説明

電動機のフェールセーフ装置

【課題】駆動対象物を駆動する電動機に一時的な瞬断を含む故障を検出した場合は電動機を停止させ、その電動機が停止した後に電動機に問題がないと判断した場合は、その電動機を安全に復帰させるフェールセーフ装置を提供する。
【解決手段】駆動対象物1,2,3,4を駆動する電動機5,6のフェールセーフ装置において、電動機5,6に係る故障を検出する電動機故障検出手段と、電動機を停止させる電動機停止手段と、少なくとも故障に係る電動機に駆動される駆動対象物の動作を阻止する駆動対象物ブレーキ手段と、電動機に係る故障を再度判定する電動機故障再判定手段と、電動機の始動を許可する電動機始動許可手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の駆動対象物に付与するトルクをそれぞれ個別に独立して制御可能な電動機のフェールセーフ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車の一形態として、車輪のホイール内部もしくはその近傍に電動機を配置してその電動機により車輪を直接駆動するいわゆるインホイールモータ方式の車両(インホイールモータ車)が開発されている。このインホイールモータ車では、各駆動輪毎に設けられた電動機を個別に制御することにより、各駆動輪に付与する駆動トルクもしくは制動トルクをそれぞれ独立して制御することができる。そのため、車両の駆動力および制動力を走行状態に応じて適宜に制御することができ、旋回性や操縦安定性あるいは走破性などの車両の走行性能を向上させることができる。また、このようなインホイールモータ車は、電動機が駆動輪のホイール内部もしくはその近傍に設けられて駆動輪に直接動力を伝達するものであるから、従来の車両に設けられている変速機やデファレンシャルなどの動力伝達機構を設ける必要がなくなり、車両の構成を簡素化することができる。
【0003】
上記のようなインホイールモータ車に関連する技術として、特許文献1には、左右二輪に個別に設けられた電動機のいずれか一方が故障したことを故障検出手段によって検出された場合に、蓄電装置とモータECUとの間の回路を、該回路に介在された電力供給遮断機構によって電気的もしくは機械的に遮断することにより、モータECUに対する電力供給を遮断することを目的とした駆動力制御装置に関する発明が記載されている。
【0004】
また、特許文献2に記載されている発明は、イグニッションスイッチがオン状態になった場合に、DC−DCコンバータの出力電圧を上昇させつつ、DC−DCコンバータの動作チェックを実施し、異常であると診断した場合は制御を停止する構成となっている。
【0005】
また、特許文献3に記載されている発明は、燃料電池と蓄電装置に接続された直流電圧レギュレータがモータを駆動するインバータに並列された給電装置において、発電制御処理と故障を検知する故障検知処理とフェールセーフ処理とフェールセーフ発電処理とを実行する制御部と、故障検知処理で検知された故障情報を記憶する記憶部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−104163号公開
【特許文献2】特開2010−213501号公開
【特許文献3】特開2010−172155号公開
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電動機を備えた車両は、例えば、凹凸が大きい悪路や障害物がある路面を走行する際に走行路面からの過大なトルクの入力や振動、電力供給の瞬断などによってフェールが電動機に生じてしてしまうおそれがある。
【0008】
そのようなフェールに対して、上記の特許文献1に記載されている駆動力制御装置は、左右二輪に設けられた電動機のいずれか一方の電動機が駆動不能な場合に、車両安定性を確保しつつ、制御のハンチングを抑制することができる、となっている。
【0009】
しかしながら、電動機の一時的な故障(例えば、電力供給の瞬断)を検出した場合でも、電力供給を遮断する機構によってモータECUに対する電力供給を機械的に遮断してしまうため、一時的な故障による電動機の不要な修理が頻繁に生じるおそれがある。
【0010】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、駆動対象物を駆動する電動機に一時的な瞬断を含む故障を検出した場合は電動機を停止させ、その電動機が停止した後に電動機に問題がないと判断した場合は、その電動機を安全に復帰させるフェールセーフ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、駆動対象物を駆動するとともに、供給される電力の増減にともなって駆動トルクが増減される電動機のフェールセーフ装置において、前記電動機に対する電力供給の瞬断を含む前記電動機に係る故障を検出する電動機故障検出手段と、前記電動機故障検出手段に基づいて前記電動機に係る故障が検出された場合に、前記電動機を停止させる電動機停止手段と、前記電動機停止手段に基づいて前記駆動対象物の駆動が停止したのちに、前記電動機の停止解除が要求された場合に、少なくとも故障に係る前記電動機に駆動される前記駆動対象物の動作を阻止する駆動対象物ブレーキ手段と、前記駆動対象物ブレーキ手段に基づいて、少なくとも故障に係る前記電動機に駆動される前記駆動対象物の動作を阻止した状態で、前記電動機に係る故障を再度判定する電動機故障再判定手段と、前記電動機故障再判定手段に基づいて前記電動機に係る故障が無いと判定された場合に、前記電動機の始動を許可する電動機始動許可手段とを備えていることを特徴とする電動機のフェールセーフ装置である。
【0012】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記電動機故障検出手段に基づいて前記電動機に係る故障が検出された場合に、電動機に係る故障を記憶する電動機故障記憶手段を備えているとともに、前記電動機故障再判定手段は、再度判定する前記電動機に係る故障が前記電動機故障記憶手段に記憶された故障であることを特徴とする電動機のフェールセーフ装置である。
【0013】
また、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記電動機停止手段は、前記電動機に供給される電力を遮断した状態で、前記電動機を停止させることを特徴とする請求項1または2に記載の電動機のフェールセーフ装置である。
【0014】
また、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記電動機故障再判定手段は、前記電動機に電力を供給した状態で、前記電動機に故障が生じているかの有無を診断することを特徴とする電動機のフェールセーフ装置である。
【0015】
さらに、請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記電動機は、モータを含み、前記駆動対象物は、車両における車輪を含み、前記駆動対象物ブレーキ手段は、前記車輪に制動力を付与するブレーキを含み、前記モータは、少なくとも一つの前記車輪のホイール内もしくはその近傍に設けられていることを特徴とする電動機のフェールセーフ装置である。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、駆動対象物を駆動するとともに、供給される電力の増減にともなって駆動トルクが増減される電動機が構成されている。さらに、電動機故障検出手段と電動機停止手段と駆動対象物ブレーキ手段と電動機故障再判定手段と電動機始動許可手段とを備えている。したがって、例えば、駆動対象物を駆動中に電動機の故障が生じた場合に、駆動対象物の停止が確認されるまで電動機の制御を停止させることができ、その結果、駆動対象物と電動機とを安全に停止させることができる。
【0017】
また、駆動対象物の停止が確認されたのちに電動機の停止解除が要求された場合、駆動対象物の動作を阻止するとともに、電動機の故障を再度判断する。その結果、駆動対象物の誤動作を防止することができ、電動機に問題がないと判断した場合にはその電動機を復帰させることで、一時的な故障による電動機の修理を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明におけるフェールセーフ装置の制御の一例を示すフローチャートである。
【図2】この発明における制御を実行可能な車両の構成の一例を示す模式図である。
【図3】この発明における制御を実行可能な車両の構成の他の例を示す模式図である。
【図4】この発明における制御を実行可能な車両の構成のさらに他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明を具体例に基づいて説明する。まず構成について説明する。図2には、この発明におけるフェールセーフ装置を適用したインホイールモータ車の一例を模式的に示している。この発明に係るインホイールモータ車は、複数の駆動輪に付与するトルクをそれぞれ個別に制御することが可能な駆電動機としての電動機が設けられており、この図2では、左右の後輪に、それら各車輪(駆動対象物)のそれぞれに個別にトルクを付与する電動機が設けられた車両の構成例を示している。
【0020】
具体的には、この車両Veは、車両Veの幅方向(図2での左右方向)における左右の前輪1,2および左右の後輪3,4を有している。そして、前輪1,2は、互いにもしくはそれぞれ独立してサスペンション機構(図示せず)を介して車両Veの車台に支持されている。同様に、後輪3,4も、互いにもしくはそれぞれ独立してサスペンション機構を介して車両Veの車台に支持されている。
【0021】
車両Veの駆電動機として、後輪3,4のホイール内部には、それぞれ、電動機5,6が組み込まれていて、それら電動機5,6の出力軸と後輪3,4とが、それぞれ動力伝達可能に連結されている。すなわち、後輪3,4の電動機5,6は、いわゆるインホイールモータであり、後輪と共に車両Veのばね下に配置されている。そして、各インホイールモータ5,6の回転をそれぞれ個別に独立して制御することにより、後輪3,4の駆動トルクあるいは制動トルクを、それぞれ独立して制御することができる構成となっている。
【0022】
これらの各インホイールモータ5,6は、例えば交流同期モータにより構成されていて、インバータ7を介してバッテリやキャパシタなどの蓄電装置(図示せず)に接続されている。したがって、各インホイールモータ5,6の駆動時には、蓄電装置の直流電力がインバータ7によって交流電力に変換され、その交流電力が各インホイールモータ5,6に供給されることによりそれら各インホイールモータ5,6が力行制御されて、後輪3,4に駆動トルクが付与される。
【0023】
また、各インホイールモータ5,6は後輪3,4の回転エネルギを利用して回生制御することも可能である。すなわち、各インホイールモータ5,6の回生・発電時には、後輪3,4の回転(運動)エネルギが各インホイールモータ5,6によって電気エネルギに変換され、その際に生じる電力がインバータ7を介して蓄電装置に蓄電される。このとき、後輪3,4には回生・発電力に基づく制動トルクが付与される。
【0024】
そして、上記のインバータ7は、各インホイールモータ5,6の回転状態を制御するモータ電子制御装置8(MG−ECU)に接続されている。このモータ電子制御装置8には、例えば、各駆動輪の回転速度(車輪速度)をそれぞれ検出する車輪速センサや各インホイールモータ5,6の出力軸の回転角度を検出するレゾルバ(図示せず)や各インホイールモータ5,6の故障を検出するセンサなどの各種センサ類からの検出信号、およびインバータ7からの情報信号などが入力されるように構成されている。
【0025】
このうち、インバータ7からこのモータ電子制御装置8に入力される信号に基づいて、各インホイールモータ5,6の出力トルク(モータトルク)がそれぞれ演算されて求められる。例えば、インバータ7からの入力信号によって各インホイールモータ5,6が力行制御されていることを検出した場合に、その際に各インホイールモータ5,6へ供給される電力量あるいは電流値を検出し、それに基づいて各インホイールモータ5,6のモータトルクをそれぞれ算出することができる。また、各インホイールモータ5,6の回転を制御する際の電流値を基に、各インホイールモータ5,6の回転数をそれぞれ算出することもできる。
【0026】
一方、モータ電子制御装置8からは、インバータ7を介して各インホイールモータ5,6の回転をそれぞれ制御する信号が出力されるように構成されている。すなわち、各インホイールモータ5,6の回転(力行・回生)を制御するために、各インホイールモータ5,6へ供給する、もしくは各インホイールモータ5,6から回収する電流を制御するための制御信号が、モータ電子制御装置8からインバータ7へ出力されるようになっている。また、モータ電子制御装置8は、パワーマネジメント電子制御装置9に接続されている。
【0027】
パワーマネジメント電子制御装置9は、他の電子制御装置を制御する上位の電子制御装置であって、モータ電子制御装置8やバッテリーを制御する電子制御装置、ならびにブレーキを制御するブレーキ電子制御装置などの各種電子制御装置を監視し制御するよう構成されている。パワーマネジメント電子制御装置9には、例えば、各駆動輪の回転速度(車輪速度)をそれぞれ検出する車輪速センサや各インホイールモータ5,6の出力軸の回転角度を検出するレゾルバ(図示せず)や各インホイールモータ5,6の故障を検出するセンサなどの各種センサ類からの検出信号、およびインバータ7からの情報信号などが、直接的または他の電子制御装置を介して、入力されるように構成されている。
【0028】
また、各車輪には、それぞれブレーキ機構10,11,12,13が設けられている。各ブレーキ機構は、例えば、ディスクブレーキあるいはドラムブレーキなどの公知の制動装置(図示せず)であって、それら各種の制動装置が適宜に選択されて設置されている。そして、これらのブレーキ機構は、例えば、マスタシリンダ(図示せず)から圧送される油圧により、各車輪に制動力を生じさせるブレーキキャリパのピストン(図示せず)あるいはブレーキシュー(図示せず)などを動作させるブレーキアクチュエータ(図示せず)に接続されている。さらに、ブレーキ機構は、ブレーキ電子制御装置またはパワーマネジメント電子制御装置9から入力される信号に基づいて、各車輪1,2,3,4にブレーキをかけられるよう構成されている。
【0029】
なお、上記の図2では、左右の後輪3,4に、駆電動機として、インホイールモータ5,6がそれぞれ設けられた2輪駆動方式の車両Veの構成例を示しているが、この発明における車両Veは、例えば図3に示すように、左右の前輪14,15および左右の後輪16,17の両方に、インホイールモータ18,19,20,21がそれぞれ設けられるとともに、前輪14,15と後輪16,17とにはそれぞれインバーター22,23とモータ電子制御装置24,25と、パワーマネジメント電子制御装置26とが設けられた4輪駆動方式の構成であってもよい。また、図4に示すように、左右の前輪27,28のみにモータジェネレータ29,30がそれぞれ設けられるとともに、後輪31,32を駆動するためのエンジンおよびトランスミッションならびにデファレンシャルなどから構成される駆動ユニット33が車台に配置された4輪駆動方式のハイブリッド車両Veであってもよい。要は、この発明で対象とする車両Veは、複数の駆動輪が、例えば上記の各インホイールモータのように、左右の駆動輪を独立して直接駆動することが可能な構成であればよい。
【0030】
つぎに、この発明におけるフェールセーフ装置について説明する。この発明におけるフェールセーフ装置は、電動機から生じるトルクが駆動対象物へ伝達されている際に電動機の故障が生じた場合に、駆動対象物の停止が確認されるまで電動機の制御を停止させ、その駆動対象物の停止が確認されたのちに電動機の停止解除が要求された場合、駆動対象物の動作を阻止するとともに、電動機の故障を再度判断するよう構成されている。
【0031】
図1はそのフェールセーフ装置の制御の一例を説明するためのフローチャートであって、まず、車両Veが走行中に、例えばインバータ7やインホイールモータ5,6自体などのインホイールモータ5,6に係る故障を検出するか否かが判断される(ステップS1)。このステップS1(電動機故障検出手段)で肯定的にインホイールモータ5,6に係る故障を検出したと判断された場合には、ステップS2(電動機停止手段)に進み、モータ電子制御装置8を停止させる。また、モータの故障が検出されないことによりステップS1で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンする。
【0032】
なお、モータ電子制御装置8またはインホイールモータ5,6を停止させるには、インバータ7を介してインホイールモータ5,6に供給される電力を遮断または、インホイールモータ5,6を制御するモータ電子制御装置8を停止させてもよい。また、ステップS1の電動機の故障検出とステップS2のモータ電子制御装置8の停止とは、モータ電子制御装置8またはパワーマネジメント電子制御装置9のどちらで行ってもよい。また、ステップS1に基づいてインホイールモータ5,6に係る故障が検出された場合に、故障が検出されたインホイールモータ5,6や停止しているモータ電子制御装置8などの各情報をパワーマネジメント電子制御装置9に記憶してもよい(ステップS3)。さらに、ステップS2とステップS3とは実行順序が逆でもよい。
【0033】
ステップS2またはステップS3(電動機故障記憶手段)ののちに、車両が停止しているか(つまり言い換えると、インホイールモータ5,6に駆動される車輪が停止しているか)否かが判断される(ステップS4)。ステップS4で肯定的に車両が停止したと判断されたのち、ステップS5に進み、停止している車両の再始動またはインホイールモータ5,6の停止解除が要求されているか否かが判断される。なお、車両が停止していないとステップS4で否定的に判断された場合には、再びステップS4に戻る。また、停止している車両の再始動が要求されていないとステップS5で否定的に判断された場合には、再びステップS5に戻る。
【0034】
なお、ステップS5で肯定的に停止している車両の再始動またはインホイールモータ5,6の停止解除が要求された場合に、パワーマネジメント電子制御装置9は、故障を検出したインホイールモータ5,6や停止しているモータ電子制御装置8などの各情報を記憶しているか否かを判断してもよい(ステップS6)。ステップS6で肯定的にパワーマネジメント電子制御装置9は各故障情報を記憶していると判断された場合、ステップS7に進む。またステップS6で否定的にパワーマネジメント電子制御装置9は各故障情報を記憶していないと判断された場合は、モータ電子制御装置8を起動させ、リターンする。
【0035】
このステップS5で肯定的に停止している車両の再始動またはインホイールモータ5,6の停止解除が要求された場合に、各車輪に設けられたブレーキ機構は、ブレーキ電子制御装置またはパワーマネジメント電子制御装置9から入力される信号に基づいて、少なくとも故障が検知されたインホイールモータ5,6に駆動される車輪に制動力を生じさせる(ステップS7)。なお、ステップS6で肯定的にパワーマネジメント電子制御装置9は各故障情報を記憶していると判断された場合に、各車輪に設けられたブレーキ機構は、パワーマネジメント電子制御装置9に記憶された情報やブレーキ電子制御装置から入力される信号などに基づいて、少なくともパワーマネジメント電子制御装置9に故障を記憶されたインホイールモータ5,6に駆動される車輪に制動力を生じさせてもよい。
【0036】
このステップS7(前記駆動対象物ブレーキ手段)に基づいて、インホイールモータ5,6に駆動される車輪の動作を各車輪に設けられたブレーキ機構で阻止したのちに、インホイールモータ5,6を制御するモータ電子制御装置8を復帰させる(ステップS8)。これにより、モータ電子制御装置8からは、電力を供給するインバータ7を介して各インホイールモータ5,6の回転をそれぞれ制御する信号が出力される。すなわち、各インホイールモータ5,6の回転(力行・回生)を制御するために、各インホイールモータ5,6へ供給する、もしくは各インホイールモータ5,6から回収する電流を制御するための制御信号が、モータ電子制御装置8からインバータ7へ出力される。また、蓄電装置の直流電力がインバータ7によって交流電力に変換され、その交流電力が各インホイールモータ5,6に供給される状態となる。
【0037】
ステップS8に基づいてモータ電子制御装置8が復帰されたのちに、インバータ7やインホイールモータ自体などのインホイールモータ5,6に係る故障の有無を再度判定する(ステップS9)。否定的にインホイールモータ5,6に係る故障が無いと判定された場合には、各車輪に設けられたブレーキ機構の制動力を解除するとともに、インホイールモータ5,6の始動を許可する(ステップS10)。なお、インホイールモータ5,6に係る故障があると肯定的に判定された場合は、再びモータ電子制御装置8を停止させる。また、ステップS9のインホイールモータ5,6に係る故障の再判定(電動機故障再判定手段)とステップS10のインホイールモータ5,6の始動許可(電動機始動許可手段)とは、モータ電子制御装置8またはパワーマネジメント電子制御装置9のどちらで行ってもよい。
【0038】
次に、この発明に係るフェールセーフ装置の作用について説明する。この発明に係るフェールセーフ装置を適用したインホイールモータ車が走行している際に、例えば、車輪を駆動しているインホイールモータ5,6に係る故障(一時的な故障を含む)が生じた場合、各インホイールモータ5,6の故障を検出するセンサなどの各種センサ類からの故障に係る検出信号、およびインバータ7からの故障に係る信号が、モータ電子制御装置8またはパワーマネジメント電子制御装置9に伝達される。インホイールモータ5,6を制御するモータ電子制御装置8は、故障を検知された場合はその機能が停止されるため、インホイールモータ5,6に駆動される車輪または車両の停止が確認されるまでインホイールモータ5,6の制御を停止させることができ、その結果、インホイールモータ5,6に駆動される車輪または車両とインホイールモータ5,6とを安全に停止させることができ、さらにインホイールモータ5,6の制御のハンチングを防止することができる。
【0039】
また、インホイールモータ5,6に駆動される車輪または車両の停止が確認されたのちにインホイールモータ5,6の停止解除が要求された場合、ブレーキ機構が少なくとも故障が検出された車輪の動作を阻止したのちに、インホイールモータ5,6を制御するモータ電子制御装置8を復帰させ、インホイールモータ5,6に係る故障を再度判断する。その結果、復帰直後の意図しない車輪または車両の動作を防止しつつ故障を判断することができ、インホイールモータ5,6に係る装置に問題がないと判断した場合にはそのインホイールモータ5,6の始動を許可し、または問題があると判断した場合には再びインホイールモータ5,6に係る制御を停止させることで、一時的な故障によるインホイールモータ5,6の不要な修理を低減させることができる。
【0040】
なお、この発明は上述した具体例に限定されず、駆動対象物を駆動する電動機のフェールセーフ装置に適用することができる。この発明に係るフェールセーフ装置は、要は、車両や航空機、船舶、産業用機械など、電動機により動力を伝達する機械・装置類に用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
1,2,3,4…車輪(駆動対象物)、 5,6…インホイールモータ(電動機)、 7…インバータ、 8…モータ電子制御装置(MG−ECU)、 9…パワーマネジメント電子制御装置(PM−ECU)、 10,11,12,13…ブレーキ機構、 Ve…車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動対象物を駆動するとともに、供給される電力の増減にともなって駆動トルクが増減される電動機のフェールセーフ装置において、
前記電動機に対する電力供給の瞬断を含む前記電動機に係る故障を検出する電動機故障検出手段と、
前記電動機故障検出手段に基づいて前記電動機に係る故障が検出された場合に、前記電動機を停止させる電動機停止手段と、
前記電動機停止手段に基づいて前記駆動対象物の駆動が停止したのちに、前記電動機の停止解除が要求された場合に、少なくとも故障に係る前記電動機に駆動される前記駆動対象物の動作を阻止する駆動対象物ブレーキ手段と、
前記駆動対象物ブレーキ手段に基づいて、少なくとも故障に係る前記電動機に駆動される前記駆動対象物の動作を阻止した状態で、前記電動機に係る故障を再度判定する電動機故障再判定手段と、
前記電動機故障再判定手段に基づいて前記電動機に係る故障が無いと判定された場合に、前記電動機の始動を許可する電動機始動許可手段と
を備えていることを特徴とする電動機のフェールセーフ装置。
【請求項2】
前記電動機故障検出手段に基づいて前記電動機に係る故障が検出された場合に、電動機に係る故障を記憶する電動機故障記憶手段を備えているとともに、
前記電動機故障再判定手段は、再度判定する前記電動機に係る故障が前記電動機故障記憶手段に記憶された故障である
を特徴とする請求項1に記載の電動機のフェールセーフ装置。
【請求項3】
前記電動機停止手段は、前記電動機に供給される電力を遮断した状態で、前記電動機を停止させることを特徴とする請求項1または2に記載の電動機のフェールセーフ装置。
【請求項4】
前記電動機故障再判定手段は、前記電動機に電力を供給した状態で、前記電動機に故障が生じているかの有無を診断することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電動機のフェールセーフ装置。
【請求項5】
前記電動機は、モータを含み、
前記駆動対象物は、車両における車輪を含み、
前記駆動対象物ブレーキ手段は、前記車輪に制動力を付与するブレーキを含み、
前記モータは、少なくとも一つの前記車輪のホイール内もしくはその近傍に設けられている
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電動機のフェールセーフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−191751(P2012−191751A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53081(P2011−53081)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】