説明

電動ブレーキ装置

【課題】強度上の信頼性が高く、安価に構成することが可能な電動ブレーキ装置を提供すること。
【解決手段】電動ブレーキ装置EMBは、ピストン14からの軸線方向反力をその軸線に垂直な平面上の3箇所以上の複数の接触個所にて受ける反力受承部を備えている。ピストン14と前記反力受承部間には、ピストン14の軸線方向を中心線とする円錐面23dと、この円錐面23dに摺動可能に接触する球状面41aとを有して、ピストン14のブレーキキャリパ12に対する首振り動作を許容する首振り動作許容機構SMが設けられている。円錐面23dと球状面41aの接触によって形成される円の径が前記反力受承部の複数の接触個所を結ぶことで形成される多角形に内接する円の径よりも小さく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ブレーキ装置に係り、特に、支持体に組付けられるブレーキキャリパと、このブレーキキャリパに組付けられる電動モータおよびピストンと、前記電動モータと前記ピストン間に介装されて前記電動モータの回転を前記ピストンの軸線方向移動に変換する回転−直動変換機構と、前記ピストンの軸線方向移動によって押動されて被制動部材を制動する制動部材とを備えるとともに、前記ピストンからの軸線方向反力をその軸線に垂直な平面上の3箇所以上の複数の接触個所にて受ける反力受承部を備えている電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電動ブレーキ装置は、例えば、下記特許文献1に記載されていて、前記ピストンと前記反力受承部(ボールランプ機構のランププレート)間に摺動可能な球面接触部が円環帯状に設けられていて、前記ピストンがこれを軸線方向に移動させるネジ軸に対して傾斜可能な構成(すなわち、前記ピストンが前記ブレーキキャリパに対して首振り動作可能な構成)とされている。このため、制動時において、ブレーキキャリパの撓みや制動部材(ブレーキパッド)の偏摩耗に追従して、前記ピストンを円環帯状の球面接触部にて摺動させて傾動させることができ、制動部材(ブレーキパッドのライニング)を被制動部材(ディスクロータ)に均一に押しつけることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−176773号公報
【発明の概要】
【0004】
上記した特許文献1に記載されている電動ブレーキ装置においては、前記球面接触部の最外径が前記反力受承部の複数の接触個所を結ぶことで形成される多角形に内接する円の径よりも大きく設定されている。このため、万一、前記球面接触部での摺動が摩耗などにより阻害されている状態にて、前記ピストンが傾動すると、前記ピストンが前記球面接触部にて部分的に浮き上がって、前記ピストンは前記球面接触部における最外径の1点で前記球面接触部と係合することとなる。これに起因して、前記反力受承部の複数の接触個所の一部でも浮きが生じて、前記ピストンからの軸線方向反力は前記反力受承部の複数の接触個所に的確に分散されなくなり、前記反力受承部にて強度上の問題が生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、支持体に組付けられるブレーキキャリパと、このブレーキキャリパに組付けられる電動モータおよびピストンと、前記電動モータと前記ピストン間に介装されて前記電動モータの回転を前記ピストンの軸線方向移動に変換する回転−直動変換機構と、前記ピストンの軸線方向移動によって押動されて被制動部材を制動する制動部材とを備えるとともに、前記ピストンからの軸線方向反力をその軸線に略垂直な平面上の3箇所以上の複数の接触個所にて受ける反力受承部を備えている電動ブレーキ装置であって、前記ピストンと前記反力受承部間に、前記ピストンの軸線方向を中心線とする円錐面と、この円錐面に摺動可能に接触する球状面とを有して、前記ピストンの前記ブレーキキャリパに対する首振り動作を許容する首振り動作許容機構を備えており、前記円錐面と前記球状面の接触によって形成される円の径が前記反力受承部の複数の接触個所を結ぶことで形成される多角形に内接する円の径よりも小さく設定されていることに特徴がある。
【0006】
この場合において、前記多角形は、前記反力受承部の複数の接触個所における最外部を結ぶことで形成される多角形であってもよく、前記反力受承部の複数の接触個所における最内部を結ぶことで形成される多角形であることが望ましい。
【0007】
本発明による電動ブレーキ装置においては、前記電動モータの回転が前記回転−直動変換機構によって前記ピストンの軸線方向移動に変換される。このため、前記電動モータを回転駆動させることで、前記ピストンを軸線方向に移動させて、前記ピストンによって前記制動部材を前記ピストンの軸線方向に押動することができ、この制動部材によって前記被制動部材を制動することが可能である。
【0008】
また、前記ピストンと前記反力受承部間に、前記ピストンの軸線方向を中心線とする円錐面と、この円錐面に摺動可能に接触する球状面とを有して、前記ピストンの前記ブレーキキャリパに対する首振り動作を許容する首振り動作許容機構を備えている。このため、前記円錐面と前記球状面の接触部(円環線状の接触部)が摺動可能であるときには、制動時において、前記ブレーキキャリパの撓みや前記制動部材の偏摩耗に追従して、前記ピストンを円環線状の接触部にて摺動させて傾動させることができ、前記制動部材を前記被制動部材に均一に押しつけることが可能である。
【0009】
ところで、本発明による電動ブレーキ装置においては、前記円錐面と前記球状面の接触によって形成される円の径が前記反力受承部の複数の接触個所を結ぶことで形成される多角形に内接する円の径よりも小さく設定されている。このため、万一、前記円錐面と前記球状面の接触部(円環線状の接触部)での摺動が摩耗などにより阻害されている状態にて、前記ピストンが傾動し、前記ピストンが円環線状の接触部にて部分的に浮き上がって、前記ピストンが前記接触部の1点で前記接触部と係合することとなっても、前記ピストンが前記接触部と係合する箇所は、前記反力受承部の複数の接触個所を結ぶことで形成される多角形の内側であって、前記ピストンからの軸線方向反力によって前記反力受承部の複数の接触個所が浮くことはない。したがって、かかる状態でも、前記ピストンからの軸線方向反力は前記反力受承部の複数の接触個所に的確に分散されて強度上の信頼性が高まる。
【0010】
また、本発明による電動ブレーキ装置においては、ピストンからの軸線方向反力を受ける反力受承部が、ピストンの軸線に略垂直な平面上の3箇所以上の複数の接触個所に設定されている。また、ピストンと反力受承部間に設けた首振り動作許容機構が、ピストンの軸線方向を中心線とする円錐面と、この円錐面に摺動可能に接触する球状面とを有していて、円錐面と球状面が円環線状の接触部で摺動可能に接触している。このため、ピストンからの軸線方向反力を的確に分散することが可能であり、ピストンからの軸線方向反力を受ける部分が一点での接触である場合に比して、その部分の部材強度を低いものとすることが可能で、安価なものとすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による電動ブレーキ装置の一実施形態を示す要部断面図である。
【図2】図1に示した電動ブレーキ装置における回転クサビ(回転−直動変換機構)の分解斜視図である。
【図3】図1および図2に示した回転クサビ(回転−直動変換機構)における反力受承部の3個の接触箇所(コロ)における最外部を結ぶことで形成される多角形(三角形)と、これに内接する円と、図1の円錐面と球状面の接触によって形成される円との関係を示した図である。
【図4】図1に示したスラストニードルベアリングにおける反力受承部の40個の接触箇所(ニードル)と、図1の円錐面と球状面の接触によって形成される円との関係を示した図である。
【図5】図1に示した荷重センサにおける検出部(反力受承部の3個の接触箇所)を結ぶことで形成される多角形(三角形)と、これに内接する円と、図1の円錐面と球状面の接触によって形成される円との関係を示した図である。
【図6】図1に示した電動ブレーキ装置における摩耗補償機構の構成をアウター側から示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図6に示した本発明による電動ブレーキ装置は車両用のディスクブレーキ装置であり、この電動ブレーキ装置EMBは、車軸ハブ(図示省略の回転体)に組付けられて車輪(図示省略)と一体的に回転するディスクロータ11と、このディスクロータ11の外周部の一部分を跨ぐようにして配置されるブレーキキャリパ12と、このブレーキキャリパ12に組付けた電動モータ13およびピストン14等を備えている。
【0013】
また、電動ブレーキ装置EMBは、電動モータ13とピストン14間に介装した回転−直動変換機構としての回転クサビ20と、この回転クサビ20と電動モータ13間に介装したサイクロイド減速機30と、回転クサビ20とピストン14間に介装した首振り動作許容機構SMおよび摩耗補償機構40を備えていて、これらはブレーキキャリパ12内に組付けられている。
【0014】
また、電動ブレーキ装置EMBは、ディスクロータ11とピストン14間に介装したインナー側ブレーキパッド15と、ディスクロータ11とブレーキキャリパ12のアーム部12a間に介装したアウター側ブレーキパッド16を備えている。ディスクロータ11は、インナー側ブレーキパッド15のライニング15aとアウター側ブレーキパッド16のライニング16aによって挟持可能であり、制動時にインナー側ブレーキパッド15のライニング15aおよびアウター側ブレーキパッド16のライニング16aによって挟持されることにより、回転を制動される(ブレーキ力が発生する)ようになっている。
【0015】
ブレーキキャリパ12は、図1に示したように、ディスクロータ11の一部の外周を跨ぐ形状に形成されていて、上記したアーム部12aを有するとともにシリンダ部12bを有しており、周知のように、マウンティング17を介して図示省略の車体(支持体)に組付けられるようになっていて、マウンティング17に対してはロータ軸方向(ピストン14の軸線方向に平行)に移動可能に組付けられている。
【0016】
電動モータ13は、ケース13aにてブレーキキャリパ12のシリンダ部12bに一体的に組付けられていて、周知のように、ブレーキペダル(図示省略)の操作量(踏み込み量または踏力)に応じて回転駆動を電気制御装置(図示省略)によって制御されるように構成されている。また、電動モータ13は、出力軸13bにてサイクロイド減速機30の入力部材31に動力伝達可能に連結されている。
【0017】
ピストン14は、カップ状に形成されていて、ブレーキキャリパ12のシリンダ部12b内にリターンスプリング18(ピストン14を電動モータ13側に向けて軸線方向に付勢する圧縮コイルスプリング)とともに組付けられており、ディスクロータ11の軸線に平行な軸線方向に移動可能かつ首振り動作可能(ロータ軸方向に沿って移動可能かつブレーキキャリパ12に対して首振り動作可能)とされている。
【0018】
このピストン14は、その外周に軸線方向に延びるガイド溝14aを有していて、ガイドピン19によって軸線方向への移動を許容され回転を規制されている。ガイドピン19は、ブレーキキャリパ12に脱着可能に組付けられていて、先端部にてガイド溝14aに摺動可能に係合している。また、ピストン14は、ブレーキキャリパ12のシリンダ部12b外に突出する端部に切欠14bを有している。
【0019】
このため、ガイドピン19がブレーキキャリパ12から取り外されている状態にて、切欠14bに係合する工具(図示省略)を用いることにより、ブレーキキャリパ12に対してピストン14を回転することが可能であり、このピストン14の回転により同ピストン14をブレーキキャリパ12のシリンダ部12b内に移動させること(パッド交換後にピストン14を図1に示した初期位置に戻すこと)が可能である。なお、ピストン14の回転は、後述する摩耗補償機構40の出力部材42(環状の調整ネジ)に対してなされる。
【0020】
回転クサビ20は、電動モータ13の回転をピストン14の軸線方向移動(直線運動すなわち直動)に変換するものであり、ブレーキキャリパ12のシリンダ部12b内にサイクロイド減速機30およびホルダ51とともに組付けられている。また、回転クサビ20は、図1および図2に示したように、回転部材21と、3組の転動体22と、直動部材23を備えるとともに、各転動体22を回転可能に支持する環状の支持プレート24を備えている。
【0021】
回転部材21は、各転動体22に係合する回転カム21aを有するとともに、支持プレート24と直動部材23を貫通する筒部21bを有していて、電動モータ13の出力軸13bにラジアルニードルベアリング61を介して回転可能に組付けられている。また、回転部材21は、キー71を介してサイクロイド減速機30の出力部材32に動力伝達可能に連結されていて、サイクロイド減速機30の出力部材32と一体的に回転する。
【0022】
各転動体22は、図1〜図3に示したように、同軸的に配置された一対のローラによって構成されていて、周方向にて等間隔(120度の間隔)に配置されており、支持プレート24に対して径方向の軸線回り(径方向に配置した支持軸回りに)に回転可能に組付けられている。直動部材23は、各転動体22に係合する回転カム23aを有するとともに、回転部材21の直動部材23に対する回転方向の初期位置と回転量を規定する円弧状のストッパ突起23bを有していて、外周に形成したキー溝23c(図2参照)にてキー72を介してホルダ51に回転不能かつ軸線方向に移動可能に組付けられている(図1参照)。なお、円弧状のストッパ突起23bは、回転部材21の筒部21bに形成した扇状のストッパ突起21bo(図2参照)と係合・離脱可能に設けられている。
【0023】
サイクロイド減速機30は、それ自体周知のものであり、電動モータ13における出力軸13bの回転を減速して回転クサビ20の回転部材21に伝達するものであり、入力部材31と出力部材32を備えている。入力部材31は、ホルダ51に設けた係合部51aに係合する突起31aを有していて、電動モータ13における出力軸13bの偏心軸部13b1にラジアルニードルベアリング62を介して組付けられている。出力部材32は、入力部材31の外周に配置されていて、ホルダ51に対してラジアルボールベアリング63とスラストニードルベアリング64(図1および図4参照)を介して回転可能に組付けられている。
【0024】
ホルダ51は、ブレーキキャリパ12のシリンダ部12bに対してキー73を介して回転不能かつピストン14の軸線方向に移動可能に組付けられ、電動モータ13の出力軸13bに対してラジアルニードルベアリング65を介して組付けられている。また、ホルダ51には、図1および図5に示したように、3個の荷重センサ52が組付けられている。各荷重センサ52は、制動時におけるピストン14からの軸線方向反力(ブレーキ力に相当するもの)を検出して電動モータ13の回転駆動を制御する電気制御装置(図示省略)に出力するものであり、ピストン14の中心軸線を中心として周方向にて等間隔(120度の間隔)に配置されていて、先端部(検出部)にて電動モータ13のケース13aに当接している。
【0025】
一方、首振り動作許容機構SMは、ピストン14のブレーキキャリパ12に対する首振り動作を許容するものであり、ピストン14の中心軸線を中心線とする円錐面23dと、この円錐面23dに摺動可能に接触する球状面41aとを有している。円錐面23dは、回転クサビ20における直動部材23の内周部分に形成されている。球状面41aは、摩耗補償機構40における入力部材41の内周部分に形成されている。なお、円錐面23dの中心線は、ピストン14の軸線方向に一致しておればよく、ピストン14の中心軸線に一致している必要はない(ピストン14の中心軸線に平行であればよい)。
【0026】
摩耗補償機構40は、インナー側ブレーキパッド15のライニング15aとアウター側ブレーキパッド16のライニング16aが摩耗するときに、ライニングの摩耗量に応じてピストン14をディスクロータ11に向けて所定量ずつ間欠的に突出させるものであり、図1および図6に示したように、入力部材41と出力部材42とレバー43と捩りバネ44を備えている。
【0027】
入力部材41は、図1に示したように、上記した球状面41aを有するとともに、中間部左側に環状の摩擦係合面41bを有していて、回転クサビ20の回転部材21における筒部21bの外周に対して相対回転可能に配置されている。また、入力部材41は、連結ピン49と戻し捩りバネ48を介して回転クサビ20における回転部材21の筒部21bに連結されるとともに、その外周部にてキー74を介して回転クサビ20の直動部材23と一体的に軸線方向に移動可能に連結されていて、ブレーキキャリパ12に対して回転不能とされている。なお、直動部材23には、図2に示したように、キー74のためのキー溝23eが形成されている。
【0028】
戻し捩りバネ48は、一端を入力部材41に固着した連結ピン49に係止され、他端を回転部材21の筒部21bに形成した切欠21b4(図2参照)に係止されていて、回転部材21を初期位置(非制動位置)に向けて回転付勢している。このため、回転クサビ20の回転部材21が電動モータ13によって初期位置から回転されて制動状態とされるときには、戻し捩りバネ48が捩じられてバネ力を高められる。したがって、制動状態にある回転クサビ20の回転部材21は、電動モータ13への通電を遮断して出力軸13bを自由に回転可能とすることでも、戻し捩りバネ48によって初期位置(非制動位置)に戻すことが可能である。
【0029】
出力部材42は、図1および図6に示したように、環状の調整ネジであり、内周全周に多数のラチェット歯42aを有し、外周に雄ネジ42bを有していて、図1の右側面にて入力部材41の摩擦係合面41bに摩擦係合可能である。各ラチェット歯42aは、レバー43によって出力部材42を図6の時計回転方向に回転させるためのものであり、レバー43の爪43aが係合・離脱可能となっている。雄ネジ42bは、ピストン14の内周に形成した雌ネジ14cに対して軸線方向にて進退可能に螺着されていて、出力部材42が図6の時計回転方向に回転することで図1に示したピストン14がブレーキキャリパ12のシリンダ部12b外に向けた軸線方向に移動する(ディスクロータ11に向けて移動する)ように構成されている。
【0030】
レバー43は、図6に示したように、上記した爪43aを有するとともに、係止突起43b、長孔43cおよび係合突起43dを有している。長孔43cは、図6に示したように、上下方向(出力部材42の径方向)に長い形状に形成されていて、レバー43が、入力部材41に固着したレバー支持ピン45に対して、長孔43cの長手方向に移動可能かつピン回りに回転可能に組付けられている。係合突起43dは、内周に向けて突出していて、回転クサビ20の回転部材21における筒部21bに設けた第1押動突起21b1および第2押動突起21b2と選択的に係合・離脱可能とされている。
【0031】
捩りバネ44は、図6に示したように、中間部にて入力部材41に固着したバネ支持ピン46に組付けられていて、基端にて入力部材41に係止され、先端部にてレバー43の係止突起43bに係合している。この捩りバネ44は、レバー43の係止突起43bを常に図6の上方(出力部材42の径外方向)に向けて付勢していて、上記した第1押動突起21b1および第2押動突起21b2とによってレバー43の動きをコントロールしている。
【0032】
上記のように構成したこの実施形態においては、電動モータ13が制動方向(回転クサビ20の回転部材21(筒部21b)が図6の時計回転方向に回転駆動される方向)に回転駆動されると、電動モータ13の出力軸13bからサイクロイド減速機30を介して回転クサビ20の回転部材21に回転駆動力が伝達されて、回転クサビ20の直動部材23がディスクロータ11に向けてピストン14の軸線方向に移動する。
【0033】
このため、回転クサビ20の直動部材23から摩耗補償機構40の入力部材41と出力部材42を介してピストン14がディスクロータ11に向けて押動されるとともに、その反力によってブレーキキャリパ12がピストン14とは逆方向に移動する。これにより、ディスクロータ11がインナー側ブレーキパッド15のライニング15aとアウター側ブレーキパッド16のライニング16aによって挟持されて制動される。なお、この制動時には、摩耗補償機構40の入力部材41と出力部材42がその間の摩擦係合力で一体的に移動し、出力部材42が回転することはない。また、制動によって各ライニング15a、16aが摩耗して、摩耗補償機構40によって各ライニング15a、16aの摩耗量に応じてピストン14がディスクロータ11に向けて所定量ずつ間欠的に突出される際の作動は、本発明と直接的に関係ないため、その説明は省略する。
【0034】
また、この制動時には、ピストン14からの軸線方向反力が摩耗補償機構40の出力部材42から入力部材41に伝わり、この入力部材41の球状面41aから回転クサビ20における直動部材23の円錐面23dに伝わる。また、ピストン14からの軸線方向反力は、回転クサビ20の直動部材23から各転動体(ローラ)22と回転部材21を介してサイクロイド減速機30の出力部材32に伝わり、更に、サイクロイド減速機30の出力部材32からスラストニードルベアリング64とホルダ51を介して各荷重センサ52に伝わり、電動モータ13のケース13aにて受承される。
【0035】
また、この実施形態においては、回転クサビ20とピストン14間に、ピストン14の軸線方向を中心線とする円錐面23dと、この円錐面23dに摺動可能に接触する球状面41aとを有して、ピストン14のブレーキキャリパ12に対する首振り動作を許容する首振り動作許容機構SMが介装されている。このため、円錐面23dと球状面41aの接触部(円環線状の接触部)が摺動可能であるときには、制動時において、ブレーキキャリパ12の撓みや各ライニング15a、16a(制動部材)の偏摩耗に追従して、ピストン14を円環線状の接触部にて摺動させて傾動させることができ、各ライニング15a、16a(制動部材)をディスクロータ11(被制動部材)に均一に押しつけることが可能である。
【0036】
ところで、この実施形態においては、図3に示したように、上記した円錐面23dと球状面41aの接触によって形成される円Ccの径が、回転クサビ20における反力受承部の複数の接触個所(各転動体22と回転部材21の線状接触個所および各転動体22と直動部材23の線状接触個所)における最外部を結ぶことで形成される多角形(図3の三角形参照)に内接する円C1の径よりも小さく設定されている。
【0037】
また、図4に示したように、上記した円錐面23dと球状面41aの接触によって形成される円Ccの径が、スラストニードルベアリング64における反力受承部の複数の接触個所(40本のニードルと出力部材32の線状接触個所および40本のニードルとホルダ51の線状接触個所)における最内部を結ぶことで形成される多角形(40角形)に内接する円C2の径よりも小さく設定されている。
【0038】
また、図5に示したように、上記した円錐面23dと球状面41aの接触によって形成される円Ccの径が、各荷重センサ52の先端部と電動モータ13のケース13aとの点状接触個所(反力受承部の複数の接触個所)を結ぶことで形成される多角形(図5の三角形参照)に内接する円C3の径よりも小さく設定されている。
【0039】
このため、万一、円錐面23dと球状面41aの接触部(円環線状の接触部)での摺動が摩耗などにより阻害されている状態にて、ピストン14が傾動し、ピストン14が円環線状の接触部にて部分的に浮き上がって、ピストン14が前記接触部の1点で前記接触部と係合することとなっても、ピストン14が前記接触部と係合する箇所は、上述した各反力受承部の複数の接触個所を結ぶことで形成される多角形の内側であって、ピストン14からの軸線方向反力によって前記反力受承部の複数の接触個所が浮くことはない。したがって、かかる状態でも、ピストン14からの軸線方向反力は前記反力受承部の複数の接触個所に的確に分散されて強度上の信頼性が高まる。
【0040】
また、この実施形態においては、ピストン14からの軸線方向反力を受ける反力受承部が、ピストン14の軸線に垂直な平面上の3箇所以上の複数の接触個所に設定されている。また、ピストン14と反力受承部間に設けた首振り動作許容機構SMが、ピストン14の軸線方向を中心線とする円錐面23dと、この円錐面23dに摺動可能に接触する球状面41aとを有していて、円錐面23dと球状面41aが円環線状の接触部で摺動可能に接触している。このため、ピストン14からの軸線方向反力を的確に分散することが可能であり、ピストン14からの軸線方向反力を受ける部分が一点での接触である場合に比して、その部分の部材強度を低いものとすることが可能で、安価なものとすることが可能である。
【0041】
上記した実施形態においては、上記した円錐面23dと球状面41aの接触によって形成される円Ccの径が、回転クサビ20における反力受承部の複数の接触個所における最外部を結ぶことで形成される多角形に内接する円C1の径や、スラストニードルベアリング64における反力受承部の複数の接触個所における最内部を結ぶことで形成される多角形に内接する円C2の径や、各荷重センサ52の先端部と電動モータ13のケース13aとの点状接触個所を結ぶことで形成される多角形に内接する円C3の径よりも小さくなるように設定して実施したが、上記した円錐面と球状面の接触によって形成される円の径は、各反力受承部の複数の接触個所を結ぶことで形成される多角形に内接する円の径よりも小さければよく、例えば、各反力受承部の複数の接触個所における最内部を結ぶことで形成される多角形に内接する円の径よりも小さくなるように設定して実施することも可能である。この場合には、ピストンからの軸線方向反力を更に的確に分散させることができ、強度上の信頼性がより高まる。
【0042】
また、上記した実施形態においては、図3〜図5に示したように、回転クサビ20における反力受承部、スラストニードルベアリング64における反力受承部および各荷重センサ52と電動モータ13との反力受承部の全てにおいて、上記した円錐面23dと球状面41aの接触によって形成される円Ccの径が、各反力受承部の複数の接触個所を結ぶことで形成される多角形に内接する円の径よりも小さくなるように設定して実施したが、上記した反力受承部の少なくとも一つにおいて、上記した円錐面23dと球状面41aの接触によって形成される円Ccの径が、反力受承部の複数の接触個所を結ぶことで形成される多角形に内接する円の径よりも小さくなるように設定して実施することも可能である。
【0043】
また、上記した実施形態においては、制動時におけるピストン14からの軸線方向反力を検出して電動モータ13の回転駆動を制御する電気制御装置(図示省略)に出力する荷重センサ52を備える電動ブレーキ装置EMBに本発明を実施したが、本発明はかかる荷重センサ52を備えない電動ブレーキ装置(この場合には、電動モータへの通電電流量等によって、ブレーキ力が推定されて求められる)にも同様に、または、適宜変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
EMB…電動ブレーキ装置、11…ディスクロータ(被制動部材)、12…ブレーキキャリパ、13…電動モータ、14…ピストン、15…インナー側ブレーキパッド、15a…インナー側ブレーキパッドのライニング(制動部材)、16…アウター側ブレーキパッド、16a…アウター側ブレーキパッドのライニング(制動部材)、17…マウンティング、20…回転クサビ(回転−直動変換機構)、22…転動体(コロ)、30…サイクロイド減速機、SM…首振り動作許容機構、23d…円錐面、41a…球状面、52…荷重センサ、64…スラストニードルベアリング、Cc…円錐面と球状面の接触によって形成される円、C1…回転クサビにおける反力受承部の複数の接触個所における最外部を結ぶことで形成される多角形に内接する円、C2…スラストニードルベアリングにおける反力受承部の複数の接触個所における最内部を結ぶことで形成される多角形に内接する円、C3…各荷重センサの先端部と電動モータのケースとの点状接触個所を結ぶことで形成される多角形に内接する円

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に組付けられるブレーキキャリパと、このブレーキキャリパに組付けられる電動モータおよびピストンと、前記電動モータと前記ピストン間に介装されて前記電動モータの回転を前記ピストンの軸線方向移動に変換する回転−直動変換機構と、前記ピストンの軸線方向移動によって押動されて被制動部材を制動する制動部材とを備えるとともに、前記ピストンからの軸線方向反力をその軸線に略垂直な平面上の3箇所以上の複数の接触個所にて受ける反力受承部を備えている電動ブレーキ装置であって、
前記ピストンと前記反力受承部間に、前記ピストンの軸線方向を中心線とする円錐面と、この円錐面に摺動可能に接触する球状面とを有して、前記ピストンの前記ブレーキキャリパに対する首振り動作を許容する首振り動作許容機構を備えており、
前記円錐面と前記球状面の接触によって形成される円の径が前記反力受承部の複数の接触個所を結ぶことで形成される多角形に内接する円の径よりも小さく設定されていることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、前記多角形が、前記反力受承部の複数の接触個所における最外部を結ぶことで形成される多角形であることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、前記多角形が、前記反力受承部の複数の接触個所における最内部を結ぶことで形成される多角形であることを特徴とする電動ブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−43222(P2011−43222A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192796(P2009−192796)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】