説明

電動圧縮機及びその制御装置

【課題】軸受け−主軸間に発生する電位差を効率的に抑制するようにした電動圧縮機を提供する。
【解決手段】電動圧縮機100は、電動機4が絶縁部材20を介してケーシング5に装着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機や空気調和装置等のヒートポンプ装置の要素機器として用いられる電動圧縮機及びその電動圧縮機に搭載される電動機を制御する制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種産業機器には、省エネルギー、環境保全を目的に高効率化や省資源化(小型、軽量化)が求められている。特に電動機及び電動機を使った機器(たとえば、電動圧縮機等)に対しての更なる改善が強く求められている。また、電動機の制御装置についても、電動機の高効率運転を実現するため、高性能化が求められている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、インバータ部のパワー素子としてSiC等のワイドバンドギャップ半導体素子が使用されている技術が記載されている。また、圧縮機の内部構造としては、電動機の固定子がケーシング(密閉容器)に直接装着されている。回転子は、固定子に回転自在に内包されており、回転子の内径には主軸が挿入されており、圧縮機構部にトルクを伝達している。主軸は、主軸受により、位置規制されている。軸受け及び軸受間は、潤滑油によって冷却、焼き付き防止がなされている。軸受けは、フレーム等の構造物により、固定子に対しても不動となるようにケーシングに固定されている。
【0004】
また、ワイドバンドギャップ半導体素子については、電動機の高効率運転や電磁音の低減のために高速なスイッチングを可能としている。たとえば、ワイドバンドギャップ半導体素子は、インバータのキャリア周波数として20kHz以上の周波数で高速にスイッチングすることができる。よって、PWM(Pulse Width Modulation)駆動方式のインバータを用いれば、より歪の少ない波形を電動機に印加できることになるので、電動機の高調波鉄損ロスを低減できるだけでなく、電磁音(キャリア音)を人間の可聴領域外まで設定すれば低騒音化にもなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−57870号公報(第18頁、第2図等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
JEMA JEM−TR 169に記載の通り、PWM駆動方式のインバータを有するモーターでは、中性点電位はゼロにならず、有限の値であるコモンモード電圧が発生している。このコモンモード電圧は、電動機の固定子巻線、固定子鉄心、回転子鉄心のそれぞれの部位の間の静電容量に分圧される。
【0007】
加えて、特許文献1に記載されているような従来の圧縮機の場合は、固定子鉄心と軸受け、回転子鉄心と主軸が電気的に導通しているので軸受け−主軸間に電位差が生じる。インバータにワイドバンドギャップ半導体素子を適用している場合、キャリア周波数をより高くすることが可能であるので、軸受け−主軸間に電位差がより発生しやすくなる。軸受け−主軸間に電位差が発生すると、主軸、軸受け、フレーム、ケーシング、及び、電動機を介して軸電流回路が形成される。
【0008】
軸電流回路に電流が流れると、電動機が回転した運転状態では、軸受け隙間の変化や接触が発生し、電圧を安定的に保つことができないという事態が発生することになる。そのため、不定期に放電現象が発生し、軸受けの損傷や電食が発生し、軸の焼き付き等の不具合に発展する可能性が大きくなる。特に駆動電圧が400Vを超えるインバータ駆動システムでは注意が必要である。
【0009】
本発明は、以上のような問題を解決するためになされたもので、軸受け−主軸間に発生する電位差を効率的に抑制するようにした電動圧縮機及びその制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電動圧縮機は、流体を圧縮する圧縮機構部と、回転速度が可変に調整され、前記圧縮機構部を駆動する電動機と、前記圧縮機構部及び前記電動機を収容するケーシングと、前記ケーシングに設置され、前記ケーシングの内外を電気的に接続するためのターミナルと、ワイドバンドギャップ半導体素子を有し、駆動電圧を前記電動機に供給するインバータ部と、を備え、前記電動機の回転速度を調整することで前記圧縮機構部から吐出される流体の容量を調整できる電動圧縮機であって、前記電動機は、絶縁部材を介して前記ケーシング内に装着されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る電動圧縮機の制御装置は、上記の電動圧縮機に搭載されている前記電動機を制御する制御装置であって、電源に接続され、その電源から印加された交流電圧を直流電圧に変換するコンバータ部と、を備え、前記インバータ部は、前記制御部及び前記コンバータ部に接続され、前記制御部からの制御信号に基づいて前記コンバータ部から供給された直流電圧を駆動電圧に再変換して前記電動機に供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る電動圧縮機によれば、電動機が絶縁部材を介してケーシング内に装着されているので、軸受け−主軸間に発生する電位差を効率的に特性することができる。したがって、本発明に係る電動圧縮機によれば、軸電流回路の形成を回避することができ、信頼性及び性能の向上を実現できる。
【0013】
本発明に係る電動圧縮機の制御装置によれば、インバータ部に耐熱温度が高い(400℃程度)ワイドバンドギャップ半導体を使用しているので、熱による損壊の可能性を大幅に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1に係る電動圧縮機の構成例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る電動圧縮機の電動機の結線を説明するための説明図である。
【図3】PWM駆動方式のインバータで駆動する電動機を搭載した電動圧縮機に生じる回路をイメージ的に示す回路イメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る電動圧縮機100の構成例を示す概略構成図である。図1に基づいて、電動圧縮機100の構成及び動作について説明する。この電動圧縮機100は、スクロール式圧縮機である場合を例に示しており、たとえば冷蔵庫や冷凍庫、自動販売機、空気調和機、冷凍装置、給湯器等の冷凍サイクル装置(ヒートポンプ装置)の要素機器の一つとなるものである。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。
【0016】
この電動圧縮機100は、冷凍サイクルを循環する冷媒を吸入し、圧縮して高温高圧の状態として吐出させるものである。電動圧縮機100は、圧縮機構部3及び電動機4を有している。圧縮機構部3及び電動機4は、ケーシング(シェル)5内に収納されている。このケーシング5は、圧力容器となっている。図1に示すように、圧縮機構部3がケーシング5の上側に配置され、電動機4がケーシング5の下側(低圧空間)に配置されている。このケーシング5の底部は、冷凍機油31を貯留する油だめ32となっている。また、ケーシング5には、冷媒ガスを吸入するための吸入管7と、冷媒ガスを吐出するための吐出管8とが連接されている。さらに、ケーシング5の内側には、ステーター41、フレーム70、及び、サブフレーム80が固定されている。
【0017】
ケーシング5には、後述する電動機4を電気的に接続するための気密性を有するターミナル6が設置されている。ターミナル6とは、外部の電源とケーシング5内に収納されている電動機4とを電気的に接続するための入出力端子のことである。このターミナル6は、例えばガラス密封端子等で構成されており、ケーシング5の側壁の一部を貫通するように設置されている。つまり、ターミナル6は、ケーシング5の内外を電気的に絶縁しつつ橋渡しをする機能を有している。また、電動圧縮機100には、電動機4の動作を制御する制御装置2が接続されている。この制御装置2は、ターミナル6を介して電動機4に接続されている。
【0018】
制御装置2は、インバータ部9と、コンバータ部10と、制御部11と、で概略構成されている。インバータ部9は、ケーシング5の内部に設置されており、ケーシング5の内部でターミナル6に接続されている。コンバータ部10は、ケーシング5の外部に設置されており、ケーシング5の外部でターミナル6に接続されている。すなわち、インバータ部9とコンバータ部10とは、ターミナル6を介して電気的に接続されている。
【0019】
制御部11は、電動機4の回転速度や発停をインバータ部9を介して制御する機能を有している。つまり、制御部11は、入力される外部情報(たとえば、リモコン操作、室内温度、外気温度、冷媒圧力等)に基づいて、電動機4の回転速度を決定し、インバータ部9を介して電動機4の動作を制御するようになっている。コンバータ部10は、商用電源などに接続し、その電源から印加された交流電圧を直流電圧に変換する機能を有している。このコンバータ部10は、インバータ部9と接続しており、変換した直流電圧をインバータ部9に供給するようになっている。
【0020】
インバータ部9は、機械的強度を有する樹脂でモールドされた状態でケーシング5内の低圧空間(吸入空間)に設置されている電動機4に装着され、コンバータ部10から供給された直流電圧を任意の周波数の交流電圧、つまり駆動電圧に再変換する機能を有している。この周波数により、電動機4の回転速度が決定されることになる。つまり、制御部11からの制御信号により、インバータ部9で任意の周波数の交流電圧に再変換し、その駆動電圧に基づいて電動機4の回転速度が決定されるのである。このように、電動圧縮機100においては、制御部11により、最適な運転ができるように指示されている。
【0021】
インバータ部9は、たとえばシリコンカーバイド(SiC)素子等のワイドバンドギャップ半導体素子で構成したスイッチング素子を有している。このSiC素子は、そのバンドギャップが約2.2〜3.0eV、耐熱温度が約400℃という特性を有している。つまり、SiC素子は、バンドギャップが約1.1eV、耐熱温度が約120℃という特性を有するSi(シリコン)素子等の従来素子よりも耐熱温度が高い。なお、インバータ部9に搭載するスイッチング素子としては、SiC素子の他の、たとえば窒化ガリウム(GaN)素子や、ダイヤモンド素子等の他のワイドバンドギャップ半導体素子を用いるようにしてもよい。このワイドバンドギャップ半導体素子とは、Si素子よりもバンドギャップが大きい半導体素子のことを称している。
【0022】
インバータ部9に、耐熱温度が従来素子に比べて高いワイドバンドギャップ半導体素子で構成したスイッチング素子を適用しているので、インバータ部9と電動機4との電気的な接続距離を短くすることが可能になる。そこで、電動圧縮機100は、インバータ部9をケーシング5の内部の電動機4に装着するようにしている。よって、インバータ部9と電動機4とをケーブルを要することなく接続することができ、電気的な接続距離を飛躍的に短くできる。また、インバータ部9とターミナル6との電気的な接続距離(ケーシング5の内部配線)も飛躍的に短くできる。したがって、サージ電圧の抑制効果が増加することになる。図1では、インバータ部9が、電動機4の軸方向上部の一部に装着されている状態を例に示している。
【0023】
圧縮機構部3は、電動機4により駆動され、吸入管7から吸入した冷媒ガスを圧縮してケーシング5内の吐出空間33に排出する機能を有している。この圧縮機構部3は、固定スクロール60と、揺動スクロール50と、で概略構成されている。なお、吐出空間33は、電動圧縮機100内部の上方空間に形成されており、高圧空間となっている。そして、吐出空間33に排出された冷媒ガスは、吐出空間33に連通している吐出管8から電動圧縮機100の外部に吐出されることになる。
【0024】
固定スクロール60は、フレーム70に図示省略のボルト等によって固定されている。固定スクロール60は、鏡板61と、鏡板61の一方の面(紙面下側の面)に立設されたインボリュート曲線形状の渦巻状突起であるラップ部62と、を有している。また、固定スクロール60の中央部には、圧縮され、高圧となった冷媒ガスを吐出する吐出ポート63が形成されている。
【0025】
揺動スクロール50は、固定スクロール60に対して自転運動することなく公転旋回運動を行なうようになっている。揺動スクロール50は、鏡板51と、鏡板51の一方の面(紙面上側の面)に立設されたインボリュート曲線形状の渦巻状突起であるラップ部52と、を有している。また、揺動スクロール50のラップ部52形成面とは反対側の面(以下、スラスト面と称する)の略中心部には、中空円筒形状の揺動スクロールボス部53が形成されている。この揺動スクロールボス部53には、後述する主軸45の上端に設けられた偏心ピン部46が嵌入(係合)されているのである。
【0026】
固定スクロール60と揺動スクロール50とは、ラップ部62とラップ部52とを互いに噛み合わせ、ケーシング5内に装着される。そして、ラップ部52とラップ部62との間には、相対的に容積が変化する圧縮室34が形成される。なお、揺動スクロール50と固定スクロール60との間には、揺動スクロール50の偏心旋回運動中における自転運動を阻止するためのオルダムリング(図示省略)が配設されている。このオルダムリングは、揺動スクロール50の自転運動を阻止するとともに、公転旋回運動を可能とする機能を果たすようになっている。
【0027】
電動機4は、圧縮機構部3で冷媒ガスを圧縮するために、圧縮機構部3を構成する揺動スクロール50を駆動する機能を果たすようになっている。つまり、電動機4が主軸45を介して揺動スクロール50を駆動することによって、圧縮機構部3で冷媒ガスを圧縮するようになっているのである。電動機4は、主軸45に固定されたローター(回転子)42と、ケーシング5に固着保持されたステーター(固定子)41と、で概略構成されている。
【0028】
ローター42は、主軸45に固定され、ステーター41への通電が開始することにより回転駆動し、主軸45を回転させるようになっている。ステーター41は、絶縁部材20を介して焼き嵌めや圧入等により外周面がケーシング5に固着支持されている。つまり、ステーター41の外周面とケーシング5の内周面との間に絶縁部材20を介在させ、ステーター41の外周面をケーシング5の内周面に直接接触させないようにしている。
【0029】
絶縁部材20は、電動機4とケーシング5とを電気的に絶縁する役目を果たすようになっている。また、絶縁部材20は、ケーシング5と電動機4との保持力を発生させる強度が高いという特性を有し、かつ、形状を成形することが比較的容易であるという特性を有する材質で構成されている。さらに、絶縁部材20は、電動圧縮機100が搭載される冷凍サイクルで使用される冷媒(たとえば、フルオロカーボンや炭酸ガス等)に対し、化学的な反応を起こしにくい材質で構成されている。なお、絶縁部材20の厚みを特に限定するものではないが、ケーシング5及びステーター41の大きさや冷媒との相性等を考慮して決定すればよい。
【0030】
絶縁部材20は、エンジニアリングプラスチック(たとえばPPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、LCP(液晶ポリマー)等)を主な材質として構成するとよい。なお、絶縁部材20は、PPS、PEEK、PBT、LCPのうち少なくとも1つを含んだ材質で構成していればよく、エンジニアリングプラスチック以外の樹脂等を混練させた材質で構成してもよい。
【0031】
PBTは、耐熱性が高く、たとえば100℃以上の温度域にある環境であっても長時間の使用が可能になる。PPS、PEEK、LCPは、耐熱性が更に高く、たとえば150℃以上の温度域にある環境であっても長時間の使用が可能になる。なお、エンジニアリングプラスチックとは、耐熱性が100℃以上あり、強度が50メガパスカル以上、曲げ弾性率が2.4ギガパスカル以上ある樹脂の総称である。
【0032】
主軸45は、作用するガス荷重に対し、許容撓み量を確保できる剛性をもち、切削性が良好であって、低コスト化できる材料を選定して構成するとよい。主軸45の上端部は、揺動スクロール50の揺動スクロールボス部53と回転自在に嵌合する偏心ピン部46が形成されている。また、主軸45の内部には、油だめ32に貯留してある冷凍機油31の流路となる給油流路47が形成されている。そうすれば、油だめ32に溜まっている冷凍機油31を、主軸45の回転に伴って吸い上げ、圧縮機構部3に給油することが可能になる。
【0033】
フレーム70は、ケーシング5の内周面に外周面が焼き嵌めや溶接等によって固着され、中心部に主軸45が挿通される貫通穴が形成されている。この貫通穴には、主軸45を回転自在に支持する主軸受36が設けられている。このフレーム70は、ケーシング5内の上方に設置され、主軸45の上方部分を支持している。サブフレーム80も、ケーシング5の内周面に外周面が焼き嵌めや溶接等によって固着され、中心部に主軸45が挿通される貫通穴が形成されている。この貫通穴には、主軸45を回転自在に支持させるため副軸受37が設けられている。このサブフレーム80は、ケーシング5内の下方に設置され、主軸45の下方部分を支持している。
【0034】
ここで、電動圧縮機100の動作について簡単に説明する。
制御部11により、電動機4の回転速度が決定され、インバータ部9を介して電動機4に駆動電圧が供給される。電動機4に駆動電圧が供給されると、ローター42は、ステーター41が発生する回転磁界からの回転力を受けて回転する。それに伴って、ローター42に固定され、主軸受36及び副軸受37に支持された主軸45が回転駆動する。主軸45の回転運動は、主軸45の偏心ピン部46及び揺動スクロールボス部53を介し揺動スクロール50に伝わる。揺動スクロール50は、図示省略のオルダムリングにより自転が規制され、公転運動する。
【0035】
この主軸45の回転駆動によって、ケーシング5内の冷媒ガスが固定スクロール60のラップ部62と揺動スクロール50のラップ部52とにより形成される外周側の圧縮室34内へ吸い込まれる。なお、冷凍サイクルを循環してきた低温・低圧状態の冷媒は、吸入管7からケーシング5内に流入するようになっている。圧縮室34内に取り込まれた冷媒ガスは、揺動スクロール50の回転とともに徐々に圧縮されながら中心部に向かうようになっている。そして、圧縮室34で圧縮された冷媒ガスは、高圧の状態となって固定スクロール60の鏡板61に形成されている吐出ポート63から吐出し、吐出空間33を経由してから電動圧縮機100の外部へと流出される。なお、圧縮された高圧状態の冷媒は、吐出管8からケーシング5外部に流出され、冷凍サイクルを循環することになる。
【0036】
制御部11は、適宜入力される外部情報を基に、吸入/放出する冷媒量を調整するようになっている。つまり、制御部11は、外部情報を基にインバータ部9を介して電動機4の回転速度を適宜変更して、冷凍サイクル装置に要求されている運転に応じた適当な量の冷媒を冷媒回路に供給している。したがって、高性能な冷凍サイクル装置が構成されることになる。
【0037】
図2は、電動機4の結線を説明するための説明図である。図2に基づいて、電動機4の結線について説明する。図2(a)が電動機4の結線を模式的に示した模式図を、図2(b)が各層(U相、V相、W相)の中性点側が接続されてY形結線が行なわれている状態を簡略化して示した簡略回路図を、それぞれ表している。
【0038】
図2(a)に示すように、電動機4を構成するステーター41は、略T字型形状の複数個の積層鉄心41aを環状に組み合わせて構成するとよい。各積層鉄心41aの内周部(ステーター41の中央側)には、巻線41bが集中巻されるティース部41dが突出するように形成されている。そして、積層鉄心41aが環状に組み合わされた状態においては、隣り合うティース部41dの間に所定の間隙43が形成される。巻線41bは、ティース部41dに巻き付けられる。
【0039】
巻線41bの一端はU相、V相、W相のいずれかに対応する図示省略の端子を介してインバータ部9に、巻線41bの他端は中性点Nに、それぞれ接続されるようになっている。つまり、巻線41bは、各層(U相、V相、W相)の中性点側が接続されてY形結線が行なわれている(図2(b)参照)。
【0040】
図3は、PWM駆動方式のインバータで駆動する電動機を搭載した電動圧縮機に生じる回路をイメージ的に示す回路イメージ図である。図1及び図3に基づいて、PWM駆動方式のインバータで駆動する電動機を搭載した電動圧縮機に生じる回路について詳しく説明する。なお、以下の説明では、従来の電動機を電動機4’と称するものとする。
【0041】
電動機4のように、PWM駆動方式のインバータで駆動する電動機では、中性点電位はゼロにならず、有限の値であるコモンモード電圧が発生することになる。電動機4’においては、発生したコモンモード電圧が、電動機4’の固定子巻線、固定子鉄心、回転子鉄心のそれぞれの間の静電容量で分圧される。また、電動機4’を搭載している電動圧縮機では、固定子鉄心と軸受け(主軸受、副軸受)、回転子鉄心と主軸が電気的に導通しているので軸受け−主軸間に電位差が生じる。軸受け−主軸間に電位差が発生すると、主軸45、軸受け、フレーム、ケーシング、及び、電動機4’を介して軸電流回路が形成される。
【0042】
つまり、電動機4’を搭載した電動圧縮機では、電動機4のような絶縁部材20が設けられていないので、主軸、主軸受、フレーム、ケーシング、及び、電動機を介して軸電流回路Aが、主軸、副軸受、サブフレーム、ケーシング、及び、電動機4’を介して軸電流回路Bが、形成される。軸電流回路A、軸電流回路Bに電流が流れると、電動機4’が回転した運転状態では、軸受け隙間の変化や接触が発生し、電圧を安定的に保つことができないことになる。そのため、不定期に放電現象が発生したり、軸受けの損傷や電食が発生したりすることがある。
【0043】
このような問題に対し、電動圧縮機100では、ステーター41の外周面とケーシング5の内周面との間に所定の厚みを有する絶縁部材20を設置するようにしている。つまり、電動圧縮機100では、絶縁部材20によって、電動機4のステーター41とケーシング5とを電気的に絶縁しているだけでなく、ステーター41の静電容量への分圧も極小に抑えることが可能になっている。
【0044】
電動機4’を搭載しているような従来から存在している電動圧縮機は、各部の隙間に静電容量C1、C2、C3等が発生する。各部の静電容量は閉回路として導通され、かつコモンモード電圧が分圧されており、静電エネルギーを有している。電動圧縮機に要求される負荷によってC1(主軸受36と主軸間)及びC3(副軸受37と主軸間)は軸受隙間が変動したり、軸と軸受けが局所的に接触したりすることにより、静電エネルギーが放出され、C1、C3に大電流が流れ、発熱し、軸受の損傷が起きる。
【0045】
それに対して、電動圧縮機100によれば、絶縁部材20によって、コモンモード電圧間での回路を遮断できるので、C1やC3の両端の電位差が発生しない。したがって、電動圧縮機100においても、圧縮機の負荷が発生し、軸受隙間の変動や局所的な接触が発生しても、副軸受37、ケーシング5、主軸受36、主軸45、副軸受37を介して電流回路が形成されるが、絶縁部材20によって、巻線41bで発生するコモンモード電圧が軸受けを流れる閉回路にならない。よって、主軸と各軸受間に電位差が発生せず、電動圧縮機100の信頼性を低減させるような軸電流回路が形成されることはない。
【0046】
したがって、電動圧縮機100では、電動機4が回転した運転状態では、絶縁部材20によって、電動機4、主軸45、軸受け(主軸受36、副軸受37)、ケーシング5を介して形成される軸電流回路を断つことができる。つまり、電動圧縮機100では、従来の電動圧縮機に形成されてしまう軸電流回路A、軸電流回路Bが形成されない。そのため、主軸−軸受間に発生する電位差を効率的に抑制することが可能となる。よって、不定期に放電現象が発生したり、軸受けの損傷や電食が発生したりすることを飛躍的に抑制することが可能になる。
【0047】
以上のように、電動圧縮機100によれば、インバータ部9にワイドバンドギャップ半導体素子により構成されたスイッチング素子を適用し、ステーター41の外周面とケーシング5の内周面との間に絶縁部材20を設けているので、インバータ部9のキャリア周波数を高くした場合(たとえば、20kHz以上の周波数)であっても軸受け−主軸間に発生する電位差を効率的に抑制し、軸電流回路の形成を回避することができる。したがって、電動圧縮機100によれば、不定期に放電現象が発生したり、軸受けの損傷や電食が発生したりすることを飛躍的に抑制することが可能になるので、軸の焼き付き等の不具合の発生も抑制でき、高信頼性及び高性能を実現できる。
【0048】
また、絶縁部材20は、ケーシング5と電動機4との保持力を発生させる強度が高いという特性を有し、形状を成形することが比較的容易であるという特性を有している材質で構成されている。つまり、絶縁部材20は、特殊な材質で構成されるものではなく、成形性に優れているため加工に要する手間及びコストを必要以上に要することがないので、コストアップすることなく形成することができる。
【0049】
さらに、上述したように、電動圧縮機100においては、インバータ部9と電動機4との電気的な接続距離を必要最低限(ほぼゼロ)にすることが可能であるので、インバータ部9で生成された電源波形がそのまま電動機4に印加されることになる。よって、電動圧縮機100によれば、インバータ部9と電動機4とを接続するためのケーブルをなくすことができ、ケーブルによるサージ電圧の発生を大幅に抑制することが可能になる。さらに、電動圧縮機100によれば、インバータ部9とターミナル6とを接続するケーブルの長さも短くすることができるので、そのケーブルに起因するサージ電圧の重畳も低減することができる。
【0050】
したがって、電動機4としては電線の皮膜厚さなどの耐電圧特性を上げる必要がなく、低コスト化、高効率化の実現が可能になる。また、Si素子等で構成されたスイッチング素子を有する従来のインバータ部では電動圧縮機の熱により損壊してしまう可能性があったが、電動圧縮機100では、ワイドバンドギャップ半導体素子を用いることにより、耐熱温度が高い(400℃程度)ため、熱により損壊してしまう可能性を大幅に低くすることができる。
【0051】
また、電動圧縮機によれば、インバータ部9が機械的強度を有する樹脂でモールドされているため、インバータ部9の保護に適切な機械的強度を確保することができる。つまり、インバータ部9は、ケーシング5内の圧力条件下でも正常に作動することが可能なのである。また、樹脂により電気的、磁気的な絶縁も確保されるため漏洩電流や電磁ノイズの発生も低減可能となる。
【0052】
一般的な冷凍サイクル装置における通常運転では、冷媒は、蒸発器で冷やされてから電動圧縮機100に戻ってくるようになっている。したがって、吸入管7から流入する冷媒は、圧縮機構部3に吸入されて圧縮されることになるが、圧縮機構部3に吸入されるまでにケーシング5内部の各部を冷却することができる。したがって、電動圧縮機100では、インバータ部9をケーシング5の内部の低圧空間に装着することで、ケーシング5に吸入された冷媒をインバータ部9の冷却に利用することができる。したがって、インバータ部9のスイッチングの回路損失による発熱を冷媒ガスにより効率よく奪い取ることができ、インバータ部9の信頼性を向上が実現する。また、インバータ部9の冷却に必要とされていた部品(たとえば、放熱板や冷却フィン等)を削減することができ、その分のコストを低減できる。
【0053】
インバータ部9は、機械的強度を有する樹脂でモールドされた成型品(たとえば、インバータボックス等)を介して、または機械的強度を有する樹脂によってモールドされた状態(樹脂被膜により覆われた状態)で電動機4に装着されている。よって、インバータ部9は、樹脂モールドを介して冷媒と接触していることになるので、冷却効率を更に向上することが可能になる。
【0054】
また、樹脂モールドの機械的強度は、高圧空間に位置させる場合に比較して低くて済み、樹脂モールドの低コスト化につながる。さらに、ケーシング5の内部の低圧空間にインバータ部9を装着するので、樹脂モールドの機械的仕様を簡素にできる。つまり、インバータ部9を、高価な部品を要することなく装着することができ、コストアップを更に抑制することができる。加えて、インバータ部9の取り付け作業に複雑な工程を要することもなくなるので、取り付け作業に要する労力を低減できる。さらに、インバータ部9を電動機4の軸方向上部の一部に装着しているので、冷媒や冷凍機油31に漬かってしまう頻度を低減することができる。
【0055】
さらに、インバータ部9のスイッチング素子として適用しているワイドバンドギャップ半導体素子は、放熱性がよく、絶縁性がよいという特性を有しているので、ケーシング5の内部にあっても電動圧縮機100のサイズアップを抑制することができる。またさらに、インバータ部9をケーシング5の内部に装着することで、ケーシング5への入力電源が直流電源となり、コンバータ部10とターミナル6とを2端子で接続することができる。つまり、ケーシング5への入力電源が交流電源であるものに比較し、端子を1つ削減することが可能になる。
【符号の説明】
【0056】
2 制御装置、3 圧縮機構部、4 電動機、5 ケーシング、6 ターミナル、7 吸入管、8 吐出管、9 インバータ部、10 コンバータ部、11 制御部、20 絶縁部材、31 冷凍機油、32 油だめ、33 吐出空間、34 圧縮室、36 主軸受、37 副軸受、41 ステーター、41a 積層鉄心、41b 巻線、41d ティース部、42 ローター、43 間隙、45 主軸、46 偏心ピン部、47 給油流路、50 揺動スクロール、51 鏡板、52 ラップ部、53 揺動スクロールボス部、60 固定スクロール、61 鏡板、62 ラップ部、63 吐出ポート、70 フレーム、80 サブフレーム、100 電動圧縮機、A 軸電流回路、B 軸電流回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を圧縮する圧縮機構部と、
回転速度が可変に調整され、前記圧縮機構部を駆動する電動機と、
前記圧縮機構部及び前記電動機を収容するケーシングと、
ワイドバンドギャップ半導体素子を有し、駆動電圧を前記電動機に供給するインバータ部と、を備え、
前記電動機の回転速度を調整することで前記圧縮機構部から吐出される流体の容量を調整できる電動圧縮機であって、
前記電動機は、
絶縁部材を介して前記ケーシング内に装着されている
ことを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記インバータ部は、
前記密閉容器の低圧空間に設置されている前記電動機に装着される
ことを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記インバータ部は、
樹脂によりモールドされた状態で前記電動機に装着される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記絶縁部材は、
エンジニアリングプラスチックを含んだ材質で構成されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動圧縮機。
【請求項5】
前記エンジニアリングプラスチックは、
ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、又は、液晶ポリマーである
ことを特徴とする請求項4に記載の電動圧縮機。
【請求項6】
前記ワイドバンドギャップ半導体素子は、シリコンカーバイド素子である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電動圧縮機。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項の電動圧縮機に搭載されている前記電動機を制御する制御装置であって、
外部情報に基づいて前記電動機の動作を制御する制御部と、
電源に接続され、その電源から印加された交流電圧を直流電圧に変換するコンバータ部と、を備え、
前記インバータ部は、
前記制御部及び前記コンバータ部に接続され、前記制御部からの制御信号に基づいて前記コンバータ部から供給された直流電圧を駆動電圧に再変換して前記電動機に供給する
ことを特徴とする電動圧縮機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−107539(P2012−107539A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255528(P2010−255528)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】