説明

離型剤供給装置

【課題】離型剤をより均一な速度で連続的に圧送することができる離型剤供給装置を提供する。
【解決手段】成形用モールドのキャビティに塗布する粉体状の離型剤を収納する離型剤タンク7と、キャビティと連通した分散室14と、離型剤タンク7から一定量の離型剤を抽出して分散室14に供給する抽出装置12と、分散室14に供給された離型剤を分散化するアジテータ部N5と、分散室14内の離型剤をキャビティに圧送する圧送機構N4と、アジテータ部N5によって離型剤が分散化している間に圧送機構N4を駆動させる制御装置とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形用モールドのキャビティに粉体状の離型剤を塗布する離型剤供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の離型剤供給装置に関連する先行技術文献情報として下記に示す特許文献1がある。この特許文献1に記された離型剤供給装置は、離型剤を収納する離型剤タンクと、キャビティと離型剤タンクとの間に設けられ、キャビティと連通した縦型の中継室と、離型剤タンクから一定量の離型剤を抽出して中継室に供給する抽出装置と、中継室内に一定量の離型剤が供給された時点で離型剤をキャビティに空気で圧送する圧送機構とを備えている。したがって、抽出装置によって略正確に抽出された離型剤をキャビティに圧送することができる。
【0003】
さらに、この種の離型剤供給装置に関連する他の先行技術文献情報として下記に示す特許文献2がある。この特許文献2に記された離型剤供給装置では、中継室(供給管)とキャビティとの間に、中継室とキャビティとを接続する配管よりも大きな内径の拡散部が設けられている。そのため、離型剤は、拡散部に流入するときの径の急増に伴う拡散により、拡散部で分散されるので均一な付着が行われるという趣旨の効果が記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−275855号公報(0029段落、図4)
【特許文献2】特開2004−223562号公報(0022段落、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記された離型剤供給装置では、圧送機構は中継室の底部側に塊状に堆積した離型剤を空気で送り出すことになるので、離型剤が均一な速度で連続的に圧送されず、キャビティ内に塗布される離型剤の厚さが不均一となる場合があった。その場合、離型剤の薄過ぎる箇所では成形品の焼き付きなどの問題が生じ、離型剤の厚過ぎる箇所では離型剤が成形品の表面に進入してガス化し、品質を低下させる虞があった。
【0006】
また、特許文献2に記された離型剤供給装置では、特許文献1に記された装置に比して離型剤が幾らか分散された状態での圧送を期待できるが、圧送用のエアの流量は容積の大きな拡散部にて急減するため、一部の離型剤が拡散部内で自由落下して拡散部の底部に堆積する場合があり、その結果、キャビティへの供給量が不安定となる傾向があった。また、比較的大きな拡散部を設ける必要があるため、圧送に際して多量のエアを供給することが必要である、また、拡散部を設けるための余分なスペースが必要である、などの点が未解決であった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上に例示した各従来技術が与える課題に鑑み、離型剤を均一な速度で連続的に圧送することができる離型剤供給装置を提供することにある。本発明の他の目的は、キャビティへの離型剤の供給量が安定し易く、また、比較的少量のエアで圧送を実施でき、装置全体をよりコンパクト化し易い離型剤供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による離型剤供給装置の第1の特徴構成は、
成形用モールドのキャビティに塗布する粉体状の離型剤を収納する離型剤タンクと、
前記キャビティと前記離型剤タンクとの間に設けられ、前記キャビティと連通した分散室と、
前記離型剤タンクから一定量の離型剤を抽出して前記分散室に供給する抽出装置と、
前記分散室に供給された離型剤を前記分散室内で分散化するアジテータ部と、
前記分散室内の離型剤を前記キャビティに空気で圧送する圧送機構と、
前記アジテータ部の駆動を制御すると共に、前記アジテータ部によって前記分散室内で離型剤が分散化している間に前記圧送機構の駆動をさせる制御装置と、を備えている点にある。
【0009】
本発明の第1の特徴構成による離型剤供給装置では、分散室に供給された離型剤がアジテータ部によって攪拌、分散化され、離型剤が分散化している間に圧送されるので、離型剤が塊状にならず良く分散化したままの状態で圧送される。その結果、離型剤を均一な速度で連続的に圧送することができ(図4を参照)、また、キャビティへの離型剤の供給量も安定し易くなった(図5を参照)。さらに、特別に大容積の拡散部を設ける必要がないので、比較的少量のエアで圧送を実施でき、装置全体の大型化も抑制できる。
【0010】
本発明の他の特徴構成は、前記分散室は、前記抽出装置と第1開閉弁を介して連通し、前記キャビティと第2開閉弁を介して連通した密閉空間であり、前記制御装置は、前記第1開閉弁および前記第2開閉弁を閉じた状態で前記アジテータ部を駆動させ、前記分散室内で離型剤が分散化している間に、前記第2開閉弁の開放と前記圧送機構の駆動とを実行させる点にある。
【0011】
本構成であれば、アジテータ部は第1開閉弁および第2開閉弁の閉鎖によって十分に密閉状態となった分散室で離型剤を分散化することになるので、アジテータ部による分散化によって一部の離型剤が抽出装置などへ逆流する虞がない。その結果、アジテータ部による急激な攪拌により短時間で十分な分散化を実現することが可能となる。
【0012】
本発明の他の特徴構成は、前記アジテータ部は、前記分散室内に分散用の空気流を供給する補助給気部を備えている点にある。
【0013】
本構成であれば、アジテータ部として例えばビーターのような機械的な分散化手段を用いた場合に比して、離型剤が付着・堆積する部品が少なくなるので、装置のメンテナンスが容易となる。
【0014】
本発明の他の特徴構成は、前記補助給気部は、前記分散室の下部から空気流を供給する点にある。
【0015】
本構成であれば、補助給気部が分散室の中間部や上部から離型剤に対して空気流を供給する構成に比して、比較的少なめの空気でも短時間で且つ効率的な分散化が得られる。
【0016】
本発明の他の特徴構成は、前記補助給気部は、前記分散室の軸心から偏った位置に開口されている点にある。
【0017】
本構成であれば、分散室内の内面に沿った左右いずれかの一定方向に回る渦状の空気流が発生するので、さらに効率的な分散化が得られる。
【0018】
本発明の他の特徴構成は、前記圧送機構は、前記補助給気部から供給される空気流と逆向きの渦状の空気を供給すべく、前記分散室の軸心から偏った位置に開口されている主給気部からなる点にある。
【0019】
本構成であれば、主給気部から供給される空気流は、アジテータ部としての補助給気部によって形成された渦状の空気流とは逆の向きに回りながら下方に向かって進む渦を作るので、補助給気部によって分散化された離型剤の分散状態をさらに増大させながら分散室から送り出すことができる。
【0020】
本発明の他の特徴構成は、前記分散室は上方部の径が下方部の径よりも大きな、円錐面状を呈している点にある。
【0021】
本構成であれば、分散室の上方部に広めの空間が分散化のための空間として確保されるので、十分な分散化が得られ易い。また、分散室の底面が概して円錐面状を呈しているので、分散室から排出しきれない離型剤が分散室の底部に堆積する虞が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による離型剤供給装置を射出成形装置と共に示す略図である。
【図2】分散室の横断面を示す断面図である。
【図3】離型剤供給装置の各状態と対応する工程とを示す説明図である。
【図4】経過時間毎の離型剤通過量の測定結果を示すグラフである。
【図5】離型剤搬出量の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明による離型剤供給装置を備えた射出成形装置の一例を示す。
この射出成形装置100は、固定型2aと可動型2bとを備えた金型2、金型2のキャビティVにアルミニウム合金などの溶湯を供給する給湯装置4、および、離型剤供給装置50を備える。可動型2bは着脱装置2cによって、固定型2aに密着された鋳造位置と、固定型2aから離間した離型位置との間で切り換え可能に支持されている。粉体離型剤としては、例えば、黒鉛、タルクなどの無機物粉体と、ワックス、樹脂、金属石鹸などの有機物粉体とを混合したものを用いることができる。
【0024】
給湯装置4は、固定型2aの一部に装着された給湯スリーブ5と、給湯スリーブ5に設けられた給湯口5aから溶湯を流し込むラドルなどからなる給湯容器(不図示)と、給湯スリーブ5に流し込まれた溶湯をキャビティVに押し出すプランジャ6とを備える。プランジャ6は油圧式のシリンダ(不図示)などによって往復操作される。キャビティVの上方に連通配置されたオーバーフロー部、オーバーフロー部の上端に連通しているガス抜き孔、金型2を冷却するための冷却装置などは図から省略されている。
【0025】
(離型剤供給装置の概略構成)
離型剤供給装置50は、キャビティVの内面に塗布する粉体状の離型剤を収納する離型剤タンク7と、離型剤タンク7から一定量の離型剤を抽出する抽出装置12と、抽出装置12によって抽出された離型剤を一旦受け入れる中継容器13と、中継容器13からキャビティVまで延びた離型剤供給パイプ15とを有する。
【0026】
離型剤タンク7の下部には漏斗状の絞り部7aが設けられている。この絞り部7aの周面には、内部の離型剤による架橋形成をエア供給によって防止するための複数の第1給気口N1が配置されている。
離型剤タンク7と抽出装置12とは、上下に延びた第1接続管8aによって接続されている。この第1接続管8aには、第1接続管8aの内部を閉塞した離型剤を逆洗するための第2給気口N2が配置されている。
抽出装置12は横向きに延びたシリンダ9と、シリンダ9の内部を油圧操作機構9aによって往復摺動操作されるピストン10とを備えている。ピストン部10には離型剤を受け入れるための縦穴10aが貫通形成されている。
【0027】
抽出装置12と中継容器13とは、上下に延びた直管状の第2接続管8bによって連通接続されている。この第2接続管8bには、離型剤の通過を制御する第1開閉弁PV1が配置されている。
抽出装置12のピストン部10は、縦穴10aが上流側の離型剤タンク7とのみ連通する受け入れ位置と、縦穴10aが下流側の第2接続管8bとのみ連通する供給位置との間で往復操作される。
また、第1接続管8aと対向するシリンダ9の内面には、縦穴10a内の離型剤を空気によって下方に送り出すための第3給気口N3が配置されている。
【0028】
中継容器13の内部には、概して下方から上方に向かって内径が次第に拡大する円錐面状の内面を備えた分散室14が形成されている。分散室14の上端付近には、分散室14内の離型剤をキャビティVまで空気で圧送する圧送機構としての第4給気口N4(主給気部の一例)が配置されている。
分散室14の下端と離型剤供給パイプ15とは、上下に延びた直管状の第3接続管8cによって連通接続されている。この第3接続管8cには、離型剤の通過を制御する第2開閉弁PV2と、第2開閉弁PV2の上方に隣接した第5給気口N5が配置されている。
上方の第1開閉弁PV1と下方の第2開閉弁PV2とを閉鎖した状態では、分散室14は密閉空間を構成する。第5給気口N5(補助給気部の一例)は、分散室14に供給された離型剤を密閉された分散室14の内部で上方に舞い上がらせるようにして分散化するアジテータ部として機能することになる。
【0029】
図2に示すように、第4給気口N4および第5給気口N5は、分散室14の軸心Xに向かって開口するのではなく、分散室14の内面に対する接線に沿うように開口されている。また、第4給気口N4と第5給気口N5とは、分散室14の軸心Xに対して逆の向きに偏心している。
図2の例では、第5給気口N5は軸心Xに対して左寄りに配置されているので、第5給気口N5から供給される空気流は、基本的に、上から見て時計方向に進む渦を作りながら、分散室14の底部寄りに位置する離型剤を、上方に向かって進む螺旋状の空気の流れによって舞い上げ、効率的に分散化させる。
【0030】
他方、第4給気口N4は軸心Xに対して右寄りに配置されているので、第4給気口N4から供給される空気流は、基本的に、第5給気口N5から供給される空気流とは逆の、上から見て反時計方向で且つ下方に向かって進む渦を作る。したがって、螺旋状の空気の流れに既に舞い上がって分散化されている離型剤を、その分散状態をさらに増大させながら分散室から送り出すことができる。
【0031】
前述した第1から第5の各給気口N1,N2,N3,N4,N5は後述する弁制御部81によって開閉操作される開閉弁および流量調整弁(不図示)を介して共通の圧縮空気源30に接続されている。アジテータ部として設けた第5給気口N5による空気流の圧力は、圧送機構として設けた第4給気口N4による空気流の圧力の十分の一以下でよい。
分散室14の内径は、最大内径箇所である上端部でも離型剤供給パイプ15の内径の2倍以下に設定されているので、第4給気口N4による空気流の流速が分散室14の内部で小さくなる虞が少ない。尚、分散室14の内部の適切な上下長さは、1回で供給すべき離型剤の量が20g以下の場合、例えば200mmとすればよい。
【0032】
尚、可動金型2bの内部まで延びた離型剤供給パイプ15の終端部とキャビティVとの間には、離型剤供給パイプ15とキャビティVとを接続する入力ポート18aと、この入力ポートを開閉制御可能な供給シャットオフピン19aが設けられている。他方、固定金型2aには、キャビティVの一部を大気と連通させる排気ポート18bと、この排気ポート18bを開閉制御可能な排出シャットオフピン19bが設けられている。供給シャットオフピン19aおよび排出シャットオフピン19bは金型内に設けられたソレノイドによって開閉操作される。排気ポート18bにはキャビティVから排出された余分な離型剤を回収する回収装置を連通接続することができる。
【0033】
図2に示すように、この射出成形装置100はコントロールユニット70(制御装置の一例)を含む。このコントロールユニット70は鋳造装置100の各種制御要素を制御する機能を有する。このため、このコントロールユニット70は、コンピュータシステムとして構成されている。コントロールユニット70には、本発明に特に関係する出力デバイスとして、第1から第5の各給気口N1−N5を開閉制御する各アクチュエータ、および、第1開閉弁PV1と第2開閉弁PV2を開閉制御する各アクチュエータなどが接続されている。
【0034】
各種入力デバイスから入力された操作信号を処理して、要求される出力信号を各種出力デバイスに出力するため、コントロールユニット70には、実質的にはプログラムとプログラム実行デバイスからなる制御部80が備えられている。この制御部80における特に本発明に関係する機能部は、上記合計7個の各開閉弁の開閉制御を実行する弁制御部81と、抽出装置12を駆動制御する抽出制御部82と、弁制御部の操作に基づいてシャットオフピン19a,19bの開閉制御を実行するピン制御部83である。これらの弁制御部81と抽出制御部82とピン制御部83による制御は、基本的に給湯装置4のプランジャ6の動きに基づいて決定される鋳造(射出成形)動作のスケジュールに沿って実行される。
【0035】
(離型剤供給装置の動作)
本発明による離型剤供給装置50の動作について、射出成形装置100の動作に沿って説明する。
先ず、基本的な射出成形装置100による1回の鋳造(射出成形)動作は、可動型2bを固定型2aに密着固定する「型閉め」工程、離型剤供給装置50によってキャビティVに離型剤を圧送する「(離型剤)圧送」工程、給湯口5aから給湯スリーブ4にアルミ合金などの溶湯を流し込む「給湯」工程、プランジャ6で溶湯を金型2のキャビティVに送り出し、プランジャ6による圧力を保持する「射出充填工程」、金型2を冷却手段(不図示)で冷却することでキャビティVの溶湯を凝固させる「凝固/成形」工程、凝固完了後に可動型2bを移動して金型2を開放する「型開き」工程、成形品をイジェクトピン(不図示)などで可動型2bから押出す「成形品押出し」工程の手順で進められ、成形を連続的に進める場合は、次のショット(溶湯充填)のための「型閉め」工程に戻る。
【0036】
したがって、本発明の離型剤供給装置50による「(離型剤)圧送」工程は、「型閉め」工程と「給湯」工程との間の短時間の間に実施されるが、「(離型剤)圧送」工程を含む離型剤供給装置50による全体的な動作は、弁制御部81と抽出制御部82とピン制御部83とから出力される各信号によって、次の手順で進められる。
【0037】
(装填工程)
図3(a)に示すように、抽出装置12のピストン10が押し出された後で、第2開閉弁PV2を閉位置に、第1開閉弁PV1を開位置に切り換え、第3給気口からブローエアが下向きに吹かれると、縦穴10a内の離型剤が中継容器13の分散室14に装填され、分散室14の下部に堆積される。
【0038】
(分散化工程)
次に、図3(b)に示すように、第1開閉弁PV1を閉位置に切り換え、分散室14の下部にある第5給気口N5(補助給気部、アジテータ部の一例)の開閉弁を開放すると、第5給気口N5から吹き込まれたエアによって、離型剤が攪拌を伴いながら上方に舞い上がり、離型剤は分散室14の内部で分散化させる。
尚、図3(b)に示すように、抽出装置12のピストン10は、分散化工程と平行して引退位置に戻しておくことができる。
【0039】
(圧送工程)
次に、図3(c)に示すように、分散室14内での離型剤の分散化が継続中に、第2開閉弁PV2および第4給気口N4(主給気部)を同時に開位置に切り換えると、第4給気口N4から吹き込まれたエアによって、分散室14内で分散化された離型剤が離型剤供給パイプ15を介してキャビティVに圧送される。
因みに、離型剤のキャビティVへの進入を円滑にするために、供給シャットオフピン19aおよび排出シャットオフピン19bは、圧送工程の開始までに開位置に切り換えられている。
【0040】
図3(c)に示すように、圧送工程と平行して、第1給気口N1と第2給気口N2とを数秒間だけ開放することで、離型剤タンク7または第1接続管8a内の離型剤を、次回のショットのために圧送する離型剤として、引退位置にあるピストン10の縦穴10a内に供給しておくことができる。
圧送工程が完了すると、供給シャットオフピン19aおよび排出シャットオフピン19bを閉位置に切り換えた後、「給湯」工程が実施される。
【0041】
尚、一般的な離型剤を用いる場合の一つの標準的な方法として、分散化工程における第5給気口N5からの給気継続期間は例えば0.1〜0.2秒間などの短時間とし、第4給気口N4からの給気開始のタイミングは、第5給気口N5からの給気開始から0.1〜0.3秒後とすれば、離型剤が分散化している間に圧送を行うことができる。
【0042】
但し、分散状態の継続期間は、第5給気口N5から供給される空気の流速、離型剤の粒径や量、分散室14内の形状や容積などによって左右される。したがって、第5給気口N5からの給気継続期間、および、圧送工程の開始タイミングの適正値は、事前に実験によって求めておくことが好ましい。
【0043】
或いは、第5給気口N5からの給気継続期間の途中から圧送工程を開始する方法、或いは、圧送工程の終了まで第5給気口N5からの給気を継続する方法でも、離型剤が分散化している間での離型剤圧送を行うことができる。
【実施例】
【0044】
本発明の実施例として、本発明による離型剤供給装置50を用いて離型剤をキャビティVに供給した場合の離型剤通過量の測定結果の例(図4)、および、キャビティVに供給された離型剤の離型剤搬出量の測定結果の例(図5)を示す。
尚、図4および図5には、比較例として、分散室なしの従来技術1(特許文献1に対応)と、分散室ありの従来技術2(特許文献2に対応)について同じ条件で測定した結果を併記している。
【0045】
(離型剤通過量)
先ず、図4に示す離型剤通過量は、離型剤供給装置から圧送されて或る地点を通過した離型剤の質量を、離型剤供給パイプ15の特定位置(図1にYで示す)に設置した静電容量型の粉体通過量センサ(不図示)で測定した結果であり、横軸は圧送開始時点からの経過時間を示し、縦軸はY地点を通過した離型剤の質量を示す。
【0046】
図4に示された結果を見ると、分散室なしの従来技術1(二点鎖線)の装置では、経過時間の早期に急激な立ち上がりと、それに続く非常に高い略単一のピークが見られ、曲線の裾野の広がりは比較的狭い。これは、圧送開始から短い時間に著しく急激な離型剤の通過が行われ、非常に短い時間で通過が終了していることを示している。したがって、中継容器の離型剤が塊状に近い状態で送り出されたことが推測される。
【0047】
次に、分散室ありの従来技術2(細い実線)の装置では、従来技術1よりも大きく遅れた立ち上がりと、それに続く従来技術1ほどには高くないピークが見られ、曲線の裾野の広がりは従来技術1よりも広い。したがって、中継容器の離型剤が従来技術1の場合よりも分散された状態で送り出されたこと、また、中継容器内の離型剤が少なくなってからは非常に少量ずつの供給が長く続いたことが推測される。また、従来技術1と同様に、略単一のピークしか見られないため、圧送中における通過量の均一性が十分ではなかったことが推測される。
【0048】
他方、本発明(太い実線)による装置では、従来技術1に匹敵する早期の且つ急激な立ち上がりが見られ、それに続いて高さの揃った複数のピークが見られ、曲線の裾野の広がりは従来技術1と同等である。したがって、中継容器の離型剤が従来技術1、2のいずれの場合よりもよく分散された状態で送り出され、しかも、中継容器の離型剤の略全量が比較的短時間で圧送されたことが推測される。
【0049】
(離型剤搬出量)
図5に示す離型剤搬出量は、中継容器に供給された一定量の離型剤をキャビティに圧送させて、圧送から十分な時間が経過した時点でキャビティに到着している離型剤の質量(搬出量)を測定するという操作を、各装置において20回繰り返し、この20回の測定結果の最小値と最大値と平均値とをプロットしたものである。装置毎に示された直線において、下端は最小値、上端は最大値、中間の黒丸は平均値を表す。
図5に示された結果を見ると、分散室ありの従来技術2の装置では、測定の度に搬出量が大きく異なる傾向が見られるが、本発明の装置では、分散室なしの従来技術1の装置と同様に略一定の搬出量が得られることがわかる。
【0050】
〔別実施形態〕
〈1〉アジテータ部としての補助給気部を構成する給気口は、必ずしも上記実施形態のように分散室14の下方に設ける必要はなく、例えば分散室14の上端付近に設けることも可能である。この場合、給気口として、分散室14の内周面に沿って下向きに開口した給気ノズルを同内周面に近接して設ければ高い分散効果が得られる。
【0051】
〈2〉上記の実施形態ではアジテータ部を、分散室14内の離型剤を空気流で分散する補助給気部によって構成しているが、離型剤を機械的に上方に撒き上げる羽根車やビーターを分散室14内に設け、これをアジテータ部として実施してもよい。
【0052】
〈3〉分散化工程を行う際に、必ずしも分散室14を密閉空間とする必要はなく、例えば分散室14の上方を開閉する第1開閉弁PV1を開位置とした非密閉空間のまま分散化工程を行ってもよい。
【0053】
〈4〉分散室14は必ずしも縦型とする必要はなく斜め或いは横型の配置とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
成形用モールドのキャビティに塗布する粉体状の離型剤を収納する離型剤タンクと、キャビティと連通した分散室と、離型剤タンクから一定量の離型剤を抽出して分散室に供給する抽出装置と、分散室に供給された離型剤を分散化するアジテータ部と、分散室内の離型剤をキャビティに圧送する圧送機構とを備えた、離型剤供給装置を改良する技術として利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
N4 第4給気口(主給気部)
N5 第5給気口(補助給気部、アジテータ部)
PV1 第1開閉弁
PV2 第2開閉弁
V キャビティ
2 金型
7 離型剤タンク
10 ピストン
12 抽出装置
13 中継容器
14 分散室
15 離型剤供給パイプ
50 離型剤供給装置
70 コントロールユニット(制御装置)
80 制御部
81 弁制御部
82 抽出制御部
83 ピン制御部
100 射出成形装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形用モールドのキャビティに塗布する粉体状の離型剤を収納する離型剤タンクと、
前記キャビティと前記離型剤タンクとの間に設けられ、前記キャビティと連通した分散室と、
前記離型剤タンクから一定量の離型剤を抽出して前記分散室に供給する抽出装置と、
前記分散室に供給された離型剤を前記分散室内で分散化するアジテータ部と、
前記分散室内の離型剤を前記キャビティに空気で圧送する圧送機構と、
前記アジテータ部の駆動を制御すると共に、前記アジテータ部によって前記分散室内で離型剤が分散化している間に前記圧送機構の駆動をさせる制御装置と、を備えている離型剤供給装置。
【請求項2】
前記分散室は、前記抽出装置と第1開閉弁を介して連通し、前記キャビティと第2開閉弁を介して連通した密閉空間であり、前記制御装置は、前記第1開閉弁および前記第2開閉弁を閉じた状態で前記アジテータ部を駆動させ、前記分散室内で離型剤が分散化している間に、前記第2開閉弁の開放と前記圧送機構の駆動とを実行させる請求項1に記載の離型剤供給装置。
【請求項3】
前記アジテータ部は、前記分散室内に空気流を供給する補助給気部を備えている請求項1または2に記載の離型剤供給装置。
【請求項4】
前記補助給気部は前記分散室の下方に配置されている請求項3に記載の離型剤供給装置。
【請求項5】
前記補助給気部は、前記分散室の軸心から偏った位置に開口されている請求項3または4に記載の離型剤供給装置。
【請求項6】
前記圧送機構は、前記補助給気部から供給される空気流と逆向きの渦状の空気を供給すべく、前記分散室の軸心から偏った位置に開口されている主給気部からなる請求項5に記載の離型剤供給装置。
【請求項7】
前記分散室は上方部の径が下方部の径よりも大きな、円錐面状を呈している請求項1から6のいずれか一項に記載の離型剤供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−194600(P2010−194600A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44746(P2009−44746)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】