説明

難燃性樹脂組成物及びその成形体

【課題】表面硬度に優れ、相溶化剤を含まない難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】メタクリレート樹脂(A)、ポリエステル樹脂としてポリブチレンテレフタラートのみ(B)及び難燃剤(C)を含む難燃性樹脂組成物であって、相溶化剤を含まないことを特徴とする難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物及びそれから得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
洗面台等の水回り用品として、難燃性の樹脂組成物が用いられる場合がある。この樹脂組成物に用いられる樹脂として、例えばメタクリレート樹脂とポリエステル樹脂が挙げられる。しかしながらこれらは混ざり難いため、この2つの樹脂を用いるときは一般的に相溶化剤を用いる。例えば特許文献1は、熱可塑性ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、相溶化剤を含む樹脂組成物を開示する。
【0003】
また、そのような樹脂組成物として、特許文献2にはポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、メタクリル系樹脂を含む組成物が記載され、また難燃剤を添加できることも記載されている。しかしながら、難燃剤を添加すると表面硬度(鉛筆硬度)が下がる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−92038号公報
【特許文献2】特開2006−233066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、表面硬度に優れ、相溶化剤を含まない難燃性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の難燃性樹脂組成物等が提供される。
1.メタクリレート樹脂(A)、ポリエステル樹脂としてポリブチレンテレフタラートのみ(B)及び難燃剤(C)を含む難燃性樹脂組成物であって、相溶化剤を含まないことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
2.(A)を20〜55重量%、(B)を20〜65重量%、(C)を5〜25重量%で含むことを特徴とする1に記載の難燃性樹脂組成物。
3.さらに無機フィラーを含むことを特徴とする1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
4.1〜3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物から得られることを特徴とする成形体。
5.UL94に準拠する方法で評価した難燃性がV−2以上で、JIS K5400に準拠する方法で評価した表面硬度がH以上であることを特徴とする4に記載の成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、表面硬度に優れ、相溶化剤を含まない難燃性樹脂組成物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の難燃性樹脂組成物は、メタクリレート樹脂(A)、ポリブチレンテレフタラート(B)及び難燃剤(C)を含む。この組成物は、ポリエステル樹脂はポリブチレンテレフタラートだけしか含まない。さらに、本発明の組成物は相溶化剤を含まない。
【0009】
(A)メタクリレート樹脂として、例えばアルキルメタクリレート樹脂を使用できる。アルキルの炭素数は例えば1〜10、1〜6である。メタクリル酸メチル系樹脂が好ましい。
アルキルメタクリレート樹脂は、例えばメタクリル酸アルキル単独、又はメタクリル酸アルキル及び共重合可能な少なくとも1種の他の単量体からなる単量体混合物を重合してなるメタクリル系樹脂である。
【0010】
他の単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸トリシクロデシル、メタクリル酸トリブロモフェニル等のメタクリル酸エステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、ビニルトルエン等のビニル化合物、o−クロロフェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド化合物が挙げられ、好ましくはアクリル酸メチルである。これらの共重合可能な他の単量体の共重合比率には特に制限はない。
【0011】
(A)成分の配合量は好ましくは10〜70重量%であり、より好ましくは20〜55重量%である。この範囲であると、相溶化剤を用いなくても(A)成分と(B)成分が良好に混合する。
【0012】
(B)ポリブチレンテレフタラートは、ポリブチレンテレフタレート単独又はポリブチレンテレフタレート共重合体単独であってもよいし、ポリブチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート共重合体との併用であってもよい。
【0013】
ポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸(又はそのジメチルテレフタレート等エステル形成性誘導体)と1,4−ブタンジオール(又はそのエステル形成性誘導体)とを重縮合反応して得ることができる。
【0014】
また、ポリブチレンテレフタレートと併用して用いることができるポリブチレンテレフタレート共重合体としては、テレフタル酸(又はそのジメチルテレフタレート等エステル形成性誘導体)と1,4−ブタンジオール(又はそのエステル形成性誘導体)及びこれらと共重合可能なその他のジカルボン酸(又はそのエステル形成性誘導体)又はその他のジオール(又はそのエステル形成性誘導体)を共重合したものが挙げられ、なかでも第三成分としてその他のジカルボン酸(又はそのエステル形成性誘導体)を共重合した重合体が好ましい。
【0015】
その他のジカルボン酸(又はそのエステル形成性誘導体)の共重合割合は、全ジカルボン酸成分中、3〜30モル%の範囲であることが成形性の点から好ましく、3〜20モル%の範囲であることがより好ましい。
【0016】
また、その他のジオール(又はそのエステル形成性誘導体)の共重合割合は、全ジオール成分中、3〜30モル%の範囲であることが成形性の点から好ましく、3〜20モル%の範囲であることがより好ましい。
【0017】
上記その他のジカルボン酸としては、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸等の芳香族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。
【0018】
上記その他のジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール等、又は分子量400〜6000の長鎖グリコール、すなわちポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0019】
(B)成分の配合量は好ましくは10〜70重量%であり、より好ましくは20〜65重量%であり、さらに好ましくは20〜55重量%である。
【0020】
(C)難燃剤としては、例えば以下の無機化合物が挙げられる。
(i)シリカ(二酸化ケイ素)、合成非晶質シリカ(二酸化ケイ素)、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、ケイ藻土等のケイ素化合物
(ii)水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ジルコニウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、ヒドロキシスズ酸亜鉛、酸化スズ水和物、ホウ砂等の金属水酸化物
(iii)酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化モリブデン、酸化アンチモン、ジルコニウム−アンチモン複合酸化物等の金属酸化物
(iv)炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム−カルシウム等の金属炭酸塩化合物
(v)硫酸アルミニウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩化合物
(vi)ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム等のホウ酸化合物
(vii)錫酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛等の錫酸化合物
(viii)アルミナ水和物、ゼオライト、セピオライト、ハイドロタルサイト、ヒドロキシアパタイト、ケイ藻土等の無機系化合物複合体
【0021】
また、有機化合物の(C)難燃剤としては、トリストリブロモフェノキシトリアジン、臭素化エポキシオリゴマー、エチレンビスペンタブロモビフェニル及びデカブロモジフェニルエーテル等の臭素系難燃剤が挙げられる。
【0022】
(C)成分の配合量は好ましくは3〜30重量%であり、より好ましくは5〜25重量%である。
【0023】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は相溶化剤を含まない。相溶化剤は、例えばグリシジル基、酸無水物基、カルボキシル基から選択された少なくとも1種類以上の基を有するような化合物を示す。
【0024】
本発明の組成物は、好ましくは(D)難燃助剤を含む。難燃助剤としては、金属化合物、フッ素含有樹脂等が挙げられる。
(D)成分の配合量は例えば1〜15重量%である。
【0025】
本発明の組成物は(E)無機フィラーを含むと好ましい。無機フィラーを含むと、本発明の組成物を用いて得られる成形品の難燃性及び表面硬度をより向上できる。無機フィラーとしては、通常熱可塑性樹脂に用いられる繊維状、板状、粒状、粉末状のものを用いることができる。具体的には、ガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラストナイト、セピオライト、アスベスト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化硅素繊維及びホウ素繊維等の繊維状無機充填材、ガラスフレーク、非膨潤性雲母、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉珪酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、珪酸アルミニウム、酸化珪素、フッ化カルシウム、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト及び白土等の板状や粒状の無機フィラーが挙げられ、単独ないし、2種類以上混合してもよい。
【0026】
無機フィラーは、エチレン/酢酸ビニル共重合体等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂で被覆又は集束処理されていてもよく、アミノシランやエポキシシラン等のカップリング剤等で処理されていてもよく、強度、剛性、耐加水分解性、外観性及び表面光沢性の点で、エポキシシラン処理されていることが好ましい。
【0027】
(E)成分の配合量は例えば1〜50重量%である。
【0028】
本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、離型剤、酸化防止剤、中和剤、滑剤、結晶核剤、末端封鎖剤、紫外線吸収剤、着色剤等の、通常の添加剤及び少量の他種ポリマーを添加することができる。
【0029】
本発明の組成物は、例えば、90%重量以上、95重量%以上、98重量%以上、100重量%が、(A)〜(C)成分及び任意に(E)成分からなってもよい。本発明の組成物は、これらの成分の他に、上記の添加剤等本発明の新規で基本的な特性を実質的に損なわない物質を含むことができる。
【0030】
本発明の組成物は、上記の成分を任意の方法で溶融混練することによって製造することができる。例えば、ヘンシェルミキサーに代表される高速攪拌機、単軸又は二軸の連続混練機、バンバリーミキサー、ロールミキサー等を、単独で又は組み合わせて用いる方法が採用できる。
【0031】
上記の難燃性樹脂組成物を成形することにより、成形体を製造することができる。成形方法は、製造する成形品の形状等に応じて適宜選択することができる。本発明の成形品はメタクリレート樹脂とポリブチレンテレフタラートを含むため表面硬度が高く難燃性である。
本発明の成形体は、好ましくはUL94に準拠する方法で評価した難燃性がV−2以上であり、JIS K5400に準拠する方法で評価した表面硬度がH以上である。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例で用いた各材料を以下に示す。
【0033】
(A)メタクリレート系樹脂:ポリメチルメタクリレート:アクリペットVH001(三菱レイヨン株式会社製)
(B)ポリエステル系樹脂:ポリブチレンテレフタレート:ノバデュラン5010CR2(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)
(C)難燃剤
トリストリブロモフェノキシトリアジン(a):ピロガードSR−245(第一工業製薬株式会社製)
臭素化エポキシオリゴマー(b):F−2300H(ICL−IP Japan株式会社)
エチレンビスペンタブロモビフェニル(c):サイテックス8010(アルべマール日本株式会社製)
デカブロモジフェニルエーテル(d):プラネロン DB−102(三井化学ファイン株式会社製)
【0034】
(D)難燃助剤
アンチモン含有化合物(e):ツインクリングスター(HSIKWANGSHAN TWINKLING STR IMP. & EXP. COMPANY製)
フッ素含有樹脂(f):メタブレンA3800(三菱レイヨン株式会社製)
(E)フィラー
ワラストナイト(g):ワラストナイトKTK(キンセイマテック株式会社製)
フッ化カルシウム(h):HO#100W(三共製粉株式会社製)
【0035】
実施例1〜10、比較例1〜4
(1)造粒過程
各成分を表1の配合割合(重量%)で事前ブレンドし、シリンダ温度を250℃に設定したスクリュー径45mmの二軸押出機を用いて溶融混練し、ダイスから押し出されたストランドを冷却バス中で冷却し、引取りながらカットしてペレット化した。
【0036】
(2)試験片作製
上記のペレットを用い、射出成形機(日精FE120)を使用して、シリンダ温度240℃、金型温度80℃の成形条件で平板(80×80mm 厚み3.2mm)を作製し、また、射出成形機(東芝EC100−2A)を使用してシリンダ温度240℃、金型温度80℃の成形条件でUL94に規定される垂直燃焼試験片(127×12.7mm、厚み1.6mm)を作製した。
【0037】
(3)難燃性
UL94に準拠する方法(50W(20mm炎)垂直燃焼試験)で評価を行った。試験片は上記の垂直燃焼試験片を用いた。結果を表1に示す。UL94に基づく難燃性の等級は、難燃性の高い方からV−0、V−1、V−2と表わされる。「NotV」はUL94の規格外であることを示す。
(4)表面硬度(鉛筆硬度)
JIS K5400に準拠する方法で評価を行った。試験片は上記の平板を用いた。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の難燃性樹脂組成物及び成形体は、洗面台用品や便器等の水回り用品に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリレート樹脂(A)、ポリエステル樹脂としてポリブチレンテレフタラートのみ(B)及び難燃剤(C)を含む難燃性樹脂組成物であって、相溶化剤を含まないことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
(A)を20〜55重量%、(B)を20〜65重量%、(C)を5〜25重量%で含むことを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに無機フィラーを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物から得られることを特徴とする成形体。
【請求項5】
UL94に準拠する方法で評価した難燃性がV−2以上で、JIS K5400に準拠する方法で評価した表面硬度がH以上であることを特徴とする請求項4に記載の成形体。

【公開番号】特開2011−132423(P2011−132423A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294854(P2009−294854)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000104364)出光ライオンコンポジット株式会社 (23)
【Fターム(参考)】