説明

電動パワーステアリング装置

【課題】電動パワーステアリング装置において、剛性部材によってウォーム軸がウォームホイールから離間する(跳ね上がる)ことを規制し、離間することに起因して発生する異音を抑制できる、離間規制構成を提供する。
【解決手段】付勢機構51は、ハウジング31に形成されたネジ孔52に螺合するネジ部56を有する円柱状の剛性部材53と、剛性部材53をネジ孔52に螺入する方向(回転方向)に付勢する捩りコイルバネ54とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置(EPS)には、モータを駆動源としてステアリングシャフトを回転駆動することにより、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するものがある。こうしたEPSとして、モータにより回転されるウォーム軸及びステアリングシャフトに連結されるウォームホイールを噛合してなる減速機構(ウォーム減速機)を備えたものが知られている。
【0003】
ところが、上記のような減速機構を用いたEPSの場合、そのバックラッシュに起因して、操舵方向の切り替え時や逆入力の印加時等において、歯打ち音が発生することがある。そこで、こうしたEPSには、多くの場合、ウォーム軸の一端をモータの出力軸に対して傾動可能に連結するとともに、その他端をウォームホイールに近接する方向に付勢することにより、これらの軸間距離を調整してバックラッシュを除去する所謂アンチ・バックラッシュ・システムが組み込まれている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−323059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1の構成では、バネ部材(圧縮コイルバネ)を用いてウォーム軸をウォームホイールに近接する方向に付勢している。そのため、逆入力の印加等によりウォーム軸にウォームホイールから離間する方向の力が作用した場合において、ウォーム軸がバネ部材を圧縮させることよりウォームホイールから瞬間的に離間し(跳ね上がり)、再びウォームホイールに接触することで異音が発生する虞がある。特に、長期に亘る使用によりウォーム軸及びウォームホイールの各歯部の摩耗が進むと、ウォーム軸の傾動量が大きくなることで同ウォーム軸がウォームホイールから大きく離間するようになるため、上記のような異音が発生し易く、この点においてなお改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、異音の発生を抑制することのできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、ウォーム軸及びウォームホイールを噛合してなる減速機構と、前記減速機構を介してステアリングシャフトに駆動連結されるモータと、前記モータの出力軸に対して前記ウォーム軸の一端部を傾動可能に連結する軸継手と、前記ウォーム軸の他端部を前記ウォームホイールに近接する方向に付勢する付勢手段とを備えた電動パワーステアリング装置において、前記付勢手段は、前記ウォーム軸を前記ウォームホイール側に押し付ける剛性部材と、前記剛性部材が前記ウォームホイールに近接するように該剛性部材を付勢する付勢部材と、前記剛性部材が前記ウォームホイールから離間することを規制する離間規制機構とを有することを要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、ウォーム軸は、付勢手段によって剛性部材がウォームホイールに近接するように付勢されることで、同剛性部材によりウォームホイール側に押し付けられるつまり、付勢部材は、剛性部材を介してウォーム軸をウォームホイールに近接する方向に付勢する。また、剛性部材は、ウォームホイールから離間する方向の力が作用しても、離間規制機構により同ウォームホイールから離間することが規制される。そのため、逆入力の印加等によりウォーム軸にウォームホイールから離間する方向の力が作用しても、剛性部材によって同ウォーム軸がウォームホイールから離間する(跳ね上がる)ことが規制される。これにより、ウォーム軸がウォームホイールから離間することに起因して異音が発生することを抑制できる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記離間規制機構は、前記減速機構を収容するハウジングに形成されたネジ孔と、前記剛性部材に形成されるとともに前記ネジ孔に螺合するネジ部とを有するネジ機構であり、前記付勢部材は、前記剛性部材を前記ネジ孔に螺入させる方向に付勢することを要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、剛性部材は、ハウジングのネジ孔に螺合することから、回転方向の力が作用しなければ移動しないため、同剛性部材にウォームホイールから離間する方向の力が作用しても、同ウォームホイールから離間することが規制される。そして、上記構成では、剛性部材は、ネジ孔に螺入すること(螺子対偶)によりウォームホイールに近接するため、ウォーム軸及びウォームホイールの各歯部の摩耗に伴って、連続的にウォームホイールに近接することができるようになる。これにより、ウォーム軸がウォームホイールから離間することを確実に規制でき、効果的に異音の発生を抑制することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の電動パワーステアリング装置において、前記付勢部材は、捩りコイルバネであることを要旨とする。
上記構成によれば、捩りコイルバネにより剛性部材の回転方向に沿った付勢力が作用するため、効率的に剛性部材をネジ孔に螺入させることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の電動パワーステアリング装置において、前記剛性部材には、前記捩りコイルバネのコイル部が装着される支持部が形成されたことを要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、捩りコイルバネの螺旋状に捩られたコイル部が剛性部材の支持部に装着されるため、捩りコイルバネが傾倒することを防ぎ、安定して剛性部材をネジ孔に螺入させる方向(回転方向)に付勢することができるようになる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記離間規制機構は、前記減速機構を収容するハウジング及び前記剛性部材のいずれか一方に設けられたラチェット歯と、いずれか他方に設けられるとともに前記ラチェット歯に係脱可能なラチェット爪とを有するラチェット機構であり、前記付勢部材は、前記剛性部材を前記ウォームホイールに近接する方向に付勢することを要旨とする。
【0015】
上記構成によれば、剛性部材は、ラチェット爪がラチェット歯に係合することで、ウォームホイールから離間する方向の力が作用しても、同ウォームホイールから離間することが規制される。そして、剛性部材は、付勢部材によってウォームホイールに近接する方向に直接的に付勢されるため、安定してウォーム軸をウォームホイール側に押し付けることができるようになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、異音の発生を抑制することのできる電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】第1実施形態のEPSアクチュエータの概略構成を示す断面図。
【図3】第1実施形態の付勢機構を示す拡大断面図。
【図4】捩りコイルバネの平面図。
【図5】第2実施形態の付勢機構を示す拡大断面図。
【図6】別の付勢機構を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。これにより、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。なお、ステアリングシャフト3は、コラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9、及びピニオンシャフト10を連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪12の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
【0019】
また、EPS1は、モータ21を駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ22を備えている。本実施形態のEPSアクチュエータ22は、所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されており、モータ21は、減速機構24を介してコラムシャフト8と駆動連結されている。減速機構24は、コラムシャフト8に連結されたウォームホイール25と、モータ21に連結されたウォーム軸26とを噛合することにより構成されている。そして、モータ21の回転を減速機構24により減速してコラムシャフト8に伝達することによって、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成になっている。
【0020】
次に、本実施形態におけるEPSアクチュエータの構成について説明する。
図2に示すように、EPSアクチュエータ22は、減速機構24を収容するハウジング31を備えている。このハウジング31は、ウォーム軸26が収容されるウォーム軸収容部32、及び同ウォーム軸収容部32に連続して形成されるとともにウォームホイール25が収容されるウォームホイール収容部33を有している。ウォーム軸収容部32は、ウォーム軸26の軸方向(図2における左右方向)に延びる円柱状の空間であり、その一端側(図2における右側)は、モータ21が固定されるモータ固定孔34に連通している。なお、ウォーム軸収容部32の他端側(図2における左側)は外部に開口しており、この開口端はエンドカバー35により閉塞されている。
【0021】
モータ21は、ハウジング31に貫設されたステアリングシャフト3(コラムシャフト8)の軸方向に対して、その出力軸36の軸方向が直交するように同ハウジング31のモータ固定孔34に固定されている。そして、その出力軸36に連結されたウォーム軸26は、その両端がウォーム軸収容部32内に設けられた第1及び第2の転がり軸受37,38により回転可能に支持されるとともに、ステアリングシャフト3に連結されたウォームホイール25に噛合されている。なお、本実施形態では、これら第1及び第2の転がり軸受37,38には、ボール軸受が採用されている。また、ウォームホイール25は、ウォームホイール収容部33内において、回転可能且つ同ウォームホイール25の軸方向と直交する方向に移動不能に収容されている。
【0022】
ここで、本実施形態のEPSアクチュエータ22には、その減速機構24を構成するウォームホイール25とウォーム軸26との間の軸間距離を調整してバックラッシュを除去するための所謂アンチ・バックラッシュ・システムが組み込まれている。
【0023】
詳述すると、ウォーム軸26の一端部(図2における右側端部、以下基端部26aという)は、軸継手41を介してモータ21の出力軸36に対して傾動可能に連結されている。軸継手41は、互いに対向する方向に突出する複数の係合爪42a,43aを有する一対の継体(ヨーク)42,43と、これら継体42,43間に介在される弾性体44とを備えている。そして、軸継手41は、継体42,43間で弾性体44が圧縮されることにより、各継体42,43に接続されたウォーム軸26及び出力軸36間の傾動を許容しつつトルク伝達可能な構成となっている。なお、このような軸継手の詳細については、例えば特開2004−203154号公報等を参照されたい。
【0024】
また、ウォーム軸26の基端部26aは、第1の転がり軸受37により回転可能に支持されている。なお、第1の転がり軸受37は、ウォーム軸収容部32の一端側に形成された固定部46に設けられている。そして、第1の転がり軸受37は、ウォーム軸収容部32の一端に固定された固定プラグ47により、固定部46に固定されている。
【0025】
一方、ウォーム軸26の他端部(図2における左側端部、以下先端部26bという)は、第2の転がり軸受38により回転可能に支持されている。第2の転がり軸受38は、ウォーム軸収容部32の他端側に形成された同第2の転がり軸受38の外径よりも大きな内径を有する拡径部48に配置されており、ウォームホイール25に対して接離する方向(図2における上下方向)に移動可能に設けられている。そして、第2の転がり軸受38は、付勢手段としての付勢機構51によりウォームホイール25側に付勢されている。これにより、ウォーム軸26が上記第1の転がり軸受37に支承された部分を中心として傾動し、ウォーム軸26とウォームホイール25との軸間距離が調整されてバックラッシュが除去されるようになっている。
【0026】
(付勢構造)
次に、本実施形態のEPSにおけるウォーム軸をウォームホイール側に付勢するための付勢構造について詳細に説明する。
【0027】
図3に示すように、付勢機構51は、ハウジング31に形成されたネジ孔52に螺着される円柱状の剛性部材53と、剛性部材53の軸心を中心とした回転方向に同剛性部材53を付勢する付勢部材としての捩りコイルバネ54とを備えている。なお、剛性部材53は、金属等の剛性材料により構成されている。そして、捩りコイルバネ54が剛性部材53を介してウォーム軸26の先端部26b(第2の転がり軸受38)をウォームホイール25に近接する方向(図3における下方向、以下近接方向という)に付勢している。
【0028】
詳述すると、ネジ孔52は、ハウジング31におけるウォーム軸収容部32の他端側に形成されており、同ハウジング31におけるウォームホイール25と反対側(図3における上側)の側面31a及び拡径部48の内周面に開口している。また、ハウジング31の側面31aには、固定溝55aを有する突部55が形成されている。
【0029】
剛性部材53は、ネジ孔52に螺合するネジ部56と、ネジ部56の上端(図3における上側端部)に形成される支持部57と、同支持部57の上端に形成される頭部58とを有している。支持部57は、ネジ部56と同軸上に配置される円柱状に形成されている。また、頭部58は、支持部57よりも大きな外径を有する円柱状に形成されており、頭部58の側面には、固定溝58aが形成されている。そして、剛性部材53は、ネジ部56の下端(図3における下側端部)が第2の転がり軸受38に当接するとともに、支持部57及び頭部58がハウジング31の外部に突出した状態でネジ孔52に螺着されており、ウォームホイール25との間でウォーム軸26を挟み込む位置に配置されている。
【0030】
捩りコイルバネ54の螺旋状に捩られたコイル部54aは、支持部57の外周に装着されている。また、捩りコイルバネ54の一端54bは、頭部58に形成された固定溝58aに同頭部58と一体回転可能に固定される一方、その他端54cはハウジング31の突部55に形成された固定溝55aに固定されている。なお、本実施形態では、ネジ部56は、右ネジによって構成されており、捩りコイルバネ54は、その素線が右ネジと同じ螺旋方向に捩られることにより構成されている。そして、図4に示すように、捩りコイルバネ54は、取付前の自由状態よりも所定の角度範囲Tだけ捩り量が多くなるようにして、その両端が剛性部材53及びハウジング31に固定されている。これにより、剛性部材53をネジ孔52に螺入させる方向、すなわち剛性部材53を回転方向(時計回り)に沿って付勢する。なお、図4において、取付状態での捩りコイルバネ54の一端54bを実線で示し、自由状態での一端54bを二点鎖線で示す。
【0031】
このように構成された付勢機構51では、剛性部材53は、図3において太線の矢印で示すように、捩りコイルバネ54によって回転方向に付勢されることにより、ネジ孔52に螺入しようして、近接方向に付勢される。これにより、剛性部材53は、ウォーム軸26の先端部26bをウォームホイール25側に押し付けるようになっている。また、剛性部材53は、そのネジ部56がネジ孔52に螺合していることから、回転方向の力が作用しなければ移動しないため、ウォームホイール25から離間する方向(図3における上方向、以下離間方向という)の力が作用しても、ネジ孔52から螺脱せず、同ウォームホイール25から離間することが規制されるようになっている。従って、本実施形態では、ハウジング31のネジ孔52及び剛性部材53のネジ部56からなるネジ機構により、離間方向の力が剛性部材53に作用した場合に、同剛性部材53がウォームホイール25から離間することを規制する離間規制機構が構成されている。
【0032】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)付勢機構51は、ハウジング31に形成されたネジ孔52に螺合するネジ部56を有する円柱状の剛性部材53と、剛性部材53をネジ孔52に螺入する方向に付勢する捩りコイルバネ54とを備えた。
【0033】
上記構成によれば、剛性部材53は、ネジ部56がハウジング31のネジ孔52に螺合しているため、離間方向の力が作用しても、ウォームホイール25から離間することが規制される。そのため、逆入力の印加等によりウォーム軸26に離間方向の力が作用しても、剛性部材53によって同ウォーム軸26がウォームホイール25から離間する(跳ね上がる)ことが規制される。これにより、ウォーム軸26がウォームホイール25から離間することに起因して異音が発生することを抑制できる。
【0034】
特に、本実施形態では、剛性部材53は、ネジ孔52に螺入すること(螺子対偶)によりウォームホイール25に近接するため、ウォーム軸26及びウォームホイール25の各歯部の摩耗に伴って、連続的にウォームホイール25に近接することができるようになる。これにより、ウォーム軸26がウォームホイール25から離間することを確実に規制でき、効果的に異音の発生を抑制することができる。
【0035】
(2)捩りコイルバネ54により、回転方向に沿った付勢力が剛性部材53に作用するため、効率的に剛性部材53をネジ孔52に螺入させることができる。
(3)剛性部材53に、捩りコイルバネ54のコイル部54aが装着される円柱状の支持部57を形成したため、捩りコイルバネ54が傾倒することを防ぎ、安定して剛性部材53をネジ孔52に螺入させる方向に付勢することができるようになる。
【0036】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態を図面に従って説明する。なお、本実施形態と上記第1実施形態との主たる相違点は付勢機構の構成である。このため、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0037】
図5に示すように、付勢機構61は、ハウジング31に形成された挿入孔62に挿入される剛性部材63と、剛性部材63を近接方向(図5における下方向)に付勢する付勢部材としての圧縮コイルバネ64とを備えている。
【0038】
詳述すると、挿入孔62は、ハウジング31におけるウォーム軸収容部32の他端側に形成されており、側面31a及び拡径部48の内周面に開口した丸孔状に形成されている。剛性部材63は、挿入孔62の内径よりも小さな外径を有する円柱状の挿入部65と、挿入部65の上端(図5における上側端部)に形成されるとともに挿入孔62の内径よりも大きな外径を有する頭部66とを有している。そして、剛性部材63は、挿入部65の下端が第2の転がり軸受38に当接するとともに、頭部66がハウジング31の外部に突出した状態で、挿入孔62内に挿入されており、ウォームホイール25との間でウォーム軸26を挟み込む位置に配置されている。
【0039】
また、ハウジング31には、側面31aからウォームホイール25と反対側(図5における上側)に突出するとともに、その先端が直交する方向に屈曲した略L字状のバネ固定部67が形成されている。そして、圧縮コイルバネ64は、バネ固定部67と剛性部材63の頭部66との間に圧縮された状態で配置されることにより、剛性部材63を近接方向に付勢している。
【0040】
そして、挿入孔62の内周面には、その軸方向に並置される複数のラチェット歯68が形成されている。なお、本実施形態では、各ラチェット歯68は、挿入孔62の全周に亘って延びる環状に形成されている。そして、各ラチェット歯68の下面68aは、径方向に沿って延びる平坦な平面状に形成されるとともに、その上面68bは、近接方向に向かって縮径するテーパ状に形成されている。つまり、ラチェット歯68は、断面鋸歯状に形成されている。
【0041】
一方、挿入部65の外周面には、複数の板バネ69が周方向に間隔を空けて固定されている。各板バネ69は、離間方向(図5における上方向)に向かって拡開する略V字状に曲折されており、その固定端69aが挿入部65の外周面に固定されている。そして、板バネ69の自由端69bが径方向に弾性変形することでラチェット歯68に係脱可能に構成されている。すなわち、本実施形態では、板バネ69がラチェット爪に相当する。
【0042】
具体的には、自由端69bは、剛性部材63がウォームホイール25から離間しようとする場合には、ラチェット歯68の下面68aと係合して同剛性部材63の移動を規制する。これに対し、剛性部材63がウォームホイール25に近接しようとする場合には、ラチェット歯68の上面68bに倣って弾性変形することにより、ラチェット歯68から離脱して(ラチェット歯68との係合が解除されて)同剛性部材63の移動を許容する。従って、本実施形態では、上記板バネ69及びラチェット歯68からなるラチェット機構により離間規制機構が構成されている。なお、説明の便宜上、図5ではラチェット歯68及び板バネ69の大きさを実際の大きさよりも誇張して示している。
【0043】
このように構成された付勢機構61では、剛性部材63は、図5において太線の矢印で示すように、圧縮コイルバネ64によって近接方向に付勢されることにより、ウォーム軸26の先端部26bをウォームホイール25側に押し付けるようになっている。
【0044】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(4)付勢機構61は、ハウジング31に形成された挿入孔62に挿入される剛性部材63と、剛性部材63を近接方向に付勢する圧縮コイルバネ64とを備えた。そして、挿入孔62にラチェット歯68を形成するとともに、剛性部材63にラチェット歯68に係脱可能な板バネ69を固定した。
【0045】
上記構成によれば、剛性部材63は、離間方向の力が作用しても、板バネ69の自由端69bがラチェット歯68の下面68aに係合することで、ウォームホイール25から離間することが規制される。これにより、ウォーム軸26がウォームホイール25から離間することに起因して異音が発生することを抑制できる。そして、剛性部材63は、圧縮コイルバネ64によって、近接方向に直接的に付勢されるため、安定してウォーム軸26をウォームホイール25側に押し付けることができるようになる。
【0046】
なお、上記各実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記第1実施形態では、ネジ部56を右ネジによって構成するとともに、捩りコイルバネ54を右ネジと同じ螺旋方向に素線を捩ることにより構成したが、これに限らず、ネジ部56を左ネジによって構成するとともに、捩りコイルバネ54を左ネジと同じ螺旋方向に素線を捩ることにより構成してもよい。
【0047】
・上記第1実施形態では、捩りコイルバネ54のコイル部54aを剛性部材53の支持部57に装着したが、これに限らず、例えばハウジング31に上記第2実施形態と同様のバネ固定部を形成し、捩りコイルバネ54を同バネ固定部と剛性部材53の頭部58との間に配置するようにしてもよい。また、捩りコイルバネ54の他端54cをEPS1が搭載される車両本体(図示略)に固定してもよい。
【0048】
・上記第1実施形態では、捩りコイルバネ54により剛性部材53を回転方向に沿って付勢することで、剛性部材53がネジ孔52に螺入するようにした。しかし、これに限らず、例えば図6に示すように、剛性部材53の頭部58に、径方向に延出される延出部71が形成された補助部材72を固定し、圧縮コイルバネ73により、同図において太線で示すように、延出部71の先端をネジ孔52の接線方向に付勢することで、剛性部材53がネジ孔52内に螺入されるようにしてもよい。
【0049】
・上記第2実施形態では、圧縮コイルバネ64を、ハウジング31に形成されたバネ固定部67と剛性部材63の頭部66との間に配置したが、これに限らず、例えばEPS1が搭載される車両本体と剛性部材63の頭部66との間に配置してもよい。
【0050】
・上記第2実施形態では、ラチェット歯68を挿入孔62の全周に亘って延びる環状に形成したが、これに限らず、板バネ69の自由端69bが係合できれば、例えば軸方向視で円弧状に形成してもよい。
【0051】
・上記第2実施形態では、頭部66がハウジング31の外部に突出するように剛性部材63を挿入孔62に挿入し、同挿入孔62にラチェット歯68を形成した。しかし、これに限らず、例えば剛性部材63全体をハウジング31のウォーム軸収容部32内に収容し、同ウォーム軸収容部32における剛性部材63と対向する位置にラチェット歯を形成するようにしてもよい。
【0052】
・上記第2実施形態では、ラチェット歯68に係脱可能なラチェット爪を板バネ69により構成したが、これに限らず、ラチェット歯68に係合する爪部材と、同爪部材をラチェット歯68側に付勢するばね部材によりラチェット爪を構成してもよい。
【0053】
・上記第2実施形態では、挿入孔62の内周面にラチェット歯68を形成するとともに、挿入部65の外周面に板バネ69を固定したが、これに限らず、挿入孔62の内周面に板バネを固定するとともに、挿入部65の外周面にラチェット歯を形成してもよい。
【0054】
・上記第1実施形態では、ネジ機構により離間規制機構を構成し、上記第2実施形態ではラチェット機構により離間規制機構を構成した。しかし、これに限らず、付勢部材の付勢力により剛性部材がウォームホイール25に近接することを許容するとともに、離間方向の力が剛性部材に作用した場合に同剛性部材がウォームホイール25から離間することを規制できれば、その他の機構により離間規制機構を構成してもよい。
【0055】
・上記各実施形態では、本発明を所謂コラム型のEPS1に具体化したが、これに限らず、例えばピニオンシャフト10に対してアシスト力を付与する所謂ピニオン型のEPSに適用してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、3…ステアリングシャフト、21…モータ、24…減速機構、25…ウォームホイール、26…ウォーム軸、31…ハウジング、36…出力軸、41…軸継手、51,61…付勢機構、52…ネジ孔、53,63…剛性部材、54…捩りコイルバネ、54a…コイル部、54b…一端、54c…他端、56…ネジ部、57…支持部、58,66…頭部、62…挿入孔、64,73…圧縮コイルバネ、65…挿入部、68…ラチェット歯、68a…下面、68b…上面、69…板バネ、69a…固定端、69b…自由端、71…延出部、72…補助部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォーム軸及びウォームホイールを噛合してなる減速機構と、前記減速機構を介してステアリングシャフトに駆動連結されるモータと、前記モータの出力軸に対して前記ウォーム軸の一端部を傾動可能に連結する軸継手と、前記ウォーム軸の他端部を前記ウォームホイールに近接する方向に付勢する付勢手段とを備えた電動パワーステアリング装置において、
前記付勢手段は、
前記ウォーム軸を前記ウォームホイール側に押し付ける剛性部材と、
前記剛性部材が前記ウォームホイールに近接するように該剛性部材を付勢する付勢部材と、
前記剛性部材が前記ウォームホイールから離間することを規制する離間規制機構とを有することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記離間規制機構は、前記減速機構を収容するハウジングに形成されたネジ孔と、前記剛性部材に形成されるとともに前記ネジ孔に螺合するネジ部とを有するネジ機構であり、
前記付勢部材は、前記剛性部材を前記ネジ孔に螺入させる方向に付勢することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記付勢部材は、捩りコイルバネであることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記剛性部材には、前記捩りコイルバネのコイル部が装着される支持部が形成されたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記離間規制機構は、前記減速機構を収容するハウジング及び前記剛性部材のいずれか一方に設けられたラチェット歯と、いずれか他方に設けられるとともに前記ラチェット歯に係脱可能なラチェット爪とを有するラチェット機構であり、
前記付勢部材は、前記剛性部材を前記ウォームホイールに近接する方向に付勢することを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−106663(P2012−106663A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257810(P2010−257810)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】