説明

難燃光ファイバ素線

【課題】 本発明は、高い難燃性を有し、エポキシ樹脂に対して優れた接着性を示し、更に高温多湿下でも使用可能な光ファイバ心線を提供する。
【解決手段】 ファイバ1の外周に一次被覆層2が形成され、更に前記一次被覆層の外周に二次被覆層が形成されてなる光ファイバ素線であって、前記二次被覆層は少なくとも2層以上からなり、該二次被覆層の内層3が熱可塑性エラストマー20〜70質量%およびエチレン系共重合体30〜80質量%からなるベース樹脂100質量部に対し金属水和物を含有する樹脂組成物により構成されるとともに、該二次被覆層の外層4はベース樹脂がポリエステルエラストマーおよび/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物により構成され、該内層の該外層に対する肉厚比が1.5〜20であることを特徴とする難燃光ファイバ素線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ファイバ素線に関し、さらに詳しくは、高い難燃性を有し、エポキシ樹脂に対して優れた接着性を示し、更に高温多湿下でも使用可能な光ファイバ素線に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ素線は、図1で示すように、ファイバ1の外周を一次被覆材2で被覆し、さらにその一次被覆材2の外周を二次被覆材3で被覆した構造になっている。一次被覆層は一般に2層以上のシリコーン樹脂や紫外線硬化樹脂によって形成されている。この外周にポリエステルエラストマー等の樹脂を被覆して二次被覆層が形成されている。この光ファイバ素線はコネクタにエポキシ樹脂等の接着剤等で固定され、コネクタを突き合わせて接合することが行われているが、光ファイバがヒートサイクル等の使用環境によって突き出してしまうことのないよう、二次被覆層と一次被覆層を十分接着させることが行われている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−157950号公報
【特許文献2】特開2002−162543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光ファイバ素線には通常二次被覆層に難燃性樹脂組成物を使用することにより、難燃性が付与されるが、そのために配合される難燃剤としては、有害な重金属やリン系化合物の他ハロゲン系化合物が使用されているのが現状である。ところが二次被覆材にハロゲン系の難燃剤を含む樹脂組成物を被覆した難燃素線を焼却した場合には、多量の煙や腐食性ガスの発生という問題が起こる。このため、ハロゲン系難燃剤を用いずに難燃性を発現させる技術の検討が盛んに行われている。一般的な難燃手法としては、金属水和物を配合する方法があるが、高い難燃性を付与するには大量に配合しなければならず、それによる力学的強度やその他の特性の著しい低下は避けられないものであった。
【0005】
特に光ファイバ素線で使用される二次被覆層には、一次被覆層やコネクタとの接着剤に使用されるエポキシ樹脂との接着性の著しい低下は致命的である。
本発明者等も難燃性を満足できる量だけのノンハロゲン難燃剤をポリエステルエラストマーに配合したところ、被覆層の力学的強度や接着強度が著しく低下し、使用できないことを確認した。またその場合には、耐湿熱性の維持が困難となり、通信機器に要求される代表的な規格であるテルコーディア規格に示される85℃85%で2000時間に対応する耐湿熱性を維持することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はこれらの知見に基づき鋭意検討を行った結果、外観が良好で、生産性に優れ、実使用時におけるファイバの突き出しが非常に少なく、エポキシ樹脂との接着性に優れ、高温多湿下でも使用可能で焼却時に多量の煙やハロゲンガスが発生しないノンハロゲン耐湿熱難燃光ファイバ素線の発明をなすに至った。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)ファイバの外周に一次被覆層が形成され、更に前記一次被覆層の外周に二次被覆層が形成されてなる光ファイバ素線であって、前記二次被覆層は少なくとも2層以上からなり、該二次被覆層の内層が熱可塑性エラストマー20〜70質量%およびエチレン系共重合体30〜80質量%からなるベース樹脂100質量部に対し金属水和物50〜200質量部を含有する樹脂組成物により構成されるとともに、該二次被覆層の最外層はポリエステルエラストマーおよび/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物からなるベース樹脂100質量部に対してフィラー0〜60質量部からなる組成物により構成されることを特徴とする難燃光ファイバ素線、
(2)前記内層を構成する樹脂組成物中の金属水和物の割合が前記最外層を構成する樹脂組成物中のフィラーの割合に対して質量比で2以上であることを特徴とする(1)記載の難燃光ファイバ素線、
(3)前記内層の前記外層に対する肉厚比が1.5〜20であることを特徴とする(1)または(2)記載の難燃光ファイバ素線、
(4)前記熱可塑性エラストマーがポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマーおよびポリアミドエラストマーから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項記載の難燃光ファイバ素線、
(5)前記最外層はメラミンシアヌレート化合物、クレーおよび金属水和物からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有する樹脂組成物で構成されていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の難燃光ファイバ素線、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の難燃光ファイバ素線は、ノンハロゲン剤で構成されていることに加え、耐湿熱性やエポキシ樹脂との接着性を低下させることなく、優れた難燃性を維持させることができる効果を奏する。
本発明においては、二次被覆層が少なくとも二層からなり、最外層のベース樹脂がポリエステルエラストマーおよび/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物からなっているので、最外層で耐湿熱性および接着性を確保することができ、該二層の内層を構成する樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーとエチレン系共重合体をベース樹脂として、十分な難燃性を確保できるよう金属水和物を配合しても、素線としての機械的特性を損なうことがないという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず本発明の耐湿熱性難燃光ファイバ素線の一次被覆層について説明する。本発明の難燃性光ファイバ素線の一次被覆層は、好ましくは紫外線硬化型樹脂で形成される。紫外線硬化型樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエーテル系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリブタジエン系のウレタンアクリレートを挙げることができる。
上記した紫外線硬化型樹脂を使用することにより、後述する二次被覆層との密着性強度が向上する。したがって、素線使用時においてファイバが端面から突き出す突き出し量を抑制する働きをする。
【0010】
次に本発明の難燃光ファイバ素線の二次被覆層について説明する。二次被覆層は少なくとも2層以上で構成される。これらは従来公知の方法で形成することができ、同時に押出被覆してもよいし、一度被覆層を形成した後さらに押出被覆してもよい。
このうち二次被覆層の内層を構成する樹脂組成物のベース樹脂は、熱可塑性エラストマー20〜70質量%およびエチレン系共重合体30〜80質量%で構成される。ここで各成分について説明する。
【0011】
(1)熱可塑性エラストマー
本発明で使用される熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントおよびハードセグメントを有するものであれば特に限定なく使用することができるが、そのうちでもポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリアミドエラストマーが好ましく、これらのうちいずれか1種を単独で用いても2種類以上を混合して用いてもよい。後述の二次被覆層の外層に熱可塑性エラストマーを使用する場合には、特にポリエステルエラストマーを使用することが好ましい。その場合にはソフトセグメントは以下に示すポリアルキルグリコールのみからなっていることが好ましい。ソフトセグメントとして脂肪族ポリエステルを使用すると耐湿熱性が低下することがあるからである。
【0012】
【化1】

【0013】
またポリエステルエラストマーのハードセグメントは下記の化学式2に示すポリアルキレンテレフタレートでも、下記の化学式3に示すポリアルキレンイソフタレートでもどちらを使用してもよい。また、どちらも含まれるものでもよい。
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
さらに二次被覆層の内層に熱可塑性エラストマーとしてポリエステルエラストマーを使用する場合には、その融点は200℃以下であることが好ましい。その場合には、耐湿熱性、配線時の加工性が良好で、被覆層を被覆する際に一次被覆層に発泡を生じたりすることが少ないからである。ポリエステルエラストマーの融点は好ましくは120℃〜195℃、さらに好ましくは150℃〜190℃が好ましい。融点があまり低いと配線性が逆に大幅に低下する場合があるからである。
【0017】
本発明の内層において使用される熱可塑性エラストマーの量は、樹脂成分中20〜70質量%とされる。20質量%より少ないと一次被覆層との接着性が低下し、70質量%を越えると後述のもう一方の樹脂成分であるエチレン系共重合体の量が減ることにより難燃性が低下するためである。
【0018】
(2)エチレン系共重合体
本発明においては、二次被覆層の内層として使用される樹脂組成物のベース樹脂には熱可塑性エラストマーの他にエチレン系共重合体が使用される。本発明に用いることのできるエチレン系共重合体として具体的には例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を混合して用いても良い。難燃性向上の点からは、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましい。また、難燃性を向上させる上でエチレンに対し共重合させた共重合成分の含有量(例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体ではVA含有量、エチレン−エチルアクリレート共重合体ではEA含有量)が40%以上のエチレン系共重合体が好ましく、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。
【0019】
本発明においてエチレン系共重合体の量は、ベース樹脂中30〜80質量%とされる。30質量%より少ないと難燃性が低下し、80質量%より多いともう一方の樹脂成分である熱可塑性エラストマーの量が減ることにより一次被覆層との接着性が低下するためである。さらに好ましくは40〜70質量%である。
二次被覆内層には熱可塑性エラストマーとエチレン系共重合体をベース樹脂に用いる。熱可塑性エラストマーは、一次被覆層、二次被覆最外層、各々との密着強度を向上させることができる。一方、エチレン系共重合体は、難燃性を発揮するために配合される金属水和物の配合量を低下させて、力学的強度を著しい低下を避けることができ、さらに耐加水分解性も向上させることができる。
【0020】
(3)金属水和物
本発明における二次被覆層の内層には、上記熱可塑性エラストマーとエチレン系共重合体からなるベース樹脂100質量部に対し、金属水和物を配合した樹脂組成物とされる。
本発明において用いることのできる金属水和物の種類には特に制限はないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、オルト珪酸アルミニウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基あるいは結晶水を有する金属化合物があげられ、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの金属水和物のうち、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましい。
【0021】
また、上記金属水和物は未処理でも表面処理されていてもよい。本発明で用いることができる水酸化アルミニウムとしては、表面未処理のもの(ハイジライトH42M(商品名、昭和電工製)など)、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸で表面処理されたもの(ハイジライトH42S(商品名、昭和電工製)など)などがあげられる。また、本発明で用いることができる水酸化マグネシウムとしては、表面無処理のもの(キスマ5(商品名、協和化学社製)など)、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸で表面処理されたもの(キスカ5A(商品名、協和化学社製)など)、リン酸エステル処理されたもの(キスマ5J(商品名、協和化学社製)など)、ビニル基またはエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤により表面処理されたもの(キスマ5L(商品名、協和化学社製)など)がある。
【0022】
難燃性の試験方法には水平難燃性、傾斜難燃性および垂直難燃性があるが、垂直難燃性を維持させる場合、金属水和物の配合量は内層ベース樹脂100質量部に対し、50〜200質量部とすることが好ましい。200質量部を越えると力学的強度や接着性の低下を招いたり、耐加水分解性が低下したり、外観が悪くなることがある。
また、エポキシ樹脂との接着性を阻害しない程度であれば、二次被覆層の外層に金属水和物を配合してもよく、この場合、外層を構成する樹脂成分100質量部に対し、0〜50質量部程度加えることが好ましい。
【0023】
(4)ポリエステルエラストマー
本発明においては、二次被覆層の外層を構成する樹脂組成物にはベースポリマーとして、ポリエステルエラストマーおよび/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物が使用される。
本発明におけるポリエステルエラストマーとは、一般的には結晶性(ハード)セグメントAと非結晶性(ソフト)セグメントBからなる(AB)n型のマルチブロック共重合体の構造を呈し、構造的にハードセグメントはポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレートなどのポリエステルであり、ソフトセグメントはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルタイプと脂肪族ポリエステルなどのポリエステルタイプの2種類が挙げられ、そのいずれも使用することができる。
【0024】
二次被覆層の最外層に使用するポリエステルエラストマーは、ハードセグメント、ソフトセグメント共に特に限定はしないが、ソフトセグメントとして前述の(1式)のみからなっているポリエステルエラストマーを好ましく使用することができる。
さらに二次被覆層の最外層に使用するポリエステルエラストマーの融点は特に限定なく使用することができる。
本発明において、ポリエステルエラストマーは1種を単独で用いても2種類以上を混合して用いてもよい。また、二次被覆層の最外層には下記エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物と混合して用いてもよい。
【0025】
(5)エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物
本発明では、最外層に酢酸ビニル共重合体の酢酸基の一部あるいは全部を水酸基に置換した、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物を使用することができる。
本発明において、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物は1種を単独で用いても2種類以上を混合して用いてもよい。また、上記ポリエステルエラストマーと混合して用いてもよい。
【0026】
(6)メラミンシアヌレート化合物
本発明では、二次被覆層の外層にはメラミンシアヌレート化合物を配合することができる。その粒径は細かいものが好ましく、平均粒径は10μm以下、より好ましくは7μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。また、分散性の面から表面処理されたメラミンシアヌレート化合物が好ましく用いられる。本発明で用いることのできるメラミンシアヌレート化合物としては、例えばMCA−1(商品名、三菱化学社製)や、MC600、MC860(いずれも商品名、日産化学社製)がある。また脂肪酸で表面処理したメラミンシアヌレート化合物としては、MC610、MC640(いずれも商品名、日産化学社製)などがある。本発明で用いることのできるメラミンシアヌレート化合物として、例えば以下のような構造のメラミンシアヌレートがある。
【0027】
【化4】

【0028】
本発明においてメラミンシアヌレート化合物の配合量は、最外層樹脂成分100質量部に対して0〜40質量部、好ましくは5〜30質量部である。メラミンシアヌレート化合物が少なすぎると難燃性向上の効果が発現せず、多すぎると力学的強度や接着強度が低下し、ファイバ素線としたときの外観が著しく悪くなる。
また、メラミンシアヌレート化合物を下記記載の有機化クレーと併用して2次被覆内層に添加することにより、2次被覆内層の金属水和物の配合量を大幅に減らすことができ、好ましい。
【0029】
(7)クレー
本発明の二次被覆層の最外層にはクレーを配合することができる。クレー(粘土鉱物)とは、層状構造を持つ珪酸塩鉱物等で、多数のシートが積層することで構成された層状構造を有する物質である。上記シートの中で、あるものは珪酸で構成された四面体が平面方向に多数結合して形成された四面体シートであり、あるものはAlやMgなどを含む八面体が平面方向に多数結合して形成された八面体シートである。このシートによる層状構造やシートを構成する元素の種類等は個々のクレーによって様々である。本発明においてはこのようなクレーのうち、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト、バーミキュライト、ハロイサイト、マイカ、フッ素化マイカ、カオリナイト、パイロフィロライト等を使用することができる。また、天然物でも合成物でもよい。
【0030】
本発明の二次被覆層の外層を構成する樹脂組成物には、クレー(粘土鉱物)を有機化剤にて有機化した、有機化クレーを好ましく使用することができる。上記有機化剤としては各種オニウムイオン等を使用することができる。この各種オニウムイオンは1〜4級のアンモニウムイオンで、例えば、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2−エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムイオン、トリオクタデシルアンモニウムイオン等を用いることができる。
【0031】
本発明において、クレーの配合量は最外層樹脂成分100質量部に対して、0〜30質量部、好ましくは3〜15質量部である。クレーの配合量が少なすぎると難燃助剤としての効果が発現せず、多すぎると力学的強度や接着強度が著しく低下する。クレーのうち、樹脂組成物中への分散性の点から有機化クレーを使用することが好ましい。
また、二次被覆層の内層に有機化クレーを上記記載のメラミンシアヌレート化合物と併用して2次被覆内層に添加することにより、2次被覆内層の金属水和物の配合量を大幅に減らすことができ、好ましい。
【0032】
さらに、本発明では二次被覆層の外層に難燃剤として金属水和物の他にメラミンシアヌレート化合物、難燃助剤としてクレーを併用することにより、金属水和物による水の発生、メラミンシアヌレート化合物による窒素ガスの発生、さらに樹脂組成物中に均一に分散したクレーが樹脂組成物の燃焼速度を遅くする役割を果たすため、高い難燃性を有すると考えられる。また、この効果により金属水和物を減らしても高い難燃性を維持させることができるため、金属水和物を大量に配合する場合より機械的強度、一次被覆層及びエポキシ樹脂との接着強度を向上させることができる。
【0033】
本発明においては、樹脂組成物中のベース樹脂を除く配合物を総称してフィラーといい、最外層を構成する樹脂組成物中、ベース樹脂100質量部に対してその合計が0〜60質量部配合される。内層の樹脂組成物で十分難燃性を保持できる場合には、最外層に難燃剤を配合する必要はないが、内層で配合される難燃剤によって難燃性を保持することが不十分な場合は、最外層にフィラーが充填される。
【0034】
本発明の絶縁樹脂組成物には、電線・ケ−ブルにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。またさらに特性を損なわない範囲で、ポリエステルエラストマー以外の樹脂を混合することができる。混合可能な範囲は特には限定しないが、一般的に30質量%以下である。
【0035】
酸化防止剤としては、4、4’‐ジオクチル・ジフェニルアミン、N、N’‐ジフェニル‐p‐フェニレンジアミン、2、2、4‐トリメチル‐1、2‐ジヒドロキノリンの重合物などのアミン系酸化防止剤、ペンタエリスリチル‐テトラキス(3‐(3、5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル‐3‐(3、5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1、3、5‐トリメチル‐2、4、6‐トリス(3、5‐ジ‐t‐ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ビス(2‐メチル‐4‐(3‐n-アルキルチオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル)スルフィド、2‐メルカプトベンゾイミダゾールおよびその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3‐ラウリル‐チオプロピオネート)などのイオウ系酸化防止剤、などがあげられる。
【0036】
金属不活性剤としては、N、N’‐ビス(3‐(3、5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3‐(N-サリチロイル)アミノ‐1、2、4‐トリアゾール、2、2’‐オキサミドビス‐(エチル3‐(3、5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などがあげられる。
【0037】
充填剤や上記以外の難燃剤としては、カーボン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ホワイトカーボンなどがあげられる。
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などがあげられ、なかでも、ワックスE、ワックスOP(いずれも商品名、Clariant社製)などの内部滑性と外部滑性を同時に示すエステル系、アルコール系、金属石けん系などが挙げられる。ただしこれらの滑剤や酸化防止剤、金属不活性剤をあまり加えると、下層のファイバ素線との密着が著しく低下し、実使用時にファイバが突き出したりするなどの問題が生じる。
【0038】
さらに、本発明では着色剤を内層材のみに添加することにより、二次被覆層が単層の際に生じた色落ちの問題も解決される。
また、本発明では光ファイバ素線の製造方法として、上記の内層材と外層材を同時に押出す方法を取ることにより、ダイスカスの問題が解決される。これは、ダイスカスに起因する金属水和物等の添加物が多く配合されている内層材が、相対的に添加物が少ない外層材により被覆された状態で押出成型されるためである。そして、内層の最外層に対する肉厚比は、1.5〜20であると内層による難燃・耐湿熱効果、最外層によるエポキシ樹脂との接着効果をバランスよく満たすことができ好ましい。
【実施例】
【0039】
直径0.125mmのファイバの外周に、紫外線硬化型樹脂(肉厚0.14mm)を塗布し、さらに300mJ/cmの紫外線を照射することによって一次被覆層を形成した。その後、表1で記した材料を210℃〜260℃の押出温度で肉厚0.25mm〜0.30mmの厚さで二次被覆層を形成した。
得られた各光ファイバ素線につき、下記の項目について評価を実施した。その結果を表1に示した。
・押出成型性:上記条件により光ファイバ心線を1000m作製した際のダイスカスの量を目視により観察した。
相対的に量が少ない場合、あるいは発生しないものを○、量が多い場合を×とした。
【0040】
・難燃性:UL1581の垂直燃焼試験を行い、5回試験を行った際に光ファイバ素線が自消するまでの時間の平均(単位:秒)を算出した。60以内を合格とした。
・接着性:素線をアルミ板にエポキシ樹脂で接着し、素線を引き剥がす強度(単位:N)を測定した。5N以上を合格とした。
・突出し:光ファイバ素線を1.00mに切断し、−30/80℃のヒートショック試験を行った。サイクル数は100サイクル、各保持時間は2時間で行った。
突出し量が0.2mm未満のものを○、0.2mm以上のものを不良とし×で表示した。
・耐湿熱性:85℃、85%の湿熱下に1000時間および2000時間放置し、50mmのマンドレルに6回巻きつけ、被覆部にクラックが生じるか確認した。1000時間放置後に巻付けてクラックが生じたものを×、1000時間後に巻付けてクラックが生じなかったものを○、2000時間後に巻付けてクラックが生じなかったものを◎とした。
・色落ち:光ファイバ素線をエタノールを含浸させた脱脂綿で軽く拭き取り、脱脂綿の色を目視により観察した。脱脂綿に被覆材の色が付着したものを×、付着しなかったものを○とした。
【0041】
1)ハイトレル4057
東レ・デュポン株式会社
ポリエステルエラストマー
融点:163℃
ハードセグメント:(化学式2)、(化学式3)
ソフトセグメント:ポリエチレングリコール
【0042】
2)ハイトレル4777
東レ・デュポン株式会社
ポリエステルエラストマー
融点:200℃
ハードセグメント:(化学式2)のみ
ソフトセグメント:ポリエチレングリコール
【0043】
3)メルセンH6960
東ソー株式会社
エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物
4)レザミンP−2288
大日精化工業株式会社
ポリウレタンエラストマー
【0044】
5)ペバックス4033
アトフィナ社
ポリアミドエラストマー
6)レバプレン800HV
バイエル社
エチレン−酢酸ビニル共重合体
VA含有率:80%
【0045】
7)キスマ5A
協和化学工業株式会社
水酸化マグネシウム
8)メラミンシアヌレートMC640
日産化学工業株式会社
メラミンシアヌレート
【0046】
9)ナノフィル32
ズード・ケミー社
有機化クレー
10)ステアリン酸カルシウム
白石カルシウム株式会社
ステアリン酸カルシウム
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
表の結果からわかるように、二次被覆内層のポリエステルエラストマーがベース樹脂の20%未満の10%である比較例1では突出しに問題がある一方で、70%を越える80%である比較例2では難燃性および耐湿熱性に問題があった。最外層を構成する樹脂組成物中に含有されるフィラーの総質量が60部を超える比較例3および4では押し出しの際に多量のダイスカスが発生するので押出成型性に問題がある。また二次被覆内層の金属水和物の配合量が200部を越える比較例5では耐湿熱性に問題があり、50部未満である比較例6では難燃性に問題を生じた。二次被覆層が1層のみからなる比較例7〜11ではエタノールを含浸させた脱脂綿で拭いた際の色落ちが著しかった。さらに比較例7、9、10、11ではダイスカスの発生量が著しく押出成型性に問題があった。
それに対して実施例1〜17では、いずれの項目にも問題はなく、難燃光ファイバ素線として良好な特性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】光ファイバ素線の断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1.光ファイバ
2.一次被覆材
3.二次被覆材(内層)
4.二次被覆材(外層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバの外周に一次被覆層が形成され、更に前記一次被覆層の外周に二次被覆層が形成されてなる光ファイバ素線であって、前記二次被覆層は少なくとも2層以上からなり、該二次被覆層の内層が熱可塑性エラストマー20〜70質量%およびエチレン系共重合体30〜80質量%からなるベース樹脂100質量部に対し金属水和物50〜200質量部を含有する樹脂組成物により構成されるとともに、該二次被覆層の最外層はポリエステルエラストマーおよび/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物からなるベース樹脂100質量部に対してフィラー0〜60質量部からなる組成物により構成されることを特徴とする難燃光ファイバ素線。
【請求項2】
前記内層を構成する樹脂組成物中の金属水和物の割合が前記最外層を構成する樹脂組成物中のフィラーの割合に対して質量比で2以上であることを特徴とする請求項1記載の難燃光ファイバ素線。
【請求項3】
前記内層の前記最外層に対する肉厚比が1.5〜20であることを特徴とする請求項1または2記載の難燃光ファイバ素線。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマーがポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマーおよびポリアミドエラストマーから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の難燃光ファイバ素線。
【請求項5】
前記最外層はメラミンシアヌレート化合物、クレーおよび金属水和物からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有する樹脂組成物で構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃光ファイバ素線。

【図1】
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【公開番号】特開2006−259418(P2006−259418A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78344(P2005−78344)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】