説明

難燃性帯電防止ポリエステル系樹脂組成物

【課題】
本発明は、ハロゲン系、リン系、アンチモン系等の難燃剤および難燃助剤を使用することなく、UL94V−2の難燃性を具備し、さらに外観、着色性能、靭性を損なわず、帯電防止性能に優れたポリエステル系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂、(B)帯電防止材、(C)メラミン・シアヌル酸化合物とを含み、かつ
(A)〜(C)の合計を100重量%としたときに、
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂:20〜98重量%、
(B)帯電防止材:1〜30重量%、
(C)メラミン・シアヌル酸化合物:1〜50重量%、
の量で含むことを特徴とする難燃性帯電防止ポリエステル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性帯電防止ポリエステル系樹脂組成物および該組成物で成形された成形品に関する。ハロゲン系難燃剤および燐系難燃剤もしくは助剤を用いずに、UL94V-2以上の難燃性を有する帯電防止ポリエステル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレンテレフタレートに代表される熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた特性から、近年、特に電気・電子機器部品およびメディア部品分野などの幅広い分野に利用されている。
【0003】
ところで、一般的なポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物は、帯電しやすく、このため、樹脂に帯電防止特性を付与することを目的として、導電性カーボンブラックや、金属繊維を添加して導電性を付与する方法が提案されている(特開平11−172089号公報(特許文献1)、特開平9−143350号公報(特許文献2)、特開平8−337678号公報(特許文献3))。
【0004】
また、スルホン酸塩型アニオン系帯電防止材を添加し、帯電防止性能を得る方法が、特開平7−33968号公報(特許文献4)で提案されている。
【特許文献1】特開平11−172089号公報
【特許文献2】特開平9−143350号公報
【特許文献3】特開平8−337678号公報
【特許文献4】特開平7−33968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気・電子機器部品およびメディア部品分野に使用される樹脂組成物には、帯電防止性能のほかに、耐薬品特性、摺動磨耗特性、機械的特性、難燃性がバランスよく高いことが望まれている。
【0006】
特に電気・電子機器部品およびメディア部品分野で、火災に対する安全性を確保するため、UL−94(米国アンダーライターラボラトリー規格)のV−2以上に適合するような難燃性が要求される場合が多い。
【0007】
これらの用途では、燃焼性を高めるため、樹脂組成物に、通常難燃剤が添加され、難燃剤としてハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤が使用されていた。しかしながら、環境問題への配慮から、従来難燃剤として使用されてきた塩素や臭素、リン、アンチモンを含まない難燃剤を用いた組成物が要望されている。
【0008】
しかしながら、ハロゲン系、リン系の難燃剤を使用しない組成物では、難燃性が不充分となるため、これらに替わる難燃剤は未だ提案されていなかった。
また、従来の難燃剤では帯電防止材と併用した場合に、組成物の弾性率が低くなり、その結果、耐衝撃性、靭性が不充分となり、このため、帯電防止性能、耐薬品特性、摺動磨耗特性、機械的特性、難燃性がバランスよく優れた組成物を得ることは困難であった。
【0009】
たとえば、特許文献1〜3のように、熱可塑性樹脂に導電性カーボンブラックや金属繊維等を添加して帯電防止性能を付与する場合、樹脂組成物の靭性が低下することや、表面外観および着色性の問題等があった。また、特許文献4の記載されていたスルホン酸塩型アニオン系帯電防止材では、帯電防止性能の持続性で問題が残る。しかも、これらはいずれも難燃剤として、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、アンチモン化合物が使用されていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記問題を解決するため、検討を重ねた結果、メラミン・シアヌル酸化合物を難燃剤として使用し、帯電防止材と組み合わせることで、ハロゲン系、リン系、アンチモン系等の難燃剤および難燃助剤を使用することなく、UL94V−2の難燃性を具備し、さらに外観、着色性能、靭性を損なわず、帯電防止性能に優れたポリエステル系樹脂組成物が得られることを見出し、発明に至った。しかも従来、低下する傾向にある曲げ弾性率を維持、もしくは向上させること、および帯電防止性能も向上させることを見出した。
(1)本発明に係る難燃性帯電防止ポリエステル系樹脂組成物は、
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂、(B)帯電防止材、(C)メラミン・シアヌル酸化合物とを含み、かつ
(A)〜(C)の合計を100重量%としたときに、
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂:20〜98重量%、
(B)帯電防止材:1〜30重量%、
(C)メラミン・シアヌル酸化合物:1〜50重量%、
の量で含むことを特徴とする。
(2)前記組成物が(A)〜(C)の合計を100重量部としたときに、(D)無機充填剤を0より多く150重量部以下の量で含む。
(3)(A)熱可塑性ポリエステル樹脂が、結晶性ポリエステル樹脂である。
(4)前記結晶性ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートまたはこれらのアロイからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
(5)(B)帯電防止材が、
ポリエチレングリコール系ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリエチレングリコールメタクリレート共重合体、ポリ(エチレンオキシド/プロピレンオキシド)共重合体、ポリ(エピクロロヒドリン/エチレンオキシド)共重合体、第四級アンモニウム塩基含有メタクリレート共重合体、高分子量ポリエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
(6)(C)メラミン・シアヌル酸化合物が、メラミン(2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン)とシアヌル酸(2,4,6-トリヒドロキシ-1,3,5-トリアジン)および/またはその互変異体が形成する化合物である。
(7)(D)無機充填剤がタルク、マイカ、硫酸バリウム、ガラス繊維、中空ガラス繊維、カーボン繊維、中空カーボン繊維、カーボンナノチューブ、酸化チタンウィスカー、繊維状ワラストナイト、クレー、シリカ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、中空フィラーからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
(8)前記記載の難燃性帯電防止ポリエステル系樹脂組成物からなる成形品。
(9)前記成形品が、光ディスク類、磁気ディスク類、電子電気機器、家庭機器、またはOA機器の外装もしくは内部機構プラスチックス部品である。
【0011】
なお、特許文献2には、熱可塑性ポリエステル樹脂に、メラミン・シアヌル酸付加物、ジエポキシ化合物のように官能基を2個以上有する化合物、リン系難燃剤、カーボンブラック、およびガラス繊維を配合してなる組成物が開示されている。しかしながら、かかる公報では、メラミン・シアヌル酸付加物は、リン系難燃剤と併用されており、すなわちリン系難燃剤の難燃助剤として使用されているに過ぎず、単独で使用した場合に、どの程度の難燃性を示すのか何ら示唆するものではなく、さらに帯電防止性能をあわせもつ組成物について、全く示唆すらされていない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ハロゲン系、リン系、アンチモン系難燃剤もしくは助剤を用いることなく、UL94V-2以上の難燃性を有する樹脂組成物が得られ、かかる組成物は、熱可塑性結晶性ポリエステルの機械的物性ならびに摺動性、外観および着色性能、靭性を損なわず、安定した帯電防止性を有している。さらに、本発明の組成物は、帯電防止材とメラミン・シアヌル酸化合物を併用しているので、曲げ弾性率が高く、耐衝撃性に優れている。
【0013】
このような組成物は、光ディスク類、磁気ディスク類、電子電気機器、家庭機器、またはOA機器の外装もしくは内部機構プラスチックス部品として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(1)本発明に係る難燃性帯電防止ポリエステル系樹脂組成物は、
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂、(B)帯電防止材、(C)メラミン・シアヌル酸化合物とを含む。
【0015】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂
熱可塑性ポリエステル樹脂とは具体的に、芳香族ジカルボン酸(または、そのエステル形成性誘導体)とジオール(または、そのエステル形成性誘導体)とを主原料とした縮合反応により得られる重合体または共重合体である。また、ポリエステル樹脂は、ラクトンなどの1分子中に水酸基とカルボン酸基を有するものを開環重合したものであってもよい。本発明では、加工性、機械的性質、電気的性質、耐熱性などのバランスに優れるという点で、結晶性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0016】
結晶性ポリエステル樹脂
結晶性ポリエステル樹脂としては、炭素原子数2〜10の脂肪族又は脂環式ジオール又はこれらの混合物と芳香族基がC6〜C20アリール基である芳香族ジカルボン酸1種以上とから誘導される結晶性樹脂が使用される。
【0017】
好適に使用される結晶性熱可塑性ポリエステルとしては、炭素原子数2〜10の脂肪族又は脂環式ジオール又はこれらの混合物と、1種以上の芳香族ジカルボン酸とから誘導されるポリエステルである。
【0018】
より好ましい結晶性ポリエステルとしては、脂肪族ジオールと芳香族ジカルボン酸から誘導され、次の一般式の繰返し単位を有するものである。
【0019】
【化1】

【0020】
式中、nは2〜6の整数であり、Rは芳香族ジカルボン酸に由来する脱カルボキシル化残基からなる炭素数6〜20のアリール基、アリールアルキル基またはアルキルアリール基である。
【0021】
脱カルボキシル化残基Rを誘導する芳香族ジカルボン酸の具体例は、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2-ジ(p-カルボキシフェニル)エタン、4,4'-ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4′−ビス安息香酸及びこれらの混合物である。これらの酸はすべて1以上の芳香核を有している。また、1,4-、1,5-または2,6-ナフタレンジカルボン酸のような縮合環を有する酸であってもよい。好ましいジカルボン酸はテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸又はこれらの混合物である。また本発明の効果を損なわない範囲で、シュウ酸、マロン酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体など他の2官能性カルボン酸を用いることもできる。
【0022】
ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ヘプタン-1,7-ジオール、オクタン-1,8-ジオール、ネオペンチルグリコール、デカン-1,10-ジオールなどの炭素原子数2〜15の直鎖脂肪族および脂環式ジオール;ポリエチレングリコール;ビスフェノールAと呼ばれる2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-(4-イソプロピルフェニル)メタン、ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1-ナフチル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1-フェニル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2-メチル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン;1-エチル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン;2,2-ビス(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、4-メチル-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナン、1,10-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンなどのジヒドロキシジアリールアルカン類;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロデカンなどのジヒドロキシジアリールシクロアルカン類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)スルホンなどのジヒドロキシジアリールスルホン類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エーテルなどのジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン;3,3',5,5'-テトラメチル-4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノンなどのジヒドロキシジアリールケトン類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルフィドなどのジヒドロキシジアリールスルフィド類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシドなどのジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4'-ジヒロキシジフェニルなどのジヒドロキシジフェニル類;9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどのジヒドロキシアリールフルオレン類などの二価フェノールやヒドロキノン、レゾルシノール、メチルヒドロキノンなどのジヒドロキシベンゼン類;1,5-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレンなどのジヒドロキシナフタレン類などの通常用いられるものを問題なく用いることができる。また、必要に応じ2種以上のジオール成分とを組み合わせて用いることもできる。
【0023】
これらのような2官能性カルボン酸とジオール成分と重合して得られるポリエステルとしては、特にポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)が好適である。このポリエステルは、チタン、ゲルマニウム、アンチモンなどを代表例とした一般的な重縮合触媒の存在下または非存在下で製造することもできるし、界面重合法、溶融重合法などにより製造することもできる。
【0024】
本発明では、1種のポリエステルを単独で使用してもよくまた、2種以上を組み合わせて使用してもよい。さらに必要に応じ、コポリエステルとして用いてもよい。熱可塑性ポリエステルを2種以上、組み合わせて使用する場合には、たとえばポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートなどの組み合わせが好ましく、これらはアロイを形成していてもよい。
【0025】
本発明で使用される熱可塑性ポリエステルの分子量は、成形品の物性を損なわない範囲であれば制限はなく、また、用いる熱可塑性ポリエステルの種類により最適化される必要があるが、GPCの測定によるポリスチレン換算で表記された重量平均分子量が10,000〜200,000のものが好ましく、特に20,000〜150,000のものが好適である。重量平均分子量が前記範囲内にあれば、成型したときに成形品の機械的特性が高く、また、成形性にも優れている。重量平均分子量が10,000未満の熱可塑性ポリエステル(a)を用いるとその樹脂の機械物性自身が不充分となり、例えば成形品の機械的特性が不充分であることがあり、逆に重量平均分子量が200,000より大きいと成形時の溶融粘度が増大するなど成形性が低下することがある。
【0026】
また、上記ポリエステルと小量(例えば約0.5〜約5重量%)の脂肪族酸及び/又は脂肪族ポリオールから誘導された単位とでコポリエステルを形成しているものも本発明で結晶性ポリエステルとして使用することができる。脂肪族ポリオールにはポリ(エチレングリコール)のようなグリコール類が挙げられる。かかるポリエステルは、例えば米国特許第2465319号及び同第3047539号の教示にしたがって製造することが可能である。
【0027】
この熱可塑性ポリエステル(a)は、チタン、ゲルマニウム、アンチモンなどを代表例とした一般的な重縮合触媒の存在下または非存在下で製造することもできるし、界面重合法、溶融重合法などにより製造することもできる。
【0028】
(B)帯電防止材
本発明で用いられる帯電防止材としては、アニオン系帯電防止材、カチオン系帯電防止材、非イオン系帯電防止材、両性系帯電防止材等の低分子型帯電防止材及び高分子型帯電防止材等が挙げられる。
【0029】
アニオン系帯電防止材として、アルキルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。アルキルスルホン酸ナトリウムとしては、例えばアルキル基が炭素原子数12〜16の直鎖状アルキル基であるアルキルスルホン酸ナトリウムであり、通常、混合物として用いられる。
【0030】
カチオン系帯電防止材として、アルキルスルホン酸テトラブチルホスホニウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウムが特に好ましい。アルキルスルホン酸テトラブチルホスホニウムとしては、例えばアルキル基が炭素原子数12〜16の直鎖状アルキル基であるアルキルスルホン酸ナトリウムであり、通常、混合物として用いられる。
【0031】
非イオン系帯電防止材としては、ポリオキシエチレン誘導体、多価アルコール誘導体およびアルキルエタノールアミンが挙げられる。ポリオキシエチレン誘導体として、例えばポリエチレングリコールは、数平均分子量が500〜100,000のものが好ましく用いられる。
【0032】
高分子型帯電防止材としては、ポリエチレングリコールメタクリレート共重合体、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルアミドイミド、ポリアルキレンオキシド共重合体、ポリエチレンオキシドーエピクロルヒドリン共重合体およびポリエーテルエステル、ポリエチレングリコール系ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリ(エチレンオキシド/プロピレンオキシド)共重合体、ポリ(エピクロロヒドリン/エチレンオキシド)共重合体、第四級アンモニウム塩基含有メタクリレート共重合体、高分子量ポリエチレングリコールからなるが挙げられる。
【0033】
これらのなかでも、高分子型帯電防止材が好ましく、特に、ポリエチレングリコール系ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリエチレングリコールメタクリレート共重合体、ポリ(エチレンオキシド/プロピレンオキシド)共重合体、ポリ(エピクロロヒドリン/エチレンオキシド)共重合体、第四級アンモニウム塩基含有メタクリレート共重合体、高分子量ポリエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。このような高分子型帯電防止材は、帯電防止の持続性が他のものに比べて高いという特性を有している。なお、高分子型帯電防止材と、他の帯電防止材とを組み合わせて使用してもよい。
【0034】
(C)メラミン・シアヌル酸化合物
メラミン・シアヌル酸化合物とは、メラミン(2,4,6-トリアミノ−1,3,5−トリアジン)とシアヌル酸(2,4,6−トリヒドロキシ-1,3,5-トリアジン)および/またはその互変異体が形成する化合物である。メラミン・シアヌル酸化合物は、メラミンの溶液とシアヌル酸の溶液を混合して塩を形成させる方法や一方の溶液に他方を加えて溶解させながら塩を形成させる方法等によって得ることができる。
【0035】
メラミンとシアヌル酸の混合比には特に限定はないが、得られる化合物が熱可塑性ポリエステル樹脂の熱安定性を損ないにくい点から、等モルに近い方がよく、特にモル比で1:1が好ましい。メラミン・シアヌル酸化合物の平均粒子径は、特に限定されないが、得られる組成物の強度特性、成形加工性の点から0.01〜250μmが好ましく、特に、0.5〜200μmが好ましい。
【0036】
このようなメラミン・シアヌル酸化合物は、単独で難燃剤として使用しても難燃性が高く、UL94V-2を達成できる。なお、従来、このようなメラミン・シアヌル酸化合物を難燃剤として使用できることは何ら示唆されていない。さらに、リン、アンチモン、ハロゲンなどを含まないので環境面でも好適である。
【0037】
しかも、このようなメラミン・シアヌル酸化合物と、上記帯電防止材とを組み合わせることで、弾性を高めることができるので、撓んだときに割れにくく、また耐衝撃性に優れた成形品を得ることが可能となる。
【0038】
(D)無機充填剤
本発明の組成物には、さらに無機充填剤が含まれていてもよい。
無機充填剤としては、ガラス繊維、中空ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、中空カーボン繊維、カーボンナノチューブ、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、酸化チタンウィスカー、繊維状ワラストナイト等の無機質繊維状物質を使用することができる。これらの繊維状充填剤は集束剤又は表面処理剤で処理されていてもよい。かかる集束剤は、例えばウレタン系やエポキシ系、表面処理剤としては、例えば、シラン系化合物、例えばアミノシラン系やエポキシシラン系、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物である。
【0039】
また、タルク、マイカ、クレー、ウォラストナイト、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスバルーン、中空フィラー、ウォラストナイト、重質または軽質の炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、ケイソウ土、カオリン等の無機質無定型物質を使用することができる。これらの無機質無定型物質は表面処理剤で処理されていてもよい。
【0040】
無機充填剤は単独で使用しても、または2種以上併用してもよい。さらに繊維状充填剤と非繊維状充填剤を併用してもよく、単に繊維状充填剤を配合した場合に比べて、線膨張係数の増大が抑制され、その結果、寸法安定性に優れた樹脂組成物を調製することができる。
【0041】
配合比
(A)〜(C)の合計を100重量%としたときに、(B)帯電防止材は、1〜30重量%、好ましくは3〜25重量%の割合にあることが望ましい。この範囲にあれば、高い帯電防止性能を発揮できる。なお。帯電防止材の量が多いと、樹脂との相溶性が低下して、成形品に層状剥離を生じることがある。
【0042】
また、(C)メラミン・シアヌル酸化合物は、1〜50重量%、好ましくは3〜40重量%、さらに好ましくは、5〜30重量%の割合にあることが望ましい。この範囲にあれば、高い難燃性を示すとともに、弾性を高めることができるので、撓んだときに割れにくく、また耐衝撃性に優れた成形品を得ることができる。
【0043】
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂が、上記(B)および(C)を除いた残りであり、通常20〜98重量%の割合にある。
また、前記組成物の(A)〜(C)の合計を100重量部としたときに、(D)無機充填剤が0より多く150重量部以下、好ましくは、3〜130重量部、さらに好ましくは5〜100重量部の量で含むことが望ましい。
【0044】
本発明では、さらに必要に応じて、フェノール系やホスファイト系などの酸化防止剤、エチレンと不飽和カルボン酸とのケン化物であるアイオノマー、カルボン酸金属塩、などの結晶核剤、などを単独または2種類以上併せて配合してもよい。さらに必要に応じて、通常良く知られた、安定剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、顔料、染料、滑剤、可塑剤、などの添加剤を本発明の目的を損なわない程度に、単独または2種類以上併せて使用することができる。なお、本発明では、実質的にリン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、アンチモン系難燃剤を含んでいないことが好ましい。
【0045】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されるものではない。例えば上記成分、および他の添加剤、樹脂、等を乾燥後、単軸、2軸等の押出機のような溶融混練機にて、溶融混練する方法等により製造することができる。また、配合剤が液体である場合は、液体供給ポンプなどを用いて2軸押出機に途中添加して製造することもできる。
【0046】
本発明で製造された熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の成形加工法は特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、例えば射出成形、ブロー成形、押出成形、真空成形、プレス成形、カレンダー成形、などが適用できる。また、得られる樹脂組成物は、安全で高度な難燃性を有し、帯電防止性能、摺動性などの特性とのバランスが良好であるため、メディア用途を中心に、デジタルオーディオテープ、デジタルビデオテープ、ビデオテープなどテープタイプのデータカートリッジおよびその再生装置これらを構成部品、CD、DVD、MDなどの光ディスク、磁気ディスク、青色レーザーディスクおよびこれらの読み取り機構、内蔵ファンやセンサー、光ディスク軸受などに使用される。
【0047】
さらに、コピー機、家電ハウジング、プリンタ・パソコン・ファックス部品などのOA機器部品(分離爪、ギア、スペーサーなど)、コネクタ・スイッチ・ヒューズホルダー・ブレーカーケースなどの電子・電気部品に好適に使用される。
【0048】
[実施例]
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂(PBT):
ポリブチレンテレフタレートは、日本ジーイープラスチックス社製のValox 310(商品名)を使用した。
(B)帯電防止材:
帯電防止材は、三洋化成工業社製のペレスタットNC6321(商品名)を使用した。
(C)メラミン・シアヌル酸化合物:
メラミン・シアヌル酸化合物は、日産化学工業社製のMC−440(商品名)を使用した。
(D-1)タルク:
タルクは、富士タルク工業社製TALC NK-48(商品名)を使用した。
(D-2)ガラス繊維:
ガラス繊維は、日本電気硝子社製、ガラス長繊維製品(チョップドストランド)ECS03T―120(商品名)を使用した。
(E)安定剤は、旭電化社製のADK STAB AO-60(商品名)を使用した。
【0049】
各成分を表1に示す割合(重量比)で、40mmの二軸押出機を用いて、混練設定温度250℃、スクリュー回転数250rpm、アウトプット量100kg/hで溶融混練し、ペレットを作った。このペレットを用いて、東洋機械金属社製の射出成形機により、設定温度250℃、金型温度50℃の条件で試験片を成形した。得られた試験片について以下の特性評価を行った。結果を表1に示す。
(1)表面抵抗値:ASTM D257に従って、50mm×50mm×3.2mmの試験片を荷電100Vにて測定した。
(2)半減期:JIS L 1094従って、印加電圧9.0KVで測定した。
(3)曲げ弾性率試験:ASTM D790に従って、室温23℃、湿度50%に制御された部屋にて測定した。
(4)摺動磨耗性試験:スラスト型磨耗試験機を用い、荷重2.5kg/cm2、回転スピード300mm/秒、6時間、相手部材ステンレスS45Cを用いて、その重量減量%を測定した。
(5)難燃性試験:UL94Vの試験法に従い、試験片肉厚1.0mmにて燃焼試験を行い、UL94Vの実力確認を行った。
【0050】
【表1】

【0051】
表1より、本発明のように、帯電防止材とメラミン・シアヌル酸化合物を配合することで、UL94V-2レベルの難燃性を達成できるとともに、弾性率を高めることも可能となるので、曲げ弾性の高い成形品を得ることが可能となる。さらに、得られた成形品は同じ帯電防止材を使用しても、メラミン・シアヌル酸化合物を併用することで、表面抵抗が小さく、半減期も小さいので、帯電防止性に優れた成形品を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂、(B)帯電防止材、(C)メラミン・シアヌル酸化合物とを含み、かつ
(A)〜(C)の合計を100重量%としたときに、
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂:20〜98重量%、
(B)帯電防止材:1〜30重量%、
(C)メラミン・シアヌル酸化合物:1〜50重量%、
の量で含むことを特徴とする難燃性帯電防止ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記組成物が(A)〜(C)の合計を100重量部としたときに、(D)無機充填剤が少なくとも1種類以上含みかつ、0より多く150重量部以下の量で含むことを特徴とする請求項1に記載の難燃性帯電防止ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂が、結晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性帯電防止ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記結晶性ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、またはこれらのアロイからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項3に記載の難燃性帯電防止ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
(B)帯電防止材が、
ポリエチレングリコール系ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリエチレングリコールメタクリレート共重合体、ポリ(エチレンオキシド/プロピレンオキシド)共重合体、ポリ(エピクロロヒドリン/エチレンオキシド)共重合体、第四級アンモニウム塩基含有メタクリレート共重合体、高分子量ポリエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性帯電防止ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】
(C)メラミン・シアヌル酸化合物が、メラミン(2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン)とシアヌル酸(2,4,6-トリヒドロキシ-1,3,5-トリアジン)および/またはその互変異体が形成する化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の難燃性帯電防止ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項7】
(D)無機充填剤がタルク、マイカ、硫酸バリウム、ガラス繊維、中空ガラス繊維、カーボン繊維、中空カーボン繊維、カーボンナノチューブ、酸化チタンウィスカー、繊維状ワラストナイト、クレー、シリカ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、中空フィラーからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の難燃性帯電防止ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の難燃性帯電防止ポリエステル系樹脂組成物から成る成形品。
【請求項9】
前記成形品が、光ディスク類、磁気ディスク類、電子電気機器、家庭機器、またはOA機器の外装もしくは内部機構プラスチックス部品であることを特徴とする請求項8に記載の成形品。

【公開番号】特開2006−36809(P2006−36809A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214533(P2004−214533)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(390000103)日本ジーイープラスチックス株式会社 (36)
【Fターム(参考)】