説明

難燃性架橋樹脂組成物の製造方法および難燃性架橋樹脂組成物

【課題】熱可塑性樹脂を主成分とし、ハロゲン化物を含まず、耐熱性・耐摩耗性を確保し、無機系難燃剤を配合しても架橋後の架橋度を維持できて、加工性、生産性に優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】無機系難燃剤表面に多官能性モノマーを付着させる表面処理工程、得られた表面処理物と熱可塑性樹脂とを混合する工程を含むことを特徴とする難燃性架橋樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性架橋樹脂組成物の製造方法および難燃性架橋樹脂組成物に係り、特に、難燃性、機械的強度、架橋度、加工性が向上した非ハロゲン系難燃性架橋ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂組成物として、ポリ塩化ビニル樹脂組成物は、耐電圧及び絶縁抵抗が比較的高く、生産コストが低く難燃性に優れているが、焼却廃棄処分する際に塩化水素ガスを発生するので環境上好ましくない。一方、ハロゲン化物を含まないポリエチレン等のオレフィン系樹脂組成物を自動車のワイヤハーネス等、高温を発する箇所の電線・ケーブルの絶縁体に用いる検討が行われている。このオレフィン系樹脂組成物は、単独では難燃性がないため、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を混合して難燃性を持たせている。金属水酸化物を混合してオレフィン系樹脂の難燃性を図るには、シランカップリング剤によりオレフィン系樹脂を架橋して行うのが一般的である。
【0003】
ところが、この水酸化マグネシウム等の金属水酸化物は、オレフィン系樹脂に配合した場合、オレフィン系樹脂に対して親和性が低く、架橋性オレフィン系樹脂組成物の耐熱性・耐摩耗性を低下させる原因となる。実際、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を多量に混合すると機械的衝撃に対する耐摩耗性が低下してしまう。しかしながら、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物の配合量を少なくすると、所望する高度な難燃特性を得ることができなくなってしまう。
【0004】
架橋性オレフィン系樹脂を使用する場合の改良処方として、特許文献1には、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン共重合体のいずれか1又は2以上を混合したオレフィン系樹脂に、金属水酸化物、カップリング剤、架橋剤、触媒、分散及び/又は接着機能付加剤を配合してなる難燃架橋オレフィン系樹脂組成物が記載されている。
【0005】
特許文献2には、ハロゲン元素を含まない樹脂または該樹脂にハロゲン元素を含まない難燃剤を配合した樹脂組成物から選ばれた非ハロゲン系難燃性樹脂材料からなるシートあるいはフィルムの片面に電子線照射し、シートあるいはフィルムの片面側を架橋した後、シートあるいはフィルムの架橋していない側に導体を並設し、さらにその上に前記非ハロゲン系難燃性樹脂材料からなるシートあるいはフィルムの片面側を同様に架橋した別のシートあるいはフィルムを架橋していない側を導体側にして重ねた後、全体を加熱し、架橋していない部分を融着させ一体化したことを特徴とする非ハロゲン系難燃テープ電線が記載されている。
【特許文献1】特開2000−1578号公報
【特許文献2】特開2002−208315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オレフィン系樹脂に非ハロゲン系の難燃剤である金属水酸化物を配合した難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、ポリ塩化ビニルと比べて柔軟性が劣るという問題点があった。しかも必要な難燃性を確保するために、難燃剤である金属水酸化物を多量に配合させる必要があることから、耐熱性・耐摩耗性も低下するという問題点があった。
そのため、被覆材料を硬質化したり、被覆材料の厚みを厚くしたり、電子線架橋や化学架橋等を施したりすることが考えられる。しかし、架橋による対策では被覆電線の生産性が低下したり、大型の設備が必要になったりして製造コストが上昇する。
従って、本発明の課題は、前記した従来技術が有する問題点を解決し、熱可塑性樹脂を主成分とし、ハロゲン化物を含まず、耐熱性・耐摩耗性を確保し、金属水酸化物等の無機系難燃剤を配合しても架橋後の架橋度を維持できて、加工性、生産性に優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は下記(1)〜(8)により解決されることを見出した。
(1) 無機系難燃剤表面に多官能性モノマーを付着させる表面処理工程、得られた表面処理物と熱可塑性樹脂とを混合する工程を含むことを特徴とする難燃性架橋樹脂組成物の製造方法。
(2) 無機系難燃剤の配合量が5〜150質量部であり、多官能性モノマーの配合量が1〜10質量部であり、熱可塑性樹脂の配合量が100質量部であることを特徴とする(1)に記載の難燃性架橋樹脂組成物の製造方法。
(3) 無機系難燃剤表面に多官能性モノマーおよびシランカップリング剤の混合物を付着させる表面処理工程、得られた表面処理物と熱可塑性樹脂とを混合する工程を含むことを特徴とする難燃性架橋樹脂組成物の製造方法。
(4) 無機系難燃剤の配合量が5〜150質量部であり、多官能性モノマーおよびシランカップリング剤の混合物の配合量が1〜10質量部であり、熱可塑性樹脂の配合量が100質量部であり、
多官能性モノマーおよびシランカップリング剤の混合物における質量比が多官能性モノマー:シランカップリング剤=1:10〜10:1であることを特徴とする(3)に記載の難燃性架橋樹脂組成物の製造方法。
(5) 多官能性モノマーが多官能アクリレートモノマーまたは多官能メタクリレートモノマーであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の難燃性架橋樹脂組成物の製造方法。
(6) 熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の難燃性架橋樹脂組成物の製造方法。
(7) 無機系難燃剤が金属水酸化物であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の難燃性架橋樹脂組成物の製造方法。
(8) 熱可塑性樹脂100質量部に対して、多官能性モノマー及び/又は多官能性モノマーとシランカップリング剤で表面処理された無機系難燃剤5〜150質量部を配合してなることを特徴とする難燃性架橋樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、架橋度が増し、耐熱性および耐摩耗性に優れた難燃性架橋樹脂組成物を得ることができる。
本発明の架橋性難燃性樹脂組成物では、無機系難燃剤と官能性モノマーを予め混合すること等によって無機系難燃剤表面に多官能性モノマーを付着させ、無機系難燃剤を表面処理したものを用いることで、熱可塑性樹脂同士の架橋度が増加する。本来、多官能性モノマーが樹脂の架橋助剤として機能するため、多官能性モノマーを介して樹脂分子同士が架橋する。その一方で、従来は樹脂分子間に介在する無機系難燃剤が架橋を阻害していたと考えられる。本発明では、上記表面処理により、無機系難燃剤の表面に存在する多官能性モノマーを介して、例えば樹脂/多官能性モノマー/無機系難燃剤/多官能性モノマー/樹脂のような架橋状態が可能となると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明において使用される熱可塑性樹脂としては、非ハロゲン系熱可塑性樹脂であれば特に限定されるものではなく、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂等を挙げることができるが、特にポリオレフィン系樹脂が好ましい。具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、ABS、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸アミド共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン無水マレイン酸共重合体、熱可塑性エラストマーとして、ポリプロピレン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー等を挙げることができる。
これらのうち、本発明で特に好ましい熱可塑性樹脂は低密度ポリエチレン(LDPE)である。又、低密度ポリエチレン(LDPE)を単独で使用してもよいし、他の熱可塑性樹脂を1種以上併用しても差し支えない。
【0010】
本発明に使用される無機系難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、四酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、ジルコニウム化合物、モリブデン化合物、炭酸カルシウム、シリカ、シリコーンレジンパウダー、シリコーンゴムパウダー、タルク、アクリルシリコーンパウダー、酸化チタン、けいそう土、硫化鉱、硫化焼鉱、黒鉛、ベントナイト、カオリナイト、活性炭、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化鉄、大理石、ベークライト、ポートランドセメント、SiOパウダー、合成マイカ、マイカから一種以上選択することが出来る。本発明で特に好ましい無機系難燃剤は水酸化マグネシウムである。
【0011】
本発明においては、無機系難燃剤の配合量は熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは10〜100質量部、より好ましくは、20〜80質量部である。無機系難燃剤の配合量が上記範囲であれば難燃効果を十分確保できると共に、樹脂組成物の硬度が高くなりすぎることがなく好ましい。
【0012】
本発明で使用される多官能性モノマーは特に限定されないが、多官能アクリレートモノマー、多官能メタクリレートモノマーが好ましい。具体的には、ポリエチレングリコール#200グリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール#400ジアクリレート、ポリエチレングリコール#1000ジアクリレート、ポリエチレングリコール#600ジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、エトキシ化2−メチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコール#400ジアクリレート、ポリプロピレングリコール#700ジアクリレート等のジアクリレートモノマー、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等のトリアクリレートモノマー、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール#400ジメタクリレート、ポリエチレングリコール#600ジメタクリレート、ポリエチレングリコール#1000ジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコール#700ジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコール#400ジメタクリレート等のジメタクリレートモノマー、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレート等のトリメタクリレートモノマー等を好ましく用いることができる。多官能性モノマーの添加量は多すぎると樹脂が劣化しやすく、少なすぎると架橋不足により機械特性等の特性が低下するので、好ましくは熱可塑性樹脂100質量部に対して2〜5質量部である。
【0013】
本発明の別の実施態様として、更に、多官能性モノマーと共にシランカップリング剤で無機系難燃剤を表面処理すると耐熱性・耐摩耗性が更に向上する。シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、長鎖フルオロアルキルシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメチキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、1,4−ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等がある。
無機系難燃剤表面へのシランカップリング剤の配合量は、無機系難燃剤の種類や形状等によって異なるが、熱可塑性樹脂100質量部に対して2〜5質量部であることが好ましい。
【0014】
多官能性モノマーとシランカップリング剤を併用する場合、その質量比は多官能性モノマー:シランカップリング剤=1:10〜10:1が好ましく、1:2〜2:1がより好ましい。
【0015】
本発明の架橋性難燃性樹脂組成物には更に、その目的に応じて、各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、酸化防止剤、加工助剤、紫外線吸収剤、安定剤、光安定剤、潤滑剤、充填剤、接着助剤、防錆剤を挙げることができる。
【0016】
酸化防止剤としては特に限定されないが、例えばフェノール系、アミン系のもの等を好ましく用いることができる。酸化防止剤の添加量は少なすぎると添加効果が得られず、多すぎるとブルーミングやブリード・アウトが生じることがあるので、樹脂100質量部に対して0.1〜2.0質量部が好ましい。
本発明において使用可能な酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4−チオビス−(2−t−ブチル−5−メチルフェノール)、2,2−メチレンビス−(6−t−ブチル−メチルフェノール)、4,4−メチレンビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスホナイト、テトラキス(メチレン)−3−(ドデシルチオプロピオネート)メタン等が挙げられる。
【0017】
加工助剤としては特に限定されないが、例えばステアリン酸系の脂肪族系炭化水素等を好ましく用いることができる。加工助剤の添加量は樹脂100質量部に対して0.1〜1.0質量部が好ましい。上記範囲内であれば動的粘度を適度に低下させる効果があるため好ましい。
【0018】
本発明において使用可能な安定剤としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の各種金属せっけん系安定剤、ラウレート系、マレート系やメルカプト系各種有機錫系安定剤、ステアリン酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の各種鉛系安定剤、エポキシ化植物油等のエポキシ化合物、アルキルアリルホスファイト、トリアルキルホスファイト等のホスファイト化合物、ジベンゾイルメタン、デヒドロ酢酸等のβ−ジケトン化合物、ソルビトール、マンニトール、ペンタエリスリトール等のポリオール、ハイドロタルサイト類やゼオライト類を挙げることができる。
【0019】
本発明において使用可能な上記光安定剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、シュウ酸アニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。
【0020】
次に、本発明の製造方法について説明する。
本発明では、無機系難燃剤表面に多官能性モノマーまたは多官能性モノマーおよびシランカップリング剤の混合物を付着させ、表面処理を行う。表面処理の方法としては、多官能性モノマーと、または多官能性モノマーとシランカップリング剤の混合物と、無機系難燃剤とを混合し、或いは混練することにより行う方法が挙げられる。また、無機系難燃剤をヘンシェルミキサー等で撹拌しているところに、規定量の多官能性モノマー、または多官能性モノマーとシランカップリング剤の混合物を、滴下、噴霧等の方法で均一にコーテンィグを行う方法も適用できる。
本発明では無機系難燃剤を多官能性モノマー及び/又は多官能性モノマーとシランカップリング剤であらかじめ表面処理することにより無機系難燃剤が均一に分散され、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂の架橋を確実に進行させることが可能となる。
【0021】
つぎに、上記表面処理工程後の表面処理物と、熱可塑性樹脂とを、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、二軸押出機等の混練機を用いて混合することで、本発明の難燃性樹脂組成物を得る。
【0022】
さらに、混練後、所望の形状に成形し、得られた成形物に電子線を照射して架橋させることによって、難燃樹脂組成物架橋体が得られる。この場合、電子線の照射線量は、50〜200Mradであることが好ましい。また、加速電圧は、通常、50〜100keVの照射条件で行うことが好ましい。
【0023】
本発明の難燃性樹脂組成物は、例えば絶縁電線、電子機器配線用電線、自動車用電線、機器用電線、電源コード、屋外配電用絶縁電線、電力用ケーブル、制御用ケーブル、通信用ケーブル、計装用ケーブル、信号用ケーブル、移動用ケーブルなどの各種電線・ケーブルの絶縁材、シース材、テープ類、および介在物、ならびにケース、プラグ、およびテープなどの電線・ケーブル用付属部品(具体的には収縮チューブ、ゴムストレスリリーフコーン等)、電線管、配線ダクト、およびバスダクトなどの電材製品などの他、水道用ホース、ガス管被覆材などに好適である。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0025】
下記配合材料を表1及び表2に示す割合で用いた(単位は質量部で表す)。
熱可塑性樹脂:低密度ポリエチレン(LDPE)(プライムポリマー社製、ミラソン3530)
無機系難燃剤:水酸化マグネシウム(協和化学社製、キスマ5A)
多官能性モノマー:TMPT(トリメチロールプロパントリメタクリレート)(新中村化学社製、TMPT)
シランカップリング剤:ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM1003)
酸化防止剤:フェノール系酸化防止剤(ADEKA社製、AO−06)
加工助剤:ステアリン酸カルシウム(水澤化学工業社製、STABINEX NL)
【0026】
<実施例1〜8>
無機系難燃剤に多官能性モノマーをミキサー内で噴霧滴下混合することにより表面処理を行った。さらに、熱可塑性樹脂、酸化防止剤、加工助剤を加え、ニーダー等の混練ミキサーによって混練し、樹脂組成物を得た。
【0027】
<比較例1>
無機系難燃剤の表面処理を行わず、熱可塑性樹脂、無機系難燃剤、多官能性モノマー、酸化防止剤、加工助剤をニーダー等の混練ミキサーによって混練し、樹脂組成物を得た。
【0028】
<実施例9〜17>
無機系難燃剤に、多官能性モノマーおよびシランカップリング剤の混合物をミキサー内で噴霧滴下混合することにより表面処理を行った。さらに、熱可塑性樹脂、酸化防止剤、加工助剤を加え、ニーダー等の混練ミキサーによって混練し、樹脂組成物を得た。
【0029】
<比較例2>
無機系難燃剤の表面処理を行わず、熱可塑性樹脂、無機系難燃剤、多官能性モノマー、シランカップリング剤、酸化防止剤、加工助剤をニーダー等の混練ミキサーによって混練し、樹脂組成物を得た。
【0030】
次に、純銅性の導体上に混練後の樹脂組成物を押出機にて0.2mmの厚さで被覆した後、被覆層(樹脂組成物)に対して照射量75Mradで電子線照射を行って電線を製造した。被覆層である難燃性樹脂組成物は、架橋度、耐熱温度及び耐摩耗性を評価した。それらの測定法を以下に示す。
【0031】
<架橋度の測定法>
作成された架橋難燃性樹脂組成物のサンプル5gを用意し、このサンプルを溶剤のキシレン100gの中入れて浸漬し、溶剤の温度を120℃に24時間保持し、溶剤の中からサンプルを取り出して真空デシケータの中に入れて、温度100±2℃、真空度1.3kPa(10 Torr)以下で24時間乾燥する。乾燥後、サンプルの重量(不溶樹脂分)を測定し、作成された架橋難燃性樹脂組成物のサンプルの当初の重量と比較した百分率で示す。架橋難燃性樹脂組成物のサンプルで架橋されていない低密度ポリエチレン樹脂はキシレンに浸漬することによって溶解し、架橋されていない低密度ポリエチレン樹脂が溶解した後の架橋難燃性樹脂組成物には完全に架橋した低密度ポリエチレン樹脂のみが残るためキシレンに浸漬する前の架橋難燃性樹脂組成物の重量とキシレンに浸漬した後の架橋難燃性樹脂組成物の重量を比較することによりサンプルの架橋難燃性樹脂組成物における低密度ポリエチレン樹脂の架橋度を計算できる。
【0032】
<耐熱温度の測定法>
電気用品法に定める熱可塑性樹脂の使用温度上限値測定法に基づき測定した。
【0033】
<耐摩耗性の測定法>
図1に示す通り、シート固定下治具にサンプルシート(0.3mm厚に成形)を乗せ、その上からシート固定上治具をかぶせてサンプルシートを固定し、シート固定上治具の穴から見えているサンプルシートに以下の処置をした。
1)φ0.45±0.01mmのピアノ線を治具の長手方向に対して直角になるように設置した。
2)ピアノ線を55±5サイクル/分(1サイクルは1往復運動からなる)となるように動かした。
3)その際、7±0.05Nの荷重をピアノ線にかけた。
4)磨耗長さは15mmとした。
ピアノ線が下治具に接触したときのピアノ線往復回数を記録した。ピアノ線は1回毎に取り替えた。3回測定し、3回の最小値を耐磨耗性値とした。
【0034】
<試験結果>
表1に実施例1〜8および比較例1の結果を示す。表2に実施例9〜17および比較例2の結果を示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
表1から、実施例1〜8によって製造された架橋難燃性樹脂組成物は比較例1に比べ架橋度、耐熱温度及び耐摩耗性でバランスのとれた樹脂組成物が得られることが分かる。
【0038】
表2から、実施例9〜17によって製造された架橋難燃性樹脂組成物は比較例2に比べ架橋度、耐熱温度及び耐摩耗性でバランスのとれた樹脂組成物が得られることが分かる。また、実施例3と実施例9〜15の結果と対比して、シランカップリング剤を加えることで無機系難燃材と樹脂の相溶性が向上し、耐摩耗性が向上することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の架橋性難燃性樹脂組成物は、従来の非ハロゲン系難燃ポリオレフィン樹脂組成物に比べて、架橋度、耐熱性及び耐摩耗性に優れており、電線・ケーブル被覆用樹脂組成物、電子機器等の配線として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例における耐磨耗性の評価方法を示す概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系難燃剤表面に多官能性モノマーを付着させる表面処理工程、得られた表面処理物と熱可塑性樹脂とを混合する工程を含むことを特徴とする難燃性架橋樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
無機系難燃剤の配合量が5〜150質量部であり、多官能性モノマーの配合量が1〜10質量部であり、熱可塑性樹脂の配合量が100質量部であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性架橋樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
無機系難燃剤表面に多官能性モノマーおよびシランカップリング剤の混合物を付着させる表面処理工程、得られた表面処理物と熱可塑性樹脂とを混合する工程を含むことを特徴とする難燃性架橋樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
無機系難燃剤の配合量が5〜150質量部であり、多官能性モノマーおよびシランカップリング剤の混合物の配合量が1〜10質量部であり、熱可塑性樹脂の配合量が100質量部であり、
多官能性モノマーおよびシランカップリング剤の混合物における質量比が多官能性モノマー:シランカップリング剤=1:10〜10:1であることを特徴とする請求項3に記載の難燃性架橋樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
多官能性モノマーが多官能アクリレートモノマーまたは多官能メタクリレートモノマーであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の難燃性架橋樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の難燃性架橋樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
無機系難燃剤が金属水酸化物であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の難燃性架橋樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂100質量部に対して、多官能性モノマー及び/又は多官能性モノマーとシランカップリング剤で表面処理された無機系難燃剤5〜150質量部を配合してなることを特徴とする難燃性架橋樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−18677(P2010−18677A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179211(P2008−179211)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】