説明

電力変換装置

【課題】樹脂製冷却器を具備した電力変換装置の信頼性を向上させる。
【解決手段】本発明の電力変換装置は、絶縁基板(5)と、絶縁基板の一方の主面に形成された配線パターン(4)と、配線パターン上に接合されたパワー半導体チップ(1)と、絶縁基板の他方の主面側に設けられ、パワー半導体チップが発生する熱を冷却媒体(8)により持ち去るようにして該パワー半導体チップを冷却する樹脂製冷却器(7)と、絶縁基板の他方の主面と樹脂製冷却器との間に設けられ、パワー半導体チップの発熱により該パワー半導体チップに生じる熱応力を緩和する応力緩和層(6)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関し、特に樹脂製冷却器を具備した電力変換装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置は、電力の形態(交流/直流、電圧及び周波数の大きさ)を変換する装置であり、インバータ(直流から交流に変換する装置)、コンバータ(交流から直流に変換する装置)、マトリクスコンバータ(交流から異なる交流に変換する装置)などの種類が挙げられる。図9は電力変換装置の適用例としてモータ駆動システムのインバータの回路構成を示した図である。図9に示すモータ駆動システムのインバータは、三相のモータ負荷23に対し、平滑用キャパシタ2に充電された直流電源22の直流電力を、パワー半導体チップであるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)チップQ1〜Q6、FWD(Free Wheeling Diode)チップD1〜D6が実装されたパワー半導体モジュール21によって3相の交流電力に変換して、それらを3相のモータ負荷23に供するように構成されている。
【0003】
図10は従来の電力変換装置の断面構造を示した図である。従来の電力変換装置では、図10に示すように、アルミニウムブロックや銅ブロックなどで構成された金属製のヒートシンク18上に、パワー半導体モジュール21が実装される構造が一般的に採用されている。パワー半導体モジュール21は、絶縁基板5と、絶縁基板5の両面に形成された銅などを材料とする配線パターン4と、絶縁基板5の一方の主面に形成された配線パターン4上に半田接合部3を介して実装されたパワー半導体チップ1と、絶縁基板5の他方の主面に形成された配線パターン4を介して接合された、熱伝導率の高い銅などを材料としたヒートスプレッダ15と、を備えている。さらに、図10に示すように、ヒートシンク18とパワー半導体モジュール21の間に熱伝導グリース16が設けられている。IGBTチップやFWDチップなどのパワー半導体チップ1は、モータ23などの負荷に通電する際に生じる損失によって発熱するが、一般に、IGBT素子の許容温度は150℃〜175℃といわれている。このため、発熱するパワー半導体チップ1を効率良く冷却するために、熱伝導グリース16が用いられている。
【0004】
ヒートシンク18は、例えば、アルミニウムブロックにパイプが挿通され、当該パイプを介して冷却媒体17である水が当該アルミニウムブロック内を循環用ポンプにより循環され、ラジエータを介して空気側へと熱が運ばれるように構成されている。つまり、パワー半導体チップ1(特にIGBT素子)で発生した熱は、パワー半導体モジュール21及び熱伝導グリース16を介してヒートシンク18へと伝えられ、そしてヒートシンク18内を循環する冷却媒体17へと伝えられ、ラジエータを介して大気へ放出されるようになっている。なお、ヒートシンク18の他の形態として、アルミニウムブロックに挿通されたパイプが所謂ヒートパイプを形成しており、水などの作用液が蒸発、凝縮を繰り返すことにより大気側へと熱が運ばれる形態も採用されている。
【0005】
以上のとおり、パワー半導体モジュール21が発生した熱を吸収する冷却器としては、熱伝導率の高いアルミニウムブロックや銅ブロックなどを材料とした金属製のヒートシンクを用いることが一般的である。但し、特許文献1では、配線用導体をインサート成形することにより部品点数や組立て工数の削減をねらった樹脂製の冷却ジャケットが提案されている。また、特許文献2では、ヒートシンクの表面に発熱体が配置されるとともに、当該ヒートシンクの裏面に向けて冷却媒体を噴出する複数の孔が設けられることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−197562号公報
【特許文献2】特開2002−237691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
IGBTチップやFWDチップなどの複数のパワー半導体チップ1、絶縁基板5、及びヒートスプレッダ15は互いに半田により接合されている。複数のパワー半導体チップ1は、それぞれ発熱すると、温度が上昇するとともに熱膨張する。
【0008】
パワー半導体チップ1の材料は、一般に、Si(シリコン:熱膨張係数α=3.0(ppm/K))の場合が多く、この場合、絶縁基板5の材料にはAlN(窒化アルミニウム:α=4.6(ppm/K))などが用いられる。ヒートスプレッダ15の材料は、熱を伝えやすくしたい場合は銅(α=16.5(ppm/K))が用いられるが、パワー半導体チップ1及び絶縁基板5それぞれの熱膨張係数とできるだけ近い値にしたい場合には銅モリブデン(α=7.0(ppm/K))などが用いられる。熱伝導グリース16は、Si(シリコン:熱膨張係数α=3.0(ppm/K))を材料とするシリコングリースが用いられる。
【0009】
一方、ヒートシンク18がアルミニウムや銅などの金属製冷却器である場合、その熱膨張係数は金属で構成されるヒートスプレッダ15の熱膨張係数と近い値となるが、特許文献1に開示されているようにヒートシンク18が樹脂製冷却器である場合には、その熱膨張係数はヒートスプレッダ15の熱膨張係数とは大きく異なる値となるため、熱応力が大きくなって、パワー半導体モジュール全体の破損を招くおそれが生じる。
【0010】
また、ヒートシンク18が樹脂製冷却器の場合、アルミニウムや銅に比べ熱伝導率が著しく小さいことが知られている。パワー半導体チップ1(特にIGBTチップ)で発生した熱は、絶縁基板5を通過し、次いでヒートシンク18の樹脂ブロックへと伝えられ、最後に冷却媒体17である水へと伝熱される。よって、パワー半導体チップ1で発生した熱は、熱伝導率が著しく小さいヒートシンク18の樹脂ブロックを経由するので、冷却媒体17である水に効率良く伝わらなくなる。そして、熱性能が悪くなり、冷却媒体17の温度がある一定値に定められると、パワー半導体チップ1の温度が上昇してその許容値を越えてしまい、パワー半導体チップ1の破損を招くおそれがある。
【0011】
特に、特許文献1の構造では、絶縁基板の裏面の金属箔と、樹脂製冷却器の樹脂(またはパッキン)とが接合されているため、熱による応力歪に対して弱く、その接合部の剥離やクラックが生じやすくなる。このとき、樹脂部分から水漏れが発生し、絶縁破壊などにより装置全体を損傷する可能性がある。
【0012】
また、特許文献2の冷却方法では、ヒートシンク(冷却器)の材料についての開示や示唆がなく、樹脂製冷却器を想定していない。
【0013】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的は、樹脂製冷却器を具備した電力変換装置の信頼性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した従来の課題を解決するために、本発明のある形態(aspect)に係る電力変換装置は、絶縁基板と、前記絶縁基板の一方の主面に形成された配線パターンと、前記配線パターン上に接合されたパワー半導体チップと、前記絶縁基板の他方の主面側に設けられ、前記パワー半導体チップが発生する熱を冷却媒体により持ち去るようにして該パワー半導体チップを冷却する樹脂製冷却器と、前記絶縁基板の他方の主面と前記樹脂製冷却器との間に設けられ、前記パワー半導体チップの発熱により該パワー半導体チップに生じる熱応力を緩和する応力緩和層と、を備えるものである。
【0015】
この構成によれば、絶縁基板の他方の主面と樹脂製冷却器との間に応力緩和層が介在するので、パワー半導体チップが発熱した場合、当該パワー半導体チップに生じる熱応力が緩和されて当該パワー半導体チップが破損することが防止される。これにより、樹脂製冷却器を具備した電力変換装置の信頼性を向上させることができる。
【0016】
前記電力変換装置において、前記樹脂製冷却器は、上面が開放され、且つ前記冷却媒体の入口及び出口が設けられた容器状に形成され、前記応力緩和層は、前記樹脂製冷却器の開放された上面を塞ぐように設けられ、且つ前記樹脂製冷却器の内部空間には、前記応力緩和層に向けて前記冷却媒体を噴出する噴出孔が設けられ、当該噴出孔は、前記パワー半導体チップの下方に配置されている、としてもよい。
【0017】
この構成によれば、冷却媒体の流速を噴出孔を介して局所的に高めることで樹脂製冷却器の内部を乱流状態とし、パワー半導体チップから冷却媒体への熱抵抗を下げることができ、樹脂の欠点である熱伝導率の低さを克服できる。また、パワー半導体チップの下方に噴出孔が配設されることによって、絶縁基板上で主に発熱する箇所であるパワー半導体チップを局所的に冷却できるので、絶縁基板の水平方向の面の温度分布が平坦となり、絶縁基板の熱応力の歪を少なくすることができる。
【0018】
前記電力変換装置において、前記樹脂製冷却器の噴出孔の位置に対応した前記応力緩和層の位置に貫通孔が形成されている、としてもよい。
【0019】
この構成によれば、応力緩和層の貫通孔を介して絶縁基板に対して冷却媒体を直接的に衝突させることが可能となり、発熱源であるパワー半導体チップの直下を効率良く冷却することができる。
【0020】
前記電力変換装置において、前記応力緩和層の熱膨張係数は、前記絶縁基板の熱膨張係数と、前記樹脂製冷却器の熱膨張係数との間の中間の値である、としてもよい。
【0021】
この構成によれば、パワー半導体チップが、自らが発する熱による温度変化や、使用環境の温度変化に曝される度に生じる熱応力を適切に緩和させることができる。
【0022】
前記電力変換装置において、前記応力緩和層の弾性率は、前記絶縁基板の弾性率と、前記樹脂製冷却器の弾性率との間の中間の値である、としてもよい。
【0023】
この構成によれば、パワー半導体チップが、自らが発する熱による温度変化や、使用環境の温度変化に曝される度に生じる熱応力を適切に緩和させることができる。
【0024】
前記電力変換装置において、前記絶縁基板上に接合されたキャパシタを更に備える、としてもよい。
【0025】
この構成によれば、キャパシタが、自らが発する熱による温度変化や、使用環境の温度変化に曝される度に生じる熱応力を適切に緩和させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、樹脂製冷却器を具備した電力変換装置の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1に係る電力変換装置の断面構造の一例を示した図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係る電力変換装置の断面構造の一例を示した図である。
【図3】本発明の実施の形態3に係る電力変換装置の断面構造の一例を示した図である。
【図4】本発明の実施の形態3における樹脂製冷却器の水平方向の断面図の一例を示した図である。
【図5】本発明の実施の形態3における応力緩和層の水平方向の断面図の一例を示した図である。
【図6】本発明の実施の形態3における応力緩和層の水平方向の断面図のその他の一例を示した図である。
【図7】本発明の実施の形態4に係る電力変換装置の断面構造の一例を示した図である。
【図8】本発明の実施の形態5に係る電力変換装置の断面構造の一例を示した図である。
【図9】一般的な電力変換装置の適用例としてモータ駆動システムのインバータの回路構成を示した図である。
【図10】従来の電力変換装置の構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0029】
また、説明の簡素化のために、以下の全ての実施の形態を通して、電力変換装置は図9に示したモータ駆動システムのインバータであるとする。しかしながら、電力変換装置の負荷は、三相の交流モータに何ら限定されるものではない。つまり電力変換装置は、モータ駆動システム以外の負荷駆動システムに用いられてもよい。また、電力変換装置はインバータの形態の他に、コンバータやマトリクスコンバータなどの形態であってもよい。さらに、以下に示す実施の形態や変形例は、単なる好適例に過ぎず、これらに限定されず、適宜好適に組み合わせることも可能である。さらに、以下の説明の中で参照される各図は、本発明が理解できる程度に構成要素の配置関係を概略的に示したに過ぎず、従って、本発明は各図に示された例に限定されるものではない。また、図を分かり易くするために、各図において周知な事項として一部省略した部分がある。また、以下の図では、説明の便宜上、図の上下方向を電力変換装置の上下方向としたが、電力変換装置自体には方向性はない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る電力変換装置の断面構造の一例を示した図である。
【0030】
図1に示す電力変換装置は、絶縁基板5と、絶縁基板5の一方の主面(表面)に形成された銅などを材料とする配線パターン4と、配線パターン4上に半田接合部3を介して実装されたパワー半導体チップ1と、絶縁基板5の他方の主面(裏面)側に設けられ、パワー半導体チップ1の発熱を冷却媒体8を介して持ち去って(吸収して)パワー半導体チップ1を冷却させる樹脂製冷却器7と、絶縁基板5の他方の主面と樹脂製冷却器7との間に設けられ、パワー半導体チップ1の発熱により生じた熱応力を緩和させる応力緩和層6と、を備える。樹脂製冷却器7は、冷却媒体8の入口及び出口が設けられた閉じた容器状となるように樹脂材料で形成されている。そして、樹脂製冷却器7の上面に接触して応力緩和層6が形成されている。つまり、応力緩和層6を除けば、パワー半導体チップ1が実装された絶縁基板5を含むパワー半導体モジュールの底面に冷却器が一体成形されており、当該パワー半導体モジュールの熱を冷却媒体の流れに直接接触させるようにした、所謂直接冷却型パワーモジュールの構造を呈している。冷却媒体8は、特に限定されないが、例えば水や圧縮空気が例示される。なお、冷却媒体8が水の場合には、所謂直接水冷型の構造となるように樹脂製冷却器7に対して水冷部材(ラジエータ、循環用ポンプ、冷却水タンク等)が具備される。一方、冷却媒体8が圧縮空気の場合には、所謂強制空冷型の構造となるように樹脂製冷却器7に対して空冷部材(圧縮機、ファン等)が具備される。
【0031】
樹脂製冷却器7の内部には、例えば、図1の矢印に沿った一方向に冷却媒体8が流れ続ける層流の経路が形成されており、モータ負荷駆動時のスイッチング動作によって発生するパワー半導体チップ1の熱を持ち去って(吸収して)当該パワー半導体チップ1を冷却することができる。例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車などでは、パワー半導体チップ1を冷却するため、電動ウォーターポンプにより冷却媒体8を循環させ、冷却媒体8に吸収された熱をラジエータにより大気に放熱するような動作が繰り返し行われる。
【0032】
以上の構造によれば、従来のアルミニウムや銅などを材料とする金属製冷却器と比べると、樹脂製冷却器7を採用したことに伴って電力変換装置の軽量化や小型化が可能となっている。但し、金属の熱伝導率(アルミニウム:222(W/mK)、銅:394(W/mK))に比べると、樹脂の熱伝導率は1(W/mK)以下と低く、パワー半導体チップ1から冷却媒体8までの熱抵抗が極端に高くなるため、図10に示すような従来の構造においてヒートシンク18を樹脂製冷却器7に単に置き換えただけでは、パワー半導体チップ1を効率良く冷却することはできない。
【0033】
そこで、本実施の形態では、パワー半導体チップ1から冷却媒体8への熱抵抗の低減化を図るために、図10に示すような銅を材料とするヒートスプレッダ15やシリコンを材料とする熱伝導グリース16を省略している。詳述すると、本実施の形態では、絶縁基板5の裏面に通常接合される、図10に示すような配線パターン4、半田接合部、ヒートスプレッダ15、熱伝導グリース16を省略している。その代わりに、絶縁基板5の裏面には、パワー半導体チップ1の発熱や使用環境の温度変化により生じた熱応力を緩和させる応力緩和層6が直接的に接合されている。これにより、パワー半導体チップ1から冷却媒体8への熱抵抗の低減化が図られ、冷却効率を向上することができる。
【0034】
パワー半導体チップ1がモータ負荷駆動時に自らが発する熱による温度変化や、使用環境の温度変化に曝される度に、パワー半導体チップ1に熱応力が発生し、その熱応力により電力変換装置の各材料が疲労し、やがて電力変換装置の各接合部の剥離、クラック発生、又は素子の破壊などが起こり得る。このため、電力変換装置の各接合部の熱膨張係数は互いにできるだけ近い値に設計される必要があるが、樹脂製冷却器7を採用した場合には、その熱膨張係数が金属の熱膨張係数とは大きく異なるため、パワー半導体チップ1において生じた熱応力がさらに大きくなり、装置全体の破損を招く恐れが生じる。
【0035】
そこで、絶縁基板5と樹脂製冷却器7との間に設けられる応力緩和層6の熱膨張係数は、絶縁基板5の熱膨張係数と、樹脂製冷却器7の熱膨張係数との中間の値に設計されている。これにより、パワー半導体チップ1において生じた熱応力を適切に緩和することができ、電力変換装置の信頼性を高め、その寿命を長くすることができる。
【0036】
また、応力緩和層6に求められる条件としては、熱膨張係数の他に、弾性率を挙げることができる。具体的には、応力緩和層6の弾性率は、絶縁基板5の弾性率と、樹脂製冷却器7の弾性率との間の中間の値に設計されている。これにより、上記の熱膨張係数の設計と同様に、熱応力を適切に緩和することが可能となる。なお、応力緩和層6の弾性率は、他の絶縁基板5や樹脂製冷却器7の弾性率よりも大きくしても、パワー半導体チップ1において生じた熱応力を緩和できる場合がある。
【0037】
上記のような熱膨張係数並びに弾性率の関係を実現するような、樹脂製冷却器7の樹脂材料、応力緩和層6の樹脂材料、及び絶縁基板5の材料の例を以下に挙げる。
【0038】
(a)樹脂製冷却器7の樹脂材料の例
・ポリフェニレンスルファイド(PPS;Polyphenylenesulfide)
熱伝導率:0.29(W/mK)
弾性率:3.96(GPa)
熱膨張係数:50.4(ppm/K)
・ポリブチレンテレフタレート(PBT;Polyethylene terephthalate)
熱伝導率:0.27(W/mK)
弾性率:2.4(GPa)
熱膨張係数:145(ppm/K)
・エポキシ(Epoxy)樹脂
熱伝導率:0.21(W/mK)
弾性率:3.0(GPa)
熱膨張係数:60(ppm/K)(参考値)
(b)応力緩和層6の樹脂材料の例
・PPS+ガラス繊維(GF;Glass Fiber)+無機フィラー(酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素)。「+」とは混合を意味する。
【0039】
弾性率:18.5(GPa)
熱膨張係数:18(ppm/K)
・PPS+GF
弾性率:12(GPa)
熱膨張係数:30(ppm/K)
・エポキシ樹脂+GF
熱膨張係数:11−35(ppm/K)(参考値)
(c)絶縁基板5の材料の例
・酸化アルミニウム
熱伝導率:20.9(W/mK)
弾性率:360(GPa)
熱膨張係数:7.1(ppm/K)
・窒化アルミニウム
熱伝導率:170(W/mK)
弾性率:310(GPa)
熱膨張係数:4.6(ppm/K)
・窒化珪素
熱伝導率:70(W/mK)
弾性率:310(GPa)
熱膨張係数:3.4(ppm/K)
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2に係る電力変換装置の断面構造の一例を示した図である。
【0040】
実施の形態2では、応力緩和層6から冷却媒体8への熱抵抗を下げるため、図2の矢印に沿う一方向に冷却媒体8を強制的に流す所謂強制対流方式のみならず、樹脂製冷却器7からパワー半導体チップ1に向かう垂直方向の噴流として、冷却媒体8を応力緩和層6に向けて直接的に噴出させる所謂衝突噴流方式を採用している。具体的には、樹脂製冷却器7は、上面が開放され、且つ冷却媒体の入口及び出口が設けられた容器状に形成されている。そして、この樹脂製冷却器7の開放された上面を塞ぐようにそして応力緩和層6が設けられている。
【0041】
樹脂製冷却器7の内部空間には、当該樹脂製冷却器7の高さ方向の中央部に仕切り部70が設けられ、仕切り部70において冷却媒体8を噴出するための噴出孔71が複数設けられている。なお、噴出孔71は、パワー半導体チップ1の下方に配置されるようにしている。これにより、冷却媒体8の流速を局所的に高めることで樹脂製冷却器7の内部を乱流状態とし、パワー半導体チップ1から冷却媒体8への熱抵抗を下げている。一般的に、層流よりも熱を拡散しやすい乱流的な流れの方が冷却効率が高いからである。この結果、樹脂の欠点である熱伝導率の低さを克服することが可能となる。
【0042】
また、図2の矢印に沿う一方向に冷却媒体8を流す強制対流方式だけでは、応力緩和層6上の絶縁基板5の面が均一に冷却されるので、絶縁基板5上で主に発熱する箇所であるパワー半導体チップ1の下方を集中的に冷却することができない。したがって、絶縁基板5の水平方向の面の温度分布が平坦とならず、絶縁基板5の熱応力による歪が生じ易くなる。これに対し、パワー半導体チップ1の下方(実装面側)に噴出孔71が配設されることによって、絶縁基板5上で主に発熱する個所であるパワー半導体チップ1の下方が局所的に冷却できるので、絶縁基板5の水平方向の温度分布が平坦となり、絶縁基板5の熱応力の歪を少なくすることができる。
(実施の形態3)
図3は、本発明の実施の形態3に係る電力変換装置の断面構造の一例を示した図である。応力緩和層6に貫通孔61が設けられている以外は、図2に示す断面構造と同じである。ここで、図3における噴出孔71付近の樹脂製冷却器7の水平方向のA−A’線断面図の一例を図4に示す。また、図3における応力緩和層6の水平方向のB−B’線断面図の一例を図5に示す。
【0043】
まず、図4に示す樹脂製冷却器7のA−A’線断面図において、IGBTチップの位置(投影図)を10と表し、FWDチップの位置(投影図)を11と表すものとする。ここで、図4は3相インバータの場合におけるチップレイアウトを表している。3相インバータの場合、IGBTチップ及びFWDチップがそれぞれ少なくとも6個必要であり、図4のチップレイアウトによれば、IGBTチップ及びFWDチップのペアが2×3の配列となるように配置されている。また、図4のチップレイアウトによれば、冷却媒体8を噴出するため噴出孔71は、IGBTチップ及びFWDチップの直下に設けられており、また、チップ1個あたり計4個の噴出孔71が設けられている。つまり、噴出孔71の個数は計48個である。
【0044】
つぎに、図5に示す応力緩和層6のB−B’線の断面図において、図4と同様に、IGBTチップの位置(投影図)を10と表し、FWDチップの位置(投影図)を11と表すものとする。図5のチップレイアウトによれば、樹脂製冷却器7の噴出孔71の位置に対応した応力緩和層6の位置に貫通孔61が形成されている。つまり、樹脂製冷却器7の噴出孔71と応力緩和層6の貫通孔61とは一対一に対応付られており、貫通孔61の個数は計48個である。
【0045】
以上のような構成を採用することで、樹脂製冷却器7の高さ方向で下方位置に設けられたパイプ(入口)から冷却媒体8が樹脂製冷却器7の内部に流れ込み、計48個の噴出孔71を通過した後、応力緩和層6に設けられた計48個の貫通孔61へと流れ込むこととなる。この結果、絶縁基板5に対して冷却媒体8を直接的に衝突させることが可能となり、絶縁基板5上で主に発熱する箇所であるIGBTチップやFWDチップを局所的に冷却できるため、絶縁基板5の水平方向の温度分布が平坦となり、絶縁基板5の熱応力の歪が少なくなる。
【0046】
また、応力緩和層6において局所的に貫通孔61が設けられることで、パワー半導体チップ1から樹脂製冷却器7までの熱抵抗が下げられて、装置全体の放熱性能を向上させることができる。
【0047】
また、応力緩和層6において貫通孔61が設けられることで、弾性率の条件を緩和することが可能となり、応力緩和層6の応力設計の自由度が向上する。
【0048】
また、応力緩和層6が設けられない従来の構成と比較して、応力緩和層6の材料設計と形状の最適化によって、熱性能は維持しつつ、はがれ発生の危険性を低下させるとともに、電力変換装置の信頼性の要件を満たすことが可能となる。
【0049】
また、窒化アルミニウムなどの絶縁基板5としては、一般的に、低コスト化かつ熱抵抗を下げる目的のため、1mm以下の薄い基板が使用されている。そこで、薄い絶縁基板5の裏面に応力緩和層6を接合させることで、絶縁基板5の強度を上げることができる。
【0050】
図6は、図3における応力緩和層6の水平方向のB−B’線断面図のその他の一例を示した図である。図5のチップレイアウトと相違する点は、応力緩和層6におけるIGBTチップ及びFWDチップの位置に対応する個所に、IGBTチップ及びFWDチップの数に相当する数だけ貫通孔62が設けられている点である。つまり、図5のチップレイアウトのように、樹脂製冷却器7の噴出孔71と応力緩和層6の貫通孔62とが一対一に対応付られるのではなく、応力緩和層6の貫通孔62とIGBTチップ及びFWDチップとが一対一に対応付られており、この場合、貫通孔62の個数は計12個である。以上の構成によっても、図5のチップレイアウトと同様の効果を奏することとなる。
【0051】
また、図5では応力緩和層6に円形状の貫通孔61が形成され、図6では応力緩和層6に四角形状の貫通孔62が形成されているが、応力緩和層6に設けられる貫通孔の形状は、応力緩和層6の材料設計と形状最適化によって、熱性能を維持しつつ、はがれ発生の危険性を低下させて、信頼性の要件を満たすことが可能であれば、これらの形状に限定されない。
(実施の形態4)
図7は、本発明の実施の形態4に係る電力変換装置の断面構造の一例を示した図である。図7に示す電力変換装置は、図2の電力変換装置の構造における絶縁基板5上に平滑用キャパシタ2を実装したものである。
【0052】
モータ負荷駆動時のインバータのスイッチング動作によって、平滑用キャパシタ2に電流が流れ、平滑用キャパシタ2の持つ抵抗成分において発熱が生じる。平滑用キャパシタ2は自らが発する熱による温度変化あるいは使用環境の温度変化に曝される度に、平滑用キャパシタ2には熱応力が発生し、その熱応力により各材料が疲労し、ひいては各接合部の剥離、クラック発生、又は素子の破壊などが起こり得る。
【0053】
なお、平滑用キャパシタ2を冷却する方式としては、電力変換装置内部の空気を利用した自然空冷が一般的である。但し、電力変換装置に占める平滑用キャパシタ2の体積割合が高いため、上記の実施の形態を採用することで冷却効率を上げ、これにより平滑用キャパシタ2の小型化を図るようにした。
【0054】
具体的には、図2の電力変換装置の構造における絶縁基板5上に平滑用キャパシタ2が実装される。したがって、パワー半導体チップ1と同様に、平滑用キャパシタ2が発熱することにより生じる熱応力を、絶縁基板5と樹脂製冷却器7との間に設けられた応力緩和層6によって緩和できる。なお、応力緩和層6の熱膨張係数や弾性率の条件は上記のとおりである。
【0055】
さらに、平滑用キャパシタ2の下方に樹脂製冷却器7の噴出孔71が配置されることで、絶縁基板5上でパワー半導体チップ1とともに主に発熱する箇所である平滑用キャパシタ2を局所的に冷却できるため、絶縁基板5の水平方向の面の温度分布が平坦となるため、絶縁基板5の熱応力の歪を少なくすることができる。
【0056】
なお、図7に示す電力変換装置の構造の他に、図3に示す電力変換装置の構造と同様に、平滑用キャパシタ2の下方であり、かつ樹脂製冷却器7の噴出孔71の位置に対応した応力緩和層6の位置に貫通孔61が形成されてもよい。これにより、絶縁基板5に対して冷却媒体8を直接的に衝突させることが可能となり、パワー半導体チップ1とともに絶縁基板5上の主な発熱箇所である平滑用キャパシタ2の直下を効率良く冷却することができる。また、図5に示す円形状の貫通孔61の他に、図6に示す四角形状の貫通孔62を採用してもよい。
(実施の形態5)
図8は、本発明の実施の形態5に係る電力変換装置の断面構成の一例を示した図である。図7の電力変換装置の構造と相違する点は、平滑用キャパシタ2を樹脂製冷却器7と同じ樹脂材料の樹脂で被覆された状態で実装した点と、絶縁基板5と樹脂製冷却器7とを接合させる部分のみに応力緩和層6が設けられた点とである。このような構造によっても、パワー半導体チップ1及び平滑用キャパシタ2において生じる熱応力が和らぎ、電力変換装置の信頼性を高め、その寿命を長くすることができる。
【0057】
また、パワー半導体チップ1内に集積化されたパワー半導体素子が高速のスイッチング動作を繰り返しているため、パワー半導体素子が電気的に繋がっている高電位側電源部とグランドとの間の浮遊容量を介して、ノイズ電流が流れる。金属製冷却器を採用した場合は、通常、金属製冷却器の電位はグランド電位と同電位となるため、高電位側電源部と金属製冷却器との間の浮遊容量を介してノイズ電流が流れる。一方、樹脂製冷却器を採用した場合は、高電位側電源部とグランドに相当する電位と間を物理的に離したことと同じ意味となるため、浮遊容量が低減されてノイズ電流が減り、電力変換装置の信頼性をさらに高める効果も奏する。
【0058】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施の形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、樹脂製冷却器を具備した電力変換装置として有用である。
【符号の説明】
【0060】
1・・・パワー半導体チップ
2・・・平滑用キャパシタ
3・・・半田接合部
4・・・配線パターン
5・・・絶縁基板
6・・・応力緩和層
61・・・貫通孔
7・・・樹脂製冷却器
70・・・仕切り部
71・・・噴出孔
8,17・・・冷却媒体
10・・・IGBTチップ
11・・・FWDチップ
18・・・ヒートシンク
21・・・パワー半導体モジュール
22・・・直流電源
23・・・モータ負荷
Q1〜Q6・・・IGBTチップ
D1〜D6・・・FWDチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板の一方の主面に形成された配線パターンと、
前記配線パターン上に接合されたパワー半導体チップと、
前記絶縁基板の他方の主面側に設けられ、前記パワー半導体チップが発生する熱を冷却媒体により持ち去るようにして該パワー半導体チップを冷却する樹脂製冷却器と、
前記絶縁基板の他方の主面と前記樹脂製冷却器との間に設けられ、前記パワー半導体チップの発熱により該パワー半導体チップに生じる熱応力を緩和する応力緩和層と、
を備える電力変換装置。
【請求項2】
前記樹脂製冷却器は、上面が開放され、且つ前記冷却媒体の入口及び出口が設けられた容器状に形成され、
前記応力緩和層は、前記樹脂製冷却器の開放された上面を塞ぐように設けられ、且つ
前記樹脂製冷却器の内部空間には、前記応力緩和層に向けて前記冷却媒体を噴出する噴出孔が設けられ、当該噴出孔は、前記パワー半導体チップの下方に配置されている、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記樹脂製冷却器の噴出孔の位置に対応した前記応力緩和層の位置に貫通孔が形成されている、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記応力緩和層の熱膨張係数は、前記絶縁基板の熱膨張係数と、前記樹脂製冷却器の熱膨張係数との間の中間の値である、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記応力緩和層の弾性率は、前記絶縁基板の弾性率と、前記樹脂製冷却器の弾性率との間の中間の値である、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記絶縁基板上に接合されたキャパシタを更に備える、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電力変換装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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