説明

電動式ディスクブレーキ

【課題】小型でしかも大きな制動力を得られ、且つ、十分な耐久性を確保できる構造を実現する。
【解決手段】インナ、アウタ両パッド2a、3aをロータの両側面に押し付ける為、キャリパ5a内に組み付けた推力発生機構8aを、推力の伝達方向に関して互いに直列に設けられた第一、第二両増力機構19、20により構成する。このうち、電動モータ9a側である前段側の第一増力機構19はボール・ランプ式のもので、後段側の第二増力機構20aは梃子式である。この第二増力機構20aの増力比に相当する分、前記第一増力機構19に加わるスラスト荷重を低減できて、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータを駆動源として自動車の制動を行う、電動式ディスクブレーキの改良に関する。具体的には、小型でしかも大きな制動力を得られ、且つ、十分な耐久性を確保できる構造の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
電動モータを駆動源とする電動式ディスクブレーキは、従来から広く実施されている油圧式のディスクブレーキに比べて、配管が不要になり、製造の容易化、低コスト化を図れるだけでなく、用済のブレーキ液が生じず環境負荷が少ない、ブレーキ液の移動がない分応答性の向上を図れる等、多くの利点がある為、研究が進められている。この様な電動式ディスクブレーキでは、電動モータの回転運動を増力しつつ直線運動に変換し、一対のパッドをロータの両側面に強く押し付ける必要がある。この様な事情に鑑みて従来から、歯車式等の減速機とボール・ランプ式の増力機構とを組み合わせた電動式ディスクブレーキが、例えば特許文献1〜6に記載される等により、従来から各種提案されている。
【0003】
図8は、このうちの特許文献6に記載された、従来構造の1例を示している。この電動式ディスクブレーキは、一般的な油圧式のディスクブレーキと同様に、車輪と共に回転するロータ1を挟んでインナパッド2及びアウタパッド3を、このロータ1の軸方向の変位を可能に設置している。この為に、このロータ1に隣接する状態でサポート4(本発明の実施の形態の1例を示す図1参照)を、車体に支持(懸架装置を構成するナックルに固定)している。前記インナ、アウタ両パッド2、3は、前記ロータ1を軸方向両側から挟む状態で、軸方向(アウタ側とは、車体への組み付け状態でこの車体の幅方向外側を、インナ側とは、同じく中央側を、それぞれ言う。又、軸方向とは、特に断らない限り、ロータ1の軸方向を言う。何れも、本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)の変位を可能に、前記サポート4に支持している。
【0004】
又、このサポート4にキャリパ5を、軸方向の変位を可能に組み付けている。このキャリパ5は、アウタ側端部にキャリパ爪6を、インナ側部分の内部にシリンダ空間7を、それぞれ設けている。そして、このキャリパ爪6を、前記アウタパッド3のアウタ側面に対向させると共に、前記シリンダ空間7内に設けた推力発生機構8により、前記インナパッド2を前記ロータ1のインナ側面に向け押圧する様にしている。制動時には、前記推力発生機構8により前記インナパッド2を前記ロータ1のインナ側面に押し付けると、前記キャリパ5がインナ側に変位し、前記キャリパ爪6が前記アウタパッド3を前記ロータ1のアウタ側面に押し付ける。この結果、このロータ1が軸方向両側から強く挟持されて、制動が行われる。以上の構成及び作用は、広く実施されている油圧式のディスクブレーキと同様である。
【0005】
電動式ディスクブレーキの場合には、電動モータ9を駆動源として、前記インナパッド2を前記ロータ1のインナ側面に押し付ける為に、この電動モータ9の出力軸10と前記インナパッド2のインナ側面との間に、歯車式の減速機11と、前記推力発生機構8と、ピストン部材12とを設けている。この減速機11で減速されると共にトルクを増大された回転力は、送りねじ係合部13を介して、ボール・ランプ式の増力機構を構成する駆動側ロータ14に伝達され、この駆動側ロータ14を回転させる。尚、この駆動側ロータ14は、前記インナ、アウタ両パッド2、3と前記ロータ1の側面との間の隙間が解消される迄の間は、前記送りねじ係合部13の機能により、アウタ側に平行移動する。これに対して、前記隙間が解消し、この送りねじ係合部13の機能が停止した後は回転する。すると、前記駆動側ロータ14のアウタ側面に設けた複数の駆動側ランプ溝15、15と、前記ピストン部材12のインナ側面に添設した被駆動側ステータ16のインナ側面に設けた、複数の被駆動側ランプ溝17、17と、これら両ランプ溝15、17同士の間に挟持した複数個のボール18との係合(転がり接触)に基づいて、前記駆動側ロータ14と前記被駆動側ステータ16との間隔を、大きな力で拡げる。この結果、前記ピストン部材12のアウタ側面が、前記インナパッド2のインナ側面に強く押し付けられる。
【0006】
上述の様なボール・ランプ式の推力発生機構8を備えた電動式ディスクブレーキは、回転力を軸方向の力である推力に変換する効率が高い為、比較的小型の電動モータ9により、大きな制動力を得易い。但し、前記各ボール18の転動面と、前記両ランプ溝15、17との転がり接触部の接触状態が点接触に近い(転がり接触部に存在する接触楕円の面積が狭い)為、転がり接触部の面圧が高くなる。この為、大きな制動力を得るべく、前記推力発生機構8により発生する(前記インナパッド2を押圧する)推力を大きくすると、前記各転がり接触部、特に、前記各ランプ溝15、17の底部に、大きな応力が発生する。この結果、これら各ランプ溝15、17の転がり疲れ寿命が低下したり、著しい場合には、これら各ランプ溝15、17の底部に圧痕等の損傷が発生する。
【0007】
この様な寿命の低下や損傷の発生を防止する為には、前記各ランプ溝15、17の断面形状及び前記各ボールの直径を大きくすれば良いが、十分な効果を得る為には、これらの断面形状及び直径を相当に大きくしなければならず、電動式ディスクブレーキが相当に大型化する事が避けられない。特に、推力発生機構8部分の直径が相当に大きくなる。この推力発生機構8を収納するシリンダ空間7の内径は限られている為、この推力発生機構8部分の直径が大きくなる事は、電動式ディスクブレーキを実用化する面からは非常に大きな問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−291702号公報
【特許文献2】特開2001−173691号公報
【特許文献3】特開2001−311443号公報
【特許文献4】特開2003−14015号公報
【特許文献5】特開2003−65366号公報
【特許文献6】特開2004−169729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、小型でしかも大きな制動力を得られ、且つ、十分な耐久性を確保できる電動式ディスクブレーキの構造の実現を図るべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電動式ディスクブレーキは、例えば前述した如く、従来から知られている電動式ディスクブレーキと同様に、ロータと、サポートと、アウタ、インナ両パッドと、キャリパとを備える。
このうちのロータは、車輪と共に回転する。
又、前記サポートは、前記ロータに隣接する状態で、車体に支持される。
又、前記両パッドは、このロータを軸方向両側から挟む状態で、軸方向の変位を可能に、前記サポートに支持されている。
又、前記キャリパは、アウタ側端部に前記アウタパッドのアウタ側面に対向するキャリパ爪を、インナ側部分の内部にシリンダ空間を、前記インナパッドに対向する側を開口させた状態で設けている。そして、このシリンダ空間内に、このインナパッドを前記ロータのインナ側面に向け押圧する為の、推力発生機構を設けている。更に、前記キャリパは、前記サポートに対し軸方向の変位を可能に支持されている。
更に、前記推力発生機構は、電動モータの回転駆動力を軸方向の推力に変換して前記インナパッドに伝達するものである。
【0011】
特に、本発明の電動式ディスクブレーキに於いては、前記推力発生機構は、前記シリンダ空間の奥部とこのシリンダ空間の開口側部分に軸方向の変位を可能に内嵌されたピストン部材との間に第一、第二両増力機構を、推力の伝達方向に関して互いに直列に設けたものである。
このうち、前記シリンダ空間の奥部側に設けられた第一増力機構は、ボール・ランプ式のものである。
【0012】
この様な本発明の電動式ディスクブレーキを実施する場合、より具体的には、請求項2又は請求項3に記載した発明の様に、前記推力発生機構を、アジャスタケースと、アジャスタプラグと、ピストン部材と、第一、第二両増力機構とを備えたものとする。
このうちのアジャスタケースは、内周面に雌ねじ部を設けたものとし、前記シリンダ空間の奥部に内嵌固定する。
又、前記アジャスタプラグは、外周面に雄ねじ部を形成したもので、この雄ねじ部と前記雌ねじ部とを螺合させる事により前記アジャスタケースの内径側に、回転に伴ってこのアジャスタケースの軸方向に変位する様に設置する。
又、前記ピストン部材は、前記シリンダ空間の開口側部分に、軸方向の変位を可能に内嵌する。
更に、前記第一、第二両増力機構は、前記アジャスタプラグと前記ピストン部材との間に、推力の伝達方向に関して互いに直列に設ける。
【0013】
このうち、前記アジャスタプラグ側に設けた第一増力機構は、ボール・ランプ式のものとし、駆動側ロータと、被駆動側ステータと、複数個のボールとにより構成する。
このうちの駆動側ロータの、前記ピストン部材に対向する駆動側面に、軸方向に関する深さが円周方向に関して互いに同方向に漸次変化する、複数の駆動側ランプ溝を形成する。この様な駆動側ロータは、インナ側に向くスラスト荷重を支承可能にして、前記アジャスタプラグの内側に、このアジャスタプラグに対する回転を可能に設置する。そして、前記電動モータにより回転駆動自在とする。
又、前記被駆動側ステータの、前記駆動側面に対し軸方向に対向する被駆動側面に、軸方向に関する深さが円周方向に関して、前記駆動側ランプ溝と逆方向に漸次変化する、複数の被駆動側ランプ溝を形成する。この様な被駆動側ステータは、前記アジャスタプラグに対し軸方向の変位を可能に、且つ、このアジャスタプラグに対する相対回転を不能に設ける。
更に、前記各ボールは、前記各駆動側ランプ溝と前記各被駆動側ランプ溝との間に、これら各ランプ溝に沿った転動可能に挟持する。
【0014】
一方、前記ピストン部材側に設けた第二増力機構は、請求項2に記載した発明の場合には梃子式のものとし、請求項3に記載した発明の場合にはリアクションディスク式のものとする。
このうちの梃子式の第二増力機構は、スリーブと、複数個の分配レバーとを備える。
このうちのスリーブは、前記アジャスタプラグのアウタ側端部に、このアジャスタプラグと同期した回転及びこのアジャスタプラグに対する軸方向の変位を可能に設ける。
又、前記各分配レバーは、前記スリーブ及び前記被駆動側ステータのアウタ側面と前記ピストン部材のインナ側面との間に設ける。
そして、これら各分配レバーのインナ側面の内径側部分を前記被駆動側ステータのアウタ側面に、同じくインナ側面の外径側部分を前記スリーブのアウタ側面に、同じくアウタ側面の径方向中間部を前記ピストン部材のインナ側面に、それぞれ揺動変位を可能にして突き当てる。
【0015】
一方、リアクションディスク式の第二増力機構は、スリーブと、リアクションディスクとを備える。
このうちのスリーブは、前記梃子式の第二増力機構の場合と同様に、前記アジャスタプラグのアウタ側端部に、このアジャスタプラグと同期した回転及びこのアジャスタプラグに対する軸方向の変位を可能に設ける。
又、前記リアクションディスクは、ゴム、ビニルの如きエラストマー等の弾性材製、又は、この様な弾性材製の袋内に液体を密封したもので、前記スリーブ及び前記被駆動側ステータのアウタ端面と、前記ピストン部材の奥端面との間に挟持する。
そして、前記被駆動側ステータのアウタ側面を、前記リアクションディスクのインナ側面中央部に突き当てる。
更に、梃子式、リアクションディスク式、何れの第二増力機構を使用する場合も、前記駆動側ロータと前記アジャスタプラグとの間に、この駆動側ロータと前記被駆動側ステータとの軸方向距離を縮めるべく前記各ボールを転動させる方向にこの駆動側ロータを回転させる、ばねを設ける。
【0016】
上述の様な請求項2〜3に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記アジャスタプラグのインナ側端部に形成された内向鍔部のアウタ側面と、前記駆動側ロータのインナ側面との間に、スラスト転がり軸受を設ける。
或いは、請求項5に記載した発明の様に、前記シリンダ空間の奥部に回転自在に支持されて前記電動モータにより減速機構を介して回転駆動される駆動筒の内周面と、前記駆動側ロータのインナ側部分に設けた被駆動軸とを、トルク伝達及び軸方向の相対変位を可能に組み合わせる。
【発明の効果】
【0017】
上述の様に構成する本発明によれば、小型でしかも大きな制動力を得られ、且つ、十分な耐久性を確保できる電動式ディスクブレーキを実現できる。
即ち、本発明の構造によれば、電動モータの回転駆動力を、ボール・ランプ式の第一増力機構と、梃子式或いはリアクションディスク式の第二増力機構との2段階で、増力しつつ直線運動に変換する。この為、小型の電動モータを使用した場合でも、インナパッドをロータのインナ側面に押し付ける力(総推力)を、十分に大きくできる。又、推力発生機構全体としての増力比(出力/入力)は、前記第一、第二両増力機構のそれぞれの増力比の積になる。従って、これら第一、第二両増力機構のそれぞれの増力比に就いては、特に大きな値にしなくても、前記推力発生機構全体としての増力比を十分に確保できる。この為、前記第一、第二両増力機構を特に大型化する必要がなく、これら両増力機構を、内径が限られた、キャリパのシリンダ空間内に設置できる。
更に、前段側(前記電動モータからの入力側)に設ける、前記ボール・ランプ式の第一増力機構が発生する推力、言い換えれば、この第一増力機構に加わるスラスト荷重は、前記総推力よりも、前記第二増力機構の増力比分だけ小さく(「総推力/第二増力機構の増力比」に)なる。この為、前記第一増力機構を構成する駆動側、被駆動側各ランプ溝の断面形状やボールの直径を特に大きくしなくても、これら各ランプ溝の転がり疲れ寿命の確保及び損傷の発生防止を図れる。
【0018】
又、請求項2〜3に記載した発明の構造によれば、前記インナパッドをロータのインナ側面に押し付ける以前、即ち、これらインナパッドとロータのインナ側面との間の隙間を解消すべく、このインナパッドをこのインナ側面に近づける迄は、前記第一、第二両増力機構を作動させずに済む。この為、これら両増力機構の増力比を大きくする代わりに、これら両増力機構のストロークが小さくなっても、前記インナパッドをロータのインナ側面に、確実に、且つ、十分に大きな力で押し付けられる。
更に、請求項4に記載した発明によれば、前記駆動側ロータの回転抵抗を低く抑えて効率の向上を図れ、請求項5に記載した発明によれば、アジャスタプラグの軸方向変位に拘らず、電動モータによる前記駆動側ロータの回転駆動を安定して行える。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】推力発生機構を取り出して示す断面図。
【図3】図1のA−A断面図。
【図4】同B−B断面図。
【図5】同C−C断面図。
【図6】本発明の実施の形態の第2例を示す、図1のD部に相当する部分断面図。
【図7】同変形例を示す、図1と同様の断面図。
【図8】従来構造の1例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態の第1例]
図1〜5は、請求項1、2、4、5に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、推力発生機構8a以外の部分、即ち、車体(懸架装置を構成するナックル)に対し支持したサポート4にインナ、アウタ両パッド2a、3a及びキャリパ5aを、軸方向の変位を可能に支持する部分の構造等は、従来から広く知られている油圧式のディスクブレーキと同様であるから、詳しい図示並びに説明は省略し、以下、本例の特徴である、前記推力発生機構8a部分の構造及び作用を中心に説明する。
【0021】
この推力発生機構8aは、前記キャリパ5aのインナ側部分の内部に設けられたシリンダ空間7a内に収納されている。この為にこのキャリパ5aは、アウタ側端部にキャリパ爪6aを設けると共に、インナ側部分の内部に前記シリンダ空間7aを、前記インナパッド2aに対向するアウタ側を開口させた状態で設けている。そして、このシリンダ空間7a内に設けた、前記推力発生機構8aにより、前記インナパッド2aをロータ1(図8参照)のインナ側面に向け押圧可能としている。
【0022】
前記推力発生機構8aは、前記キャリパ5aに支持固定した電動モータ9aの回転駆動力を軸方向の推力に変換して前記インナパッド2aに伝達するものである。この為に、この電動モータ9aの出力軸の側から順に、歯車式の減速機11aと、ボール・ランプ式の第一増力機構19と、梃子式の第二増力機構20と、ピストン部材12aとを、力の伝達方向に関して、互いに直列に設けている。前記減速機11aの最終段に設けた減速大歯車21の中心部アウタ側に、中空円筒状の駆動筒22の基端部(インナ側端部)を連結ピン23により連結固定し、前記電動モータ9aにより、前記駆動筒22を回転駆動可能としている。この駆動筒22が、前記推力発生機構8aの入力部材となる。尚、この駆動筒22の基端部は、次述するアジャスタケース24の基端部(インナ側端部)に、転がり軸受25により回転自在に支持している。
【0023】
前記アジャスタケース24は、全体を、基端側が小径で、中間部乃至先端側(アウタ側)が大径である段付円筒状とされたもので、前記シリンダ空間7aの奥半部に内嵌固定している。従って前記アジャスタケース24は、このシリンダ空間7a内で回転する事はない。この様なアジャスタケース24の内周面の中間部乃至先端部には、雌ねじ部26を設けている。そして、このアジャスタケース24の内側に、アジャスタプラグ27を組み付けている。このアジャスタプラグ27は、外周面のインナ側部分に雄ねじ部28を形成したもので、この雄ねじ部28と前記雌ねじ部26とを螺合させる事により前記アジャスタケース24の内径側に、回転に伴ってこのアジャスタケース24の軸方向に変位する様に設置している。又、前記ピストン部材12aは、前記シリンダ空間7aの開口側(アウタ側)部分に、軸方向の変位を可能に内嵌している。そして、前記アジャスタプラグ27と前記ピストン部材12aとの間に前記第一、第二両増力機構19、20を、推力の伝達方向に関して互いに直列に設けている。
【0024】
このうち、前記アジャスタプラグ27側に設けた、ボール・ランプ式の第一増力機構19は、駆動側ロータ14aと、被駆動側ステータ16aと、複数個のボール18aとにより構成している。
【0025】
このうち、前記第一増力機構19の入力部材である、前記駆動側ロータ14aは、前記駆動筒22に、トルク伝達及び軸方向の相対変位を可能に組み合わされている。この為に本例の場合には、図1、3に示す様に、前記駆動側ロータ14aのインナ側部分に設けた被駆動軸29のインナ側端部に設けたトルク伝達ピン30の両端部と、前記駆動筒22の内周面の直径方向反対側2箇所位置に、それぞれ軸方向に形成したトルク伝達溝31、31とを、軸方向の摺動変位を可能に係合させている。これら両トルク伝達溝31、31の断面形状は円弧形とし、前記トルク伝達ピン30の両端部は半球状としている。又、前記アジャスタプラグ27のインナ側端部に内向鍔部32を形成し、この内向鍔部32のアウタ側面と、前記駆動側ロータ14aのインナ側面との間に、スラスト転がり軸受33を設けている。この構成により、前記駆動筒22で前記駆動側ロータ14aを回転駆動しつつ、前記アジャスタプラグ27の回転に伴って、この駆動側ロータ14aが軸方向に変位するのを許容する様にしている。尚、前記駆動筒22と前記被駆動軸29とは、一般的なスプライン係合で組み合わせても良い。
【0026】
又、前記駆動側ロータ14aの、前記ピストン部材12aに対向する駆動側面(アウタ側面)に、複数(一般的には3〜4本)の駆動側ランプ溝15a、15aを形成している。これら各駆動側ランプ溝15a、15aは、軸方向から見た形状が、前記ピストン部材12aの中心をその中心とする単一円弧上に存在する部分円弧形で、断面形状に関しても部分円弧形である。そして、軸方向に関する深さが、円周方向に関して互いに同方向に漸次変化する。この様な駆動側ロータ14aは、次述する被駆動側ステータ16a及びボール18aと組み合わされて、前記第一増力機構19を構成する。
【0027】
前記被駆動側ステータ16aは、前記アジャスタプラグ27に対し、相対回転を阻止した状態で(このアジャスタプラグ27と共に回転する様にして)、且つ、このアジャスタプラグ27に対する軸方向変位を可能に組み付けている。この為に本例の場合には、このアジャスタプラグ27に対して前記被駆動側ステータ16aを、スリーブ34を介して組み付けている。この為に、前記アジャスタプラグ27の先端縁(アウタ側端縁)の円周方向複数個所と、前記スリーブ34の基端縁(インナ側端縁)の円周方向複数個所とに、図4に示す様な、係合凹部35と係合凹部36とによる凹凸係合部を設け、前記アジャスタプラグ27と前記スリーブ34とが同期して回転する様にしている。更に、図5に示す様に、このスリーブ34の内周面の円周方向複数個所に形成した係合凹溝37と、前記被駆動側ステータ16aの外周縁の円周方向複数個所に突設した係合突片38とを係合させて、この被駆動側ステータ16aが、前記スリーブ34と同期して回転する様にしている。前記各係合凹溝37の軸方向長さは、前記各係合突片38の軸方向厚さよりも大きくして、前記被駆動側ステータ16aが前記スリーブ34に対して、軸方向に変位できる様にしている。
【0028】
この様にして、前記アジャスタプラグ27に、相対回転を不能に、軸方向変位を可能に組み付けた、前記被駆動側ステータ16aのインナ側端面である被駆動側面に、前記各駆動側ランプ溝15a、15aと同数の被駆動側ランプ溝17a、17aを、これら各駆動側ランプ溝15a、15aに対し軸方向に対向する状態で形成している。前記各被駆動側ランプ溝17a、17aも、軸方向から見た形状が部分円弧形で、断面形状も部分円弧形である。そして、軸方向に関する深さが、前記各被駆動側ランプ溝17a、17a同士の間で円周方向に関して互いに同方向に、前記各駆動側ランプ溝15a、15aとは逆方向に漸次変化する。この様な被駆動側ステータ16aは、前記駆動側ロータ14a及び前記複数個のボール18a、18aと組み合わせて、前記第一増力機構19を構成する。即ち、互いに対向する前記各駆動側ランプ溝15a、15aと前記各被駆動側ランプ溝17a、17aとの間に前記各ボール18a、18aを1個ずつ、これら各ランプ溝15a、17aに沿った転動可能に挟持する。
【0029】
以上の構成により、前記駆動側ロータ14aと前記被駆動側ステータ16aとの相対回転に伴う、各ランプ溝15a、17aに沿った前記各ボール18a、18aの転動により、前記駆動側ロータ14aと前記被駆動側ステータ16aとの軸方向距離を拡縮する、前記第一増力機構19を構成している。尚、前記駆動側ロータ14aと前記アジャスタプラグ27との間に、捩りコイルばね39を設けて、この駆動側ロータ14aに、回転方向の弾力を付与している。この捩りコイルばね39による弾力の方向は、この駆動側ロータ14aと前記被駆動側ステータ16との軸方向距離を縮める(前記第一増力機構19による推力を喪失させる)べく、前記各ボール18aを転動させる方向とする。
【0030】
又、前記梃子式の第二増力機構20は、前記スリーブ34と、複数個(例えば3〜4個)の分配レバー40、40とを備える。これら各分配レバー40、40は、このスリーブ34及び前記被駆動側ステータ16aの先端面(アウタ側面)と、前記ピストン部材12aの内部奥端面(インナ側面)との間に設けている。前記各分配レバー40、40のインナ側面のうち、前記スリーブ34及び前記被駆動側ステータ16aの径方向に関して内外両端部、及び、前記各分配レバー40、40のアウタ側面のうち、前記ピストン部材12aの径方向に関して中間部は、それぞれ部分円筒状の凸曲面としている。そして、前記各分配レバー40、40のインナ側面の内径側部分を前記被駆動側ステータ16aの先端面に、同じくインナ側面の外径側部分を前記スリーブ34の先端面に、それぞれ揺動変位を可能に突き当てている。又、前記各分配レバー40、40のアウタ側面の径方向中間部を、前記ピストン部材12aの奥端部に内嵌した円環状のプラグ部材41のインナ側面に、それぞれ揺動変位を可能にして突き当てている。特に、このプラグ部材41のインナ側面に関しては、それぞれが断面円弧状で、軸方向に見た形状が直線状の凹部42、42を形成し、これら各凹部42、42と前記各分配レバー40、40のアウタ側面の径方向中間部とを、十分な面積で当接させている。尚、これら各分配レバー40、40の揺動変位が円滑に且つ安定して行われる様にすべく、これら各分配レバー40、40を軸方向に見た形状は、円弧形ではなく直線状としている。又、前記スリーブ34と前記被駆動側ステータ16aとの間には圧縮コイルばね43を設けて、この被駆動側ステータ16aを前記駆動側ロータ14aに向け、弾性的に押圧している。そして、前記各ランプ溝15a、17aと前記各ボール18aとが、常に適正な状態で転がり接触する様にしている。
【0031】
上述の様に構成する本例の電動式ディスクブレーキは、次の様にして制動力を発揮させる。
制動時には、前記電動モータ9aにより前記駆動筒22を介して前記駆動側ロータ14aを回転駆動する。制動開始直後の初期段階では、前記インナ、アウタ両パッド2a、3aと前記ロータ1の両側面との間には隙間が存在し、これら両パッド2a、3aをこのロータ1に向けて移動させる為に要する力は小さくて済む。この為、前記初期段階では、前記駆動側ロータ14aの回転に伴って前記アジャスタプラグ27も、更には、前記スリーブ34及び前記被駆動側ステータ16aも、前記捩りコイルばね39の弾力に基づいて、前記駆動側ロータ14aと同期して回転する。そして、前記雄ねじ部28と前記雌ねじ部26との係合に基づいて、前記アジャスタプラグ27が、前記ロータ1に向けてアウタ側に変位し、前記両パッド2a、3aと前記ロータ1の両側面との間の隙間を解消する。この際、前記各分配レバー40、40のインナ側面の径方向2箇所位置と、被駆動側ステータ16a及び前記スリーブ34の先端面との当接部が摺接するが、これら各当接部の面圧は小さい為、特に問題とはならない。又、前記駆動筒22及び前記駆動側ロータ14aの回転は、前記転がり軸受25及び前記スラスト転がり軸受33の存在に基づき、軽い力で安定して行える。
【0032】
この様にして前記両パッド2a、3aと前記ロータ1の両側面との間の隙間が解消されると、前記アジャスタプラグ27をロータ1に向けて移動させる為に要する力(このアジャスタプラグ27の回転抵抗)が、前記捩りコイルばね39によりこのアジャスタプラグ27に付与されている弾力よりも大きくなる。この結果、このアジャスタプラグ27がそれ以上(この弾力によっては)回転しなくなり、このアジャスタプラグ27が停止する。同時に、前記スリーブ34及び前記被駆動側ステータ16aの回転も停止する。この状態から更に前記駆動側ロータ14aを、前記捩りコイルばね39の弾力に抗して回転させると、前記各ボール18aが、前記各駆動側ランプ溝15a、15a及び前記各被駆動側ランプ溝17a、17aの浅い側に向けて転動する。この結果、前記駆動側ロータ14aと前記被駆動側ステータ16aとの間隔が拡がり、この被駆動側ステータ16aが前記ロータ1に向け、アウタ側に変位する。
【0033】
この様な被駆動側ステータ16aの変位に基づいて、前記各分配レバー40、40が、この被駆動側ステータ16aの先端面との当接部を力点とし、前記スリーブ34との当接部を支点とし、前記プラグ部材41との当接部を作用点として揺動変位する。このプラグ部材41の径方向に関して、この作用点は前記力点と支点との間に存在するので、前記被駆動側ステータ16aを変位させる力は、(図示の例では3倍程度に)増力されて前記プラグ部材41を押圧し、このプラグ部材41を内嵌固定した前記ピストン部材12aを前記ロータ1に向け、大きな力で押し付ける。この結果、前記両パッド2a、3aが前記ロータ1の両側面に強く押し付けられて、制動が行われる。本例の場合、前記隙間を解消する過程では、前記第一、第二両増力機構19、20が作動する必要はなく、この隙間解消の為にこれら両増力機構19、20のストロークが消費される事はない。従って、これら両増力機構19、20として、ストロークが短い代わりに増力比が大きな構造を採用できて、前記ピストン部材12aを前記ロータ1に向けて押し付ける力を、特に大きくできる。
【0034】
制動解除の際には、従来から提案されている電動式ディスクブレーキと同様に、前記電動モータ9aを逆方向に回転させて、前記ピストン部材12aを前記ロータ1から退避させる。この際、前記両パッド2a、3aが前記ロータ1の両側面から離隔する瞬間の後、前記電動モータ9aを所定角度だけ逆方向に回転させ続けて、前記両パッド2a、3aと前記ロータ1の両側面との間に適正厚さの隙間を確保する。本例の場合には、前記アジャスタプラグ27を設ける事により、前記両パッド2a、3aの摩耗に拘らず、前記隙間を常に適正厚さに保てる様にしている。尚、前記電動モータ9を逆方向に回転させる場合には、前記各ランプ溝15a、17aの最深部と前記各ボール18aとが係合するので、前記駆動側ローラ14aから前記アジャスタプラグ27迄、十分なトルクを伝達できる。
【0035】
以上の様に本例の電動式ディスクブレーキは、前記電動モータ9aの回転駆動力を、前記ボール・ランプ式の第一増力機構19と、梃子式の第二増力機構20との2段階で増力する為、前記推力発生機構8a全体としての増力比を大きくできる。この為、前記電動モータ9aとして小型のものを使用した場合でも、前記インナパッド2aを前記ロータ1のインナ側面に押し付ける力(総推力)を十分に大きくして、十分に大きな制動力を得られる。又、前記推力発生機構8a全体としての増力比(出力/入力)は、前記第一、第二両増力機構19、20のそれぞれの増力比の積になる。従って、これら第一、第二両増力機構19、20のそれぞれの増力比に就いては、特に大きな値にしなくても、前記推力発生機構8a全体としての増力比を十分に確保できる。この為、前記第一、第二両増力機構19、20を特に大型化する必要がなく、これら両増力機構19、20を、内径が限られた、前記キャリパ5aのシリンダ空間7a内に設置できる。
【0036】
更に、前記電動モータ9aに近い前段側に設ける、前記ボール・ランプ式の第一増力機構19が発生する推力であって、この第一増力機構19に加わるスラスト荷重でもある力は、前記総推力よりも、前記第二増力機構20の増力比分だけ小さくなる。この為、前記第一増力機構19を構成する、前記駆動側、被駆動側各ランプ溝15a、17aの断面形状や前記各ボール18aの直径を特に大きくしなくても、これら各ランプ溝15a、17aの転がり疲れ寿命の確保及び損傷の発生防止を図れる。
【0037】
[実施の形態の第2例]
図6は、請求項1、3〜5に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、第二増力機構20aとして、リアクションディスク式のものを採用している。この為に前記第二増力機構20aは、上述した第1例の場合と同様のスリーブ34に加えて、リアクションディスク44を設けている。ピストン部材12aの奥端部に設けるプラグ部材41aは、インナ側面全体が平坦な円板状としている。前記リアクションディスク44は、ゴム、ビニルの如きエラストマー等の弾性材製、或いは、この様な弾性材製の中空袋内に液体を封入したもので、前記スリーブ34及び被駆動側ステータ16aのアウタ側面と、前記プラグ部材41aのインナ側面との間に挟持している。そして、この被駆動側ステータ16aのアウタ側面を、前記リアクションディスク44のインナ側面中央部に突き当てている。
【0038】
制動時には、上述した実施の形態の第1例と同様の作用によって前記被駆動側ステータ16aがアウタ側に変位し、この被駆動側ステータ16aのアウタ側面が前記リアクションディスク44のインナ側面中央部を強く押圧する。この結果、このリアクションディスク44が弾性変形する。このリアクションディスク44は、一種の非圧縮性流体の如き挙動により、このリアクションディスク44を囲んでいる相手面を押圧する。このリアクションディスク44がこの相手面を押圧する単位面積当たりの圧力は、前記被駆動側ステータ16aのアウタ側面による押圧部の単位面積当たりの圧力と同じになる。リアクションディスク44と相手面との当接面積を軸方向に関して見た場合、前記プラグ部材41aとの当接面積S1 が、前記被駆動側ステータ16aのアウタ側面との当接面積S2 よりも十分に広い(S1 ≫S2 )。従って、前記プラグ部材41aを内嵌固定した前記ピストン部材12aは、前記被駆動側ステータ16aに加えられた推力よりも、前記当接面積の比分(S1 /S2 )だけ増力されて、ロータ1(図8参照)に向け押圧される。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0039】
尚、本例の様にリアクションディスク44を使用する場合、図6に示した構造から前記プラグ部材41aを省略し、図7に示す様に、リアクションディスク44のアウタ側面をピストン部材12bの奥端面(インナ側面)に、直接突き当てる事もできる。又、前記図7に示した構造の場合には、前記ピストン部材12bを、一対のピストン素子45a、45bを組み合わせて構成している。
【符号の説明】
【0040】
1 ロータ
2、2a インナパッド
3、3a アウタパッド
4 サポート
5、5a キャリパ
6、6a キャリパ爪
7、7a シリンダ空間
8、8a 推力発生機構
9、9a 電動モータ
10 出力軸
11、11a 減速機
12、12a、12b ピストン部材
13 送りねじ係合部
14、14a 駆動側ロータ
15、15a 駆動側ランプ溝
16、16a 被駆動側ステータ
17、17a 被駆動側ランプ溝
18、18a ボール
19 第一増力機構
20、20a 第二増力機構
21 減速大歯車
22 駆動筒
23 連結ピン
24 アジャスタケース
25 転がり軸受
26 雌ねじ部
27 アジャスタプラグ
28 雄ねじ部
29 被駆動軸
30 トルク伝達ピン
31 トルク伝達溝
32 内向鍔部
33 スラスト転がり軸受
34 スリーブ
35 係合凹部
36 係合凸部
37 係合凹溝
38 係合突片
39 捩りコイルばね
40 分配レバー
41、41a プラグ部材
42 凹部
43 圧縮コイルばね
44 リアクションディスク
45a、45b ピストン素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータと、このロータに隣接する状態で車体に支持されるサポートと、このロータを軸方向両側から挟む状態で、軸方向の変位を可能にこのサポートに支持された、アウタ、インナ両パッドと、アウタ側端部にこのアウタパッドのアウタ側面に対向するキャリパ爪を、インナ側部分の内部に前記インナパッドに対向する側を開口させた状態で設けられたシリンダ空間内に、このインナパッドを前記ロータのインナ側面に向け押圧する為の推力発生機構を、それぞれ設け、前記サポートに対し軸方向の変位を可能に支持されたキャリパとを備え、前記推力発生機構は、電動モータの回転駆動力を軸方向の推力に変換して前記インナパッドに伝達するものである電動式ディスクブレーキに於いて、
前記推力発生機構は、前記シリンダ空間の奥部とこのシリンダ空間の開口側部分に軸方向の変位を可能に内嵌されたピストン部材との間に、推力の伝達方向に関して互いに直列に設けられた第一、第二両増力機構を備えたものであり、
このうち、前記シリンダ空間の奥部側に設けられた第一増力機構は、ボール・ランプ式のものである事を特徴とする電動式ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記推力発生機構は、前記シリンダ空間の奥部に内嵌固定された、内周面に雌ねじ部を設けたアジャスタケースと、このアジャスタケースの内径側に、外周面に形成した雄ねじ部と前記雌ねじ部とを螺合させる事により、回転に伴って前記アジャスタケースの軸方向に変位可能としたアジャスタプラグと、前記シリンダ空間の開口側部分に軸方向の変位を可能に内嵌されたピストン部材と、これらアジャスタプラグとピストン部材との間に設けられた第一、第二両増力機構とを備えたものであり、
このうち、前記アジャスタプラグ側に設けられた、ボール・ランプ式の第一増力機構は、前記ピストン部材に対向する駆動側面に、軸方向に関する深さが円周方向に関して互いに同方向に漸次変化する複数の駆動側ランプ溝を形成すると共に、インナ側に向くスラスト荷重を支承可能にして前記アジャスタプラグの内側に設置され、前記電動モータにより回転駆動される駆動側ロータと、前記駆動側面に対し軸方向に対向する被駆動側面に、軸方向に関する深さが円周方向に関して、前記駆動側ランプ溝と逆方向に漸次変化する複数の被駆動側ランプ溝を形成し、前記アジャスタプラグに対し軸方向の変位を可能に、且つ、このアジャスタプラグに対する相対回転を不能に設けられた被駆動側ステータと、前記各駆動側ランプ溝と前記各被駆動側ランプ溝との間に転動可能に挟持された複数個のボールとを備えたものであり、
前記ピストン部材側に設けられた第二増力機構は、梃子式のものであって、前記アジャスタプラグのアウタ側端部に、このアジャスタプラグと同期した回転及びこのアジャスタプラグに対する軸方向の変位を可能に設けられたスリーブと、このスリーブ及び前記被駆動側ステータのアウタ側面と前記ピストン部材のインナ側面との間に設けられた複数個の分配レバーとを備え、これら各分配レバーのインナ側面の内径側部分を前記被駆動側ステータのアウタ側面に、同じくインナ側面の外径側部分を前記スリーブのアウタ側面に、同じくアウタ側面の径方向中間部を前記ピストン部材のインナ側面に、それぞれ揺動変位を可能にして突き当てており、
前記駆動側ロータと前記アジャスタプラグとの間に、この駆動側ロータと前記被駆動側ステータとの軸方向距離を縮めるべく前記各ボールを転動させる方向にこの駆動側ロータを回転させるばねを設けている、請求項1に記載した電動式ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記推力発生機構は、前記シリンダ空間の奥部に内嵌固定された、内周面に雌ねじ部を設けたアジャスタケースと、このアジャスタケースの内径側に、外周面に形成した雄ねじ部と前記雌ねじ部とを螺合させる事により、回転に伴って前記アジャスタケースの軸方向に変位可能としたアジャスタプラグと、前記シリンダ空間の開口側部分に軸方向の変位を可能に内嵌されたピストン部材と、これらアジャスタプラグとピストン部材との間に設けられた第一、第二両増力機構とを備えたものであり、
このうち、前記アジャスタプラグ側に設けられた、ボール・ランプ式の第一増力機構は、前記ピストン部材に対向する駆動側面に、軸方向に関する深さが円周方向に関して互いに同方向に漸次変化する複数の駆動側ランプ溝を形成すると共に、インナ側に向くスラスト荷重を支承可能にして前記アジャスタプラグの内側に設置され、前記電動モータにより回転駆動される駆動側ロータと、前記駆動側面に対し軸方向に対向する被駆動側面に、軸方向に関する深さが円周方向に関して、前記駆動側ランプ溝と逆方向に漸次変化する複数の被駆動側ランプ溝を形成し、前記アジャスタプラグに対し軸方向の変位を可能に、且つ、このアジャスタプラグに対する相対回転を不能に設けられた被駆動側ステータと、前記各駆動側ランプ溝と前記各被駆動側ランプ溝との間に転動可能に挟持された複数個のボールとを備えたものであり、
前記ピストン部材側に設けられた第二増力機構は、リアクションディスク式のものであって、前記アジャスタプラグのアウタ側端部に、このアジャスタプラグと同期した回転及びこのアジャスタプラグに対する軸方向の変位を可能に設けられたスリーブと、このスリーブ及び前記被駆動側ステータのアウタ端面と前記ピストン部材の奥端面との間に挟持した、弾性材製又は弾性材製の袋内に液体を封入して成るリアクションディスクとを備え、前記被駆動側ステータのアウタ側面をこのリアクションディスクのインナ側面中央部に突き当てており、
前記駆動側ロータと前記アジャスタプラグとの間に、この駆動側ロータと前記被駆動側ステータとの軸方向距離を縮めるべく前記各ボールを転動させる方向にこの駆動側ロータを回転させるばねを設けている、請求項1に記載した電動式ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記アジャスタプラグのインナ側端部に形成された内向鍔部のアウタ側面と、前記駆動側ロータのインナ側面との間に、スラスト転がり軸受を設けている、請求項2〜3のうちの何れか1項に記載した電動式ディスクブレーキ。
【請求項5】
前記シリンダ空間の奥部に回転自在に支持されて前記電動モータにより減速機構を介して回転駆動される駆動筒の内周面と、前記駆動側ロータのインナ側部分に設けた被駆動軸とを、トルク伝達及び軸方向の相対変位を可能に組み合わせている、請求項2〜4のうちの何れか1項に記載した電動式ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−266005(P2010−266005A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118645(P2009−118645)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】