の接合状態を均一に保つことが困難と思われるため、その製作には多大な労力と時間を要することが懸念される。
【0006】
一方、この種の防音側壁においては、その軽量化は必須の課題であるが、高速走行時における鉄道車両どうしのすれ違い時、或いは、トンネルへの突入時の圧力変動、または、横風によって煽られるため、煽り剛性が必要であり、前記軽量化と相反する状況にある。したがって、前記本体部の厚さを極力薄く、かつ、厚さを一様なものとした場合、防音側壁全体の強度を前記枠フレームおよび土台フレームによって確保する必要があり、各フレームの重量増加が懸念される。また、前記各フレームを炭素繊維強化プラスチック等の軽量素材によって製作することも考えられるが、この種の材料はアルミ合金材料に比べて、非常に高価な材料であり、材料費の増大が懸念される。
【0007】
特許文献2には、集電装置の側方の車体屋根に取付けられ、前記集電装置から発生する騒音を遮蔽する遮音板が記載されており、車体長手方向と直交する断面における、前記車体屋根との取付部分の近傍位置に、内側から外側に向けて窪む第1の窪み部が長手方向に延在するように形成されているとともに、上端部の近傍位置に、外側から内側に向けて窪む第2の窪み部が長手方向に延在するように形成されている。
【0008】
特許文献2に記載の集電装置の遮音板は、前記第1の窪み部によって、左右両側の遮音板間の定在波による影響と考えられる特定周波数での遮音効果の低下を防止するものである。さらに、第2の窪み部によって、上端部を回折した音と第2の窪み部で反射した音とが互に打ち消しあって騒音レベルを低減する構造となっている。
【0009】
特許文献2に記載の集電装置の遮音板は、車体長手方向に直交する断面における第1および第2の窪み部を有しており、その断面形状が垂直板部と傾斜板部とを組合せた複雑な形状となっている。この遮音板の断面形状に関しては種々の例が示されているが、当該遮音板自体の構造に関しては、具体的な例が示されていない。この遮音板を骨部材と板部材とから構成する場合には、前記複数の窪みに対応した骨部材および板部材を構成して結合しなければならず、その製作には多大な労力と時間を要することが懸念される。
【0010】
また、前記防音側壁或いは遮音板は、鉄道車両の高速走行時にそれ自体から発生する空力騒音について、十分に対策されているとは言い難い。すなわち、防音側壁或いは遮音板自体の空力騒音は、鉄道車両の高速走行時に、これらの内外の表面を流れる空気流がその後縁から離れるときに剥離し、その後方で渦の方向が交互に変化するカルマン渦を生じ、このカルマン渦から空力騒音が発生していると考えられる。このカルマン渦についても、簡単な構造でその抑制を図る為の対策が必要である。
【特許文献1】特許第3908214号公報
【特許文献2】特開2006−159938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、集電装置から生じる騒音の沿線への影響を抑制する集電装置用防音側壁において、構造の簡略化を図ることに解決すべき課題がある。また、その構造の簡略化に伴って製作性の向上あるいは軽量化についても解決すべき課題がある。
さらに、集電装置用防音側壁自体から発生する空力騒音を抑制する点で解決すべき課題がある。
【0012】
この発明の目的は、必要な強度を確保しつつ、構造の簡単な集電装置用防音側壁を提供することにある。
また、この発明の目的は、防音側壁自体から発生する空力騒音を抑制することができる集電装置用防音側壁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、この発明による集電装置用防音側壁は、二枚の面板と当該面板を接続する複数の接続板とから成る押出中空形材を用いて構成されていることを特徴とする。また、この集電装置用防音側壁において、押出中空形材は、接続板が延びる方向を車体長手方向に沿う方向として適用されており、両面板と隣り合う前記接続板との間には車体長手方向に延びる中空通路を形成し、この中空通路を防音側壁の車体長手方向の両端部において外部に車体長手方向に開口させることができる。この空洞部は両端が開口しているので、車両走行時に空気流れが通ることができる通路となる。
【0014】
また、この発明による鉄道車両は、屋根上に設置される集電装置に対応して、前記集電装置の車体幅方向両側の前記屋根上に、上記の集電装置用防音側壁を備えたことを特徴とする。
【0015】
更に、この発明による集電装置用防音側壁の製造方法は、二枚の面板と当該面板を接続する複数の接続板とから成る長尺な押出中空形材から、集電装置用防音側壁を、前記押出中空形材の両側縁部分をそれぞれ前記集電装置用防音側壁の短い側壁上辺部と長い側壁下辺部とに互い違いに対応させて、前記押出中空形材の長手方向に順次に切り出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この発明による集電装置用防音側壁は、二枚の面板と当該面板を接続する接続板とから成る押出中空形材を用いて構成されているので、簡単に且つ低コストで構成し、製造することができる。
また、この集電装置用防音側壁において、二枚の面板と接続板で形成される空洞部を、空気流れが通ることができる通路として利用することにより、車両走行時に、集電装置用防音側壁自体が発生させていたカルマン渦等に起因した空力騒音の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付した図面に基づいて、この発明による集電装置用防音側壁およびそれを備えた鉄道車両の実施例を説明する。図1はこの発明による集電装置用側壁の一実施例と、それが適用された鉄道車両の要部を示す斜視図である。
【0018】
図1に示す集電装置用防音側壁およびそれが適用された鉄道車両において、1は車体であり、車体1を構成する屋根構体1aの上面には、車体幅方向の中央領域に集電装置としてのパンタグラフ2が設置されている。パンタグラフ2は、舟体,上枠組,下枠組,碍子脚2a、碍子2b等からなる公知のものであるので、ここではこれ以上の詳細な説明を省略する。また、このパンタグラフ2の鉄道車両走行方向の前後位置には、碍子脚2aおよび碍子2bへ、走行風が直接衝突するのを避けるためのカバーが設置されるのが一般的であるが、図示を省略した。車体1の屋根構体1a上には、パンタグラフ2の側方で且つ車体幅方向の端部近傍に、パンタグラフ2が発生させる騒音が沿線へ伝播するのを抑える遮音・防音手段としての集電装置用防音側壁(以下、「防音側壁」と略す)3a,3bが設けられている。
【0019】
防音側壁3a,3bは、屋根構体1aと側構体1b,1bとが接続される車体長手方向に延びる側端縁1c,1cに沿って立設されている。防音側壁3aおよび防音側壁3bは、主部材として押出中空形材20を用いて構成されており、向かい合って対称配置された同じ構造のものであるので、以下、総称して防音側壁3として説明する。
【0020】
図2は、図1に示した防音側壁の一部を切断し且つ拡大して示す斜視図である。防音側壁3は、主部材として用いられる押出中空形材20は、対向して配置された面板21,22と、これら面板21と面板22の内面側で両者を接続する複数の接続板23,23…とから構成されている。防音側壁3は押出中空形材20を用いて構成されているので、面板21,22と接続板23とは形材の押出成形による製造時に一体的なものとして製造される。近年、押出中空形材の製造技術は、その幅寸法が徐々に拡大しており、本実施例では防音側壁3を上下方向に二つの形材を並べて接合した例を示しているが、両者の接合部分詳細構造は、図示を省略した。なお、二つの押出中空形材の接合に際しては、摩擦攪拌接合或いはアーク溶接等の接合技術を用いて接合される。摩擦攪拌接合により接合する方が、アーク溶接に比べて、接合部分の歪を抑制することができ、且つ機械的特性においても優れていることは言うまでもない。なお、前記防音側壁3を一つの押出中空形材によって製作する場合には、面板21,22と接続板23とを溶接等で結合させる作業はまったく不要である。
【0021】
押出中空形材20においては、接続板23が延びる方向Xは車体長手方向に沿う方向とされる。この方向は、車体1の屋根構体1aや側構体1b,1bが押出中空形材を用いて構成される場合において、その接続板が延びる方向と同じである。また、防音側壁3の車体長手方向の一方の端部4には、押出中空形材20の隣り合う接続板23,23間に形成されている複数の空洞部24にそれぞれ個別に連なる複数の開口部6が形成されている。他方の端部5においても、複数の空洞部24にそれぞれ個別に連なる複数の開口部7が形成されている。
【0022】
防音側壁3は、パンタグラフ2の側方に対応して且つ車体長手方向に同じ態様で延びるように配置されている。また、防音側壁3は、車体1の側方から見て左右対称形であり、屋根上面に取付けられる側壁下辺部8から側壁上辺部9に至るに従って幅寸法が狭くなるように構成されており、それゆえ車体側方から見て、左右対称な台形状に形成されている。したがって、防音側壁3は、車両の進行方向に関わらず、車両走行時における空力的な状況は同様となる。側壁下辺部8には、屋根構体1aへの幅広の固定部12が一体に形成されている。また、側壁上辺部9の上端縁部13は滑らかに加工された端縁となっている。このように防音側壁3は、側壁下辺部8から側壁上辺部9までの全体が押出中空形材20によって構成されている。
【0023】
図3は、本発明による防音側壁についての気流の様子を当該防音側壁の上方から見た説明図である。車両走行時(図3の左方向へ走行する場合を想定)には、防音側壁3の周辺外気の流れ25は、防音側壁3の表面10,11に沿う流れ26,27となって流れるとともに、流れ25のうち防音側壁3の前縁となる端部4に進んで来た流れ25aは、そのまま開口部6に進入し、空洞部24を通路とした気流28となって流れ、反対側の後縁5の開口部7から気流29として流れ去る。かかる気流29が存在しているために、表面10,11に沿う気流26,27が後縁5から剥離して流れる後流において、後縁5から剥離した流れが回り込みにくくなり周期的な渦列の発生を抑制できる。
【0024】
したがって、前縁4と後縁5の付近に従来生じていた空気流の淀みが生じ難く、空洞部24には前後方向に真っ直な流れが生じる。特に、後端部5からの後流においては、表面10,11に沿う流れ26,27と、開口部7から流れ去る流れ29との互いの干渉程度が少なくなり、走行風は後方にスム−ズに流れ、空気抵抗が減少する。このように、車両走行時の走行風を自然な形で防音側壁3内を通して流すことができる。そして、後縁5からの後流において従来生じやすかったカルマン渦が発生し難くなり、カルマン渦に起因して防音側壁3それ自体が発しようとする空力騒音(風切り音)の発生を防止・低減させることができる。この結果、防音側壁3について騒音および空気抵抗の増加を抑制できる。
【0025】
防音側壁3の車体長手方向両端部である前縁4および後縁5には、図7に示すように、翼の前縁の如く前後方向に丸みを帯びて膨出したU字型断面形状の端板60,61を設置して、防音側壁3の端部を塞ぐことができる。当該端板60,61に、風切り音等の騒音を極力抑えながら空気の流れ25を取り込み、空洞部24へ流す複数の空気取り入れ口62を形成することで、空洞部24の一部を塞ぐことも考えられる。また、それら端板60,61により、防音側壁後流にできる渦構造を効率良く崩壊させることができ、空力騒音の低減に繋げることができる。ところで、前記開口部6,7を構成する面板21,22および接続板23は、風切り音を極力発生しないように、その端部は丸みをおびた端面形状に加工されている。
【0026】
防音側壁3は、主部材として、対向して配置された面板21,22と当該面板21,22を接続する複数の接続板23とから成る押出中空形材を用いて構成されているので、押出形材として予め高精度に成形された形材を適宜の外形に切り取り、必要な整形を施すことで、溶接組立の場合等に必要となる歪取り等の作業が不要となり、簡単に且つ低コストで構成し、製造することができる。また、アルミ合金製の押出中空形材であるので、軽量化を図ることができる。
【0027】
また、防音側壁5において、面板21,22と接続板23で形成される空洞部24を、空気流れが通ることができる通路として利用することにより、車両走行時に従来、集電装置用防音側壁自体が発生させていたカルマン渦等に起因した空力騒音の発生を抑制することができる。
【0028】
図2および図3に示した防音側壁3は、面板21,22および接続板23の板厚を防音側壁全体寸法に比較して相対的に厚く図示しているが、これらの板厚は、防音側壁自体の所定の強度および剛性を確保できる範囲で、その板厚を極力薄くする。また。本実施例においては、防音側壁3の固定部12を除いて上方部分は、押出中空形材の厚さ寸法を一様に構成しているが、強度および剛性を確保しながら、軽量化を図るために、側壁下辺部8から側壁上辺部9に向って、各面板21,22および接続板23の板厚を徐々に薄く構成しても良い。このように、防音側壁3を構成する押出中空形材は、その面板21,22および接続板23の板厚を成形技術の範囲内で任意に設定でき、ほぼ均一な仕様の形材を大量に生産することができる。したがって、従来の骨部材と板部材とから構成されるものに比べて、防音側壁自体の製作が容易であり、製作コストおよび製作時間を低減することができる。
【0029】
面板21と面板22とを接続している接続板23は、各面板21,22に対して斜めに配置されていることから、トラス構造の如く、垂直荷重成分および水平荷重成分を同時に受け持つことができる。このため、防音側壁3は、従来の骨部材と板部材とからなる構造に比べて、高強度な構造とすることができる。
【0030】
また、押出中空形材は、その面板21,22の表面の平滑度が従来の骨部材と板部材とから構成されるものに比べて向上することから、見栄えを向上できるとともに、その表面の空気流の乱れを抑えることができるため、騒音低減も図ることができる。
【0031】
ところで、従来の骨部材と板部材とから構成される防音側壁において、骨部以外の面は車両集電装置側の外板と車両外側の外板の2枚で遮音している。しかし本発明によれば、二枚の面板と当該面板を接続する複数の接続板により構成されているので、音の透過を抑制することに優れている。更には、押出中空形材の内部において、面板21,22および接続板23に制振材や吸音材を貼付することも考えられる。このように押出中空形材自体に制振構造或いは吸音構造を構成することにより、防音性能の高い防音側壁を提供できる。
【0032】
図4には、防音側壁の別の実施例であって、車体側方から見た形状が台形をなしている場合の製造方法における一製造過程が示されている。図4(a)は長尺な中空押出形材の正面図、同(b)は側面図である。図4に示した中空押出形材30は、対向して配置された面板31,32と当該面板31,32の内面側で両者を接続する複数の接続板33とから成っている。かかる長尺な押出中空形材30から、防音側壁の主部材34,35がその長手方向に順次に切り出されて形成される。
【0033】
長尺な押出中空形材30からの防音側壁の製造方法においては、押出中空形材30を斜め直線状の切断線38,38で切断することにより、側方から見て左右対称な台形、若しくは矩形の防音側壁の主部材34が形成される。また、直線状の切断線38,38に近傍の曲線状の切断線(二点鎖線で示す)39,39で切断することにより、デザインが変更された防音側壁の主部材35が形成される。いずれの場合も、押出中空形材30の両側縁部分において互い違いに形成される長辺36および短辺37を、それぞれ防音側壁の側壁下辺部8と側壁上辺部9とに対応させることで、中空押出形材30の材料を無駄にすることなく、効率良く防音側壁の主部材33,34を製作することができる。なお、切り出した主部材33,34を一部、切除或いは切削する等の加工を施すことで、整形を施すことができる。
【0034】
図5には、防音側壁の別の実施例が示されており、押出中空形材40から構成される防音側壁46は、全体が湾曲した形状となっている。すなわち、屋根構体への固定部である側壁下辺部48から側壁上辺部49に向って、その中間部分が車体幅外方向へ膨らむように構成されている。また、防音側壁46は、側壁下辺部48から側壁上辺部49に向って、壁厚、すなわち面板41と面板42との間隔が狭くなっている。また、面板41,42および接続板43自体の板厚も、側壁下辺部48に近い部分より側壁上辺部49に近い部分の方が薄く構成されている。
【0035】
この防音側壁46によれば、集電装置(図示省略)からの騒音が軌道の沿線へ伝播するのを抑制することができる。また、防音側壁46が湾曲した形状となっていることから、集電装置の両側に設置した防音側壁間の定在波の影響と考えられる特定周波数での遮音効果低下を防止することができる。
【0036】
この防音側壁46は、複数の押出中空形材を接合して構成されているが、従来の骨部材と板部材とを接合して構成される構造に比べて、防音側壁46の湾曲形状を構成し易い。すなわち、従来の骨部材と板部材とから構成される構造では、複数の骨部材を湾曲した形状に成形し、それらを組合せて接合する。この骨組み構造に、予め曲面に成形した板部材を接合して側壁を構成することになる。これに対して防音側壁46は、押出成形によって湾曲した形状に成形された押出中空形材40を接合するだけで、防音側壁46自体の湾曲形状を構成することができる。したがって、従来の骨部材と板部材とから構成される構造に比べて、防音側壁46は、その製作が容易であり、生産コストおよび時間を低減することができる。また、押出中空形材40を用いることにより、防音側壁46の表面平滑化が図れる。
【0037】
図6には、防音側壁の別の実施例が示されており、押出中空形材50から構成される防音側壁56は、集電装置(図示省略)に面した内側の面板部分が湾曲し、反対側すなわち外側の面板部分はほぼ平面に形成されている。防音側壁56の屋根構体への固定部である側壁下辺部58から側壁上辺部59に向って、集電装置側(内側)の面板51が湾曲した形状となっている。面板51は、車両外側へ膨らむ、すなわち防音側壁56の内側に向かって窪むように湾曲している。防音側壁56を構成する集電装置の反対側(外側)の面板52は、ほぼ平面に構成されている。面板51と面板52は、接続板53によって接続され、一体の押出中空形材50を構成している。防音側壁56は、側壁上辺部59に近い位置に、ほぼ水平に伸びる突起54,55を備えている。この突起54,55は、防音側壁56の内側および外側にそれぞれ設置されており、押出成形時に一体に形成されている。よって、突起54,55は、防音側壁56の車体長手方向に連続して形成されている。防音側壁56は、図5に示した防音側壁46とほぼ同様に複数の押出中空形材から構成されている。
【0038】
面板51は、前記面板41と同様に特定周波数での遮音効果低下を防止することができる。面板52は、側壁下辺部58から側壁上辺部59にかけてほぼ平坦に構成されており、その形状が単純であることから、風圧を受けた場合の応力集中等の不具合が生じることを抑制することができる。面板51および面板52の側壁上辺部59の近傍に設けられた突起54,55は、集電装置の騒音が回折するのを防止することができる。
【0039】
ところで、前記防音側壁の各実施例においては、車体側方から見て略台形をなした形状のものとしているが、防音側壁の両端部をほぼ垂直に形成し、全体として長方形をなす形状とすることも考えられる。例えば、図1および図2に示した防音側壁3の側壁下辺8および側壁上辺9の車体長手方向の長さ寸法を一致させて、全体として長方形をなす形状とする。長方形の防音側壁は、音源である集電装置に対して遮音壁としての面積が広くなることから、軌道沿線への騒音の伝播を前記実施例より更に抑制することができる。また、長方形の防音側壁の場合、車両走行時にその後端部側に発生するカルマン渦に起因する空力騒音が増大することが懸念されるが、この防音側壁を構成する押出中空型材の空洞部を利用して、前端側の開口部から後端側の開口部を経て当該防音側壁後方へ走行風を流すことにより、カルマン渦を抑制し空力騒音を低減することができる。
【0040】
また、本発明によれば、従来、防音側壁後流にできる渦構造を破壊するために車両側面から見た防音側壁の形状を台形にしていたが、渦構造を効果的に壊すことができるので、台形両側の傾斜部を不要にすることもできる。この場合、防音側壁の更なる軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明による集電装置用側壁の一実施例と、それが適用された鉄道車両の要部を示す斜視図である。
【図2】図1に示した集電装置用防音側壁の一部を切断し且つ拡大して示す斜視図である。
【図3】本発明による防音側壁についての気流の様子を当該防音側壁の上方から見た説明図である。
【図4】この発明による集電装置用防音側壁の製造方法の一製造過程を示す説明図である。
【図5】この発明による集電装置用防音側壁の別の実施例を示す断面図である。
【図6】この発明による集電装置用防音側壁の更に別の実施例を示す断面図である。
【図7】この発明による集電装置用防音側壁の端板の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
1 車体 1a 屋根構体
1b,1b 側構体 1c,1c 側端縁
2 パンタグラフ(集電装置) 2a 碍子脚 2b 碍子
3,3a,3b 集電装置用防音側壁
4,5 端部 6,7 開口部
8 側壁下辺部 9 側壁上辺部
10,11 表面 12 固定部
13 上端縁部 14,15 屈折ライン
16 粒体
20 押出中空形材
21,22 板材 23 リブ
24 空洞部 25 外気の流れ 25a 気流
26,27 表面10,11に沿う気流 28 空洞部24を流れる気流
29 気流
30 中空押出形材 31,32 板材
33 リブ 34,35 防音側壁の主部材
36 長辺 37 短辺
38,39 切断線
40 押出中空形材 41,42 面板
43 接続板 46 防音側壁
48 側壁下辺部 49 側壁上辺部
50 押出中空形材 51,52 面板
53 接続板 54,55 突起
56 防音側壁
58 側壁下辺部 59 側壁上辺部
60,61 端板 62 孔
X 車体長手方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二枚の面板と当該面板を接続する複数の接続板とから成る押出中空形材を用いて構成されていることを特徴とする集電装置用防音側壁。
【請求項2】
請求項1に記載の集電装置用防音側壁において、
前記押出中空形材は、前記接続板が延びる方向を車体長手方向に沿う方向として適用されて、前記両面板と隣り合う前記接続板との間には車体長手方向に延びる中空通路が形成されており、
前記中空通路は、前記防音側壁の車体長手方向の両端部において外部に車体長手方向に開口していること
を特徴とする集電装置用防音側壁。
【請求項3】
請求項1に記載の集電装置用防音側壁において、
前記側壁の車体長手方向の両端部が丸みを帯びた端板によって塞がれていること
を特徴とする集電装置用防音側壁。
【請求項4】
請求項3に記載の集電装置用防音側壁において、
前記押出中空形材は、前記接続板が延びる方向を車体長手方向に沿う方向として適用されて、前記両面板と隣り合う前記接続板との間には車体長手方向に延びる中空通路が形成されており、
前記中空通路は、前記防音側壁の車体長手方向の両端部において外部に車体長手方向に開口しており、
前記端板には前記開口部に通じる孔が形成されていること
を特徴とする集電装置用防音側壁。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の集電装置用防音側壁において、
前記押出中空形材は、鉄道車両の屋根に取付けられる側壁下辺部から、前記集電装置の側方に対応し且つ前記防音側壁の車体長手方向中央に位置する領域における側壁上辺部に至るほど車体長手方向の長さを短くした台形状に形成されていること
を特徴とする集電装置用防音側壁。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の集電装置用防音側壁において、
前記押出中空形材は、鉄道車両の屋根に取付けられる側壁下辺部から側壁上辺部に至るまで車体長手方向の長さを一致させた長方形状に形成されていること
を特徴とする集電装置用防音側壁。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の集電装置用防音側壁において、
側壁下辺部と側壁上辺部との間で、車体幅方向内側の前記面板が前記押出中空形材の内部に向かって窪むように湾曲した湾曲板に構成されていること
を特徴とする集電装置用防音側壁。
【請求項8】
請求項7に記載の集電装置用防音側壁において、
側壁下辺部と側壁上辺部との間で、車体幅方向外側の前記面板が平板、または車外側へ膨らむように湾曲した湾曲板に構成されていること
を特徴とする集電装置用防音側壁。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の集電装置用防音側壁において、
前記集電装置用防音側壁の壁厚は、鉄道車両の屋根に取付けられる側壁下辺部から側壁上辺部に至るに従って薄くしたこと
を特徴とする集電装置用防音側壁。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の集電装置用防音側壁において、
前記押出中空形材の前記両面板の板厚および前記接続板の板厚は、鉄道車両の屋根に取付けられる側壁下辺部から側壁上辺部に至るに従って薄くしたこと
を特徴とする集電装置用防音側壁。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の集電装置用防音側壁において、
側壁上辺部の近傍に騒音回折防止用の突起が設けられていること
を特徴とする集電装置用防音側壁。
【請求項12】
屋根上に設置される集電装置に対応して、前記集電装置の車体幅方向両側の前記屋根上に、請求項1〜11のいずれか1項に記載の集電装置用防音側壁を備えたことを特徴とする鉄道車両。
【請求項13】
二枚の面板と当該面板を接続する複数の接続板とから成る長尺な押出中空形材から、集電装置用防音側壁を、前記押出中空形材の両側縁部分をそれぞれ前記集電装置用防音側壁の短い側壁上辺部と長い側壁下辺部とに互い違いに対応させて、前記押出中空形材の長手方向に順次に切り出すことを特徴とする集電装置用防音側壁の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−247159(P2009−247159A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92377(P2008−92377)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】