説明

電動ディスクブレーキ

【課題】電動ディスクブレーキにおいて、回転−直動変換機構の後退端におけるセルフロックを防止する。
【解決手段】電動モータ39のロータ48の回転を減速機構20によって減速してボールランプ機構19を駆動し、ブレーキパッド4、5をディスクロータ2に押圧して制動力を発生させる。ブレーキパッド3、4の交換時等において、ロータ48を逆回転させると、差動減速機構20によって調整スクリュ16が回転し、雄ねじ17と雌ねじ18との螺合によって調整スクリュ16が後退する。調整スクリュ16は、後退端に達すると、当接部57がモータケース44に形成されたストッパ部に回転方向で当接して停止する。このとき、雄ねじ17及び雌ねじ18には、軸力が生じないのでセルフロックを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータによってブレーキパッドをディスクロータに押圧して制動力を発生させる電動ディスクブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動ディスクブレーキとして、電動モータのロータの回転運動をボールねじ機構、ボールランプ機構等の回転−直動変換機構を用いてピストンの直線運動に変換し、ブレーキパッドをディスクロータに押圧することにより、制動力を発生させるものが知られている。電動ディスクブレーキは、運転者のブレーキペダル踏力(又は変位量)をセンサによって検出し、制御装置によって、この検出値に基づいて電動モータの回転を制御することより、所望の制動力を発生させる。
【0003】
このような回転−直動変換機構を有する電動ディスクブレーキでは、ブレーキパッドの交換、ピストン位置のキャリブレーション等の目的のため、回転アクチュエータを作動させてピストンを後退端まで後退させる必要がある場合がある。このとき、後退端において、回転−直動変換機構の直線運動が妨げられると、ねじ部等の回転−直動変換部に軸力が作用して、回転−直動変換機構がセルフロックすることがある。
【0004】
そこで、例えば特許文献1に記載された電動ディスクブレーキでは、ピストンの推力を検出する推力センサを用いて、ピストンの後退端付近で回転−直動変換機構に生じる軸力を検出して、セルフロックが生じる前に電動モータの作動を停止するようにしている。
【特許文献1】特開2005−226752号公報
【0005】
しかしながら、上述のピストンの推力センサを用いてセルフロックを防止する技術は、推力センサを備えていない電動ディスクブレーキに適用する場合には、別途、推力センサを追加する必要があり、製造コスト及び推力センサの装着スペースの点で問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、回転−直動変換機構の後退端における過度の後退を防止することができる電動ディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、キャリパ本体に設けられた電動モータのロータの回転を回転−直動変換機構によって直線運動に変換してブレーキパッドを移動させる電動ディスクブレーキにおいて、
前記回転−直動変換機構は、前記ロータによって回転する回転部材と、前記回転部の回転によって該回転部材に対して直線運動する非回転部材とを有し、前記回転部材に当接部が設けられ、該当接部に対向するストッパ部が前記キャリパ本体側に固定され、前記回転部材がその回転によって所定の後退端まで移動したとき、前記当接部が前記回転部材の回転方向で前記ストッパ部に当接して前記回転部材の回転を阻止することを特徴とする。
請求項2の発明に係る電動ディスクブレーキは、上記請求項1の構成において、前記非回転部材は、前記キャリパ本体に一体的に固定され、前記ストッパ部は、前記非回転部材とは別の部材を介して前記キャリパ本体に固定されていることを特徴とする。
請求項3の発明に係る電動ディスクブレーキは、上記請求項2の構成において、前記ストッパ部材は、前記回転部材の後退方向に配置された前記電動モータに固定されていることを特徴とする。
請求項4の発明に係る電動ディスクブレーキは、上記請求項3の構成において、前記電動モータは、前記ロータ及びステータを覆うモータケースを備え、前記ストッパ部は、前記モータケースに形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明に係る電動ディスクブレーキによれば、回転−直動変換機構の回転部材が後退位置に達したとき、回転部材は、当接部がその回転方向でストッパ部に当接して回転が阻止されるので、過度の後退を防止することができ、また、軸力が発生して回転−直動変換機構がセルフロックするのを防止することができる。
請求項2の発明に係る電動ディスクブレーキによれば、ストッパ部をキャリパ本体に固定する非回転部材とは別の部材をキャリパ本体に取付ける前は、回転部材の移動が規制されないので、回転部材のキャリパ本体への組込みの自由度を高めることができる。
請求項3の発明に係る電動ディスクブレーキによれば、電動モータをキャリパ本体に取付ける前は、回転部材の移動が規制されないので、回転部材のキャリパ本体への組込みの自由度を高めることができる。
請求項4の発明に係る電動ディスクブレーキによれば、電動モータをキャリパ本体に取付けることにより、ストッパ部をキャリパ本体に固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の第1実施形態について、図1乃至図5を参照して説明する。図1及び図2に示すように、本実施形態に係る電動ディスクブレーキ1は、キャリパ浮動型ディスクブレーキであって、車輪と共に回転するディスクロータ2と、サスペンション部材等の車体側の非回転部分(図示せず)に固定されるキャリア3と、ディスクロータ2の両側に配置されてキャリア3によって支持される一対のブレーキパッド4、5と、ディスクロータ2を跨ぐように配置されて一対のスライドピン(図示せず)によってキャリア3に対してディスクロータ2の軸方向に沿って移動可能に支持された電動キャリパ7とを備えている。そして、電動キャリパ7は、キャリパ本体8と、ピストンユニット9と、モータ/制御装置ユニット10とで構成されている。
【0010】
キャリパ本体8には、一端がディスクロータ2の一側に対向して開口する貫通穴からなる円筒状のシリンダ部11と、シリンダ部11からディスクロータ2を跨いで反対側へ延びる爪部12と、シリンダ部11からほぼ直径方向に延びて一対のスライドピンがそれぞれ取付けられる一対のボス部13とが一体に形成されている。シリンダ部11の内周面には、ピストンユニット9のピストン14が摺動可能に嵌合される案内ボア15と、ピストンユニット9に取付けられた調整スクリュ16の雄ねじ17が螺合される雌ねじ18とが形成されている。
【0011】
ピストンユニット9は、有底円筒状のピストン14と、ピストン14の内部に収容されたボールランプ機構19(回転−直動変換機構)及び差動減速機構20と、パッド摩耗追従機構21とを一体化したものである。ピストン14は、キャリパ本体8の案内ボア15に摺動可能に嵌合されて一方のブレーキパッド5に当接し、ピン5Aによって回り止めされている。ピストン14と案内ボア15との間は、ダストシール22及びシールリング23によってシールされている。
【0012】
ボールランプ機構19は、ピストン14の底面に対して、固定された直動ディスク24と、回転及び軸方向に移動可能な回転ディスク25と、これらの互いの対向面に形成されたボール溝26、27(傾斜溝)間に装入されたボール28(転動体)とを備えている。回転ディスク25は、ばね29によって直動ディスク24側へ常時付勢されている。そして、直動ディスク24と回転ディスク25とを相対回転させると、傾斜されたボール溝26、27間でボール28が転動することにより、直動ディスク24と回転ディスク25とが回転角度に応じて軸方向に相対移動する。これにより、回転運動を直線運動に変換することができる。
【0013】
差動減速機構20は、回転軸30と、回転軸30の偏心部31にベアリング31A、31Bによって回転可能に嵌合されて2つの外歯32A、32Bを有するリング状の外歯車部材32と、ボールランプ機構19の回転ディスク25に形成されて外歯車部材32の一方の外歯32Aに噛合う内歯33と、回転軸30の回転軸に対してベアリング35Aによって回転可能に支持されて外歯車部材32の他方の外歯32Bに噛合う内歯34を有する回転ディスク35とを備えている。回転軸30の一端部には、回転ディスク25がベアリング25Aによって回転可能に支持されている。回転軸30の他端部は、モータ/制御装置ユニット10内へ延ばされて、その先端部に外側スプライン36が形成されている。
【0014】
回転ディスク35は、一端部がボールスラストベアリング37を介して回転ディスク25の端部に当接しており、ばね29によって回転ディスク25に押付けられて回転ディスク25を直動ディスク24側へ付勢している。外歯32Aと内歯33とが互いに噛合う外歯車部材32と回転ディスク25との中心距離及び外歯32Bと内歯34とが互いに噛合う外歯車部材32と回転ディスク35との中心距離は、1つの回転軸30によって決定されるので、これらの位置決め精度を高めることができる。また、これらの歯車の噛合いによる反力により、回転ディスク25及び回転ディスク35に対して横力が加わるが、ばね29の付勢力及び回転ディスク25に伝達されるブレーキパッド5からの反力によって回転ディスク25及び回転ディスク35の倒れを防止すると共に、がたつきを解消して振動及び騒音の発生を防止することができる。
【0015】
そして、回転軸30を回転させて外歯車部材32を公転させることにより、外歯車部材32の外歯32Aに噛合う内歯33を有する回転ディスク25と外歯32Bに噛合う内歯34を有する回転ディスク35とが差動回転し、これらの一方を固定することによって他方を所定の減速比で減速して回転させることができる。なお、差動減速機構20の外歯32Aと外歯33Aの歯数を同数にすることにより、外歯32Aと外歯33Aとを一体として機械加工することができ、製造コストを低減することができる。
【0016】
パッド摩耗追従機構21は、ボールランプ機構19の直動ディスク24と回転ディスク25との間に装着されたリミッタ38と、差動減速機構20の回転ディスク35に結合された調整スクリュ16と、回転ディスク35に結合されたカップ38Bと、ピストン14とカップ38Bとの間に介装されたウエーブワッシャ38Aとを備えている。リミッタ38は、捻りばねによって直動ディスク24と回転ディスク25との間に一定の遊びをもって戻し方向に付勢力を付与するものである。調整スクリュ16は、外周部に雄ねじ17(台形ねじ)が形成され、この雄ねじ17がキャリパ本体8のシリンダ部11に形成された雌ねじ18(台形ねじ)に螺合されている。これにより、差動減速機構20を構成する回転ディスク35のシリンダ部11への連結は、パッド摩耗追従機構21の調整スクリュ16と兼用することができ、部品点数及び加工部の削減が可能になる。調整スクリュ16は、ウエーブワッシャ38Aによって一定の保持力をもって回転しないように保持されており、この保持力に抗して回転させることにより、雄ねじ17及び雌ねじ18の相対回転によって軸方向に移動させることができる。すなわち、調整スクリュ16(回転部材)の雄ねじ17及びシリンダ部(非回転部材)の雌ねじ18の螺合によって回転−直動変換機構が構成されている。また、調整スクリュ16は、回転ディスク25からの反力をスラストベアリング37及び回転ディスク35を介して受けて、雄ねじ17及び雌ねじ18を介してキャリパ本体8へ伝達する。
【0017】
モータ/制御装置ユニット10は、電動モータ39と、電動モータ39の回転位置を検出するレゾルバ40と、電動モータ39の回転位置を固定するための駐車ブレーキ機構41と、電動モータ39の駆動を制御するための駆動制御装置42とをベースプレート43によって一体化したものである。
【0018】
電動モータ39は、キャリパ本体8の端部に結合されるアルミ製のベースプレート43の一面43A側に取付けられてピストンユニット9の調整スクリュ16に挿入される鉄系素材により構成され有底円筒状のモータケース44を備え、モータケース44の内周部にコイル等からなるモータステータ45が固定されている。モータケース44は、略有底円筒状のモータケース本体44Aとその開口を閉じるモータケース蓋44Bとを含み、モータケース本体44Aの底部及びモータケース蓋44Bの中央部の開口部に軸受46、47が取付けられ、これらの軸受46、47によって円筒状のモータロータ48が回転可能に支持されている。モータケース44は、キャリパ本体8のシリンダ部11の内周に当接して径方向に支持されている。ロータ48の内周部には、ピストンユニット9の回転軸30の外側スプライン36に係合する内側スプライン49が形成されており、ロータ48と回転軸30との間で回転力を伝達するとともに、これらが軸方向に相対移動できるようになっている。なお、上記ロータ48がモータステータ45に対して軸方向に移動可能となっていれば、ロータ48と回転軸30とを一体に形成してもよい。
【0019】
レゾルバ40は、ベースプレート43の電動モータ39とは反対側の他面43B側に固定されたレゾルバステータ50と、レゾルバステータ50に対向させてベースプレート43に挿通されたロータ48の先端部に取付けられたレゾルバロータ51とを備えている。そして、レゾルバ40は、これらの相対回転によってロータ48の回転速度及び回転位置を表す電気信号を出力するようになっている。
駐車ブレーキ機構41は、電動アクチュエータによってロック機構52を作動させてロータ48の回転をロックするものである。
【0020】
駆動制御装置42は、ベースプレート43の電動モータ39とは反対側に取付けられた基盤上に実装された制御回路で電動モータ39とは配線45Aにより結線され、レゾルバ40とは配線50Aにより結線されており、運転者によるブレーキペダルの操作、あるいは、トラクション制御、車両安定化制御等の自動ブレーキ制御を実行するために車体側に搭載された車載コントローラ(図示せず)から指令された制動力信号及びレゾルバ40からの回転位置信号に基づいて電動モータ39に駆動信号を供給して電動モータ39の回転を制御する。ベースプレート43には、レゾルバ40及び駆動制御装置42を覆うカバー53が取付けられている。
【0021】
次に、電動モータ39の回転による調整スクリュ16の後退端を規定するストッパ機構54について、図3乃至図5を参照して説明する。
【0022】
図3に示すように、電動モータ39の略有底円筒状のモータケース本体44Aの側壁は、底部側の小径部55及び開口部側の大径部56を有する段付形状であり、小径部55が調整スクリュ16内に挿入され、大径部56は調整スクリュ16の雄ねじ17よりも大径で、大径部56の小径部55側の端面が調整スクリュ16の雄ねじ17側の端部に対向している。調整スクリュ16の雄ねじ17側の端部には、円周方向に延びる円弧状の当接部57が軸方向に突出されており、当接部57の円周方向の端部に円周方向に直交する当接面57Aが形成されている。モータケース本体44Aには、大径部56の小径部55側の端面から調整スクリュ16の雄ねじ17側の端面に対向して突出する略円弧状のストッパ部58が形成されている。ストッパ部58の円周方向の端部に円周方向に直交するストッパ面58Aが形成されている。モータケース本体44Aの側壁には、小径部55から大径部56にかけて切欠かれた開口部59が形成されており、開口部59によってストッパ部58の端部が切取られて、その切断面によってストッパ面58Aが形成されている。そして、調整スクリュ16が回転して、その雄ねじ17とシリンダ部11側の雌ねじ18との螺合によって軸方向に移動して、その後退端まで達したとき、調整スクリュ16の当接部57の当接面57Aがモータケース本体44Aのストッパ部58のストッパ面58Aに調整スクリュ16の回転方向で当接して、調整スクリュ16の回転を阻止するようになっている。
【0023】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
制動時には、車載コントローラは、運転者のブレーキペダル踏力(または変位量)をブレーキぺダルセンサによって検出し、この検出値に基づいて、各車輪の電動ディスクブレーキ1の駆動制御装置42へ制動力信号を送信する。駆動制御装置42は、車載コントローラからの制動力信号に基づいて電動モータ39に駆動電圧を出力して、ロータ48を所望のトルクで所望の回転角だけ回転させる。ロータ48の回転は、差動減速機構20によって所定の減速比で減速され、ボールランプ機構19によって直線運動に変換されて、ピストン14を前進させる。ピストン14の前進によって、一方のブレーキパッド5がディスクロータ2に押圧され、その反力によってキャリパ本体8がキャリア3のスライドピンに沿って移動して、爪部12が他方のブレーキパッド4をディスクロータ2に押圧する。また、制動解除時には、ロータ48を逆回転させることによってピストン14を後退させて、ブレーキパッド4、5をディスクロータ2から離間させる。
【0024】
そして、車載コントローラによって、各種センサを用いて、各車輪の回転速度、車両速度、車両加速度、操舵角および車両横加速度等の車両状態を検出し、これらの検出に基づいて電動モータ39の回転を制御することにより、倍力制御、アンチロック制御、トラクション制御および車両姿勢安定化制御等を実行することができる。
【0025】
次に、差動減速機構20及びパッド摩耗追従機構21の作用について説明する。
制動時にロータ48によって回転軸30が回転すると、偏心部31の偏心回転によって外歯車部材32が公転して、外歯車部材32の外歯32A、32Bに噛合った回転ディスク25と回転ディスク35とが差動回転する。このとき、通常は、ウエーブワッシャ38Aによって調整スクリュ16と共に回転ディスク35の回転が固定され、一方、回転ディスク25は、リミッタ38の遊びの範囲で自由に回転することができるので、回転ディスク25のみが回転する。これにより、ボールランプ機構19がピストン14を前進させてブレーキパッド4、5をディスクロータ2に押圧する。ブレーキパッド4、5がディクスロータ2の押圧を開始した後は、その反力が雄ねじ17及び雌ねじ18に作用することにより、これらの間の摩擦力が増大して調整スクリュ16すなわち回転ディスク35の回転が確実にロックされる。したがって、回転ディスク25はリミッタ38のばね力に抗して回転することができる。
【0026】
ブレーキパッド4、5が摩耗して、回転ディスク25がリミッタ38の遊びの範囲を超えてもディスクロータ2を押圧しない場合、回転ディスク25にリミッタ38のばね力が作用して、回転ディスク25が固定され、調整スクリュ16が回転ディスク35と共にウエーブワッシャ38Aの保持力に抗して回転する。これにより、調整スクリュ16が雄ねじ17及び雌ねじ18の相対回転によって前進してピストンユニット9を前進させる。ブレーキパッド4、5がその摩耗分だけ前進してディスクロータ2の押圧を開始すると、前述したように、その反力によって雄ねじ17及び雌ねじ18の摩擦力が増大して調整スクリュ16の回転がロックされる。その後は、回転ディスク25がリミッタ38のばね力に抗して回転して、ボールランプ機構19によってピストン14が前進する。このようにして、ブレーキパッド4、5が摩耗した分だけ調整スクリュ16によってピストンユニット9を前進させることができ、ブレーキパッド4、5の摩耗を補償することができる。
【0027】
次に、ブレーキパッド4、5の交換時等において、ピストン14を後退端まで移動させる場合について説明する。上述の制動解除時と同様、駆動制御装置42によって電動モータ39に駆動電圧を出力してロータ48を回転させると、ボールランプ機構19の回転ディスク25が原位置まで戻り、それ以上回転できなくなる。このため、作動減速機構20の差動回転によって調整スクリュ16がウエーブワッシャ38Aの保持力に抗して後退方向に回転してピストン14を更に後退させる。そして、調整スクリュ16がその後退端に達すると、図5に示すように、調整スクリュ16の当接部57の当接面57Aがモータケース本体44Aのストッパ部58のストッパ面58Aに当接して、調整スクリュ16の回転が停止する。このとき、当接部57が調整スクリュ16の回転方向でストッパ部58に当接によって調整スクリュ16の回転を阻止するので、調整スクリュ16がその後退端に達したとき、雄ねじ17と雌ねじ18との間で軸力が発生することがなく、雄ねじ17及び雌ねじ18のセルフロックを防止することができる。
【0028】
ストッパ部58が電動モータ39のモータケース本体44Aに形成されているため、電動モータ39をキャリパ本体8に取付ける前には、調整スクリュ16を含むピストンユニット9をキャリパ本体8のシリンダ部11に爪部12の反対側から挿入することができるので、キャリパ本体8にピストンユニット9を挿入した後、モータ/制御ユニット10を組付けることによって電動キャリパ7を容易に組立てることができる。また、ピストンユニット9をキャリパ本体8に組付けるための切欠を爪部12に設ける必要がないので、切欠によって爪部12の剛性が低下することがない。
【0029】
なお、上記第1実施形態では、差動減速機構として一般的なインボリュート歯車を用いるものについて説明しているが、同様にして、サイクロイド溝とボールを利用する減速機構、サイクロイド歯車とピンを利用する減速機構等の他の公知の差動減速機構を用いることもできる。
【0030】
次に、本発明の第2実施形態について図6を参照して説明する。なお、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同一の符号を付して異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0031】
図6に示すように、第2実施形態に係る電動ディスクブレーキ60では、回転−直動変換機構として、ボールランプ機構19の代りにボールねじ機構61が用いられており、パッド摩耗追従機構21が省略されている。そして、回転ディスク25の代りに、固定ディスク62が設けられ、固定ディスク62は、ピストン14の底部まで延ばされてピストン14に固定されている。
【0032】
ボールねじ機構61は、調整スクリュ16の代りに設けられた回転直動部材63(回転部材)と、シリンダ部11の内周面に雌ねじ18の代わりに設けられたボール溝64(非回転部材)と、回転直動部材63の外周面に形成された螺旋状のボール溝65と、これらのボール溝64、65間に装填された複数のボール66(転動体)と、これらのボール66をボール溝64、65間を通して循環させるための循環通路(図示せず)とを備えている。
【0033】
これにより、作動減速機構20では、ロータ48によって回転軸30を回転させて、偏心軸31によって外歯車部材32を公転させると、固定ディスク62が回転方向に固定されているので、回転ディスク35が所定の減速比で回転することになる。したがって、電動モータ39のロータ48を回転させると、回転直動部材63は、差動減速機構20によって減速回転して、ボールねじ機構61によって軸方向に移動する。回転直動部材63の軸方向の移動は、回転ディスク35、外歯車部材32、スラストベアリング37及び固定ディスク62を介してピストン14に伝達されて、ブレーキパッド4、5をディスクロータ2に押圧し、また、ディスクロータ2から後退させる。
【0034】
この場合、ボールねじ機構61は、ボールランプ機構19に比して直線運動のストロークが充分大きく、回転直動部材63がブレーキパッド4、5の摩耗に追従することができるので、パッド摩耗追従機構21を設ける必要はない。
【0035】
電動ディスクブレーキ60には、上記第1実施形態と同様、電動モータ39の回転による回転直動部材63の後退端を規定するストッパ機構54を備えており、回転直動部材63には、調整スクリュ16と同様、当接面57Aを形成する当接部57が設けられている。これにより、回転直動部材63がその後退端まで後退すると、当接部57の当接面57Aがモータケース本体44Aのストッパ部58のストッパ面58Aに当接することにより、回転直動部材63の回転が停止し、その後退が規制されて、回転直動部材63の過度の後退を防止することができる。
【0036】
なお、上記第1実施形態において、ボールランプ機構の代りにローラランプ機構を用いることができ、また、第2実施形態において、ボールねじ機構の代りにローラねじ機構を用いることができ、更に、これらの代りに他の公知の回転−直動変換機構を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電動ディスクブレーキを示す縦断面図である。
【図2】図1の電動ディスクブレーキの正面図である。
【図3】図1の電動ディスクブレーキのストッパ機構を示すピストンユニット及び電動モータの分解斜視図である。
【図4】図1の電動ディスクブレーキのA−A線による縦断面図において、ストッパ機構の当接部とストッパ部とが当接していない状態を示す図である。
【図5】図1の電動ディスクブレーキのA−A線による縦断面図において、ストッパ機構の当接部とストッパ部とが当接した状態を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る電動ディスクブレーキを示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 電動ディスクブレーキ、2 ディスクロータ、4、5 ブレーキパッド、11 シリンダ部(非回転部材)、8 キャリパ本体、16 調整スクリュ(回転部材)、19 ボールランプ機構(回転−直動変換機構)、39 電動モータ、44 モータケース、57 当接部、58 ストッパ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリパ本体に設けられた電動モータのロータの回転を回転−直動変換機構によって直線運動に変換してブレーキパッドを移動させる電動ディスクブレーキにおいて、
前記回転−直動変換機構は、前記ロータによって回転する回転部材と、前記回転部の回転によって該回転部材に対して直線運動する非回転部材とを有し、前記回転部材に当接部が設けられ、該当接部に対向するストッパ部が前記キャリパ本体側に固定され、前記回転部材がその回転によって所定の後退端まで移動したとき、前記当接部が前記回転部材の回転方向で前記ストッパ部に当接して前記回転部材の回転を阻止することを特徴とする電動ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記非回転部材は、前記キャリパ本体に一体的に固定され、前記ストッパ部は、前記非回転部材とは別の部材を介して前記キャリパ本体に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の電動ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記ストッパ部材は、前記回転部材の後退方向に配置された前記電動モータに固定されていることを特徴とする請求項2に記載の電動ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記電動モータは、前記ロータ及びステータを覆うモータケースを備え、前記ストッパ部は、前記モータケースに形成されていることを特徴とする請求項3に記載の電動ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−157378(P2008−157378A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347954(P2006−347954)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】