説明

電動流量制御弁

【課題】ステッピングモータ7の駆動によりパイロット弁体3を回転及び軸移動させ、パイロット弁体3により小流量制御域の流量制御を行い、主弁体2により大流量制御域の流量制御を行う電動流量制御弁において、大流量制御域のときに、パイロット弁体3の回転の影響で主弁体3が回転しないようにする。耐久性を向上させるとともに、安定した流量制御を行う。
【解決手段】パイロット弁体3の下部のE形止め輪34と、主弁体2のばね受け部2Bとの間に、2枚重ねにしたスラストワッシャ(41,42)からなる板部材4を介在させる。パイロット弁体3の回転力を、2枚重ねにしたスラストワッシャ(41,42)同士の接触面の摺動で吸収し、主弁体2の回転を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機の冷凍サイクルに設けられる電動流量制御弁、詳細には、電動モータにより駆動され、主弁体の小口径ポートでの流量制御を行う小流量制御域と弁室の大口径ポートでの流量制御を行う大流量制御域との、2段の流量制御域を有する電動流量制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動流量制御弁として、例えば特許第2898906号公報(特許文献1)、特開2008−64301号公報(特許文献2)及び特開2007−24186号公報(特許文献3)に開示されたものがある。特許文献1と特許文献3の制御弁は、弁室の大口径ポートを開閉するとともに、主弁ばねにより閉方向に付勢された主弁体と、この主弁体に形成された小口径ポートを開閉するパイロット弁体とを備えており、パイロット弁体をステッピングモータ等の電動モータの駆動によるねじ送り作用で軸線方向に移動するものである。また特許文献2の制御弁は、弁室の大口径ポートを開閉するとともに、主弁ばねにより開方向に付勢された主弁体と、この主弁体に形成された小口径ポートを開閉するパイロット弁体とを備えており、パイロット弁体をステッピングモータ等の電動モータの駆動によるねじ送り作用で軸線方向に移動するものである。そして、いずれも小口径ポートの開度の制御により小流量の制御を行い、大口径ポートの開度の制御により大流量の制御を行う。
【0003】
特許文献1及び特許文献3のものは、パイロット弁体を閉方向に付勢するためのばね(閉弁緩衝ばね15、圧縮コイルばね68)と、主弁体を閉方向に付勢するためのばね(スプリング31、圧縮コイルばね34)をそれぞれ備えている。また、特許文献2のものは、主弁体を開弁方向(パイロット弁の方向)に付勢するばね(圧縮コイルばね25)を備えている。
【0004】
また、特許文献1のものは、大流量制御域において、第1弁体21(パイロット弁体)の上部突起20と第2弁体22(主弁体)の内周フランジ部29とが係合するようになり、このとき、スプリング31のばね力により、この上部突起20と内周フランジ部29(係合部)が互いに押しつけられている。また、特許文献2のものは、大流量制御域において、主弁体が圧縮コイルばね25によりパイロット弁体35側に押しつけられている。また、特許文献3のものは、大流量制御域において、第2弁体30(パイロット弁体)のフランジ部32が滑性ワッシャ33を介して第1弁体20(主弁体)のガイド部材25の底面25Aに係合するようになり、このとき、圧縮コイルばね34の付勢力により、フランジ部32とガイド部材25の底面25A(係合部)が滑性ワッシャ33を介して互いに押しつけられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2898906号公報
【特許文献2】特開2008−64301号公報
【特許文献3】特開2007−24186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、冷凍空調システムを運転する上で、場合によっては制御弁に逆圧がかかる場合があり、制御弁はある程度の逆圧がかかっても弁が開かないようにする必要がある。このため、前記従来の制御弁のように、大口径ポートを開閉する主弁体にも、小口径ポートを開閉するパイロット弁体にも、逆圧に耐えうる荷重をばねにて付加するようにしている。
【0007】
特許文献1の場合、大流量制御域すなわち大口径ポートの開閉時に、前記係合部により第1の弁体(パイロット弁体)の鍔状突起(上部突起)が第2の弁体(主弁体)を引き上げるように構成されているが、第2の弁体はばねで押さえつけられているため、電動モータによる回転が抵抗となり、第2の弁体や電動モータ、係止具などを摩耗させ、耐久性が著しく劣る。また、場合によっては、第2の弁体を押さえつけているばねが破損する可能性もある。さらに、逆圧に耐えうるために第2の弁体に付加された強いばねの荷重が大口径ポートの開閉時に常にかかるため、大きなトルクが必要となるばかりでなく、前記のような摩耗を促進させるという問題がある。また、第2の弁体に付加するばねの荷重を十分大きくすると第2の弁体が第1の弁体と共に回転するのを抑えることができるが、この場合も上記と同様な問題が生じる。
【0008】
特許文献2の場合、パイロット弁体と主弁体は完全に分離されており、パイロット弁体の開閉に追従して主弁体が開閉するが、この主弁体の弁開方向に付加されたばねの荷重によりパイロット弁体と小口径ポートの開口部とが接触しながら弁を開閉することとなる。このため、ロータの回転がパイロット弁体に伝わるため、パイロット弁体は回転しながら小口径ポートの開口部に擦れてしまうため、摩耗が激しく耐久性に問題がある。また、この特許文献2のものは、パイロット弁体と主弁体が分離されているため、流体が流入する一次側の圧力変動により、大口径ポートが弁閉したりバイブレーションを発生するなど安定した制御ができないという問題がある。
【0009】
なお、特許文献3には、パイロット弁体と主弁体との係合部であるフランジ部32とガイド部材25との間に滑性ワッシャ33を介在させることが記載されているが、特許文献1におけると同様な課題や、ばねの付勢力について詳細には開示されておらず、特許文献1と同様に改良の余地がある。
【0010】
本発明は、上述の如き問題点を解消するためになされたものであり、電動流量制御弁において、大流量制御域のときに電動モータで回転駆動されるパイロット弁体の回転力が主弁体に伝達するのを低減させて、主弁体や主弁ばね等の耐久性を確保するとともに安定した流量制御を行えるようにし、さらに、必要な回転トルクを小さくして省エネを図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の電動流量制御弁は、弁室の大口径ポートを開閉するとともに主弁ばねにより閉方向に付勢された主弁体と、前記主弁体の小口径ポートを開閉するとともにパイロット弁ばねにより閉方向に付勢されたパイロット弁体とを備え、前記パイロット弁体が、前記主弁体の前記小口径ポートと対向する位置に形成された挿通孔に挿通されて該主弁体に対して軸線周りに回転可能でかつ軸線方向に移動可能にされるとともに、該パイロット弁体の前記小口径ポートと反対側の端部が電動モータのロータ軸に連結され、該パイロット弁体が前記ロータ軸の回転によるネジ送り作用にて軸線方向に移動するよう構成され、前記主弁体に設けられた前記小口径ポートを開閉することによる小流量制御域と、前記パイロット弁体と前記主弁体とが係合して当該両者が一体的に移動し、当該移動によって前記主弁体が前記大口径ポートを開閉することによる大流量制御域を有する電動流量制御弁において、前記パイロット弁体と前記主弁体とが係合する係合部に、該パイロット弁体の軸線周りの回転力が該主弁体に伝達されるのを低減する摺動部材を設けるとともに、前記主弁ばねの付勢力を前記パイロット弁ばねの付勢力よりも小さくしたことを特徴とする。
【0012】
請求項2の電動流量制御弁は、請求項1に記載の電動流量制御弁であって、前記係合部が、前記主弁体の前記挿通孔の開口周囲と、該開口周囲に対向するよう前記パイロット弁体に設けられた突出部と、該突出部の前記開口周囲側に設けられたリング状の板部材とにより構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項3の電動流量制御弁は、請求項2に記載の電動流量制御弁であって、前記板部材が、りん青銅製の複数のスラストワッシャを重ねて構成され、前記開口部周囲側のスラストワッシャと該開口部周囲との間の摩擦力と、前記突出部側のスラストワッシャと該突出部との間の摩擦力よりも、複数のスラストワッシャの間の摩擦力が小さくなっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の電動流量制御弁によれば、パイロット弁体と主弁体とが係合する係合部に設けた摺動部材により、パイロット弁体の軸線周りの回転力が主弁体に伝達されるのが低減されるので、主弁体や主弁ばね等の耐久性を確保することができ、かつ、安定した流量制御を行うことができる。また、主弁体の回転を抑えることができるので、主弁ばねの付勢力を振動に耐えられる程度に小さくできるので、パイロット弁体の駆動に必要な回転トルクを小さくすることができ、省エネを図ることができる。
【0015】
請求項2の電動流量制御弁によれば、請求項1の効果に加えて、パイロット弁体が挿通される主弁体の挿通孔の開口周囲とに対向するように、パイロット弁体に設けられた突出部の部分にリング状の板部材を介在させるだけでよいので、構造が簡単になる。
【0016】
請求項3の電動流量制御弁によれば、請求項1及び2の効果に加えて、例えば黄銅製(真鍮製)の主弁体と、ステンレス製(SUS製)のパイロット弁にステンレス製の係止具を突出部として設け、りん青銅製の複数のスラストワッシャにより、主弁体の挿通孔の開口部周囲側のスラストワッシャとこの開口部周囲(主弁体)とが一体になり、かつ、突出部側のスラストワッシャとこの突出部(パイロット弁体)とが一体になっても、複数のスラストワッシャの間が摺動するので、主弁体の回転を確実に低減することができる。なお、スラストワッシャは3枚以上でもよいが、2枚とすると部品点数を最小限とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態の電動流量制御弁の小流量制御域の全閉状態の縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態の電動流量制御弁の小流量制御域の全開状態(大流量制御域の全閉状態)の縦断面図である。
【図3】本発明の実施形態の電動流量制御弁の大流量制御域の全開状態の縦断面図である。
【図4】本発明の実施形態の電動流量制御弁のパイロット弁体と板部材の組立斜視図及び分解斜視図である。
【図5】本発明の実施形態の電動流量制御弁を用いた空気調和機の冷凍サイクルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の電動流量制御弁の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は実施形態の電動流量制御弁の小流量制御域の全閉状態の縦断面図、図2は実施形態の電動流量制御弁の小流量制御域の全開状態(大流量制御域の全閉状態)の縦断面図、図3は実施形態の電動流量制御弁の大流量制御域の全開状態の縦断面図、図4は実施形態の電動流量制御弁のパイロット弁体と板部材の斜視図、図5は実施形態の電動流量制御弁を用いた空気調和機の冷凍サイクルの一例を示す図である。なお、以下の説明における「上下」の概念は図1乃至図3の図面における上下に対応する。
【0019】
まず、図5に基づいて実施形態に係る空気調和機の冷凍サイクルについて説明する。実施形態の電動流量制御弁10は、空気調和機の第1室内側熱交換器20(除湿時冷却器として作動)と第2室内側熱交換器30(除湿時加熱器として作動)との間に設けられており、圧縮機40、四方弁50、室外側熱交換器60および電子膨張弁70とともに、ヒ−トポンプ式冷凍サイクルを構成している。第1室内側熱交換器20と第2室内側熱交換器30及び電動流量制御弁10は室内に設置され、圧縮機40、四方弁50、室外側熱交換器60および電子膨張弁70は室外に設置されていて冷暖房装置を構成している。
【0020】
図1乃至図3に示すように、実施形態の電動流量制御弁10は、大径部1aと小径部1bとからなる筒状の弁ハウジング1を有し、大径部1aはその内部に円筒状の弁室1Aを形成している。大径部1aには、側面側から弁室1Aに連通して冷媒が流入される一次継手管11が取り付けられている。また、大径部1aの端部開口部には蓋部材1cが取り付けられており、この蓋部材1cには弁室1Aの軸線Lと同軸にして冷媒が流出される二次継手管12が取り付けられている。さらに、大径部1a内には、二次継手管12及び蓋部材1cに固着するように主弁座13が配設されている。そして、主弁座13には、弁室1Aと二次継手管12とを連通する断面形状が円形の大口径ポート13aが形成されている。
【0021】
弁ハウジング1の小径部1bの内部は円筒状の主弁ガイド部1Bとされ、この主弁ガイド部1B内に主弁体2が配設されている。主弁体2は、主弁座13に対して着座及び離座する主弁部21を有する弁本体部2Aと、ばね受け部2Bとを有している。なお、主弁部21の端部周囲には、主弁座13に接触するシール部材21aが取り付けられている。弁本体部2Aの上部は略円筒状の嵌合孔を構成する保持部22とされ、この保持部22内にばね受け部2Bが嵌合され、保持部22の上端部22aを内側に加締めることにより、弁本体部2Aとばね受け部2Bとが一体に固着されている。この主弁体2(弁本体部2A及びばね受け部2B)は黄銅製(真鍮製)である。
【0022】
弁本体部2Aのばね受け部2B側の中央にはパイロット弁室23が形成されるとともに、軸線Lに沿って主弁部21の下端からパイロット弁室23に貫通する小口径ポート24が形成されている。そして、小口径ポート24のパイロット弁室23側の開口端部には、パイロット弁座25が配設されている。また、弁本体部2Aは略円柱状であり、その側面2箇所にはDカット面2A1が形成されている。パイロット弁室23は導通路26によりDカット面2A1の外側(主弁ガイド部1B内)に導通されている。ばね受け部2Bの弁本体部2Aと反対側には径の大きな円柱状のばね受け孔27が形成され、軸線Lに沿ってばね受け孔27の底部からパイロット弁室23まで貫通する挿通孔28が形成されている。この挿通孔28内には円柱棒状のパイロット弁体3が挿通されている。ばね受け孔27内には、上端を支持部材5に当接させた主弁ばね29が配設されており、これにより主弁体2は主弁座13方向に付勢されている。
【0023】
図4に示すように、パイロット弁体3は、棒状の弁本体31と、「突出部」としてのE形止め輪(Eリング)32とで構成されている。このパイロット弁体3(弁本体31及びE形止め輪32)はステンレス製である。弁本体31の一端近傍にはE形止め輪32を嵌め込むための溝31aが形成され、弁本体31の他端近傍にはばね受け鍔部31bが形成されている。そして、弁本体31の溝31aの上端に2枚のスラストワッシャ41,42からなる板部材4が嵌め込まれ、溝31aにE形止め輪32を嵌め込むことで、板部材4はE形止め輪32と挿通孔28の開口周囲28aとの間に配置され。スラストワッシャ41,42は、りん青銅製であり、この2枚重ねのスラストワッシャ41,42の当接面同士の摩擦力は極めて小さくなる。
【0024】
図1乃至図3に示すように、弁ハウジング1の小径部1bの上端には支持部材5が取り付けられている。支持部材5には軸線L方向に長いガイド孔51が形成されており、このガイド孔51には円柱状の連結部6が軸線L方向に摺動可能に嵌合されている。連結部6はガイド孔51に嵌合する弁ホルダ61を有し、この弁ホルダ61の下端部にパイロット弁体3が嵌め込まれるとともに、弁ホルダ61の下端にパイロット弁体3を挿通した状態でボス部62が固着されている。これにより、パイロット弁体3は、ばね受け鍔部31bをボス部62の上から当接するようにして、弁ホルダ61に取り付けられている。なお、パイロット弁体3はボス部62に対して軸線L方向に摺動可能となっている。
【0025】
電動モータとしてのステッピングモータ7のロータ軸71の下端部にはフランジ部71aが一体形成され、このフランジ部71aが弁ホルダ61の上端部と共にワッシャ63を挟み込まれている。これにより、ロータ軸71と弁ホルダ61とが連結されている。また、弁ホルダ61内には、バネ受け64が軸L1方向に移動可能に設けられており、このバネ受け64とパイロット弁体3のばね受け鍔部31bとの間にはパイロット弁ばね65が所定の荷重を与えられた状態で取り付けられている。これにより、バネ受け64は、上側に付勢され、ロータ軸71の下端部に当接係合している。また、同時に、パイロット弁体3は連結部6により下方に付勢されている。
【0026】
弁ハウジング1の小径部1bの上端には、ステッピングモータ7のケース72が溶接等によって気密に固定されている。ケース72内には、外周部を多極に着磁されたマグネットロータ73が回転可能に設けられ、このマグネットロータ73にはロータ軸71が固着されている。ロータ軸71の上端部は、ケース72の天井部から垂下された円筒状のガイド74内に回転可能に嵌合されている。また、ケース72の外周には、ステータコイル75が配設されており、このステータコイル75にパルス信号が与えられることにより、そのパルス数に応じてマグネットロータ73が回転される。そして、このマグネットロータ73の回転によってロータ軸71が回転する。なお、ガイド74の外周にはマグネットロータ73に対する回転ストッパ機構76が設けられている。
【0027】
ロータ軸71には雄ねじ部71bが形成されており、この雄ねじ部71bは支持部材5に形成された雌ねじ部5aに螺合している。これにより、ロータ軸71は回転に伴って軸L1線方向に移動する。これにより、パイロット弁体3は連結部6を介してロータ軸71とともに軸線L方向に移動する。
【0028】
以上の構成により以下のように動作する。まず、図1の状態では、連結部6の下端のボス部62とパイロット弁体3のばね受け鍔部31bとは僅かに離間するとともに、パイロット弁体3がパイロット弁座25に着座した状態である。そして、パイロット弁ばね65によりパイロット弁体3はパイロット弁座25側に付勢されている。ステッピングモータ7の駆動により連結部6が上昇すると、連結部6のボス部62がパイロット弁体3のばね受け鍔部31bに当接し、この時点から連結部6がパイロット弁体3を上昇させ、パイロット弁体3がパイロット弁座25から離間し始める。なお、パイロット弁ばね65の付勢力は、ボス部62がばね受け鍔部31bに当接するまでの間だけバネ受け64を介してロータ軸71を上に押すように働く。パイロット弁体3がさらに上昇すると、図2に示すように、板部材4(スラストワッシャ41)が主弁体3の挿通孔28の開口周囲28aに当接する。この図1の状態と図2の状態との間が小流量制御域であり、パイロット弁3により小口径ポート24の開度が制御される。
【0029】
そして、図2の状態からステッピングモータ7の駆動によりパイロット弁体3が上昇すると、このパイロット弁体3と主弁体2との両者が一体的に上昇し、主弁体2の主弁部21が主弁座13の大口径ポート13aを弁開する。そして、図3に示すように、ストッパ機構76により上死点に達する。この図2の状態と図3の状態との間が大流量制御域であり、主弁体2により大口径ポート13aの開度が制御される。
【0030】
以上のように、大流量制御域において、主弁体2はパイロット弁体3によって引き上げられるが、このときパイロット弁体3は軸線L周りに回転している。しかし、板部材4によりパイロット弁体3の軸線L周りの回転力が主弁体2に伝達されるのが低減される。
【0031】
すなわち、板部材4を構成する2枚のスラストワッシャ41,42はりん青銅製であり、主弁体2(ばね受け部2B)は黄銅製(真鍮製)である。また、E形止め輪32はステンレス製である。2枚重ねのスラストワッシャ41,42の当接面同士の摩擦力を、主弁体2側(通孔28の開口周囲28a側)のスラストワッシャ41と開口部周囲28aとの間の摩擦力よりも小さく、かつ、E形止め輪32(突出部)側のスラストワッシャ42とE形止め輪32との間の摩擦力よりも小さく設定する。このため、パイロット弁体3の回転の作用は2枚重ねのスラストワッシャ41,42の当接面同士を摺動させるだけであり、主弁体2の回転が防止される。したがって、主弁体2や主弁ばね29等の耐久性を確保することができ、安定した流量制御を行うことができる。
【0032】
また、主弁ばね29の付勢力はパイロット弁ばね65の付勢力よりも小さくなっている。すなわち、主弁体2の回転を抑えることができるので、主弁ばね29の付勢力を振動に耐えられる程度に小さくでき、パイロット弁体3の駆動に必要な回転トルクを小さくすることができ、省エネを図ることができる。
【実施例】
【0033】
上記の実施形態では板部材4が2枚重ねのスラストワッシャで構成しているが、板部材4として、以下のようなものでもよい。
【0034】
フッ素樹脂等(フッ素系樹脂、ポリアミドイミド樹脂(PAI)等)の高滑性樹脂製ワッシャを、前記板部材4とする。
【0035】
銅合金(りん青銅、黄銅等)、鉄合金(炭素鋼、ステンレス鋼等)または、アルミニウム合金(ジュラルミン等)の板材表面を、フッ素樹脂等の高滑性樹脂によりコーティングまたは焼付処理を施したものを、前記板部材4とする。
【0036】
銅合金(りん青銅、黄銅等)、鉄合金(炭素鋼、ステンレス鋼等)または、アルミニウム合金(ジュラルミン等)の板材表面に、無電界メッキ工法でニッケルにポリテトラフルオロエチレン樹脂を含有させた(NI+PTFE)メッキを施したものを、前記板部材4とする。
【0037】
銅合金(りん青銅、黄銅等)、鉄合金(炭素鋼、ステンレス鋼等)または、アルミニウム合金(ジュラルミン等)の板材表面に、固体潤滑剤層としてフッ素樹脂含浸のりん青銅層によりコーティングまたは焼付処理を施したものを、前記板部材4とする。
【0038】
フッ素系樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体樹脂、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体樹脂、ポリビニリデンフルオライド樹脂、ポリビニルフルオライド樹脂、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂等、である。
【符号の説明】
【0039】
1 弁ハウジング
1A 弁室
13 主弁座
13a 大口径ポート
2 主弁体
23 パイロット弁室
24 小口径ポート
25 パイロット弁座
29 主弁ばね
3 パイロット弁体
32 E形止め輪
4 板部材
41,42 スラストワッシャ
65 パイロット弁ばね
7 ステッピングモータ
71 ロータ軸
10 電動流量制御弁
L 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁室の大口径ポートを開閉するとともに主弁ばねにより閉方向に付勢された主弁体と、前記主弁体の小口径ポートを開閉するとともにパイロット弁ばねにより閉方向に付勢されたパイロット弁体とを備え、前記パイロット弁体が、前記主弁体の前記小口径ポートと対向する位置に形成された挿通孔に挿通されて該主弁体に対して軸線周りに回転可能でかつ軸線方向に移動可能にされるとともに、該パイロット弁体の前記小口径ポートと反対側の端部が電動モータのロータ軸に連結され、該パイロット弁体が前記ロータ軸の回転によるネジ送り作用にて軸線方向に移動するよう構成され、前記主弁体に設けられた前記小口径ポートを開閉することによる小流量制御域と、前記パイロット弁体と前記主弁体とが係合して当該両者が一体的に移動し、当該移動によって前記主弁体が前記大口径ポートを開閉することによる大流量制御域を有する電動流量制御弁において、
前記パイロット弁体と前記主弁体とが係合する係合部に、該パイロット弁体の軸線周りの回転力が該主弁体に伝達されるのを低減する摺動部材を設けるとともに、前記主弁ばねの付勢力を前記パイロット弁ばねの付勢力よりも小さくしたことを特徴とする電動流量制御弁。
【請求項2】
前記係合部が、前記主弁体の前記挿通孔の開口周囲と、該開口周囲に対向するよう前記パイロット弁体に設けられた突出部と、該突出部の前記開口周囲側に設けられたリング状の板部材とにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動流量制御弁。
【請求項3】
前記板部材が、りん青銅製の複数のスラストワッシャを重ねて構成され、前記開口部周囲側のスラストワッシャと該開口部周囲との間の摩擦力と、前記突出部側のスラストワッシャと該突出部との間の摩擦力よりも、複数のスラストワッシャの間の摩擦力が小さく鳴っていることを特徴とする請求項2に記載の電動流量制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−117584(P2012−117584A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266290(P2010−266290)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000143949)株式会社鷺宮製作所 (253)
【Fターム(参考)】