説明

難燃性樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる成形品、繊維

【課題】高い難燃性を有しながら、初期火災時の延焼が遅く、発煙性を抑えた環境型の防災上理想的な難燃性樹脂であって、しかも、アンチモン、リン、リン化合物を全く含まない非ハロゲン系の難燃性の樹脂組成物で、高い難燃性と高い電気特性を有する樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)熱可塑性樹脂、(B)全芳香族アラミド、及び(C)無機水酸化物を含む、ISO5660に準拠するコーンカロリーメーターによる最大煙濃度及び最大発熱速度に達するまでの燃焼時間が5分以上である難燃性樹脂組成物、及び、該樹脂組成物からなる成形品、繊維もしくは繊維後加工品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い難燃性を有しながら初期火災時の延焼が遅く、一酸化炭素(CO)発生の少ない低煙性の環境防炎型の非ハロゲン系難燃材に関し、詳細には、アンチモン、リン、リン化合物を全く含まない非ハロゲン系難燃材で、高い難燃性と高い電気特性を有する難燃性樹脂組成物、及び該樹脂組成物からなる成形品、繊維もしくは繊維後加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の難燃材には、ハロゲン化合物およびアンチモン化合物を併用した樹脂が広く使われている。
【0003】
しかしながら、近年ハロゲン系難燃材は、環境への影響が問題視されており、欧州での規制等から使用が禁止もしくは制限される方向にあり、各社で非ハロゲン系難燃材の開発が進んでいる。
【0004】
非ハロゲン系難燃材としてはリン含有化合物が主に検討されており、赤燐やリン酸エステル等のリン系難燃剤が使用されているが、赤燐は使用時のホスフィンガスの発生が指摘されており、リン酸エステルは成形時のブリードアウトが問題である。例えば特許文献1では、特殊なリン酸エステルとフェノール樹脂の併用が提案されているが、難燃性が充分でないこと、及び難燃剤のブリードアウトが問題となる。
【0005】
特許文献2では、メラミンホスフェートと有機環状リンからなる難燃樹脂組成物が提案されているが、難燃効果は高いものの成形品の外観不良が起こるため、実用化が困難である。
【0006】
さらに、特許文献3では、熱硬化樹脂で被覆した赤燐を配合したガラス繊維強化系樹脂が提案されているが、成形時のホスフィンガスの発生は減少するもののガス発生は抑えられない問題点がある。
【特許文献1】特開平08−208884号公報
【特許文献2】米国特許第4,257,931号公報
【特許文献3】特公平02−037370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、難燃は不完全燃焼化であると推察されており、難燃機構によっては有害な大量ガスの放出による酸素(O)濃度の希釈を引き起こすおそれがある。プラスチックの難燃化は火災を起こさない上で重要である一方、実際の火災を考えた場合、一酸化炭素中毒、酸欠による死亡もしくは煙に巻かれて避難が遅れることによって、尊い命を落とされることが多い。そのため、出来るだけ燃焼時の煙濃度が低く酸素濃度の希釈を引き起こすおそれのない、しかも有害ガスを発生しない難燃材の開発が熱望されている。
【0008】
しかしながら、従来の難燃プラスチックは、材料の不完全燃焼化を難燃機構とするため、大量のガス発生によるO希釈、有害なCOの発生につながり、大量の発煙、煤の発生を伴う。すなわち、難燃化する一方で、火災が起きた後に問題となるCO、煙、煤に関しては増加する方向にあり、防災上は問題との指摘もあることから、高い難燃性を有すると共に、燃焼が起こった後の発煙性、COや煤の発生を低減する材料が期待されている。また煤は、火災時の吸入に有害である、視界を閉ざすといった直接的な問題に加えて、地球温暖化の要因と指摘する報告もある。ここで、高い難燃性とは、UL94試験V0(1/32’’)のみならず、建築基準法施行令(108条)難燃材料基準によるコーンカロリー試験輻射熱50kW、5分間における最大発熱速度が200kW/m以下を満たす材料をさす。
【0009】
また、建築基準法では5分間の加熱が条件となっているが、実際上も5分以内に最大燃焼が起きないことが極めて重要であり、最大煙濃度及び最大発熱速度の到達時間が5分以上になればO希釈の遅延にも繋がる。従って、CO発生が少なく発煙性が抑制された難燃材の実現は、画期的な技術の到来とも言える。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高い難燃性を有しながら、初期火災時の延焼が遅く、CO発生の少ない発煙性を抑えた環境型の防災上理想的な難燃性樹脂であって、しかも、アンチモン、リン、リン化合物を全く含まない非ハロゲン系の難燃性の樹脂組成物で、高い難燃性と高い電気特性を有する難燃性樹脂組成物を提供することを目的とする。
本発明は、又、高い難燃性を有しながら、初期火災時の延焼が遅く、CO発生の少ない発煙性を抑えた環境型の防災上理想的な成形品、繊維もしくは繊維後加工品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、建築用資材の着火時間や燃焼熱量を計測するコーンカロリーメーター燃焼試験装置による難燃性樹脂の検討結果から得られた知見、すなわち難燃性を有する樹脂は、難燃機構の違いによって電気スパークや火炎に対する樹脂の挙動が異なり、火炎を近づけるとドリップすることがあっても燃焼によって煙を出し難い樹脂と、ドリップせずに比較的短時間に発煙して燃える樹脂とが有り、本発明の目的に合致する難燃性樹脂は、着火させた際の最高煙濃度に達するまでの燃焼時間が特定の値になる、との知見に基づいてなされたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、ISO5660に準拠するコーンカロリーメーターによる最高煙濃度に達するまでの燃焼時間が5分以上であることを特徴とする難燃性樹脂組成物を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記特性を有し、かつ、前記コーンカロリーメーターによる全燃焼ガス中の一酸化炭素(CO)濃度が0.02(g/kg)以下であることを特徴とする難燃性樹脂組成物を提供する。
【0014】
本発明の難燃性樹脂組成物は、(A)熱可塑性樹脂、(B)全芳香族アラミド(全芳香族アラミド樹脂及び/又は全芳香族アラミド繊維)、及び(C)無機水酸化物を含んでなる樹脂組成物によって実現可能となる。前記全芳香族アラミドと無機水酸化物とを併用することにより、各単独系ではなし得なかった高い相乗効果が発現し、その効果は当該樹脂組成物の成形品、繊維等において顕著に認められるようになる。
【0015】
したがって、本発明は、又、上記の難燃性樹脂組成物からなる成形品、繊維もしくは繊維後加工品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の樹脂組成物は、最高煙濃度に到達するまでの燃焼時間が長いため、火災発生時における煙による人的被害を最小限に抑えることができ、有害なCO発生量も僅少で、しかも燃焼が緩やかで、燃焼時の煤収率が低い(即ち、煤が発生しない)。また、全芳香族アラミドと無機水酸化物とを併用することによって、各単独系ではなし得なかった高い相乗効果が発現するため、特に成形品や繊維等にした場合に、高い難燃性と高い電気特性を有する非ハロゲン系の難燃材であって、しかも、高い難燃性を有しながら、初期火災時の延焼が遅く、発煙性を抑えた環境型の防災上理想的な難燃性樹脂を実現できる。
【0017】
また、本発明の樹脂組成物は、いずれの素材も燐を全く含まないことから、使用環境下での水分によるリン酸溶出懸念が全くなく、使用時、廃棄時のリン酸溶出等の環境負荷がない真の環境型非ハロゲン系難燃材と言える。
【0018】
また、本発明の樹脂組成物は、電気用途の絶縁材料において重要となる耐トラッキング性能が最高位のランク0(600V)以上の電気特性を有するため、高電圧廻りの電気用途への展開が大きく期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明で用いられる(A)成分である熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリメチルメタクリレート樹脂等のメタクリル系樹脂;ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂等のポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリ1,4−シクロヘキシルジメチレンテレフタレート(PCT)樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリカプロアミド(ナイロン6)樹脂、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)樹脂、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)樹脂、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)樹脂、ポリドデカンアミド(ナイロン12)樹脂、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ナイロン6T)樹脂、ポリヘキサンメチレンイソフタラミド(ナイロン6I)樹脂、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)樹脂、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)樹脂、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)樹脂等のナイロン樹脂及びナイロン共重合体樹脂から選ばれるポリアミド樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリオキシメチレン(POM)樹脂;ポリカーボネート(PC)樹脂;ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂;変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂;ポリエーテルイミド(PEI)樹脂;ポリスルホン(PSF)樹脂;ポリエーテルスルホン(PES)樹脂;ポリケトン樹脂;ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂;ポリエーテルケトン(PEK)樹脂;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂;ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂;ポリイミド(PI)樹脂;ポリアミドイミド(PAI)樹脂;フッ素樹脂;又はこれらの樹脂の変性樹脂等が挙げられる。本発明には、これらの樹脂同士又は他の樹脂類とのブレンド物も包含される。
【0020】
中でも、耐熱性、成形性、電気特性において、ABS樹脂、PET樹脂、PBT樹脂、ポリアミド樹脂、POM樹脂及びPC樹脂が好ましく、特に物性バランスにおいて、ポリアミド樹脂が好ましい。
【0021】
(B)成分の全芳香族アラミドは、全芳香族アラミド樹脂及び全芳香族アラミド繊維から選ばれる少なくとも1種であり、成形品に難燃性と剛性を付与し、また、成形収縮率を小さくする効果がある。
【0022】
(B)成分となる全芳香族アラミド樹脂は、アミド結合の少なくとも85モル%以上、好ましくは100%が、芳香族ジアミン成分と芳香族ジカルボン酸成分より得られるものである。
【0023】
その具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリパラフェニレンイソフタルアミド等の全芳香族ポリアミド;又は芳香族ジアミンが3,3’−オキシジフェニレンジアミン、3,4’−オキシジフェニレンジアミン等のエーテル基等の基により結合された2個のフェニル基を含む芳香族ポリアミド;又は上記の芳香族ポリアミドのコポリマー、例えば、ポリ−3,3’−オキシジフェニレンテレフタルアミド/ポリパラフェニレンテレフタルアミド共重合体、ポリ−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド/ポリパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等を挙げることができる。
【0024】
全芳香族アラミド樹脂は、単独で使用しても良いし、二種類以上を適宜組み合わせて使用しても良い。
【0025】
(B)成分となる全芳香族アラミド繊維は、成形品に難燃性と剛性を付与し、また、成形収縮率を小さくする効果があり、また、耐熱性、耐摩耗性にも優れている。全芳香族アラミド繊維の単繊維繊度は限定されないが、通常、0.1〜30.0dtex、好ましくは0.3〜10.0dtex、より好ましくは0.5〜6.0dtexのものが用いられる。
【0026】
ここで、上記全芳香族アラミド繊維は、通常置換されていてもよい二価の芳香族基を少なくとも一個有する繊維であって、アミド結合を少なくとも一個有する繊維であれば特に限定はなく、全芳香族ポリアミド繊維、またはアラミド繊維と称される公知のものであってよい。上記において、「置換されていてもよい二価の芳香族基」とは、同一又は異なる1以上の置換基を有していてもよい二価の芳香族基を意味する。
【0027】
全芳香族アラミド繊維には、パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維とがあり、いずれも本発明において好ましく用いられるが、加熱収縮が少なく、高耐熱性、高強度であるパラ系アラミド繊維が特に好ましい。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(米国デュポン株式会社、東レ・デュポン株式会社製、商品名「KEVLAR」(登録商標))、コポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ株式会社製、商品名「テクノーラ」(登録商標))等の市販品を用いることができる。メタ系アラミド繊維としては、例えば、ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊推(米国デュポン株式会社製、商品名「NOMEX」(登録商標))等の市販品を用いることができる。なお、上記したアラミド繊維は、公知の方法又はそれに準ずる方法で製造したものを用いても良い。
【0028】
上記の全芳香族アラミド繊維は、その繊維表面及び繊維内部にフィルムフォーマ、シランカップリング剤及び界面活性剤が付与されているものを用いることもできる。該アラミド繊維を用いることにより、密着性の向上とともに接着性が改善され、ボイドが抑制されて複合材料の強度や耐久性、耐衝撃性等が向上する。前記の表面処理剤のアラミド繊維に対する固形分付着量は、0.01〜20質量%の範囲であることが望ましい。
【0029】
全芳香族アラミド繊維は、単独で使用しても良いし、二種類以上を適宜組み合わせて使用しても良い。本発明では、全芳香族アラミド繊維に金属メッキを施した金属メッキ原糸を使用することもでき、電磁波シールドが要求される電気・電子機器用として好適である。メッキ金属としては、銅、ニッケル、錫、金、銀等が挙げられる。
【0030】
(C)成分の無機水酸化物は、難燃性、耐トラッキング性付与のために用いる。(C)成分の無機水酸化物としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。これらの無機水酸化物は、粉粒体あるいは繊維状のものを用いることができる。中でも、水酸化マグシウム又は水酸化アルミニウムが好ましく、水酸化マグネシウムが特に好ましい。
【0031】
無機水酸化物は、単独で使用しても良いし、二種類以上を適宜組み合わせて使用しても良い。
【0032】
本発明では(A)成分の熱可塑性樹脂に、(B)成分の全芳香族アラミドと(C)無機水酸化物とを併用して配合することが重要であり、いずれかを単独で配合した場合は難燃性の改善が不十分で、また、耐収縮性の維持を図れない。
【0033】
(B)成分及び(C)成分は、合計で、熱可塑性樹脂100質量部に対して40〜250質量部添加されるのが好ましく、より好ましくは50〜200質量部添加される。合計の添加量を40質量部以上にすることにより高い難燃性を得ることができ、250重量部以下で添加すると成形に必要な流動性を失うことも無い。
【0034】
ただし、(B)成分の全芳香族アラミドは、熱可塑性樹脂100質量部に対して5〜100質量部添加されるのが好ましく、より好ましくは5〜80質量部、最も好ましくは10〜60質量部添加される。5質量部以上添加することにより、着火時の発煙開始時間を遅延させると共に発煙量を著しく減少させることができる。100重量部以下で添加すると成形に必要な流動性を失うことも無い。
【0035】
本発明では、上記の(A)、(B)及び(C)成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、可塑剤、顔料、充填剤、発泡剤、結晶核剤、滑剤、加工助剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、界面活性剤等を配合することができる。また、本発明の目的を損なわない限り、全芳香族アラミド樹脂及び/又は繊維と熱可塑性樹脂との接着性を高めるために相溶化剤を配合しても良い。また、本発明の目的を損なわない限り、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、フッ素繊維などの強化繊維を配合しても良い。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と添加剤をブレンドした後、混合溶融することにより得られる。また、添加剤を高濃度に樹脂に練り込んだマスターバッチを作成し、成形時に希釈することも可能である。
【0037】
樹脂組成物は、ペレット、チョップドストランドもしくは顆粒状で短径が0.1〜5mm、長径が0.3〜10mmであると、射出成形、押出成形、中空成形、フィルム成形に好適である。
【0038】
本発明の樹脂組成物を、射出成形、押出成形、中空成形、フィルム成形、プレス成形等の各種成形に供し、さらには必要に応じて二次加工を加えて成形品を得る。成形品に必要に応じて上記の可塑剤等の添加剤を配合し、望ましい特性を付与することもできる。
【0039】
又は、本発明の樹脂組成物を、溶融紡糸、液晶紡糸等の各種紡糸工程に供し、さらには必要に応じて二次加工を加えて繊維を得、さらには必要に応じて所望の後加工を施し繊維後加工品を得る。
【0040】
本発明の樹脂組成物からなる成形品、繊維もしくは繊維後加工品は、高い難燃性と電気特性が求められる用途の全てに用いることができ、電気用途の絶縁材料等に好適に利用される。
【0041】
本発明の樹脂組成物からなる成形品、繊維もしくは繊維後加工品は、コネクタ、プラグ、アーム、ソケット、キャップ、ロータ、モータ部品等の電気・電子部品、プレート、軸受、ギヤー、カム、パイプ、棒材等の機械要素部品、スピーカコーン等のAV・OA機器部品、ブッシュ、座金、ガイド、プーリー、フェーシング、インシュレーター、ロッド、ベアリング保持器、筐体、軸受、ロッド、ガイド、ギヤー、建築用の部品・部材、建具や建材用のストッパー、ガイド、戸車、アングル等、その他ヘルメット、プラモデル部品、タイヤ用の中子材料、釣具用リール部品、シール類、パッキン類、グランドパッキン等にも好適に利用される。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
ナイロン6樹脂(高安株式会社製 相対粘度2.7のN6 タナジンTN100)、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)樹脂、及び水酸化マグネシウム(新鉱工業社製 マグラックスST2、平均粒径約4μm)を、表1に示す割合にて、ヘンシェルミキサーでブレンドした。これを、東芝機械製スクリュー径45mmφの二軸押出機にてシリンダ温度280℃、スクリュー回転数220rpmで溶融混練りしてストランド状のガットを形成し、冷却バスで冷却後、カッターで造粒してペレットを得た。得られたペレットを、東芝機械製射出成形機IS100を用いて、バレル温度280℃で成形し、必要な試験片を成形した。各試験片を、下記の方法により評価した。評価結果を表1に、発熱発煙性試験データを図1〜図2に、それぞれ示した。
【0044】
[発熱発煙性試験]
東洋精機製作所製コーンカロリーメーターIII装置を用い、縦100mm×横100mm×厚み3mmの試験片を、ISO5660に準拠して、加熱強度50kW/mで15分間加熱したときのコーンカロリーメーターによる煙濃度(l/m)、最大発熱速度(kW/m)、及びそれに至る時間を測定した。さらに、全燃焼ガス中のCO濃度(%)、CO収率(g/kg)、煤収率(g/kg)を測定した。
評価は、最大煙濃度及び最大発熱速度に到達するまでの燃焼時間が5分以上のものを合格(○)、それ未満を不合格(×)とした。
【0045】
[難燃性]
米国UL規格のUL94に規定されている垂直燃焼試験に準拠し、厚み1/32インチの試験片(バーサンプル)で評価した。
[耐トラッキング性]
IEC PUB1.112に準拠した。
[引張強度]
ASTM D638に準拠した。
【0046】
(実施例2)
ナイロン6樹脂(高安株式会社製 相対粘度2.7のN6 タナジンTN100)、パラ系アラミド繊維(KEVLAR(R)29、1670dtex、東レ・デュポン株式会社製)、及び水酸化マグネシウム(新鉱工業社製 マグラックスST2、平均粒径約4μm)を、表1に示す割合にて、ヘンシェルミキサーでブレンドした。これを、実施例1と同様にして、ペレットを得、得られたペレットを成形して試験片を成形し、試験片を評価した。評価結果を表1に示した。
【0047】
(実施例3)
ナイロン6樹脂(高安株式会社製 相対粘度2.7のN6 タナジンTN100)、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)樹脂、水酸化マグネシウム(新鉱工業社製 マグラックスST2、平均粒径約4μm)、及びガラス繊維を、表1に示す割合にて、ヘンシェルミキサーでブレンドした。これを、実施例1と同様にして、ペレットを得、得られたペレットを成形して試験片を成形し、試験片を評価した。評価結果を表1に示した。
【0048】
(比較例1)
表1に示す割合で各成分を配合した以外は、実施例1に準じてペレットを得た。得られたペレットについて、実施例1と同様に物性値を測定した。評価結果を表1に、発熱発煙性試験データを図1〜図2に、それぞれ示した。
【0049】
(比較例2)
表1に示す割合で各成分を配合した以外は、実施例1に準じてペレットを得た。得られたペレットについて、実施例1と同様に物性値を測定した。評価結果を表1に示した。
【0050】
コーンカロリーメーターによる試験結果から、比較例1の最大煙濃度及び最大発熱速度到達時間は110secと燃焼が早く激しく燃えたのに対して、実施例1の最大煙濃度及び最大発熱速度到達時間は360secと燃焼が遅く緩やかであった。しかも、比較例1は実施例1の8倍の煙(ハロゲンガスを含む)が発生していた(図1参照)。
【0051】
また、比較例1は大量の一酸化炭素が発生したのに対し、実施例1は一酸化炭素はほとんど発生しなかった(図2参照)。本発明例の燃焼時のCO濃度は、いずれも0.01g/kg未満でCOの発生量は僅少であり、しかも、全芳香族アラミドを配合しない場合(比較例2)よりもCO発生が抑制されていた。
【0052】
さらに、比較例は燃焼時に大量の煤が発生したのに対し、実施例1は煤の発生が少なかった。よって、本発明の樹脂組成物は、循環型社会に相応しい難燃素材であると言える。
【0053】
【表1】

【0054】
また、表1の結果から、本発明例においては、難燃性、耐トラッキング性ともに効果が優れていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】コーンカロリーメータ(strikethrough:III)による燃焼時間と煙濃度の関係を示すグラフである。
【図2】コーンカロリーメータ(strikethrough:III)による燃焼時間とCO濃度の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ISO5660に準拠するコーンカロリーメーターによる最高煙濃度に達するまでの燃焼時間が5分以上であることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記コーンカロリーメーターによる全燃焼ガス中の一酸化炭素(CO)濃度が0.02(g/kg)以下であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
(A)熱可塑性樹脂、(B)全芳香族アラミド、及び(C)無機水酸化物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
(B)全芳香族アラミドが、全芳香族アラミド樹脂又は全芳香族アラミド繊維であることを特徴とする請求項3に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
(C)無機水酸化物が水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物からなる成形品。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物からなる繊維もしくは繊維後加工品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−273998(P2006−273998A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94366(P2005−94366)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【出願人】(593049431)高安株式会社 (15)
【Fターム(参考)】