説明

電力変換装置

【課題】主スイッチ素子に並列に接続されているダイオードまたは主スイッチ素子の寄生ダイオードに還流電流が流れないようにする。
【解決手段】ハイサイド及びローサイドの各主スイッチ素子19、29に並列にMOSFET11、21と可飽和インダクタ12、22からなる直列回路を接続し、MOSFETに並列にコンデンサ16、26を接続し、MOSFET11、21のゲートと可飽和インダクタ12、22のMOSFET11、21が接続されている端子と反対側の端子との間に第2のダイオード13、23を接続し、第2のダイオード13、23に並列に短絡用スイッチ素子14、24を接続し、短絡用スイッチ素子14、24の制御電極をMOSFET11、21と可飽和インダクタ12、22の接続点に接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は直流電力を交流電力に変換する電力変換装置に関し、特に還流ダイオードによる損失の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
図4はハイサイドの主スイッチ素子19、39とローサイドの主スイッチ素子29、49をMOSFETで構成した電力変換装置の原理図である。直流電源1から負荷3に交流電力を供給するために、制御回路4はまず、ハイサイドの主スイッチ素子19と、ローサイドの主スイッチ素子49をオンして、負荷3に左から右に流れる電流を供給し、次にそれらの主スイッチ素子をオフして、ハイサイドの主スイッチ素子39とローサイドの主スイッチ素子29をオンして、負荷3に右から左に流れる電流を供給する。このようにして、負荷3に交流電流が供給される。
【0003】
交流電流または電圧を正弦波にするために、たすきがけになる主スイッチ素子同士を交流の半周期の間を通してオンにするのではなく、その間にオンとオフを所定のデューティサイクルで繰り返す。
【0004】
そのため、半周期の間はたすきがけになる主スイッチ素子の一組がオンからオフになったときに、たすきがけのもう一方の組に還流電流が流れる。図4において、主スイッチ素子がMOSFETであるためにその寄生ダイオードに還流電流が流れるが、オフになっている主スイッチ素子の一組が再びオンになるときに還流電流を流すダイオードのリカバリタイムの間に短絡電流が流れる。還流を主スイッチ素子の寄生ダイオードまたは並列に接続したダイオードで行う場合には短絡電流による損失は免れない。
【0005】
還流をダイオードで行う方式でも、その損失を減らすためにいくつかの手段が提供されており、その中で特開平10−327585号公報は、逆電圧印加回路を付加して、還流ダイオードのリカバリを低い電圧でリカバリさせることによって損失を減らすものである。
【0006】
また、特開2008−148410号公報は、スイッチ素子と抵抗からなる直列回路をハイサイドスイッチ素子またはローサイドスイッチ素子に並列に付加し、その直列回路を先にオンさせることにより、リカバリ電流がスイッチ素子と抵抗からなる直列回路に流れるようにすることによってリカバリ時のピーク電流を下げて損失を減らすものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来提供されている手段は逆電圧印加回路と呼ばれるやや複雑な回路を付加するか、または、回路はシンプルだがリカバリ時のピーク電流を抑えるというもので、ダイオードを用いて還流電流を流していることに変わりはない。
【0008】
本発明は還流をダイオードによって行わず、よってダイオードのリカバリ特性による損失のない手段を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1は、ハイサイドの主スイッチ素子とローサイドの主スイッチ素子と各主スイッチ素子に並列に接続された第1のダイオードと各主スイッチ素子をオン・オフする制御回路を備え、ハイサイドの主スイッチ素子とローサイドのスイッチ素子の接続点に接続された負荷に交流電力を供給する電力変換装置において、各スイッチ素子に並列にMOSFETと可飽和インダクタからなる直列回路を接続しMOSFETに並列にコンデンサを接続し、MOSFETのゲートと可飽和インダクタのMOSFETが接続されている端子の反対側の端子との間に第2のダイオードを接続し、第2のダイオードに並列に短絡用スイッチ素子を接続し、短絡用スイッチ素子の制御電極を可飽和インダクタのMOSFETが接続されている側の端子に接続した。
【0010】
請求項2は、ハイサイドの主スイッチ素子とローサイドの主スイッチ素子と各主スイッチ素子に並列に接続された第1のダイオードと各主スイッチ素子をオン・オフする制御回路を備え、ハイサイドの主スイッチ素子とローサイドの主スイッチ素子の接続点に接続された負荷に交流電力を供給する電力変換装置において、各主スイッチ素子と第1のダイオードからなる並列回路に直列に可飽和インダクタを挿入し、第2のダイオードとコンデンサからなる直列回路の両端を可飽和インダクタの両端に接続し、第2のダイオードに並列に短絡用スイッチ素子を接続し、短絡用スイッチ素子の制御電極を可飽和インダクタの主スイッチ素子側端子に接続し、制御回路と主スイッチ素子の間にOR回路を挿入してその入力端子の一方を制御回路にその出力端子を主スイッチ素子の制御電極に入力端子の別の一方を第2のダイオードとコンデンサの接続点に接続した。
【発明の効果】
【0011】
請求項1において、ハイサイドの主スイッチ素子がオフ状態になっている場合はハイサイドの主スイッチ素子には直流電源の電圧が加わっているので、ハイサイドの主スイッチ素子に並列に接続されているMOSFETと可飽和インダクタの直列回路両端にも同じ電圧が加わり、MOSFETに並列に接続されているコンデンサ両端にも同じ電圧が加わる。
【0012】
この状態のハイサイドの主スイッチ素子に還流電流が流れるときは、まず、コンデンサの放電から始まるので、電流は可飽和インダクタとコンデンサを流れようとする。そのため可飽和インダクタに電圧が加わり、その電圧は第2のダイオードを介してMOSFETのゲートに加わり、MOSFETをオン状態にする。その結果、還流はMOSFETのチャンネルを流れる。すなわち還流はMOSFETの寄生ダイオードには流れない。
【0013】
ハイサイドの主スイッチ素子に並列に接続されている第1のダイオードの順方向ドロップ電圧よりも、MOSFETのオン状態の電圧ドロップが小さければ第1のダイオードに電流は流れない。
【0014】
還流は上述のハイサイドの主スイッチ素子に直列に接続されているローサイドの主スイッチ素子のオフ期間に生じるが、やがてローサイドの主スイッチ素子がオンになる。還流電流が流れているMOSFETはオン状態であるから、直流電源の電圧はMOSFETに直列に入っている可飽和インダクタに加わる。可飽和インダクタは還流電流で飽和しているが、逆向きの電流に対しては一瞬高いインピーダンスを示すので、可飽和インダクタに加わった電圧が短絡用スイッチ素子をターンオンさせてMOSFETのゲート電荷を引き抜きMOSFETをオフにする。
【0015】
上述のように可飽和インダクタはローサイドの主スイッチ素子とMOSFETを通る短絡電流を防いでいる。
【0016】
ローサイドの主スイッチ素子に還流電流が流れている場合も、ハイサイドとローサイドの位置が入れ替わるだけで上述の説明が成り立ち、第1のダイオードにもMOSFETの寄生ダイオードにも還流電流は流れず、また短絡電流が流れることもない。
【0017】
ダイオードのリカバリ損失が発生しないので電力変換効率が改善される。
【0018】
請求項2において、ハイサイドの主スイッチ素子がオフ状態でそこに還流電流が流れるときは、電流がハイサイドの主スイッチ素子に並列に接続されている第1のダイオードとそれに直列に接続されている可飽和インダクタを通り流れようとする。可飽和インダクタ両端に生じる電圧が第2のダイオードとコンデンサの直流回路を流れてコンデンサに直流電圧を充電する。この電圧がOR回路の一方の端子に加わるので、ハイサイドの主スイッチ素子はターンオンして還流電流はハイサイドの主スイッチ素子を流れ、第1のダイオードには流れない。
【0019】
やがてハイサイドの主スイッチ素子に直列に接続されているローサイドの主スイッチ素子がオンになると、還流電流が流れているハイサイドの主スイッチ素子はオン状態であるから、直流電源の電圧は可飽和インダクタに加わる。可飽和インダクタは還流電流で飽和しているが逆向きの電流に対しては一瞬高いインピーダンスを示すので、可飽和インダクタに加わった電圧で短絡用スイッチ素子がターンオンしてOR回路の一方の端子の電圧をゼロにする。OR回路のもう一方の入力端子はもともとゼロなのでOR回路の出力もゼロになり、ハイサイドの主スイッチ素子はターンオフする。
【0020】
ローサイドに還流電流が流れている場合も、ハイサイドとローサイドの位置が入れ替わるだけで上述の説明が成り立ち、ダイオードに還流電流は流れず、また短絡電流も流れない。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0021】
図1は請求項1記載の発明の実施例に係るインバータの回路図である。図においてハイサイドの主スイッチ素子19とローサイドの主スイッチ素子29は、負荷3に交流電力を供給するために、制御回路4によって作り出される信号によってオン・オフを繰り返している。それら2つの主スイッチ素子が同時にオン状態になることはない。図において、主スイッチ素子として寄生ダイオードを有するMOSFETを用いているので第1のダイオードは省略されている。
【0022】
負荷3に左から右に向かった電流が流れている状態の回路の各部の波形を図2に示す。
【0023】
図2において、ローサイドの主スイッチ素子29はオン・オフを繰り返しながら、負荷3に流れる電流波形を制御している。主スイッチ素子29が時刻t1でターンオフすると、主スイッチ素子29のドレイン電圧が上昇するが、コンデンサ16には直流電源1の電圧が充電されているので、ドレイン電圧の上昇分が可飽和インダクタ12に加わる。可飽和インダクタ12に加わる電圧は下側が正になるので第2のダイオード13を介してMOSFET11のゲートを充電して、MOSFET11をターンオンさせる。そして、負荷3の電流はターンオンしたMOSFET11を流れ、すなわち寄生ダイオードを流れることなく直流電源1に還流する。
【0024】
時刻t2になって再び主スイッチ素子29がターンオンすると、MOSFET11がオン状態であるため直流電源1と直流電源2の電圧が可飽和インダクタ12に上側が正になって印加する。可飽和インダクタ12の電圧は短絡用スイッチ素子14をターンオンさせてMOSFET11のゲート電荷を放電させ、MOSFET11をターンオフさせる。可飽和インダクタ12が飽和するまでの時間と、MOSFET11がターンオフするまでの時間を適当に選ぶことによりMOSFET11がオン状態のままローサイドの主スイッチ素子29がターンオンしても短絡電流が流れることはない。また、寄生ダイオードに電流が流れないのでリカバリタイムの間に短絡電流が流れることもない。
【0025】
図1は直流電源が2つで主スイッチ素子がハイサイドとローサイドに各々1つずつあるハーフブリッジ型のインバータであるが2つずつあるフルブリッジ型のインバータ、または3つずつある3相インバータに応用することも可能である。
【0026】
図3は請求項2記載の発明の実施例に係るインバータの回路図である。4つの主スイッチ素子は制御回路4が作り出す信号によってオン・オフを繰り返す。ハイサイドの主スイッチ素子19とローサイドの主スイッチ素子49がオン状態のときに、負荷3には上から下に電流が流れ、ハイサイドの主スイッチ素子39とローサイドの主スイッチ素子29がオン状態のときに負荷3には下から上に電流が流れる。
【0027】
図3において、主スイッチ素子として、寄生ダイオードを有するMOSFETを用いているので第1のダイオードは省略されている。
【0028】
ハイサイドの主スイッチ素子19とローサイドの主スイッチ素子49がターンオフすると、還流電流は負荷3を上から下に向かって流れ続けようとするので、主スイッチ素子29と39をいずれも下から上に向かって流れる。そのとき、可飽和インダクタ22と32には下側が正の電圧が生じる。
【0029】
可飽和インダクタ22と32に生じる電圧は各々ダイオード23と33を介してコンデンサ27と37を充電する。コンデンサ27と37の電圧がOR回路28と38を介して、主スイッチ素子29と39のゲートを充電するので、主スイッチ素子29と39は制御回路4からの信号がゼロであるがターンオンする。還流電流はMOSFETの寄生ダイオードには流れない。
【0030】
主スイッチ素子29と39がオン状態のときに、主スイッチ素子19と49が再びターンオンすると、直流電源の電圧は可飽和インダクタ22と32に印加する。その電圧は各々短絡用スイッチ素子24と34をターンオンさせるのでOR回路28、38の入力端子はゼロになり、また、制御回路4からもう一方の入力端子に加わる信号はもともとゼロなのでOR回路28、38の出力もゼロになり、主スイッチ素子29と39はターンオフする。可飽和インダクタが飽和するまでの時間と、主スイッチ素子がターンオフするまでの時間を適当に選ぶことにより、短絡電流が流れないようにすることができる。また、寄生ダイオードに電流は流れないのでリカバリタイムの間に短絡電流が流れるということもない。
【0031】
図3は、直流電源が1つで主スイッチ素子が4つのフルブリッジ型であるが、主スイッチ素子を6つにした3相インバータに応用することもできる。
【0032】
また、直流電源が2つで主スイッチ素子が2つのハーフブリッジ型に応用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、直流から交流を作る電力変換装置において、還流ダイオードによる短絡電流をわずかな部品の追加でなくすことが可能になるので、経済効果は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】 請求項1記載の発明の実施例に係るハーフブリッジ型のインバータである。
【図2】 図1の各部の波形図である。
【図3】 請求項2記載の発明の実施例に係るフルブリッジ型のインバータである。
【図4】 従来の方式の1例を示すインバータである。
【符号の説明】
【0035】
1、2 直流電源
3 負荷
4 制御回路
5、6 リアクトル
7 コンデンサ
11、21 MOSFET
12、22、32、42 可飽和インダクタ
13、23、33、43 第2のダイオード
14、24、34、44 短絡用スイッチ素子
15、25、35、45 抵抗
16、26 コンデンサ
17、27、37、47 コンデンサ
18、28、38、48 OR回路
19、29、39、49 主スイッチ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、前記直流電源に直列に接続されたハイサイドの主スイッチ素子とローサイドの主スイッチ素子と、前記各主スイッチ素子に並列に接続された第1のダイオードと、前記ハイサイドの主スイッチ素子と前記ローサイドの主スイッチ素子の接続点に接続された負荷と、前記各主スイッチ素子の制御電極に信号を送ることにより各主スイッチ素子を所定のシーケンスでオン・オフさせる制御回路からなり、前記負荷に交流電力を供給する電力変換装置において、前記各主スイッチ素子に並列にMOSFETと可飽和インダクタからなる直列回路を接続し前記MOSFETに並列にコンデンサを接続し、前記MOSFETのゲートと前記可飽和インダクタの前記MOSFETに接続された端子の反対側の端子との間に第2のダイオードを接続し、前記第2のダイオードに並列に短絡用スイッチ素子を接続し、前記短絡用スイッチ素子の制御電極を前記可飽和インダクタの前記MOSFETに接続された端子に接続したことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
直流電源と、前記直流電源に直列に接続されたハイサイドの主スイッチ素子とローサイドの主スイッチ素子と、前記各主スイッチ素子に並列に接続された第1のダイオードと、前記ハイサイドの主スイッチ素子と前記ローサイドの主スイッチ素子の接続点に接続された負荷と、前記各主スイッチ素子の制御電極に信号を送ることにより各主スイッチ素子を所定のシーケンスでオン・オフさせる制御回路からなり、前記負荷に交流電力を供給する電力変換装置において、前記主スイッチ素子と前記第1のダイオードからなる並列回路に直列に可飽和インダクタを挿入し、第2のダイオードとコンデンサからなる直列回路の両端を前記可飽和インダクタの両端に接続し、前記第2のダイオードに並列に短絡用スイッチ素子を接続し、前記短絡用スイッチ素子の制御電極を前記可飽和インダクタの前記主スイッチ素子側端子に接続し、前記制御回路と前記各主スイッチ素子の制御電極の間にその入力端子の一方が前記制御回路側にその出力端子が前記主スイッチ素子側になるようにOR回路を挿入し、前記OR回路の入力端子の別の一方を前記第2のダイオードと前記コンデンサの接続点に接続したことを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−124673(P2010−124673A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320238(P2008−320238)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(592091057)大平電子株式会社 (19)
【Fターム(参考)】