説明

難燃性樹脂組成物

【課題】 高度な難燃性と優れたチャー形成性、低発煙性、成形性及び機械物性のバランスに優れる非ハロゲン系難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 酢酸ビニル含量が27〜46重量%、メルトフローレートが0.01〜0.6g/10分のエチレン・酢酸ビニル共重合体100重量部に対し、水酸化マグネシウムのような金属水和物(A)が200〜300重量部及び硼酸亜鉛(B)が5〜60重量部の割合で含有されてなる難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物に関する。より詳しくは、高度の難燃性を有すると共に優れた成形性及び機械物性を有する難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系樹脂は、一般に電気特性、機械的特性、加工性等が優れているところから、電気材料として広く使用されている。とくに電線、ケーブル等の用途には、強度、耐傷付き性、硬度等のバランスが良好であるところから、エチレン・不飽和エステルランダム共重合体が広く使用されている。
【0003】
このようなエチレン共重合体は易燃性であるため、用途によっては難燃化する必要があり、そのため古くはハロゲン系難燃剤を配合することにより対処してきた。しかしながらこのような配合物は、燃焼時に有害ガスを発生するという問題があり、そのため近年では非ハロゲン系の水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水和物難燃剤を配合する処方が採用されるようになってきた。ところが金属水和物難燃剤は、かなり大量に配合しないと十分な難燃効果を発揮することができないため、往々にしてエチレン共重合体の加工性、耐傷付き性、その他機械的特性を犠牲にすることがあった。とくに薄肉電線、薄肉建材シート、薄肉車両シート等の用途においては、薄肉における高度な難燃性と良好な成形性及び機械物性が求められており、これら性能を満たす金属水和物配合難燃処方の開発は容易ではなかった。
【0004】
エチレン共重合体に金属水和物と難燃助剤を配合して難燃性を高める試みは、すでに種々提案されている。例えばエチレン共重合体に水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムのような金属水和物と硼酸亜鉛を配合する処方については、すでに数多く提案されている(例えば特許文献1〜7参照)。しかしながら本発明者らの検討によれば、これら提案において開示されている具体的な配合処方によれば、金属水和物と硼酸亜鉛の併用配合のみでは薄肉試片において高度な難燃性を発揮できるものはなく、難燃性を満足すべき水準まで高めるためには、さらに他の難燃助剤を配合する必要があった。
【0005】
【特許文献1】特公平1−18096号公報
【特許文献2】特公平1−18097号公報
【特許文献3】特公平1−18098号公報
【特許文献4】特開平7−41611号公報
【特許文献5】特開2000−191844号公報
【特許文献6】特開2002−338755号公報
【特許文献7】特開2002−371198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明者らは、エチレン・酢酸ビニル共重合体などのエチレン共重合体の優れた特性を生かすため、これらの成形性や機械物性を実質的に犠牲にすることなく、薄肉試片においても高度な難燃性を発揮できるような処方について検討を行った。その結果、特定性状のエチレン・酢酸ビニル共重合体を使用すると、金属水和物と硼酸亜鉛のみの配合によっても高度の難燃性を付与できること、とりわけチャー(シェル)の形成と低発煙性に極めて有効であることを見出すに至った。したがって本発明の目的は、高度な難燃性と優れたチャー(シェル)形成性、低発煙性、成形性及び機械物性のバランスに優れる難燃性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、酢酸ビニル含量が27〜46重量%、メルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重、以下同じ)が0.01〜0.6g/10分のエチレン・酢酸ビニル共重合体100重量部に対し、金属水和物(A)が200〜300重量部及び硼酸亜鉛(B)が5〜60重量部の割合で含有されてなる難燃性樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加工性、機械強度、燃焼時のチャー形成性、低発煙性に優れ、高度な難燃性を有する難燃性樹脂組成物を提供することができる。とくにUL耐炎性試験において、試片厚みが薄肉の0.5mmという過酷な条件下でもV−0レベルを達成することが可能な難燃性樹脂組成物を提供することができる。またJIS K6760法(JIS K6301の3号ダンベル使用)における破断点強度が2MPa以上、破断点伸びが100%以上の難燃性樹脂組成物を容易に得ることができる。
【0009】
このような難燃性樹脂組成物は、各種成形方法によって種々の成形品に加工して使用することができる。かかる成形加工に際し、種々の他材料と積層して使用することもできる。具体的には、高度な難燃性が要求される分野、例えば薄肉電線、薄肉建材シート、薄肉車両シート、玩具、ホース、シート、テープ、壁紙、その他電線被覆材、その他建材などの用途に有効に利用される。有機過酸化物のような架橋剤を配合する場合には、上記成形品の成形時あるいは成形後に、有機過酸化物の分解温度以上に保つことによって架橋することができる。また上記成形品の成形時あるいは成形後に、放射線架橋することによって、耐熱性を高めることも可能である。
【0010】
このような用途における成形品の具体例としては、例えば、玩具、人工芝、マット、止水シート、トンネルシート、ルーフィング等の土木分野、ホース、チューブ等のパイプ用途、パッキング、制振シート等の家電製品、カーペット等の裏打ち材、ドアパネル防水シート、泥よけ、モール等の自動車用途、壁紙、家具、床材、発泡シート等の建材用途、配線ケーブル、通信ケーブル、機器用ケーブル、電源コード、プラグ、耐火ケーブル、制御・計装ケーブル、収縮チューブ等のケーブル用途、粘着テープ等の接着用途等の分野で用いられるものが挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の難燃性樹脂組成物においては、所望の性能を保有させるために、樹脂成分として酢酸ビニル含有量が27〜46重量%、メルトフローレートが0.01〜0.6g/10分のエチレン・酢酸ビニル共重合体が使用される。組成物の機械物性、加工性及び難燃特性のバランスを考慮すると、とくに好適なエチレン・酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が27〜35重量%、とくに30〜35重量%のものである。また組成物の機械物性及び加工性のバランスを考慮すると、とくに好適なエチレン・酢酸ビニル共重合体は、メルトフローレートが0.05〜0.5g/10分、とくに0.08〜0.3g/10分のものである。このようなエチレン・酢酸ビニル共重合体は、高温、高圧下のラジカル共重合によって得ることができる。
【0012】
本発明の難燃性樹脂組成物においては、上記エチレン・酢酸ビニル共重合体に金属水和物(A)と硼酸亜鉛(B)を必須成分として配合する。金属水和物(A)として具体的には水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなどを例示することができる。これらの中では水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムを使用するか、あるいはこれらの混合物を使用することが好ましい。
【0013】
金属水和物(A)としては、例えば平均粒径が0.05〜20μm、好ましくは0.1〜5μm程度のものを使用するのがよい。金属水和物(A)としてはまた、エチレン・酢酸ビニル共重合体への分散性の点から、表面処理剤で処理されているものを使用することが好ましい。このような表面処理剤としては、高級脂肪酸のアルカリ金属塩、例えばカプリン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、リノール酸ナトリウムなど、高級脂肪酸、例えばカプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸など、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、高級脂肪族アルコール、チタンカップリング剤、例えばイソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルバイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネートなど、シランカップリング剤、例えば、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、シリコンオイル、各種リン酸エステルなどを例示することができる。
【0014】
本発明において金属水和物(A)とともに使用される硼酸亜鉛(B)としては、分散性を考慮すると、金属水和物(A)と同様に、平均粒径が0.05〜20μm、好ましくは0.1〜5μm程度のものを使用するのがよい。また安全性、分散性を考慮すると、金属水和物(A)と同様に、脂肪酸その他の上記表面処理剤で表面がコーティングされているものを使用するのが好ましい。硼酸亜鉛(B)の代わりに他の亜鉛化合物、例えば酸化亜鉛や炭酸亜鉛などを用いても、高度な難燃性を有する組成物を得ることはできない。
【0015】
所望の難燃特性を保有させるために、本発明においては、上記エチレン・酢酸ビニル共重合体100重量部当り、金属水和物(A)を200〜300重量部及び硼酸亜鉛(B)を5〜60重量部の割合で配合する。要求される難燃レベルによっても異なるが、機械物性と加工性を考慮すると、金属水和物(A)は、エチレン・酢酸ビニル共重合体100重量部当り、200〜250重量部とするのが好ましく、また同様の観点から硼酸亜鉛(B)は、10〜50重量部とするのが好ましい。また難燃性、機械物性及び加工性のバランスを考慮すると、硼酸亜鉛(B)の使用量の硼酸亜鉛(B)及び水酸化マグネシウム(A)の総使用量に対する比率(B)/(A)+(B)を、0.016〜0.23、とくに0.037〜0.21となるような割合で使用するのが好ましい。
【0016】
上記配合処方を適宜選択することにより、UL耐炎性試験(試験片厚み:0.5mm)がV−0の難燃性樹脂組成物を容易に得ることができる。またJIS K6760法(JIS K6301の3号ダンベル使用)で測定した破断点強度が2MPa以上、好ましくは4MPa以上、破断点伸びが100%以上、好ましくは130%以上の難燃性樹脂組成物を容易に得ることができる。
【0017】
本発明の難燃性樹脂組成物にはまた、本発明の目的を損なわない範囲において必要に応じ、高・中・低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン系共重合体、ポリプロピレン、ポリプロピレン系共重合体などの熱可塑性樹脂、SEBSなどの熱可塑性エラストマー、各種添加剤を配合することができる。このような添加剤の例として、滑剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、カーボンブラック、顔料、染料、プロセスオイル、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、発泡剤、発泡助剤、架橋剤、架橋助剤、他の難燃助剤などを例示することができる。また諸物性、とくに耐熱性向上のために、本発明の難燃性樹脂組成物又はその成形物に電子線照射を施すこともできる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。尚、実施例及び比較例において用いた原料は次の通りである。
【0019】
(1)エチレン・酢酸ビニル共重合体
(イ)EVA−1:酢酸ビニル含量33重量%、MFR(メルトフローレート)0.2g/10分
(ロ)EVA−2:酢酸ビニル含量33重量%、MFR0.35g/10分
(ハ)EVA−3:酢酸ビニル含量33重量%、MFR1.0g/10分
(ニ)EVA−4:酢酸ビニル含量33重量%、MFR14g/10分
(ホ)EVA−5:酢酸ビニル含量33重量%、MFR30g/10分
(ヘ)EVA−6:酢酸ビニル含量28重量%、MFR0.1g/10分
(ト)EVA−7:酢酸ビニル含量28重量%、MFR0.45g/10分
(チ)EVA−8:酢酸ビニル含量28重量%、MFR1.0g/10分
(リ)EVA−9:酢酸ビニル含量25重量%、MFR2.5g/10分
(ヌ)EVA−10:酢酸ビニル含量19重量%、MFR2.5g/10分
(ル)EVA−11:酢酸ビニル含量19重量%、MFR0.2g/10分
【0020】
(2)金属水和物(A)
水酸化マグネシウム:キスマ5A(協和化学工業社製)
(3)亜鉛化合物
硼酸亜鉛(B):アルカネックスFRC−150(水澤化学工業社製、平均粒径8μm)
酸化亜鉛:微細酸化亜鉛(堺化学社製)
塩基性炭酸亜鉛:NANOFINE−NH(堺化学社製)
(4)酸化防止剤
ヒンダードフェノール系酸化防止剤:イルガノックス1010(チバスペシャルティ・ケミカルズ社製)
【0021】
[実施例1〜6、比較例1〜14]
表1(実施例)及び表2〜3(比較例)に示す割合の各原料を、ヘンシェルミキサーでドライブレンドした後、加圧ニーダー及びロールを用いて溶融ブレンドした(条件は、加圧ニーダー:150℃×30分、ロール:150℃×15分)。次に、得られた組成物から、プレス成形機を用いて所定厚みのプレスシートを作成し(条件は160℃×予熱5分×加圧5分×冷却5分)、下記難燃性試験及び基本物性評価を行った。結果を表1〜3に示す。
【0022】
尚、物性評価方法は次の通りである。
(1)難燃性試験
UL94耐炎性試験:0.5mm厚みのプレスシートにつき、UL94燃焼試験機(スガ試験機社製)を用いて、UL94垂直テストによる難燃性評価を行った。
チャーの形成及び燃焼時の滴下:UL94燃焼試験時のサンプルの燃焼状況を目視で観察し、下記の判定基準で評価を行なった。
チャーの形成
○:チャーの形成が良好なもの
△:チャーは形成するが不完全なもの
×:チャーを形成しないもの
燃焼時の滴下
なし:滴下せず
(1):ファーストフレーミングで滴下
(2):セカンドフレーミングで滴下
【0023】
(2)基本物性測定(破断点強度及び伸び)
JIS K6760法(試験片は、JIS K6301 3号ダンベル、1mm厚)により測定した。
(3)加工性
ロールで部出しシートを作製する際に、部出しシート表面の凹凸と着色の状態を観察した。凹凸がなく、また着色がないものを○で表示した。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニル含量が27〜46重量%、メルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)が0.01〜0.6g/10分のエチレン・酢酸ビニル共重合体100重量部に対し、金属水和物(A)が200〜300重量部及び硼酸亜鉛(B)が5〜60重量部の割合で含有されてなる難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
UL94耐炎性試験結果(試験片厚み:0.5mm)がV−0である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
JIS K6760法(JIS K6301の3号ダンベル使用)における破断点強度が2MPa以上、破断点伸びが100%以上である請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
金属水和物(A)が、水酸化マグネシウム及び/又は水酸化アルミニウムである請求項1〜3記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
硼酸亜鉛(B)の使用量の硼酸亜鉛(B)及び水酸化マグネシウム(A)の総使用量に対する比率(B)/(A)+(B)が、0.016〜0.23の範囲にある請求項1〜4記載の難燃性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−1988(P2006−1988A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177939(P2004−177939)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】