電動倍力装置
【課題】マスタシリンダ内の液圧変動に伴うブレーキペダルの踏力変動やペダル振動を効果的に抑えて、良好なペダル感触を確保する。
【解決手段】ブレーキペダルと連動する入力ピストン22と、この入力ピストン22と相対移動可能に配置され、かつ電動アクチュエータ30により駆動されるブースタピストン21と、両ピストン21および22をブレーキ非作動時に相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材46とを備え、両ピストン21および22の相対変位量を制御することによりマスタシリンダ1内に所望のブレーキ液圧を発生させる電動倍力装置において、一対のばね部材46のうちの一方または双方に、両ピストン21および22の相対変位量に対して非線形なばね力を発生する非線形ばねを用い、マスタシリンダ1内の液圧変動に伴う反力変動を、一対のばね部材46の非線形なばね力の変動によって相殺して、ブレーキペダルの踏力変動やペダル振動を抑える。
【解決手段】ブレーキペダルと連動する入力ピストン22と、この入力ピストン22と相対移動可能に配置され、かつ電動アクチュエータ30により駆動されるブースタピストン21と、両ピストン21および22をブレーキ非作動時に相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材46とを備え、両ピストン21および22の相対変位量を制御することによりマスタシリンダ1内に所望のブレーキ液圧を発生させる電動倍力装置において、一対のばね部材46のうちの一方または双方に、両ピストン21および22の相対変位量に対して非線形なばね力を発生する非線形ばねを用い、マスタシリンダ1内の液圧変動に伴う反力変動を、一対のばね部材46の非線形なばね力の変動によって相殺して、ブレーキペダルの踏力変動やペダル振動を抑える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のブレーキ機構に用いられる倍力装置に係り、より詳しくは電動アクチュエータを倍力源として利用する電動倍力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動倍力装置としては、特許文献1に記載されたものがある。ブレーキペダルの操作により進退動する入力部材、該入力部材と相対移動可能に配置され、かつ電動アクチュエータにより駆動される出力部材および前記入力部材と前記出力部材とをブレーキ非作動時に相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材とを備えた構造となっている。このような電動倍力装置においては、前記入力部材と前記出力部材とを相対変位させてマスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させることで、ブレーキアシスト動作や回生協調動作を可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−191133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した電動倍力装置においては、マスタシリンダ内に発生するブレーキ液圧が、前記入力部材と前記出力部材との相対変位量に対して非線形に変化するようになっている。一方、入力部材と出力部材とを相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材が発生するばね力は、前記相対変位量に対して線形に変化するようになっていた。このため、前記したマスタシリンダ内の液圧変動が入力部材を介してブレーキペダルにそのまま反力として伝わり、ブレーキペダルの踏力変動や振動(ペダル振動)を引き起こして、ドライバーに違和感を与えるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、マスタシリンダ内の液圧変動に伴うブレーキペダルの踏力変動やペダル振動を効果的に抑えて、良好なペダル感触を確保できる電動倍力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、ブレーキペダルの操作により進退動する入力部材、該入力部材と相対移動可能に配置され、かつ電動アクチュエータにより駆動される出力部材および前記入力部材と前記出力部材とをブレーキ非作動時に相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材とを備え、前記入力部材と前記出力部材との相対変位量を制御することによりマスタシリンダ内に所望のブレーキ液圧を発生させる電動倍力装置において、前記一対のばね部材は、前記入力部材と前記出力部材との相対変位量に対して非線形なばね力を発生することを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記一対のばね部材のうちの少なくとも一方を、非線形ばねとしたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記一対のばね部材を、異種の非線形ばねの組合せとしたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記非線形ばねが、円錐コイルばね、樽型コイルばねおよび不等ピッチコイルばねから選ばれた一種であることを特徴とする。
【0010】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記一対のばね部材のうちのいずれか一方が、前記入力部材と前記出力部材とが相対変位を起こす過程で自由長に到達することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、マスタシリンダ内の液圧変動に伴う反力変動を、一対のばね部材の非線形なばね力の変動によって相殺することができるので、ブレーキペダルの踏力変動やペダル振動を抑えることができ、良好なペダル感触を確保できる。また、入力部材と出力部材とを相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材にわずかの変更を加えるだけなので、装置コストが特別上昇することもない。
【0012】
また、請求項2に記載の発明によれば、上記した請求項1に記載の発明の効果に加え、非線形ばねの使用により任意の非線形性を容易に持たせることができ、設計の自由度が高まる。
【0013】
また、請求項3に記載の発明によれば、上記した請求項1に記載の発明の効果に加え、異種の非線形ばねの組合せにより各非線形ばねの利点を生かしながら任意の非線形性を容易に持たせることができ、設計の自由度がさらに高まる。
【0014】
また、請求項4に記載の発明によれば、上記した請求項2または3に記載の発明の効果に加え、汎用の円錐コイルばね、樽型コイルばね、不等ピッチコイルばね等を選択するので、コスト的に有利となる。
【0015】
さらに、請求項5に記載の発明によれば、上記した請求項1に記載の発明の効果に加え、従来の線形ばねをそのまま使用できるので、コスト的に極めて有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一つの実施形態としての電動倍力装置の全体構造を示す断面図である。
【図2】本電動倍力装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】本電動倍力装置における圧力平衡を説明するための概念図である。
【図4】本電動倍力装置で装備する一対のばね部材の一方に非線形ばねを採用した実施例を示す模式図である。
【図5】一対のばね部材の双方に非線形ばねを採用した実施例を示す模式図である。
【図6】一対のばね部材の一方に非線形ばねを採用した、他の実施例を示す模式図である。
【図7】一対のばね部材の一方に非線形ばねを採用した、さらに他の実施例を示す模式図である。
【図8】一対のばね部材の双方に異種の非線形ばねを採用した実施例を示す模式図である。
【図9】一対のばね部材の双方に異種の非線形ばねを採用した、他の実施例を示す模式図である。
【図10】一対のばね部材の双方に異種の非線形ばねを採用した、さらに他の実施例を示す模式図である。
【図11】本電動倍力装置で装備する一対のばね部材の自由長を設計し非線形を付与する実施例を示す模式図である。
【図12】一対のばね部材の自由長を設計し非線形を付与する、他の実施例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
図1および図2は、本発明に係る電動倍力装置の一つの実施形態を示したものである。本実施形態としての電動倍力装置10は、エンジンルームと車室とを仕切る車室壁Wに後端部が固定され、先端部に後述のタンデム型マスタシリンダ1を固結した装置本体11と、装置本体11内に配設され、前記マスタシリンダ1のプライマリピストンとして共用される後述のピストン組立体20と、装置本体11の内外部に配設され、前記ピストン組立体20を構成するブースタピストン(出力部材)21に推力を付与する後述の電動アクチュエータ30とを備えている。装置本体11は、前記車室壁Wに固定された大径のカップ部材12と、前記マスタシリンダ1を固結した筒状部材13と、前記カップ部材12と筒状部材13とを接続する筒状の連結部材14とからなっており、連結部材14は、カップ部材12の開口端に固定した支持板15を介してカップ部材12に一体化されている。なお、カップ部材12の底部には中空のボス部12aが設けられており、該ボス部12aの先端部が前記車室壁Wを挿通して車室内に延ばされている。
【0019】
タンデム型マスタシリンダ1は、有底のシリンダ本体2と図示を略すリザーバとを備えており、そのシリンダ本体2内の奥側には、前記プライマリピストンとしてのピストン組立体20と対をなすセカンダリピストン3が摺動可能に配設されている。シリンダ本体2内にはまた、前記ピストン組立体20とセカンダリピストン3とにより2つの圧力室4、5が画成されており、前記両ピストン20、3の前進に応じて各圧力室4、5内に封じ込められているブレーキ液が、図示を略す吐出ポートから対応する系統のホイールシリンダへ圧送されるようになっている。なお、各圧力室5、6内には、前記プライマリピストンとしてのピストン組立体20とセカンダリピストン3とを後方へ付勢する戻しばね6、7が配設されている。また、シリンダ本体2には、各圧力室4、5内とリザーバ11とを連通するリリーフポートが形成されているが、これについては、図示を省略している。
【0020】
本電動倍力装置10を構成するピストン組立体20は、前記ブースタピストン21と該ブースタピストン21内にこれと相対移動可能に配設された入力ピストン(入力部材)22とからなっている。入力ピストン22の後端部には、後述のブレーキペダルB(図3)と連動する入力ロッド23が継手24を介して連結されており、入力ピストン22は、ブレーキペダルBの操作(ペダル操作)によりブースタピストン21内を進退動する。
【0021】
ピストン組立体20を構成するブースタピストン21は、その内部の長手方向中間部位に隔壁25を有しており、前記入力ピストン22がこの隔壁25を挿通して延ばされている。ブースタピストン21の前端側は、前記マスタシリンダ1内の圧力室(プライマリ室)4に挿入され、一方、入力ピストン22の前端側は、同じ圧力室13内のブースタピストン21の内側に位置決めされている。ブースタピストン21と入力ピストン22との間は前記隔壁25に嵌着したシール部材26により、ブースタピストン21と装置本体11との間はシール部材27によりそれぞれシールされており、これにより前記圧力室4からマスタシリンダ1外へのブレーキ液の漏出が防止されている。
【0022】
電動アクチュエータ30は、装置本体11を構成する筒状部材13の外側に位置して前記支持板15に固定された電動モータ31と、同じく装置本体11を構成する連結部材14の内部に入力ピストン22を囲んで配設されたボールねじ機構(回転−直動変換機構)32と、電動モータ31の回転を減速してボールねじ機構32に伝達する回転伝達機構33とから概略構成されている。ボールねじ機構32は、軸受(アンギュラコンタクト軸受)34を介して連結部材14に回動自在に支持されたナット部材(回転部材)35とこのナット部材35にボール36を介して噛合わされた中空のねじ軸(直動部材)37とからなっている。ねじ軸37の後端部は、装置本体11を構成するカップ部材12の中空ボス部12aに回動不能にかつ摺動可能に嵌合されており、これによりナット部材35の回転に応じてねじ軸37が直動する。
【0023】
一方、電動アクチュエータ30を構成する回転伝達機構33は、電動モータ31の出力軸31aに取付けられた第1のプーリ38と、前記ナット部材35に回動不能に嵌合された第2のプーリ39と前記2つのプーリ38、39間に掛け回されたベルト(タイミングベルト)40とからなっている。第2のプーリ39は第1のプーリ38に比べて大径となっており、これにより電動モータ31の回転は減速してボールねじ機構32のナット部材35に伝達される。なお、回転伝達機構33は上記したプーリ、ベルトに限らず、減速歯車機構等であってもよい。
【0024】
上記ボールねじ機構32を構成する中空のねじ軸37の前端部には、前記入力ピストン22を摺動案内するガイドとしても機能するフランジ部材41が嵌合固定されている。フランジ部材41は、ねじ軸37の、図中、左方向への前進に応じて、前記ブースタピストン21の後端に嵌着した蓋体42に当接するようになっており、このねじ軸37の前進に応じてブースタピストン21も前進する。また、装置本体11を構成する筒状部材13の内部には、該筒状部材13に形成した環状突起13aにばね受け43を介して一端が係止され、他端が前記フランジ部材41に衝合する戻しばね44が配設されており、ねじ軸37は、ブレーキ非作動時にはこの戻しばね44により図示の原位置に位置決めされる。
【0025】
一方、ブースタピストン21と入力ピストン22との相互間には環状室45が画成されており、この環状室45には、入力ピストン22に設けたフランジ部22´にそれぞれ一端が係止され、かつブースタピストン21の隔壁25と蓋体42とにそれぞれ他端が係止された一対のばね部材46(46A,46B)が配設されている。この一対のばね部材46は、ブレーキ非作動時に入力ピストン22とブースタピストン21とを相対変位の中立位置に保持するバランスばねとして機能するもので、ここでは、前側(マスタシリンダ1側)に配置された一方のばね部材46Aとして非線形ばねの一種である円錐コイルばねが、後方(ブレーキペダルB側)に配置された他方のばね部材46Bとして従来と同じ線形コイルばねがそれぞれ選択されている。なお、ブースタピストン21と入力ピストン22との相対移動範囲は、入力ピストン22に設けた前側段差22aおよび後側段差22bとブースタピストン21との干渉によって規制されるようになっている(図2)。
【0026】
また、装置本体11を構成するカップ部材12と入力ロッド23との間には、車体に対する入力ピストン22の絶対変位を検出する変位検出器(ポテンショメータ)48が配設されると共に、前記電動モータ31には、回転角度を検出する回転検出器(レゾルバ)49が内蔵されている。これら変位検出器48および回転検出器49の信号は、コントローラ(制御装置)50に送出されるようになっており、コントローラ50は、変位検出器48および回転検出器49からの信号に基づいて、電動モータ31の回転を制御する。
【0027】
以下、上記のように構成した電動倍力装置10の作用を説明する。
【0028】
ブレーキペダルBが操作されると、入力ピストン22が前進し、その動きが変位検出器48により検出される。すると、変位検出器48からの信号を受けてコントローラ50が電動モータ31に起動指令を出力し、これにより電動モータ31が回転して、その回転が回転伝達機構33を介してボールねじ機構32に伝達され、ねじ軸37が前進する。すると、ねじ軸37に押されてブースタピストン21が前進し、ブレーキペダルBから入力ピストン22に付与される入力推力と電動アクチュエータ30からブースタピストン21に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧がマスタシリンダ1内の圧力室4、5に発生する。
【0029】
このとき、変位検出器48と回転検出器49との検出信号に基づき、入力ピストン22の絶対変位とブースタピストン21との絶対変位との差により両ピストンの相対変位量が分かる。そこで、入力ピストン22とブースタピストン21との間に相対変位が生じないように電動モータ31の回転を制御すると、両ピストン22と21との間に介装した一対のばね部材46が中立位置を維持する。このときの倍力比は、相対変位量が0であることから、ブースタピストン21の受圧面積と入力ピストン22の受圧面積との面積比で一義的に定まり、汎用の真空倍力装置と同様となる。
【0030】
一方、上記中立位置からブースタ推力によりブレーキ液圧を増加させる方向(前方)へブースタピストン21を相対変位させると、倍力比(制動力)が大きくなり、電動モータ31が倍力源として働いて、ブレーキアシスト動作が実現する。逆に、中立位置からブースタ推力によりブレーキ液圧を減少させる方向(後方)へブースタピストン21を相対変位させると、倍力比(制動力)が減少し、回生制動時の回生協調動作が実現する。さらに、ブースタピストン21の前進によりマスタシリンダ1内の圧力室4、5とリザーバとの連通が遮断されるので、アダプティブルコントロール(ACC)やヒルスタートアシストなどの自動ブレーキ動作も可能となる。
【0031】
ここで、本電動倍力装置10における入出力の関係を図3に示す概念図を参照して説明する。
【0032】
ドライバーがブレーキペダルBを介して入力ピストン22に加える力(入力)Fiは、ドライバーがブレーキペダルBを踏む力(ペダル踏力)をFp、ペダル比をnとすると、下記(1)式のようになる。
Fi=n×Fp (1)
【0033】
このとき、入力ピストン22には、ばね部材46(46A,46B)から受ける反力Fsとマスタシリンダ1内の液圧Pmから受ける反力Fmが加わり、入力Fiと釣り合っている。したがって、この力の釣り合いは下記(2)式のようになる。
Fi=Fm+Fs (2)
【0034】
上記したマスタシリンダ1内の液圧Pmから受ける反力Fmは、入力ピストン22がマスタシリンダ1内に進入したときに生じる力であり、入力ピストン22の先端の面積をAiとすると、下記(3)式で与えられる。
Fm=Ai×Pm (3)
【0035】
一方、ばね部材46から受ける反力Fsは、入力ピストン22と出力ピストン21とが相対変位を起こしたときに発生する力であり、いま、前側(マスタシリンダ1側)のばね部材46Aのばね定数をKs1、後側のばね部材46Bのばね定数をKs2、入力ピストン22の変位量Xiからブースタピストン21の変位量Xbを減じた値を相対変位量Xr(Xr=Xi−Xb)とすると、下記(4)式で与えられる。
Fs=(Ks1+Ks2)×Xr (4)
【0036】
ところで、マスタシリンダ1内の液圧Pmの変動は、入力ピストン22とブースタピストン21との相対変位量Xrに対して非線形であり、前記したようにこの液圧変動が入力ピストン22を介してブレーキペダルBに伝わって踏力変動やペダル振動を引き起こす。しかし、本実施形態においては、入力ピストン22とブースタピストン21とを相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材46のうち、前側のばね部材46Aとして非線形ばねの一種である円錐コイルばねを用いているので、一対のばね部材46から入力ピストン22が受ける反力Fsは相対変位量Xrに対して非線形となる。これによってマスタシリンダ1内の液圧変動に伴う反力変動は、該一対のばね部材46の非線形なばね力の変動によって相殺され、この結果、ブレーキペダルBの踏力変動やペダル振動が抑えられて、良好なペダル感触の確保が可能になる。また、従来の装置に対し、一対のばね部材46の一方46Aを非変形ばねの円錐コイルばねに変更するだけなので、装置コストが特別上昇することもない。
【0037】
ここで、上記実施形態においては、前側のばね部材46Aを円錐コイルばねとしたが、本発明は、図4に示すように、前側のばね部材46Aを従来どおりの線形ばねとして、後側のばね部材46Bを円錐コイルばねとしても、あるいは図5に示すように前側および後側のばね部材46A、46Bの双方を円錐コイルばねとしてもよいものである。いずれの実施例でも、上記実施形態と同様にブレーキペダルの踏力変動やペダル振動が抑えられて、良好なペダル感触の確保が可能になる。また、円錐コイルばねは、密着長を長くできることや周辺との接触を容易に回避できるに加え、任意の非線形性を容易に設計できる利点があり、設計の自由度が向上する。
【0038】
また、上記円錐コイルばねは、種類の異なる他の非変形ばねに代えてもよいものである。図6は、一対のばね部材46の一方(前側のばね部材)46Aとして樽型コイルばねを、図7は、同じく一方のばね部材46Aとして不等ピッチコイルばねをそれぞれ用いた場合の実施例であるが、前出図4および5に示したと同じく、後側のばね部材46Bとして用いても、あるいは前・後ばね部材46A、46Bの双方に用いてもよいことはもちろんである。いずれにおいても、上記円錐コイルばねを使用した場合と同様、ブレーキペダルの踏力変動やペダル振動が抑えられて、良好なペダル感触の確保が可能になる。特に樽型コイルばねを用いた場合は、変位に対するたわみが小さいので、装置の長さを短縮できる利点があり、一方、不等ピッチコイルばねを用いた場合は、低コストで非線形特性を持たせることができる利点がある。
【0039】
また、上記一対のばね部材46(46A、46B)は、図8〜10に示すように、異種の非線形ばねの組合せとしてもよいものである。より詳しくは、図8は、前側のばね部材46Aとして円錐コイルばねを、後側のばね部材46Bとして樽型コイルばねをそれぞれ用いた実施例であり、図9は、前側のばね部材46Aとして円錐コイルばねを、後側のばね部材46Bとして不等ピッチコイルばねをそれぞれ用いた実施例、図10は、前側のばね部材46Aとして樽型コイルばねを、後側のばね部材46Bとして不等ピッチコイルばねをそれぞれ用いた実施例である。もちろん、これら異種の非線形ばねは、図示と前・後逆の配置であってもよい。このように異種の非線形ばねを組合せる場合は、それぞれのばねがもつ利点を生かしながら一対のばね部材46に任意の非線形性を持たせることができる。
【0040】
上記実施形態および各実施例においては、入力ピストン22とブースタピストン21とを相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材46(46A、46B)の一方または双方に非線形ばねを用いて、一対のばね部材46に非線形性を持たせるようにしたが、本発明は、従来と同じ線形コイルばねを使用しながら一対のばね部材46に非線形な特性を持たせるようにしてもよいものである。
【0041】
図11は、線形コイルばねを使用しながら一対のばね部材46に非線形性を持たせる一つの実施例を示したものである。本実施例では、(a)に示す非作動状態を原位置として(相対変位量Xr=0)、この状態から入力ピストン22は固定したままブースタピストン21を(b)に示すように後退させて、相対変位量XrがXr1(Xr=Xr1)まで変化したときに、後側のばね部材46Bが自由長に到達し、ばね荷重を発生しなくなるように設計する。ブースタピストン21と入力ピストン22との相対移動範囲は、前記したように入力ピストン22に設けた前側段差22aおよび後側段差22bとブースタピストン21との干渉によって規制されるようになっており、(b)に示す状態からブースタピストン21がさらに後退すると、(c)に示すように後側のばね部材46Bが完全にフリーの状態となる。なお、図中、Ls2は後側のばね部材48Bのセット長を、Lf2は該ばね部材48Bの自由長をそれぞれ表している。
【0042】
上記した設計により後側のばね部材46Bは、Xr1≦Xr≦Xrmaxの範囲でフリーとなり、この間、ばね荷重を発生しない。一方、一対のばね部材46のばね定数は、0≦Xr≦Xr1の範囲でKs1+Ks2、Xr1≦Xr≦Xrmaxの範囲でKs1となり、これにより一対のばね部材46は相対変位量Xrに対して非線形となる。したがって、一対のばね部材46の一方または双方に非線形ばねを用いた上記実施形態と同様、マスタシリンダ1内の液圧変動に伴う反力変動が非線形なばね力の変動によって相殺され、ブレーキペダルBの踏力変動やペダル振動が抑えられて、良好なペダル感触の確保が可能になる。
【0043】
図12は、線形コイルばねをそのまま使用しながら一対のばね部材46に非線形性を持たせる他の実施例を示したものである。本実施例では、(a)に示す非作動状態を原位置として(相対変位量Xr=0)、この状態から入力ピストン22は固定したままブースタピストン21を(b)に示すように前進させて、相対変位量XrがXr2(Xr=Xr2)まで変化したときに、前側のばね部材46Aが自由長に到達し、ばね荷重を発生しなくなるように設計する。この場合、(b)に示す状態からブースタピストン21がさらに後退すると、(c)に示すように前側のばね部材46Aが完全にフリーの状態となる。
【0044】
図12に示す実施例では、前側のばね部材46Aは、Xrmin≦Xr≦Xr2の範囲でフリーとなり、この間、ばね荷重を発生しない。一方、一対のばね部材46のばね定数は、Xr2≦Xr≦0の範囲でKs1+Ks2、Xrmin≦Xr≦Xr2の範囲でKs2となり、これにより一対のばね部材46は相対変位量Xrに対して非線形となる。この結果、図11に示した実施例と同様、マスタシリンダ1内の液圧変動に伴う反力変動が非線形なばね力の変動によって相殺され、ブレーキペダルBの踏力変動やペダル振動が抑えられて、良好なペダル感触の確保が可能になる。
【0045】
図11および12に示したように、一対のばね部材46の自由長を設計し非線形を付与する場合は、従来と同じ線形コイルばねを用いるので、設計が容易であり、コストも変わらない利点がある。なお、上記図12に示す実施例においては、ばね部材46を線形コイルばねとした、円錐コイルばね、樽型コイルばね、不等ピッチコイルばねとしてもよく、この場合には、更なる非線形性を譜よすることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 タンデム型マスタシリンダ
10 電動倍力装置
20 ピストン組立体
21 ブースタピストン(出力部材)
22 入力ピストン(入力部材)
30 電動アクチュエータ
31 電動モータ
32 ボールねじ機構(回転直動変換機構)
46 一対のばね部材
46A 前側のばね部材
46B 後側のばね部材
B ブレーキペダル
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のブレーキ機構に用いられる倍力装置に係り、より詳しくは電動アクチュエータを倍力源として利用する電動倍力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動倍力装置としては、特許文献1に記載されたものがある。ブレーキペダルの操作により進退動する入力部材、該入力部材と相対移動可能に配置され、かつ電動アクチュエータにより駆動される出力部材および前記入力部材と前記出力部材とをブレーキ非作動時に相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材とを備えた構造となっている。このような電動倍力装置においては、前記入力部材と前記出力部材とを相対変位させてマスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させることで、ブレーキアシスト動作や回生協調動作を可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−191133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した電動倍力装置においては、マスタシリンダ内に発生するブレーキ液圧が、前記入力部材と前記出力部材との相対変位量に対して非線形に変化するようになっている。一方、入力部材と出力部材とを相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材が発生するばね力は、前記相対変位量に対して線形に変化するようになっていた。このため、前記したマスタシリンダ内の液圧変動が入力部材を介してブレーキペダルにそのまま反力として伝わり、ブレーキペダルの踏力変動や振動(ペダル振動)を引き起こして、ドライバーに違和感を与えるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、マスタシリンダ内の液圧変動に伴うブレーキペダルの踏力変動やペダル振動を効果的に抑えて、良好なペダル感触を確保できる電動倍力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、ブレーキペダルの操作により進退動する入力部材、該入力部材と相対移動可能に配置され、かつ電動アクチュエータにより駆動される出力部材および前記入力部材と前記出力部材とをブレーキ非作動時に相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材とを備え、前記入力部材と前記出力部材との相対変位量を制御することによりマスタシリンダ内に所望のブレーキ液圧を発生させる電動倍力装置において、前記一対のばね部材は、前記入力部材と前記出力部材との相対変位量に対して非線形なばね力を発生することを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記一対のばね部材のうちの少なくとも一方を、非線形ばねとしたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記一対のばね部材を、異種の非線形ばねの組合せとしたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記非線形ばねが、円錐コイルばね、樽型コイルばねおよび不等ピッチコイルばねから選ばれた一種であることを特徴とする。
【0010】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記一対のばね部材のうちのいずれか一方が、前記入力部材と前記出力部材とが相対変位を起こす過程で自由長に到達することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、マスタシリンダ内の液圧変動に伴う反力変動を、一対のばね部材の非線形なばね力の変動によって相殺することができるので、ブレーキペダルの踏力変動やペダル振動を抑えることができ、良好なペダル感触を確保できる。また、入力部材と出力部材とを相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材にわずかの変更を加えるだけなので、装置コストが特別上昇することもない。
【0012】
また、請求項2に記載の発明によれば、上記した請求項1に記載の発明の効果に加え、非線形ばねの使用により任意の非線形性を容易に持たせることができ、設計の自由度が高まる。
【0013】
また、請求項3に記載の発明によれば、上記した請求項1に記載の発明の効果に加え、異種の非線形ばねの組合せにより各非線形ばねの利点を生かしながら任意の非線形性を容易に持たせることができ、設計の自由度がさらに高まる。
【0014】
また、請求項4に記載の発明によれば、上記した請求項2または3に記載の発明の効果に加え、汎用の円錐コイルばね、樽型コイルばね、不等ピッチコイルばね等を選択するので、コスト的に有利となる。
【0015】
さらに、請求項5に記載の発明によれば、上記した請求項1に記載の発明の効果に加え、従来の線形ばねをそのまま使用できるので、コスト的に極めて有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一つの実施形態としての電動倍力装置の全体構造を示す断面図である。
【図2】本電動倍力装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】本電動倍力装置における圧力平衡を説明するための概念図である。
【図4】本電動倍力装置で装備する一対のばね部材の一方に非線形ばねを採用した実施例を示す模式図である。
【図5】一対のばね部材の双方に非線形ばねを採用した実施例を示す模式図である。
【図6】一対のばね部材の一方に非線形ばねを採用した、他の実施例を示す模式図である。
【図7】一対のばね部材の一方に非線形ばねを採用した、さらに他の実施例を示す模式図である。
【図8】一対のばね部材の双方に異種の非線形ばねを採用した実施例を示す模式図である。
【図9】一対のばね部材の双方に異種の非線形ばねを採用した、他の実施例を示す模式図である。
【図10】一対のばね部材の双方に異種の非線形ばねを採用した、さらに他の実施例を示す模式図である。
【図11】本電動倍力装置で装備する一対のばね部材の自由長を設計し非線形を付与する実施例を示す模式図である。
【図12】一対のばね部材の自由長を設計し非線形を付与する、他の実施例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
図1および図2は、本発明に係る電動倍力装置の一つの実施形態を示したものである。本実施形態としての電動倍力装置10は、エンジンルームと車室とを仕切る車室壁Wに後端部が固定され、先端部に後述のタンデム型マスタシリンダ1を固結した装置本体11と、装置本体11内に配設され、前記マスタシリンダ1のプライマリピストンとして共用される後述のピストン組立体20と、装置本体11の内外部に配設され、前記ピストン組立体20を構成するブースタピストン(出力部材)21に推力を付与する後述の電動アクチュエータ30とを備えている。装置本体11は、前記車室壁Wに固定された大径のカップ部材12と、前記マスタシリンダ1を固結した筒状部材13と、前記カップ部材12と筒状部材13とを接続する筒状の連結部材14とからなっており、連結部材14は、カップ部材12の開口端に固定した支持板15を介してカップ部材12に一体化されている。なお、カップ部材12の底部には中空のボス部12aが設けられており、該ボス部12aの先端部が前記車室壁Wを挿通して車室内に延ばされている。
【0019】
タンデム型マスタシリンダ1は、有底のシリンダ本体2と図示を略すリザーバとを備えており、そのシリンダ本体2内の奥側には、前記プライマリピストンとしてのピストン組立体20と対をなすセカンダリピストン3が摺動可能に配設されている。シリンダ本体2内にはまた、前記ピストン組立体20とセカンダリピストン3とにより2つの圧力室4、5が画成されており、前記両ピストン20、3の前進に応じて各圧力室4、5内に封じ込められているブレーキ液が、図示を略す吐出ポートから対応する系統のホイールシリンダへ圧送されるようになっている。なお、各圧力室5、6内には、前記プライマリピストンとしてのピストン組立体20とセカンダリピストン3とを後方へ付勢する戻しばね6、7が配設されている。また、シリンダ本体2には、各圧力室4、5内とリザーバ11とを連通するリリーフポートが形成されているが、これについては、図示を省略している。
【0020】
本電動倍力装置10を構成するピストン組立体20は、前記ブースタピストン21と該ブースタピストン21内にこれと相対移動可能に配設された入力ピストン(入力部材)22とからなっている。入力ピストン22の後端部には、後述のブレーキペダルB(図3)と連動する入力ロッド23が継手24を介して連結されており、入力ピストン22は、ブレーキペダルBの操作(ペダル操作)によりブースタピストン21内を進退動する。
【0021】
ピストン組立体20を構成するブースタピストン21は、その内部の長手方向中間部位に隔壁25を有しており、前記入力ピストン22がこの隔壁25を挿通して延ばされている。ブースタピストン21の前端側は、前記マスタシリンダ1内の圧力室(プライマリ室)4に挿入され、一方、入力ピストン22の前端側は、同じ圧力室13内のブースタピストン21の内側に位置決めされている。ブースタピストン21と入力ピストン22との間は前記隔壁25に嵌着したシール部材26により、ブースタピストン21と装置本体11との間はシール部材27によりそれぞれシールされており、これにより前記圧力室4からマスタシリンダ1外へのブレーキ液の漏出が防止されている。
【0022】
電動アクチュエータ30は、装置本体11を構成する筒状部材13の外側に位置して前記支持板15に固定された電動モータ31と、同じく装置本体11を構成する連結部材14の内部に入力ピストン22を囲んで配設されたボールねじ機構(回転−直動変換機構)32と、電動モータ31の回転を減速してボールねじ機構32に伝達する回転伝達機構33とから概略構成されている。ボールねじ機構32は、軸受(アンギュラコンタクト軸受)34を介して連結部材14に回動自在に支持されたナット部材(回転部材)35とこのナット部材35にボール36を介して噛合わされた中空のねじ軸(直動部材)37とからなっている。ねじ軸37の後端部は、装置本体11を構成するカップ部材12の中空ボス部12aに回動不能にかつ摺動可能に嵌合されており、これによりナット部材35の回転に応じてねじ軸37が直動する。
【0023】
一方、電動アクチュエータ30を構成する回転伝達機構33は、電動モータ31の出力軸31aに取付けられた第1のプーリ38と、前記ナット部材35に回動不能に嵌合された第2のプーリ39と前記2つのプーリ38、39間に掛け回されたベルト(タイミングベルト)40とからなっている。第2のプーリ39は第1のプーリ38に比べて大径となっており、これにより電動モータ31の回転は減速してボールねじ機構32のナット部材35に伝達される。なお、回転伝達機構33は上記したプーリ、ベルトに限らず、減速歯車機構等であってもよい。
【0024】
上記ボールねじ機構32を構成する中空のねじ軸37の前端部には、前記入力ピストン22を摺動案内するガイドとしても機能するフランジ部材41が嵌合固定されている。フランジ部材41は、ねじ軸37の、図中、左方向への前進に応じて、前記ブースタピストン21の後端に嵌着した蓋体42に当接するようになっており、このねじ軸37の前進に応じてブースタピストン21も前進する。また、装置本体11を構成する筒状部材13の内部には、該筒状部材13に形成した環状突起13aにばね受け43を介して一端が係止され、他端が前記フランジ部材41に衝合する戻しばね44が配設されており、ねじ軸37は、ブレーキ非作動時にはこの戻しばね44により図示の原位置に位置決めされる。
【0025】
一方、ブースタピストン21と入力ピストン22との相互間には環状室45が画成されており、この環状室45には、入力ピストン22に設けたフランジ部22´にそれぞれ一端が係止され、かつブースタピストン21の隔壁25と蓋体42とにそれぞれ他端が係止された一対のばね部材46(46A,46B)が配設されている。この一対のばね部材46は、ブレーキ非作動時に入力ピストン22とブースタピストン21とを相対変位の中立位置に保持するバランスばねとして機能するもので、ここでは、前側(マスタシリンダ1側)に配置された一方のばね部材46Aとして非線形ばねの一種である円錐コイルばねが、後方(ブレーキペダルB側)に配置された他方のばね部材46Bとして従来と同じ線形コイルばねがそれぞれ選択されている。なお、ブースタピストン21と入力ピストン22との相対移動範囲は、入力ピストン22に設けた前側段差22aおよび後側段差22bとブースタピストン21との干渉によって規制されるようになっている(図2)。
【0026】
また、装置本体11を構成するカップ部材12と入力ロッド23との間には、車体に対する入力ピストン22の絶対変位を検出する変位検出器(ポテンショメータ)48が配設されると共に、前記電動モータ31には、回転角度を検出する回転検出器(レゾルバ)49が内蔵されている。これら変位検出器48および回転検出器49の信号は、コントローラ(制御装置)50に送出されるようになっており、コントローラ50は、変位検出器48および回転検出器49からの信号に基づいて、電動モータ31の回転を制御する。
【0027】
以下、上記のように構成した電動倍力装置10の作用を説明する。
【0028】
ブレーキペダルBが操作されると、入力ピストン22が前進し、その動きが変位検出器48により検出される。すると、変位検出器48からの信号を受けてコントローラ50が電動モータ31に起動指令を出力し、これにより電動モータ31が回転して、その回転が回転伝達機構33を介してボールねじ機構32に伝達され、ねじ軸37が前進する。すると、ねじ軸37に押されてブースタピストン21が前進し、ブレーキペダルBから入力ピストン22に付与される入力推力と電動アクチュエータ30からブースタピストン21に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧がマスタシリンダ1内の圧力室4、5に発生する。
【0029】
このとき、変位検出器48と回転検出器49との検出信号に基づき、入力ピストン22の絶対変位とブースタピストン21との絶対変位との差により両ピストンの相対変位量が分かる。そこで、入力ピストン22とブースタピストン21との間に相対変位が生じないように電動モータ31の回転を制御すると、両ピストン22と21との間に介装した一対のばね部材46が中立位置を維持する。このときの倍力比は、相対変位量が0であることから、ブースタピストン21の受圧面積と入力ピストン22の受圧面積との面積比で一義的に定まり、汎用の真空倍力装置と同様となる。
【0030】
一方、上記中立位置からブースタ推力によりブレーキ液圧を増加させる方向(前方)へブースタピストン21を相対変位させると、倍力比(制動力)が大きくなり、電動モータ31が倍力源として働いて、ブレーキアシスト動作が実現する。逆に、中立位置からブースタ推力によりブレーキ液圧を減少させる方向(後方)へブースタピストン21を相対変位させると、倍力比(制動力)が減少し、回生制動時の回生協調動作が実現する。さらに、ブースタピストン21の前進によりマスタシリンダ1内の圧力室4、5とリザーバとの連通が遮断されるので、アダプティブルコントロール(ACC)やヒルスタートアシストなどの自動ブレーキ動作も可能となる。
【0031】
ここで、本電動倍力装置10における入出力の関係を図3に示す概念図を参照して説明する。
【0032】
ドライバーがブレーキペダルBを介して入力ピストン22に加える力(入力)Fiは、ドライバーがブレーキペダルBを踏む力(ペダル踏力)をFp、ペダル比をnとすると、下記(1)式のようになる。
Fi=n×Fp (1)
【0033】
このとき、入力ピストン22には、ばね部材46(46A,46B)から受ける反力Fsとマスタシリンダ1内の液圧Pmから受ける反力Fmが加わり、入力Fiと釣り合っている。したがって、この力の釣り合いは下記(2)式のようになる。
Fi=Fm+Fs (2)
【0034】
上記したマスタシリンダ1内の液圧Pmから受ける反力Fmは、入力ピストン22がマスタシリンダ1内に進入したときに生じる力であり、入力ピストン22の先端の面積をAiとすると、下記(3)式で与えられる。
Fm=Ai×Pm (3)
【0035】
一方、ばね部材46から受ける反力Fsは、入力ピストン22と出力ピストン21とが相対変位を起こしたときに発生する力であり、いま、前側(マスタシリンダ1側)のばね部材46Aのばね定数をKs1、後側のばね部材46Bのばね定数をKs2、入力ピストン22の変位量Xiからブースタピストン21の変位量Xbを減じた値を相対変位量Xr(Xr=Xi−Xb)とすると、下記(4)式で与えられる。
Fs=(Ks1+Ks2)×Xr (4)
【0036】
ところで、マスタシリンダ1内の液圧Pmの変動は、入力ピストン22とブースタピストン21との相対変位量Xrに対して非線形であり、前記したようにこの液圧変動が入力ピストン22を介してブレーキペダルBに伝わって踏力変動やペダル振動を引き起こす。しかし、本実施形態においては、入力ピストン22とブースタピストン21とを相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材46のうち、前側のばね部材46Aとして非線形ばねの一種である円錐コイルばねを用いているので、一対のばね部材46から入力ピストン22が受ける反力Fsは相対変位量Xrに対して非線形となる。これによってマスタシリンダ1内の液圧変動に伴う反力変動は、該一対のばね部材46の非線形なばね力の変動によって相殺され、この結果、ブレーキペダルBの踏力変動やペダル振動が抑えられて、良好なペダル感触の確保が可能になる。また、従来の装置に対し、一対のばね部材46の一方46Aを非変形ばねの円錐コイルばねに変更するだけなので、装置コストが特別上昇することもない。
【0037】
ここで、上記実施形態においては、前側のばね部材46Aを円錐コイルばねとしたが、本発明は、図4に示すように、前側のばね部材46Aを従来どおりの線形ばねとして、後側のばね部材46Bを円錐コイルばねとしても、あるいは図5に示すように前側および後側のばね部材46A、46Bの双方を円錐コイルばねとしてもよいものである。いずれの実施例でも、上記実施形態と同様にブレーキペダルの踏力変動やペダル振動が抑えられて、良好なペダル感触の確保が可能になる。また、円錐コイルばねは、密着長を長くできることや周辺との接触を容易に回避できるに加え、任意の非線形性を容易に設計できる利点があり、設計の自由度が向上する。
【0038】
また、上記円錐コイルばねは、種類の異なる他の非変形ばねに代えてもよいものである。図6は、一対のばね部材46の一方(前側のばね部材)46Aとして樽型コイルばねを、図7は、同じく一方のばね部材46Aとして不等ピッチコイルばねをそれぞれ用いた場合の実施例であるが、前出図4および5に示したと同じく、後側のばね部材46Bとして用いても、あるいは前・後ばね部材46A、46Bの双方に用いてもよいことはもちろんである。いずれにおいても、上記円錐コイルばねを使用した場合と同様、ブレーキペダルの踏力変動やペダル振動が抑えられて、良好なペダル感触の確保が可能になる。特に樽型コイルばねを用いた場合は、変位に対するたわみが小さいので、装置の長さを短縮できる利点があり、一方、不等ピッチコイルばねを用いた場合は、低コストで非線形特性を持たせることができる利点がある。
【0039】
また、上記一対のばね部材46(46A、46B)は、図8〜10に示すように、異種の非線形ばねの組合せとしてもよいものである。より詳しくは、図8は、前側のばね部材46Aとして円錐コイルばねを、後側のばね部材46Bとして樽型コイルばねをそれぞれ用いた実施例であり、図9は、前側のばね部材46Aとして円錐コイルばねを、後側のばね部材46Bとして不等ピッチコイルばねをそれぞれ用いた実施例、図10は、前側のばね部材46Aとして樽型コイルばねを、後側のばね部材46Bとして不等ピッチコイルばねをそれぞれ用いた実施例である。もちろん、これら異種の非線形ばねは、図示と前・後逆の配置であってもよい。このように異種の非線形ばねを組合せる場合は、それぞれのばねがもつ利点を生かしながら一対のばね部材46に任意の非線形性を持たせることができる。
【0040】
上記実施形態および各実施例においては、入力ピストン22とブースタピストン21とを相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材46(46A、46B)の一方または双方に非線形ばねを用いて、一対のばね部材46に非線形性を持たせるようにしたが、本発明は、従来と同じ線形コイルばねを使用しながら一対のばね部材46に非線形な特性を持たせるようにしてもよいものである。
【0041】
図11は、線形コイルばねを使用しながら一対のばね部材46に非線形性を持たせる一つの実施例を示したものである。本実施例では、(a)に示す非作動状態を原位置として(相対変位量Xr=0)、この状態から入力ピストン22は固定したままブースタピストン21を(b)に示すように後退させて、相対変位量XrがXr1(Xr=Xr1)まで変化したときに、後側のばね部材46Bが自由長に到達し、ばね荷重を発生しなくなるように設計する。ブースタピストン21と入力ピストン22との相対移動範囲は、前記したように入力ピストン22に設けた前側段差22aおよび後側段差22bとブースタピストン21との干渉によって規制されるようになっており、(b)に示す状態からブースタピストン21がさらに後退すると、(c)に示すように後側のばね部材46Bが完全にフリーの状態となる。なお、図中、Ls2は後側のばね部材48Bのセット長を、Lf2は該ばね部材48Bの自由長をそれぞれ表している。
【0042】
上記した設計により後側のばね部材46Bは、Xr1≦Xr≦Xrmaxの範囲でフリーとなり、この間、ばね荷重を発生しない。一方、一対のばね部材46のばね定数は、0≦Xr≦Xr1の範囲でKs1+Ks2、Xr1≦Xr≦Xrmaxの範囲でKs1となり、これにより一対のばね部材46は相対変位量Xrに対して非線形となる。したがって、一対のばね部材46の一方または双方に非線形ばねを用いた上記実施形態と同様、マスタシリンダ1内の液圧変動に伴う反力変動が非線形なばね力の変動によって相殺され、ブレーキペダルBの踏力変動やペダル振動が抑えられて、良好なペダル感触の確保が可能になる。
【0043】
図12は、線形コイルばねをそのまま使用しながら一対のばね部材46に非線形性を持たせる他の実施例を示したものである。本実施例では、(a)に示す非作動状態を原位置として(相対変位量Xr=0)、この状態から入力ピストン22は固定したままブースタピストン21を(b)に示すように前進させて、相対変位量XrがXr2(Xr=Xr2)まで変化したときに、前側のばね部材46Aが自由長に到達し、ばね荷重を発生しなくなるように設計する。この場合、(b)に示す状態からブースタピストン21がさらに後退すると、(c)に示すように前側のばね部材46Aが完全にフリーの状態となる。
【0044】
図12に示す実施例では、前側のばね部材46Aは、Xrmin≦Xr≦Xr2の範囲でフリーとなり、この間、ばね荷重を発生しない。一方、一対のばね部材46のばね定数は、Xr2≦Xr≦0の範囲でKs1+Ks2、Xrmin≦Xr≦Xr2の範囲でKs2となり、これにより一対のばね部材46は相対変位量Xrに対して非線形となる。この結果、図11に示した実施例と同様、マスタシリンダ1内の液圧変動に伴う反力変動が非線形なばね力の変動によって相殺され、ブレーキペダルBの踏力変動やペダル振動が抑えられて、良好なペダル感触の確保が可能になる。
【0045】
図11および12に示したように、一対のばね部材46の自由長を設計し非線形を付与する場合は、従来と同じ線形コイルばねを用いるので、設計が容易であり、コストも変わらない利点がある。なお、上記図12に示す実施例においては、ばね部材46を線形コイルばねとした、円錐コイルばね、樽型コイルばね、不等ピッチコイルばねとしてもよく、この場合には、更なる非線形性を譜よすることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 タンデム型マスタシリンダ
10 電動倍力装置
20 ピストン組立体
21 ブースタピストン(出力部材)
22 入力ピストン(入力部材)
30 電動アクチュエータ
31 電動モータ
32 ボールねじ機構(回転直動変換機構)
46 一対のばね部材
46A 前側のばね部材
46B 後側のばね部材
B ブレーキペダル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの操作により進退動する入力部材、該入力部材と相対移動可能に配置され、かつ電動アクチュエータにより駆動される出力部材および前記入力部材と前記出力部材とをブレーキ非作動時に相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材とを備え、前記入力部材と前記出力部材との相対変位量を制御することによりマスタシリンダ内に所望のブレーキ液圧を発生させる電動倍力装置において、前記一対のばね部材は、前記入力部材と前記出力部材との相対変位量に対して非線形なばね力を発生することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項2】
前記一対のばね部材のうちの少なくとも一方を、非線形ばねとしたことを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項3】
前記一対のばね部材を、異種の非線形ばねの組合せとしたことを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項4】
前記非線形ばねが、円錐コイルばね、樽型コイルばねおよび不等ピッチコイルばねから選ばれた一種であることを特徴とする請求項2または3に記載の電動倍力装置。
【請求項5】
前記一対のばね部材のうちのいずれか一方が、前記入力部材と前記出力部材とが相対変位を起こす過程で自由長に到達することを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項1】
ブレーキペダルの操作により進退動する入力部材、該入力部材と相対移動可能に配置され、かつ電動アクチュエータにより駆動される出力部材および前記入力部材と前記出力部材とをブレーキ非作動時に相対変位の中立位置に保持する一対のばね部材とを備え、前記入力部材と前記出力部材との相対変位量を制御することによりマスタシリンダ内に所望のブレーキ液圧を発生させる電動倍力装置において、前記一対のばね部材は、前記入力部材と前記出力部材との相対変位量に対して非線形なばね力を発生することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項2】
前記一対のばね部材のうちの少なくとも一方を、非線形ばねとしたことを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項3】
前記一対のばね部材を、異種の非線形ばねの組合せとしたことを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項4】
前記非線形ばねが、円錐コイルばね、樽型コイルばねおよび不等ピッチコイルばねから選ばれた一種であることを特徴とする請求項2または3に記載の電動倍力装置。
【請求項5】
前記一対のばね部材のうちのいずれか一方が、前記入力部材と前記出力部材とが相対変位を起こす過程で自由長に到達することを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−71835(P2012−71835A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−6113(P2012−6113)
【出願日】平成24年1月16日(2012.1.16)
【分割の表示】特願2007−225856(P2007−225856)の分割
【原出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月16日(2012.1.16)
【分割の表示】特願2007−225856(P2007−225856)の分割
【原出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]