説明

電力変換装置

【課題】インバータ回路の負荷側の力率や出力電圧が変化した場合でも、スイッチング素子の温度変化を抑えられるような構成を得る。
【解決手段】スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に流れる電流が略一定の場合には、インバータ回路(4)の負荷側の力率及び出力電圧に拘わらず、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度が略一定になるように、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を逆導通可能な構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のスイッチング素子を有するインバータ回路を備えた電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数のスイッチング素子を有するインバータ回路を備えた電力変換装置が知られている。このような電力変換装置は、例えば、モータの回転数やトルクを制御する必要がある家電機器や産業機器などに広く用いられている。
【0003】
上記スイッチング素子は、従来、Siデバイスによって構成されているが、特許文献1に開示されるように、Siよりもオン抵抗率が小さいワイドバンドギャップ半導体を用いて小型化を図ることが考えられている。また、上記特許文献1にも開示されているように、上記スイッチング素子には、還流用のダイオードが逆並列に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−61404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のように、スイッチング素子に逆並列にダイオードが接続されている構成の場合には、インバータ回路の負荷側の力率や出力電圧に応じて該スイッチング素子及びダイオードに流れる電流が変化する。
【0006】
ここで、上述のように、ワイドバンドギャップ半導体によってスイッチング素子を構成することにより、チップの小型化を図ると、その分、ケース−ジャンクション間の熱抵抗が大きくなるため、従来と同等の損失であっても、該ケース−ジャンクション間の温度上昇は大きくなる。そのため、上記ワイドバンドギャップ半導体を用いたスイッチング素子では、ジャンクション温度が従来よりも高くなることから、上述のような負荷側の力率や出力電圧の変化に起因する電流の流れの変化によっては、温度変化が著しく大きくなる。
【0007】
このようなスイッチング素子の温度変化は、該スイッチング素子を例えばヒートスプレッダ上に固定する接合部に大きなストレスを与えることになり、該接合部の劣化を招くことになる。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、インバータ回路の負荷側の力率や出力電圧が変化した場合でも、スイッチング素子の温度変化を抑えられるような構成を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る電力変換装置(1)では、インバータ回路(4)の負荷側の力率及び出力電圧に拘わらず、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度が略一定になるように、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を逆導通可能な構成とした。
【0010】
具体的には、第1の発明は、複数のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を有し、且つ、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に対する順方向または逆方向の電流を所定のタイミングで流すように構成されたインバータ回路(4)を備えた電力変換装置を対象とする。
【0011】
上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、上記インバータ回路(4)の負荷側の力率及び出力電圧に拘わらず、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度が略一定になるように、逆導通可能に構成されているものとする。
【0012】
この構成により、インバータ回路(4)の負荷側の力率が変化して電流の流れる向きが変化した場合(例えば力行運転及び回生運転)や出力電圧が変化した場合でも、逆導通可能に構成された該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に常に同じ電流を流すことができる。そのため、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に対して流れる電流が同じであれば、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度は電流の流れる方向が変化しても略一定となる。これにより、負荷側の力率や出力電圧の変化に起因するスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度変化を抑えることができ、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)におけるヒートスプレッダ等との接合部の信頼性の向上を図れる。
【0013】
上記第1の発明において、上記インバータ回路(4)は、電流の流れる方向が変化しても、上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみに電流を流すように構成されているものとする(第2の発明)。
【0014】
これにより、電流の流れる方向が変わってもスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみに電流が流れるため、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度を略一定に保つことができる。
【0015】
上記第1または第2の発明において、上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、順方向及び逆方向における電流−電圧特性が同等であるものとする(第3の発明)。こうすることで、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に対して順方向に電流が流れる場合と逆方向に電流が流れる場合とにおいて、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に流れる電流を同じ電流値にすることが可能となる。これにより、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度をより確実に略一定に保つことができる。
【0016】
上記第1から第3の発明において、上記インバータ回路(4)は、誘導負荷(5)に対して電力を供給する力行運転と該誘導負荷(5)から電力を回収する回生運転とを行うように構成されているものとする(第4の発明)。
【0017】
クレーンやリフタ等の昇降機の駆動に上述のような電力変換装置(1)を用いた場合、巻き上げを伴うモータ(5)の力行運転と、巻き戻しに伴う回生運転とが交互に繰り返されるため、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に対して流れる電流の向きが大きく変化する。この場合でも、上記第1の発明のように、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を逆導通可能に構成することで、上述のような力行運転及び回生運転において該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみに電流を流すことができ、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度を略一定にすることができる。
【0018】
上記第4の発明において、上記力行運転の際に誘導負荷(5)に与える電力と、上記回生運転の際に該誘導負荷(5)から回収する電力と、が同等になる機器に用いられるものとする(第5の発明)。
【0019】
これにより、力行運転と回生運転とを繰り返しても、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に流れる電流は同じなので、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度をより確実に一定に保つことができる。
【0020】
上記第2の発明において、上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)がそれぞれ設けられていて、且つ、上記インバータ回路(4)を構成する複数のチップ(11)と、上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)で発生した熱を拡散するように、上記チップ(11)の少なくとも一つが接合されるヒートスプレッダ(12,13)と、を備えているものとする(第6の発明)。
【0021】
こうすることで、インバータ回路(4)を構成し、且つ、ヒートスプレッダ(12,13)に接合されるチップは、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)が設けられたチップ(11)だけなので、高温になる接合箇所を減らすことができ、接合部分での信頼性の向上を図れる。しかも、高温のチップ(11)とヒートスプレッダ(12,13)とを接合するための高い耐熱性を有する高価な接合部材の使用量を減らすことができるため、コスト低減を図れる。
【0022】
上記第1から第6の発明において、上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、ワイドバンドギャップ半導体からなるものとする(第7の発明)。これにより、Siを用いる場合に比べて、オン抵抗が小さい分、チップの小型化を図れる反面、ケース−ジャンクション間の熱抵抗が大きくなって、運転状態によるスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度変化が大きくなる。しかしながら、ワイドバンドギャップ半導体は、高温環境下での動作が可能であり、しかも、上記第1の発明の構成にすることで負荷側の力率や出力電圧の変化によるスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度変化を抑えることができるため、チップの小型化と高温動作時の信頼性の向上との両立を図れる。
【発明の効果】
【0023】
以上より、第1の発明によれば、負荷側の力率や出力電圧に拘わらず、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度が略一定になるように、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は逆導通可能に構成されているため、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度変化を抑えることができ、高温動作時の信頼性の向上を図れる。
【0024】
また、第2の発明によれば、電流の流れる向きが変わっても、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみに電流が流れるため、電流の流れる向きによって該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に流れる電流が変化しない。したがって、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度変化をより確実に抑制することができる。
【0025】
また、第3の発明によれば、上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の順方向及び逆方向での電流−電圧特性が同等であるため、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度をより確実に略一定にすることができる。
【0026】
また、第4の発明によれば、力行運転と回生運転とを繰り返し行うように構成されたインバータ回路(4)においても、上記第1の発明の構成とすることで、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度変化を抑えることができる。
【0027】
また、第5の発明によれば、力行運転で必要な電力と、回生運転で回収する電力とが同等な機器に適用することで、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度変化をより確実に抑えることができる。
【0028】
また、第6の発明によれば、ヒートスプレッダ(12,13)には、インバータ回路(4)を構成するチップとして、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)が形成されたチップ(11)が接合されるため、接合部分の信頼性の向上及びコスト低減を図れる。
【0029】
また、第7の発明によれば、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、ワイドバンドギャップ半導体からなるため、上記第1の発明の構成を適用することで、チップの小型化と高温動作時の信頼性の向上との両立を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る電力変換装置の概略構成を示す回路図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態におけるチップの実装状態を概略的に示す斜視図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態における力行運転及び回生運転の際のスイッチング素子の温度上昇を示すグラフである。
【図4】図4は、従来の電力変換装置の概略構成を示す図1相当図である。
【図5】図5は、従来の電力変換装置において、(A)力行運転時、(B)回生運転時に、スイッチング素子及びダイオードに流れる電流を概略的に示すタイムチャートである。
【図6】図6は、従来の電力変換装置において、スイッチング素子を主にSiによって構成した場合の図3相当図である。
【図7】図7は、従来の電力変換装置において、スイッチング素子を主にSiCによって構成してチップ面積を小さくした場合の図3相当図である。
【図8】図8は、従来の電力変換装置を空気調和装置に適用した場合の図6相当図である。
【図9】図9は、従来の電力変換装置を空気調和装置に適用した場合の図7相当図である。
【図10】図10は、本発明の実施形態2に係る電力変換装置を空気調和装置に適用した場合の図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0032】
《実施形態1》
−電力変換装置の全体構成−
図1に本発明の実施形態1に係る電力変換装置(1)を示す。この電力変換装置(1)は、図示しないコンバータ回路の出力側に接続されるコンデンサ回路(3)とインバータ回路(4)とを備えている。なお、上記電力変換装置(1)は、例えば、クレーンやリフタ等の昇降機の電動機(5)(誘導負荷、以下、モータともいう)を駆動するために用いられる。
【0033】
上記コンバータ回路は、図示しない商用電源の交流電力を直流電力に整流するように構成されていて、例えば複数のダイオードやスイッチング素子によって形成されたブリッジ回路からなる。
【0034】
上記コンデンサ回路(3)は、上記コンバータ回路の出力側に並列に接続されるコンデンサ(3a)を備えている。このコンデンサ回路(3)を設けることによって、上記コンバータ回路で整流された電圧を平滑化することができる。これにより、上記インバータ回路(4)側に直流電力を安定して供給することができる。
【0035】
上記インバータ回路(4)は、上記コンバータ回路に対して上記コンデンサ回路(3)とともに並列に接続されている。このインバータ回路(4)は、複数(例えば三相交流であれば6個)のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)がブリッジ結線されてなる。すなわち、上記インバータ回路(4)は、2つのスイッチング素子を互いに直列接続してなる3つのスイッチングレグが並列に接続されたもので、これらのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオンオフ動作によって、直流電圧を交流電圧に変換し、モータ(5)へ供給するように構成されている。なお、以下の説明において、上記図1の上側に位置するスイッチング素子(Su,Sv,Sw)を上アーム側のスイッチング素子と呼び、下側に位置するスイッチング素子(Sx,Sy,Sz)を下アーム側のスイッチング素子と呼ぶ。
【0036】
上記各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、SiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体からなり、逆方向にも導通可能に構成されている。また、上記各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、その順方向及び逆方向で電流−電圧特性が同等になるように構成されている。さらに、上記各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、従来のような還流ダイオードが逆並列に接続されていない。そのため、上記インバータ回路(4)は、6個のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみによって構成されている。
【0037】
したがって、図2に示すように、上記各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)がそれぞれ形成された複数(本実施形態では6個)のチップ(11)のみが、ヒートスプレッダ(12,13)上に配置されている。これにより、スイッチング素子に対してダイオードが逆並列に接続される従来の構成に比べて、該ダイオードのチップが不要になる分、チップとヒートスプレッダとの接合部分を減らすことができる。また、各チップ(11)は、各ヒートスプレッダ(12,13)に対して高い融点(従来のSiデバイスの最高使用温度よりも高い温度)を有するAg−Cu系ろう材などによって接合されている。したがって、上述のようにチップ数を減らすことにより、高価な接合部材の使用量を減らすことができ、その分、コスト低減を図れる。
【0038】
なお、上記チップ(11)は、同電位となる上アーム側のスイッチング素子(Su,Sv,Sw)が形成されたチップ(11)が同一のヒートスプレッダ(12)上に配置される一方、下アーム側のスイッチング素子(Sx,Sy,Sz)が形成されたチップ(11)が別々のヒートスプレッダ(13)上に配置されている。また、上記ヒートスプレッダ(12)がワイヤ(14)を介して上記コンデンサ回路(3)の一端側に接続されている一方、下アーム側のスイッチング素子(Sx,Sy,Sz)を構成する各チップ(11)がワイヤ(14)を介して上記コンデンサ回路(3)の他端側に接続されている。さらに、上アーム側のスイッチング素子(Su,Sv,Sw)が形成されたチップ(11)もワイヤ(14)を介して上記ヒートスプレッダ(13)に接続されている。
【0039】
上述のように、上記インバータ回路(4)を6個のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)によって構成するとともに、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を逆導通可能に構成することで、後述するように、該インバータ回路(4)内にスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の順方向へ電流が流れる場合も逆方向へ電流が流れる場合も、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみを電流が流れることになる。したがって、インバータ回路(4)内に流れる電流が同じ場合、電流の流れる方向が変化しても、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に同じ電流を流すことができ、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度を同一にすることができる。
【0040】
上記電力変換装置(1)は、上記モータ(5)に対して電力を供給する力行運転と、該モータ(5)からエネルギーを回収する回生運転と、を行えるように構成されている。具体的には、上記電力変換装置(1)は、力行運転時には、図1に実線矢印で示すように、インバータ回路(4)からモータ(5)側へ電流が流れ、回生運転時には、図1に破線矢印で示すように、モータ(5)からインバータ回路(4)側へ電流が流れるように、該インバータ回路(4)のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を駆動させる。
【0041】
上述のように、本実施形態の電力変換装置(1)では、インバータ回路(4)内のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には逆並列に接続されるダイオードが存在しないため、上記力行運転及び回生運転時には、インバータ回路(4)内のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を電流が流れる。そのため、力行運転時にモータ(5)に与える電力と回生運転時に該モータ(5)から回収する電力とが同等であれば、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に流れる電流が同じになって、図3に示すように、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度を同等にすることができる。なお、このように、力行運転時にモータ(5)に与える電力と回生運転時に該モータ(5)から回収する電力とが同等になる機器としては、例えば、クレーンやリフタ等の昇降機などがある。
【0042】
ここで、図4に示す従来の電力変換装置(101)における力行運転及び回生運転について説明する。この電力変換装置(101)では、インバータ回路(104)内の各スイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)に対して逆並列にダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)が接続されている。上記電力変換装置(101)も、上記電力変換装置(1)と同様、力行運転及び回生運転を行えるように構成されている。
【0043】
上記従来の電力変換装置(101)では、力行運転時には主にスイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)に電流が流れる(図4の実線矢印)一方、回生運転時には主にダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)に電流が流れる(図4の破線矢印)。力行運転時及び回生運転時に電流の流れる様子を図5に示す。この図5に示すように、力行運転時にはスイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)に主に電流(スイッチング電流iswu)が流れて、転流時にダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)に電流(ダイオード電流idx)が流れる(図5(A)参照)。逆に、回生運転時には、ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)に主に電流(ダイオード電流idu)が流れて、転流時にスイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)に電流(スイッチング電流iswx)が流れる(図5(B)参照)。
【0044】
このような構成の電力変換装置(101)では、図6及び図7に示すように、力行運転時には主にスイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)で損失が発生して該スイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)の温度上昇ΔTが大きくなる一方、回生運転時には主にダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)で損失が発生して該ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)の温度上昇ΔTが大きくなる。
【0045】
したがって、力行運転時及び回生運転時における、上記スイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)及びダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)の温度変化が大きくなる。そうすると、これらの素子とヒートスプレッダとの接合部分の温度変化も大きくなって、該接合部分の信頼性の低下につながる。
【0046】
なお、上記図6は、スイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)を主にSiによって構成した場合の各運転時におけるスイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)及びダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)の温度上昇ΔTを、上記図7は、スイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)を主にSiCなどのワイドバンドギャップ半導体によって構成した場合の各運転時におけるスイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)及びダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)の温度上昇ΔTを、それぞれ示す。さらに、この図7の場合には、スイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)及びダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)のチップ面積を上記図6の場合よりも小さくしているため、その分、該スイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)及びダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)の温度上昇ΔTが大きくなっている。ここで、上記図6及び図7における温度上昇ΔTは、ケースに対するジャンクションの温度上昇を意味する。
【0047】
これに対し、上述のように、逆導通可能なスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみを用いてインバータ回路(4)を構成することにより、力行運転時と回生運転時とで該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)にのみ電流を流すことができ、上記図3に示すように、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度を略一定にすることができる。よって、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)とヒートスプレッダ等との接合部分の信頼性の向上を図れる。
【0048】
−実施形態1の効果−
以上より、この実施形態によれば、電力変換装置(1)のインバータ回路(4)を、逆導通可能なスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみによって構成したため、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に流れる電流が同じであれば、力行運転と回生運転とで該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度を略一定にすることができ、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)とヒートスプレッダ(12,13)との接合部分の信頼性の向上を図れる。
【0049】
しかも、上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を、SiCなどのワイドバンドギャップ半導体によって構成することで、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の高温動作が可能になり、チップの小型化が可能になる。
【0050】
このように、チップを小型化すると、ケース−ジャンクション間の熱抵抗が大きくなるため、発熱量が大きくなり、温度変化も大きくなるが、上述のようなインバータ回路(4)の構成にすることで、運転状態によるスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度変化をほぼなくすことができ、接合部分の信頼性を確保できる。したがって、以上の構成により、チップの小型化と高温動作時の信頼性の向上とを両立することができる。
【0051】
また、上述のように、インバータ回路(4)をスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみによって構成することで、ダイオードを有する従来の構成に比べて、ヒートスプレッダ(12,13)に接合されるチップの数を減らすことができる。これにより、接合部分の信頼性の向上と、耐熱性の高い高価な接合材料が不要になることによるコスト低減と、を図れる。
【0052】
さらに、上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を、順方向及び逆方向で電流−電圧特性が同等になるように構成することで、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の順方向及び逆方向に同等の電流を流すことができ、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度をより確実に略一定にすることができる。
【0053】
《実施形態2》
この実施形態は、上記電力変換装置(1)を空気調和装置の冷媒回路に設けられた圧縮機の電動機(5)(以下、モータともいう)を駆動するために用いる点で、上記実施形態1とは異なる。ここで、空気調和装置の冷媒回路は、特に図示しないが、圧縮機と凝縮器と膨張機構と蒸発器とが閉回路を構成するように接続されてなり、冷媒が循環して蒸気圧縮式冷凍サイクルを行うように構成されている。この冷媒回路によって、冷房運転では、蒸発器で冷却された空気が室内へ供給され、暖房運転では、凝縮器で加熱された空気が室内へ供給される。
【0054】
このような空気調和装置では、軽負荷時または過負荷時に、負荷力率を変化させて運転したり、トルク(インバータ回路(4)の出力電流)が一定で圧縮機の回転数(インバータ回路(4)の出力電圧)を変動させたりする運転モードが存在する。なお、負荷力率を最も変化させた場合が、上記実施形態1における力行運転(例えば力率1.0)及び回生運転(例えば力率−1.0)である。
【0055】
上記空気調和装置において、流れる電流を変化させることなく、負荷力率を変化させた場合及び加減速時のスイッチング素子の温度変化を図8から図10に示す。図8及び図9は、スイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)に対して逆並列にダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)が接続された構成における各素子の温度変化を、図10は、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみによってインバータ回路(4)を構成した場合の該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度変化を、それぞれ示す。なお、上記実施形態1と同様、温度上昇ΔTは、ケースに対するジャンクションの温度上昇を意味している。また、上記図8は、主にSiによってスイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)を構成した場合、上記図9は、主にSiCによってスイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)を構成して上記図8の場合よりもチップを小型化した場合の温度変化をそれぞれ示す。
【0056】
上記図8及び図9に示すように、負荷力率を変化させた場合や加減速時では、スイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)に流れる電流が変化するため、該スイッチング素子(SWu,SWv,SWw,SWx,SWy,SWz)の温度が運転条件によって変化する。これに対し、逆導通可能なスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみによってインバータ回路(4)を構成した上記図10では、該インバータ回路(4)内に流れる電流が変わらなければ、運転条件に関係なく、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度変化が略一定となる。
【0057】
したがって、上記電力変換装置(1)を、空気調和装置に適用することで、該空気調和装置の運転条件が変化しても、流れる電流が略一定であれば、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に流れる電流を略一定にすることができ、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度を一定にすることができる。
【0058】
−実施形態2の効果−
以上より、この実施形態によれば、インバータ回路(4)を逆導通可能なスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみによって構成した電力変換装置(1)を、空気調和装置に適用することで、運転条件が変化しても、インバータ回路(4)内に流れる電流が変わらなければ、上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度を略一定にすることができ、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)とヒートスプレッダ等との接合部分の信頼性の向上を図れる。
【0059】
しかも、上記実施形態1と同様、上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に、SiCなどのワイドバンドギャップ半導体を用いることにより、チップの小型化が可能になる。したがって、上述の構成により、チップの小型化と高温動作時の信頼性の向上との両立を図ることができる。
【0060】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0061】
上記実施形態では、インバータ回路(4)を構成するスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を、ワイドバンドギャップ半導体によって構成しているが、この限りではなく、逆導通可能な構成であれば、どのような構成のスイッチング素子であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明は、逆導通可能な複数のスイッチング素子を有するインバータ回路を備えた電力変換装置に有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 電力変換装置
3 コンデンサ回路
3a コンデンサ
4 インバータ回路
5 電動機
11 チップ
12、13 ヒートスプレッダ
14 ワイヤ
101 電力変換装置
104 インバータ回路
Su、Sv、Sw、Sx、Sy、Sz スイッチング素子
SWu、SWv、SWw、SWx、SWy、SWz スイッチング素子
Du、Dv、Dw、Dx、Dy、Dz ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を有し、且つ、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に対する順方向または逆方向の電流を所定のタイミングで流すように構成されたインバータ回路(4)を備えた電力変換装置であって、
上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、上記インバータ回路(4)の負荷側の力率及び出力電圧に拘わらず、該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の温度が略一定になるように、逆導通可能に構成されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
上記インバータ回路(4)は、電流の流れる方向が変化しても、上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみに電流を流すように構成されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電力変換装置において、
上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、順方向及び逆方向における電流−電圧特性が同等であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の電力変換装置において、
上記インバータ回路(4)は、誘導負荷(5)に対して電力を供給する力行運転と該誘導負荷(5)から電力を回収する回生運転とを行うように構成されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電力変換装置において、
上記力行運転の際に誘導負荷(5)に与える電力と、上記回生運転の際に該誘導負荷(5)から回収する電力と、が同等になる機器に用いられることを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項2に記載の電力変換装置において、
上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)がそれぞれ設けられていて、且つ、上記インバータ回路(4)を構成する複数のチップ(11)と、
上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)で発生した熱を拡散するように、上記チップ(11)の少なくとも一つが接合されるヒートスプレッダ(12,13)と、を備えていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載の電力変換装置において、
上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、ワイドバンドギャップ半導体からなることを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−36032(P2011−36032A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179534(P2009−179534)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】