説明

電力増幅器

【課題】多段接続される増幅器からのバイアス電流の逆流に起因するバイアス変動を効果的に抑制し、安定して信号増幅できる電力増幅器を提案する。
【解決手段】電力増幅器100は、トランジスタTr1〜Tr3を有する増幅系統10と、トランジスタTr4〜Tr6を有する増幅系統20と、トランジスタTr1〜Tr6のバイアス点を制御するバイアス回路31,32,33とを備える。増幅系統10は、最終段のトランジスタTr3以外のトランジスタTr1,Tr2を含む第一のグループと、少なくとも最終段のトランジスタTr3を含む第二のグループとを含む2つ以上のグループにグループ分けされている。バイアス回路31は、第一のグループに属するトランジスタTr1,Tr2にバイアス電流を分岐供給する。バイアス回路32は、第二のグループに属するトランジスタTr3にバイアス電流を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の増幅系統を備える電力増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
OFDM方式(直交周波数分割多重方式)は、地上波デジタル放送、無線LAN、電力線モデム等で用いられるデジタル変調方式の1つであり、フェージングやマルチパスの影響を受け難い高品質な通信を可能とする利点を有している。この種のデジタル変調方式に用いられる電力増幅器には、高出力化や高効率化とともに低歪み化が要求されている。一般に、トランジスタは、入力信号の増加に対して出力信号が線形的に増加する線形領域と、入力信号の増加に対して出力信号の利得圧縮が生じる飽和領域とを有する入出力特性を有しており、飽和領域での信号増幅は出力信号の歪みをもたらすことが知られている。OFDM方式では、多数のシンボルが多重されるため、送信信号波形はガウス分布となり、PAR(ピーク対平均電力比)が大きくなる傾向がある。このため、OFDM方式に使用される電力増幅器では、トランジスタの動作出力点をそのトランジスタの飽和出力点から数dBバックオフした点に設定し、トランジスタをなるべく線形領域に近い領域で動作させて、低歪み化を実現させている。この種の電力増幅器に関連する文献として、例えば、特開2007−195100号公報が知られている。同公報には、多段接続される全てのトランジスタのそれぞれにバイアス電流を分岐供給する1つのバイアス回路を備える電力増幅器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−195100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、多段接続される全てのトランジスタのそれぞれにバイアス電流を分岐供給する1つのバイアス回路を設けると、最終段のトランジスタに流れるバイアス電流の一部が前段のトランジスタに逆流し、前段のトランジスタのバイアス点を変動させてしまう虞がある。バイアス点が変動すると、送信信号を線形増幅できなくなる。このようなバイアス電流の逆流を阻止するために、バイアス電流経路にチョークコイルを介挿する方法も考えられるが、バイアス電流が大きい場合には、バイアス電流の逆流を十分に阻止することができない。特に、OFDM方式に使用される電力増幅器では、バックオフを大きく取る必要があるため、最終段のトランジスタが最も大きな電力を出力し、最終段のトランジスタに流れる電流は大きくなる。
【0005】
一方、OFDM方式を採用する無線LANでは、同一の周波数帯域の信号を複数の送信アンテナと複数の受信アンテナで送受信する多入力多出力(MIMO)通信方式や、異なる周波数帯域の信号を1つの送信アンテナと1つの受信アンテナで送受信するマルチバンド通信方式を採用しており、これらの通信方式に対応できる高利得高出力の電力増幅器の開発が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、多段接続される増幅器からのバイアス電流の逆流に起因するバイアス変動を効果的に抑制し、安定して信号増幅できる電力増幅器を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明に係わる電力増幅器は、多段接続される2つ以上の増幅器を有する第一の増幅系統と、1つ以上の増幅器を有する第二の増幅系統と、第一及び第二の増幅系統が有する3つ以上の増幅器のバイアス点を制御するための2つ以上のバイアス回路とを備える。第一の増幅系統に含まれる2つ以上の増幅器は、最終段の増幅器以外の増幅器を含む第一のグループと、少なくとも最終段の増幅器を含む第二のグループとを含む2つ以上のグループにグループ分けされる。2つ以上のバイアス回路は、第一のグループに属する増幅器にバイアス電流を供給するとともに第二の増幅系統に属する増幅器の少なくとも1つにバイアス電流を分岐供給する第一のバイアス回路と、第二のグループに属する増幅器にバイアス電流を供給する第二のバイアス回路とを含む。
【0008】
複数の増幅系統に含まれる増幅器のバイアス回路の一部を共用化することにより、バイアス回路の数を必要最小限に抑え、小型化を図ることができる。また、最終段の増幅器を含む第二のグループに属する増幅器のバイアス回路を分けることにより、バイアス電流の逆流に起因するバイアス変動を抑制できる。第二の増幅系統は、1つの増幅器のみを含んでいてもよく、多段接続される2つ以上の増幅器を含んでいてもよい。最終段の増幅器を含む第二のグループは、複数の増幅器を含んでもよい。これは、バイアス電流が増幅器に逆流することに起因するバイアス変動が実用上の支障が生じない程度にバイアス電流が小さければ、第二のグループに属する複数の増幅器のそれぞれにバイアス電流を供給する供給系統を一系統にまとめることができるという技術的知見に基づくものである。なお、第一のグループに属する増幅器の接続段数は、第二のグループに属する増幅器の接続段数よりも多い方が好ましい。これは、最終段の増幅器に流れるバイアス電流は相対的に最も大きく、他の増幅器に与えるバイアス変動を極力避けるためである。
【0009】
本発明の好適な実施形態において、第二の増幅系統は、多段接続される2つ以上の増幅器を有し、第二の増幅系統に含まれる2つ以上の増幅器は、最終段の増幅器以外の増幅器を含む第三のグループと、少なくとも最終段の増幅器を含む第四のグループとを含む2つ以上のグループにグループ分けされる。第一のバイアス回路は、第三のグループに属する増幅器にバイアス電流を分岐供給する。斯かる構成により、電力増幅器の高利得化を実現しつつ、小型化を図ることができる。
【0010】
電力増幅器は、第一のバイアス回路から第一及び第二の増幅系統のうち何れか1つの増幅系統に属する増幅器にのみバイアス電流を供給するスイッチを更に備えてもよい。これにより、バイアス回路の数を必要最小限に抑えつつ、最も大きなバイアス電流の逆流に起因するバイアス変動を抑制できる。
【0011】
本発明の好適な実施形態において、第二のグループは、第一の増幅系統の最終段の増幅器のみを含み、第四のグループは、第二の増幅系統の最終段の増幅器のみを含む。2つ以上のバイアス回路は、第四のグループに属する増幅器にバイアス電流を供給する第三のバイアス回路を含む。斯かる構成により、第一の増幅系統の最終段の増幅器のバイアス回路と、第二の増幅系統の最終段の増幅器のバイアス回路とを独立にし、バイアス電流の逆流を防止できるため、より好ましい。なお、第四のグループに属する増幅器にバイアス電流を供給するバイアス回路は、第一のバイアス回路でもよく或いは第二のバイアス回路でもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多段接続される増幅器からのバイアス電流の逆流に起因するバイアス変動を効果的に抑制し、安定して信号増幅できる電力増幅器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1に係わる電力増幅器の回路構成図である。
【図2】実施例2に係わる電力増幅器の回路構成図である。
【図3】実施例3に係わる電力増幅器の回路構成図である。
【図4】実施例4に係わる電力増幅器の回路構成図である。
【図5】実施例5に係わる電力増幅器の回路構成図である。
【図6】実施例6に係わる電力増幅器の回路構成図である。
【図7】実施例7に係わる電力増幅器の回路構成図である。
【図8】実施例8に係わる電力増幅器の回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係わる電力増幅器は、複数の増幅系統と、2つ以上のバイアス回路とを備える。それぞれの増幅系統は、多段接続される2つ以上の増幅器を有する。2つ以上のバイアス回路は、それぞれの増幅系統が有する2つ以上の増幅器のそれぞれのバイアス点を制御する。複数の増幅系統のうち少なくとも1つの増幅系統は、最終段の増幅器以外の2つ以上の増幅器を含む第一のグループと、少なくとも最終段の増幅器を含む第二のグループとを含む2つ以上のグループにグループ分けされる。2つ以上のバイアス回路は、第一のグループに属する2つ以上の増幅器にバイアス電流を分岐供給する第一のバイアス回路と、第二のグループに属する1つ以上の増幅器にバイアス電流を分岐供給する第二のバイアス回路とを含む。第一のグループに属する2つ以上の増幅器にバイアス電流を分岐供給する供給系統と、第二のグループに属する1つ以上の増幅器にバイアス電流を分岐供給する供給系統とを分離することにより、最終段の増幅器に流れるバイアス電流がその前段の増幅器に逆流することを防止し、増幅器のバイアス変動を抑制できる。第二のグループに属する最終段の増幅器に流れるバイアス電流の値は最も大きいため、最終段の増幅器からその前段の増幅器へのバイアス電流の逆流を阻止することの効果は大きい。また、最終段の増幅器以外の増幅器に流れるバイアス電流は、最終段の増幅器に流れるバイアス電流より比較的小さいため、最終段の増幅器以外の増幅器に流れるバイアス電流がその前段の増幅器に逆流することに起因するバイアス変動の影響は、最終段の増幅器に流れるバイアス電流がその前段の増幅器に逆流することに起因するバイアス変動の影響より小さい。このため、第一のグループに属する2つ以上の増幅器のそれぞれにバイアス電流を分岐供給する供給系統を一系統にまとめても、実用上は支障のない範囲でバイアス変動を抑制できる。
【0015】
なお、後段の増幅器から前段の増幅器へバイアス電流が逆流することに起因するバイアス変動を抑制するためには、それぞれの増幅器に供給されるバイアス電流の供給系統を独立にするように回路構成を設計するのが最適であるが、そのような回路構成では、バイアス回路の数が多くなる結果、回路面積が増大するというデメリットがある。これに対し、本実施形態では、バイアス電流の供給系統を複数系統に分離し、最も大きな電流値を有するバイアス電流の供給系統のみを独立の供給系統としているため、バイアス回路の数を必要最小限に抑えつつ、バイアス電流の逆流に起因するバイアス変動を抑制できるという利点を有する。
【0016】
以下、各図を参照しながら本発明に係わる実施例について説明する。同一の回路素子については、同一の符号を付すものとし、重複する説明を省略する。また、実施例2乃至4では、実施例1との相違点を中心に説明するものとし、重複する説明を省略する。また、説明の便宜上、各実施例における増幅系統の数を2とし、トランジスタの接続段数を3とする例を示すが、増幅系統の数やトランジスタの接続段数はこれに限られるものではない。また、各実施例において例示するトランジスタの接続段数やトランジスタのグループ分けの仕方は一例であり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0017】
図1に示すように、本実施例に係わる電力増幅器100は、同一周波数帯域の信号を増幅する多入力多出力通信に用いられるものであり、2つの増幅系統10,20と、3つのバイアス回路31,32,33とを備える。2つの増幅系統10,20は、それぞれ異なるアンテナ(図示せず)に接続される。多入力多出力通信では、異なるデータを複数のアンテナで送信し、受信側でこれを合成することで擬似的な広帯域を実現し、通信速度の高速化を図っている。そのため、増幅系統10,20が増幅する信号の周波数帯域は同一であり、送信データのみが異なる。
【0018】
増幅系統10は、多段接続される3つのトランジスタTr1,Tr2,Tr3と、入力端子11とトランジスタTr1の入力とをインピーダンス整合するための入力整合回路12と、トランジスタTr1の出力とトランジスタTr2の入力とをインピーダンス整合するための段間整合回路13と、トランジスタTr2の出力とトランジスタTr3の入力とをインピーダンス整合するための段間整合回路14と、トランジスタTr3の出力と出力端子16とのインピーダンス整合するための出力整合回路15とを備える。最前段のトランジスタTr1のベース端子B1は、入力整合回路12を介して入力端子11に接続し、そのエミッタ端子E1は接地されており、そのコレクタ端子C1は、コレクタバイアス電源Vcc1に接続されている。2段目のトランジスタTr2のベース端子B2は、段間整合回路13を介してコレクタ端子C1に接続されており、そのエミッタ端子E2は接地されており、そのコレクタ端子C2は、コレクタバイアス電源Vcc2に接続されている。最終段のトランジスタTr3のベース端子B3は、段間整合回路14を介してコレクタ端子C2に接続されており、そのエミッタ端子E3は接地されており、そのコレクタ端子C3は、コレクタバイアス電源Vcc3に接続されるとともに、出力整合回路15を介して出力端子16に接続されている。
【0019】
増幅系統20は、多段接続される3つのトランジスタTr4,Tr5,Tr6と、入力端子21とトランジスタTr4の入力とをインピーダンス整合するための入力整合回路22と、トランジスタTr4の出力とトランジスタTr5の入力とをインピーダンス整合するための段間整合回路23と、トランジスタTr5の出力とトランジスタTr6の入力とをインピーダンス整合するための段間整合回路24と、トランジスタTr6の出力と出力端子26とのインピーダンス整合するための出力整合回路25とを備える。最前段のトランジスタTr4のベース端子B4は、入力整合回路22を介して入力端子21に接続し、そのエミッタ端子E4は接地されており、そのコレクタ端子C4は、コレクタバイアス電源Vcc4に接続されている。2段目のトランジスタTr5のベース端子B5は、段間整合回路23を介してコレクタ端子C4に接続されており、そのエミッタ端子E5は接地されており、そのコレクタ端子C5は、コレクタバイアス電源Vcc5に接続されている。最終段のトランジスタTr6のベース端子B6は、段間整合回路24を介してコレクタ端子C5に接続されており、そのエミッタ端子E6は接地されており、そのコレクタ端子C6は、コレクタバイアス電源Vcc6に接続されるとともに、出力整合回路25を介して出力端子26に接続されている。本実施例におけるトランジスタTr1〜Tr6は、エミッタ接地バイポーラトランジスタであり、信号を線形増幅するための線形増幅器として機能する。
【0020】
増幅系統10に属する3つのトランジスタTr1,Tr2,Tr3は、多段接続される2つのトランジスタTr1,Tr2を含む第一のグループと、最終段のトランジスタTr3のみを含む第二のグループとにグループ分けされている。同様に、増幅系統20に属する3つのトランジスタTr4,Tr5,Tr6は、多段接続される2つのトランジスタTr4,Tr5を含む第三のグループと、最終段のトランジスタTr6のみを含む第四のグループとにグループ分けされている。バイアス回路31は、第一のグループに属するトランジスタTr1,Tr2と、第三のグループに属するトランジスタTr4,Tr5のそれぞれのベース端子B1,B2,B4,B5にバイアス電流Ib1,Ib2,Ib4,Ib5を分岐供給することにより、トランジスタTr1,Tr2,Tr4,Tr5が信号を線形増幅するようにバイアス点を制御している。バイアス回路32は、第二のグループに属するトランジスタTr3のベース端子B3にバイアス電流Ib3を供給することにより、トランジスタTr3が信号を線形増幅するようにバイアス点を制御している。バイアス回路33は、第四のグループに属するトランジスタTr6のベース端子B6にバイアス電流Ib6を供給することにより、トランジスタTr6が信号を線形増幅するようにバイアス点を制御している。バイアス回路31,32,33は、例えば、絶対温度に対して負の線形温度特性を有する基準電流をベースバイアス電流として供給するCTAT電流源である。
【0021】
電力増幅器100は、バイアス回路31,32,33の電源をオン/オフに切り替えることで、トランジスタTr1〜Tr6の動作を瞬時にオン/オフに切り替えることが可能である。コレクタバイアス電源Vcc1〜Vcc6がオンした状態でバイアス回路31,32,33の電源をオフにすることで、トランジスタTr1〜Tr6に流れるバイアス電流Ib1〜Ib6をオフすることができる。バイアス電流Ib1〜Ib6が流れなければ、トランジスタTr1〜Tr6のコレクタ電流も殆ど流れないため、トランジスタTr1〜Tr6は、ほぼオフ状態となる。但し、コレクタバイアス電源Vcc1〜Vcc6までもオフしてしまうと、トランジスタTr1〜Tr6の立ち上がりに時間を要するため、コレクタバイアス電源Vcc1〜Vcc6はオンにしたまま、バイアス回路31,32,33の電源のオン/オフのみを制御する。つまり、コレクタバイアス電源Vcc1〜Vcc6をオンさせることで、トランジスタTr1〜Tr6を準備状態にしておき、バイアス回路31,32,33の電源をオン/オフさせることで、トランジスタTr1〜Tr6の動作を制御する。
【0022】
上述の回路構成を備える電力増幅器100においては、前段のトランジスタの方が後段のトランジスタよりも相対的に高い利得が要求されるため、バイアス変動が信号増幅に与える影響は後段のトランジスタよりも前段のトランジスタの方が大きい。一方、後段のトランジスタの方が前段のトランジスタよりも相対的に大きい電流が流れるため、最も大きい電流が流れる最終段のトランジスタからその前段のトランジスタへの高周波電流の逆流が与えるバイアス変動を抑制する必要性が最も高い。特に、電力増幅器100がOFDM方式に使用される場合、バックオフを大きく取る必要があるため、最終段のトランジスタTr3,Tr6から出力される電力は最も大きく、それ故、トランジスタTr3,Tr6に流れる電流は最も大きくなる。このため、Ib3>(Ib1+Ib2)又はIb6>(Ib4+Ib5)の関係が成立することが多い。
【0023】
本実施例では、第二のグループに属する最終段のトランジスタTr3にバイアス電流Ib3を供給する供給系統と、第四のグループに属する最終段のトランジスタTr6にバイアス電流Ib6を供給する供給系統と、第一及び第二のグループに属するトランジスタTr1,Tr2,Tr4,Tr5のそれぞれにバイアス電流Ib1,Ib2,Ib4,Ib5を分岐供給する供給系統とを分離することにより、最も大きな電流値を有するバイアス電流Ib3が前段のトランジスタTr2又はTr1に逆流することを防止するとともに、最も大きな電流値を有するバイアス電流Ib6が前段のトランジスタTr4又はTr5に逆流することを防止し、トランジスタTr1,Tr2,Tr4,Tr5のバイアス変動を抑制している。また、バイアス電流Ib2の電流値は、バイアス電流Ib3の電流値よりも比較的小さいため、バイアス電流Ib2が前段のトランジスタTr1に逆流することに起因するバイアス変動の影響は、バイアス電流Ib3が前段のトランジスタTr2又はTr1に逆流することに起因するバイアス変動の影響よりも小さい。同様に、バイアス電流Ib5の電流値は、バイアス電流Ib6の電流値よりも比較的小さいため、バイアス電流Ib5が前段のトランジスタTr4に逆流することに起因するバイアス変動の影響は、バイアス電流Ib6が前段のトランジスタTr5又はTr4に逆流することに起因するバイアス変動の影響よりも小さい。このため、第一及び第二のグループに属するトランジスタTr1,Tr2,Tr4,Tr5のそれぞれにバイアス電流Ib1,Ib2,Ib4,Ib5を分岐供給する供給系統を一系統にまとめても、実用上は支障のない範囲でバイアス変動を抑制できる。
【0024】
後段のトランジスタから前段のトランジスタへバイアス電流が逆流することに起因するバイアス変動を抑制するためには、それぞれのトランジスタTr1〜Tr6に供給されるバイアス電流の供給系統を独立にするように回路設計するのが最適であるが、そのような回路設計では、バイアス回路の数が多くなる結果、回路面積が増大するというデメリットがある。これに対し、本実施例によれば、バイアス電流の供給系統を三系統に分離し、最も大きな電流値を有するバイアス電流Ib3,Ib6の供給系統のみを独立の供給系統としているため、バイアス回路31,32,33の数を必要最小限に抑えつつ、バイアス電流Ib3,Ib6の逆流に起因するバイアス変動を抑制できるという利点を有する。
【0025】
なお、バイアス回路31,32,33によるバイアス制御を精密に行うためには、バイアス回路31,32,33の温度特性を揃えることが望ましい。バイアス回路31,32,33の回路構成が異なると、両者の温度特性を揃えるのが困難になるため、バイアス回路31,32,33の回路構成を変えずに、回路素子数(例えば、トランジスタ数)のみを調整するのが好ましい。また、高周波バイアス電流Ib1がバイアス回路31に逆流するのを阻止するためのチョークコイルLb1をバイアス回路31とベース端子B1との間のバイアス電流経路に介挿してもよく、高周波コレクタバイアス電流がコレクタバイアス電源Vcc1に逆流するのを阻止するためのチョークコイルLc1をコレクタバイアス電源Vcc1とコレクタ端子C1との間のバイアス電流経路に介挿してもよい。同様に、それぞれのトランジスタTr2,Tr3,Tr4,Tr5,Tr6のバイアス電流経路にチョークコイルLb2,Lc2,Lb3,Lc3,Lb4,Lc4,Lb5,Lc5,Lb6,Lc6を介挿してもよい。
【実施例2】
【0026】
図2に示すように、本実施例に係わる電力増幅器200は、同一周波数帯域の信号を増幅する多入力多出力通信に用いられるものであり、2つの増幅系統10,20と、2つのバイアス回路33,34とを備える。2つの増幅系統10,20は、それぞれ異なるアンテナ(図示せず)に接続される。増幅系統10に属する3つのトランジスタTr1,Tr2,Tr3は、全て第五のグループに属する。増幅系統20に属する3つのトランジスタTr4,Tr5,Tr6は、多段接続される2つのトランジスタTr4,Tr5を含む第六のグループと、最終段のトランジスタTr6のみを含む第七のグループとにグループ分けされている。バイアス回路34は、第五のグループに属するトランジスタTr1,Tr2,Tr3と、第六のグループに属するトランジスタTr4,Tr5のそれぞれのベース端子B1〜B5にバイアス電流Ib1〜Ib5を分岐供給することにより、トランジスタTr1〜Tr5が信号を線形増幅するようにバイアス点を制御している。バイアス回路33は、第七のグループに属するトランジスタTr6のベース端子B6にバイアス電流Ib6を供給することにより、トランジスタTr6が信号を線形増幅するようにバイアス点を制御している。
【0027】
本実施例では、第五のグループが最終段のトランジスタTr3を含む点において実施例1と異なる。これは、バイアス電流Ib3がトランジスタTr1、Tr2に逆流することに起因するバイアス変動が実用上の支障が生じない程度にバイアス電流Ib3が小さければ、第五及び第六のグループに属するトランジスタTr1〜Tr5のそれぞれにバイアス電流Ib1〜Ib5を分岐供給する供給系統を一系統にまとめることができるという技術的知見に基づくものである。
【実施例3】
【0028】
図3に示すように、本実施例に係わる電力増幅器300は、異なる周波数帯域の信号を増幅するデュアルバンド通信に用いられるものであり、2つの増幅系統10,20と、3つのバイアス回路31,32,33と、スイッチ40とを備える。それぞれの増幅系統10,20に属するトランジスタTr1〜Tr6のグループ分けの仕方は、実施例1のグループ分けと同様であるため、その詳細な説明を省略する。スイッチ40は、バイアス回路31から出力されるバイアス電流の供給先を第一のグループ又は第三のグループの何れか一方に選択的に切り替える。デュアルバンド通信に用いられる電力増幅器300では、2つの増幅系統10,20のうち一方が作動状態にあるときは、他方は待機状態にある。例えば、増幅系統10が作動状態にあり、かつ増幅系統20が待機状態にあるときは、スイッチ40は、バイアス回路31から出力されるバイアス電流を増幅系統10の第一のグループに供給する。また例えば、増幅系統20が作動状態にあり、かつ増幅系統10が待機状態にあるときは、スイッチ40は、バイアス回路31から出力されるバイアス電流を増幅系統20の第三のグループに供給する。このように、作動状態にある何れか一つの増幅系統にのみバイアス電流を供給するようにスイッチ40を切り替えることで、電力増幅器300のアイソレーションを取ることができる。なお、上述の例では、デュアルバンド用の回路構成を例示したが、3つ以上の異なる周波数帯域の信号を増幅するマルチバンド通信にも本実施例を適用できる。
【実施例4】
【0029】
図4に示すように、本実施例に係わる電力増幅器400は、異なる周波数帯域の信号を増幅するデュアルバンド通信に用いられるものであり、2つの増幅系統10,20と、3つのバイアス回路33,34と、スイッチ40とを備える。それぞれの増幅系統10,20に属するトランジスタTr1〜Tr6のグループ分けの仕方は、実施例2のグループ分けと同様であるため、その詳細な説明を省略する。スイッチ40は、バイアス回路34から出力されるバイアス電流の供給先を第五のグループ又は第六のグループの何れか一方に選択的に切り替える。デュアルバンド通信に用いられる電力増幅器400では、2つの増幅系統10,20のうち一方が作動状態にあるときは、他方は待機状態にある。例えば、増幅系統10が作動状態にあり、かつ増幅系統20が待機状態にあるときは、スイッチ40は、バイアス回路34から出力されるバイアス電流を増幅系統10の第五のグループに供給する。また例えば、増幅系統20が作動状態にあり、かつ増幅系統10が待機状態にあるときは、スイッチ40は、バイアス回路34から出力されるバイアス電流を増幅系統20の第六のグループに供給する。このように、作動状態にある何れか一つの増幅系統にのみバイアス電流を供給するようにスイッチ40を切り替えることで、電力増幅器400のアイソレーションを取ることができる。なお、上述の例では、デュアルバンド用の回路構成を例示したが、3つ以上の異なる周波数帯域の信号を増幅するマルチバンド通信にも本実施例を適用できる。
【実施例5】
【0030】
図5に示すように、本実施例に係わる電力増幅器500は、増幅系統10に属するトランジスタTr1及び増幅系統20に属するトランジスタTr4を省略し、その余の構成を実施例1に係わる電力増幅器100と同じにすることによって、増幅系統10,20のトランジスタの接続段数をそれぞれ2としている。バイアス回路31は、トランジスタTr2及びTr5のそれぞれにバイアス電流を供給し、バイアス回路32は、トランジスタTr3にバイアス電流を供給し、バイアス回路33は、トランジスタTr6にバイアス電流を供給する。二段接続トランジスタによって十分な利得が得られる場合には、トランジスタの接続段数を2にすることによって、電力増幅器10の回路面積を縮小し、小型化できる。
【実施例6】
【0031】
図6に示すように、本実施例に係わる電力増幅器600は、単一のバイアス回路35からトランジスタTr3,Tr6のそれぞれにバイアス電流を供給し、その余の構成を実施例1に係わる電力増幅器100と同じにしている。トランジスタTr3,Tr6に流れるバイアス電流が小さい場合には、バイアス電流の逆流に起因するバイアス点の変動を実用上支障のない範囲で抑制できる。
【実施例7】
【0032】
図7に示すように、本実施例に係わる電力増幅器700は、増幅系統10に属するトランジスタTr1及び増幅系統20に属するトランジスタTr4を省略し、その余の構成を実施例3に係わる電力増幅器300と同じにすることによって、増幅系統10,20のトランジスタの接続段数をそれぞれ2としている。バイアス回路31は、トランジスタTr2又はTr5の何れか一方に選択的にバイアス電流を供給し、バイアス回路32は、トランジスタTr3にバイアス電流を供給し、バイアス回路33は、トランジスタTr6にバイアス電流を供給する。トランジスタの接続段数を少なくすることで、電力増幅器10の回路面積を縮小し、小型化できる。
【実施例8】
【0033】
図8に示すように、本実施例に係わる電力増幅器800は、単一のバイアス回路36からスイッチ41を介して選択的に何れか一方のトランジスタTr3,Tr6にバイアス電流を供給するように構成し、その余の構成を図3に示す実施例3に係わる電力増幅器300と同じにしている。トランジスタTr3,Tr6に流れるバイアス電流が小さい場合には、バイアス電流の逆流に起因するバイアス点の変動を実用上支障のない範囲で抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係わる電力増幅器は、無線通信機の信号増幅回路等に利用できる。
【符号の説明】
【0035】
100,200,300,400…電力増幅器
31,32,33,34…バイアス回路
Tr1,Tr2,Tr3,Tr4,Tr5,Tr6…トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段接続される2つ以上の増幅器を有する第一の増幅系統と、
1つ以上の増幅器を有する第二の増幅系統と、
前記第一及び第二の増幅系統が有する3つ以上の増幅器のバイアス点を制御するための2つ以上のバイアス回路と、を備え、
前記第一の増幅系統に含まれる前記2つ以上の増幅器は、最終段の増幅器以外の増幅器を含む第一のグループと、少なくとも前記最終段の増幅器を含む第二のグループとを含む2つ以上のグループにグループ分けされ、
前記2つ以上のバイアス回路は、前記第一のグループに属する増幅器にバイアス電流を供給するとともに前記第二の増幅系統に属する増幅器の少なくとも1つにバイアス電流を分岐供給する第一のバイアス回路と、前記第二のグループに属する増幅器にバイアス電流を供給する第二のバイアス回路とを含む、電力増幅器。
【請求項2】
請求項1に記載の電力増幅器であって、
前記第二の増幅系統は、多段接続される2つ以上の増幅器を有し、
前記第二の増幅系統に含まれる前記2つ以上の増幅器は、最終段の増幅器以外の増幅器を含む第三のグループと、少なくとも前記最終段の増幅器を含む第四のグループとを含む2つ以上のグループにグループ分けされ、
前記第一のバイアス回路は、前記第三のグループに属する増幅器にバイアス電流を分岐供給する、電力増幅器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電力増幅器であって、
前記第一のバイアス回路から前記第一及び第二の増幅系統のうち何れか1つの増幅系統に属する増幅器にのみバイアス電流を供給するスイッチを更に備える、電力増幅器。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の電力増幅器であって、
前記第二のグループは、前記第一の増幅系統の前記最終段の増幅器のみを含む、電力増幅器。
【請求項5】
請求項2に記載の電力増幅器であって、
前記第二のグループは、前記第一の増幅系統の前記最終段の増幅器のみを含み、
前記第四のグループは、前記第二の増幅系統の前記最終段の増幅器のみを含み、
前記2つ以上のバイアス回路は、前記第四のグループに属する増幅器にバイアス電流を供給する第三のバイアス回路を含む、電力増幅器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−176755(P2011−176755A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40830(P2010−40830)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】