電動ディスクブレーキ
【課題】ブレーキパッドの熱収縮に起因する押付け力の低下を、あまりピストンの推力を上げずに機械的に補填できるようにする。
【解決手段】モータの回転を直線運動に変換してピストンに伝達する回転−直動変換機構とモータの制動解除方向への回転をロック・アンロック可能な駐車ブレーキ機構とを備えた電動ディスクブレーキにおいて、前記モータと前記回転−直動変換機構との間に遊星歯車減速機構を設け、該減速機構のインターナルギヤ55の外周に、キャリパ本体10に設けた移動路59の範囲内で移動可能な突片56を形成し、通常ブレーキ時には、突片56に係合するギヤレバー64によってインターナルギヤ55を位置固定し、駐車ブレーキ時には、ギヤレバー64を離脱させてインターナルギヤ55を回転させ、突片56に連結したトーションばね60にピストン推進方向の力を蓄えて、該トーションばね60にブレーキパッドの熱収縮分の変位を補填させる。
【解決手段】モータの回転を直線運動に変換してピストンに伝達する回転−直動変換機構とモータの制動解除方向への回転をロック・アンロック可能な駐車ブレーキ機構とを備えた電動ディスクブレーキにおいて、前記モータと前記回転−直動変換機構との間に遊星歯車減速機構を設け、該減速機構のインターナルギヤ55の外周に、キャリパ本体10に設けた移動路59の範囲内で移動可能な突片56を形成し、通常ブレーキ時には、突片56に係合するギヤレバー64によってインターナルギヤ55を位置固定し、駐車ブレーキ時には、ギヤレバー64を離脱させてインターナルギヤ55を回転させ、突片56に連結したトーションばね60にピストン推進方向の力を蓄えて、該トーションばね60にブレーキパッドの熱収縮分の変位を補填させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータのトルクによって制動力を発生する電動ディスクブレーキに係り、特に駐車ブレーキ機能を付加した駐車ブレーキ付き電動ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
駐車ブレーキ付き電動ディスクブレーキとしては、ブレーキパッドを押圧するピストンと、モータと、該モータの回転を直線運動に変換して前記ピストンに伝達する回転−直動変換機構と、前記モータのロータの制動解除方向への回転をロックおよびアンロック可能な駐車ブレーキ機構とを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。このような電動ディスクブレーキでは、モータのロータの回転に応じてピストンを推進し、ブレーキパッドをディスクロータに押付けて制動力を発生し、かつ前記駐車ブレーキ機構の作動により制動力(押付け力)を保持するようになっている。
【0003】
ところで、上記した駐車ブレーキ付き電動ディスクブレーキでは、ブレーキパッドが熱膨張している高温時に駐車ブレーキを作動させると、その後の温度低下に伴うブレーキパッドの収縮で、ピストンの押付け力が低下してしまう。そこで従来、前記温度低下による押付け力の低下を見込んで、ピストンの推力を予め大きくする対策を採ったり、あるいは車両停止後も制御部を立ち上げておいて駐車ブレーキをかけ直す、いわゆるリクランプする対策(例えば、特許文献2参照)を採っていた。
【0004】
【特許文献1】特開2003−42199号公報
【特許文献2】特開2006−232263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したピストンの推力を予め大きくする対策では、耐久性の観点から構成部品の強度を上げなければならず、その分、サイズ面および重量面で不利が生じる、という問題があった。一方、リクランプする対策では、車両停止後も制御部を立ち上げておく必要があるため、消費電力の増大が避けられず、その上、制御部が複雑となって信頼性の面で不安が残る、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、駐車ブレーキ時におけるブレーキパッドの熱収縮に起因する押付け力の低下を、あまりピストンの推力を上げずに機械的に補填できるようにし、もって小型、軽量化はもちろん、消費電力の低減や制御部の簡素化に大きく寄与する電動ディスクブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、ブレーキパッドを押圧するピストンと、モータと、該モータの回転を直線運動に変換して前記ピストンに伝達する回転−直動変換機構と、前記モータのロータの、制動解除方向への回転をロックおよびアンロック可能な駐車ブレーキ機構とを備え、前記モータのロータの回転に応じて前記ピストンを推進して、ブレーキパッドをディスクロータに押し付けて制動力を発生し、かつ前記駐車ブレーキ機構により前記モータのロータを制動位置に保持する電動ディスクブレーキにおいて、前記モータと前記回転−直動変換機構との間に、3つの基本軸からなる減速機構を設け、該減速機構の、前記モータおよび前記回転−直動変換機構の双方に対してフリーである第3の軸を所定範囲内で回動可能とし、かつ前記駐車ブレーキ機構が作動するときに前記第3の軸に係合し該第3の軸の回転に応じてピストン推進方向への力を蓄えるばね手段を設けたことを特徴とする。
【0008】
このように構成した電動ディスクブレーキにおいては、駐車ブレーキ時に減速機構の第3の軸が回転することで、ブレーキパッドの熱膨張分の押付け力に相当する力が、前記第3の軸に係合するばね手段に蓄えられ、これによって駐車ブレーキ時のブレーキパッドの熱収縮分の押付け力低下を補填することがきる。また、ピストン推力を低く抑えることが可能になり、結果として構成部品の強度を上げる必要はなくなる。
【0009】
本発明において、上記ばね手段は、セットトルクをもって配設される捩りばねとすることができる。また、上記3つの基本軸からなる減速機構は、遊星歯車減速機構とすることができる。
【0010】
本発明は、上記駐車ブレーキ機構の動作と連動し前記第3の軸をロックおよびアンロックする係止手段を備えている構成とすることができる。このように構成した場合は、前記係止手段により第3の軸を位置固定することで、通常制動時には従来の電動ディスクブレーキと同様の制動特性を得ることができ、違和感が生じることはなくなる。また、この場合、上駐車ブレーキ機構の駆動源であるソレノイドを、前記係止手段の駆動源として共用するのが望ましく、これによりコストを上昇させずに高機能化を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電動ディスクブレーキによれば、ピストン推力をそれほど増大させることなくブレーキパッドの熱収縮分の押付け力低下を補填することができるので、小型、軽量化を達成できる。また、リクランプをしないので、消費電力の低減を図ることができ、しかも制御部の簡素化も可能になって装置に対する信頼性が向上する。
【0012】
また、駐車ブレーキ機構の動作と連動し減速機構の第3の軸をロックおよびアンロックする係止手段を設けた場合は、通常制動時には従来の電動ディスクブレーキと同様の制動特性を得ることができるので、違和感が生じることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1〜6は、本発明の一つの実施形態としての駐車ブレーキ付き電動ディスクブレーキの全体的構造を示したものである。本実施形態としての電動ディスクブレーキは、キャリパ浮動型として構成されており、車輪と共に回転するディスクロータ1と、サスペンション部材等の車体側の非回転部に固定されたキャリア2と、ディスクロータ1の両側に位置してキャリア2に支持された一対のブレーキパッド3,4と、キャリア2に対して一対のスライドピン5,5によってディスクロータ1の軸方向に移動可能に支持された電動キャリパ6とを備えている。
【0015】
電動キャリパ6は、キャリパ本体10と、車両内側のブレーキパッド(インナパッド)4の背面に当接可能なピストン11と、モータ12と、モータ12の回転を直線運動に変換してピストン11に伝えるボールねじ機構(回転−直動変換機構)13と、モータの回転を減速してトルクを増幅する多軸減速機構14と、多軸減速機構14の回転をさらに減速してトルクを増幅し、ボールねじ機構13へ伝える遊星歯車機構(3つの基本軸から減速機構)15と、駐車ブレーキ機構16と、モータ12および駐車ブレーキ機構16の作動を制御する駆動制御装置17とから概略構成されている。
【0016】
キャリパ本体10は、上記ピストン11およびボールねじ機構13を納めたボア部20と上記多軸減速機構14、遊星歯車減速機構15、駐車ブレーキ機構16並びに駆動制御装置17を納めた収納部21とを有するシリンダ部22と、シリンダ部22からディスクロータ1を跨いで車体外側へ延ばされたつめ部23とからなっている。シリンダ部22には、前記一対のスライドピン5を摺動可能に嵌入させるための一対のボス部24が一体に形成されており、また、シリンダ部22の後端にはカバー25が被蓋されている。
【0017】
上記ピストン11は、図2によく示されるように、有底筒状をなしており、シリンダ部22のボア部15に、その底部をインナパッド4に向けて摺動可能に嵌装されている。このピストン11とボア部15との間は、シールリング26およびダストシール27によりシールされており、内部への異物の侵入が防止されている。
【0018】
上記モータ12は、図2、3によく示されるように、キャリパ本体10に固定したハウジング28内に設けられている。モータ12は、ハウジング28の内周部に嵌合固定されたステータ29と、ステータ29内に配置されたロータ30とを備えている。ロータ30は、その両端部が軸受31,31によってハウジング22に回動可能に支持されると共に、その一端部がキャリパ本体10の収納部21内に挿入されている。
【0019】
上記ボールねじ機構13は、図2によく示されるように、ピストン11の後端部に対して固結されたナット31と、ナット31に嵌合された回転可能なスピンドル32と、これらの互いの嵌合面に形成されたボール溝33の相互間に装入された複数のボール(転動体)34とからなっている。ナット31には、ボア部20の一部に形成された軸方向のキー溝35に摺動可能に嵌合するキー36が取付けられており、これによりナット31は、回転不能にかつ軸方向移動可能にキャリパ本体10に支持されている。一方、スピンドル32には、スラスト軸受(ニードルスラスト軸受)37が取付けられており、スピンドル32は、このスラスト軸受37を介してボア部20の後端を規定する環状フランジ20aに突当てられている。このボールねじ機構13においては、そのスピンドル32の回転に応じてボール溝33内でボール34が転動することで、そのナット32が直線移動し、その動きに前記ピストン11が追従する。そして、ナット32と一体にピストン11が推進することで、インナパッド4がディスクロータ1に押付けられる。一方、ピストン11からの反力は、ナット32からボール34、スピンドル32およびスラスト軸受37を介してキャリパ本体10に伝達される。
【0020】
上記多軸減速機構14は、図2によく示されるように、上記モータ12のロータ30の後端部に相対回転不能に同軸に連結された第1シャフト40に設けらた第1ギヤ41と、この第1ギヤ41に噛合わされた第2ギヤ42と、この第2ギヤ42に噛合わされた第3ギヤ43とを備えている。第1シャフト40は、その後端部が前記カバー25に取付けた軸受44(図3)に支持され、ロータ30と一体に回転するようになっている。第2ギヤ42は、キャリパ本体10およびカバー25に取付けた一対の軸受45,45に両端部が支持され、また、第3ギヤ43は、前記ボールねじ機構13および遊星歯車減速機構15と同軸上に配置された第2シャフト46に圧入固定されている。第2シャフト46は、その一端部が前記ボールねじ機構13のスピンドル32に軸受47を介して結合される一方で、その他端部が前記カバー25に軸受48を介して支持されている。この多軸減速機構38においては、第1シャフト40の回転に応じて第1ギヤ41が回転することで、その回転が第2ギヤ42および第3ギヤ43を介して第2シャフト46に伝達され、第2シャフト46を所定の減速比で回転させる。
【0021】
上記遊星歯車減速機構15は、図2によく示されるように、前記第2シャフト46の途中に設けられたサンギヤ50と、このサンギヤ50の周りに配設された複数個(ここでは、3個)のプラネタリギヤ51と、各プラネタリギヤ51を軸受52を介して回動自在に支持するプラネタリキャリア53と、キャリパ本体10に軸受54を介して回動自在に支持され、各プラネタリギヤ51に噛合うインターナルギヤ(第3の軸)55とからなっている。プラネタリキャリア53は、その一端部が前記ボールねじ機構13を構成するスピンドル32の小径端部に圧入固定されている。この遊星歯車減速機構15においては、サンギヤ50の回転により、プラネタリギヤ51がインターナルギヤ55上を自転しながら公転することで、プラネタリキャリア53が回転し、スピンドル32を所定の減速比で回転させる。
【0022】
しかして、遊星歯車減速機構15を構成するインターナルギヤ55の外周には、図1に示されるように、半径外方向へ突出する扇形の突片56が一体に形成されている。一方、キャリパ本体10には、前記突片56の一側端56aが当接する第1ストッパ面57と該突片56の他側端56bが当接する第2ストッパ面58とで両端が規定された弧状の移動路59が形成されている。したがって、インターナルギヤ55は、その突片56が前記移動路59内で移動できる範囲内で回転できるようになっている。
【0023】
一方、キャリパ本体10のボア部20の周りには、図2にも示されるように捩りばねとしてのトーションばね(ばね手段)60が配設されており、このトーションばね50の一端部が、上記インターナルギヤ55の突片56に設けた貫通孔61に固定されている。トーションばね60は、インターナルギヤ55に対し、図1に見て反時計回り方向(ピストン推進方向)へ付勢力を加えるようにねじ向きが設定されており、これによりインターナルギヤ55は、常時はその突片56の一側端56aを一端側のストッパ面57に当接させる原位置を維持するようになっている。トーションばね60はまた、前記ストッパ面57に所定の荷重で突片56を押付けるようにそのセットトルクが設定されている。
【0024】
本実施形態において、上記インターナルギヤ55の突片56には、係合孔62が形成されており、この係合孔62には、後述の係止手段63(図7)を構成するギヤレバー64の一端のフック部64aが係脱するようになっている。インターナルギヤ55は、通常ブレーキ時には該フック部64aが係合孔62に挿入されることで、図1に示す原位置を維持する。
【0025】
上記駐車ブレーキ機構16は、図7によく示されるように、前記モータ12のロータ30と一体に回転する第1シャフト40に嵌合固定されたラチェット70と、ラチェット70の回転を規制するラチェットレバー71と、このラチェットレバー71を駆動するソレノイド(駆動源)72とから概略構成されている。なお、図7は、説明の便宜のため、駐車ブレーキ機構16に関連した部分のみを示している。
【0026】
ラチェット70の外周には複数の歯73が形成されている。この複数の歯73の間隔は、ラチェットレバー71の先端に設けた円柱状の係合突起71aが通過できる大きさに設定されている。ラチェットレバー71は、その長手方向の中間部が、キャリパ本体10にボルト固定されたブラケット74に対し、ピン75により回動自在に支持されている。このピン75には、係合突起71aがラチェット70の歯73から離脱する方向へラチェットレバー71を付勢する捩りばね76が巻装されている。一方、前記ブラケット74には、ラチェットレバー71の、前記離脱方向への回動を規制するストッパ部77が設けられており、ラチェットレバー71は、駐車ブレーキ機構16の非作動状態においてストッパ部77に当接させる待機状態を維持するようになっている。
【0027】
また、ラチェットレバー71の他端部は、ソレノイド72のプランジャ78の移動範囲に位置決めされている。ソレノイド72のプランジャ78は、ソレノイド72に通電しない場合には、その先端をラチェットレバー71の他端部にわずか接触させる短縮端に位置決めされ、この状態で、ラチェットレバー71は、その先端の係合突起71aをラチェット70の歯73から離脱させた、図示(図7)の待機状態を維持する。一方、この待機状態からソレノイド72に通電すると、図8に示すように、プランジャ78が突出してラチェットレバー71がピン75を中心に傾動し、その先端の係合突起71aがラチェット70の歯73に係合可能な位置に進入する。
【0028】
ここで、ラチェット70の複数の歯73の相互に対向する面には、傾斜逃げ面73aと凹部73bとが形成されている。図8の状態から、モータ12により第1シャフト40がピストン推進方向へ回転するときには、図9に示すように、ラチェットレバー71の係合突起71aが傾斜逃げ面73a上を滑動して該歯73を乗り越え、これによって第1シャフト40の回転が許容される。一方、図8の状態から、第1シャフト40が逆方向へ回転するときには、図10に示すように、ラチェットレバー71の係合突起71aが前記歯73の凹部73bに係合し、これによって第1シャフト40の回転が規制される。
【0029】
インターナルギヤ55を原位置に固定するための上記係止手段63を構成するギヤレバー64は、図7に示すように、その長手方向の中間部がピン65によりキャリパ本体10に回動自在に支持されている。このギヤレバー64の、フック部64aを設けた側と反対側の他端部は、上記ソレノイド72のプランジャ78に係合可能な位置まで延ばされ、この他端部には、プランジャ78の挿通を許容する二股の係合部64bが形成されている。ソレノイド72のプランジャ78には、前記係合部64aに下側から当接するつば部78aが設けれられており、いま、ソレノイド72への通電によりプランジャ78が伸長すると、前記つば部78aが係合部64aに押圧力を加えて、ギヤレバー64を揺動させる。これによって、図8に示すように、ギヤレバー64のフック部64aがインターナルギヤ55の係合孔62から離脱し、インターナルギヤ55の回転が自由となる。なお、キャリパ本体10には、常時はギヤレバー64のフック部64aが係合孔62に係合する方向へギヤレバー64を付勢する付勢手段65が配設されている(図7)。
【0030】
上記駆動制御装置7は、図3に示されるようにカバー25の凹部25a内に配置されており、これには、車体側に搭載された図示を略す車載コントローラからケーブル80を介して制御信号が送られるようになっている。この駆動制御装置7とモータ12のステータ29並びに駐車ブレーキ機構16のソレノイド72との間は、信号線81、82(図1)によりそれぞれ結線されている。また、駆動制御装置7に隣接して、モータ12のロータ30の回転位置を検出する回転センサ85が設置されており、該回転センサ85と駆動制御回路7との間も信号線83(図3)により結線されている。なお、回転センサ85は、カバー25に固定されたレゾルバステータ86と第1シャフト40に取付けられたレゾルバロータ87とからなっている。この駆動制御装置7においては、前記車載コントローラからの制動指令信号と回転センサ85からの回転位置信号とに基づいて、モータ21および駐車ブレーキ機構16の作動を制御する。
【0031】
以下、上記のように構成した電動ディスクブレーキの作用について説明する。
【0032】
通常の電動ブレーキとして作動する場合は、駐車ブレーキ機構16のソレノイド72への通電が遮断されており、図7に示したように、ラチェットレバー71は、その係合突起71aをラチェット70の歯73から離脱させた待機状態を維持し、一方、ギヤレバー64は、その一端のフック部64aをインターナルギヤ55の突片56の係合孔62に係合させた状態を維持している。また、インターナルギヤ55は、図1に示したように、その一側端56aを移動路59の一端側のストッパ面57に当接させた原位置を維持する。
【0033】
そして、運転者のブレーキ操作に応じた信号(ペダル踏力信号またはペダル変位信号)に基づいて、車載コントローラが各車輪のディスクブレーキの駆動制御装置17へ制動力信号を送出する。すると、駆動制御装置17は、モータ12のステータ29に駆動電流を出力し、モータ12のロータ30を所望のトルクで所望の回転角だけ回転させる。このロータ30の回転は、多軸減速機構14および遊星歯車減速機構15によって所定の減速比で減速され、ボールねじ機構13によって直線運動に変換されて、ピストン11に伝達される。これによってピストン11が前進(推進)し、インナパッド4をディスクロータ1に押付ける。一方、そのときの反力でキャリパ本体10がキャリア2のスライドピン5に沿って移動(後退)し、キャリパ本体10のつめ部23が外側のブレーキパッド3をディスクロータ1に押付け、これによってモータ12のトルクに応じた所望の制動力が発生する。また、制動解除時には、モータ12のロータ30が上記制動時と逆方向に回転駆動され、ボールねじ機構13による運動変換によってピストン11が後退し、これによってブレーキパッド3、4がディスクロータ1から離間し、制動が解除される。
【0034】
車載コントローラは、各種センサから取込んだ検出値、たとえば各車輪の回転速度、車両速度、車両加速度、操舵角、車両横加速度等に基づいて車両状態を判断し、モータ12の回転を制御することにより、倍力制御。アンロック制御、トラクション制御、車両安定化制御等の自動ブレーキ制御を実行する。
【0035】
駐車ブレーキを作動させる場合は、図7に示す状態(ピストン11に推力が発生していない状態)から、駐車ブレーキ機構13のソレノイド72へ駆動制御装置17から通電される。すると、図8に示したように、プランジャ78が伸長し、ラチェットレバー71が傾動してその先端の係合突起71aがラチェット70の歯73の間に入り込み、これと同時にギヤレバー64も揺動して、その先端のフック部64aがインターナルギヤ55の突片56の係合孔62から離脱する。
【0036】
上記した状態のもと、駆動制御装置17からの指令でモータ12のロータ30が回転する。このとき、ロータ30の初期回転位置によっては、ラチェットレバー71の係合突起71aがラチェット70の歯73の間に入り込めない場合があるが、ロータ30のわずかの回転により該係合突起71aは円滑に歯73の間に入り込む。そして、ロータ30の回転により、図9に示したように、ラチェットレバー71の係合突起71aが傾斜逃げ面73a上を滑動して該歯73を乗り越え、これによって第1シャフト40の回転が許容される。なお、係合突起71aが歯73を乗り越えるときには、同じく図9に示すように、ラチェットレバー71がソレノイド72のプランジャ78から離れて大きく傾動する。
【0037】
一方、インターナルギヤ55に加わるトルクが、該インターナルギヤ55に係合するトーションばね60のセットトルクを超えると、インターナルギヤ55が、図1の時計回り方向(ピストン推力を減じる方向)へ回転し始める。このインターナルギヤ55の回転は、その突片56の他側端56bが移動路59の他端側のストッパ面58に当接するまで継続し、この間、トーションばね60には、ピストン推進方向の力が蓄えられる。本実施形態においては、インターナルギヤ55の突片56が移動路59の他端側のストッパ面58に当接した時点でモータ12のロータ30の回転を停止し、これによりブレーキパッド3、4の熱膨張分を見込んだ大きさのピストン押付け力(ピストン推力)が確保される。なお、これについては、後に詳述する。
【0038】
次に、ソレノイド72への通電を継続したまま、モータ12への電流を減少させる。すると、ピストン11からの反力で第1シャフト40がわずか制動解除方向へ回転し、これによりラチェットレバー71の先端の係合突起71aが、図10に示したように、ラチェット70の歯73の凹部73bに係合する。続いて、モータ12への電流供給を遮断すると共に、ソレノイド72への通電を停止する。すると、捩りばね76の付勢力でラチェットレバー71が、図7に示した待機状態に戻ろうとする。しかし、歯73の凹部73bによって係合突起71aが係止されているため、ラチェットレバー71は、図10に示した状態を維持し、これによって第1シャフト40の回転、すなわちモータ12のロータ30の回転が阻止され、駐車ブレーキが確立する。一方、ソレノイド72への通電停止によりギヤレバー64は、付勢手段65の付勢力を受けて図7に示した初期状態に戻るが、このとき、インターナルギヤ55の突片56が移動路59のストッパ面58側へ変位しているので、同じく図10に示すように、ギヤレバー64の先端のフック部64aの前記突片56の外側に位置決めされる。
【0039】
上記した駐車ブレーキの間、温度低下によってブレーキパッド3、4が収縮し、ピストン11の押付け力が減少する。このとき、駐車ブレーキ作動時にトーションばね60に蓄えられた力によりインターナルギヤ55が制動方向へ回転し、インターナルギヤ55の突片56が原位置に戻る。しかして、このインターナルギヤ56の原位置は、駐車ブレーキ時に必要とする所望のピストン推力(制動力)を維持する位置となっており、これによって駐車ブレーキが弛むことはなくなる。一方、インターナルギヤ55の復帰途中で、ギヤレバー64が付勢手段65の付勢力に抗して、突片56によって押上げられ、最終的にそのフック部56aを突片56の係合孔62に会合させる元の状態(図7に示す状態)に復帰し、インターナルギヤ55が位置固定される。
【0040】
上記駐車ブレーキを解除する場合は、モータ12のロータ30をわずか制動方向へ回転させる。すると、ラチェットレバー71の先端の係合突起71aがラチェット70の歯73の凹部73bから外れ、捩りばね76の付勢力でラチェットレバー71が、図7に示した待機状態に戻る。その後、モータ12のロータ30は制動解除方向へ回転され、ボールねじ機構13による運動変換によってピストン11が後退し、ブレーキパッド3、4がディスクロータ1から離間し、これによって駐車ブレーキが解除される。なお、この駐車ブレーキ解除時に、インターナルギヤ55が、その突片56をストッパ面58に当接させた回転位置にある場合は、ロータ30の制動解除方向への回転に応じてインターナルギヤ55が原位置に戻り、ギヤレバー64によって再び位置固定される。
【0041】
図11は、上記した通常制動時および駐車ブレーキ時(PKB時)におけるピストン11の推進位置(ピスト位置)とピストン11の押付け力(ピストン推力)との関係を示したもので、同図中、線Aは通常制動時を、線BはPKB時をそれぞれ示している。これより、通常制動時には、ピストン位置の増大に従ってピストン推力がほぼ直線的に増加する。これに対し、PKB時には、インターナルギヤ55が回転し始めるピストン位置P1までは、通常制動時と同じ線Aに沿ってピストン推力が増加するが、インターナルギヤ55が回転し始めると、ピストン推力の上昇勾配が緩やかとなり、その傾向は、インターナルギヤ55の突片56が移動路59の他端側のストッパ面58(図1)に当接して移動停止するピストン位置P2まで続く。そして、インターナルギヤ55が移動停止した以降は、再び通常制動時と同じ勾配でピストン推力が増加する。
【0042】
図11において、上記ピストン位置P1は、インターナルギヤ55に作用するトーションばね60のセットトルクの大きさによって決まり、ピストン位置P2は、移動路59内でのインターナルギヤ55の突片56の移動範囲で決まる。また、ピストン位置P2に対応するピストン推力F1の大きさは、トーションばね60のばね定数で決まる。
【0043】
ここで、ブレーキパッド3、4の熱膨張を考慮しない最低限必要なPKB時のピストン推力をF0とし、ブレーキパッド3、4の熱膨張をピストン位置P2とP1との差に等しくなるようにした場合を考える。このとき、ブレーキパッド3、4の熱膨張分を見込んで(リクランプをしないで)必要なピストン推力を得ようとすると、従来技術による電動ディスクブレーキでは、F2のピストン推力が必要となる。しかし、本実施形態では、上記したようにインターナルギヤ55が回転し始めるP1位置と回転停止するP2位置との間でピストン推力の増加傾向が緩やかになるので、前記F2よりもはるかに低いF1のピストン推力で十分となる。
【0044】
すなわち、本発明に係る電動ディスクブレーキによれば、駐車ブレーキ時にブレーキパッド3、4の熱膨張分を見込んで駐車ブレーキを効かせても、ピストン推力はそれほど増加せず、したがって、構成部品の強度を特別に上げる必要はなくなる。このことは、サイズ面および重量面で有利であることを意味し、従来の電動ディスクブレーキに対してブレーキパッド3、4の熱膨張分の押付け力を見込む場合よりも、はるかに小型、軽量化を達成できる。また、リクランプをしないので、消費電力の低減を図ることができ、しかも制御部も簡素となって装置に対する信頼性が向上する。さらに、通常制動時は、インターナルギヤ55が位置固定されて、従来技術の電動ディスクブレーキと同様のピストン位置とピストン推力との関係が保たれるので、駐車ブレーキに最低限必要なピストン推力F0以上での応答性が損なわれることがなく、この面でも信頼性が向上する。
【0045】
なお、上記実施形態においては、3つの基本軸からなる減速機構として、いわゆる2K−H−1型の遊星歯車減速機構15を用いたが、これに代えて他型式の遊星歯車機構や、ボール減速機構、サイクロイド減速機構、波動減速機構など、周知の減速機構を用いてもよい。
【0046】
また、上記実施形態においては、インターナルギヤ55に付勢力を加えるばね手段として、トーションばね60を用いた、これに代えて。ンターナルギヤ55の突片56に圧縮ばねを取付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る電動ディスクブレーキの全体構造を示したもので、図3のX−X矢視線に沿う断面図である。
【図2】本電動ディスクブレーキの全体構造を示したもので、図6のY−Y矢視線に沿う断面図である。
【図3】本電動ディスクブレーキの全体構造を示したもので、図6のZ−Z矢視線に沿う断面図である。
【図4】本電動ディスクブレーキの全体構造を示す正面図である。
【図5】本電動ディスクブレーキの全体構造を示す平面図である。
【図6】本電動ディスクブレーキの全体構造を示す背面図である。
【図7】本電動ディスクブレーキにおける駐車ブレーキ機構の構造とこれに関連する周辺要素とを模式的に示したもので、(A)は一部断面として示す平面図、(B)は正面図、(C)は一部断面として示す側面図である。
【図8】本電動ディスクブレーキにおける駐車ブレーキ機構とこれに関連する周辺要素との作動状態を模式的に示したもので、(A)は一部断面として示す平面図、(B)は正面図、(C)は一部断面として示す側面図である。
【図9】本電動ディスクブレーキにおける駐車ブレーキ機構とこれに関連する周辺要素との作動状態を模式的に示したもので、(A)は一部断面として示す平面図、(B)は正面図、(C)は一部断面として示す側面図である。
【図10】本電動ディスクブレーキにおける駐車ブレーキ機構とこれに関連する周辺要素との作動状態を模式的に示したもので、(A)は一部断面として示す平面図、(B)は正面図、(C)は一部断面として示す側面図である。
【図11】本電動ディスクブレーキの制動特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1 ディスクロータ、 2 キャリア
3、4 ブレーキパッド、 6 電動キャリパ
10 キャリパ本体、 11 ピストン
12 モータ、 29 モータのステータ、 30 モータのロータ
13 ボールランプ機構(回転−直動変換機構)
15 遊星歯車減速機構(3つの基本軸からなる減速機構)
55 インターナルギヤ(第3の軸)
56 インターナルギヤの突片
59 突片の移動路
60 トーションばね(ばね手段)
64 ギヤレバー(係止手段)
70 ラチェット(駐車ブレーキ機構)
71 ラチェットレバー(駐車ブレーキ機構)
72 ソレノイド(駐車ブレーキ機構の駆動源)
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータのトルクによって制動力を発生する電動ディスクブレーキに係り、特に駐車ブレーキ機能を付加した駐車ブレーキ付き電動ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
駐車ブレーキ付き電動ディスクブレーキとしては、ブレーキパッドを押圧するピストンと、モータと、該モータの回転を直線運動に変換して前記ピストンに伝達する回転−直動変換機構と、前記モータのロータの制動解除方向への回転をロックおよびアンロック可能な駐車ブレーキ機構とを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。このような電動ディスクブレーキでは、モータのロータの回転に応じてピストンを推進し、ブレーキパッドをディスクロータに押付けて制動力を発生し、かつ前記駐車ブレーキ機構の作動により制動力(押付け力)を保持するようになっている。
【0003】
ところで、上記した駐車ブレーキ付き電動ディスクブレーキでは、ブレーキパッドが熱膨張している高温時に駐車ブレーキを作動させると、その後の温度低下に伴うブレーキパッドの収縮で、ピストンの押付け力が低下してしまう。そこで従来、前記温度低下による押付け力の低下を見込んで、ピストンの推力を予め大きくする対策を採ったり、あるいは車両停止後も制御部を立ち上げておいて駐車ブレーキをかけ直す、いわゆるリクランプする対策(例えば、特許文献2参照)を採っていた。
【0004】
【特許文献1】特開2003−42199号公報
【特許文献2】特開2006−232263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したピストンの推力を予め大きくする対策では、耐久性の観点から構成部品の強度を上げなければならず、その分、サイズ面および重量面で不利が生じる、という問題があった。一方、リクランプする対策では、車両停止後も制御部を立ち上げておく必要があるため、消費電力の増大が避けられず、その上、制御部が複雑となって信頼性の面で不安が残る、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、駐車ブレーキ時におけるブレーキパッドの熱収縮に起因する押付け力の低下を、あまりピストンの推力を上げずに機械的に補填できるようにし、もって小型、軽量化はもちろん、消費電力の低減や制御部の簡素化に大きく寄与する電動ディスクブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、ブレーキパッドを押圧するピストンと、モータと、該モータの回転を直線運動に変換して前記ピストンに伝達する回転−直動変換機構と、前記モータのロータの、制動解除方向への回転をロックおよびアンロック可能な駐車ブレーキ機構とを備え、前記モータのロータの回転に応じて前記ピストンを推進して、ブレーキパッドをディスクロータに押し付けて制動力を発生し、かつ前記駐車ブレーキ機構により前記モータのロータを制動位置に保持する電動ディスクブレーキにおいて、前記モータと前記回転−直動変換機構との間に、3つの基本軸からなる減速機構を設け、該減速機構の、前記モータおよび前記回転−直動変換機構の双方に対してフリーである第3の軸を所定範囲内で回動可能とし、かつ前記駐車ブレーキ機構が作動するときに前記第3の軸に係合し該第3の軸の回転に応じてピストン推進方向への力を蓄えるばね手段を設けたことを特徴とする。
【0008】
このように構成した電動ディスクブレーキにおいては、駐車ブレーキ時に減速機構の第3の軸が回転することで、ブレーキパッドの熱膨張分の押付け力に相当する力が、前記第3の軸に係合するばね手段に蓄えられ、これによって駐車ブレーキ時のブレーキパッドの熱収縮分の押付け力低下を補填することがきる。また、ピストン推力を低く抑えることが可能になり、結果として構成部品の強度を上げる必要はなくなる。
【0009】
本発明において、上記ばね手段は、セットトルクをもって配設される捩りばねとすることができる。また、上記3つの基本軸からなる減速機構は、遊星歯車減速機構とすることができる。
【0010】
本発明は、上記駐車ブレーキ機構の動作と連動し前記第3の軸をロックおよびアンロックする係止手段を備えている構成とすることができる。このように構成した場合は、前記係止手段により第3の軸を位置固定することで、通常制動時には従来の電動ディスクブレーキと同様の制動特性を得ることができ、違和感が生じることはなくなる。また、この場合、上駐車ブレーキ機構の駆動源であるソレノイドを、前記係止手段の駆動源として共用するのが望ましく、これによりコストを上昇させずに高機能化を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電動ディスクブレーキによれば、ピストン推力をそれほど増大させることなくブレーキパッドの熱収縮分の押付け力低下を補填することができるので、小型、軽量化を達成できる。また、リクランプをしないので、消費電力の低減を図ることができ、しかも制御部の簡素化も可能になって装置に対する信頼性が向上する。
【0012】
また、駐車ブレーキ機構の動作と連動し減速機構の第3の軸をロックおよびアンロックする係止手段を設けた場合は、通常制動時には従来の電動ディスクブレーキと同様の制動特性を得ることができるので、違和感が生じることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1〜6は、本発明の一つの実施形態としての駐車ブレーキ付き電動ディスクブレーキの全体的構造を示したものである。本実施形態としての電動ディスクブレーキは、キャリパ浮動型として構成されており、車輪と共に回転するディスクロータ1と、サスペンション部材等の車体側の非回転部に固定されたキャリア2と、ディスクロータ1の両側に位置してキャリア2に支持された一対のブレーキパッド3,4と、キャリア2に対して一対のスライドピン5,5によってディスクロータ1の軸方向に移動可能に支持された電動キャリパ6とを備えている。
【0015】
電動キャリパ6は、キャリパ本体10と、車両内側のブレーキパッド(インナパッド)4の背面に当接可能なピストン11と、モータ12と、モータ12の回転を直線運動に変換してピストン11に伝えるボールねじ機構(回転−直動変換機構)13と、モータの回転を減速してトルクを増幅する多軸減速機構14と、多軸減速機構14の回転をさらに減速してトルクを増幅し、ボールねじ機構13へ伝える遊星歯車機構(3つの基本軸から減速機構)15と、駐車ブレーキ機構16と、モータ12および駐車ブレーキ機構16の作動を制御する駆動制御装置17とから概略構成されている。
【0016】
キャリパ本体10は、上記ピストン11およびボールねじ機構13を納めたボア部20と上記多軸減速機構14、遊星歯車減速機構15、駐車ブレーキ機構16並びに駆動制御装置17を納めた収納部21とを有するシリンダ部22と、シリンダ部22からディスクロータ1を跨いで車体外側へ延ばされたつめ部23とからなっている。シリンダ部22には、前記一対のスライドピン5を摺動可能に嵌入させるための一対のボス部24が一体に形成されており、また、シリンダ部22の後端にはカバー25が被蓋されている。
【0017】
上記ピストン11は、図2によく示されるように、有底筒状をなしており、シリンダ部22のボア部15に、その底部をインナパッド4に向けて摺動可能に嵌装されている。このピストン11とボア部15との間は、シールリング26およびダストシール27によりシールされており、内部への異物の侵入が防止されている。
【0018】
上記モータ12は、図2、3によく示されるように、キャリパ本体10に固定したハウジング28内に設けられている。モータ12は、ハウジング28の内周部に嵌合固定されたステータ29と、ステータ29内に配置されたロータ30とを備えている。ロータ30は、その両端部が軸受31,31によってハウジング22に回動可能に支持されると共に、その一端部がキャリパ本体10の収納部21内に挿入されている。
【0019】
上記ボールねじ機構13は、図2によく示されるように、ピストン11の後端部に対して固結されたナット31と、ナット31に嵌合された回転可能なスピンドル32と、これらの互いの嵌合面に形成されたボール溝33の相互間に装入された複数のボール(転動体)34とからなっている。ナット31には、ボア部20の一部に形成された軸方向のキー溝35に摺動可能に嵌合するキー36が取付けられており、これによりナット31は、回転不能にかつ軸方向移動可能にキャリパ本体10に支持されている。一方、スピンドル32には、スラスト軸受(ニードルスラスト軸受)37が取付けられており、スピンドル32は、このスラスト軸受37を介してボア部20の後端を規定する環状フランジ20aに突当てられている。このボールねじ機構13においては、そのスピンドル32の回転に応じてボール溝33内でボール34が転動することで、そのナット32が直線移動し、その動きに前記ピストン11が追従する。そして、ナット32と一体にピストン11が推進することで、インナパッド4がディスクロータ1に押付けられる。一方、ピストン11からの反力は、ナット32からボール34、スピンドル32およびスラスト軸受37を介してキャリパ本体10に伝達される。
【0020】
上記多軸減速機構14は、図2によく示されるように、上記モータ12のロータ30の後端部に相対回転不能に同軸に連結された第1シャフト40に設けらた第1ギヤ41と、この第1ギヤ41に噛合わされた第2ギヤ42と、この第2ギヤ42に噛合わされた第3ギヤ43とを備えている。第1シャフト40は、その後端部が前記カバー25に取付けた軸受44(図3)に支持され、ロータ30と一体に回転するようになっている。第2ギヤ42は、キャリパ本体10およびカバー25に取付けた一対の軸受45,45に両端部が支持され、また、第3ギヤ43は、前記ボールねじ機構13および遊星歯車減速機構15と同軸上に配置された第2シャフト46に圧入固定されている。第2シャフト46は、その一端部が前記ボールねじ機構13のスピンドル32に軸受47を介して結合される一方で、その他端部が前記カバー25に軸受48を介して支持されている。この多軸減速機構38においては、第1シャフト40の回転に応じて第1ギヤ41が回転することで、その回転が第2ギヤ42および第3ギヤ43を介して第2シャフト46に伝達され、第2シャフト46を所定の減速比で回転させる。
【0021】
上記遊星歯車減速機構15は、図2によく示されるように、前記第2シャフト46の途中に設けられたサンギヤ50と、このサンギヤ50の周りに配設された複数個(ここでは、3個)のプラネタリギヤ51と、各プラネタリギヤ51を軸受52を介して回動自在に支持するプラネタリキャリア53と、キャリパ本体10に軸受54を介して回動自在に支持され、各プラネタリギヤ51に噛合うインターナルギヤ(第3の軸)55とからなっている。プラネタリキャリア53は、その一端部が前記ボールねじ機構13を構成するスピンドル32の小径端部に圧入固定されている。この遊星歯車減速機構15においては、サンギヤ50の回転により、プラネタリギヤ51がインターナルギヤ55上を自転しながら公転することで、プラネタリキャリア53が回転し、スピンドル32を所定の減速比で回転させる。
【0022】
しかして、遊星歯車減速機構15を構成するインターナルギヤ55の外周には、図1に示されるように、半径外方向へ突出する扇形の突片56が一体に形成されている。一方、キャリパ本体10には、前記突片56の一側端56aが当接する第1ストッパ面57と該突片56の他側端56bが当接する第2ストッパ面58とで両端が規定された弧状の移動路59が形成されている。したがって、インターナルギヤ55は、その突片56が前記移動路59内で移動できる範囲内で回転できるようになっている。
【0023】
一方、キャリパ本体10のボア部20の周りには、図2にも示されるように捩りばねとしてのトーションばね(ばね手段)60が配設されており、このトーションばね50の一端部が、上記インターナルギヤ55の突片56に設けた貫通孔61に固定されている。トーションばね60は、インターナルギヤ55に対し、図1に見て反時計回り方向(ピストン推進方向)へ付勢力を加えるようにねじ向きが設定されており、これによりインターナルギヤ55は、常時はその突片56の一側端56aを一端側のストッパ面57に当接させる原位置を維持するようになっている。トーションばね60はまた、前記ストッパ面57に所定の荷重で突片56を押付けるようにそのセットトルクが設定されている。
【0024】
本実施形態において、上記インターナルギヤ55の突片56には、係合孔62が形成されており、この係合孔62には、後述の係止手段63(図7)を構成するギヤレバー64の一端のフック部64aが係脱するようになっている。インターナルギヤ55は、通常ブレーキ時には該フック部64aが係合孔62に挿入されることで、図1に示す原位置を維持する。
【0025】
上記駐車ブレーキ機構16は、図7によく示されるように、前記モータ12のロータ30と一体に回転する第1シャフト40に嵌合固定されたラチェット70と、ラチェット70の回転を規制するラチェットレバー71と、このラチェットレバー71を駆動するソレノイド(駆動源)72とから概略構成されている。なお、図7は、説明の便宜のため、駐車ブレーキ機構16に関連した部分のみを示している。
【0026】
ラチェット70の外周には複数の歯73が形成されている。この複数の歯73の間隔は、ラチェットレバー71の先端に設けた円柱状の係合突起71aが通過できる大きさに設定されている。ラチェットレバー71は、その長手方向の中間部が、キャリパ本体10にボルト固定されたブラケット74に対し、ピン75により回動自在に支持されている。このピン75には、係合突起71aがラチェット70の歯73から離脱する方向へラチェットレバー71を付勢する捩りばね76が巻装されている。一方、前記ブラケット74には、ラチェットレバー71の、前記離脱方向への回動を規制するストッパ部77が設けられており、ラチェットレバー71は、駐車ブレーキ機構16の非作動状態においてストッパ部77に当接させる待機状態を維持するようになっている。
【0027】
また、ラチェットレバー71の他端部は、ソレノイド72のプランジャ78の移動範囲に位置決めされている。ソレノイド72のプランジャ78は、ソレノイド72に通電しない場合には、その先端をラチェットレバー71の他端部にわずか接触させる短縮端に位置決めされ、この状態で、ラチェットレバー71は、その先端の係合突起71aをラチェット70の歯73から離脱させた、図示(図7)の待機状態を維持する。一方、この待機状態からソレノイド72に通電すると、図8に示すように、プランジャ78が突出してラチェットレバー71がピン75を中心に傾動し、その先端の係合突起71aがラチェット70の歯73に係合可能な位置に進入する。
【0028】
ここで、ラチェット70の複数の歯73の相互に対向する面には、傾斜逃げ面73aと凹部73bとが形成されている。図8の状態から、モータ12により第1シャフト40がピストン推進方向へ回転するときには、図9に示すように、ラチェットレバー71の係合突起71aが傾斜逃げ面73a上を滑動して該歯73を乗り越え、これによって第1シャフト40の回転が許容される。一方、図8の状態から、第1シャフト40が逆方向へ回転するときには、図10に示すように、ラチェットレバー71の係合突起71aが前記歯73の凹部73bに係合し、これによって第1シャフト40の回転が規制される。
【0029】
インターナルギヤ55を原位置に固定するための上記係止手段63を構成するギヤレバー64は、図7に示すように、その長手方向の中間部がピン65によりキャリパ本体10に回動自在に支持されている。このギヤレバー64の、フック部64aを設けた側と反対側の他端部は、上記ソレノイド72のプランジャ78に係合可能な位置まで延ばされ、この他端部には、プランジャ78の挿通を許容する二股の係合部64bが形成されている。ソレノイド72のプランジャ78には、前記係合部64aに下側から当接するつば部78aが設けれられており、いま、ソレノイド72への通電によりプランジャ78が伸長すると、前記つば部78aが係合部64aに押圧力を加えて、ギヤレバー64を揺動させる。これによって、図8に示すように、ギヤレバー64のフック部64aがインターナルギヤ55の係合孔62から離脱し、インターナルギヤ55の回転が自由となる。なお、キャリパ本体10には、常時はギヤレバー64のフック部64aが係合孔62に係合する方向へギヤレバー64を付勢する付勢手段65が配設されている(図7)。
【0030】
上記駆動制御装置7は、図3に示されるようにカバー25の凹部25a内に配置されており、これには、車体側に搭載された図示を略す車載コントローラからケーブル80を介して制御信号が送られるようになっている。この駆動制御装置7とモータ12のステータ29並びに駐車ブレーキ機構16のソレノイド72との間は、信号線81、82(図1)によりそれぞれ結線されている。また、駆動制御装置7に隣接して、モータ12のロータ30の回転位置を検出する回転センサ85が設置されており、該回転センサ85と駆動制御回路7との間も信号線83(図3)により結線されている。なお、回転センサ85は、カバー25に固定されたレゾルバステータ86と第1シャフト40に取付けられたレゾルバロータ87とからなっている。この駆動制御装置7においては、前記車載コントローラからの制動指令信号と回転センサ85からの回転位置信号とに基づいて、モータ21および駐車ブレーキ機構16の作動を制御する。
【0031】
以下、上記のように構成した電動ディスクブレーキの作用について説明する。
【0032】
通常の電動ブレーキとして作動する場合は、駐車ブレーキ機構16のソレノイド72への通電が遮断されており、図7に示したように、ラチェットレバー71は、その係合突起71aをラチェット70の歯73から離脱させた待機状態を維持し、一方、ギヤレバー64は、その一端のフック部64aをインターナルギヤ55の突片56の係合孔62に係合させた状態を維持している。また、インターナルギヤ55は、図1に示したように、その一側端56aを移動路59の一端側のストッパ面57に当接させた原位置を維持する。
【0033】
そして、運転者のブレーキ操作に応じた信号(ペダル踏力信号またはペダル変位信号)に基づいて、車載コントローラが各車輪のディスクブレーキの駆動制御装置17へ制動力信号を送出する。すると、駆動制御装置17は、モータ12のステータ29に駆動電流を出力し、モータ12のロータ30を所望のトルクで所望の回転角だけ回転させる。このロータ30の回転は、多軸減速機構14および遊星歯車減速機構15によって所定の減速比で減速され、ボールねじ機構13によって直線運動に変換されて、ピストン11に伝達される。これによってピストン11が前進(推進)し、インナパッド4をディスクロータ1に押付ける。一方、そのときの反力でキャリパ本体10がキャリア2のスライドピン5に沿って移動(後退)し、キャリパ本体10のつめ部23が外側のブレーキパッド3をディスクロータ1に押付け、これによってモータ12のトルクに応じた所望の制動力が発生する。また、制動解除時には、モータ12のロータ30が上記制動時と逆方向に回転駆動され、ボールねじ機構13による運動変換によってピストン11が後退し、これによってブレーキパッド3、4がディスクロータ1から離間し、制動が解除される。
【0034】
車載コントローラは、各種センサから取込んだ検出値、たとえば各車輪の回転速度、車両速度、車両加速度、操舵角、車両横加速度等に基づいて車両状態を判断し、モータ12の回転を制御することにより、倍力制御。アンロック制御、トラクション制御、車両安定化制御等の自動ブレーキ制御を実行する。
【0035】
駐車ブレーキを作動させる場合は、図7に示す状態(ピストン11に推力が発生していない状態)から、駐車ブレーキ機構13のソレノイド72へ駆動制御装置17から通電される。すると、図8に示したように、プランジャ78が伸長し、ラチェットレバー71が傾動してその先端の係合突起71aがラチェット70の歯73の間に入り込み、これと同時にギヤレバー64も揺動して、その先端のフック部64aがインターナルギヤ55の突片56の係合孔62から離脱する。
【0036】
上記した状態のもと、駆動制御装置17からの指令でモータ12のロータ30が回転する。このとき、ロータ30の初期回転位置によっては、ラチェットレバー71の係合突起71aがラチェット70の歯73の間に入り込めない場合があるが、ロータ30のわずかの回転により該係合突起71aは円滑に歯73の間に入り込む。そして、ロータ30の回転により、図9に示したように、ラチェットレバー71の係合突起71aが傾斜逃げ面73a上を滑動して該歯73を乗り越え、これによって第1シャフト40の回転が許容される。なお、係合突起71aが歯73を乗り越えるときには、同じく図9に示すように、ラチェットレバー71がソレノイド72のプランジャ78から離れて大きく傾動する。
【0037】
一方、インターナルギヤ55に加わるトルクが、該インターナルギヤ55に係合するトーションばね60のセットトルクを超えると、インターナルギヤ55が、図1の時計回り方向(ピストン推力を減じる方向)へ回転し始める。このインターナルギヤ55の回転は、その突片56の他側端56bが移動路59の他端側のストッパ面58に当接するまで継続し、この間、トーションばね60には、ピストン推進方向の力が蓄えられる。本実施形態においては、インターナルギヤ55の突片56が移動路59の他端側のストッパ面58に当接した時点でモータ12のロータ30の回転を停止し、これによりブレーキパッド3、4の熱膨張分を見込んだ大きさのピストン押付け力(ピストン推力)が確保される。なお、これについては、後に詳述する。
【0038】
次に、ソレノイド72への通電を継続したまま、モータ12への電流を減少させる。すると、ピストン11からの反力で第1シャフト40がわずか制動解除方向へ回転し、これによりラチェットレバー71の先端の係合突起71aが、図10に示したように、ラチェット70の歯73の凹部73bに係合する。続いて、モータ12への電流供給を遮断すると共に、ソレノイド72への通電を停止する。すると、捩りばね76の付勢力でラチェットレバー71が、図7に示した待機状態に戻ろうとする。しかし、歯73の凹部73bによって係合突起71aが係止されているため、ラチェットレバー71は、図10に示した状態を維持し、これによって第1シャフト40の回転、すなわちモータ12のロータ30の回転が阻止され、駐車ブレーキが確立する。一方、ソレノイド72への通電停止によりギヤレバー64は、付勢手段65の付勢力を受けて図7に示した初期状態に戻るが、このとき、インターナルギヤ55の突片56が移動路59のストッパ面58側へ変位しているので、同じく図10に示すように、ギヤレバー64の先端のフック部64aの前記突片56の外側に位置決めされる。
【0039】
上記した駐車ブレーキの間、温度低下によってブレーキパッド3、4が収縮し、ピストン11の押付け力が減少する。このとき、駐車ブレーキ作動時にトーションばね60に蓄えられた力によりインターナルギヤ55が制動方向へ回転し、インターナルギヤ55の突片56が原位置に戻る。しかして、このインターナルギヤ56の原位置は、駐車ブレーキ時に必要とする所望のピストン推力(制動力)を維持する位置となっており、これによって駐車ブレーキが弛むことはなくなる。一方、インターナルギヤ55の復帰途中で、ギヤレバー64が付勢手段65の付勢力に抗して、突片56によって押上げられ、最終的にそのフック部56aを突片56の係合孔62に会合させる元の状態(図7に示す状態)に復帰し、インターナルギヤ55が位置固定される。
【0040】
上記駐車ブレーキを解除する場合は、モータ12のロータ30をわずか制動方向へ回転させる。すると、ラチェットレバー71の先端の係合突起71aがラチェット70の歯73の凹部73bから外れ、捩りばね76の付勢力でラチェットレバー71が、図7に示した待機状態に戻る。その後、モータ12のロータ30は制動解除方向へ回転され、ボールねじ機構13による運動変換によってピストン11が後退し、ブレーキパッド3、4がディスクロータ1から離間し、これによって駐車ブレーキが解除される。なお、この駐車ブレーキ解除時に、インターナルギヤ55が、その突片56をストッパ面58に当接させた回転位置にある場合は、ロータ30の制動解除方向への回転に応じてインターナルギヤ55が原位置に戻り、ギヤレバー64によって再び位置固定される。
【0041】
図11は、上記した通常制動時および駐車ブレーキ時(PKB時)におけるピストン11の推進位置(ピスト位置)とピストン11の押付け力(ピストン推力)との関係を示したもので、同図中、線Aは通常制動時を、線BはPKB時をそれぞれ示している。これより、通常制動時には、ピストン位置の増大に従ってピストン推力がほぼ直線的に増加する。これに対し、PKB時には、インターナルギヤ55が回転し始めるピストン位置P1までは、通常制動時と同じ線Aに沿ってピストン推力が増加するが、インターナルギヤ55が回転し始めると、ピストン推力の上昇勾配が緩やかとなり、その傾向は、インターナルギヤ55の突片56が移動路59の他端側のストッパ面58(図1)に当接して移動停止するピストン位置P2まで続く。そして、インターナルギヤ55が移動停止した以降は、再び通常制動時と同じ勾配でピストン推力が増加する。
【0042】
図11において、上記ピストン位置P1は、インターナルギヤ55に作用するトーションばね60のセットトルクの大きさによって決まり、ピストン位置P2は、移動路59内でのインターナルギヤ55の突片56の移動範囲で決まる。また、ピストン位置P2に対応するピストン推力F1の大きさは、トーションばね60のばね定数で決まる。
【0043】
ここで、ブレーキパッド3、4の熱膨張を考慮しない最低限必要なPKB時のピストン推力をF0とし、ブレーキパッド3、4の熱膨張をピストン位置P2とP1との差に等しくなるようにした場合を考える。このとき、ブレーキパッド3、4の熱膨張分を見込んで(リクランプをしないで)必要なピストン推力を得ようとすると、従来技術による電動ディスクブレーキでは、F2のピストン推力が必要となる。しかし、本実施形態では、上記したようにインターナルギヤ55が回転し始めるP1位置と回転停止するP2位置との間でピストン推力の増加傾向が緩やかになるので、前記F2よりもはるかに低いF1のピストン推力で十分となる。
【0044】
すなわち、本発明に係る電動ディスクブレーキによれば、駐車ブレーキ時にブレーキパッド3、4の熱膨張分を見込んで駐車ブレーキを効かせても、ピストン推力はそれほど増加せず、したがって、構成部品の強度を特別に上げる必要はなくなる。このことは、サイズ面および重量面で有利であることを意味し、従来の電動ディスクブレーキに対してブレーキパッド3、4の熱膨張分の押付け力を見込む場合よりも、はるかに小型、軽量化を達成できる。また、リクランプをしないので、消費電力の低減を図ることができ、しかも制御部も簡素となって装置に対する信頼性が向上する。さらに、通常制動時は、インターナルギヤ55が位置固定されて、従来技術の電動ディスクブレーキと同様のピストン位置とピストン推力との関係が保たれるので、駐車ブレーキに最低限必要なピストン推力F0以上での応答性が損なわれることがなく、この面でも信頼性が向上する。
【0045】
なお、上記実施形態においては、3つの基本軸からなる減速機構として、いわゆる2K−H−1型の遊星歯車減速機構15を用いたが、これに代えて他型式の遊星歯車機構や、ボール減速機構、サイクロイド減速機構、波動減速機構など、周知の減速機構を用いてもよい。
【0046】
また、上記実施形態においては、インターナルギヤ55に付勢力を加えるばね手段として、トーションばね60を用いた、これに代えて。ンターナルギヤ55の突片56に圧縮ばねを取付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る電動ディスクブレーキの全体構造を示したもので、図3のX−X矢視線に沿う断面図である。
【図2】本電動ディスクブレーキの全体構造を示したもので、図6のY−Y矢視線に沿う断面図である。
【図3】本電動ディスクブレーキの全体構造を示したもので、図6のZ−Z矢視線に沿う断面図である。
【図4】本電動ディスクブレーキの全体構造を示す正面図である。
【図5】本電動ディスクブレーキの全体構造を示す平面図である。
【図6】本電動ディスクブレーキの全体構造を示す背面図である。
【図7】本電動ディスクブレーキにおける駐車ブレーキ機構の構造とこれに関連する周辺要素とを模式的に示したもので、(A)は一部断面として示す平面図、(B)は正面図、(C)は一部断面として示す側面図である。
【図8】本電動ディスクブレーキにおける駐車ブレーキ機構とこれに関連する周辺要素との作動状態を模式的に示したもので、(A)は一部断面として示す平面図、(B)は正面図、(C)は一部断面として示す側面図である。
【図9】本電動ディスクブレーキにおける駐車ブレーキ機構とこれに関連する周辺要素との作動状態を模式的に示したもので、(A)は一部断面として示す平面図、(B)は正面図、(C)は一部断面として示す側面図である。
【図10】本電動ディスクブレーキにおける駐車ブレーキ機構とこれに関連する周辺要素との作動状態を模式的に示したもので、(A)は一部断面として示す平面図、(B)は正面図、(C)は一部断面として示す側面図である。
【図11】本電動ディスクブレーキの制動特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1 ディスクロータ、 2 キャリア
3、4 ブレーキパッド、 6 電動キャリパ
10 キャリパ本体、 11 ピストン
12 モータ、 29 モータのステータ、 30 モータのロータ
13 ボールランプ機構(回転−直動変換機構)
15 遊星歯車減速機構(3つの基本軸からなる減速機構)
55 インターナルギヤ(第3の軸)
56 インターナルギヤの突片
59 突片の移動路
60 トーションばね(ばね手段)
64 ギヤレバー(係止手段)
70 ラチェット(駐車ブレーキ機構)
71 ラチェットレバー(駐車ブレーキ機構)
72 ソレノイド(駐車ブレーキ機構の駆動源)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキパッドを押圧するピストンと、モータと、該モータの回転を直線運動に変換して前記ピストンに伝達する回転−直動変換機構と、前記モータのロータの制動解除方向への回転をロックおよびアンロック可能な駐車ブレーキ機構とを備え、前記モータのロータの回転に応じて前記ピストンを推進して、ブレーキパッドをディスクロータに押付けて制動力を発生し、かつ前記駐車ブレーキ機構により前記モータのロータを制動位置に保持する電動ディスクブレーキにおいて、前記モータと前記回転−直動変換機構との間に、3つの基本軸からなる減速機構を設け、該減速機構の、前記モータおよび前記回転−直動変換機構の双方に対してフリーである第3の軸を所定範囲内で回動可能とし、かつ前記駐車ブレーキ機構が作動するときに前記第3の軸に係合し該第3の軸の回転に応じてピストン推進方向の力を蓄えるばね手段を設けたことを特徴とする電動ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記ばね手段は、セットトルクをもって配設される捩りばねであることを特徴とする請求項1に記載の電動ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記3つの基本軸からなる減速機構が、遊星歯車減速機構であることを特徴とする請求項1または2に記載の電動ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記駐車ブレーキ機構の動作と連動し前記第3の軸をロックおよびアンロックする係止手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の電動ディスクブレーキ。
【請求項5】
前記駐車ブレーキ機構は、ソレノイドを駆動源として作動し、該ソレノイドは、前記係止手段の駆動源として共用されることを特徴とする請求項4に記載の電動ディスクブレーキ。
【請求項1】
ブレーキパッドを押圧するピストンと、モータと、該モータの回転を直線運動に変換して前記ピストンに伝達する回転−直動変換機構と、前記モータのロータの制動解除方向への回転をロックおよびアンロック可能な駐車ブレーキ機構とを備え、前記モータのロータの回転に応じて前記ピストンを推進して、ブレーキパッドをディスクロータに押付けて制動力を発生し、かつ前記駐車ブレーキ機構により前記モータのロータを制動位置に保持する電動ディスクブレーキにおいて、前記モータと前記回転−直動変換機構との間に、3つの基本軸からなる減速機構を設け、該減速機構の、前記モータおよび前記回転−直動変換機構の双方に対してフリーである第3の軸を所定範囲内で回動可能とし、かつ前記駐車ブレーキ機構が作動するときに前記第3の軸に係合し該第3の軸の回転に応じてピストン推進方向の力を蓄えるばね手段を設けたことを特徴とする電動ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記ばね手段は、セットトルクをもって配設される捩りばねであることを特徴とする請求項1に記載の電動ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記3つの基本軸からなる減速機構が、遊星歯車減速機構であることを特徴とする請求項1または2に記載の電動ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記駐車ブレーキ機構の動作と連動し前記第3の軸をロックおよびアンロックする係止手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の電動ディスクブレーキ。
【請求項5】
前記駐車ブレーキ機構は、ソレノイドを駆動源として作動し、該ソレノイドは、前記係止手段の駆動源として共用されることを特徴とする請求項4に記載の電動ディスクブレーキ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−164111(P2008−164111A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355887(P2006−355887)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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