説明

難燃性エポキシ樹脂組成物並びにプリプレグ、積層板及び配線板

【課題】ハロゲンフリーで難燃性を付与し、熱伝導性、耐熱性を向上した難燃性エポキシ樹脂組成物を提供する。また、前記エポキシ樹脂組成物を使用したプリプレグ、積層板ないしは配線板を提供する。
【解決手段】実質的にハロゲンを含まないものであって、エポキシ樹脂成分が、芳香環の連続した液晶エポキシ樹脂および単一分子内に3つ以上のエポキシ基を持つ多官能エポキシ樹脂を含有してなり、前記液晶エポキシ樹脂と前記多官能エポキシ樹脂の配合割合がエポキシ当量比で90/10〜50/50の範囲とする。そして、硬化剤がビフェニル骨格を有するフェノール系硬化剤である。さらに、金属水酸化物粉末を樹脂固形分100質量部に対して50〜100質量部含有し、前記金属水酸化物粉末を含む無機充填材の総含有量が樹脂固形分と無機充填材の総体積の中で20〜80体積%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的にハロゲンを含まない難燃性エポキシ樹脂組成物に関する。また、このエポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグ、積層板ないしは配線板に関する。この樹脂組成物は、充分な難燃性を有し、耐熱性に優れかつ熱伝導性が良好で、発熱部品を実装する配線板の絶縁層として好適である。
【背景技術】
【0002】
電子機器に搭載する配線板は、電子機器の軽薄短小化に伴う微細配線・高密度実装の技術が求められる一方で、発熱に対応する高放熱の技術も求められている。特に、各種制御・操作に大電流を使用する自動車などにおける電子回路では、導電回路の抵抗に起因する発熱やパワー素子からの発熱が非常に多く、配線板の放熱特性は高レベルであることが必須となってきている。
それと同時に、環境問題への意識も高まっており、ハロゲン系難燃剤を用いない樹脂組成物を用いた配線板も出てきている。
【0003】
そのような現状において、放熱特性の向上に関しては、配線板の絶縁層の熱伝導性を向上させるために、例えば、特許文献1に記載されているように、熱硬化性樹脂に鱗片状無機充填材と粒子状無機充填材との混合充填材を添加することは広く行われている。また、特許文献2には、メソゲン基を有するモノマーを含む樹脂組成物を重合させた液晶性樹脂を用いることで、樹脂組成物そのものの熱伝導性を向上させる技術が開示されている。ハロゲン系難燃剤を用いない難燃性の付与に関しては、リン系難燃剤や金属水酸化物等様々な難燃剤が使用されている。
【0004】
しかしながら、絶縁層の熱伝導率を向上させつつハロゲンフリーで難燃性を付与することは、その目標達成が非常に困難になる。すなわち、難燃剤の添加は液晶性樹脂の配向を阻害するため、樹脂組成物そのものの熱伝導率が低下するという問題がある。また、難燃剤を反応系に組み込むと架橋密度が低くなり、ガラス転移温度が低下して耐熱性が低くなるという問題がある。一方、熱伝導率を向上させるために難燃剤の添加量を少なくすると、難燃効果が得られないという問題がある。
【0005】
特許文献3には、ビフェニル基がメチレン基を介してフェノールと結合した骨格を有する、重量平均分子量が3000以上のポリフェノール樹脂をエポキシ樹脂の硬化剤として使用する技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−232313号公報
【特許文献2】特開平11−323162号公報
【特許文献3】特開2002−241475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3の技術は、放熱特性の向上に関して一切考慮されていない。同技術は、分子構造内に芳香環が連続した剛直な分子骨格を導入し、エポキシ樹脂が燃焼した際にその剛直な分子骨格が炭素膜を形成し、燃焼を抑制するものと考えられるが、この燃焼抑制効果は炭素膜を形成するまでに時間を要するため、配線板に求められる高度な難燃性を充分確保できないという問題がある。また、特許文献1のエポキシ樹脂組成物をプリプレグに適用する場合、熱伝導率は向上するが、ワニスの粘度が高く、シート状繊維基材への含浸性が悪化するという問題がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、ハロゲンフリーで難燃性を付与し、熱伝導性、耐熱性を向上した難燃性エポキシ樹脂組成物を提供することである。また、このエポキシ樹脂組成物を使用したプリプレグを提供することである。さらには、前記プリプレグによる積層板ないしは絶縁層を備えた配線板を提供することである。このエポキシ樹脂組成物によれば、ハロゲンフリーで難燃性を付与し、かつ熱伝導性、耐熱性を向上した積層板ないしは絶縁層を提供することができる。このため、燃焼時に有害な物質が発生せず、大電流・発熱部品の搭載に対応し、放熱特性が求められる配線板に好適である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するために、本発明に係る難燃性エポキシ樹脂組成物は、実質的にハロゲンを含まないものであって、エポキシ樹脂成分が、芳香環の連続した液晶エポキシ樹脂および単一分子内に3つ以上のエポキシ基を持つ多官能エポキシ樹脂を含有してなり、前記液晶エポキシ樹脂と前記多官能エポキシ樹脂の配合割合をエポキシ当量比で90/10〜50/50の範囲とする。そして、硬化剤がビフェニル骨格を有するフェノール系硬化剤である。さらに、金属水酸化物粉末を樹脂固形分100質量部に対して50〜100質量部含有し、前記金属水酸化物粉末を含む無機充填材の総含有量が樹脂固形分と無機充填材の総体積の中で20〜80体積%であることを特徴とする(請求項1)。
【0010】
好ましくは、前記液晶エポキシ樹脂が、(式1)で示す分子構造のエポキシ樹脂である(請求項2)。
【0011】
【化1】

さらに好ましくは、前記液晶エポキシ樹脂が、(式2)で示す分子構造のエポキシ樹脂である(請求項3)。
【0012】
【化2】

【0013】
また、好ましくは、前記フェノール系硬化剤が、(式3)で示す分子構造のフェノール樹脂である(請求項4)。
【0014】
【化3】

【0015】
本発明に係るプリプレグは、上記難燃性エポキシ樹脂組成物をシート状繊維基材に含浸し乾燥してなるものである(請求項5)。
本発明に係る積層板は、上記プリプレグをプリプレグ層の一部ないし全部の層として、これを加熱加圧成形してなるものである(請求項6)。
本発明に係る配線板は、上記プリプレグの層を加熱加圧成形してなる絶縁層を備えたものである(請求項7)。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る難燃性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂の熱伝導率を向上させながら、ハロゲンフリーで難燃性を付与し、耐熱性も高い。その理由は、次の(1)〜(3)によるものと考えられる。
(1)液晶エポキシ樹脂とビフェニル骨格を有するフェノール系硬化剤を組み合わせることで、芳香環が連続した剛直な分子骨格が多くなる。エポキシ樹脂が燃焼した際にその剛直な分子骨格が炭素膜を形成し、燃焼を抑制する。
(2)(1)の燃焼抑制効果は炭素膜を形成するまでに時間を要するため、金属水酸化物粉末を添加する。金属水酸化物粉末が燃焼すると水分が発生するために発熱を抑制することができる。
すなわち、(1)、(2)の組み合わせによりハロゲン系難燃剤を使用することなく難燃性を付与することができる。
(3)ただし、(1)の樹脂組成だけでは、架橋密度が低下する。すなわち、ガラス転移温度の低下による耐熱性の低下が起こる。そこで、多官能エポキシ樹脂を所定量添加することで、架橋密度の低下を防ぐことができる。
【0017】
上記のように、本発明に係る難燃性エポキシ樹脂組成物は、液晶エポキシ樹脂とビフェニル骨格を有するフェノール系硬化剤を使用し、金属水酸化物粉末を添加することにより、ハロゲン系難燃剤を使用することなく難燃性を付与することができる。また、液晶エポキシ樹脂と多官能エポキシ樹脂の当量比を特定することにより、硬化剤との架橋密度が向上し、耐熱性を向上させることができる。さらに、耐熱性を保持したまま熱伝導性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に使用するエポキシ樹脂成分は、少なくとも次の二成分を混合する。すなわち、芳香環の連続した液晶エポキシ樹脂と単一分子内に3つ以上のエポキシ基を持つ多官能エポキシ樹脂である。
芳香環の連続した液晶エポキシ樹脂は、基本骨格にメソゲン基と呼ばれる芳香環等を含む剛直なグループからなるエポキシ樹脂化合物であり、具体的には、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシベンズアラニリン、4,4’−ジヒドロキシフェニルベンゾエート、4,4’−ジヒドロキシ−1,2−ジフェニルエチレン、4,4’−ジヒドロキシ−1,2−ジフェニルアセチレン、4,4’−ジヒドロキシアゾベンゼン、4,4’−ジヒドロキシアゾキシベンゼン、4,4’’−ジヒドロキシ−1’,4’−ジフェニルシクロヘキサン、4,4’’−ジヒドロキシ−1’,4’−ジフェニルシクロヘキセンのような化合物およびその誘導体等を含むものである。
【0019】
特に(式1)で示される分子構造式のビフェニル骨格あるいはビフェニル誘導体の骨格をもつエポキシ樹脂は、熱伝導性が向上するため好ましい。
【0020】
【化4】

【0021】
さらに好ましくは、(式2)で示される分子構造式のエポキシ樹脂を選択する。ビフェニル基がより配列しやすいため、熱伝導性をさらに向上することができる。また、ビフェニル骨格あるいはビフェニル誘導体の骨格は単一分子内に2つ以上あってもよい。
【0022】
【化5】

【0023】
単一分子内に3つ以上のエポキシ基を持つ多官能エポキシ樹脂は、従来用いられている多官能のエポキシ樹脂を用いることができる。例えば、3〜4官能のオルソクレゾールノボラック型エポキシ化合物、トリフェニロールメタン化合物をグリシジル化して得られる3官能エポキシ化合物、テトラフェニロールエタンやジアミノジフェニルメタンを原料とする4官能エポキシ化合物であり、これらの化合物を単独、または組み合わせて使用してもよい。
液晶エポキシ樹脂と多官能エポキシ樹脂の配合割合は、エポキシ当量比で90/10〜50/50の範囲とする。前記多官能エポキシ樹脂の配合割合がエポキシ当量比で10より小さいと、積層板ないしは絶縁層の耐熱性が低下する。また、液晶エポキシ樹脂が再結晶して凝集した固体を充分に粉砕できないため、ワニスを調製したときの分散性が悪化する。前記多官能エポキシ樹脂の配合割合がエポキシ当量比で50を超えると、積層板の熱伝導性が低下し、必要な性能を満たすことができない。
【0024】
エポキシ樹脂成分に配合する硬化剤は、ビフェニル骨格を有するフェノール系硬化剤を使用する。ビフェニル骨格を有するフェノール系硬化剤は、基本骨格にビフェニル骨格を含む剛直なグループからなるフェノール樹脂化合物であり、具体的には、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシ−1,2−ジフェニルエチレン、4,4’−ジヒドロキシ−1,2−ジフェニルアセチレン、4,4’−ジヒドロキシアゾベンゼン、4,4’−ジヒドロキシアゾキシベンゼン、4,4’’−ジヒドロキシ−1’,4’−ジフェニルシクロヘキサン、4,4’’−ジヒドロキシ−1’,4’−ジフェニルシクロヘキセンのような化合物およびその誘導体等を含むものである。
【0025】
好ましくは、(式3)で示される分子構造式のフェノール樹脂を選択する。ビフェニル基がより配列しやすいため、熱伝導性を向上することができる。また、ビフェニル骨格あるいはビフェニル誘導体の骨格は単一分子内に2つ以上あってもよい。
【0026】
【化6】

【0027】
また、硬化促進剤は、エポキシ樹脂成分とフェノール系硬化剤との重縮合反応を進行させるために従来用いられている硬化促進剤を使用することができる。例えば、トリフェニルホスフィン、イミダゾールやその誘導体、三級アミン化合物やその誘導体などが挙げられる。
【0028】
本発明では、無機充填材として、少なくとも金属水酸化物粉末を配合する。金属水酸化物粉末は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなど、難燃剤として使用される一般的な金属水酸化物粉末であればよい。前記金属水酸化物粉末を樹脂固形分100質量部に対して50〜100質量部となるように配合する。金属水酸化物粉末の配合量が50質量部より小さいと、難燃剤の量が少ないため、充分な難燃性が得られない。また、金属水酸化物粉末の配合量が100質量部より大きいと、金属水酸化物の吸湿量が多くなり、耐熱性や絶縁信頼性が低下する。
【0029】
上記金属水酸化物粉末を含む無機充填材の総含有量は、樹脂固形分と無機充填材の総体積の中で20〜80体積%となるように配合する。無機充填材の総含有量が20体積%より小さいと、積層板の充分な熱伝導性が得られない。また、無機充填材の総含有量が80体積%より大きいと、ワニスの粘度が上がりすぎるため、シート状繊維基材に含浸できず、外観の均一なプリプレグを製造することはできない。
【0030】
上記金属水酸化物粉末以外の無機充填材は、電気絶縁性を有していればよく、金属酸化物又は無機セラミックス、その他の充填材を含むことができる。例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化チタン、酸化亜鉛、炭化タングステン、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、雲母、タルク、マイカ等の無機粉末充填材、セラミックス繊維等の繊維質充填材等であり、これらをエポキシ樹脂成分と共に用いることで積層板ないしは絶縁層の熱伝導性が向上する。無機充填材の熱伝導率が30W/m・K以上であれば、積層板ないしは絶縁層の熱伝導性がさらに向上するので好ましい。
【0031】
さらに、無機充填材の形状は、粉末(塊状、球状)、単繊維、長繊維等いずれであってもよいが、特に、鱗片状のものであれば、無機充填材自身の積層効果によって硬化物の熱伝導性はさらに高くなり、これを適用した積層板ないしは絶縁層の放熱性がさらに向上するので好ましい。これら無機充填材は2種類以上を併用してもよい。さらに、この鱗片状の無機充填材と粒子状の無機充填材を併用することで、鱗片状の無機充填材が積層板ないしは絶縁層の平面方向から厚み方向へ配向するため、厚み方向にも高い熱伝導性が得られるためさらに好ましい。
【0032】
エポキシ樹脂成分と硬化剤、無機充填材、硬化促進剤を配合したエポキシ樹脂ワニスには、必要に応じて難燃剤や希釈剤、可塑剤、カップリング剤等を含むことができる。また、このエポキシ樹脂ワニスをシート状繊維基材に含浸し乾燥してプリプレグを製造する際、必要に応じて溶剤を使用することができる。これらの使用が、硬化物の熱伝導性に影響を与えることはない。
【0033】
本発明に係るプリプレグは、前記のエポキシ樹脂ワニスを、ガラス繊維や有機繊維で構成されたシート状繊維基材(織布や不織布)に含浸し加熱乾燥して、エポキシ樹脂を半硬化状態としたものである。本発明に使用できるガラス繊維織布基材は、特に限定するものではないが、ガラスの種類は強度や電気特性が良好なEガラスが好ましい。また、ワニスの含浸には目空き量の大きいものが好ましいため、開繊処理されていないガラス繊維織布基材がよい。
【0034】
そして、本発明に係る積層板は、前記のプリプレグを、プリプレグ層の全層ないしは一部の層として使用し加熱加圧成形してなるものであり、必要に応じて前記加熱加圧成形により片面あるいは両面に銅箔等の金属箔を一体に貼り合せる。無機充填材の総含有量を上述した80体積%以下にすれば、金属箔との接着性に特に問題となるところはない。
さらに、本発明に係る配線板は、前記のプリプレグの層を加熱加圧成形して絶縁層を形成するものであり、その対象は、片面配線板、両面配線板、さらには、内層と表面層に配線を有する多層配線板である。
【0035】
上記の方法により得られた配線板は、ハロゲンフリーで難燃性を付与し、かつ、絶縁層の耐熱性や熱伝導性が良好であるので、高温雰囲気下での使用が想定される自動車機器用の配線板や、パソコン等の高密度実装配線板に好適である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明に係る実施例を示し、本発明について詳細に説明する。尚、以下の実施例および比較例において、「部」とは「質量部」を意味する。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、本実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1
液晶エポキシ樹脂としてビフェニル骨格をもつエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製「YL6121H」,エポキシ当量175)32部、3官能エポキシ樹脂(プリンテック製「VG3101」,エポキシ当量210)13部(YL6121H/VG3101の配合割合が当量比で75/25)、ビフェニル骨格を有するフェノール系硬化剤(日本化薬製「GPH−103」,水酸基当量230)55部を用意し、これをメチルエチルケトン(和光純薬製)55部に70℃で溶解し、室温に戻した。
尚、「YL6121H」は、既述の分子構造式(式1)において、R=−CH,n=0.1である液晶エポキシ樹脂と分子構造式(式2)において、n=0.1である液晶エポキシ樹脂を等モルで含有するエポキシ樹脂である。
上記混合物(エポキシ樹脂組成物)に、水酸化マグネシウム(エア・ウォーター製「pz−1」,平均粒子径:10μm)75部、アルミナ(住友化学製「AA−3」,平均粒子径:2μm,熱伝導率30W/m・K,粒子形状:粒子状)180部(金属水酸化物粉末を含む無機充填材の総含有量が46体積%)およびメチルエチルケトン(和光純薬製)を23部加えてボールミルで混練し、エポキシ樹脂ワニスを調製した。
【0038】
このエポキシ樹脂ワニスを、厚さ60μmのガラス繊維織布基材に含浸し加熱乾燥して半硬化状態のプリプレグを得た。作製したプリプレグ4枚とその両側に18μm厚銅箔(福田金属製「CF−T9C」)を配置し、温度200℃、圧力4MPaの条件で90分間加熱加圧成形して一体化し、厚さ0.8mmの積層板を得た。
【0039】
実施例1で得たエポキシ樹脂ワニスの分散性および積層板の厚さ方向の熱伝導率、難燃性、はんだ耐熱性、耐湿絶縁性を測定した結果を、エポキシ樹脂ワニスの配合組成と共に表1にまとめて示す。測定方法は、以下に示すとおりである。
分散性:エポキシ樹脂ワニス調整後に、液晶エポキシ樹脂や無機充填材の凝集が確認できなければ「○」、確認できれば「×」とした。
厚さ方向の熱伝導率:積層板をエッチングにより銅箔を除去した後、50mm×120mmの板状試料を切り出し、プローブ法に準拠して室温で測定した。
難燃性:積層板をエッチングにより銅箔を除去した後、13mm×125mmの板状試料を切り出し、UL−94の燃焼試験法に準拠して測定した。V−0の基準を満足するものを「○」、V−0の基準を満足しないものを「×」とした。
はんだ耐熱性:300℃のはんだ槽に積層板を浮かべ、表面にふくれが生じるまでの時間を測定した。180秒以上の耐熱性があるものを「○」、180秒未満を「×」とした。
耐湿絶縁性:積層板に、導体幅150μm、導体間隔150μmのくし型パターンを形成した。この試料を85℃−85%の恒温恒湿槽中に入れ、導体間に50Vの電圧をかけた。そして、1000時間経過後の絶縁抵抗を測定した。そのとき1.0×1010Ω以上であれば「○」、1.0×1010Ω未満であれば「×」とした。
実施例1においては、エポキシ樹脂ワニスの分散性も良く、積層板の厚さ方向の熱伝導率、難燃性、はんだ耐熱性、耐湿絶縁性共に良好であった。
【0040】
実施例2〜3
実施例1において、「YL6121H」と「VG3101」の配合割合を当量比で90/10(実施例2)、50/50(実施例3)に変えたエポキシ樹脂ワニスを使用する以外は、実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。これら積層板の難燃性は、UL−94 V−0を満足した。また、積層板の厚さ方向の熱伝導率を測定した結果、「YL6121H」の配合割合が増加すると厚さ方向の熱伝導率も向上した。
【0041】
比較例1〜2
実施例1において、「YL6121H」と「VG3101」の配合割合を当量比で40/60(比較例1)、95/5(比較例2)に変えたエポキシ樹脂ワニスを使用する以外は、実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。これら積層板の厚さ方向の熱伝導率を測定した結果、比較例1では「YL6121H」の配合割合が少ないため、厚さ方向の熱伝導率が低下した。また、比較例2では「VG3101」の配合割合が少ないため、液晶エポキシ樹脂が再結晶して凝集した固体を充分に粉砕できないため、分散性が悪化した。また、はんだ耐熱性、耐湿絶縁性が低下した。
【0042】
実施例4〜5
実施例1において、「pz−1」の配合を50部(実施例4)と100部(実施例5)に変えたエポキシ樹脂ワニスを使用する以外は、実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。これら積層板の難燃性は、UL−94 V−0を満足した。また、積層板の厚さ方向の熱伝導率を測定した結果、「pz−1」の配合量が増加すると厚さ方向の熱伝導率も向上した。はんだ耐熱性および絶縁信頼性も良好であった。
【0043】
比較例3〜4
実施例1において、「pz−1」の配合量を40部(比較例3)と110部(比較例4)に変えたエポキシ樹脂ワニスを使用する以外は、実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。これらの積層板の難燃性を測定した結果、比較例3では難燃剤である「pz−1」の配合量が少ないため、UL−94 V−0を満足することができなかった。また、比較例4ではUL−94 V−0を満足できたが、水酸化マグネシウムの吸湿性によってはんだ耐熱性や耐湿絶縁性が低下した。
【0044】
実施例6〜7
実施例1において、金属水酸化物粉末を含む無機充填材の総含有量を20体積%(実施例6)、80体積%(実施例7)に変えたエポキシ樹脂ワニスを使用する以外は、実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。これら積層板の難燃性は、UL−94 V−0を満足した。また、積層板の厚さ方向の熱伝導率を測定した結果、無機充填材の総含有量が増加すると厚さ方向の熱伝導率も向上した。
【0045】
比較例5〜6
実施例1において、金属水酸化物粉末を含む無機充填材の総含有量を10体積%(比較例5)、90体積%(比較例6)に変えたエポキシ樹脂ワニスを使用する以外は、実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。これら積層板の厚さ方向の熱伝導率を測定した結果、比較例5では無機充填材の総含有量が少ないため、熱伝導率が低下した。また、比較例6では無機充填材の分散性が悪くなり、ガラス繊維織布基材に均一に含浸できず、熱伝導率が低下した。
実施例8
実施例1において、「YL6121H」の代わりに、「YL6121H」 を再結晶させて(式2)で示す分子構造の化合物のみを取り出した液晶エポキシ樹脂を用いる以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。この積層板の厚さ方向の熱伝導率は、4.2W/m・Kであり、実施例1より大きく向上した。
【0046】
比較例7
実施例1において、「YL6121H」の代わりに、液晶エポキシ樹脂ではないビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製「EP828」,エポキシ当量185)を用いる以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。この積層板の厚さ方向の熱伝導率は、0.8W/m・Kであり、実施例1より大きく悪化した。
【0047】
実施例9
実施例1において、「VG3101」の代わりに、多官能エポキシ樹脂(大日本インキ化学製「N−680」,エポキシ当量210)を用いる以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。この積層板の厚さ方向の熱伝導率は、2.9W/m・Kであり、実施例1とほぼ同等の値であり、はんだ耐熱性も変わらなかった。
【0048】
比較例8
実施例1において、「GPH−103」の代わりに、ビフェニル骨格を有さない汎用のフェノールノボラック系硬化剤(大日本インキ化学製「LF−6161」,水酸基当量130)を用いる以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。この積層板の厚さ方向の熱伝導率は、2.7W/m・Kであり、比較的良好であったが、UL−94 V−0を満足することができなかった。
【0049】
実施例2〜9、比較例1〜8のエポキシ樹脂ワニスおよび積層板についても、実施例1と同様に特性を測定し、結果を表1〜2に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表1、表2から明らかなように、液晶エポキシ樹脂と多官能エポキシ樹脂の配合割合をエポキシ当量比で90/10〜50/50の範囲とすることにより、ワニスを調製したときの分散性も良く、かつ、厚さ方向の熱伝導率、はんだ耐熱性、耐湿絶縁性が良好であることが理解できる(実施例1〜3と比較例1〜2の対照)。比較例1は液晶エポキシ樹脂の配合割合が少ないために、厚さ方向の熱伝導率が低下している。また、比較例2は多官能エポキシ樹脂の配合割合が少ないために、ワニスを調製したときの分散性が悪化している。またはんだ耐熱性、耐湿絶縁性が低下している。
【0053】
また、ビフェニル骨格を有するフェノール系硬化剤を使用することにより、難燃性を確保できることが理解できる(実施例1と比較例8の対照)。比較例8はビフェニル骨格を有さない汎用のフェノールノボラック系硬化剤を使用しているために難燃性を確保することができない。また金属水酸化物粉末を樹脂固形分100質量部に対して50〜100質量部含有することにより、難燃性を確保でき、かつ、はんだ耐熱性、耐湿絶縁性が良好であることが理解できる(実施例1、4〜5と比較例3〜4の対照)。比較例3は金属水酸化物粉末の配合量が少ないために、難燃性を確保することができない。また、比較例4は難燃性を確保できるが、はんだ耐熱性や耐湿絶縁性が低下している。
【0054】
さらに、金属水酸化物粉末を含む無機充填材の総含有量を樹脂固形分と無機充填材の総体積の中で20〜80体積%とすることにより、ワニスを調製したときの分散性も良く、かつ、厚さ方向の熱伝導率が良好であることが理解できる(実施例1、6〜7と比較例5〜6の対照)。比較例5は無機充填材の総含有量が少ないために、熱伝導率が低下している。また、比較例6は無機充填材の総含有量が多いために、ワニスを調製したときの無機充填材の分散性が悪くなり、熱伝導率が低下している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にハロゲンを含まない難燃性エポキシ樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂成分が、芳香環の連続した液晶エポキシ樹脂および単一分子内に3つ以上のエポキシ基を持つ多官能エポキシ樹脂を含有してなり、前記液晶エポキシ樹脂と前記多官能エポキシ樹脂の配合割合がエポキシ当量比で90/10〜50/50の範囲であり、
硬化剤がビフェニル骨格を有するフェノール系硬化剤であり、
金属水酸化物粉末を樹脂固形分100質量部に対して50〜100質量部含有し、前記金属水酸化物粉末を含む無機充填材の総含有量が樹脂固形分と無機充填材の総体積の中で20〜80体積%であることを特徴とする難燃性エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記液晶エポキシ樹脂が、(式1)で示す分子構造のエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1記載の難燃性エポキシ樹脂組成物。
【化1】

【請求項3】
前記液晶エポキシ樹脂が、(式2)で示す分子構造のエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項2記載の難燃性エポキシ樹脂組成物。
【化2】

【請求項4】
前記フェノール系硬化剤が、(式3)で示す分子構造のフェノール樹脂であることを特徴とする請求項1記載の難燃性エポキシ樹脂組成物。
【化3】

【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性エポキシ樹脂組成物をシート状繊維基材に含浸し乾燥してなることを特徴とするプリプレグ。
【請求項6】
請求項5記載のプリプレグの層を一部ないし全部の層として、これを加熱加圧成形してなることを特徴とする積層板。
【請求項7】
請求項5記載のプリプレグの層を加熱加圧成形してなる絶縁層を備えたことを特徴とする配線板。

【公開番号】特開2010−90182(P2010−90182A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258201(P2008−258201)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】