説明

電動パワーステアリング装置および電動パワーステアリング装置用モータ

【課題】 装置が小型で、操舵性能の悪化や騒音の増加が抑制された電動パワーステアリング装置およびそのモータを得る。
【解決手段】 ステアリング側に連結され、歯部7aが樹脂材で形成されたウオームホイール7とこれと噛合する歯部8aを有するウオーム軸8を備えたウオーム減速機構6と、ウオーム軸8に連結され、減速比がウオーム減速機構6よりも小さい歯車減速機構4と、歯車減速機構4に連結される回転軸5を有するブラシレスモータ2とを備えた。また、ウオーム減速機構6が収容されたギヤハウジング9に装着されるモータ1で、カップリング12を介してウオーム軸8に連結される歯車減速機構4と、歯車減速機構4に連結される回転軸5を有するブラシレスモータ2とを備え、歯車減速機構4とブラシレスモータ2とが一体に構成され、歯車減速機構4の減速比は、ウオーム減速機構6の減速比よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両等のステアリングの操舵力を軽減するための電動パワーステアリング装置および電動パワーステアリング装置用モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置は、ステアリングを操作した時のみにモータに通電される構成であるため車両等の燃費が向上し、最近の環境対策の高まりにより次第に排気量の大きい車両等にも採用が進んでいる。排気量の大きい車両になれば、モータに要求される出力も増加する。従来の装置では、モータの回転力をウオーム減速機構等を介して減速し回転力を増大させてステアリング側に伝達していた。排気量の大きい車両等にも適用できる装置とするためには、モータの体格を大きくしてモータの出力を増加させたり、ウオーム減速機構等の減速比を大きくして回転力を増大させる方法のほか、特許文献1のように、複数のモータを使用するなどの方法があった。
【0003】
【特許文献2】特開2001−151125号公報(段落[0002]−[0012]、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の装置では、排気量の大きい車両等への適用を図るために、モータの体格を大きくしたり複数のモータを使用するなど、装置が大型化する問題があった。
また、ウオーム減速機構の減速比を増加させる場合も、ウオーム減速機構が大型化する問題があった。ウオーム減速機構の減速比を増加させる場合には、転追性を確保するために、ウオームホイール側(ステアリング側)へ伝達される回転数が所定の回転数となるように、ウオーム側(モータ側)の回転数は高回転とする必要があり、このために騒音が増加するほか、ウオーム減速機構の発熱が大きくなって減速部の強度低下や減速効率の低下を引き起こし、その対応のために結果としてウオーム減速機構やモータが更に大型化するなどの問題があった。
排気量の大きい車両においては、特に装置の静音化も必要となってくる。
更に、ウオーム減速機構の減速比を増加させることに伴って、ウオームホイール側(ステアリング側)からウオーム側(モータ側)を回転させることができない所謂セルフロックが発生しやすくなる。このようにウオーム減速機構は、減速比を増加させていくと所謂ロストルクの増加が大きくなり、このために車両等のタイヤの向きを進行方向と一致させるようにタイヤの向きを変えようとする所謂セルフアライニングトルクの作用が低下して、電動パワーステアリング装置として重要なハンドル戻りやセンター感などの性能が悪化するという問題があった。
更にまた、減速比を増加させることに伴って、ステアリング側からみたモータ側の慣性モーメントやロストルクが大きくなるため、操舵フィーリングやハンドル戻り等の性能が悪化するといった問題もあった。
【0005】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、装置が小型に構成できるとともに、ロストルクや慣性モーメントの増加による操舵性能の悪化や騒音の増加が抑制された電動パワーステアリング装置および電動パワーステアリング装置用モータを得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る電動パワーステアリング装置においては、ステアリング側に連結され、少なくとも歯部が樹脂材で形成されたウオームホイールと該ウオームホイールと噛合する歯部を有するウオーム軸を備えたウオーム減速機構と、前記ウオーム軸に連結され、前記ウオーム減速機構の減速比よりも減速比が小さく構成された歯車減速機構と、この歯車減速機構に連結される回転軸を有するブラシレスモータとを備えたものである。
【0007】
この発明に係る電動パワーステアリング装置用モータにおいては、ステアリング側に連結され、少なくとも歯部が樹脂材で形成されたウオームホイールと該ウオームホイールと噛合する歯部を有するウオーム軸を備えたウオーム減速機構が収容されたギヤハウジングに装着される電動パワーステアリング装置用モータであって、カップリングを介して前記ウオーム軸に連結される歯車減速機構と、この歯車減速機構に連結される回転軸を有するブラシレスモータとを備え、前記歯車減速機構と前記ブラシレスモータとが一体に構成されているとともに、前記歯車減速機構の減速比は、前記ウオーム減速機構の減速比よりも減速比が小さく構成されているものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、装置を小型に構成することができるとともに、ロストルクや慣性モーメントの増加による操舵性能の悪化や騒音の増加を抑制することができる電動パワーステアリング装置および電動パワーステアリング装置用モータを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
実施の形態1を図1〜図8に基づいて説明する。なお、各図において同一または相当部分には同一符号を付して説明する。図1は、電動パワーステアリング装置の要部断面図、図2は、電動パワーステアリング装置の全体説明図である。図3は、図1に示す電動パワーステアリング装置用モータの正面図であって、図4は、図3をギヤハウジング側から見た側面図、図5は図1の歯車減速機構の要部断面図である。図6は、シャフトに一体形成されたメインギヤであって、図6(a)は左側面図、図6(b)は断面図、図6(c)は右側面図である。図7はサブギヤであって、図7(a)は左側面図、図7(b)は断面図、図7(c)は右側面図である。図8は、シザーズギヤの組立体の説明図であって、図8(a)は側面図、図7(b)は要部断面図である。
【0010】
図1において、電動パワーステアリング装置用モータ1は、ブラシレスモータ2と、このブラシレスモータ2の通電制御を行う制御装置3と、ブラシレスモータ2の回転力を減速する歯車減速機構4とを有している。制御装置3は、ブラシレスモータ2の径方向の側面に配置され、ブラシレスモータ2と一体化して構成されている。歯車減速機構4の入力側は、ブラシレスモータ2の図示しない回転子の回転軸5に連結されている。外歯歯車からなる歯車減速機構4は、図3及び図4のように、回転軸5から制御装置3側の方向に向かって一対の外歯歯車が配設され、歯車減速機構4はブラシレスモータ2の側に固定されてブラシレスモータ2と一体化されている。ウオーム減速機構6は、ウオームホイール7とウオーム軸8を有しており、このウオーム減速機構6は、ギヤハウジング9に収容されている。ウオームホイール7の出力は、コラム軸10(ステアリング側)に連結されており、ウオームホイール7のうち少なくとも歯部7aの部分はナイロン等の樹脂材で形成されている。歯車減速機構4の出力側はウオーム軸8に連結されており、鉄材等からなる金属性のウオーム軸8に設けられた歯部8aは歯部7aと噛合し、ウオーム軸8の回転数は減速されてウオームホイール7に伝達され、コラム軸10を駆動するように構成されている。
【0011】
電動パワーステアリング装置用モータ1に備えた歯車減速機構4のシャフト11の出力側の一端部に、焼結金属で形成されたカップリング12が圧入で固定されている。図1及び図2に示すように、電動パワーステアリング装置用モータ1は、ウオーム減速機構6が収容されたギヤハウジング9に装着され、カップリング12を介してウオーム軸8に連結される。ブラシレスモータ2の回転軸5の回転力は歯車減速機構4で減速された後、カップリング12の内周面に設けたストレートスプラインと係合して連結されたウオーム軸8に伝達され、更に、ウオーム減速機構6で減速されコラム軸10に伝達されて、ステアリングホイール13の操舵力をアシストするように構成されている。コラム軸10の回転力は、ユニバーサルジョイント等を介してラックアンドピニオン機構をなすギヤユニット14のピニオンに伝達され、このピニオンと噛合するラック15が、図2において左右に駆動されように構成されている。
【0012】
図5において、歯車減速機構4は、回転軸5に圧入で固定された外歯歯車からなる金属製のギヤ16と、このギヤ16と噛合する外歯歯車からなるシザーズギヤ17を有している。シザーズギヤ17は、メインギヤ18、サブギヤ19及び弾性体をなす金属製のコイルバネ20を有している。外歯歯車からなるメインギヤ17は、ナイロン等の樹脂材で形成されており、図6に示すように、金属製のシャフト11と樹脂成型により一体形成されている。シャフト11のブラシレスモータ2側の端部は、ブラシレスモータ2のハウジング21に外輪が固定され配設されたベアリング22に支持されている。シャフト11のウオーム軸8側にはベアリング23が配設され、ベアリング23の外輪を軸方向に押圧することでシャフト11をベアリング22側に押圧するための波ワッシャ24が配設されている。ベアリング23及び波ワッシャ24を収納しハウジング21と嵌合するところのブラケット25を、ウオーム軸8側からハウジング21にネジ26で固定して、歯車減速機構4はハウジング21に収容されている。
【0013】
図6において、シャフト11は、メインギヤ18との接合面に、シャフト11の周囲に一体に設けられた凹凸形状のローレット27を備えている。メインギヤ18の内径側には、サブギヤ19側に向かって軸方向に延出し、メインギヤ18と一体に形成された樹脂材からなるボス部28を有している。ローレット27の軸方向の両側には、円柱状のストレート部29を有している。メインギヤ18の内径側及びボス部28は、ローレット27の全体を覆い、更にローレット27の軸方向両側のストレート部29の途中にまでに亘っており、シャフト11と一体成型されている。メインギヤ18の内径側であってボス部28よりも外径側に、サブギヤ19側に向かって軸方向に突出し、周方向に等角度に配設された3個の突出部30を有している。この突出部30はメインギヤ18と樹脂材で一体に形成されている。
【0014】
図7は外歯歯車からなるサブギヤ19であって、ナイロン等の樹脂材で形成されており、サブギヤ19の内径側には突出部30を周方向に移動可能に収容し、軸方向に貫通した長穴状の3個の収容部31を有している。収容部31は、突出部30の位置に対応して設けられ、周方向に均等に120°間隔に設けられている。周方向に隣接する収容部31と収容部31との間にはサブギヤ19の歯幅よりも薄肉に構成された板状部32を備えている。
【0015】
図8は、図6のメインギヤ18のボス部28の外周面に、図7のサブギヤ19の内周面が遊嵌されるとともに、収容部31に突出部30が収容されて、メインギヤ18とサブギヤ19は互いに周方向に相対移動可能に組み付けられる。収容部31の一面と、その一面と周方向に対向する突出部30との間に、弾性体をなす金属製のコイルバネ20がサブギヤ19の軸方向側面側から配設されている。シャフト11のウオーム軸8側に、ベアリング23及びカップリング13が圧入され固定されている。更に、サブギヤ17の軸方向端面から窪んで形成された板状部32に当接するように円環状のワッシャ33を配設し、更にワッシャ33と当接する円環状のスペーサ34を配設する。このようにして、シャフト11の一端をベアリング22の内輪に挿入し、波ワッシャ24を配設してブラケット25をネジ26で固定する。
【0016】
図8(a)に示すように、シザーズギヤ17のメインギヤ18とサブギヤ19の両者間にはコイルバネ20による周方向の弾性力が作用して、メインギヤ18の歯面とサブギヤ19の歯面とは相対的に周方向に僅かに回転してずれた状態に構成されている。この周方向にずれた角度の大きさは、シザーズギヤ17とギヤ16の間に生じるバックラッシュに相当する角度よりも大きく構成されている。このように構成されたシザーズギヤ17をギヤ16に組み付けて噛合させることによって、シザーズギヤ17とギヤ16の間のバックラッシュを取り除くことができる。
【0017】
次に、このように構成された実施の形態1の動作について説明する。この電動パワーステアリング装置用モータ1は、コラム軸10に設けた操舵トルクセンサー等の信号やブラシレスモータ2に備えた回転センサの信号に基づいて、制御装置3からブラシレスモータ2の図示しない固定子巻線に所定の通電を行い、回転子に設けた永久磁石と固定子との電磁作用によって回転軸5が回転し、その回転力が歯車減速機構4で減速された後、更にウオーム減速機構6で減速されコラム軸10に伝達されて、ステアリングホイール13の操舵力をアシストして、ドライバーの操舵力を軽減することができるものである。なお、この電動パワーステアリング装置用のブラシレスモータ2は、電圧12V、通電電流80A程度のモータであり、小型、低騒音でロストルクや慣性モーメントが小さく安価なモータが要求されている。
【0018】
以上のように、実施の形態1のものでは、ステアリング側に連結され、少なくとも歯部7aが樹脂材で形成されたウオームホイール7と該ウオームホイール7と噛合する歯部8aを有するウオーム軸8を備えたウオーム減速機構6と、前記ウオーム軸8に連結され、前記ウオーム減速機構6の減速比よりも減速比が小さく構成された歯車減速機構4と、この歯車減速機構4に連結される回転軸5を有するブラシレスモータ2とを備えたので、電動パワーステアリング装置を全体として小型に構成することができるとともに、ハンドル戻りや操舵フィーリングといった操舵性能の悪化や騒音の増加が抑制された電動パワーステアリング装置を得ることができる。
【0019】
また、ステアリング側に連結され、少なくとも歯部7aが樹脂材で形成されたウオームホイール7と該ウオームホイール7と噛合する歯部8aを有するウオーム軸8を備えたウオーム減速機構6が収容されたギヤハウジング9に装着される電動パワーステアリング装置用モータ1であって、カップリング12を介して前記ウオーム軸8に連結される歯車減速機構4と、この歯車減速機構4に連結される回転軸5を有するブラシレスモータ2とを備え、前記歯車減速機構4と前記ブラシレスモータ2とが一体に構成されているとともに、前記歯車減速機構4の減速比は、前記ウオーム減速機構6の減速比よりも減速比が小さく構成されているので、モータ部が小型化されるほか装置全体としても小型に構成することができるとともに、ハンドル戻りや操舵フィーリングといった操舵性能の悪化や騒音の増加が抑制された装置を得ることができる。
【0020】
ウオーム減速機構6は、比較的小型に高減速比を得ることができて低騒音であるという特長があるが、その減速比を例えば2倍にするといった場合には、上述のようにウオーム減速機構6の大型化等を引き起こすほか、ウオーム軸8の回転数が倍増するために発熱による歯部7aの強度低下や減速効率の低下によって装置が大型化したり、騒音が増加するというような問題があるため、電動パワーステアリング装置用としては容易にウオーム減速機構6の減速比を増加させることができない。そこで、ウオーム減速機構6の減速比よりも減速比が小さく構成された減速比が2程度の歯車減速機構4を、ウオーム減速機構6とブラシレスモータ2との間に介在させて、ウオーム軸8の回転数の増加を抑制し、全体として減速比を増加させるようにしたため、ウオーム減速機構6の上記特長を生かしつつ、ハンドル戻り等の悪化や騒音の増加を抑制して、ブラシレスモータ2の小型化をはじめ全体として装置を小型に構成することができる。
ウオーム減速機構6を変更せずに、歯車減速機構4の減速比を変更することで、ウオーム減速機構6の共用化が図れ、装置としての減速比の変更も比較的容易に行うことができる。
なお、歯車減速機構4の減速比を、ウオーム減速機構6の減速比よりも大きくして構成することは、装置が全体として大型化するなどウオーム減速機構6の特長を生かせないものとなってしまう。
【0021】
また、モータ部も小型化できるため、回転子の慣性モーメントが減少して操舵フィーリングの悪化を抑制できるほか、このブラシレスモータ2の回転子には希土類磁石が使用されているため、高価な希土類磁石の使用量を減少できて、装置全体としてのコストアップも抑制することができる。
なお、ウオームホイール7側(ステアリング側)の回転数やトルクを変更しない場合においても、この実施の形態のように構成して減速比を増加させることによって、ブラシレスモータ2は、高回転で低トルクの小型のモータとすることができて、装置を小型化することができる。
【0022】
また、ウオーム減速機構6は食い違い軸の歯車であるため、オフセットして側方からブラシレスモータ2を配置することができるなど、装置のレイアウトの自由度が高いというメリットがある。特に、図2のようなコラムアシスト型においては、車両衝突時のクラッシャブルゾーンの確保が比較的容易であるなどの効果がある。
これに対して、例えば遊星減速機構だけで減速比を増加させたときには同軸に構成できるが、逆に装置のレイアウトの自由度が低下するほか、装置が大型化したり、特にギヤ音が大きくなってしまうなどの問題がある。また、遊星減速機構の減速比を変更するときは、比較的大掛かりな構造変更が必要となってしまう。
また、外歯歯車などで構成される平行軸歯車減速だけで減速比を増加させる場合や、かさ歯車などで構成した交差軸歯車減速だけで減速比を増加させた場合も、装置が大型化したり、装置のレイアウトの自由度が低下したり、特にギヤ音が大きくなってしまうなどの問題がある。ラック15をラック15と同軸のボールネジ減速機構で駆動するラック同軸型では、ボールネジ減速機構だけで減速比をこのように増加させることは現実的に困難で、装置のレイアウトの自由度も乏しく、装置が大型・複雑で、装置の組付性も低下するなどの問題がある。
また、比較的減速比の低いウオーム減速機構6を直列に連結して構成する場合では、装置が大型化・複雑化する問題があるほか、ブラシレスモータ2側のウオーム軸8の回転数が高回転となることによる前述のような問題がある。
なお、歯車減速機構4であるので、ベルト等による減速機構と比べて小型に構成できて、滑りがなく、ベルト等の張力によるロストルクの増加もないなど電動パワーステアリング用に適した装置を得ることができるとともに、ブラシレスモータ2と歯車減速機構4との一体化も比較的容易で装着性も良い装置とすることができる。
【0023】
歯車減速機構4をウオーム減速機構6とブラシレスモータ2との間に介在させたため、ウオーム軸8の回転数が高回転とならないため騒音や発熱が抑制できるとともに減速効率の低下も抑制でき、伝達許容トルクも低下しない。歯部7aが樹脂材で形成されたウオームホイール7であっても発熱が抑制されるため歯部7aの変形等がなく装置が大型化しないとともに、歯部7aが樹脂材で形成されているために騒音が低減できる効果を合わせて得ることができる。
【0024】
モータはブラシレスモータ2で構成したため、モータの回転数が高回転となってもブラシ音がなく、シザーズギヤ17を用いて構成した歯車減速機構4であるので、バックラッシュが減少しギヤ音が低減できるなど、高回転となっても騒音の増加を抑制することができる。
また、バックラッシュを低減できるため操舵フィーリングも向上できる。
更に、ブラシレスモータ2であるため、ロストルクや回転子の慣性モーメントを低減できて、上記のように歯車減速機構4を介在させて減速比を増加させた場合においても、ハンドル戻りや操舵フィーリングの悪化が抑制されるという効果も合わせて得ることができる。
【0025】
カップリング12を介してウオーム軸8に連結される歯車減速機構4と、その歯車減速機構4に連結されるブラシレスモータ2とが一体に構成された電動パワーステアリング装置用モータ1を、ウオーム減速機構6が収容されたギヤハウジング9の側に装着するように構成されているので、小型で装着性の良い装置とすることができるほか、減速比の変更や部品の共用化も比較的容易におこなうことができる。また、カップリング12はストレートスプラインで連結されているので、ウオーム減速機構6やはすば歯車などの軸方向力をカップリング12で吸収することができる。なお、カップリング12はウオーム軸8側に設けてもよく、歯車減速機構4とウオーム軸8の間に介在させて両方と係合するように配設してもよい。
【0026】
歯車減速機構4の減速比は1.5〜2.5、ウオーム減速機構6の減速比は10〜20であって、歯車減速機構4の減速比とウオーム減速機構6の減速比の積は40以下で構成されているので、ウオーム減速機構6の大型化やハンドル戻り等の悪化を抑制しつつ、歯車減速機構4の大型化も抑制されて、ブラシレスモータ2は小型化できるなど全体として装置を小型に構成することができる。ウオーム減速機構6の減速比は、比較的小型に構成でき、歯部の発熱、減速効率、ロストルク等も許容レベルである10〜20として構成する。歯車減速機構4の減速比は、ウオーム減速機構6やブラシレスモータ2との大きさのバランスが良く比較的小型に構成できるとともに、騒音低減のための噛み合い率も確保できる1.5〜2.5で構成する。但し、歯車減速機構4の減速比とウオーム減速機構6の減速比の積が40を超えると、ブラシレスモータ2の回転子の回転強度低下、ロストルク・慣性モーメントの増加、制御装置3の制御の高速化等の問題が生じるため40以下で構成することによって、ハンドル戻り等の悪化を抑制しつつ、全体として装置を小型・安価に構成できて回転強度等についても問題のない装置とすることができる。なお、歯車減速機構4の減速比は、好ましくは1.7〜2.3程度とすることで効果的に構成することができ、減速比の変更時も変更部品が少なく、減速比の変更も比較的容易に行うことができる。
なお、歯車減速機構4を遊星歯車減速で構成しても良いが、遊星歯車減速は構造が複雑化し、歯車減速機構4の減速比が1.5〜2.5であるため太陽歯車が大型化するなど遊星歯車減速としては減速比が低めで小型化できるメリットが減少し、減速比の変更についても外歯歯車減速と比べて比較的大掛かりとなるため、外歯歯車減速を採用することが好ましい。また、遊星歯車減速では減速装置が同軸となるため装置のレイアウトの自由度も低下する。
【0027】
シザーズギヤ17は、外歯歯車からなるメインギヤ18及びサブギヤ19を軸方向に並設して構成されており、メインギヤ18の内径側には軸方向に延出したボス部28を有し、このボス部28の外周面にサブギヤ19の内周面が遊嵌され、サブギヤ19の内径側にはメインギヤ18とサブギヤ19の両者間に弾性力を付与するコイルバネ20を配設して構成されているので、構造が簡単・コンパクトであって、メインギヤ18にサブギヤ19が周方向に回転可能に遊嵌されているため、両者を組み合わせたときのギヤ精度も良い。 コイルバネ20は、駆動力の伝達をしないサブギヤ19の内径側に収容されているので、メインギヤ18の強度に影響を与えずその分メインギヤ18を小型化することができる。コイルバネ20は、メインギヤ18とサブギヤ19の両者間に周方向の弾性力を付与するので、弾性力を軸方向に付与するものと比べて、小型に構成することができる。
また、メインギヤとサブギヤの周方向の角度のずれは、バックラッシュ以上の角度としたので、バックラッシュを確実に除去することができる。
【0028】
シザーズギヤ17のメインギヤ18とサブギヤ19は、両者ともに樹脂材で形成されたはすば歯車で構成されているので、両者とも樹脂材で構成されたメインギヤ18とサブギヤ19によって騒音の発生や伝達が抑制され、はすば歯車を用いたことによる噛み合い率増加による騒音低減効果との相乗効果によって、騒音を効果的に低減することができる。歯面にグリースを塗布することで更に騒音を低減することができる。
更に、樹脂材のため軽量で、自己潤滑性があるために慣性モーメントやロストルクを低減できる効果がある。また、樹脂材で形成されシザーズギヤ17に噛合する相手側のギヤ16を金属製としたので、シザーズギヤ17の温度上昇を抑制することができる。
樹脂ギヤは金属製と比べて温度や吸湿等による寸法変化が大きくなるため、予めバックラッシュや中心間距離を大き目とすることがあるが、この場合においてもシザーズギヤ17であるのでバックラシュが低減されて騒音の増加を抑制することができる。
【0029】
メインギヤ18は、ボス部28とともに樹脂成型によってシャフト11に一体形成されているので、構造が簡単・コンパクトで、軸心に対する歯面のギヤ精度も良い。圧入等による固定ではないので破損のおそれもなく、圧入による精度悪化に伴う騒音の増加もない。特に、軸方向に延出したボス部28とともに一体形成されているので、メインギヤ18のシャフト11との固着力を向上させることができる。また、シャフト11にはローレット27による凹凸が設けられており、ローレット27は、メインギヤ18のボス部28を含めた軸方向長さの近傍まで設けてあるため、メインギヤ18がシャフト11に強固に固定される。メインギヤ18の軸方向両端面にはシャフト11にストレート部29を有しているため、シャフト11にメインギヤ18を樹脂成型時にバリが発生しにくい。
【0030】
メインギヤ18の内径側にはサブギヤ19側に突出した突出部30を有し、サブギヤ19の内径側には突出部30を周方向に移動可能に収容する収容部31を有しており、突出部30と収容部31との間に弾性体をなすコイルバネ20が配設されているので、構造が簡単・コンパクトで、サブギヤ19側に収容部31を設けたので、メインギヤ18の強度に影響を与えずその分メインギヤ18を小型化することができる。収容部31は周方向に均等に複数個設けたので、バランスよくコイルバネ20の弾性力を付与することができて、騒音を効果的に低減することができる。
【0031】
コイルバネ20はサブギヤ19の側面側から配設されるとともに、サブギヤ19の側面側にはコイルバネ20の脱落を防止するワッシャ33が配設されているので、組立が簡単で、簡単な構造で弾性体の脱落を防止することができる。更に、ワッシャ33をサブギヤ19から脱落しないように固定する構造にすることによって、シザーズギヤ17の集合体とすることができて、組付性等が向上する。
【0032】
サブギヤ19に作用する軸方向荷重は、金属材からなる円環状のワッシャ33と当接する金属材からなる円環状のスペーサ34を介してベアリング22の内輪(シャフト側)に係止されており、少なくともワッシャ33を介してシャフト11側で係止される構成であるので、特にはすば歯車によってサブギヤ19に発生する軸方向荷重を簡単な構成で係止することができる。ワッシャ33によってコイルバネ20の脱落も防止される。
なお、コイルバネ20はサブギヤ19の軸方向寸法に対して軸方向に隙間を持って配設されており、サブギヤ19はコイルバネ20を介さずにシャフト11側に係止されるため、コイルバネ20の弾性力に変動を与えず、安定して騒音を低減させることができる。
【0033】
収容部31は、サブギヤ19の軸方向に貫通しているとともに周方向に複数個形成されており、周方向に隣接する収容部31の間にはサブギヤ19の歯幅よりも薄肉の板状部32を備え、この板状部32にワッシャ33が配設されているので、小型化・軽量化が図れるとともに、板状部32と収容部31との肉厚の差が減少して樹脂成型されたサブギヤ19のギヤ精度が向上して、騒音を更に低減することができる。
【0034】
弾性体は、鉄材から形成されたコイルバネ20で構成されており、メインギヤ18とサブギヤ19の両者間の周方向に付与されるバネ荷重は200〜400gfであるので、ロストルクの増加を抑制しつつ、騒音を低減することができる。バネ荷重が弱いときは、ギヤ16をメインギヤ18とサブギヤ19によって確実に挟み込むことができず、シザーズギヤ17によるバックラッシュ低減効果が減少して騒音を抑制できず、バネ荷重が強いときは、組付性が低下するほかロストルクが増加してハンドル戻りが悪化するため、この実施の形態においては100gfのバネを3個(合計で300gf)として構成している。 弾性体をゴム材等で構成しても良いが、金属性のバネのほうが荷重が安定し耐熱性も向上させることができる。歯の端面側にクラウニングのように面取りを設けることで、シザーズギヤ17の組付性を向上させることができる。
【0035】
ブラシレスモータ2の通電制御を行う制御装置3を有し、この制御装置3をブラシレスモータ2の径方向に配置して該ブラシレスモータ2と一体化して構成した電動パワーステアリング装置用モータ1であって、外歯歯車からなる歯車減速機構4をブラシレスモータ2の回転軸5から制御装置3側の方向に向かって配設したので、歯車減速機構4がブラシレスモータ2の外形から飛び出す寸法を減少させることができるため、装置を小型化できるとともに耐振性も向上させることができる。
なお、この実施の形態では、電動パワーステアリング装置用モータ1のギヤ16がウオームホイール7側になるようにしてギヤハウジング9へ取り付けたが、回転軸5とシャフト11がオフセットする外歯減速の特徴を生かして、ギヤ16が反ウオームホイール側なるように取り付けるなど、取り付け上の最適な位置を選んでオフセット方向を選択することが可能で、レイアウト性の向上を図ることができる。
【0036】
また、上記実施の形態では、ウオーム減速機構6が収容されたギヤハウジング9に、歯車減速機構4を一体化した電動パワーステアリング装置用モータ1が取り付けられる形態の電動パワーステアリング装置で説明したが、上記実施の形態で説明した歯車減速機構4をギヤハウジング9に収容して構成し、そのギヤハウジング9に、歯車減速機構4を有さない電動パワーステアリング装置用モータ1の回転軸5を連結して取り付ける形態の電動パワーステアリング装置としてもよく、この場合も電動パワーステアリング装置を全体として小型に構成することができるとともに、ハンドル戻りや操舵フィーリングといった操舵性能の悪化や騒音の増加が抑制された電動パワーステアリング装置を得ることができる。なお、電動パワーステアリング装置用モータ1に歯車減速機構4を備えたほうが、装置の構成や減速比の変更等が比較的容易であるというメリットがある。
カップリング12とウオーム軸8の間に、ゴム等の弾性体を介在させて連結することによって、更に騒音が低減された装置とすることができる。
【0037】
また、上記実施の形態では、コラムアシスト型の電動パワーステアリング装置で説明したが、ギヤユニット14部にモータが装着されピニオン軸(ステアリング側)にアシスト力を伝達するピニオンアシスト型や、ラック15部にモータが装着され、ピニオン(ステアリング側)を介してラック15にアシスト力を伝達するラックアシスト型であっても良い。なお、歯車減速機構4を樹脂材からなるシザーズギヤ17を用いて構成している場合はより低騒音に構成できる効果があるが、この場合は温度や振動の耐環境性の面などから、コラムアシスト型の装置に適用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態1を示す電動パワーステアリング装置の要部断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1を示す電動パワーステアリング装置の全体説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1を示す電動パワーステアリング装置用モータの正面図である。
【図4】本発明の実施の形態1を示す電動パワーステアリング装置用モータの側面図である。
【図5】本発明の実施の形態1を示す歯車減速機構の要部断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1を示すシャフトに一体形成されたメインギヤであって、図6(a)は左側面図、図6(b)は断面図、図6(c)は右側面図である。
【図7】本発明の実施の形態1を示すサブギヤであって、図7(a)は左側面図、図7(b)は断面図、図7(c)は右側面図である。
【図8】本発明の実施の形態1を示すシザーズギヤの組立体の説明図であって、図8(a)は側面図、図7(b)は要部断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 電動パワーステアリング装置用モータ、 2 ブラシレスモータ、 4 歯車減速機構、 5 回転軸、 6 ウオーム減速機構、 7 ウオームホイール、 8 ウオーム軸、 9 ギヤハウジング、 11 シャフト、 12 カップリング、 17 シザーズギヤ、 18 メインギヤ、 19 サブギヤ、 20 弾性体、 28 ボス部、 30 突起部、 31 収容部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング側に連結され、少なくとも歯部が樹脂材で形成されたウオームホイールと該ウオームホイールと噛合する歯部を有するウオーム軸を備えたウオーム減速機構と、前記ウオーム軸に連結され、前記ウオーム減速機構の減速比よりも減速比が小さく構成された歯車減速機構と、この歯車減速機構に連結される回転軸を有するブラシレスモータとを備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
ステアリング側に連結され、少なくとも歯部が樹脂材で形成されたウオームホイールと該ウオームホイールと噛合する歯部を有するウオーム軸を備えたウオーム減速機構が収容されたギヤハウジングに装着される電動パワーステアリング装置用モータであって、カップリングを介して前記ウオーム軸に連結される歯車減速機構と、この歯車減速機構に連結される回転軸を有するブラシレスモータとを備え、前記歯車減速機構と前記ブラシレスモータとが一体に構成されているとともに、前記歯車減速機構の減速比は、前記ウオーム減速機構の減速比よりも減速比が小さく構成されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置用モータ。
【請求項3】
歯車減速機構の減速比は1.5〜2.5、ウオーム減速機構の減速比は10〜20であって、前記歯車減速機構の減速比と前記ウオーム減速機構の減速比の積は、40以下で構成されていることを特徴とする請求項2記載の電動パワーステアリング装置用モータ。
【請求項4】
歯車減速機構はシザーズギヤを備えているとともに、シザーズギヤは、外歯歯車からなるメインギヤ及びサブギヤを軸方向に並設して構成されており、メインギヤの内径側には軸方向に延出したボス部を有し、このボス部の外周面に前記サブギヤの内周面が遊嵌され、前記サブギヤの内径側には前記メインギヤと前記サブギヤの両者間に弾性力を付与する弾性体を配設して構成されていることを特徴とする請求項2または請求項3記載の電動パワーステアリング装置用モータ。
【請求項5】
シザーズギヤのメインギヤとサブギヤは、両者ともに樹脂材で形成されたはすば歯車で構成されていることを特徴とする請求項4記載の電動パワーステアリング装置用モータ。
【請求項6】
メインギヤは、ボス部とともに樹脂成型によってシャフトに一体形成されていることを特徴とする請求項4または請求項5記載の電動パワーステアリング装置用モータ。
【請求項7】
メインギヤの内径側にはサブギヤ側に突出した突出部を有し、サブギヤの内径側には前記突出部を周方向に移動可能に収容する収容部を有しており、前記突出部と前記収容部との間に弾性体が配設されていることを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれか1項記載の電動パワーステアリング装置用モータ。
【請求項8】
弾性体はサブギヤの側面側から配設されるとともに、前記サブギヤの側面側には前記弾性体の脱落を防止するワッシャが配設されていることを特徴とする請求項4〜請求項7のいずれか1項記載の電動パワーステアリング装置用モータ。
【請求項9】
サブギヤに作用する軸方向荷重は、ワッシャを介してシャフト側で係止される構成であることを特徴とする請求項4〜請求項8のいずれか1項記載の電動パワーステアリング装置用モータ。
【請求項10】
収容部は、サブギヤの軸方向に貫通しているとともに周方向に複数個形成されており、周方向に隣接する前記収容部の間には前記サブギヤの歯幅よりも薄肉の板状部を備え、この板状部にワッシャが配設されていることを特徴とする請求項4〜請求項9のいずれか1項記載の電動パワーステアリング装置用モータ。
【請求項11】
弾性体は、バネで構成されており、メインギヤとサブギヤの両者間の周方向に付与されるバネ荷重は200〜400gfであることを特徴とする請求項4〜請求項10のいずれか1項記載の電動パワーステアリング装置用モータ。
【請求項12】
ブラシレスモータの通電制御を行う制御装置を有し、この制御装置を前記ブラシレスモータの径方向に配置して該ブラシレスモータと一体化して構成した電動パワーステアリング装置用モータであって、外歯歯車からなる歯車減速機構を前記ブラシレスモータの回転軸から前記制御装置側の方向に向かって配設したことを特徴とする請求項2〜請求項11のいずれか1項記載の電動パワーステアリング装置用モータ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−283892(P2007−283892A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113188(P2006−113188)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】