説明

難密着性・難接着性基材に対する水性ポリウレタン樹脂塗材の塗装・塗工方法及び同方法により塗装・塗工された難密着性・難接着性基材

【課題】難密着・難接着性基材に対する水性ポリウレタン樹脂塗材の塗装・塗工方法及び同方法により塗装・塗工された難密着・難接着性基材の提供。
【解決手段】シラン原子等の改質剤化合物であって、それぞれ沸点が10℃〜105℃である改質剤化合物をガス化状態にて燃焼用空気と共に燃料ガス中に導入し、前記燃料ガスに於ける空気/炭化水素ガスの混合モル比が23以上の値となるよう燃焼させて成る燃料ガスの火炎を、難密着・難接着性基材の表面に吹き付け処理し、前記難密着・難接着性基材表面を濡れ指数で73dyn/cm以上となるように界面活性化処理を施して後、通常標準的に使用されている事前の密着・接着助剤となるプライマー処理を一切施すことなく、直接水系ポリウレタン樹脂塗材を高密着・高接着状態にて塗装・塗工を可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難密着性・難接着性プラスチック系基材に対する水性ポリウレタン樹脂塗材の塗装・塗工方法並びに同方法により塗装・塗工された難密着性・難接着性基材に関するもので、とりわけ、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、等の熱可塑性エラストマー或いは天然ゴム、シリコンゴムに代表される前記以外の他のエラストマー等々、一般的に難密着性・難接着性と言われている可撓性を有する各種エラストマー基材に対し、通常標準的に使用されている事前の密着・接着助剤となるプライマー処理を一切施すことなく、直接水性ポリウレタン樹脂塗材を高密着・高接着状態にて塗装・塗工する方法、並びには同方法により塗装・塗工された難密着性・難接着性基材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、集合住宅に於いて多発しているいわゆる「シックハウス症候群」の問題、また、美術館・博物館等の施設ではアンモニアガス等による文化財の劣化・損傷の問題、更には、電子デバイス製造施設にあっては、各種化学物質によるデバイスの製造歩留まりの低下発生の問題等々、各種建材或いは各種家電機器等々の各種物質の表面に施されている塗料等から放散される環境汚染物質(アウトガス)の問題が、社会問題としてクローズアップされ、ことのほかトルエン、キシレン、酢酸エチルに代表される揮発性有機化合物(VOC:volatile organic compounds)は、人の健康へ与える影響が大きいということで、法規制されるに至っている状況にある。
【0003】
上述した社会的背景により、各種建材及び各種住設機器或いは各種家電機器並びに各種機器材に施される塗料は、溶剤タイプに替えて人に優しいアウトガス発生量が極めて少ない無溶剤タイプへと急速に塗料の使用態様を急速に替えつつある状況が生じている。この様な社会的背景を踏まえ、塗料業界に於いては各種溶剤型塗料・塗材の水系化への取組が急務となって来ている。
【0004】
ところで、水性・水系と言われる塗料にあっては、一般的に溶剤系と言われる塗料に比較して各種機器材に対する密着性・接着性の確保が難しく、密着性・接着性能を確保するために、各種基材に適合する相応のプライマーを選択又は条件によっては新規開発するのが通例であって、既存プライマーを使用する条件下においても各種基材と水性ウレタン塗料との密着・接着を十分確保することは、殊のほか技術的に難しく困難性を伴う問題と認識されている。とりわけ、各種プラスチック性素材の中でも、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、等の熱可塑性エラストマー或いは天然ゴム、シリコンゴムに代表される他のエラストマー等の基材に於いては、基材そのものが可撓性であって、基材自体が自在に変形する性質がある為に、当該基材と被着塗膜との間に剪断力が働く性質上、可撓性を備えたウレタン系の塗材(塗料)であっても当該基材に対する水系塗料の密着性・接着性を高度に確保することは極めて難しい状況にあり、その改善が強く望まれていた。この様な背景にて、各種エラストマー素材に対する水系塗料(塗材)の確実な密着・接着を確保前提での塗着・塗工方法の確立は正に急務な課題であった。
【0005】
ところで、各種固体物質の表面を改質し塗料・接着剤等の密着・接着を確実なものとする一般的な「固体物質の界面改質方法」については、既に本発明者は開発の上実用化し、下記文献にその詳細を開示している。
【特許文献1】特開2003−238710(特許第3557194号)
【0006】
上記「特許文献1」には、固体物質の界面改質方法およびその装置の概略が開示されていて、シラン原子、チタン原子、アルミニウム原子を含む界面改質剤化合物であって、それぞれ沸点が10℃〜100℃である界面改質剤化合物を含む燃料ガスを貯蔵するための貯蔵タンクと、当該燃料ガスを噴射部に移送するための移送部と、当該燃料ガスの火炎を吹き付けるための噴射部(バーナー)とを含む界面改質装置を準備し、ケイ酸化炎等を固体物質の材料界面に対して、全面的或いは部分的に吹き付け処理し、当該処理部を界面改質し活性化させる界面改質技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、前記特許文献1には、従来のコロナ処理、プライマー処理、火炎処理等に代替する固体物質の界面改質につき各種固体物質に共通する界面改質方法が述べられているに留まり、本発明が解決しようとする具体的な課題、即ち、とりわけ解決が難しいといわれていた各種エラストマー素材に対する水系ウレタン系塗料・塗材の確実な密着・接着を確保前提での塗着・塗工方法に関する具体的技術・方法論については当然ながら一切開示されてはいないのが実情である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、一般的に難接着性・難密着性樹脂と言われているポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂に代表されるポリオレフィン系樹脂及びポリアミド(PA)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂に代表される汎用エンジニヤリング系樹脂、そして、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)樹脂、等のスーパーエンジニヤリング樹脂並びに同様に難接着性・難密着性樹脂と言われているポリエステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、等の熱可塑性エラストマー或いは天然ゴム、シリコンゴムに代表される他のエラストマー、等々から成る各種プラスチック基材から選択された一つの難接着性・難密着性熱可塑性プラスチック基材の上に、水性ウレタン樹脂を前記特許文献1に開示されている本件特許出願人提案に成る「固体物質の表面改質方法」を活用することにより、従来一般的に行われているプライマー処理等の事前易密着・接着処理を一切行うことなく、より確実に高密着或いは高接着させる得る方法の提案にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の詳細な説明を行う前に、先ずは、難密着性・難接着基材と言われているオレフィン系樹脂或いはポリエステルテレフタレート(PET)樹脂、等の各樹脂に代表されるプラスチック基材表面を界面改質して、易密着性・易接着性界面に改質する「界面改質技術」である「特許文献1:特開2003−238710(特許第3557194号)」の概略を先ず説明する。
【0010】
図1は本発明に係る界面改質装置の概要を説明するためのフローチャートであり、同フローチャートに基づき説明する。
図1にその全体像を示す界面改質装置100は、シラン原子、チタン原子、アルミニウム原子を含む界面改質剤化合物であって、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、シロキサン化合物、シラザン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、およびアルコキシアルミニウム化合物からなる群から選択された界面改質剤化合物101を貯蔵するための貯蔵タンク部102と、加熱手段103にて気化させて噴射部(バーナー)104に移送するための移送路105と、プロパンガス・LPGガス等の燃料ガスの貯蔵タンク106、そして、当該燃料ガスの燃焼用空気並びに界面改質剤化合物を搬送する為の空気を供給する圧縮空気源107とで構成されている。また、前記移送路105には第1のサブミキサ108が、また、気化された界面改質剤化合物と空気との混合ガスと前記貯蔵タンク106より送出される燃料ガスとを均一に混合するための第2のメインミキサ109とにより構成されている。更には、前記界面改質剤化合物101を貯蔵するための貯蔵タンク部102と、空気を供給する圧縮空気源107および燃料ガスの貯蔵タンク106のそれぞれの送出先出口には、それぞれの送出流量をコントロールするための流量計付き流量調節バルブ、110、111、112、がそれぞれ設けられ、界面改質装置100を構成している。次に前記各主要構成部材(パーツ)の詳細を説明する。
【0011】
「界面改質剤化合物用貯蔵タンク部」
図1に示すように、界面改質剤化合物用貯蔵タンク部102の下部には、加熱用ヒーター等の加熱手段103が備えられており、常温・常圧状態では液状の界面改質剤化合物101を気化するよう構成されている。そして、当該加熱手段103はCPU(図示せず)によりコントロールされている。すなわち、同CPUは界面改質剤化合物の液量センサー、・液温センサー等の各センサーに電気的に接続されていて、前記界面改質剤化合物の液量および液温が規定の範囲内に収まるように加熱手段をコントロールしている。
なお、本発明では液状の界面改質化合物を使用した例を挙げているが、気体または固体状の化合物も使用できる。気体状の界面改質剤化合物を使用する場合には、前記界面改質剤化合物用貯蔵タンク部にはあえてヒーターを備える必要はなく、代わりに圧力調整弁等の流量調節手段を設ければよい。また、固体状の界面改質剤化合物を使用する場合には、例えば、その固体状化合物を溶媒に溶解するか、熱で溶融させ、本例の貯蔵タンクからバーナーの火炎近傍迄配管した液輸送管中を通らせて、直接バーナー中に送り込むことで界面改質を行うこともできる。
【0012】
「移送部」
移送部105には、通常「管」構造であって、図1に示すように、前記圧縮空気源107より供給され燃焼用空気と前記貯蔵タンク102より送出される気化された界面改質剤化合物とを混合するための第1のサブミキサ108と、当該第1のサブミキサ108により混合された混合ガスと、前記燃料ガスの貯蔵タンク106より送出される燃料ガスとを均一に混合するための第2のメインミキサ109が設けられている。
【0013】
「噴射部(バーナー)」
噴射部(バーナー)104は、図1に示すように、移送部105を経て送られてきた燃焼ガスを燃焼し、得られた火炎113を、被改質処理面(図示せず)に吹き付け被改質処理面を界面改質するものであって、かかる火炎113の状態は、前記した気化された界面改質剤化合物101の流量および圧縮空気源107より送出される燃焼用空気量並びに燃料ガスの貯蔵タンク106より送出される燃料ガス量の各流量を、それぞれのガスの流路に設けられている流量計付き流量調節バルブ110、111、112の開度を調節することで最適に調整される。なお、バーナーの種類は特に制限されるものではないが、例えば、予混合型バーナー、拡散型バーナー、部分予混合型バーナー、噴霧バーナー、蒸発バーナー、等の何れであっても良い。また、バーナーの形態についても特に制限されるものではない。
【0014】
前記界面改質剤化合物としては、シラン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む化合物であり、且つ、一般的なガスバーナーの火炎中で燃焼し得るものであれば特に制限はない。そして、入手のし易さや取り扱いの容易さを考慮すると、例えば、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、シロキサン化合物、シラザン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、およびアルコキシアルミニウム化合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
アルキルシラン化合物の好適例としては、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、テトラエチルシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジフェニルシラン、ジエチルジクロロシラン、ジエチルジフェニルシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリフェニルシラン、ジメチルジエチルシランなどの置換基を有していてもよいモノシラン化合物、ヘキサメチルジシラン、ヘキサエチルジシラン、クロロヘプタメチルジシランなどの置換基を有していても良いジシラン化合物、オクタメチルトリシランなどの置換基を有していても良いトリシラン化合物などが挙げられる。
アルコキシシラン化合物の好適例としては、メトキシシラン、ジメトキシシラン、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、エトキシシラン、ジエトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジクロロジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリクロロエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
シロキサン化合物の好適例としては、テトラメチルジシロキサン、ペンタメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンなどが挙げられる。
シラザン化合物の好適例としては、ヘキサメチルジシラザンなどが挙げられる。また、アルキルチタン化合物の好適例としては、テトラメチルチタン、テトラエチルチタン、テトラプロピルチタンなどが挙げられる。アルコキシチタン化合物の好適例としては、チタニウムメトキシド、チタニウムエトキシドなどが挙げられる。アルキルアルミニウム化合物の好適例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウムなどが挙げられる。アルコキシアルミニウム化合物の好適例としては、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシドなどが挙げられる。これらの化合物は単独で用いても混合して用いても良い。
以上の好適例の中でも、シラン化合物、アルコキシシラン化合物、シロキサン化合物、およびシラザン化合物は、取り扱いが容易であり、気化させやすく、また、入手もしやすいことからより好ましい。
【0015】
次に、前述した図1に示す界面改質装置を用いて、一般的に難接着性・難密着性樹脂と言われているポリプロピレン樹脂に代表されるポリオレフィン系樹脂を被被覆基材の事例として、同基材上に水性ポリウレタン樹脂塗料を確実に密着・接着させる被覆方法に付きその概念を図2に基づき説明する。
【0016】
先ず、概念的拡大図・図2(a)に示すようにポリプロピレン樹脂に代表される難密着性・難接着性基材201を用意し、次に図1に示す界面改質装置100を用い、シラン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む界面改質剤化合物であって、それぞれ沸点が10℃〜105℃である界面改質剤化合物をガス化状態にて燃焼用空気と共に燃料ガス中に導入し、前記燃料ガスに於ける空気/炭化水素ガスの混合モル比が23以上の値となるよう燃焼させて成る燃料ガスの火炎を前記ポリプロピレン樹脂に代表される難密着性・難接着性基材201の表面全体に均一に吹き付け処理し、前記難密着性・難接着性基材201の表層界面に数ナノメートル乃至数十ナノメートル粒径の二酸化ケイ素粒子から成る界面改質層202を形成させる。
【0017】
上記ポリプロピレン樹脂に代表される難密着性・難接着性基材201の表層界面に形成される数ナノメートル乃至数十ナノメートル粒径の二酸化ケイ素粒子からなる界面改質層202を微視的に拡大観察すると、図3に概念的に例示するように、界面改質層202に無数存在する二酸化ケイ素粒子(SiO)10の表面には極性基である水酸基(−OH)が多数存在していることを本発明者が既に反射吸収分光分析(FT−IR)により確認している。
【0018】
また、上記界面改質装置100を用いたポリプロピレン樹脂に代表される難密着性・難接着性樹脂と言われている基材201の界面改質に於いて、前記燃料ガスに於ける空気/炭化水素ガスの混合モル比が23以上の値となるよう燃焼させて成る燃料ガスの火炎を、前記ポリプロピレン樹脂に代表される難密着接・難接着性樹脂と言われている基材201の表面に均一に吹き付け処理する理由は、空気/炭化水素ガスの混合モル比が23以上となる様に通常燃焼より空気量を比較的過剰きみに混合することにより、次工程の水性ポリウレタン樹脂塗料との化学的結合触手となり得る上記極性基である水酸基(−OH)が二酸化ケイ素粒子(SiO)10の周りに数多く形成されることによるものと思料される。
【0019】
そして、図2(b)に示す様に、界面改質され二酸化ケイ素粒子層202が形成された難密着性・難接着性基材としてのポリプロピレン樹脂基材201上に、事前のプライマー処理を一切施すことなく水性ポリウレタン樹脂層203を直接塗装手段或いはコーティング手段により被覆し、強制的に加熱乾燥することで当該水性ポリウレタン樹脂層203は前記二酸化ケイ素粒子層202を介して基材である難密着性・難接着性基材としてのポリプロピレン樹脂201上に化学的に強固に接着されることとなる。
【0020】
そこで、上記極性基である水酸基(−OH)がSiOの表面に多数形成される理由は、図1に示す界面改質装置に於ける燃料ガスに於ける空気/炭化水素ガスの混合モル比が23以上の値となるように調整される状況において発生されることが本発明者の研究に於いて既に確認されており、当該事実は本件発明者により既に出願されている下記特許文献にその詳細が記述されている。
【特許文献2】特願2005−248364
【0021】
次に、前記本発明に関する水性ポリウレタン樹脂につき、その概要を説明する。本発明に使用可能な水性ポリウレタン樹脂の形態は、特に限定されるものではなく、水酸基を持った主剤とイソシアネート基を持った硬化剤から成る二液硬化型で樹脂成分がコロイド粒子状で水中に分散している水分散性ポリウレタン樹脂、或いは樹脂成分が樹脂酸塩の形で水に溶解している水溶性塗料、或いは水に不溶の樹脂や乾性油またはワニス等を水中に分散させた乳濁液をビヒクルとするエマルジョンタイプ等、その樹脂の形態は問わない。
【0022】
なお、本発明に於いて使用可能な上記水性ポリウレタン樹脂の参考事例としては、1.分子内に少なくとも1個のシラノール基を含有するポリウレタン樹脂と、硬化触媒として強塩基性第3アミンとを含有してなるポリウレタン水溶性組成物(下記「特許文献3」参照)、或いは、2.ジシドロキシ化合物とイソシアネート基平均官能度が3〜6であるポリイソシアネート化合物とを反応せしめて得られるポリウレタンプレポリマー(A)とイソシアネート基と反応し得る官能基を2個以上有する化合物(B)を反応せしめることから成る水系架橋ポリウレタン樹脂組成物(下記「特許文献4」参照)、更には、3.ポリイソシアネートと、活性水素原子を有する多官能性化合物(高分子量ジオール、鎖伸長剤など)とヒドラゾン又は活性水素原子を有するヒドラゾン誘導体とを反応させ生成される水性ポリウレタン樹脂(下記「特許文献5」参照)、等々が上げられる。また、上記参考事例以外の水系或いは水性と言われる各種ポリウレタン樹脂も使用可能であることは当然である。
【特許文献3】特開平9−12864
【特許文献4】特開平8−231666
【特許文献5】特開平9−255751
【発明の効果】
【0023】
以上に説明した通り、本発明によれば、本発明に係る図1に示す「界面改質装置」を活用することにより、難密着性・難接着性の各種プラスチック系基材に対する各種水性ポリウレタン樹脂塗材の塗装・塗工をプライマーレスにて簡便に行うことが可能となり、各種エレクトリニクス製品・各種家電製品等に代表される各種部品に於ける印刷・意匠付与等が可能となる。加えて、各種難密着性・難接着性の各種プラスチック系基材に対する各種水性ポリウレタン樹脂塗材の塗装・塗工に於いて当該基材と各種水性ポリウレタン樹脂塗材との密着・接着を確実なものとすることが可能となると共に、プライマーレス化が図られたことで、各種プラスチック系基材に対する各種水性ポリウレタン樹脂塗材の塗装・塗工工数を削減出来ることで省力化が可能とり、エネルギーロス並びに生産性向上に大いに貢献することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照の上、本発明に係る難密着性・難接着性基材に対する水性ポリウレタン樹脂塗材の塗装・塗工方法及び同方法により塗装・塗工された難密着・難接着性基材の具体例に付き説明する。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
1.基材の用意
先ず、図2に示すように、シリコンゴム製基材201を用意し、当シリコンゴム基材表面全体をイソプロピルアルコール(IPA)で洗浄の上脱脂処理を行った。
【0026】
2.界面改質処理
次に、前記IPAにより洗浄処理されたシリコンゴム製基材201の上面を図1に示す界面改質装置100を用いて界面改質処理を行い、図2(a)に示す通りの界面改質層202を得た。当界面改質層202の改質状態は濡れ指数で73dyn/cm以上であった。なお、同図面上界面改質層202はSiOの連続層として表示されているが、微視的にはSiOの不連続層として形成されている。
また、当実施例に於ける界面改質作業は下記条件により実施された。
【0027】
「界面改質条件」
・火炎処理用燃料:プロパンガス
・改質剤化合物:テトラメチルシラン(沸点:27℃)
・空気を含む改質剤化合物の吐出量:1.3(リットル/min)
・空気流量(Air):84(リットル/min)
・ガス流量(プロパンガス):3.0(リットル/min)
・空気/プロパンガスの混合モル比:28
・処理時間:4秒/100cm
・環境条件:25℃、60%Rh
・改貿剤化合物含有量:約0.0002モル%(空気を含む改質剤化合物の全量を100モル%とした場合)
【0028】
3.水性ポリウレタン樹脂の塗装
そして、前工程により、シリコンゴム製基材201の上面が界面改質された界面改質層202の上に、下記配合に基づく自己架橋型ポリウレタンディスパージョンをスプレーガンによりスプレーコーティングし、図2(b)に示す透明で平均膜厚が約20μのコーティング層を得た。更に、同上記水系ポリウレタンディスパージョンがコーティングされたシリコンゴム製基材201を、加熱乾燥炉に投入し、110℃×1hrの条件にて乾燥造膜させ透明のポリウレタン樹脂層203を得た。
「配合事例」
・自己架橋型ポリウレタンディスパージョン:97w%
(三井化学ポリウレタン(株)製:タケラック(VS5000)
・消泡剤:2.9w%
(ビックケミ・ジャパン(株)製:BYK−011)
・レベリング剤:0.1w%
(ビックケミ・ジャパン(株)製:BYK−333)
【0029】
4.塗膜の密着・接着強度
なお、図2(b)に示すシリコンゴム製基材201と界面改質層202を介しての透明の硬化ポリウレタン樹脂層203との密着・接着強度は試験の結果以下の通り十分なものであった。
「密着強度」
・クロスカット、セロハンテープ、ピーリング試験:OK(100/100)
(JIS K5600−5−6)
・180°折り曲げ試験:OK(シワの発生無し)
【0030】
[実施例2]
1.基材の用意
先ず、図2(a)に示すようにエチレンプロピレンジエン三次元共重合体(以下「EPDM」と略記する。)製基材201を用意し、当EPDM基材表面全体をイソプロピルアルコール(IPA)で洗浄の上脱脂処理を行った。
【0031】
2.界面改質処理
次に、前記IPAにより洗浄処理されたEPDM製基材201の上面を図1に示す界面改質装置100を用いて界面改質処理を行い、図2(a)に示す通りの界面改質層202を得た。当界面改質層の改質状態は濡れ指数で73dyn/cm以上であった。なお、同図面上界面改質層202はSiOの連続層として表示されているが、微視的にはSiOの不連続層として形成されている。また、当実施例に於ける界面改質作業は下記条件により実施された。
【0032】
「界面改質条件」
・火炎処理用燃料:プロパンガス
・改質剤化合物:ヘキサメチルジシロキサン(沸点:101℃)
・空気を含む改質剤化合物の吐出量:1.3(リットル/min)
・空気流量(Air):84(リットル/min)
・ガス流量(プロパンガス):3.0(リットル/min)
・空気/プロパンガスの混合モル比:28
・処理時間:4秒/100cm
・環境条件:25℃、60%Rh
・改質剤化合物含有量:約0.0002モル%(空気を含む改質剤化合物の全量を100モル%とした場合)
【0033】
3.水性ポリウレタン樹脂の塗装
そして、前工程により、EPDM製基材201の上面が界面改質された界面改質層202の上に、下記配合に基づく2液硬化型水系ポリウレタン樹脂をスプレーガンによりスプレーコーティングし、図2(b)に示す透明で平均膜厚が約20μのコーティング層203を得た。更に、同上記2液硬化型水系ポリウレタン樹脂がコーティングされたEPDM製基材201を、加熱乾燥炉に投入し、110℃×1hrの条件にて乾燥造膜させ透明のポリウレタン樹脂層203を得た。
「配合事例」
・主剤(アクリル系ポリオール)
バイビロール:93w%
(住友バイエルンウレタン(株)製・VPLS−2058)
消泡剤:3w%
(ビックケミ・ジャパン(株)製:BYK−011)
・硬化剤(ポリイソシアネート)
タケラック(VS5000):7w%
(三井化学ポリウレタン(株)製)
【0034】
4.塗膜の密着・接着強度
なお、図2(b)に示すEPDM製基材201と界面改質層202を介しての透明の硬化ポリウレタン樹脂層203との密着・接着強度は、試験の結果以下の通り十分なものであった。
「密着強度」
・クロスカット、セロハンテープ、ピーリング試験:OK(100/100)
(JIS K5600−5−6)
・180°折り曲げ試験:OK(シワの発生無し)
【0035】
[実施例3]
1.基材の用意
先ず、図2に示すようにポリエステル系熱可塑性エラストマー製基材201(三井化学(株)製:プリマロイ)を用意し、当ポリエステル系熱可塑性エラストマー製基材表面全体をイソプロピルアルコール(IPA)で洗浄の上脱脂処理を行った。
【0036】
2.界面改質処理
次に、前記IPAにより洗浄処理されたポリエステル系熱可塑性エラストマー製基材201の上面を、図1に示す界面改質装置100を用いて界面改質処理を行い、図2(a)に示す通りの界面改質層202を得た。当界面改質層の改質状態は濡れ指数で73dyn/cm以上であった。なお、同図面上界面改質層202はSiOの連続層として表示されているが、微視的にはSiOの不連続層として形成されている。
また、当実施例に於ける界面改質作業は下記条件により実施された。
【0037】
「界面改質条件」
・火炎処理用燃料:プロパンガス
・改質剤化合物:テトラメチルシラン(沸点:27℃)
・空気を含む改質剤化合物の吐出量:1.3(リットル/min)
・空気流量(Air):84(リットル/min)
・ガス流量(プロパンガス):3.0(リットル/min)
・空気/プロパンガスの混合モル比:28
・処理時間:5秒/100cm
・環境条件:25℃、60%Rh
・改質剤化合物含有量:約0.0002モル%(空気を含む改質剤化合物の全量を100モル%とした場合)
【0038】
3.水性ポリウレタン樹脂の塗装
そして、前工程により、ポリエステル系熱可塑性エラストマー製基材201の上面が界面改質された界面改質層202の上に、下記配合に基づく熱乾燥型水系ポリウレタン樹脂を吹きスプレーガンによりスプレーコーティングし、図2(b)に示す透明で平均膜厚が約20μのコーティング層203を得た。更に、同上記熱乾燥型水系ポリウレタン樹脂がコーティングされたポリエステル系熱可塑性エラストマー製基材201を、加熱乾燥炉に投入し、110℃×1hrの条件にて乾燥造膜させ透明のポリウレタン樹脂層203を得た。
「配合事例」
・主剤(アクリル系ポリオール)
バイビロール:93w%
(住友バイエルンウレタン(株)製・VPLS−2058)
消泡剤:3w%
(ビックケミ・ジャパン(株)製:BYK−011)
・硬化剤(ポリイソシアネート)
タケラック(VS5000):7w%
(三井化学ポリウレタン(株)製)
【0039】
4.塗膜の密着・接着強度
なお、図2(b)に示すEPDM製基材201と界面改質層202を介しての透明の硬化ポリウレタン樹脂層203との密着・接着強度は、試験の結果以下の通り十分なものであった。
「密着強度」
・クロスカット、セロハンテープ、ピーリング試験:OK(100/100)
(JIS K5600−5−6)
・180°折り曲げ試験:OK(シワの発生無し)
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上詳述したとおり、本発明によれば、一般的に難密着・難接着性樹脂と言われているポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂等のポリオレフィン系樹脂に代表される難密着・難接着性樹脂基材、なかんずく、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、等の熱可塑性エラストマー或いは天然ゴム、シリコンゴム等に代表される他のエラストマーから成る難密着・難接着性樹脂基材に対し、従前一般的に使用されている事前処理プライマーを施すことなく、密着・接着が難しいと言われている水性ポリウレタン樹脂塗材を確実に接着・密着させることが可能となり、家電・エレクトロニクス関連各種パーツ、自動車関連各種パーツ、等々各種産業分野に於ける各種パーツ作成に大いに貢献することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】界面改質装置の概要説明図
【図2】難密着性基材に対する水性ポリウレタン樹脂塗材の塗装概念図
【図3】二酸化ケイ素粒子(SiO)の表面状態を説明する拡大模式図
【符号の説明】
【0042】
100:界面改質装置
101:界面改質剤化合物
102:界面改質剤化合物用貯蔵タンク部
103:加熱手段
104:噴射部(バーナー)
105:移送部
106:燃料ガスの貯蔵タンク
107:圧縮空気源
108:サブミキサ
109:メインミキサ
110:流量計付き流量調節バルブ
111:流量計付き流量調節バルブ
112:流量計付き流量調節バルブ
113:火炎
201:難密着・難接着性基材
202:界面改質層
203:ポリウレタン樹脂層
10:二酸化ケイ素粒子(SiO

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物であって、それぞれ沸点が10℃〜105℃である改質剤化合物をガス化状態にて燃焼用空気と共に燃料ガス中に導入し、前記燃料ガスに於ける空気/炭化水素ガスの混合モル比が23以上の値となるよう燃焼させて成る燃料ガスの火炎を、難密着性・難接着性プラスチック系基材の表面に吹き付け処理し、前記基材表面を濡れ指数で73dyn/cm以上となるように界面活性化処理を施して後、当該界面活性化処理を施した界面に、プライマー処理工程を経ることなく直接水性ポリウレタン樹脂塗材を、塗装・塗工の手段を以て塗着することを特徴とする難密着性・難接着性基材に対する水性ポリウレタン樹脂塗材の塗装・塗工方法。
【請求項2】
水性ポリウレタン樹脂塗材を、請求項1記載の方法により、塗装・塗工して成る難密着性・難接着性プラスチック系基材。
【請求項3】
請求項2記載の難密着性・難接着性プラスチック系基材が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、そして、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリテトラフロロエチレン樹脂から選択された一つの熱可塑性樹脂であることを特徴とする水性ポリウレタン樹脂塗材が塗装・塗工されてなる難密着性・難接着性プラスチック系基材。
【請求項4】
請求項2記載の難密着性・難接着性プラスチック系基材が、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、等の熱可塑性エラストマー或いは天然ゴム、シリコンゴムに代表される他の熱可塑性エラストマー、の何れかから選択された一つの熱可塑性エラストマーであることを特徴とする水性ポリウレタン樹脂塗材が塗装・塗工されてなる難密着性・難接着性プラスチック系基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−119675(P2008−119675A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332554(P2006−332554)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(501163657)
【Fターム(参考)】