説明

難燃性樹脂加工品

【課題】 難燃性に優れ、ブリードアウトのない難燃性樹脂加工品を提供する。
【解決手段】 環状リン化合物の難燃剤と、平均粒子径15μm以下の親水性シリカパウダーと、樹脂とを含有し、前記環状リン化合物と前記親水性シリカパウダーとの合計含有量が10〜45質量%である樹脂組成物を成形又は塗膜化する。前記親水性シリカパウダーは、細孔容積が1.8ml/g以下、かつpHが4〜7の多孔質構造体であることが好ましく、さらに好ましくは、JIS K5101法による吸油量が50ml/100g以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、樹脂成形品、塗膜、封止剤として、電気部品や電子部品に用いられる難燃性樹脂加工品に関し、更に詳しくは、ハロゲンを含有しない非ハロゲン系の難燃性樹脂加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルやポリアミド等の熱可塑性樹脂や、エポキシ等の熱硬化性樹脂は、汎用樹脂、エンジニアリングプラスチックとして優れた成形加工性、機械的強度、電気特性を有していることから、電気、電子分野等を始めとして広く用いられている。そして、これらを加工・成形した樹脂材料は、高温による火災防止を目的とした安全上の観点から難燃性が要求されており、例えば、難燃グレードとしてUL94のような規格が設けられている。
【0003】
一般に、このような樹脂材料の難燃化には、ハロゲン物質が有効であることが知られており、ハロゲン系難燃剤を樹脂に添加して樹脂材料を難燃化している。このハロゲン系難燃剤による難燃化のメカニズムは、主に熱分解によりハロゲン化ラジカルが生成し、この生成したハロゲン化ラジカルが燃焼源である有機ラジカルを捕捉することで、燃焼の連鎖反応を停止させ、高難燃性を発現させると言われている。
【0004】
しかし、ハロゲン化合物を大量に含む難燃剤は、燃焼条件によってはダイオキシン類が発生する可能性があり、環境への負荷を低減する観点から、近年ハロゲン量を低減させる要求が高まっている。したがって、ハロゲン物質を含有しない非ハロゲン系難燃剤が各種検討されている。
【0005】
このような非ハロゲン系難燃剤としては、金属水和物や赤リン等の無機難燃剤、尿素から誘導されるトリアジン系難燃剤、リン酸エステル等の有機リン系難燃剤等が検討されているが、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムといった金属水和物の場合、難燃性付与効果があまり高くないので、樹脂に多量に配合する必要がある。したがって、樹脂の成形性が悪くなったり、得られる成形品等の機械的強度が低下しやすく、使用可能な成形品等の用途が限定されるという問題がある。また、トリアジン系難燃剤は、成形品に光沢が生じやすく、意匠性が制限されてしまう。成形品の光沢は、例えばタルクや炭酸カルシウムなどの艶消し剤を配合することで消すことができるが、成形品の靱性や、難燃性への効果少なく、また、難燃剤の吸着性が不充分であるため、ブリードの発生を抑制できない等の課題がある。さらに、赤リンは、難燃効果は高いが、分散不良により電気特性を阻害したり、危険ガスが発生したり、成形性を低下するとともにブリード現象を起こしやすいものであった。
【0006】
例えば、下記特許文献1、2には、赤リン、及び水酸化アルミニウムによる難燃効果を向上させるために、100g当たりの吸油量が70〜250mlのシリカゲルと併用することが開示されている。
【0007】
一方、リン酸エステル等の有機リン系難燃剤としては、例えば、下記特許文献3には、ホスホリナン構造を有する酸性リン酸エステルのピペラジン塩もしくはC1〜6のアルキレンジアミン塩を難燃剤として使用することが開示されている。
【0008】
また、下記特許文献4には、リン酸モノフェニル、リン酸モノトリル等の芳香族リン酸エステルとピペラジン等の脂肪族アミンとからなる塩を主成分とする樹脂用難燃剤が開示されている。
【0009】
更に、下記特許文献5には、ハロゲンフリーの難燃処方として優れた難燃効果を発現させると共に、成形品の耐熱性、耐水性の物性に優れ、また電気積層板用途における密着性に優れる難燃エポキシ樹脂を得るための難燃剤として、リン含有フェノール化合物を用いることが開示されている。
【0010】
更にまた、下記特許文献6には、特に高分子化合物の安定剤、難燃剤として有用である、2官能ヒドロキシル基を有する有機環状リン化合物が開示されている。
【特許文献1】特開2002−256136号公報
【特許文献2】特開2003−49036号公報
【特許文献3】特開2002−20394号公報
【特許文献4】特開2002−80633号公報
【特許文献5】特開2002−138096号公報
【特許文献6】特開平5−331179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1、2に開示されているように、赤リンとシリカゲルとを併用することで、赤リンの難燃性を向上させることができるが、赤リンなどの無機リン系難燃剤は取り扱いにくいものであり、それを含む樹脂組成物は成形性が悪く、またブリード現象の生じやすいものであった。
【0012】
一方、上記特許文献3〜6に開示されているように、有機リン系難燃剤については種々の検討がなされ、様々なものがあるが、これらのリン系難燃剤は有機系化合物であるため、樹脂組成物中に共存する各種成分の作用によって分解されやすく、難燃性を充分発揮することができないことがあった。また、難燃剤は樹脂中に均一に分散されなくてはその効果は充分発揮することはできず、用いる樹脂等によっては添加量が多くなりがちであった。
【0013】
しがたって、本発明の目的は、非ハロゲン系難燃剤として有機リン系難燃剤を用い、難燃性に優れ、かつ、難燃剤のブリードアウト等のない難燃性樹脂加工品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の難燃性樹脂加工品は、下記一般式(I)で表される環状リン化合物である難燃剤と、平均粒子径15μm以下の親水性シリカパウダーと、樹脂とを含有し、前記環状リン化合物と前記親水性シリカパウダーとの合計含有量が10〜45質量%である樹脂組成物を成形又は塗膜化したことを特徴とする。
【0015】
【化1】

【0016】
(式(I)中、R〜Rは、水素、炭素数1〜8のアルキル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基から選ばれる基である。Xは、水素、‐CH‐NHCONH基、‐CHR、‐OR、‐NRから選ばれる基であって、R、Rは水素、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルケニル基(ただし、不飽和結合を末端に有するものは除く)、炭素数12以下のアリール基(該基中の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が炭素数7以下のアルキル基、及び/又はヒドロキシル基に置換されていてもよい)のいずれかである。)
【0017】
上記式(I)の環状リン化合物を樹脂中に均一に包含させることで、熱的、化学的に安定な状態が得られる。また、この環状リン化合物は、燃焼時に、熱的・化学的に極めて安定な構造の下記式(I−a)に示すリンラジカルを生成しやすい。そのため、燃焼時において、樹脂分解等に伴ない、スス成分が生成・堆積したチャー(熱分解残渣)が形成されると共にこのリンラジカルが表面に移行して、燃焼を促進するHラジカルや、OHラジカル等を補足(ラジカルトラップ)したり、難燃剤成分の未分解物などと反応して、熱的・化学的に極めて安定な構造を有するリン化合物が表面に析出し、難燃効果の高いリン化合物による拡散層(難燃層)がチャーの表面に形成される。また、この環状リン化合物は比較的低温で気化しやすいため、空洞の多いチャーを形成しやすく、高い気相効果が得られるので極めて高い難燃性が得られる。そして、平均粒子径15μm以下の親水性シリカパウダーは、難燃剤の性能劣化することがなく吸着できるので、樹脂加工品表面への難燃剤のブリードアウトを防止できると共に、このシリカパウダーは樹脂との相溶性がよいため、樹脂中に難燃剤の分散を均一化できるので、少ない添加量であっても優れた難燃性を発揮することができる。
【0018】
【化2】

【0019】
また、上記の難燃性樹脂加工品においては、親水性シリカパウダーは、細孔容積が1.8ml/g以下、かつpHが4〜7の多孔質構造体であることが好ましく、更にまた、JIS K5101法による吸油量が50ml/100g以上であることが好ましい。
【0020】
上記難燃剤は、アルカリの作用によって分解されることがあるが、親水性シリカパウダーのpHを4〜7とすることで、併用する難燃剤の分解等による性能劣化を防止でき、また、上記親水性シリカパウダーは、特に難燃剤の吸着性に優れているため、難燃剤のブリードアウトを防止しつつ、優れた難燃性を発揮することができる。
【0021】
また、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記樹脂組成物が、前記環状リン化合物を5質量%以上、及び、前記親水性シリカパウダーを2質量%以上含有することが好ましい。
【0022】
この態様によれば、難燃剤によるブリードアウトを防止しつつ、難燃剤を樹脂への分散を均一化にできるので、優れた難燃性を発揮することができる。
【0023】
更にまた、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記樹脂組成物が、末端に不飽和基を有する反応性有機リン系難燃剤を更に含有することが好ましい。
【0024】
この態様によれば、難燃剤として反応性有機リン系難燃剤をさらに添加することで、該反応性有機リン系難燃剤が加熱又は放射線の照射によって、樹脂と結合し、樹脂が3次元網目構造に架橋化し、また、この網目状に架橋した網目構造内に上記環状リン化合物が取り込まれるので、難燃剤によるブリードアウトを防止できると共に、化学的安定性、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性の全てに優れる樹脂加工品を得ることができ、特に耐熱性と機械強度を向上させることができる。更には薄肉成形加工も可能になる。
【0025】
また、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記樹脂組成物が、前記反応性難燃剤を2種類以上含有し、少なくとも1種類が多官能性の前記反応性難燃剤であることが好ましい。
【0026】
この態様によれば、反応性の異なる難燃剤の併用によって架橋に要する反応速度を制御できるので、急激な架橋反応の進行による樹脂の収縮等を防止することができる。また、多官能性の難燃剤の含有することによって、上記の有機リン化合物による均一な3次元網目構造が形成されるので、耐熱性、難燃性が向上するとともに、より安定した樹脂物性が得られる。
【0027】
また、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記樹脂組成物が、前記反応性有機リン系難燃剤を0.5〜10質量%含有することが好ましい。
【0028】
また、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記樹脂組成物が、前記反応性難燃剤以外の末端に少なくとも1つの不飽和基を有する環状の含窒素化合物である難燃剤を更に含有するものであることが好ましい。
【0029】
この態様によれば、末端に少なくとも1つの不飽和基を有する環状の含窒素化合物によっても、難燃剤と樹脂との結合によって樹脂が3次元網目構造に架橋できるので、併用によって難燃剤全体のコストダウンを図りつつ、得られる樹脂加工品の化学的安定性、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性の全てに優れる樹脂成形品を得ることができる。また、窒素を含有するので、特に樹脂としてポリアミド系樹脂を用いた場合に樹脂との相溶性がより向上する。
【0030】
更に、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記樹脂組成物が、主骨格の末端に不飽和基を有する多官能性のモノマー又はオリゴマーである架橋剤を更に含有するものであることが好ましい。
【0031】
この態様によっても、架橋剤と樹脂との結合によって、樹脂が3次元網目構造に架橋できるので、得られる樹脂加工品の化学的安定性、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性の全てに優れる樹脂成形品を得ることができる。
【0032】
また、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記難燃性樹脂加工品全体に対して1〜45質量%の無機充填材を含有することが好ましい。なかでも、前記無機充填材としてシリケート層が積層してなる層状のクレーを含有し、前記層状のクレーを前記難燃性樹脂加工品全体に対して1〜8質量%含有することが好ましい。この態様によれば、架橋に伴う収縮や分解を抑え、寸法安定性に優れる樹脂加工品を得ることができる。また、無機充填材としてシリケート層が積層してなる層状のクレーを含有した場合には、ナノオーダーで層状のクレーが樹脂中に分散することにより樹脂とのハイブリット構造を形成する。これによって、得られる難燃性樹脂加工品の耐熱性、機械強度等が向上する。
【0033】
更に、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記難燃性樹脂加工品全体に対して5〜50質量%の強化繊維を含有することが好ましい。この態様によれば、強化繊維の含有により、樹脂加工品の引張り、圧縮、曲げ、衝撃等の機械的強度を向上させることができ、更に水分や温度に対する物性低下を防止することができる。
【0034】
また、上記の難燃性樹脂加工品においては、難燃剤として反応性有機リン系難燃剤を用いた場合、前記樹脂と前記反応性難燃剤とが、線量10kGy以上の電子線又はγ線の照射によって反応して得られることが好ましい。この態様によれば、樹脂を成形等によって固化した後に、放射線によって架橋できるので、樹脂加工品を生産性よく製造できる。また、上記範囲の線量とすることにより、線量不足による3次元網目構造の不均一な形成や、未反応の架橋剤残留によるブリードアウトを防止できる。また、特に、照射線量を10〜45kGyとすれば、線量過剰によって生じる酸化分解生成物に起因する、樹脂加工品の内部歪みによる変形や収縮等も防止できる。
【0035】
更に、上記の難燃性樹脂加工品においては、難燃剤として反応性有機リン系難燃剤を用いた場合、前記樹脂と前記反応性難燃剤とが、前記樹脂組成物を成形する温度より5℃以上高い温度で反応して得られることも好ましい。この態様によれば、放射線照射装置等が不要であり、特に熱硬化性樹脂を含有する樹脂組成物において好適に用いることができる。
【0036】
また、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記難燃性樹脂加工品が、成形品、塗膜、封止剤より選択される1つであることが好ましい。本発明の難燃性樹脂加工品は、上記のように優れた難燃性を有し、しかもブリードアウトを防止できるので、通常の樹脂成形品のみならず、コーティング剤等として塗膜化したり、半導体や液晶材料等の封止剤としても好適に用いられる。
【0037】
更に、上記の難燃性樹脂加工品においては、前記難燃性樹脂加工品が、電気部品又は電子部品として用いられるものであることが好ましい。本発明の難燃性樹脂加工品は、上記のように、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性の全てに優れるので、特に上記の物性が厳密に要求される、電気部品、電子部品として特に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、ブリードアウト等がなく、難燃性に優れた難燃性樹脂加工品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明の難燃性樹脂加工品とは、難燃剤と、充填材と、樹脂とを含有する樹脂組成物を成形又は塗膜化して得られたものである。
【0040】
本発明の難燃性樹脂加工品で用いることのできる樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれも使用可能であり特に限定されない。
【0041】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等のポリスチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブタジエン樹脂等が挙げられる。なかでも、機械特性や耐熱性等の点から、ポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂を用いることが好ましい。
【0042】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、ケイ素樹脂等が挙げられる。なかでも、機械特性や耐熱性等の点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂を用いることが好ましい。
【0043】
また、本発明の難燃性樹脂加工品に用いる樹脂組成物とは、難燃剤として下式(I)で表される環状リン化合物を、充填材として平均粒子径15μm以下の親水性シリカパウダーを少なくとも含むものである。
【0044】
【化3】

【0045】
(式(I)中、R〜Rは、水素、炭素数1〜8のアルキル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基から選ばれる基である。Xは、水素、‐CH‐NHCONH基、‐CHR、‐OR、‐NRから選ばれる基であって、R、Rは水素、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルケニル基(ただし、不飽和結合を末端に有するものは除く)、炭素数12以下のアリール基(該基中の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が炭素数7以下のアルキル基、及び/又はヒドロキシル基に置換されていてもよい)のいずれかである。)
【0046】
上記式(I)で表される環状リン化合物は、末端に不飽和結合を有しない添加型の難燃剤であるため、樹脂と架橋反応することがない。そのため、この環状リン化合物は、焼時に下記式(I−a)に示すリンラジカルと、炭化水素ラジカルとに分解しやすく、この分解により生じたリンラジカルは表面に移行しやすい。
【0047】
図1にエネルギー分散型X線分析装置(EDAX社製)を用いて加速電圧10kV、倍率50倍にてリンとマグネシウム元素の定量分析を行った、この環状リン化合物を含む樹脂組成物を成形した樹脂加工品の、燃焼前、及びUL94V燃焼試験に準拠した試験条件での燃焼試験後の表層から中心部までのリン元素とマグネシウム元素(リンは難燃剤構成成分、マグネシウムは成形品内に均一に分散しているタルクの構成成分)の比率を示す。また、図2に環状リン化合物として、化合物(I−1)を用いた樹脂組成物を成形した樹脂成形品を、UL94V燃焼試験に準拠した試験条件で燃焼試験後の表面断面図(電子線三次元粗さ解析装置(エリオニクス社製:ERA−8800)を用いて加速電圧10kV、倍率500倍にて観察したときのSEM像)を示す。
【0048】
図1、2の試験結果より明らかなように、この環状リン化合物を含む樹脂加工品は、燃焼時に、リンラジカルが選択的に表層部に析出する。そしてこの析出したリンラジカルは、燃焼を促進するHラジカルや、OHラジカル等を補足(ラジカルトラップ)したり、難燃剤成分の未分解物などと反応して、熱的・化学的に極めて安定な構造を有するリン化合物が表面に析出し、難燃効果の高い拡散層(難燃層)を形成されるので、極めて高い難燃性が得られる。また、この環状リン化合物は比較的低温で気化しやすいため、空洞の多いチャーを形成しやすく、高い気相効果が得られる。
【0049】
【化4】

【0050】
また、上記式(I)の環状リン化合物は、分子量が大きすぎると、樹脂中にスタッキングされにくくなり、また、後述する親水性シリカパウダーに吸着されにくくなる虞れがあるので、ブリードアウトが発生しやすくなってしまい、また、上記リンラジカルを得られにくくなってしまう虞れもあることから、環状リン化合物の分子量は300〜900が好ましく、より好ましくは350〜850である。環状リン化合物の分子量が上記範囲内であれば、燃焼時に、上記式(I−a)のリンラジカルを生成しやすく、高い難燃効果を発揮できる。
【0051】
そして、本発明で用いることのできる環状リン化合物の具体例としては、下記に示す(I−1)〜(I−14)等の化合物が例示できる。
【0052】
【化5】

【0053】
そして、この環状リン化合物は、樹脂組成物中に5質量%以上含有することが好ましく、より好ましくは、6〜20質量%である。上記環状リン化合物の含有量が5質量%未満であると、難燃性が十分に得られないことがあり、また、20質量%よりも多いとブリードが発生しやすい。
【0054】
なお、このような環状リン化合物は、市販されているものを用いてもよく、例えば「SANKO−220」(商品名、三光化学社製)などが使用できる。
【0055】
また、本発明では、上記環状リン化合物などの難燃剤を吸着させ、難燃剤成分によるブリードアウトを防止すると共に、樹脂組成物中に難燃剤の分散を均一化させため、充填材として平均粒子径15μm以下、好ましくは2〜10μmの親水性シリカパウダーを用いることを特徴する。
【0056】
この親水性シリカパウダーは、細孔容積が1.8ml/g以下、かつpHが4〜7の多孔質構造体であることが好ましく、さらに、JIS K5101法による吸油量が50ml/100g以上であることが好ましい。
これによれば、難燃剤を分解劣化することなく、難燃剤の樹脂への分散を均一化にできるので、樹脂加工品とした際において、難燃剤の添加量が少量であっても高い難燃性を発揮できる。また、難燃剤を十分に吸着させることができるので、難燃剤によるブリードアウトの発生を防止できる。
【0057】
このような親水性シリカパウダーは、市販されているものを用いてもよく、例えば「サイリシア」(商品名、富士シリシア株式会社製)、「ニップジェル」(商品名、東ソーシリカ株式会社製)などが使用できる。
【0058】
そして、樹脂組成物中における親水性シリカパウダーの含有量は、2質量%以上であることが好ましく、より好ましくは3〜20質量%である。親水性シリカパウダーの含有量が2質量%以下であると、難燃剤の吸着が不充分となり、難燃性樹脂組成物中に難燃剤を均一に分散することが困難となり、樹脂製加工品とした際、難燃性を充分発揮することができない可能性があり、また20質量%を超えると成形性が悪くなる。
【0059】
また、樹脂組成物中における上記式(I)の環状リン化合物と、親水性シリカパウダーとの合計含有量は、10〜45質量%であることが好ましく、より好ましくは11〜40質量%である。
【0060】
また、本発明の難燃性樹脂加工品には、難燃剤として上記式(I)の環状リン化合物のほかに、反応性有機リン系難燃剤を更に併用してもよい。
【0061】
本発明において使用できる反応性有機リン系難燃剤とは、分子構造内の末端基に不飽和基を有する有機リン系化合物であって、分子構造内の末端基としてアリル基を少なくとも有する有機リン系化合物が特に好ましい。分子構造内の末端基としてアリル基を有する有機リン系化合物は、加熱又は放射線によって樹脂と結合し、樹脂を3次元網目構造に架橋するので、樹脂加工品とした際、機械的物性、熱的物性、電気的物性を向上させることができる。そして、難燃剤成分は樹脂と結合し、樹脂中に安定して存在するため、難燃剤のブリードアウトが生じにくい。そして、上記式(I)の環状リン化合物と併用することで、相乗効果により、難燃剤の添加量が少量であっても、高い難燃性を付与できる。
【0062】
分子構造内にアリル基を有する有機リン系化合物の反応性有機リン系難燃剤としては、下記式(II−1)〜(II‐22)に示す化合物等が例示できる。なかでも、分子構造内にアリル基を3以上、及び、炭素数20以下の芳香族炭化水素を1以上有するものが好適である。
【0063】
【化4】

【0064】
【化5】

【0065】
【化6】

【0066】
【化7】

【0067】
上記の化合物は、例えば、(II−8)の化合物は、ジメチルアセトアミド(DMAc)にオキシ塩化リンを加え、この溶液に、2,2'-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとトリエチルアミンを溶解したDMAcの溶液を滴下して反応させ、次いで、ジアリルアミンとの混合液を反応させることにより得ることができる。
【0068】
また、上記(II−16)の化合物は、ジクロロフェニルホスフィンに、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)‐9−オキソ‐10−ホスホ−9,10−ジヒドロフェナンスレン‐10−オンとトリエチルアミンとを溶解したテトラヒドロフラン溶液を滴下して反応させることにより得ることができる。
【0069】
また、上記(II−20)の化合物は、〔トリス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキシド〕にジメチルホルムアミド(DMF)を加え、この溶液に、ジフェニルリン酸クロリドを溶解したDMFの溶液を滴下して反応させることにより得ることができる。
【0070】
また、上記(II−21)の化合物は、1,1,1‐トリス(4‐ヒドロキシフェニル)エタンと、トリエチルアミンとを溶解させた蒸留クロロホルム溶液に、ジフェニルホスホン酸モノクロリドを溶解させたDMFの溶液を滴下し、次いで、フェニルホスホン酸モノ(N,N‐ジアリル)アミドモノクロリドを溶解させたDMF溶液を滴下して反応させることにより得ることができる。
【0071】
また、上記(II−22)の化合物は、下式(A)のハイオルソノボラック樹脂のDMF溶液に水素化ナトリウムを添加して反応させ、次いで、フェニルリン酸モノ(N,N‐ジアリル)アミドモノクロリドを溶解させたDMFの溶液を滴下して反応させることにより得ることができる。なお、他の化合物も上記と同様な方法や、特開2004‐315672号公報に記載された方法などに基づいて合成することができる。
【0072】
【化8】

【0073】
そして、難燃性樹脂組成物中における反応性有機リン系難燃剤の含有量は、0.5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%であり、更に好ましくは1〜10質量%である。反応性リン系難燃剤の含有量が0.5質量%未満であると、樹脂中での架橋が不充分となりがちで、得られる樹脂加工品の機械的物性、熱的物性、電気的物性が不充分となることがある。
【0074】
また、難燃性樹脂組成物中における上記式(I)の環状リン化合物と、反応性有機リン系難燃剤と、親水性シリカパウダーとの合計含有量は、45質量%以下であることが好ましく、より好ましくは11〜40質量%である。含有量が45質量%を超えると、難燃剤成分がブリードアウトしたり、反応性有機リン系難燃剤の未反応のモノマーや分解ガスが発生したりする虞れがあり、樹脂加工品の機械的特性が低下することがあるので好ましくない。
【0075】
本発明においては、上記の反応性有機リン系難燃剤のうち、反応性の異なる2種類以上の難燃剤、すなわち、1分子中の上記官能基の数が異なる有機リン系化合物を2種類以上併用することが好ましい。これによって、架橋に要する反応速度を制御できるので、急激な架橋反応の進行による樹脂組成物の収縮を防止することができる。
【0076】
そして、多官能性の反応性難燃剤を少なくとも1種類以上含有することが好ましい。これによって、上記の有機リン化合物による均一な3次元網目構造が形成される。
【0077】
また、本発明においては、上記反応性有機リン系難燃剤1質量部に対して、該反応性難燃剤以外の反応性を有する難燃剤として、末端に少なくとも1つの不飽和基を有する環状の含窒素化合物を0.5〜10質量部含有することがより好ましい。
【0078】
上記の末端に不飽和基を有する基としては、具体的にはジアクリレート、ジメタクリレート、ジアリレート、トリアクリレート、トリメタクリレート、トリアリレート、テトラアクリレート、テトラメタクリレート、テトラアリレート等が挙げられるが、反応性の点からはジアクリレート、トリアクリレート、テトラアクリレート等のアクリレートであることがより好ましい。また、環状の含窒素化合物としては、イソシアヌル環、シアヌル環等が挙げられる。
【0079】
そして、上記の末端に少なくとも1つの不飽和基を有する環状の含窒素化合物の具体例としては、上記のシアヌル酸又はイソシアヌル酸の誘導体が挙げられ、例えば、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート、トリイソシアヌールトリアクリレート等の多官能性モノマー又はオリゴマーが例示できる。
【0080】
また、本発明においては、難燃性を有しないが前記樹脂との反応性を有する架橋剤を更に含有してもよい。このような架橋剤としては、主骨格の末端に不飽和基を有する多官能性のモノマー又はオリゴマーを用いることができる。なお、本発明における難燃性を有しないが前記樹脂との反応性を有する架橋剤とは、架橋性(反応性)を有するが、それ自身は難燃性を有しないものを意味し、上記の末端に少なくとも1つの不飽和基を有する環状の含窒素化合物のように、架橋性と難燃性とを同時に有する反応性難燃剤を除くものである。
【0081】
このような架橋剤としては、以下の一般式(a)〜(c)で表される2〜4官能性の化合物が挙げられる。ここで、Mは主骨格であり、R10〜R13は末端に不飽和基を有する官能性基であって、(a)は2官能性化合物、(b)は3官能性化合物、(c)は4官能性化合物である。
【0082】
【化9】

【0083】
具体的には、以下に示すような一般式の、主骨格Mが、グリセリン、ペンタエリストール誘導体等の脂肪族アルキルや、トリメリット、ピロメリット、テトラヒドロフラン、トリメチレントリオキサン等の芳香族環、ビスフェノール等である構造が挙げられる。
【0084】
【化9】

【0085】
【化10】

【0086】
【化11】

【0087】
上記の架橋剤の具体例としては、2官能性のモノマー又はオリゴマーとしては、ビスフェノールF−EO変性ジアクリレート、ビスフェノールA−EO変性ジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレートモノステアレート等のジアクリレートや、それらのジメタクリレート、ジアリレートが挙げられる。
【0088】
3官能性のモノマー又はオリゴマーとしては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート等のトリアクリレートや、それらのトリメタクリレート、トリアリレートが挙げられる。
【0089】
4官能性のモノマー又はオリゴマーとしては、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられる。
【0090】
上記の架橋剤は、主骨格Mとなる、トリメリット酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフランテトラカルボン酸、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、グリセリン、ペンタエリストール、2,4,6−トリス(クロロメチル)−1,3,5−トリオキサン等より選ばれる1種に、末端に不飽和基を有する官能性基となる、臭化アリル、アリルアルコール、アリルアミン、臭化メタリル、メタリルアルコール、メタリルアミン等より選ばれる1種を反応させて得られる。
【0091】
そして、上記の架橋剤は、前記反応性難燃剤1質量部に対して、0.5〜10質量部含有することが好ましい。
【0092】
また本発明では、前記充填材の他に、以下に例示する充填材を併用してもよい。代表的なものとしては、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、錫、ステンレス鋼、アルミニウム、金、銀等の金属粉末、ヒュームドシリカ、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸、含水珪酸カルシウム、含水珪酸アルミニウム、ガラスビーズ、石英粉末、雲母、タルク、マイカ、クレー、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、硫酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ケイソウ土等が挙げられ、これらの含有量は、難燃性樹脂加工品全体に対して1〜45質量%であることが好ましく、1〜20質量%がより好ましい。含有量が1質量%より少ないと、難燃性樹脂加工品の機械的強度が不足し、寸法安定性が不充分であり、更に反応性難燃剤の吸着が不充分となるので好ましくない。また、45質量%を超えると、難燃性樹脂加工品が脆くなるので好ましくない。
【0093】
上記の無機充填材のうち、シリケート層が積層してなる層状のクレーを用いることが特に好ましい。シリケート層が積層してなる層状のクレーとは、厚さが約1nm、一辺の長さが約100nmのシリケート層が積層された構造を有しているクレーである。したがって、この層状のクレーはナノオーダーで樹脂中に分散されて樹脂とのハイブリット構造を形成し、これによって、得られる難燃性樹脂加工品の耐熱性、機械強度等が向上する。層状のクレーの平均粒径は100nm以下であることが好ましい。
【0094】
層状のクレーとしては、モンモリロナイト、カオリナイト、マイカ等が挙げられるが、分散性に優れる点からモンモリロナイトが好ましい。また、層状のクレーは、樹脂への分散性を向上させるために表面処理されていてもよい。このような層状のクレーは市販されているものを用いてもよく、例えば「ナノマー」(商品名、日商岩井ベントナイト株式会社製)や、「ソマシフ」(商品名、コーポケミカル社製)などが使用できる。
【0095】
層状のクレーの含有量は、難燃性樹脂加工品全体に対して1〜8質量%が好ましい。なお、層状のクレーは単独で使用してもよく、他の無機充填材と併用してもよい。
【0096】
また、強化繊維を含有することによって、例えば成形品の場合には機械的強度が向上するとともに、寸法安定性を向上させることができる。強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維が挙げられ、強度、及び樹脂や無機充填材との密着性の点からガラス繊維を用いることが好ましい。これらの強化繊維は、単独でも、2種以上を併用して用いてもよく、また、シランカップリング剤等の公知の表面処理剤で処理されたものでもよい。
【0097】
また、ガラス繊維は、表面処理されており、更に樹脂で被覆されていることが好ましい。これにより、熱可塑性ポリマーとの密着性を更に向上することができる。
【0098】
表面処理剤としては、公知のシランカップリング剤を用いることができ、具体的には、メトキシ基及びエトキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種のアルコキシ基と、アミノ基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、イソシアネート基よりなる群から選択される少なくとも一種の反応性官能基を有するシランカップリング剤が例示できる。
【0099】
また、被覆樹脂としても特に限定されず、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0100】
強化繊維の配合量は、難燃性樹脂加工品全体に対して5〜50質量%含有することが好ましく、10〜40質量%がより好ましい。含有量が5質量%より少ないと、難燃性樹脂加工品の機械的強度が低下するとともに、寸法安定性が不充分であるので好ましくなく、また、50質量%を超えると、樹脂の加工が困難になるので好ましくない。
【0101】
なお、本発明に用いる樹脂組成物には、本発明の目的である耐熱性、耐候性、耐衝撃性等の物性を著しく損わない範囲で、上記以外の常用の各種添加成分、例えば結晶核剤、着色剤、酸化防止剤、離型剤、可塑剤、熱安定剤、滑剤、紫外線防止剤などの添加剤を添加することができる。また、後述するように、例えば紫外線によって樹脂と反応性難燃剤とを反応させる場合には、紫外線開始剤等を用いることができる。
【0102】
着色剤としては特に限定されないが、後述する放射線照射によって褪色しないものが好ましく、例えば、無機顔料である、ベンガラ、鉄黒、カーボン、黄鉛等や、フタロシアニン等の金属錯体が好ましく用いられる。
【0103】
本発明の難燃性樹脂加工品は、上記の樹脂組成物を成形又は塗膜化した後、加熱又は放射線の照射によって前記樹脂と前記反応性難燃剤とを反応させて得られる。
【0104】
樹脂組成物の成形は従来公知の方法が用いられ、例えば、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の場合には、熱可塑性樹脂と反応性難燃剤とを溶融混練してペレット化した後、従来公知の射出成形、押出成形、真空成形、インフレーション成形等によって成形することができる。溶融混練は、単軸或いは二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールなどの通常の溶融混練加工機を使用して行うことができる。混練温度は熱可塑性樹脂の種類によって適宜選択可能であり、例えばポリアミド系樹脂の場合には240〜280℃で行うことが好ましい。また、成形条件も樹脂により適宜設定可能であり特に限定されない。なお、この段階では全く架橋は進行していないので、成形時の余分のスプール部は、熱可塑性樹脂としてのリサイクルが可能である。
【0105】
また、塗膜化する場合には、樹脂組成物をそのまま塗布してもよく、適宜溶剤等で希釈して塗布可能な溶液又は懸濁液とした後、従来公知の方法によって乾燥、塗膜化してもよい。塗膜化の方法としては、ローラー塗り、吹き付け、浸漬、スピンコート等のコーティング方法等を用いることができ特に限定されない。
【0106】
なお、難燃剤として反応性有機リン系難燃剤を用いた場合、樹脂と前記難燃剤とを反応させるため、所定の形状に付形した後、加熱又は放射線の照射を行うことが好ましい。
【0107】
加熱又は放射線の照射によって、反応性有機リン系難燃剤の有するアリル基などの不飽和末端基が、樹脂と反応して架橋反応するので、樹脂中に安定に存在する。
【0108】
反応性難燃剤と樹脂とを反応させる手段として加熱を用いる場合、反応させる温度は、樹脂の成形温度より5℃以上高い温度とすることが好ましく、10℃以上高い温度とすることがより好ましい。
【0109】
また、架橋の手段として放射線を用いる場合には、電子線、α線、γ線、X線、紫外線等が利用できる。なお、本発明における放射線とは広義の放射線を意味し、具体的には、電子線やα線等の粒子線の他、X線や紫外線等の電磁波までを含む意味である。
【0110】
上記のうち、電子線又はγ線の照射が好ましい。電子線照射は公知の電子加速器等が使用でき、加速エネルギーとしては、2.5MeV以上であることが好ましい。γ線照射は、公知のコバルト60線源等による照射装置を用いることができる。
【0111】
γ線照射は、公知のコバルト60線源等による照射装置を用いることができる。γ線は電子線に比べて透過性が強いために照射が均一となり好ましいが、照射強度が強いため、過剰の照射を防止するために線量の制御が必要である。
【0112】
放射線の照射線量は10kGy以上であることが好ましく、10〜45kGyがより好ましい。この範囲であれば、架橋によって上記の物性に優れる樹脂加工品が得られる。照射線量が10kGy未満では、架橋による3次元網目構造の形成が不均一となり、未反応の架橋剤がブリードアウトする可能性があるので好ましくない。また、45kGyを超えると、酸化分解生成物による樹脂加工品の内部歪みが残留し、これによって変形や収縮等が発生するので好ましくない。
【0113】
このようにして得られた本発明の難燃性樹脂加工品は、耐熱性、難燃性に加えて、機械特性、電気特性、寸法安定性、及び成形性に優れる。したがって、高度な耐熱性、難燃性が要求される電気部品又は電子部品、更には自動車部品や光学部品、例えば、電磁開閉器やブレーカーなどの接点支持等のための部材、プリント基板等の基板、集積回路のパッケージ、電気部品のハウジング等として好適に用いることができる。
【0114】
電気部品又は電子部品の具体例としては、受電盤、配電盤、電磁開閉器、遮断器、変圧器、電磁接触器、サーキットプロテクタ、リレー、トランス、各種センサ類、各種モーター類、ダイオード、トランジスタ、集積回路等の半導体デバイス等が挙げられる。また、冷却ファン、バンパー、ブレーキカバー、パネル等の内装品、摺動部品、センサ、モーター等の自動車部品としても好適に用いることができる。更に、成形品のみならず、上記の成形品や繊維等への難燃性コーティング塗膜としても用いることもできる。
【0115】
また、上記の半導体デバイス等の電子部品又は電気部品の封止、被覆、絶縁等として用いれば、優れた耐熱性、難燃性を付与させることができる。すなわち、例えば、上記の樹脂組成物を封止して樹脂を硬化させ、更に上記の加熱又は放射線照射による反応を行うことにより、半導体チップやセラミックコンデンサ等の電子部品や電気素子を封止する難燃性封止剤として用いることができる。封止の方法としては、注入成形、ポッティング、トランスファー成形、射出成形、圧縮成形等による封止が可能である。また、封止対象となる電子部品、電気部品としては特に限定されないが、例えば、液晶、集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、コンデンサ等が挙げられる。
【実施例】
【0116】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0117】
(実施例1)
熱可塑性樹脂として66ナイロンコポリマー(宇部興産社製:2020B)を36.3質量部、強化繊維としてシランカップリング剤で表面処理した繊維長約3mmのガラス繊維(旭ファイバーグラス社製:03.JAFT2Ak25)を30質量部、着色剤としてカーボンブラックを0.5質量部、酸化防止剤(チバガイギー社製:イルガノックス1010)を0.2質量部、無機充填材として粒径2μmのタルク(日本タルク社製)を5質量部、ナノ粒径のクレー(日商岩井ベントナイト(株)社製:ナノマー1.30T)を3質量部、粒径2.7μm、平均細孔容積0.80ml/g、吸油量170ml/100g、pH7.0のシリカパウダー(富士シリシア化学社製:530)を10質量部、難燃剤として、上記式(I‐1)(三光化学社製)の環状リン化合物を15質量部配合し、サイドフロー型2軸押出機(日本製鋼社製)で275℃で混練して樹脂ペレットを得て105℃、4時間乾燥した後、上記ペレットを射出成形機(FUNUC社製:α50C)を用いて樹脂温度280℃、金型温度80℃の条件で成形して、実施例1の樹脂加工品を得た。
【0118】
(実施例2)
実施例1において、熱可塑性樹脂として66ナイロンコポリマー(宇部興産社製:2020B)の配合量を35.3質量部とし、難燃剤として上記式(I‐1)(三光化学社製)の環状リン化合物の配合量を12質量部とし、新たに難燃剤として上記式(II‐10)の反応性有機リン系難燃剤を4質量部配合した以外は実施例1と同様の混合組成・成形加工条件で成形品を得た。その後、上記成形品に、25kGyのγ線を照射して実施例2の電気・電子部品並びに自動車用等の樹脂加工品を得た。
【0119】
(実施例3)
実施例1において、熱可塑性樹脂として66ナイロンコポリマー(宇部興産社製:2020B)の配合量を34.3質量部とし、難燃剤として上記式(I‐1)の環状リン化合物の代わりに上記式(I‐2)(三光化学社製)の環状リン化合物を12質量部配合し、新たに難燃剤として上記式(II‐9)の反応性有機リン系難燃剤を5質量部配合した以外は実施例1と同様の混合組成・成形加工条件で成形品を得た。その後、上記成形品に、25kGyのγ線を照射して実施例3の電気・電子部品並びに自動車用等の樹脂加工品を得た。
【0120】
(実施例4)
実施例1において、無機充填材としてシリカパウダー(富士シリシア化学社製:530)の代わりに、粒径4.1μm、平均細孔容積1.25ml/g、吸油量220ml/100g、pH2.5のシリカパウダー(富士シリシア化学社製:445)を7質量配合し、難燃剤として上記式(I‐1)の環状リン化合物の代わりに上記式(I‐5)(三光化学社製)の環状リン化合物を13質量部配合し、新たに難燃剤として上記式(II‐17)の反応性有機リン系難燃剤を5質量部配合した以外は実施例1の混合組成・成形加工条件で成形品を得た。その後、上記成形品に、30kGyのγ線を照射して実施例4の電気・電子部品並びに自動車用等の樹脂加工品を得た。
【0121】
(実施例5)
熱可塑性樹脂としてポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ株式会社製:トレコン1401X06)を44.3質量部、無機充填材として粒径2μmのタルク(日本タルク社製)を6質量部、粒径1.9μm、平均細孔容積2.0ml/g、吸油量330ml/100g、pH7のシリカパウダー(東ソー・シリカ社製:AZ‐200)を8質量、難燃剤として、上記式(I‐3)(三光化学社製)の環状リン化合物を10質量部、上記式(II‐12)の反応性有機リン系難燃剤を4質量部、及び末端に少なくとも1つの不飽和基を有する環状の含窒素化合物として(日本化成社製:TAIC)を2質量部、着色剤としてカーボンブラック0.5質量部、酸化防止剤(チバガイギー社製:イルガノックス1010)0.2質量部を加えて混合した。
245℃に設定したサイドフロー型2軸押出し機を用いて上記の混合物を溶融し、更に、強化繊維としてシランカップリング剤で表面処理した繊維長約3mmのガラス繊維(旭ファイバーグラス社製:03.JAFT2Ak25)25質量部を、押出し混練を用いてサイドから溶融した上記の混合物に混ぜ込み樹脂ペレットを得た後、該樹脂ペレットを130℃で3時間乾燥させたのち、射出成形機(FUNUC社製:α50C)を用いて樹脂温度250℃、金型温度80℃、射出圧力78.4MPa、射出速度120mm/s、冷却時間15秒の一般的な条件で、電気・電子部品並びに自動車用の成形品を成形した。
その後、上記成形品に、住友重機社製の加速器を用い、加速電圧4.8MeVで、照射線量40kGyの電子線を照射して実施例5の樹脂加工品を得た。
【0122】
(実施例6)
実施例3において、熱触媒(日本油脂社製:ノフマーBC)を3質量部更に添加した以外は実施例3と同様の条件で成形品を成形した。
その後、上記成形品を、245℃、8時間加熱によって反応して実施例6の樹脂加工品を得た。
【0123】
(実施例7)
主剤(長瀬ケミカル社製:XNR4012)100質量部に、硬化剤(長瀬ケミカル社製:XNH4012)50質量部及び硬化促進剤(長瀬ケミカル社製:FD400)1質量部を混合して得られた熱硬化性エポキシ系モールド樹脂の82質量部に、シリカパウダー(富士シリシア社製:サイリア530)15質量部を分散させ、難燃剤として、上記式(I‐5)(三光化学社製)の環状リン化合物を7質量部、上記式(II‐19)の反応性有機リン系難燃剤を5質量部添加してモールド成形品を得た。
その後、上記成形品を、100℃、1時間反応させて実施例7の樹脂加工品(封止剤)を得た。
【0124】
(比較例1)
実施例1において、シリカパウダーを配合しなかった以外は、実施例1と同様な方法で、比較例1の樹脂加工品を得た。
【0125】
(比較例2)
実施例2において、シリカパウダーを配合しなかった以外は、実施例2と同様な方法で、比較例2の樹脂加工品を得た。
【0126】
(比較例3)
実施例2において、上記式(I‐1)の環状リン化合物を配合しなかった以外は実施例2と同様な方法で、比較例3の樹脂加工品を得た。
【0127】
(比較例4)
実施例3において、上記式(I‐2)の環状リン化合物を配合しなかった以外は実施例3と同様な方法で、比較例4の樹脂加工品を得た。
【0128】
(比較例5)
実施例4において、上記式(I‐5)の環状リン化合物を配合しなかった以外は実施例4と同様な方法で、比較例5の樹脂加工品を得た。
【0129】
(比較例6)
実施例5において、上記式(I‐3)の環状リン化合物を配合しなかった以外は実施例5と同様な方法で、比較例6の樹脂加工品を得た。
【0130】
(比較例7)
実施例6において、上記式(I‐2)の環状リン化合物を配合しなかった以外は実施例6と同様な方法で、比較例7の樹脂加工品を得た。
【0131】
(比較例8)
実施例7において、上記式(I‐5)の環状リン化合物を配合しなかった以外は実施例7と同様な方法で、比較例8の樹脂加工品を得た。
【0132】
<試験例>
実施例1〜7、比較例1〜8の樹脂加工品について、難燃性試験であるUL−94に準拠した試験片(長さ5インチ、幅1/2インチ、厚さ3.2mm)と、IEC60695−2法(GWFI)に準拠したグローワイヤ試験片(60mm角、厚さ1.6mm)を作製し、UL94試験、グローワイヤ試験(IEC準拠)を行った。また、すべての樹脂加工品についてブリードアウト試験を行った。その結果をまとめて表1に示す。
【0133】
なお、UL94試験は、試験片を垂直に取りつけ,ブンゼンバーナーで10秒間接炎後の燃焼時間を記録した。更に、消火後2回目の10秒間接炎し再び接炎後の燃焼時間を記録し、燃焼時間の合計と2回目消火後の赤熱燃焼(グローイング)時間と綿を発火させる滴下物の有無で判定した。
【0134】
また、グローワイヤ試験は、グローワイヤとして先端が割けないように曲げた直径4mmのニクロム線(成分:ニッケル80%、クロム20%)、温度測定用熱電対として直径0.5mmのタイプK(クロメル−アルメル)を用い、熱電対圧着荷重1.0±0.2N、温度850℃で行った。なお、30秒接触後の燃焼時間が30秒以内のこと、サンプルの下のティッシュペーパーが発火しないことをもって燃焼性(GWFI)の判定基準とした。
【0135】
また、ブリードアウト試験は、温度60℃、湿度95%の条件下に試験体を貯蔵し、96時間経過後の試験体の表面を目視で観察し、ブリードの有無を評価した。
【0136】
【表1】

【0137】
表1の結果より、実施例の樹脂加工品においては、難燃性は良好で、グローワイヤ試験においてもすべて合格しており、更には、温度60℃、湿度95%の条件下に96時間放置してもブリードの発生がないものであった。なかでも、難燃剤として、上記式(1)の環状リン化合物と、反応性難燃剤とを併用した実施例2〜7は、UL94試験において、V−0を示すものであり、極めて高い難燃性を有するものであった。
【0138】
一方、平均粒子径15μm以下の親水性シリカパウダーを使用していない比較例1、2、及び、難燃剤として上記式(1)の環状リン化合物を使用していない比較例3〜8の樹脂加工品においては、グローワイヤ試験においてすべて不合格であり、実施例と比べて難燃性の劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、ハロゲンを含有しない、非ハロゲン系の難燃剤及び難燃性樹脂加工品として、電気部品や電子部品等の樹脂成形品や、半導体等の封止剤、コーティング塗膜等に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本発明の樹脂加工品の燃焼前、燃焼後におけるリン濃度分布を示す図表である。
【図2】本発明の樹脂加工品の燃焼後の表面断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される環状リン化合物である難燃剤と、平均粒子径15μm以下の親水性シリカパウダーと、樹脂とを含有し、前記環状リン化合物と前記親水性シリカパウダーとの合計含有量が10〜45質量%である樹脂組成物を成形又は塗膜化したことを特徴とする難燃性樹脂加工品。
【化1】


(式(I)中、R〜Rは、水素、炭素数1〜8のアルキル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基から選ばれる基である。Xは、水素、‐CH‐NHCONH基、‐CHR、‐OR、‐NRから選ばれる基であって、R、Rは水素、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルケニル基(ただし、不飽和結合を末端に有するものは除く)、炭素数12以下のアリール基(該基中の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が炭素数7以下のアルキル基、及び/又はヒドロキシル基に置換されていてもよい)のいずれかである。)
【請求項2】
前記親水性シリカパウダーは、細孔容積が1.8ml/g以下、かつpHが4〜7の多孔質構造体である請求項1記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項3】
前記親水性シリカパウダーは、JIS K5101法による吸油量が50ml/100g以上である請求項1又は2記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項4】
前記樹脂組成物が、前記環状リン化合物を5質量%以上、及び、前記親水性シリカパウダーを2質量%以上含有する請求項1〜3のいずれか一つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、末端に不飽和基を有する反応性有機リン系難燃剤を更に含有する請求項1〜4のいずれか一つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項6】
前記樹脂組成物が、前記反応性有機リン系難燃剤を2種類以上含有し、そのうち少なくとも1種類が多官能性の反応性難燃剤である請求項5記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項7】
前記樹脂組成物が、前記反応性有機リン系難燃剤を0.5〜10質量%含有する請求項5又は6記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項8】
前記樹脂と前記反応性有機リン系難燃剤とを、線量10kGy以上の電子線又はγ線の照射によって反応させて得られる請求項5〜7のいずれか1つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項9】
前記樹脂と前記反応性有機リン系難燃剤とを、前記樹脂組成物を成形する温度より5℃以上高い温度で反応させて得られる請求項5〜7のいずれか1つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項10】
前記樹脂組成物が、前記反応性有機リン系難燃剤以外の、末端に少なくとも1つの不飽和基を有する環状の含窒素化合物である難燃剤を更に含有する請求項1〜9のいずれか一つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項11】
前記樹脂組成物が、主骨格の末端に不飽和基を有する多官能性のモノマー又はオリゴマーである架橋剤を更に含有する請求項1〜10のいずれか一つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項12】
前記難燃性樹脂加工品全体に対して、1〜45質量%の無機充填材を含有する請求項1〜11のいずれか一つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項13】
前記充填材としてシリケート層が積層してなる層状のクレーを含有し、前記層状のクレーを前記難燃性樹脂加工品全体に対して1〜8質量%含有する請求項12記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項14】
前記難燃性樹脂加工品全体に対して、5〜50質量%の強化繊維を含有する請求項1〜13のいずれか一つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項15】
前記難燃性樹脂加工品が、成形品、塗膜、封止剤より選択される1つである請求項1〜14のいずれか1つに記載の難燃性樹脂加工品。
【請求項16】
前記難燃性樹脂加工品が、電気部品又は電子部品として用いられるものである請求項1〜15のいずれか1つに記載の難燃性樹脂加工品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−328125(P2006−328125A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150475(P2005−150475)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月10日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 54巻1号」に発表
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】