説明

電動機およびそれを備えた電気機器

【課題】PWM方式でインバータ駆動される電動機において、軸受の電食の発生を抑制する。
【解決手段】巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、前記固定子に対向して周方向に永久磁石を保持した回転子と、前記回転子の中央を貫通するように前記回転子を締結したシャフトとを含む回転体と、前記シャフトを支持する軸受と、前記軸受を固定する2つのブラケットとを備え、前記軸受単体の耐電圧よりも、前記軸受の軸受内輪と軸受外輪との間に現れる軸電圧が抑えられている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に関するもので、特に軸受の電食の発生を抑制するように改良された電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動機はパルス幅変調(Pulse Width Modulation)方式(以下、PWM方式という)のインバータにより駆動する方式を採用するケースが多くなってきている。こうしたPWM方式のインバータ駆動の場合、巻線の中性点電位が零とならないため、軸受の外輪と内輪間に電位差(以下、軸電圧という)を発生させる。軸電圧は、スイッチングによる高周波成分を含んでおり、軸電圧が軸受内部の油膜の絶縁破壊電圧に達すると、軸受内部に微小電流が流れ軸受内部に電食が発生する。電食が進行した場合、軸受内輪、軸受外輪または軸受ボールに波状摩耗現象が発生して異常音に至ることがあり、電動機における不具合の主要因の1つとなっている。
【0003】
従来、電食を抑制するためには、以下のような対策が考えられている。
(1)軸受内輪と軸受外輪を導通状態にする。
(2)軸受内輪と軸受外輪を絶縁状態にする。
(3)軸電圧を低減する。
【0004】
上記(1)の具体的方法としては、軸受の潤滑剤を導電性にすることが挙げられる。但し、導電性潤滑剤は、時間経過とともに導電性が悪化することや摺動信頼性に欠けるなどの課題がある。また、回転軸にブラシを設置し、導通状態にする方法も考えられるが、この方法もブラシ摩耗粉やスペースが必要となるなどの課題がある。
【0005】
上記(2)の具体的方法としては、軸受内部の鉄ボールを非導電性のセラミックボールに変更することが挙げられる。この方法は、電食抑制の効果は非常に高いが、コストが高い課題があり、汎用的な電動機には採用できない。
【0006】
上記(3)の具体的方法としては、固定子鉄心と導電性を有した金属製のブラケットとを電気的に短絡させることで、静電容量を変化させて軸電圧を低減する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、電動機の固定子鉄心などを大地のアースへ電気的に接続する構成も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
ところで、近年、固定子側の固定子鉄心などの固定部材をモールド材などでモールドして、信頼性を高めたモールドモータが提案されている。そこで、金属製のブラケットに代えてこのような絶縁性のモールド材で軸受を固定し、軸受外輪側に発生する不要な高周波電圧や軸受内外輪間を流れる不要な高周波電流を抑制することが考えられる。
【0008】
ところが、このようなモールド材は樹脂であり軸受を固定するには強度が不十分な場合がある。また玉軸受のような軸受は一般的に、例えば外輪とハウジング内周面との間に隙間がある場合、伝達負荷によってシャフトにラジアル方向の力が発生する。このような力が発生すると、径方向の相対差によって滑り現象が発生しやすくなる(このような滑り現象はクリープと呼ばれている)。このようなクリープは、一般的に外輪をブラケットなどのハウジングに強固に固定することで抑制できるが、固定部材が樹脂成形のため寸法精度が悪く、軸受のクリープ不具合が発生しやすくなったりするなどの課題があった。
【0009】
なお、近年の電動機の高出力化に伴い、軸受をより強固に固定することが必要となっているが、予め鋼板で加工され寸法精度の良好な金属製のブラケットを軸受の固定に採用するなど、クリープ対策を施すことが必要不可欠となっている。とりわけ、軸受は回転軸に対して2箇所で受ける構造が一般的であるが、強度的な面や実施の容易性などの理由から、2つの軸受に対して金属製のブラケットで固定することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−159302号公報
【特許文献2】特開2004−229429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のような従来の方法は短絡させる方法なので、軸電圧が高くなってしまう場合があった。
【0012】
また、電動機をPWM方式にてインバータ駆動する駆動回路(制御回路などを含む)の電源供給回路と、その電源供給回路の1次側回路および1次側回路側の大地へのアースとは電気的に絶縁された構成である場合、特許文献2のように電動機の固定子鉄心などを大地のアースへ電気的に接続する構成を採用しても、軸電圧の低減は困難であった。
【0013】
本発明の電動機は、上記課題に鑑みなされたものであり、軸受における電食の発生を抑制した電動機およびそれを備えた電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の電動機は、上記目的を達成するために、巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、前記固定子に対向して周方向に永久磁石を保持した回転子と、前記回転子の中央を貫通するように前記回転子を締結したシャフトと、前記回転子の外周と前記シャフトとの間を絶縁するように構成した誘電体層とを含む回転体と、前記シャフトを支持する軸受と、前記軸受を固定する2つの導電性のブラケットとを備え、前記軸受単体を回転させたときの軸受内輪と軸受外輪との間の静電容量を増加させるための予圧を強くする構成を具備する。
【0015】
このような構成により、使用環境などに影響されることなく軸電圧を抑制できる。
【0016】
また、本発明の電動機は、軸受が呼び番号が608であり、予圧を42N以上とした構成である。
【0017】
このような構成により、軸受内輪と軸受外輪との間の静電容量を上げることができ、分圧効果により軸電圧を抑制できる。
【0018】
また、本発明の電動機は、軸受が呼び番号が608であり、予圧を60N以上とした構成である。
【0019】
このような構成により、軸受内輪と軸受外輪との間の静電容量を上げることができ、分圧効果により軸電圧を抑制できる。
【0020】
また、本発明の電動機は、軸受が呼び番号が6201であり、予圧を60N以上とした構成である。
【0021】
このような構成により、軸受内輪と軸受外輪との間の静電容量を上げることができ、分圧効果により軸電圧を抑制できる。
【0022】
また、本発明の電動機は、軸受が呼び番号が6202であり、予圧を60N以上とした構成である。
【0023】
このような構成により、軸受内輪と軸受外輪との間の静電容量を上げることができ、分圧効果により軸電圧を抑制できる。
【0024】
また、本発明の電動機は、軸受が呼び番号が6204であり、予圧を60N以上とした構成である。
【0025】
このような構成により、軸受内輪と軸受外輪との間の静電容量を上げることができ、分圧効果により軸電圧を抑制できる。
【0026】
また、本発明の電動機は、軸受が呼び番号が6302であり、予圧を60N以上とした構成である。
【0027】
このような構成により、軸受内輪と軸受外輪との間の静電容量を上げることができ、分圧効果により軸電圧を抑制できる。
【0028】
また、本発明の電動機は、軸受が呼び番号が6004であり、予圧を60N以上とした構成である。
【0029】
このような構成により、軸受内輪と軸受外輪との間の静電容量を上げることができ、分圧効果により軸電圧を抑制できる。
【0030】
また、本発明の電動機は、2つのブラケットが電気的に接続されるとともに固定子鉄心とは絶縁された構成である。
【0031】
このような構成により、2つのブラケットの電気的電位を同じにすることができ、軸電圧を安定させることができ、使用環境などに影響されることなく軸電圧を抑制できる。
【0032】
また、本発明の電動機は、2つのブラケットの少なくとも一方と巻線を巻装した固定子鉄心とが絶縁樹脂により一体成形された構成である。
【0033】
このような構成により、2つの導電性ブラケットを電動機内部でリード線などを介して電気的に接続することで、使用環境や外部応力などに対して、信頼性の高い電気的接続とすることができる。
【0034】
また、本発明の電動機は、回転子が、固定子の内周側に回転自在に配置された構成である。
【0035】
また、本発明の電気機器は、上述した電動機を搭載している。
【発明の効果】
【0036】
本発明の電動機によれば、軸受における電食の発生を抑制した電動機およびそれを備えた電気機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態1におけるブラシレスモータの断面を示した構造図
【図2】同モータの回転子の構成例を示した図
【図3】同モータの回転体の構成例を示した図
【図4】従来モータの回転体の構成例を示した図
【図5】シャフトと回転体の最外円周面間の静電容量の測定方法を示す図
【図6】回転中の軸受の外輪と内輪間の静電容量の測定方法を示す図
【図7】実施例1の軸電圧の測定方法を示す図
【図8】完全波形崩れの一例を示す図
【図9】一部波形崩れの一例を示す図
【図10】波形崩れなしの一例を示す図
【図11】実施例1の評価結果を示す図
【図12】等価回路のイメージを示す図
【図13】本発明の実施の形態1における他の構成例としてのアウタロータ型の電動機の断面を示した構造図
【図14】本発明の実施の形態2におけるエアコン室内機の構造図
【図15】本発明の実施の形態3におけるエアコン室外機の構造図
【図16】本発明の実施の形態4における給湯機の構造図
【図17】本発明の実施の形態5における空気清浄機の構造図
【図18】軸受の内部構成図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態及び実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0039】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における電動機の断面を示した構造図である。本実施の形態では、電気機器としてのエアコン用に搭載され、送風ファンを駆動するためのブラシレスモータである電動機の一例を挙げて説明する。また、本実施の形態では、回転子が固定子の内周側に回転自在に配置されたインナロータ型の電動機の例を挙げて説明する。
【0040】
図1において、固定子鉄心11には、固定子鉄心11を絶縁するインシュレータとしての樹脂21が介在して、固定子巻線12が巻装されている。そして、このような固定子鉄心11は、他の固定部材とともにモールド材としての絶縁樹脂13にてモールド成形されている。本実施の形態では絶縁樹脂13に不飽和ポリエステル樹脂成形材料を使用した。本実施の形態では、これらの部材をこのようにモールド一体成形することにより、外形が概略円筒形状をなす固定子10が構成されている。
【0041】
固定子10の内側には、空隙を介して回転体30が挿入されている。回転体30は、回転子鉄心31を含む円板状の回転子14と、回転子14の中央を貫通するようにして回転子14を締結したシャフト16とを有している。回転子14は、固定子10の内周側に対向して周方向に永久磁石であるフェライト樹脂磁石の磁石32を保持している。また、詳細については以下で説明するが、回転体30は、図1に示すように、最外周部のフェライト樹脂磁石の磁石32から内周側のシャフト16に向かって、回転子鉄心31の外周部を構成する外側鉄心31a、誘電体層50、回転子鉄心31の内周部を構成する内側鉄心31bと順に配置するような構造を有している。図1では、回転体30として、これらの回転子鉄心31、誘電体層50およびフェライト樹脂磁石の磁石32が一体成形された構成例を示している。このように、固定子10の内周側と回転体30の外周側とが対向するように配置されている。
【0042】
回転子14のシャフト16には、シャフト16を支持する2つの出力軸側軸受15a及び反出力軸側軸受15bが取り付けられている。軸受15は、複数の鉄ボールを有した円筒形状の玉軸受であり、出力軸側軸受15a及び反出力軸側軸受15bの内輪側がシャフト16に固定されている。図1では、シャフト16がブラシレスモータ本体から突出した側となる出力軸側において、出力軸側軸受15aがシャフト16を支持し、その反対側(以下、反出力軸側と呼ぶ)において、反出力軸側軸受15bがシャフト16を支持している。
【0043】
そして、これらの出力軸側軸受15a及び反出力軸側軸受15bは、それぞれ導電性を有した金属製のブラケットにより、軸受15の外輪側が固定されている。図1では、出力軸側軸受15aが予圧バネ33を挿入された出力軸側のブラケット17により固定され、反出力軸側軸受15bが反出力軸側のブラケット19により固定されている。以上のような構成により、シャフト16が2つの軸受15に支承され、回転子14が回転自在に回転する。
【0044】
さらに、このブラシレスモータには制御回路を含めた駆動回路を実装したプリント基板18が内蔵されている。このプリント基板18を内蔵したのち、出力軸側のブラケット17を固定子10に圧入することにより、ブラシレスモータが形成される。また、プリント基板18には、巻線の電源電圧Vdc、制御回路の電源電圧Vccおよび回転数を制御する制御電圧Vspを印加するリード線や制御回路のグランド線などの接続線20が接続されている。
【0045】
なお、駆動回路を実装したプリント基板18上のゼロ電位点部は、大地のアースおよび1次側(電源)回路とは絶縁され、大地のアースおよび1次側電源回路の電位とは、フローティングされた状態である。ここで、ゼロ電位点部とは、プリント基板18上における基準電位としての0ボルト電位の配線のことであり、通常グランドと呼ばれるグランド配線を示している。接続線20に含まれるグランド線は、このゼロ電位点部、すなわちグランド配線に接続される。また、駆動回路が実装されたプリント基板18に接続される巻線の電源電圧を供給する電源回路、制御回路の電源電圧を供給する電源回路、制御電圧を印加するリード線および制御回路のグランド線などは、巻線の電源電圧を供給する電源回路に対する1次側(電源)回路、制御回路の電源電圧を供給する電源回路に対する1次側(電源)回路、これら1次側(電源)回路と接続された大地のアースおよび独立して接地された大地のアースのいずれとも電気的に絶縁されている。
【0046】
つまり、1次側(電源)回路電位および大地のアースの電位に対して、プリント基板18に実装された駆動回路は電気的に絶縁された状態であることから、電位が浮いた状態となっている。これは電位がフローティングされた状態とも表現され、よく知られている。また、このようなことから、プリント基板18に接続される巻線の電源電圧を供給する電源回路および制御回路の電源電圧を供給する電源回路の構成は、フローティング電源とも呼称され、これもよく知られた表現である。
【0047】
以上のように構成された本ブラシレスモータに対して、接続線20を介して各電源電圧および制御信号を供給することにより、プリント基板18の駆動回路により固定子巻線12が駆動される。固定子巻線12が駆動されると、固定子巻線12に駆動電流が流れ、固定子鉄心11から磁界が発生する。そして、固定子鉄心11からの磁界とフェライト樹脂磁石のん磁石32からの磁界とにより、それら磁界の極性に応じて吸引力および反発力が生じ、これらの力によってシャフト16を中心に回転子14が回転する。
【0048】
次に、本ブラシレスモータのより詳細な構成について説明する。
【0049】
まず、本ブラシレスモータは、上述したように、シャフト16が2つの軸受15で支持されるとともに、それぞれの軸受15もブラケットにより固定され、支持されている。さらに、上述したようなクリープによる不具合を抑制するため、本実施の形態では、それぞれの軸受15が、導電性を有した金属製のブラケットにより固定されるような構成としている。すなわち、本実施の形態では、予め鋼板で加工され寸法精度の良好な導電性のブラケットを軸受15の固定に採用している。特に、電動機の高出力化が要求される場合には、このような構成とすることがより好ましい。
【0050】
次に、出力軸側軸受15aに対しては、固定子10の外周径とほぼ等しい外周径の出力軸側のブラケット17により固定している。出力軸側のブラケット17は概略円板形状であり、円板の中央部に出力軸側軸受15aの外周径とほぼ等しい径の突出部を有しおり、この突出部の内側は中空となっている。プリント基板18を内蔵したのち、このような出力軸側のブラケット17の突出部の内側に予圧バネ33を挿入し出力軸側軸受15aに圧入するとともに、出力軸側のブラケット17の外周に設けた接続端部と固定子10の接続端部とが嵌合するように、出力軸側のブラケット17を固定子10に圧入することにより、本ブラシレスモータが形成される。
【0051】
このように構成することで、組立作業の容易化を図るとともに、出力軸側軸受15aの外輪側は金属製の出力軸側のブラケット17に固定されるため、クリープによる不具合も抑制し、予圧バネによりシャフト16の振れや共振による異音を防止している。
【0052】
また、反出力軸側のブラケット19には、反出力軸側ブラケットの導通ピン22が予め電気的に接続されている。すなわち、図1に示すように、反出力軸側のブラケット19のつば部19bに反出力軸側ブラケットの導通ピン22の一方の先端部22aが接続されている。反出力軸側ブラケットの導通ピン22は絶縁樹脂13の内部に配置され、反出力軸側のブラケット19と同様に絶縁樹脂13とモールド一体成形されている。
【0053】
なお、反出力軸側ブラケットの導通ピン22を電動機内部として絶縁樹脂13の内部に配置することで、反出力軸側ブラケットの導通ピン22を錆や外力などから予防し、使用環境や外部応力などに対して、信頼性の高い電気的接続としている。反出力軸側ブラケットの導通ピン22は、絶縁樹脂13の内部において、つば部19bから本ブラシレスモータの外周方向へと延伸し、本ブラシレスモータの外周近辺からシャフト16とほぼ平行して出力軸側へとさらに延伸している。
【0054】
そして、絶縁樹脂13の出力軸側の端面から、反出力軸側ブラケットの導通ピン22の他方の先端部22bが露出している。さらに、先端部22bには、反出力軸側ブラケットの導通ピン22を出力軸側のブラケット17に電気接続するための出力軸側ブラケットの導通ピン23が接続されている。すなわち、出力軸側のブラケット17を固定子10に圧入したとき、出力軸側ブラケットの導通ピン23が出力軸側のブラケット17に接触し、出力軸側のブラケット17と出力軸側ブラケットの導通ピン23との導通が確保される。このような構成により、出力軸側のブラケット17と反出力軸側のブラケット19との2つのブラケットは、反出力軸側ブラケットの導通ピン22を介して電気的に接続される。
【0055】
また、出力軸側のブラケット17および反出力軸側のブラケット19は、絶縁樹脂13により固定子鉄心11と絶縁された状態で、この2つのブラケットが電気的に接続される。
【0056】
そして、本実施の形態で使用した軸受15は、呼び番号608の軸受であり、予圧バネ33により42Nの予圧を受けており、軸受単体を1000r/minで回転させたときの軸受の内輪62と軸受の外輪61との間の静電容量(測定周波数が10kHz)が63pFのものを使用した。
【0057】
そして、シャフト16と回転体30の最外円周面との間の静電容量(測定周波数10kHz)を5.0pFに調整し、回転体30において、シャフト16と回転体30の外周との間に誘電体層50を設けている。本実施の形態では誘電体層50を設けて、その誘電体層材料の比誘電率や樹脂肉厚を調整して、5pFの静電容量としたが、フェライト樹脂磁石の磁石32の樹脂成分の重量比率を調整する方法でも可能であり、前述の方法に限定するものではない。
【0058】
本発明はこのような構成にすることにより、小さな軸電圧にすることで電食を防止することができる。
【0059】
本実施の形態では、出力軸側のブラケット17と反出力軸側のブラケット19とを電気的に接続し両ブラケットを同電位とすることで、シャフト16を介しての高周波電流が流れにくい状態としている。
【0060】
次に、図18に示すように、軸受15は、軸受の内輪62と軸受の外輪61と軸受玉70とグリースより構成されており、グリースは予圧バネ33からの予圧Fによりグリース油膜71を形成し、軸受の内輪62と軸受の外輪61および軸受玉70が接触面積Sの面積で油膜厚さhcのグリース油膜71を介し、潤滑されている。
【0061】
このグリースは絶縁体であり、軸受の導電体によりコンデンサを形成しており、その静電容量Cは、以下の(式1)により表される。
【0062】
【数1】

【0063】
すなわち、軸受15の静電容量Cは、軸受内輪62と軸受外輪61および軸受玉70により構成される接触面積Sに比例し、グリース油膜71の油膜厚さhcに反比例の関係にある。
【0064】
また、Hamrock−Dowsonによれば、油膜厚さhcは以下の(式2)により表される。
【0065】
【数2】

【0066】
すなわち、油膜厚さhcは、速度の0.68乗に比例し、予圧の−0.073乗に比例し、予圧による影響はほぼ無視できる。
【0067】
また、Hertzによれば、接触面積Sは以下の(式3)により表される。
【0068】
【数3】

【0069】
すなわち、接触面積Sは予圧の2/3乗に比例する。
【0070】
このように、軸受15の静電容量は、速度が一定とすると予圧Fの変化により油膜厚さhcも一定となり影響がほぼ無く、接触面積Sが予圧の2/3乗に比例し変化する。
【0071】
また、予圧バネ33による予圧F(N)は、以下の(式4)により表される。
【0072】
【数4】

【0073】
すなわち、式(1)と(2)と(3)より、軸受15の静電容量Cを上げるには予圧Fを上げることが最も影響があり、予圧バネ33の板厚t、波数Nがそれぞれ3乗、4乗で影響があり、板厚tと波数Nを調整することで予圧を調整することが可能である。
【0074】
次に、図2に示すように、回転体30は、最外周部にフェライト樹脂磁石32を配置し、さらに、内周側に向かって、回転子鉄心31を構成する外側鉄心31a、誘電体層50、回転子鉄心31を構成する内側鉄心31bと順に配置されている。また、誘電体層50は、絶縁樹脂で形成された層である。本実施の形態では、電食抑制用として、このような誘電体層50を設けている。
【0075】
図2では、誘電体層50が、回転体30の内周側と外周側との間でシャフト16の周りを周回するようなリング状に形成された一例を示している。回転体30は、このように、フェライト樹脂磁石32、外側鉄心31a、誘電体層50を形成する絶縁樹脂、および内側鉄心31bが一体形成された構成である。本実施の形態ではフェライト樹脂磁石のSPMロータで説明したが、フェライト焼結磁石や希土類ネオジウム系焼結磁石でも同様の結果が得られる。また、IPMロータでも同様の結果が得られる。
【0076】
以下、本発明について実施例を用いてより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限りにおいて、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
図1に示すような構成で、予圧を式(4)に基づき、板厚tと波数Nを任意に調整し、28N、35N、42N、49N、56Nの予圧がかかるよう電動機を構成した。
【0078】
また、使用した軸受15はミネベア製608(グリースはちょう度239のものを使用)であり、軸受単体を1000r/minで回転させたときの軸受内輪62と軸受外輪61との間の静電容量は50pFであった。
【0079】
軸受単体の静電容量の測定は、図6に示すように、外部駆動により軸受15を1000r/minで回転させ、LCRメータZ60を使用し、測定周波数10kHz、測定温度20℃、測定電圧1Vで測定した。測定は軸受外輪61と、軸受内輪62と機械的かつ電気的に接触しているシャフト16間を測定した。また測定時には外部駆動装置とシャフト間には肉厚20mm以上の絶縁樹脂製カップリングを使用した。また、外部駆動装置とシャフト、軸受は20mmの木製板の上に肉厚20mm以上の絶縁樹脂製台座の上に設置した。
【0080】
また、電動機に組立て、外部駆動で1000r/minで回転させたときの中性点とU相間の誘起電圧も測定した。
【0081】
また測定は、同一固定子を使用し、それぞれの回転子を入れ替える方法で測定を実施した。
【0082】
図7は、本実施例1の軸電圧の測定方法を示す図である。軸電圧測定時には直流安定化電源を使用し、巻線の電源電圧Vdcを391V、制御回路の電源電圧Vccを15Vとし、回転数1000r/minの同一運転条件下で測定を行った。なお、回転数は制御電圧Vspにて調整し、運転時のブラシレスモータ姿勢はシャフト水平とした。また、ブラシレスモータは厚さ20mmの木製板の上に設置した。
【0083】
軸電圧の測定は、デジタルオシロスコープ130(テクトロニクス製DPO7104)と高電圧差動プローブ120(テクトロニクス製P5205)により、電圧波形を観測して、波形崩れが発生しないかどうか確認を行い、ピーク−ピーク間の測定電圧を軸電圧とした。
【0084】
また、軸電圧の波形崩れについては、完全波形崩れ、一部波形崩れ、波形崩れなしの3分類に区分けを行った。波形崩れなしの状態は軸受内部の油膜が絶縁破壊を起こしていない状態であり、電食の発生を防止できる状態である。また、波形崩れの状態は軸受内部の油膜が絶縁破壊を起こしている状態であり、運転時間によっては電食を発生させる状態である。
【0085】
図8から図10は、このような波形崩れの一例を示す図であり、図8は完全波形崩れ、図9は一部波形崩れ、図10は波形崩れなしの場合の波形を示している。図8から図10において、測定時の横軸時間は50μs/divの同一条件としている。なお、デジタルオシロスコープ130は、絶縁トランス140にて絶縁している。
【0086】
また、高電圧差動プローブ120の+側120aは、長さ約30cmのリード線110を介し、リード線の導体を直径約15mmのループ状にして、その内周をシャフト16の外周に導電接触させることで、シャフト16に電気的に接続している。高電圧差動プローブ120の−側120bは、長さ約30cmのリード線111を介し、ブラケット17にリード線111の先端を導電性テープ112にて導電接触させることで、ブラケット17に電気的に接続している。このような構成で、ブラケット17とシャフト16との間の電圧である出力軸側の軸受15aの軸電圧の測定を実施した。
【0087】
図11は、実施例1の評価結果を示す図である。
【0088】
図11から明らかなように、静電容量Cは予圧Fの増加に伴い、増加する。また、静電容量Cの増加に伴い、軸電圧が減少する。
【0089】
また、結果より、図12のような等価回路のイメージ図を作成することができる。シャフト16と回転体30の最外円周面との間の静電容量をC1,軸受15の静電容量をC2、また、コモンモード電圧をVとしたときの軸電圧V2を示したものである。図12から、軸受15の静電容量C2を大きくすれば軸電圧V2は小さくなることが計算でき、結果の傾向と同じである。
【0090】
すなわち、軸受内輪と軸受外輪との間の静電容量より大きくすることで、軸受の電食発生を抑制する効果をより高めることができる。
【0091】
これらの結果からもわかるように、本発明の電動機は、従来の電動機に比べて、軸電圧が低減し、電動機の軸受電食の発生抑制に極めて優れた効果を持つ。
【0092】
また、本発明の電動機を電気機器に組み込むことにより、軸受における電食の発生を抑制した電動機を備えた電気機器を提供することができる。
【0093】
また、回転子が固定子の内周側に回転自在に配置されたインナロータ型のブラシレスモータである電動機の例を挙げて説明したが、回転子が固定子の外周側に配置されたアウタロータ型の電動機にも本発明を適用することができる。図13は、本実施の形態における他の構成例としてのアウタロータ型の電動機の断面を示した構造図である。
【0094】
なお、図13において、図1と同様の構成要素については同一の符号を付している。図13において、固定子巻線12が巻装された固定子鉄心11は絶縁樹脂13にてモールド成形されて、固定子10が構成されている。さらに、固定子10にはブラケット17およびブラケット19が一体成形されており、ブラケット17に軸受15aが固定され、ブラケット19に軸受15bが固定されている。軸受15aおよび軸受15bの内輪側にはシャフト16が貫通し、シャフト16の一方の端部に中空円筒形状の回転体30が締結されている。また、回転体30の内周側中空部に固定子鉄心11が配置される。
【0095】
そして、回転体30において、外側鉄心31aと内側鉄心31bとで挟むようにして、環状の誘電体層50を設けている。また、軸受15aと軸受15bとを導通ピン22などで電気的に接続している。このようなアウタロータ型の電動機においても、図1のような構成と同様、図13に示すように誘電体層50を設け、かつブラケット17とブラケット19を電気的に接続する構造を設けることにより、同様の効果を得ることができる。
【0096】
また、予圧を上げる方法は、式(4)による各項目を調整することで説明したが、予圧バネを複数枚を重ねることでも予圧を上げることができ、同様の効果を得ることができる。
【0097】
(実施の形態2)
本発明にかかる電気機器の例として、まず、エアコン室内機の構成を実施の形態2として、詳細に説明する。
【0098】
図14において、エアコン室内機210の筐体211内には電動機201が搭載されている。その電動機201の回転軸にはクロスフローファン212が取り付けられている。電動機201は電動機駆動装置213によって駆動される。電動機駆動装置213からの通電により、電動機201が回転し、それに伴いクロスフローファン212が回転する。そのクロスフローファン212の回転により、室内機用熱交換器(図示せず)によって空気調和された空気を室内に送風する。ここで、電動機201は、例えば、上記実施の形態1のものが適用できる。
【0099】
本発明の電気機器は、電動機と、その電動機が搭載された筐体とを備え、電動機として上記構成の本発明の電動機を採用したものである。
【0100】
(実施の形態3)
次に、本発明にかかる電気機器の例として、エアコン室外機の構成を実施の形態3として、詳細に説明する。
【0101】
図15において、エアコン室外機301は、筐体311の内部に電動機308を搭載している。その電動機308は回転軸にファン312を取り付けており、送風用電動機として機能する。
【0102】
エアコン室外機301は、筐体311の底板302に立設した仕切り板304により、圧縮機室306と熱交換器室309とに区画されている。圧縮機室306には圧縮機305が配設されている。熱交換器室309には熱交換器307および前記送風用電動機が配設されている。仕切り板304の上部には電装品箱310が配設されている。
【0103】
その前記送風用電動機は、電装品箱310内に収容された電動機駆動装置303により駆動される電動機308の回転に伴い、ファン312が回転し、熱交換器307を通して熱交換器室309に送風する。ここで、電動機308は、例えば、上記実施の形態1のものが適用できる。
【0104】
本発明の電気機器は、電動機と、その電動機が搭載された筐体とを備え、電動機として上記構成の本発明の電動機を採用したものである。
【0105】
(実施の形態4)
次に、本発明にかかる電気機器の例として、給湯機の構成を実施の形態4として、詳細に説明する。
【0106】
図16において、給湯器330の筐体331内には電動機333が搭載されている。その電動機333の回転軸にはファン332が取り付けられている。電動機333は電動機駆動装置334によって駆動される。電動機駆動装置334からの通電により、電動機333が回転し、それに伴いファン332が回転する。そのファン332の回転により、燃料気化室(図示せず)に対して燃焼に必要な空気を送風する。ここで、電動機333は、例えば、上記実施の形態1のものが適用できる。
【0107】
本発明の電気機器は、電動機と、その電動機が搭載された筐体とを備え、電動機として上記構成の本発明の電動機を採用したものである。
【0108】
(実施の形態5)
次に、本発明にかかる電気機器の例として、空気清浄機の構成を実施の形態5として、詳細に説明する。
【0109】
図17において、空気清浄機340の筐体341内には電動機343が搭載されている。その電動機343の回転軸には空気循環用ファン342が取り付けられている。電動機343は電動機駆動装置344によって駆動される。電動機駆動装置344からの通電により、電動機343が回転し、それに伴いファン342が回転する。そのファン342の回転により空気を循環する。ここで、電動機343は、例えば、上記実施の形態1のものが適用できる。
【0110】
本発明の電気機器は、電動機と、その電動機が搭載された筐体とを備え、電動機として上記構成の本発明の電動機を採用したものである。
【0111】
上述の説明では、本発明にかかる電気機器の実施例として、エアコン室外機、エアコン室内機、給湯機、空気清浄機などに搭載される電動機を取り上げたが、その他の電動機にも、また、各種情報機器に搭載される電動機や、産業機器に使用される電動機にも適用できることは言うまでもない。
【0112】
また、本件出願の実施の形態における構成は、上述したとおり、電動機をPWM方式にてインバータ駆動する駆動回路(制御回路などを含む)の電源供給回路と、その電源供給回路の1次側回路および1次側回路側の大地のアースとは電気的に絶縁された構成である。そして、従来技術の、電動機の固定子鉄心などを大地のアースへ電気的に接続する構成を採用しなくとも、軸受の電食を抑制する効果が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の電動機は、軸電圧を減少させることが可能であり、軸受の電食発生を抑制したもので、主に電動機の低価格化および高寿命化が要望される機器で、例えばエアコン室内機、エアコン室外機、給湯機、空気清浄機などに搭載される電動機に有効である。
【符号の説明】
【0114】
10 固定子
11 固定子鉄心
12 固定子巻線
13 絶縁樹脂
14 回転子
15 軸受
15a 出力軸側軸受
15b 反出力軸側軸受
16 シャフト
17 出力軸側のブラケット
18 プリント基板
19 反出力軸側のブラケット
20 接続線
21 樹脂(インシュレータ)
22 反出力軸側ブラケットの導通ピン
23 出力軸側ブラケットの導通ピン
30 回転体
31 回転子鉄心
31a 外側鉄心
31b 内側鉄心
32 磁石
33 予圧バネ
50 誘電体層
61 軸受の外輪
62 軸受の内輪
70 軸受玉
71 グリース油膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、前記固定子に対向して周方向に永久磁石を保持した回転子と、前記回転子の中央を貫通するように前記回転子を締結したシャフトと、前記回転子の外周と前記シャフトとの間を絶縁するように構成した誘電体層とを含む回転体と、前記シャフトを支持する軸受と、前記軸受を固定する2つの導電性のブラケットとを備え、前記軸受単体を回転させたときの軸受内輪と軸受外輪との間の静電容量を増加させるための予圧を強くする構成を具備する電動機。
【請求項2】
前記軸受が呼び番号が608であり、予圧を42N以上としたことを特徴とする請求項1記載の電動機。
【請求項3】
前記軸受が呼び番号が6201であり、予圧を60N以上としたことを特徴とする請求項1記載の電動機。
【請求項4】
前記軸受が呼び番号が6202であり、予圧を60N以上としたことを特徴とする請求項1記載の電動機。
【請求項5】
前記軸受が呼び番号が6204であり、予圧を60N以上としたことを特徴とする請求項1記載の電動機。
【請求項6】
前記軸受が呼び番号が6302であり、予圧を60N以上としたことを特徴とする請求項1記載の電動機。
【請求項7】
前記軸受が呼び番号が6004であり、予圧を60N以上としたことを特徴とする請求項1記載の電動機。
【請求項8】
前記2つのブラケットは、電気的に接続されるとともに、前記固定子鉄心とは絶縁されていることを特徴とする請求項1から7に記載の電動機。
【請求項9】
前記2つのブラケットの少なくとも一方と、前記巻線を巻装した前記固定子鉄心とは、絶縁樹脂により一体成形されていることを特徴とする請求項1から7に記載の電動機。
【請求項10】
前記回転子は、前記固定子の内周側に回転自在に配置されていることを特徴とする請求項1から7に記載の電動機。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の電動機を搭載したことを特徴とする電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−66252(P2013−66252A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193565(P2011−193565)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】