説明

電動パワーステアリング装置

【課題】端当て回数を計数して管理すると共に、端当て回数に応じた電流制限値を算出してアシストを制限することにより、構成部品の軽量、小型化を図った電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】操舵トルク及び操舵トルクを微分した微分操舵トルクに基づいて端当てを検出し、端当て検出信号を出力する端当て検出手段と、端当て検出手段で検出された端当て回数1を計数する計数手段と、通算端当て回数を記憶して保持している記憶手段と、計数手段からの端当て回数1と記憶手段からの通算端当て回数とを加算した端当て回数2に対応した電流制限値を算出する電流制限値算出手段とを具備し、電流制限値算出手段で算出された電流制限値に基づいて電流指令値を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵系にモータによる操舵補助力を付与するようにしたコラムタイプの電動パワーステアリング装置に関し、特に中間シャフト(インターミディエイトシャフト)を具備し、ステアリング操作の端当て時に中間シャフト等のステアリング機構に作用する衝撃荷重を低減させるようにした電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリング装置をモータの回転力で補助負荷付勢する電動パワーステアリング装置は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に補助負荷付勢するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置は、アシストトルク(操舵補助力)を正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、電流指令値とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデュ−ティ比の調整で行っている。
【0003】
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を図1に示して説明すると、操向ハンドル1のコラム軸(ステアリングシャフト)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、操向ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、操向ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット100には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット100は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTと車速センサ12で検出された車速Vとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電流制御値Eによってモータ20に供給する電流を制御する。なお、車速VはCAN(Controller Area Network)等から受信することも可能である。
【0004】
コントロールユニット100は主としてCPU(又はMPUやMCU)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと、図2のようになる。
【0005】
図2を参照してコントロールユニット100の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10で検出された操舵トルクT及び車速センサ12からの車速Vは電流指令値演算部101に入力され、電流指令値演算部101において操舵トルクT及び車速Vに基づいて電流指令値Iref1が演算される。操舵トルクT、モータ角速度ω及びモータ角加速度ωがトルク補償部110に入力されてトルク補償値Cmが演算され、電流指令値演算部101で演算された電流指令値Iref1は操舵系の安定性を高めるための位相補償部102で位相補償され、位相補償部102で位相補償された電流指令値Iref2と、トルク補償部110で演算されたトルク補償値Cmとが加算部103に入力され、加算部103は加算結果である電流指令値Iref3を出力する。電流指令値Iref3は最大電流値制限部104に入力され、最大電流値制限部104は最大値を制限した電流指令値Iref4を出力する。
【0006】
電流指令値Iref4は減算部105に入力され、減算部105において電流指令値Iref4とフィードバックされているモータ電流値iとの偏差(Iref4−i)を求め、偏差(Iref4−i)はPI制御部(比例積分制御部)106でPI制御され、更にPWM制御部(パルス幅変調制御部)107に入力されてデューティ比の調整が行われる。PWM制御部107は電流制御値Eをインバータ108に出力し、インバータ108は電流制御値Eに基づいてモータ20を制御する。モータ20のモータ電流値iはモータ電流検出手段21で検出され、減算部105に入力されてフィードバックされる。
【0007】
モータ20にはレゾルバ等の回転センサ22が取り付けられており、回転センサ22からのモータ回転信号θはモータ角速度演算部23に入力され、モータ角速度演算部23はモータ20の回転角速度であるモータ角速度ωを演算する。更に、モータ角速度ωはモータ角加速度演算部24に入力され、モータ角加速度演算部24はモータ20の回転角加速度であるモータ角加速度ωを演算して出力する。
【0008】
トルク補償部110は、例えば微分補償部112、収れん性制御部113、慣性補償部114等を具備している。微分補償部112は応答速度を高めるために操舵トルクTを微分した微分操舵トルクTAを出力し、収れん性制御部113はモータ角速度ωに基づいて収れん性制御値Gaを出力し、収れん性制御値Gaと微分操舵トルクTAは加算部116で加算される。また、慣性補償部114はモータ角加速度ωに基づいて慣性補償値INaを出力し、慣性補償値INaと加算部116の出力値とが加算部117で加算され、加算部117は補償値Cmを出力して加算部103に入力する。
【0009】
収れん性制御部113は、車両のヨーの収れん性を改善するためにハンドルが振れ回る動作に対してブレーキをかけるためのものであり、慣性補償部114は、モータ慣性を加減速させるトルクを操舵トルクTから排除し、慣性感のない操舵感にするものである。
【0010】
ここにおいて、最近ステアリング機構の組み立て上の問題、車両走行時に発生する軸方向の変位や振動を吸収するなどの目的のために、ステアリング機構のコラム軸2の中間部に伸縮軸で成る中間シャフト(インターミディエイトシャフト)を配設した中間シャフト機構が用いられている。図3はこのような中間シャフト4を備えたステアリング機構の外観を図1に対応させて示しており、トルクセンサ10や減速ギア3等を備えた駆動機構部30にはモータ20が設けられており、コラム軸2の中間部のユニバーサルジョイント4a及び4bの間に、伸縮可能な中間シャフト4が配設されている。
【0011】
中間シャフト4の詳細は例えば図4に示すような構造になっている。即ち、中間シャフト4は、端部にユニバーサルジョイント4bを構成するヨーク4b−1が溶接接合されたアウタチューブ41と、端部にユニバーサルジョイント4aを構成するヨーク4a−1が溶接接合されたインナシャフト42とで構成されている。アウタチューブ41の内周面には雌スプライン43が形成される一方、インナシャフト42の先端部44の外周面には雌スプライン43に嵌合する雄スプライン45が形成されている。尚、ユニバーサルジョイント4bは、ヨーク4b−1と、ジョイントヨーク4b−2と、スパイダ4b−3とを主要構成部材としている。また、雌スプライン43の表面、雄スプライン45の表面の少なくとも一方に、PTFE(四弗化エチレン樹脂)やポリアミド系樹脂の低摩擦の樹脂が層設されている。
【0012】
上述のような一般的な電動パワーステアリング装置では、一定以上のステアリング用車輪の転舵を阻止するためのラックエンド機構が設けられていて、操向ハンドルを中立位置から左右にそれぞれ所定のラックエンド角まで操舵して、ステアリング用車輪の転舵角(操舵角に対応)が最大転舵角に達すると、それ以上は同方向にステアリング用車輪を転舵できないようになっている。このため、操向ハンドルがラックエンド角近傍まで操舵されているにも拘わらず、操向ハンドルに大きな操舵トルクが加えられたことに応答して、モータからステアリング装置に大きな操舵補助力が与えられると、ステアリング機構に大きな衝撃が加わって、大きな衝撃音を発生したり、ステアリング機構の構成部品の破損や変形などを生じたりする恐れがある。
【0013】
このような問題を回避する装置として、例えば特公平6−4417号公報(特許文献1)に開示されているものがある。特許文献1に記載の装置では、操向ハンドルの操舵角がラックエンド角近傍の所定角度に達した後、目標電流値を転舵角の増加に伴って減少させて行き、転舵角がラックエンド角に達したときに目標電流値を零にすることにより、ステアリング機構に大きな衝撃が加わることを防止するようにしている。即ち、図5の破線で示すように所定角度から操舵エンドである最大操舵角に至る範囲AR内では、モータの電機子電流Iaが次第に減少し、電機子電流Iaが0となるように制御され、また、負荷トルクの増大に伴って操舵トルクLpは、モータにより付与されるアシストトルクが次第に減少し、操向ハンドルの最大操舵角では手動操作時の操舵トルクTに等しくなり、操向ハンドルのストロークエンド部ではモータが駆動されず、モータの過負荷状態及び発熱の発生を防止できると共に、消費電力を低減することができる。つまり、特許文献1に記載の装置は、操舵角が所定値以上で目標電流値を減少させるようにして、中間シャフト、タイロッド、ピニオンラック機構、ハブユニット等のステアリング機構の耐久性向上やモータの消費電力低減を目的としている。
【0014】
しかしながら、上記特許文献1に記載の装置ではアシストトルクを減少させる作用が常に一定であり、ステアリング機構の耐久性が長期的に減退していくことに対しての考慮が全くなされておらず、恒久的な耐久性向上の必要が要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特公平6−4417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
操舵アシストした時のラックがストッパに当たったり(端当て)、タイヤが縁石に当たったりした場合、ステアリング装置の応力が高くなる。ステアリング機構はこの応力に耐えるように設計されているが、より大型の車両に電動パワーステアリング装置が搭載されるのに伴い、部品が大型化する傾向にある。部品の大型化はコストアップにもなり車両に好ましくなく、部品を軽量、小型化した上でステアリング機構の耐久性が長期的に減退した場合でも、ステアリング機構を最悪損傷することのない装置の出現が望まれている。
【0017】
本発明は上述のような事情からなされたものであり、本発明の目的は、端当て回数を計数して管理すると共に、端当て回数に応じた電流制限値を算出してアシストを制限することにより、構成部品の軽量、小型化を図った電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、トルクセンサで検出された操舵トルク及び車速に基づいて電流指令値を演算し、前記電流指令値に基づいてモータによるアシスト力を操舵系に付与するようになっている電動パワーステアリング装置に関し、本発明の上記目的は、前記操舵トルク及び前記操舵トルクを微分した微分操舵トルクに基づいて端当てを検出し、端当て検出信号を出力する端当て検出手段と、前記端当て検出手段で検出された端当て回数1を計数する計数手段と、通算端当て回数を記憶して保持している記憶手段と、前記計数手段からの前記端当て回数1と前記記憶手段からの通算端当て回数とを加算した端当て回数2に対応した電流制限値を算出する電流制限値算出手段とを具備し、前記電流制限値算出手段で算出された電流制限値に基づいて前記電流指令値を制限することにより達成される。
【0019】
本発明の上記目的は、前記電流制限値算出手段の出力特性が、前記端当て回数2が所定値1までは一定であり、前記端当て回数2が前記所定値1を超えると徐々に線形的に小さな値となることにより、或いは前記電流制限値算出手段の出力特性が、前記端当て回数2が所定値2までは一定であり、前記端当て回数2が前記所定値2を超えると徐々に非線形で小さな値となることにより、或いは前記電流制限値算出手段の出力特性が、前記端当て回数2が所定値3までは一定であり、前記端当て回数2が前記所定値3を超え所定値4(>所定値3)以下までは階段状に一定値1に減少し、前記端当て回数2が前記所定値4を超えると階段状に一定値2(<一定値1)に減少することのより、或いは前記電流制限値算出手段の出力特性が、前記端当て回数2が所定値5を超えると階段状にだ一定値3に減少することにより、或いは前記端当て検出手段が、前記操舵トルクが操舵トルク所定値を超えたことを検出して検出信号1を出力する第1比較部と、前記微分操舵トルクが微分操舵トルク所定値を超えたことを検出して検出信号2を出力する第2比較部と、前記操舵トルク及び前記微分操舵トルクの符号が同一であることを判別して判別信号を出力する符号判別手段と、前記検出信号1及び2、前記判別信号が出力されたときに前記端当て検出信号を出力する出力手段とで構成されていることにより、或いは前記記憶手段が不揮発性メモリであることにより、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る電動パワーステアリング装置によれば、ラックがストッパに当たる端当てを電気的に検出し、通算の端当て回数に応じた電流制限値を算出し、算出された電流制限値によって電流指令値、モータ印加電圧等を制限してアシストトルクを低減しているので、ステアリング機構の耐久性が長期的に減退した場合でも、安全な操舵アシストを実現することができる。
【0021】
また、通算の端当て回数が多くなったときにアシストトルクを低減するようにしているので、構成部品の強度を小さくすることが可能であり、ステアリング機構を軽量、小型化することができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一般的な電動パワーステアリング装置の構成例を示す図である。
【図2】コントロールユニットの一例を示すブロック構成図である。
【図3】中間シャフトを具備した電動パワーステアリング装置の一例を示す機構図である。
【図4】中間シャフトの詳細例を示す機構図である。
【図5】従来装置の動作例を説明するための特性図である。
【図6】S−N線図の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態の一例を示すブロック構成図である。
【図8】端当て検出部の構成例を示すブロック図である。
【図9】電流制限値算出部の各種特性例を示す図である。
【図10】本発明の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は電動パワーステアリング装置の軽量、小型化を図り、中間シャフト、タイロッド、ピニオンラック機構、ハブユニット等のステアリング機構の耐久性向上を主要な目的としており、そのためにラックがストッパに当たる端当て回数を計数して管理すると共に、端当て回数に応じた電流制限値を算出してアシストを制限するようにしている。アシストの制限はモータ出力トルクを制限できれば良く、電流指令値の制限、操舵トルクの制限、モータ印加電圧の制限などでも良い。
【0024】
ステアリング機構の構成部品・材料に用いられる機械用鍛造鋼の寿命疲労特性は一般的にS−N線図で表わされる。S−N線図は図6に示すように、高い応力で負荷回数が増加すると疲労破壊を発生させる特性を、繰り返し回数(x軸)及び負荷応力(y軸)で表わしたものである。応力比Sは実際の応力Saと引っ張り強さの応力Suの比であり、S=Sa/Suで表わされる。この特性は一般的に応力が繰返し回数に応じて減少するが、繰返し回数が増加すると応力が安定する(疲労限界)。図6は鋼(炭素鋼、ハイテン鋼(ハイテンション鋼)、クロモリ鋼(クロムモリブデン鋼)など)及びチタンのS−N線図であり、繰返し数が10位までは右下がりの応力減少特性となっており、このことは、繰返し数が多くなるほどより小さい応力で疲労を起こすことを意味している。繰返し数が10位以上からは繰返し数がいくら多くなっても疲労を起こす応力は変わらないことを表わしている(疲労限界)。疲労限度未満の繰返し応力であれば無限に加えても疲労せず、多くの鋼材の疲労限界は引っ張り強さの50〜60%である。
【0025】
操舵アシストした時のラックがストッパに当たったり(端当て)、タイヤが縁石に当たったりした場合、ステアリング装置の入力系の応力が高くなる。この応力に耐えるように設計されているが、部品が大型化する傾向にある。そのため、本発明では、通算の端当て回数の把握によってステアリング機構が金属疲労を起こさない範囲で、つまりS−N特性に合わせるように端当て回数とアシスト出力を減少させることで、ステアリング操作の端当て時に中間シャフト等のステアリング機構に作用する衝撃荷重を低減させると共に、構成部品の軽量、小型化を図っている。これにより、ステアリング機構の耐久性が長期的に減退した場合でも、安全な操舵アシストを実現することができる。
【0026】
以下に、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【0027】
図7は本発明の実施形態の一例を図2に対応させて示しており、本発明では、ラックがストッパに当たる端当てを検出する端当て検出手段としての端当て検出部120と、端当て検出部120で検出された端当て検出信号Nを計数する計数手段としてのカウンタ131と、カウンタ131の計数値CNを格納すると共に読み出し可能な記憶手段としてのメモリ133と、メモリ133から読み出した計数値CN1とカウンタ131の計数値CNを加算する加算部132と、加算部132で加算された端当て回数CN2を入力して電流制限値Lvを算出する電流制限値算出部130と、電流制限値算出部130で算出された電流制限値Lvを電流指令値Iref3と乗算し、電流指令値Iref3を制限する乗算部134とを具備している。なお、電流制限値算出部130と加算部132とで電流制限値算出手段を構成しており、乗算部134で制限された電流指令値Iref3aが最大電流値制限部104に入力され、以降の動作は図2の場合と同様である。
【0028】
端当て検出部120は操舵トルクT及び微分補償部112からの微分操舵トルクTAに基づいて端当てを検出するが、その構成例を図8に示して説明する。
【0029】
端当て検出部120は、操舵トルクTを入力してスレッショルドの所定値Tと大小を比較し、操舵トルクTが所定値Tを超えたときに検出信号Tsを出力する比較部121と、微分操舵トルクTAを入力してスレッショルドの所定値TAと大小を比較し、微分操舵トルクTAが所定値TAを超えたときに検出信号TAsを出力する比較部122と、操舵トルクTの符号を判別する符号判別部123と、微分操舵トルクTAの符号を判別する符号判別部124と、符号判別部123及び124の符号が一致するときに符号一致信号Ssを出力するアンド回路125と、検出信号Ts及びTAs、符号一致信号Ssが出力されたときに、所定時間経過後に端当て検出信号Nを出力するアンド回路126とで構成されている。アンド回路125及び126が出力手段を構成している。つまり、検出信号Ts及びTAs、符号一致信号Ssが共に出力されないと、アンド回路126から端当て検出信号Nは出力されない。
【0030】
また、電流制限値算出部130は端当て回数CN2に対応した電流制限値Lvを算出して出力するものであり、電流制限値Lvは、図9(A)に示すように端当て回数CN2が所定値CN2aとなるまでは“1.0”と一定であり、端当て回数CN2が所定値CN2aを超えると徐々に線形的に小さな値となり、最終的に約“0.6”に収束する。また、図9(B)は別の例であり、端当て回数CN2が所定値CN2bとなるまでは“1.0”と一定であり、端当て回数CN2が所定値CN2bを超えると徐々に非線形に小さな値となり、最終的に約“0.6”に収束する。更に図9(C)は階段状に複数回で電流制限値Lvが減少する例(本例は2段階で減少)を示しており、電流制限値Lvは、端当て回数CN2が所定値CN2c1となるまでは“1.0”と一定であり、端当て回数CN2が所定値CN2c1を超えて所定値CN2c2となるまでは“0.8”であり、所定値CN2c2を超えると“0.6”になる。図9(D)は1段階で電流制限値Lvが階段状に減少する例を示しており、電流制限値Lvは、端当て回数CN2が所定値CN2dとなるまでは“1.0”と一定であり、端当て回数CN2が所定値CN2dを超えると“0.6”に減少する。つまり、いずれの場合も端当て回数CN2が所定値CN2a、CN2b、CN2c1、CN2dとなるまでは電流制限値Lvが“1.0”となっているため、乗算部134での電流指令値の制限は実施されない。メモリ122は例えば不揮発性メモリであり、電源ON時に端当て回数CN2を記憶し、格納している端当て回数CN1を読み出すことができるようになっており、電源OFFとなっても端当て回数CN2を消去することなく保持している。
【0031】
このような構成において、その動作例を図10のフローチャートを参照して説明する。
【0032】
電源ONとなり(ステップS1)、電動パワーステアリング装置が駆動状態になると図2で説明したような動作が実行されると共に、メモリ133に保持されている端当て回数CN1が読み出されて加算部132に入力される(ステップS2)。なお、図2と同一の動作については、説明を省略する。
【0033】
トルクセンサ12からの操舵トルクT及び微分補償部112からの微分操舵TAは端当て検出部120に入力され、端当て検出部120は操舵トルクTが所定値Tを超え、微分操舵トルクTAが所定値TAを超え、かつ操舵トルクTの符号と微分操舵トルクTAの符号が一致したときに端当て検出信号Nを出力する(ステップS3)。即ち、操舵トルクTが所定値Tを超えると比較部121は検出信号Tsを出力し、微分操舵トルクTAが所定値TAを超えると比較部122は検出信号TAsを出力すると共に、操舵トルクTの符号と微分操舵トルクTAの符号が一致している場合には符号判定部123及び124の出力が同じで、アンド回路125から符号一致信号Ssが出力されるので、アンド回路126から端当て検出信号Nが出力される。
【0034】
端当て検出信号Nはカウンタ131で計数され(ステップS4)、メモリ133から読み出した端当て回数CN1と加算部132で加算され(ステップS5)、加算された通算の端当て回数CN2が電流制限値算出部130に入力され、電流制限値算出部130は図9の特性に従って電流制限値Lvを算出すると共に(ステップS6)、通算の端当て回数CN2がメモリ133に記憶される(ステップS7)。
【0035】
電流制限値算出部130は入力される端当て回数CN2に応じた電流制限値Lvを、例えば図9(A)、(B)、(C)又は(D)の特性に従って算出する。算出された電流制限値Lvは乗算部134に入力され、電流指令値Iref3に電流制限値Lvを乗算することにより同一若しくは減少された電流指令値Iref3aを出力して操舵制御する。これにより、端当て回数CN2に応じたアシストトルクの低減を実現することができる。この場合、端当て回数CN2が所定値CN2a、CN2b、CN2c1、CN2dに達したときに、電動パワーステアリング装置のシステムエラーとしてECUに記憶し、車両整備においてエラー情報を表示するようにしたり、ドライバに警告するようにしても良い。
【0036】
なお、上述の実施形態では電流指令値に電流制限値を制限するようにしているが、モータの出力特性を制限できれば、操舵トルクやモータ印加電圧等を制限することも可能である。また、制限の手法は減算処理でも良い。更に制限は端当て検出中のみ実施しても良いし、端当て検出から一定時間実施しても良い。
【0037】
上述の実施形態では端当ての検出を操舵トルク及び微分操舵トルクを用いて行っているが、舵角速度を検出条件に加え、舵角速度が所定値以下になったことをアンド条件に付加するようにしても良い。
【符号の説明】
【0038】
1 操向ハンドル
2 コラム軸(ステアリングシャフト)
3 減速ギア
4 中間シャフト(インターミディエイトシャフト)
5 ピニオンラック機構
6a、6b タイロッド
7a、7b ハブユニット
8L、8R 操向車輪
10 トルクセンサ
11 イグニションキー
12 車速センサ
14 バッテリ
20 モータ
21 モータ電流検出手段
22 回転センサ
23 モータ角速度演算部
24 モータ角加速度演算部
30 駆動機構部
100 コントロールユニット
101 電流指令値演算部
102 位相補償部
103 加算部
104 最大電流値制限部
105 減算部
106 PI制御部
107 PWM制御部
108 インバータ
110 トルク補償部
112 微分補償部
113 収れん性制御部
114 慣性補償部
120 端当て検出部
131 カウンタ
133 メモリ
130 電流制限値算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクセンサで検出された操舵トルク及び車速に基づいて電流指令値を演算し、前記電流指令値に基づいてモータによるアシスト力を操舵系に付与するようになっている電動パワーステアリング装置において、
前記操舵トルク及び前記操舵トルクを微分した微分操舵トルクに基づいて端当てを検出し、端当て検出信号を出力する端当て検出手段と、前記端当て検出手段で検出された端当て回数1を計数する計数手段と、通算端当て回数を記憶して保持している記憶手段と、前記計数手段からの前記端当て回数1と前記記憶手段からの通算端当て回数とを加算した端当て回数2に対応した電流制限値を算出する電流制限値算出手段とを具備し、
前記電流制限値算出手段で算出された電流制限値に基づいて前記電流指令値を制限することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記電流制限値算出手段の出力特性が、前記端当て回数2が所定値1までは一定であり、前記端当て回数2が前記所定値1を超えると徐々に線形的に小さな値となる請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記電流制限値算出手段の出力特性が、前記端当て回数2が所定値2までは一定であり、前記端当て回数2が前記所定値2を超えると徐々に非線形で小さな値となる請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記電流制限値算出手段の出力特性が、前記端当て回数2が所定値3までは一定であり、前記端当て回数2が前記所定値3を超え所定値4(>所定値3)以下までは階段状に一定値1に減少し、前記端当て回数2が前記所定値4を超えると階段状に一定値2(<一定値1)に減少する請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記電流制限値算出手段の出力特性が、前記端当て回数2が所定値5を超えると階段状にだ一定値3に減少する請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記端当て検出手段が、前記操舵トルクが操舵トルク所定値を超えたことを検出して検出信号1を出力する第1比較部と、前記微分操舵トルクが微分操舵トルク所定値を超えたことを検出して検出信号2を出力する第2比較部と、前記操舵トルク及び前記微分操舵トルクの符号が同一であることを判別して判別信号を出力する符号判別手段と、前記検出信号1及び2、前記判別信号が出力されたときに前記端当て検出信号を出力する出力手段とで構成されている請求項1乃至5のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
前記記憶手段が不揮発性メモリである請求項1乃至6のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−218553(P2012−218553A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85470(P2011−85470)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】