説明

電力変換装置

【課題】スイッチング素子を複数並列に接続して逆変換器等を構成した場合にも簡易かつ確実に電流アンバランスを解消することができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】ゲート調整回路12は、基準素子ユニット501における直流電流検出器541の直流電流の検出値Id1および、基準素子ユニット501以外の素子ユニット502における直流電流検出器542の直流電流の検出値Id2に基づいて、それぞれ時間γ1および時間γ2から時間差Δtを電流アンバランス量として算出する。ゲート調整回路12は、時間差Δtを次の第1状態におけるターンオフのタイミングで、ゲート駆動回路552uの動作信号S2uに遅延時間として付加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
順変換器と、交互に動作する第1スイッチング素子および第2スイッチング素子を一対とする素子ユニットが複数並列に接続された逆変換器とが直列共振型回路を構成する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電力変換装置としては、下記特許文献1に示すように、スイッチング素子であるIGBT毎に電流検出回路を設けて、IGBTコレクタ電流値Dを検出し、そのIGBTコレクタ電流値Dが、IGBTのターンオフ指令信号の入力時点近傍で検出した電流検出値と、ターンオフ指令信号が入力されている期間の検出した電流値最大値との差が所定値以上のときにターンオフ指令信号が入力されてから実際にIGBTがターンオフするまでの時間を短くして、各素子の電流をバランスさせるゲート駆動回路が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−369498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、かかる従来のゲート駆動回路では、IGBT毎に電流検出回路を設ける必要があるため、IGBTを複数並列に接続して逆変換器等を構成する場合には、電流検出回路がIGBTの数だけ必要となり、回路構成が複雑かつ大掛かりなものとなり、コストが嵩むという問題があった。
【0005】
以上の事情に鑑みて、本発明は、スイッチング素子を複数並列に接続して逆変換器等を構成した場合にも簡易かつ確実に電流アンバランスを解消することができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の電力変換装置は、順変換器と、交互に動作する第1スイッチング素子および第2スイッチング素子を一対とする素子ユニットが複数並列に接続された逆変換器とが直列共振型回路を構成する電力変換装置であって、
前記素子ユニットは、該素子ユニットに含まれる前記第1スイッチング素子および前記第2スイッチング素子に直列に接続され、該第1スイッチング素子および該第2スイッチング素子に流れる電流を検出する1つの直流電流検出手段と、該第1スイッチング素子を駆動する第1ゲート駆動回路と、該第2スイッチング素子を駆動する第2ゲート駆動回路とを備え、
前記逆変換器は、複数並列に接続された素子ユニット間において、前記第1スイッチング素子に電流が流れる第1状態および前記第2スイッチング素子に電流が流れる第2状態のいずれか一方または両方において、1つの素子ユニットを基準素子ユニットとして、該基準素子ユニットの前記直流電流検出手段による検出電流と、該基準素子ユニット以外の素子ユニットの前記直流電流検出手段による検出電流との電流アンバランス量が解消するように、該基準素子ユニット以外の素子ユニットの前記第1ゲート駆動回路および前記第2ゲート駆動回路のいずれか一方または両方の動作タイミングを制御することを特徴とする。
【0007】
第1発明の電力変換装置によれば、各素子ユニットにおいて、1つの電流検出手段により第1スイッチング素子および第2スイッチング素子に流れる電流が検出される。
【0008】
そして、各素子ユニットの第1スイッチング素子に電流が流れる第1状態においては、基準素子ユニットの検出電流と他の素子ユニットの検出電流の電流アンバランス量が解消するように、基準素子ユニット以外の第1スイッチング素子の動作タイミングが第1ゲート駆動回路により制御される。
【0009】
一方、各素子ユニットの第2スイッチング素子に電流が流れる第2状態においては、基準素子ユニットの検出電流と他の素子ユニットの検出電流の電流アンバランス量が解消するように、基準素子ユニット以外の第2スイッチング素子の動作タイミングが第2ゲート駆動回路により制御される。
【0010】
これにより、第1スイッチング素子および第2スイッチング素子のそれぞれに直流電流検出手段を設けなくても、各素子ユニット間の電流アンバランスを解消することができる。
【0011】
このように、第1発明の電力変換装置によれば、スイッチング素子を複数並列に接続して逆変換器等を構成した場合にも簡易かつ確実に電流アンバランスを解消することができる。
【0012】
第2発明の電力変換装置は、第1発明において、
前記逆変換器は、前記第1状態および前記第2状態のいずれか一方または両方において、前記基準素子ユニットの前記直流電流検出手段による検出電流の波形上に設定された基準計測ポイントと、該基準計測ポイントに対応して、該基準素子ユニット以外の素子ユニットの前記直流電流検出手段による検出電流の波形上に設定された計測ポイントとの時間差を前記電流アンバランス量として検出することを特徴とする。
【0013】
第2発明の電力変換装置によれば、各素子ユニットにおける電流検出手段の検出電流の波形は経時変化を示すため、検出した電流値そのものを比較してそのアンバランスを定量化することが困難であるところ、その代わりに、波形上に設定された基準計測ポイントの時間差を電流アンバランス量とすることで、電流アンバランス量を容易に定量化することができ、かかる時間差を解消させることで、簡易かつ確実に電流アンバランスを解消することができる。
【0014】
第3発明の電力変換装置は、第2発明において、
前記逆変換器は、前記基準素子ユニットの前記直流電流検出手段による検出電流の波形上のターンオフのポイントを前記基準計測ポイントとして該ターンオフのポイントからゼロクロス点までの基準時間と、該基準素子ユニット以外の素子ユニットの前記直流電流検出手段による検出電流の波形上のターンオフのポイントを前記計測ポイントとして、該ターンオフのポイントからゼロクロス点までの時間との時間差を前記電流アンバランス量として検出することを特徴とする。
【0015】
第3発明の電力変換装置によれば、電流検出手段の検出電流の波形上に設定された基準計測ポイントをターンオフのポイントとすることで、ゼロクロス点までの時間差であるγ時間を電流アンバランス量として容易に定量化することができる。また、かかるγ時間は、出力電流および電圧の位相差を表わすため、通常の電力変換装置では何らかの形で計測されている。そのγ時間を電流アンバランス量として用いることで、新たな装置構成を必要とせずに、簡易に電流アンバランス量を定量化することができる。
【0016】
第4発明の電力変換装置は、第1〜第3発明のいずれかにおいて、
前記逆変換器は、前記基準素子ユニットおよび該基準素子ユニット以外の素子ユニットの前記第1ゲート駆動回路および前記第2ゲート駆動回路の動作信号を生成するゲート信号生成回路と、少なくとも該基準素子ユニット以外の素子ユニットの該第1ゲート駆動回路および該第2ゲート駆動回路の動作信号を進退させるゲート調整回路とを備え、
前記ゲート調整回路は、前記電流アンバランス量が解消するように、前記基準素子ユニット以外の素子ユニットの前記第1ゲート駆動回路および第2ゲート駆動回路のいずれか一方または両方の動作信号を進退させることを特徴とする。
【0017】
第4発明の電力変換装置によれば、基準素子ユニット以外の第1スイッチング素子および第2スイッチング素子の駆動タイミングが電流アンバランス量を解消するように、ゲート調整回路を介して第1ゲート駆動回路および第2ゲート駆動回路の動作信号が進退される。これにより、スイッチング素子を複数並列に接続して逆変換器等を構成した場合にも確実に電流アンバランスを解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の電力変換装置の全体構成を示す構成図。
【図2】複数の素子ユニットにより逆変換器を構成した場合の回路図。
【図3】逆変換器を並列に接続した場合のゲート調整回路の構成を示す説明図。
【図4】電流波形とゲート信号との関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1を参照して、本実施形態の電力変換装置の構成について説明する。本実施形態の電力変換装置は、例えば、図1に示すように、誘導溶解炉の加熱制御装置に用いられる。
【0020】
具体的に、誘導溶解炉の加熱制御装置は、電源1と、高圧受電盤2と、変換装置用変圧器3と、順変換器4と、逆変換器5と、高周波整合装置6と、誘導加熱装置7と、制御回路10とを備える。順変換器4および逆変換器5で構成される回路が電力変換装置に相当する。
【0021】
ここで、電源1は、定格の交流電源であって、高圧受電盤2に接続されている。
【0022】
また、高圧受電盤2は、誘導加熱装置への電源通電・停止と故障発生時の電源遮断を行う装置であって、パワーヒューズ2aと遮断機2bとを備える。パワーヒューズ2aは、短絡事故時に電流遮断する手段であって、遮断機2bは、電源の通電と停止に伴う開閉動作を行う。
【0023】
変換装置用変圧器3は、高圧受電盤2に接続され、電力変換装置の順変換器4への入力電圧が所定の値となるように調整する。
【0024】
電力変換装置は、変換装置用変圧器3に接続され、50Hzまたは60Hzの商用電源から任意の高周波電流を生成するための装置であって、交流/直流変換器として機能する順変換器4と、直流/交流変換器として機能する逆変換器5とを備え、制御回路10からの出力制御信号により制御される。
【0025】
具体的に、順変換器4は、ダイオード式順変換器41a,41bを備え、ダイオード式順変換器41a,41bには、それぞれ直列に平滑用リアクトル43a,43bが接続されている。
【0026】
一方、逆変換器5は、IGBT式逆変換器511a,511bを備え、IGBT式逆変換器511a,511bに並列に平滑用コンデンサ521aおよび521bが接続されている。また、IGBT式逆変換器511a,511bは、それぞれゲート駆動回路551u,551x(図2参照)により駆動される。なお、IGBT式逆変換器511aが本発明の第1スイッチング素子に相当し、IGBT式逆変換器511bが第2スイッチング素子に相当する。
【0027】
さらに、逆変換器5には、ダイオード式順変換器41a,41bの出力側の直流電圧を検出して直流電圧信号(a)を出力する直流電圧検出器531と、直流電流を検出して直流電流信号(b)を出力する直流電流検出器541(本発明の直流電流検出手段に相当する)とを備え、直流電圧検出器531および直流電流検出器541の出力値は、制御回路10に出力される。
【0028】
なお、逆変換器5における制御処理は、逆変換器5内に制御回路(後述するゲート信号生成回路11およびゲート調整回路12)を設けて実行してもよいが、本実施形態では、制御回路10の一機能として、逆変換器5の制御処理を行う場合について説明する。制御回路10による逆変換器5の制御内容については詳細を後述する。
【0029】
高周波整合装置6は、逆変換器5と誘導加熱装置7との間に設けられて、誘導加熱装置7が低力率であるため負荷力率を改善する。
【0030】
具体的に、高周波整合装置6は、共振用コンデンサ61a,61bと、高周波整合装置6の出力電流を検出して出力電流信号(d)を出力する電流検出器62および出力電圧を検出して出力電圧信号(e)を出力する電圧検出器63等から構成される。
【0031】
誘導加熱装置7は、高周波整合装置6から供給される高周波電流を加熱コイル70に通電させることにより、溶解炉本体内に収納された被加熱材Xにうず電流を発生させ、うず電流により金属材料間に発生するジュール熱で被加熱材Xを昇温させて溶解させる。
【0032】
制御回路10は、誘導溶解炉の運転・停止、出力調整等の制御を行うと共に、誘導溶解炉の制御装置として出力力率を検出する力率検出部、IGBT式逆変換器511a,511bの制御を行う制御信号生成部としての機能を備える。
【0033】
次に、図2を参照して、図1の逆変換器501を複数並列に接続して逆変換器5を構成した場合について説明する。
【0034】
図2では、図1の逆変換器5を基準素子ユニット501として、これに並列に素子ユニット502は、順変換器4の出力および高周波整合装置6に対して、IGBT式逆変換器512a,512bと、IGBT式逆変換器512a,512bに並列に平滑用コンデンサ522aおよび522bが接続されている。また、IGBT式逆変換器512a,512bは、それぞれゲート駆動回路552u,552xにより駆動される。なお、IGBT式逆変換器512aが本発明の第1スイッチング素子に相当し、IGBT式逆変換器512bが第2スイッチング素子に相当する。
【0035】
さらに、この素子ユニット502の入力側の直流電圧を検出して直流電圧信号(a)を出力する直流電圧検出器532(図示省略)と、直流電流を検出して直流電流信号(b)を出力する直流電流検出器542(本発明の直流電流検出手段に相当する)とを備え、直流電圧検出器532(図示省略)および直流電流検出器542の出力値は、制御回路10に出力される。
【0036】
なお、図2では説明の都合上、逆変換器5を2つ並列に接続しているが、並列数を3以上とする場合には、同様に、素子ユニット503(図示省略)は、順変換器4の出力および高周波整合装置6に対して、IGBT式逆変換器513a,513b(図示省略)と、IGBT式逆変換器513a,513bに並列に平滑用コンデンサ523aおよび523b(図示省略)が接続され、IGBT式逆変換器513a,513bは、それぞれゲート駆動回路553u,553x(図示省略)により駆動される。
【0037】
さらに、その素子ユニット503(図示省略)には、直流電圧検出器533と、直流電流検出器543(本発明の直流電流検出手段に相当する)とを備える。なお、この場合IGBT式逆変換器513aが本発明の第1スイッチング素子に相当し、IGBT式逆変換器513bが第2スイッチング素子に相当する。
【0038】
次に、図3を参照して、IGBT式逆変換器511a,511b、512a,512bを駆動する駆動回路の構成について説明する。
【0039】
IGBT式逆変換器511a,511b、512a,512bをそれぞれ駆動するゲート駆動回路551u,551x、552u,552xは、制御回路10のゲート信号生成回路11およびゲート調整(遅延)回路12により出力される動作信号により動作する。
【0040】
ゲート信号生成回路11は、例えば、電流検出器62の出力値である高周波整合装置6の出力電流信号(d)と、電圧検出器63の出力値である高周波整合装置6の出力電圧信号(e)とから、高周波整合装置6から出力される交流電流・電圧の出力力率を算出し、その出力力率が所望の力率となるように、IGBT式逆変換器511a,511b、512a,512bの動作信号を生成する。
【0041】
ゲート調整回路12は、基準素子ユニット501および基準素子ユニット以外の素子ユニット502の直流電流検出器541、542の直流電流信号(b)に基づいて、各素子ユニット間の電流アンバランス量が解消するように、駆動するゲート駆動回路551u,551x、552u,552xの動作信号を進退(遅延)させる。
【0042】
具体的に、ゲート調整回路12は、基準素子ユニット501における直流電流検出器541の直流電流信号(b)を直流電流信号Id1とすると共に、基準素子ユニット501以外の素子ユニット502における直流電流検出器542の直流電流信号(b)を直流電流信号Id2として、図4に示すように、ゲート駆動回路551u,551x、552u,552xのそれぞれの動作信号S1u,S1x、S2u,S2xが生成される。
【0043】
図4では、まず、最上段に基準素子ユニット501の出力電流波形を示している。その下段において、上側が、第1スイッチング素子であるIGBT式逆変換器511a,512aに電流が流れる第1状態についての説明であり、下側が、第2スイッチング素子であるIGBT式逆変換器511b,512bに電流が流れる第2状態についての説明である。
【0044】
まず、第1状態について、基準素子ユニット501における直流電流検出器541の直流電流の検出値Id1を示し、その下段に、基準素子ユニット501におけるIGBT式逆変換器511aの電流値Iu1を示す。なお、IGBT式逆変換器511aの電流値Iu1は説明のために用いるものであり、実際の計測値ではない。
【0045】
さらに、第1状態について、基準素子ユニット501以外の素子ユニット502における直流電流検出器542の直流電流の検出値Id2を示し、その下段に、その素子ユニット502におけるIGBT式逆変換器512aの電流値Iu2を示す。なお、IGBT式逆変換器512aの電流値Iu2は説明のために用いるものであり、実際の計測値ではない。
【0046】
その下段には、基準素子ユニット501のIGBT式逆変換器511aを動作させるためのゲート駆動回路551uの動作信号S1uと、基準素子ユニット501以外の素子ユニット502のIGBT式逆変換器512aを動作させるためのゲート駆動回路552uの動作信号S2uを示す。
【0047】
一方、その下段には、第2状態について、基準素子ユニット501におけるIGBT式逆変換器511bの電流値Ix1を示す。なお、IGBT式逆変換器511bの電流値Ix1は説明のために用いるものであり、実際の計測値ではない。
【0048】
さらに、第2状態について、その下段に、基準素子ユニット501以外の素子ユニット502におけるIGBT式逆変換器512bの電流値Ix2を示す。なお、IGBT式逆変換器512bの電流値Ix2は説明のために用いるものであり、実際の計測値ではない。
【0049】
その下段には、基準素子ユニット501のIGBT式逆変換器511bを動作させるためのゲート駆動回路551xの動作信号S1xと、基準素子ユニット501以外の素子ユニット502のIGBT式逆変換器512bを動作させるためのゲート駆動回路552xの動作信号S2xを示す。
【0050】
次に、図4を用いて、本実施形態における電流アンバランスの調整方法について説明する。
【0051】
まず、第1状態におけるIGBT式逆変換器511a,512aのターンオフは、それぞれゲート駆動回路551uの動作信号S1uと、ゲート駆動回路552uの動作信号S2uとが、オンからオフへ切り替わることにより、IGBT式逆変換器511a,512aがそれぞれターンオフ動作する。
【0052】
ここで、各IGBT式逆変換器511a,512aにはそれぞれ固有の動作遅延時間があり、この動作遅延時間のばらつきにより、図4に示すように、IGBT式逆変換器511a(Iu1参照)に対して、IGBT式逆変換器512a(Iu2参照)は、時間差Δtだけ早くターンオフ動作する。
【0053】
かかる時間差Δtは、基準素子ユニット501における直流電流検出器541の直流電流の検出値Id1のターンオフからゼロクロス点までの時間γ1と、基準素子ユニット501以外の素子ユニット502における直流電流検出器542の直流電流の検出値Id2のターンオフからゼロクロス点までの時間γ2との時間差に等しい。すなわち、γ2−γ1=Δtとの関係になる。
【0054】
そのため、ゲート調整回路12は、基準素子ユニット501における直流電流検出器541の直流電流の検出値Id1および、基準素子ユニット501以外の素子ユニット502における直流電流検出器542の直流電流の検出値Id2に基づいて、それぞれ時間γ1および時間γ2から時間差Δtを電流アンバランス量として算出することができる。このとき、時間γは、出力電流および電圧の位相差を表わすため、通常の電力変換装置では各素子ユニット毎に計測されている。その時間γを電流アンバランス量として用いることで、新たな装置構成を必要とせずに、簡易に電流アンバランス量を定量化することができる。
【0055】
そして、ゲート調整回路12は、電流アンバランス量として定量化された時間差Δtを次の第1状態におけるターンオフのタイミングで、ゲート駆動回路552uの動作信号S2uに遅延時間として付加する。これにより、図4では、次の第1状態のターンオフのタイミングでは、IGBT式逆変換器511a,512aの実質的なターンオフのタイミングを揃えることができる。これにより、次の第1状態のターンオフのタイミングでは、時間差Δtが生じることなく、これにより、各素子ユニット間の電流アンバランスを確実に解消することができる。
【0056】
このように、本実施形態の電力変換装置によれば、IGBT式逆変換器511a,511b、512a,512bを複数並列に接続して逆変換器5等を構成した場合にも、各IGBT式逆変換器511a,511b、512a,512bに電流検出手段を設けることなく、簡易かつ確実に電流アンバランスを解消することができる。
【0057】
なお、本実施形態では、第1スイッチング素子であるIGBT式逆変換器511a,512aに電流が流れる第1状態について、電流アンバランスを解消する場合について説明したが、第2スイッチング素子であるIGBT式逆変換器511b,512bに電流が流れる第2状態においても同様に、基準素子ユニット501における直流電流検出器541の直流電流の検出値Id1および、基準素子ユニット501以外の素子ユニット502における直流電流検出器542の直流電流の検出値Id2に基づいて、電流アンバランスを解消することができる。
【0058】
また、第1状態から第2状態への遷移状態、第2状態から第1状態への遷移状態のそれぞれにおいて、オフゲート信号から一定のデットタイムを介して与えられる次の他相のオンゲート信号については、時間差Δtだけ遅延することになるが、遅れ位相におけるターンオンでは、IGBT式逆変換器511a,511b、512a,512bに電流が流れず、実際にはフライホイールダイオードに流れるため(図4中の斜線部)、その影響はない。むしろ、これによりフライホイールダイオードに流れる電流のアンバランスを解消することができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、基準素子ユニット501における直流電流検出器541の直流電流の検出値Id1および、基準素子ユニット501以外の素子ユニット502における直流電流検出器542の直流電流の検出値Id2に基づいて、それぞれのターンオフからゼロクロス点までのγ時間として定量化したが、これに限定されるものではなく、これらの電流波形上の例えば極大値や極小値を基準計測ポイントとして、その偏差を直接、電流アンバランス量としてもよく、極大値や極小値のタイミングからゼロクロス点など特定のポイントまでの時間差を電流アンバランス量としてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…電源、2…高圧受電盤、3…変換装置用変圧器、4…順変換器、5…逆変換器、6…高周波整合装置、7…誘導加熱装置、10…制御回路、11…ゲート信号生成回路、12…ゲート調整回路、41a,41b…ダイオード式順変換器、70…加熱コイル、501…基準素子ユニット、502…素子ユニット、511a,512a…IGBT式逆変換器(第1スイッチング素子)、511b,512b…IGBT式逆変換器(第2スイッチング素子)、541,542…直流電流検出器(直流電流検出手段)、551u,551x,552u,552x…ゲート駆動回路、X…被加熱材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
順変換器と、交互に動作する第1スイッチング素子および第2スイッチング素子を一対とする素子ユニットが複数並列に接続された逆変換器とが直列共振型回路を構成する電力変換装置であって、
前記素子ユニットは、該素子ユニットに含まれる前記第1スイッチング素子および前記第2スイッチング素子に直列に接続され、該第1スイッチング素子および該第2スイッチング素子に流れる電流を検出する1つの直流電流検出手段と、該第1スイッチング素子を駆動する第1ゲート駆動回路と、該第2スイッチング素子を駆動する第2ゲート駆動回路とを備え、
前記逆変換器は、複数並列に接続された素子ユニット間において、前記第1スイッチング素子に電流が流れる第1状態および前記第2スイッチング素子に電流が流れる第2状態のいずれか一方または両方において、1つの素子ユニットを基準素子ユニットとして、該基準素子ユニットの前記直流電流検出手段による検出電流と、該基準素子ユニット以外の素子ユニットの前記直流電流検出手段による検出電流との電流アンバランス量が解消するように、該基準素子ユニット以外の素子ユニットの前記第1ゲート駆動回路および前記第2ゲート駆動回路のいずれか一方または両方の動作タイミングを制御することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1記載の電力変換装置において、
前記逆変換器は、前記第1状態および前記第2状態のいずれか一方または両方において、前記基準素子ユニットの前記直流電流検出手段による検出電流の波形上に設定された基準計測ポイントと、該基準計測ポイントに対応して、該基準素子ユニット以外の素子ユニットの前記直流電流検出手段による検出電流の波形上に設定された計測ポイントとの時間差を前記電流アンバランス量として検出することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項2記載の電力変換装置において、
前記逆変換器は、前記基準素子ユニットの前記直流電流検出手段による検出電流の波形上のターンオフのポイントを前記基準計測ポイントとして該ターンオフのポイントからゼロクロス点までの基準時間と、該基準素子ユニット以外の素子ユニットの前記直流電流検出手段による検出電流の波形上のターンオフのポイントを前記計測ポイントとして、該ターンオフのポイントからゼロクロス点までの時間との時間差を前記電流アンバランス量として検出することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか1項記載の電力変換装置において、
前記逆変換器は、前記基準素子ユニットおよび該基準素子ユニット以外の素子ユニットの前記第1ゲート駆動回路および前記第2ゲート駆動回路の動作信号を生成するゲート信号生成回路と、少なくとも該基準素子ユニット以外の素子ユニットの該第1ゲート駆動回路および該第2ゲート駆動回路の動作信号を進退させるゲート調整回路とを備え、
前記ゲート調整回路は、前記電流アンバランス量が解消するように、前記基準素子ユニット以外の素子ユニットの前記第1ゲート駆動回路および第2ゲート駆動回路のいずれか一方または両方の動作信号を進退させることを特徴とする電力変換装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−46485(P2013−46485A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182225(P2011−182225)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000242127)北芝電機株式会社 (53)
【Fターム(参考)】