説明

電動船外機

【課題】電動船外機の操作性の向上を図るとともに船舶のスペースを圧迫しない電動船外機を提供する。
【解決手段】直流電流を交流電流に変換するインバータ3およびインバータ3が変換した交流電流によって駆動する駆動用電動機2を有する船外機本体11と、インバータ3に直流電流を供給する電池部122および船外機1を制御する制御部121を有し船外機本体11とは別体に構成される制御/電源ユニット12と、電池部122とインバータ3とを直流電流を供給可能に接続する第一主電力線711および船外機本体11と制御部121とを信号を送受信可能に接続する第一信号線715と含む接続ケーブル710とを備え、インバータ3が変換した交流電流を駆動用電動機2に供給するための第二主電力線712が船外機本体11の後側に配策され、第一信号線715が船外機本体11の前側に配策される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動船外機に関する。詳しくは、本発明は、駆動源としての交流電動機と、この交流電動機に交流電流を供給するインバータとを備える電動船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は、環境にかかる負荷を低減するために、電動船外機が注目されている。たとえば、特許文献1には、駆動源としての電動機と、この電動機に電力を供給するバッテリと、電動機を制御する制御ユニットとを有する電動船外機が開示されている。このような電動船外機においては、電動機が出力する回転動力が、ドライブシャフトとベベルギアとプロペラシャフトを介してプロペラに伝達され、プロペラが回転して推進力が得られる。また、この電動船外機においては、ロアモータカバーとアッパーモータカバーとからなる電動機カバーを有し、このモータカバーの内部に、電動機とバッテリと制御ユニットとが収容される。このような電動船外機によれば、たとえば駆動源として内燃機関を備える船外機と比較すると、排気ガスが水中に排出されないため、環境にかかる負荷を低減するとこができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−153727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、駆動用の電動機として交流電動機を備える船外機においては、交流電動機を駆動させるために、バッテリから供給された直流電流を交流電流に変換するインバータが必要になる。このため、駆動用の電動機の近傍に、高圧の交流電流が流れる電線が配策される。特許文献1に記載の電動船外機は、電動機の前方に制御ユニットが配設され、後方にバッテリが配設される構成を有する。このような構成であると、バッテリの状態の制御部に送信するための信号線と、高圧の交流電流が流れる電線とが、接近して配策される。このため、この電線が高調波のノイズを発する場合には、信号線の信号のS/N比が悪化して伝送効率が低下するおそれがある。特許文献1に記載の構成において、信号線を交流電流が流れる電線から離れた位置に配策するためには、信号線の長さを長くする必要がある。そうすると、モータカバーが大型化して船外機の取り扱い性が低下する。また、信号線が長くなると、交流電流が流れる電線からのノイズのみならず、他のノイズの影響も受けやすくなる。
【0005】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、交流電流が流れる電線がノイズを発する場合であっても、信号を伝送する信号線が受ける当該ノイズの影響を少なくすることができる電動船外機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、直流電流を交流電流に変換するインバータおよび前記インバータが変換した交流電流によって駆動する駆動用電動機を有する船外機本体と、前記船外機本体の前記インバータに直流電流を供給する電池部および前記船外機本体を制御する制御部を有し、前記船外機本体とは別体に構成される制御/電源ユニットと、前記制御/電源ユニットの前記電池部と前記船外機本体の前記インバータとを直流電流を供給可能に接続する電力線と、前記船外機と前記制御/電源ユニットに設けられる制御部とを信号を送受信可能に接続する信号線とを含み、前記船外機本体と前記制御/電源ユニットとを電気的に接続する接続ケーブルとを備え、前記インバータが変換した交流電流を前記駆動用電動機に供給するための他の電力線が前記船外機本体の後側に配策され、前記信号線が前記船外機本体の前側に配策されることを特徴とする。
【0007】
前記船外機本体の前側には、前側に向かって延出する操舵ハンドルが設けられ、前記操舵ハンドルには、駆動用電動機に供給する交流電流を制御するためのスロットルグリップと、前記スロットルグリップの状態を検出するシフトスイッチおよびスロットルセンサと、前記電池部および前記駆動用電動機の状態を表示する表示部とが設けられる。
【0008】
前記制御/電源ユニットの制御部と、前記操舵ハンドルの表示部および前記インバータとはコントローラエリアネットワークまたはElectric Vehicle Controllerによって接続されることを特徴とする。
【0009】
前記シフトスイッチおよび前記スロットルセンサと前記表示部とは信号を送受信可能に接続され、前記表示部は、前記シフトスイッチおよび前記スロットルセンサから前記表示部に送信された信号をコントローラエリアネットワークの信号またはElectric Vehicle Controllerの信号に変換することを特徴とする。
【0010】
前記船外機本体には前記駆動用電動機の状態を検出するセンサが設けられるとともに、前記センサと前記インバータとは信号を送受信可能に接続され、前記インバータは、前記センサから前記インバータに送信された信号をコントローラエリアネットワークの信号またはElectric Vehicle Controllerの信号に変換する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インバータが直流電流から変換した交流電流を駆動用電動機に供給するための他の電力線はインバータの後側に配策される。このため、この他の電力線は、船外機本体と制御/電源ユニットに設けられる制御部とを信号を送受信可能に接続する信号線から離れた位置に配策されることになる。したがって、この他の電力線がノイズを発する場合であっても、前記信号線に対するノイズの影響を小さくすることができる。そして、このような構成によれば、前記信号線を長くすることなく、前記他の電力線から離れた位置に配策することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施形態にかかる電動船外機の構成を模式的に示した外観斜視図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態にかかる電動船外機の構成を模式的に示した側面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態にかかる電動船外機の構成を模式的に示したブロック図である。
【図4】図4は、船外機本体の上部の構成を模式的に示した側面図であり、左側から見た図である。
【図5】図5は、船外機本体の上部の構成を模式的に示した後面図である。
【図6】図6は、船外機本体の上部の構成を模式的に示した平面図であり、上側から見た図である。
【図7】図7は、船外機本体の上部の構成を模式的に示した平面図であり、下側から見た図である。
【図8】図8は、船外機本体の上部の構成を模式的に示した斜視図であり、左下斜め後方から見た図である。
【図9】図9は、船外機本体の上部の構成を模式的に示した斜視図であり、左上斜め前方から見た図である。
【図10】図10は、駆動用電動機のロアハウジングおよび取付ボスの構成を模式的に示した外観斜視図であり、左上斜め前方から見た図である。
【図11】図11は、駆動用電動機の構成を模式的に示した外観斜視図であり、左上斜め前方から見た図である。
【図12】図12(a)は、操船者Pが船外機本体を操作して船舶を直進させている状態を模式的に示した平面図であり、図12(b)は、操船者が船外機本体を操作して船舶が右に曲がるように舵を切っている状態を模式的に示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本発明の実施形態にかかる電動船外機は、船舶に搭載されて使用される。説明の便宜上、本発明の実施形態にかかる電動船外機を、「本船外機」と称する。また、本船外機の「前」「後」「右」「左」「上」「下」の各向きは、本船外機が搭載される船舶の向きを基準とする。各図においては、必要に応じて、本船外機の前側を矢印Frで示し、後側を矢印Rrで示し、上側を矢印Tpで示し、下側を矢印Btで示し、右側を矢印Rで示し、左側を矢印Lで示す。なお、船外機本体が船舶に搭載された状態においては、船外機本体の右側が船舶の右舷側となり、船外機本体の左側が船舶の左舷側となる。
【0014】
まず、本船外機1の全体的な構成について、図1と図2を参照して説明する。図1は、本船外機1の構成を模式的に示した外観斜視図である。図2は、本船外機1の構成を模式的に示した側面図である。図1と図2に示すように、本船外機1は、船外機本体11と制御/電源ユニット12とを有する。船外機本体11と制御/電源ユニット12とは別体であり、接続ケーブル710によって電気的に接続される。船外機本体11は、船尾(たとえば、船舶9のトランザムボード91)などに取り付けて使用される。制御/電源ユニット12は、船外機本体11に駆動用の電力(ここでは、直流電流)を供給(=送電)する。また、制御/電源ユニット12は、本船外機1を制御する。船外機本体11と制御/電源ユニット12とが別体であると、船外機本体11の重量を小さくできる。このため、船外機本体11の操作性の向上を図ることができる。特に、船外機本体11の慣性モーメントが小さくなるから、ステアリング操作を軽快に行うことができる。さらに、制御/電源ユニット12の配置位置が制限されない。このため、制御/電源ユニット12を、船外機本体11から離れた位置であって、たとえば、船舶9の重量バランスが安定した位置に配置できる。したがって、船舶9の安定性の向上を図ることができる。また、制御/電源ユニット12を船舶9内の被水しない(または被水しにくい)場所に配置できる。したがって、制御/電源ユニット12の水濡れを防止または抑制できる。
【0015】
図1と図2に示すように、船外機本体11は、駆動用電動機2と、インバータ3と、推進部4と、取付部602と、操舵ハンドル5とを有する。
【0016】
駆動用電動機2は、推進部4の推進プロペラ45を回転させるための駆動源である。駆動用電動機2には、たとえば、三相交流誘導電動機などの交流電動機が適用される。駆動用電動機2は、モータハウジング21を有する。モータハウジング21は、駆動用電動機2の筐体となる部材であり、回転出力軸24の軸線方向(ここでは上下方向)に分割可能なロアハウジング22とアッパハウジング23とからなる。そして、モータハウジング21は、ロアハウジング22とアッパハウジング23が結合することによって、防水性(水密性)を確保している。このように、駆動用電動機2のモータハウジング21自体が防水性を有するため、駆動用電動機2が外部に露出して外気に直接的に晒される状態に配設できる。したがって、駆動用電動機2の冷却機構を簡略化できる。たとえば駆動用電動機2には、空冷式の冷却機構が適用できる。モータハウジング21の内部には、交流電流(たとえば三相交流電流)により回転磁界を形成するコイルと、回転磁界により回転する回転子とが収容される。回転子に設けられる回転出力軸24は、その軸線方向が略垂直になるように設けられ、ロアハウジング22の下側に延出する。本船外機1に適用される駆動用電動機2は、その回転出力軸24の軸線方向からの平面視で略円形の形状を有し、回転出力軸24を基準とする半径方向寸法(ここでは、水平方向寸法)が、軸線方向寸法(上下方向寸法)よりも大きい略扁平な形状を有する。半径方向寸法が大きい電動機は、そうでない電動機と比較して、低回転時におけるトルクが大きい。このため、本船外機1に、このような構成の電動機が適用されると、たとえば船舶9の始動時などに、大きな推進力が得られる。なお、説明の便宜上、「駆動用電動機2の回転出力軸24の軸線方向からの平面視」を、「上側からの平面視」または「下側からの平面視」と記す。
【0017】
インバータ3は、制御/電源ユニット12から供給される直流電流を交流電流に変換して駆動用電動機2に供給する。インバータ3は、駆動用電動機2のロアハウジング22に取付けられる取付ボス701,702,703,704によって、駆動用電動機2の上側に離間して配設される。換言すると、インバータ3と駆動用電動機2とは、駆動用電動機2の回転出力軸24の軸線方向(=上下方向)に沿って、離間して積層するように配設される。上側からの平面視において、インバータ3の左右方向寸法は、駆動用電動機2の外形線(=輪郭線)よりも小さい。たとえは、インバータ3は、上側からの平面視において、短辺寸法が駆動用電動機2の外径よりも小さい略長方形の形状を有する。そして、インバータ3は、長手方向が前後方向を向くように配設される。上側からの平面視において、インバータ3の左右および前端は、駆動用電動機2の外形線の内側に収まっているが、後端部は駆動用電動機2の本体部(部分的な突起物を除いた略円形の部分)の後端よりも後側に突出している。このように、上側からの平面視において、インバータ3の一部(具体的には、後端部以外の部分)は、駆動用電動機2の外形線の内側に収まっている。なお、駆動用電動機2のロアハウジング22の前側には、操舵ハンドル5が取り付けられる(後述)。このため換言すると、インバータ3は、上側からの平面視において、操舵ハンドル5が取り付けられる側とは反対側の端部を除いて、駆動用電動機2の外形線の内側に収まる。
【0018】
インバータ3の左側であって、駆動用電動機2の上側には、接続ケーブル710とインバータ3とを電気的に接続するための接続部としてのジャンクションボックス38が設けられる(たとえば図2参照)。接続ケーブル710は、駆動用電動機2の左下側を通過し、左後側から回り込んでジャンクションボックス38に引き込まれる。そして、制御/電源ユニット12から供給された直流電流は、接続ケーブル710とジャンクションボックス38とを通じて、インバータ3に供給される。前記のとおり、インバータ3の左右方向寸法は、駆動用電動機2の外径よりも小さい。このため、ジャンクションボックス38がインバータ3の左側に設けられる構成であると、上側からの平面視において、ジャンクションボックス38の全体または大部分が、駆動用電動機2の外形線の内側に収まる。したがって、船外機本体11の大型化を防止または抑制できる。特に、船外機本体11の左右方向寸法の大型化を防止または抑制できる。
【0019】
推進部4は、駆動用電動機2が出力する回転動力を、船舶9を推進する力に変換する。推進部4は、ドライブシャフト41と、ドライブシャフトハウジング42と、スイベルブラケット601と、ギアケース43と、推進プロペラ45とを含む。そして、推進部4は、駆動用電動機2の下側に設けられる。ドライブシャフト41は、駆動用電動機2の回転動力を推進プロペラ45に伝達する軸である。ドライブシャフト41は、駆動用電動機2の回転出力軸24に同心に配設されており、その軸線方向が略垂直方向を向く。ドライブシャフト41は、その上端部が駆動用電動機2の回転出力軸24に結合され、駆動用電動機2の回転出力軸24と一体に回転する。ドライブシャフトハウジング42は、ドライブシャフト41を覆う部材である。ドライブシャフトハウジング42の上端部は、駆動用電動機2のロアハウジング22に結合される。また、ドライブシャフトハウジング42の上下方向の中間部から上側寄りの部分は、スイベルブラケット601に水平方向に回転可能(または揺動可能)に結合される。このため、駆動用電動機2とインバータ3と推進部4と操舵ハンドル5とは、一体となって、スイベルブラケット601に対して水平方向に回転(または揺動)できる。この回転中心(または揺動中心)が、本船外機1のステアリングの回転中心となる。なお、ステアリングの中心と、駆動用電動機2の回転出力軸24およびドライブシャフト41の中心とは一致する。各図においては、駆動用電動機2の回転出力軸24とドライブシャフト41の中心であって、船外機本体11のステアリングの回転中心を、中心線Cvで示す。ドライブシャフトハウジング42の下側には、ギアケース43が設けられる。ギアケース43には、駆動用電動機2が出力する回転動力の回転の向きを変換するギアなどが収容される。具体的には、ギアケース43には、ドライブシャフト41の下端部と、プロペラシャフト433の前部と、第一のベベルギア431と、第二のベベルギア432とが収容される。第一のベベルギア431は、ドライブシャフト41の下端部に取り付けられており、ドライブシャフト41と一体に回転する。プロペラシャフト433は、その軸線が前後方向を向く姿勢で、ギアケース43に回転可能に支持される。プロペラシャフト433の前部には、第一のベベルギア431と噛み合う第二のベベルギア432が設けられ、後部には推進プロペラ45が設けられる。このほか、ドライブシャフトハウジング42の下部には、推進プロペラ45が空気を吸い込むことを防止するキャビテーションプレート(図略)が設けられることがある。
【0020】
このような構成によれば、駆動用電動機2が発生する回転動力は、ドライブシャフト41と、第一のベベルギア431と、第二のベベルギア432と、プロペラシャフト433とを介して、推進プロペラ45に伝達され、推進プロペラ45が回転する。前記のとおり、駆動用電動機2は低速時においても高いトルクの回転動力を出力できるため、減速機が不要である。このため、駆動用電動機2の回転出力軸24とドライブシャフト41とは、減速機を介さずに直接に結合される。したがって、推進部4の小型化、軽量化、構成の簡略化を図ることができる。さらに、ギアの数を削減できるから、ギアが発する騒音を低減できる。また、推進プロペラ45の正回転と逆回転の切り替え(すなわち、船舶9の前後進の切り替え)は、駆動用電動機2の回転出力軸24の回転の向きの切り替えによって行われる。このため、内燃機関が適用される船外機のような逆転機が不要である。また、駆動用電動機2が高いトルクの回転動力を出力できるため、第一のベベルギア431から第二のベベルギア432への減速比を小さくできる。このため、第二のベベルギア432のサイズを小さくできる。したがって、ギアケース43の小型化、軽量化、構成の簡略化を図ることができる。そして、特にギアケース43の小型化によって、航行時におけるギアケース43の水中における抵抗を低減できる。
【0021】
取付部602は、船外機本体11を船舶9に取り付けるための部分であり、スイベルブラケット601の前側に設けられる。取付部602は、クランプブラケット603を有する。そして、クランプブラケット603を船舶9のトランザムボード91(すなわち船尾)に締め付けて固定することにより、船外機本体11を船舶9に取り付けることができる。このため、クランプブラケット603が船舶9のトランザムボード91に取付けられている状態においては、操舵ハンドル5を操作して船外機本体11を略水平方向に回転させることにより、船舶9を操舵できる。また、クランプブラケット603は、左右方向に架設されるチルトピン604を介してスイベルブラケット601の前側に連結される。そして、クランプブラケット603とスイベルブラケット601とは、チルトピン604を中心として相対的に回転できる。このため、クランプブラケット603が船舶9のトランザムボード91に固定されている状態においては、チルトピン604を中心として船外機本体11を回転させることにより、推進部4を水中から引き上げるチルトアップ操作を行うことができる。なお、重量が大きい駆動用電動機2およびインバータ3は、チルトピン604よりも上側に位置する(特に図2参照)。このような構成であると、チルトアップ操作の際に、駆動用電動機2およびインバータ3の上側への移動量が小さくなる。したがって、チルトアップ操作が容易になる。
【0022】
操舵ハンドル5は、操船者Pが本船外機1のステアリング操作に用いるハンドルである。操舵ハンドル5は、駆動用電動機2から前方に向かって延伸するように設けられる。操舵ハンドル5の基端部(=後端部)は、ハンドルブラケット56に上下方向に回転(または揺動)可能に連結される。ハンドルブラケット56は、ボス58に固定される。ボス58は、駆動用電動機2のロアハウジング22の前端部の下側の面に固定されており、駆動用電動機2から前側に向かって突出するように設けられる構造物である。なお、ボス58と操舵ハンドル5とハンドルブラケット56の上下方向位置は、ロアハウジング22の下側の面の上下方向位置とほぼ等しい。また、ボス58および操舵ハンドル5の左右方向の中心は、駆動用電動機2の左右方向の中心と同じ位置にある。そして、操船者Pが、操舵ハンドル5を略水平方向に回転させると、駆動用電動機2および推進部4が、操舵ハンドル5と一体に略水平方向に回転する。このため、推進プロペラ45の軸線方向と船舶9との相対的な角度が変化し、船舶9の進行方向が変化する。また、操舵ハンドル5は、先端部を上側に向かって回転させることにより、駆動用電動機2の側に折り畳むことができる。操舵ハンドル5の組み付け構成の詳細は後述する。
【0023】
操舵ハンドル5には、メインスイッチ51と、エマージェンシースイッチ52と、シフトスイッチ53と、スロットルグリップ54と、表示部57とが設けられる。メインスイッチ51は、本船外機1の始動や停止を行うためのスイッチである。エマージェンシースイッチ52は、本船外機1を緊急停止させるためのスイッチである。スロットルグリップ54は、駆動用電動機2の回転速度を調整するための機器である。スロットルグリップ54は、操舵ハンドル5の前端部に、ツイスト可能に設けられる。スロットルグリップ54のツイスト量は、スロットルセンサ111(後述)によって検出される。そして、スロットルグリップ54のツイスト量に応じて、駆動用電動機2の回転数が設定される。シフトスイッチ53は、駆動用電動機2の回転方向を切り替えるためのスイッチである。シフトスイッチ53は、スロットルグリップ54のツイストの向きを検出し、当該ツイストの向きに応じて駆動用電動機2の回転方向を切り替える。このため、操船者Pは、スロットルグリップ54を操作することによって、駆動用電動機2の回転方向と回転数、すなわち、船舶9の航行方向と航行速度を調整することができる。表示部57は、制御/電源ユニット12の電池残量や駆動用電動機2の回転速度や船舶9の進行速度などといった、本船外機1や本船外機1が搭載される船舶9に関する情報を表示できる。なお、表示部57の構成は特に限定されるものではない。表示部57は、所定の文字や数字を表示できる構成であればよく、たとえば、LEDなどが組み込まれた発光文字盤や液晶表示装置などが適用できる。表示部57が表示する情報は、制御部121(後述)によって制御される。
【0024】
このほか、船外機本体11には、搬送の際などに用いるキャリングハンドル605が設けられる。キャリングハンドル605は、駆動用電動機2のロアハウジング22の下側の面の後端部に固定され、駆動用電動機2から後側に突起する。なお、キャリングハンドル605の構成の詳細については後述する。
【0025】
制御/電源ユニット12は、本船外機1を制御する制御部121と、本船外機1の電源となる電池部122とを有する。制御部121は、ソフトウェア(コンピュータプログラム)や本船外機1の設定に関するデータを格納できるメモリと、メモリからソフトウェアや本船外機1の設定を読み出して実行できるプロセッサとを有する。そして、制御部121は、本船外機1の設定に基づいてソフトウェアを実行することにより、本船外機1を制御する。電池部122は、単数または複数のパッケージ化された電池パック123(バッテリ)と、複数(たとえば二つ)の電池パック123を同時に装着できる電池パック装着部124とを有する。電池パック123は直流電源であり、たとえば、リチウムイオン電池のセルの集合体が適用される。そして、操船者Pなどは、電池パック123を電池パック装着部124から取り外して搬送することができる。電池パック123は、外部機器13の充電器131によって充電することにより、繰り返して使用することができる。そして、電池パック123は、電池パック装着部124に取り付けられると、制御部121や、船外機本体11の駆動用電動機2や他の各部を駆動するための電力が供給可能になる。電池パック123が電池パック装着部124に着脱可能であると、本船外機1を使用しない場合には、電池パック123を本船外機1から取り外しておくことができる。このため、電池パック123の保守や保管が容易となる。また、電池残量が少ない電池パック123を取り外し、充電済みの電池パック123を装着することができる。このため、電池パック123の効率的な利用が可能になる。たとえば、常に充電済みの電池パック123を装着して用いることによって、本船外機1が搭載される船舶9の稼働率を向上させることができる。また、船舶9の用途に応じて、電池パック123のサイズを変更することができる。さらに、複数の電池パック装着部124の少なくとも一つに、電池パック123を装着できる。このため、船舶9の用途に応じて、装着する電池パック123の数を変更することができる。また、複数の電池パック装着部124に二つ以上の電池パック123を装着することによって、電力の供給源を多重化できる。
【0026】
船外機本体11と制御/電源ユニット12とは、接続ケーブル710によって電気的に接続される。接続ケーブル710には、駆動用電動機2の駆動用の電力をインバータ3に供給する電力線と、駆動用電動機2以外の機器の駆動用の電力を供給する電力線と、制御/電源ユニット12と船外機とを信号を送受信可能に電気的に接続する信号線と、メインスイッチ51と制御/電源ユニット12とを信号を送受信可能に電気的に接続する信号線とを有する。説明の便宜上、駆動用電動機2の駆動用の電力をインバータ3に供給する電力線を「第一主電力線」と称し、駆動用電動機2以外の機器の駆動用の電力を供給する電力線を「副電力線」と称する。また、制御/電源ユニット12と船外機本体11との間で信号を送受信する信号線を「第一信号線」と称し、メインスイッチ51と制御/電源ユニット12とを信号を送受信可能に接続する信号線を「メインスイッチ線」と称する。そして、第一主電力線711と、副電力線713と、第一信号線715と、メインスイッチ線714とが、樹脂組成物などの防水性と可撓性を有する被覆材によって被覆されている。接続ケーブル710は全体として可撓性を有している。このため、接続ケーブル710が船外機本体11と制御/電源ユニット12とに接続されている状態で、船外機本体11のチルトアップ操作やステアリング操作が行われると、接続ケーブル710は船外機本体11の変位に追従して容易に撓む。したがって、接続ケーブル710がチルトアップ操作やステアリング操作の妨げにはならず、かつ、接続ケーブル710が撓んだ場合であっても、電力の供給や信号の送受信はその影響を受けない。
【0027】
接続ケーブル710の船外機本体11側の端部近傍は、ケーブル保持具25に収容される。ケーブル保持具25は船外機本体11に固定されている。そして、接続ケーブル710は、ケーブル保持具25に収容されることにより、船外機本体11に対して位置決めされた状態で保持される。なお、ケーブル保持具25および接続ケーブル710の船外機本体11への配策の構成については後述する。一方、接続ケーブル710の制御/電源ユニット12側の端部には、カプラ718が設けられる。そして、接続ケーブル710と制御/電源ユニット12とは、接続ケーブル710に設けられるカプラ718と制御/電源ユニット12に設けられるカプラ126とによって、分離自在に結合される。このような構成によれば、接続ケーブル710と制御/電源ユニット12の結合や分離が容易となる。したがって、本船外機1の取り扱い性の向上を図ることができる。
【0028】
次に、本船外機1のシステムの構成について、図3を参照して説明する。図3は、本船外機1のシステムの構成を模式的に示したブロック図である。図3に示すように、本船外機1は、船外機本体11と、制御/電源ユニット12とを備える。そして、船外機本体11と制御/電源ユニット12とは、接続ケーブル710によって電気的に接続される。さらに、制御/電源ユニット12には、カプラ133,134を介して所定の外部機器13を着脱可能でかつ電気的に接続できる。
【0029】
船外機本体11は、インバータ3と、駆動用電動機2と、操舵ハンドル5とを有する。駆動用電動機2には、センサ26が設けられる。インバータ3は、第一信号線715によって、制御/電源ユニット12の制御部121と信号を送受信可能に接続される。操舵ハンドル5には、表示部57と、メインスイッチ51と、エマージェンシースイッチ52と、シフトスイッチ53と、スロットルセンサ111が設けられる。センサ26は、駆動用電動機2の状態、たとえば、位相や回転速度や温度などを検出できる。センサ26は第一信号線715からインバータ3を介して分岐する別の信号線に信号を送受信可能に電気的に接続する。説明の便宜上、この別の信号線を「第二信号線」と称する。図3に示すように、第二信号線716は、インバータ3を介して第一信号線715から分岐する。そして、センサ26が検出した駆動用電動機2の状態は、第二信号線716と、接続ケーブル710に含まれる第一信号線715とを通じて、制御/電源ユニット12の制御部121に送信される。メインスイッチ51は、メインスイッチ線714によって制御/電源ユニット12の制御部121と信号を送受信可能に電気的に接続している。そして制御/電源ユニット12の制御部121は、メインスイッチ線714を通じて、メインスイッチ51の状態(ONであるかOFFであるか)を検出する。エマージェンシースイッチ52と、シフトスイッチ53と、スロットルセンサ111とは、表示部57と信号を送受信可能に電気的に接続される。そして、表示部57は、接続ケーブル710に含まれる第一信号線715によって、制御/電源ユニット12の制御部121と信号を送受信可能に電気的に接続される。そして、エマージェンシースイッチ52が操作されたか否かの情報と、シフトスイッチ53の状態と、スロットルセンサ111が検出したスロットルグリップ54のツイスト量は、表示部57および第一信号線715を通じて制御/電源ユニット12の制御部121に送信される。
【0030】
制御/電源ユニット12は、制御部121と、電池部122と、接続ケーブル710を接続できるカプラ126と、外部機器13を接続できるカプラ133,134とを有する。制御部121は、前記のとおり、ソフトウェアを実行することによって本船外機1を制御する。電池部122は、本船外機1の電源となる部分であり、複数の電池パック123を着脱可能な電池パック装着部124と、当該電池パック装着部124に装着される単数または複数の電池パック123とを有する。制御部121は、電池部122と信号を送受信可能に接続されるとともに、電池部122から電力を供給可能に接続される。そして、制御部121は、電池部122を制御して、駆動用電動機2を駆動するための直流電流を、接続ケーブル710の第一主電力線711を通じて船外機本体11のインバータ3に供給できる。また、制御部121は、船外機本体11のインバータ3や他の各部の駆動用の直流電流を、副電力線713を通じて供給できる。
【0031】
なお、船外機本体11の表示部57およびインバータ3と、制御/電源ユニット12の制御部121との接続には、コントローラエリアネットワーク(Controller Area Network。以下「CAN」と記す)またはElectric Vehicle Controllerが適用される。たとえば、CANが適用される構成においては、制御部121にCANコントローラが設けられ、第一信号線715がCANバス(CAN Bus)となる。そして、インバータ3は、センサ26から送信された信号を、CANまたはElectric Vehicle Controllerに適合する信号に変換する。同様に、表示部57は、エマージェンシースイッチ52、シフトスイッチ53、スロットルセンサ111から送信された信号を、CANまたはElectric Vehicle Controllerに適合する信号に変換する。たとえば、インバータ3と表示部57には、外部から送信された信号をCANまたはElectric Vehicle Controllerに適合する信号に変換する回路が設けられる。このような構成によれば、センサ26が検出した駆動用電動機2の状態を、インバータ3および第一信号線715を通じて制御部121に送信できる。同様に、エマージェンシースイッチ52とシフトスイッチ53とスロットルセンサ111の状態を、表示部57および第一信号線715を通じて制御部121に送信できる。なお、CANおよびElectric Vehicle Controllerは、規格化された公知の通信技術であるから、説明は省略する。
【0032】
所定の外部機器13は、充電器131と故障診断/データ書き換えユニット132とを有する。この外部機器13の充電器131を、制御/電源ユニット12の電池部122に電気的に接続することにより、制御/電源ユニット12の電池部122に装着される電池パック123を充電できる。また、この外部機器13の故障診断/データ書き換えユニット132は、制御/電源ユニット12の制御部121に信号を送受信可能に電気的に接続することにより、本船外機1の状態を読み出して正常であるか否かを判断できる。さらに、この外部機器13の故障診断/データ書き換えユニット132は、制御部121のメモリに格納されるソフトウェアや設定を書き換えることができる。
【0033】
本船外機1の全体的な動作は、次のとおりである。制御部121は、メインスイッチ51がONにされたことを検出すると、本船外機1を制御するためのソフトウェアを読み出して実行し、本船外機1を動作させるための準備を整える。メインスイッチ51がONにされた状態で、シフトスイッチ53が操作されると、その情報が第一信号線715を通じて制御部121に送信される。そして制御部121は、シフトスイッチ53の状態に応じて、駆動用電動機2の回転方向を切り替える。さらに制御部121は、スロットルセンサ111により検出されたスロットルグリップ54のツイスト量と、センサ26が検出した駆動用電動機2の状態とに基づいてインバータ3を制御し、駆動用電動機2に供給する交流電流を制御する。表示部57は、制御部121による制御に基づいて、電池部122の電池残量や、本船外機1が搭載された船舶9の航行速度や、センサ26が検出した駆動用電動機2の状態などといった、本船外機1や本船外機1が搭載される船舶9に関する情報を表示する。制御部121は、メインスイッチ51がOFFにされたことを検出すると、駆動用電動機2への電力の供給を停止するとともに、本船外機1の動作を停止する。また、制御部121は、本船外機1の動作中において、エマージェンシースイッチ52が操作されたことを検出すると、駆動用電動機2への電力の供給を停止して駆動用電動機2の回転を停止する。
【0034】
次に、駆動用電動機2とインバータ3の組み付け構成と、操舵ハンドル5の組み付け構成と、船外機本体11への接続ケーブル710の配策の構成と、駆動用電動機2とインバータ3との電気的な接続構成とについて、図4〜図12を参照して説明する。図4は、船外機本体11の上部の構成を模式的に示した側面図であり、左側から見た図である。図5は、船外機本体11の上部の構成を模式的に示した後面図である。図6は、船外機本体11の上部の構成を模式的に示した平面図であり、上側から見た図である。図7は、船外機本体11の上部の構成を模式的に示した平面図であり、下側から見た図である。図8は、船外機本体11の上部の構成を模式的に示した斜視図であり、左下斜め後方から見た図である。図9は、船外機本体11の上部の構成を模式的に示した斜視図であり、左上斜め前方から見た図である。図10は、駆動用電動機2のロアハウジング22および取付ボス701,702,703,704の構成を模式的に示した外観斜視図であり、左上斜め前方から見た図である。図11は、駆動用電動機2の構成を模式的に示した外観斜視図であり、左上斜め前方から見た図である。図12(a)は、操船者Pが船外機本体11を操作して船舶9を直進させている状態を模式的に示した平面図であり、図12(b)は、操船者Pが船外機本体11を操作して船舶9が右に曲がるように舵を切っている状態を模式的に示した平面図である。
【0035】
まず、駆動用電動機2とインバータ3の組み付け構成について説明する。図4〜図9に示すように、インバータ3は、駆動用電動機2の上側に、駆動用電動機2と離間して配設される。換言すると、インバータ3と駆動用電動機2とは、駆動用電動機2の回転出力軸24の軸線方向(=上下方向)に離間して積層するように配設される(たとえば、図4、図5、図8、図9参照)。
【0036】
たとえば図6に示すように、上側からの平面視において、駆動用電動機2は略円形であり、インバータ3は略長方形である。そして、インバータ3は、長手方向が前後方向を向くように配設される。さらに駆動用電動機2とインバータ3とは、左右方向の中心(図6においては中心線CFRで示す)がほぼ一致するように配設される。インバータ3の左右方向寸法(=幅方向寸法、短辺寸法)は、駆動用電動機2の外径よりも小さい。このため、上側からの平面視において、インバータ3の左右端部(=幅方向端部)は、駆動用電動機2の外形線(=輪郭線)から左右方向外側にはみ出さない。一方、前後方向に関しては、インバータ3は駆動用電動機2に対して後側にオフセットして配設される。そして、上側からの平面視において、インバータ3の前端部は、駆動用電動機2の外形線からはみ出していないが、後端部は駆動用電動機2の外形線から後側に突出している。たとえば、インバータ3の前後方向寸法が駆動用電動機2の外径よりも大きい場合には、上側からの平面視において、インバータ3の前側の面が駆動用電動機2の前側の面よりも後側に位置するようにする。このように、インバータ3は、後端部を除いて、駆動用電動機2の上側に重なるように配設される。そして、上側からの平面視において、駆動用電動機2の回転出力軸24およびドライブシャフト41の中心(=ステアリングの回転中心)(図6などにおいては中心線Cv)が、インバータ3の外形線の内側に位置する。特に、上側からの平面視において、インバータ3の重心の位置と、駆動用電動機2の回転出力軸24およびドライブシャフト41の中心の位置とができるだけ接近している構成であることが好ましく、一致している構成であることがより好ましい。なお、インバータ3と駆動用電動機2とは、後端部(=船外機本体11の後側)において電気的に接続している(後述)。
【0037】
インバータ3と駆動用電動機2とが上下方向に積層するように配置される構成は、水平方向に並べて配設される構成と比較すると、ステアリングの回転中心に関するインバータ3の慣性モーメントが小さい。このような構成であると、船外機本体11のステアリング操作に要する力が小さくなるから、ステアリング操作を軽快に行うことができる。したがって、本船外機1の操作性の向上を図ることができる。さらに、上側からの平面視において、インバータ3は、駆動用電動機2の外形線の内側に収まっている。このため、図12に示すように、船外機本体11がステアリング操作された場合であっても、船外機本体11のステアリングの角度にかかわらず、インバータ3が船舶9上の空間に入り込まない。したがって、船舶9上のスペースが圧迫されない。たとえば、船尾に物品等を置いた場合であっても、インバータ3がこの物品等に接触することなく船外機本体11をステアリング操作できる。このように、船舶9上のスペースの有効利用を図ることができる。
【0038】
インバータ3は、駆動用電動機2のロアハウジング22に、取付ボス701,702,703,704を介して取り付けられる。図9と図10に示すように、駆動用電動機2のロアハウジング22は、上側からの平面視において、全体として略円形の形状を有する。そして、その中心には、駆動用電動機2の回転出力軸24を挿通する軸挿通孔225が形成される。さらに、ロアハウジング22の前側の二箇所と後側の二箇所の合計四箇所には、取付ボス701,702,703,704を取り付けるためのブラケット221,222,223,224が設けられる。後側の二つのブラケット223,224は、ロアハウジング22の本体部(=上側からの平面視において、略円形に形成される部分をいう)の外周から、後側に向かって延出する。後側の二つのブラケット223,224は、ロアハウジング22の左右方向の関する中心線CFR(=前後方向に延伸し、軸挿通孔225の中心を通過する線)を挟んで、左右対称の位置に設けられる。また、後側の二つのブラケット223,224の最後端は、ロアハウジング22の本体部の最後端(=後側の面)よりも後側に位置する。前側の二つのブラケット221,222は、ロアハウジング22の外周から前側に向かって延出する。そして、前側の二つのブラケット223,224の最前端は、ロアハウジング22の本体部の最前端(=前側の面)よりも前側に位置する。前側の二つのブラケット221,222は、中心線CFRを挟んで左右方向に所定の間隔をおいて設けられる。ただし、前側の二つのブラケット221,222は、後側の二つのブラケット223,224とは異なり、左右非対称の位置に設けられる。具体的には、左前のブラケット222は、右前のブラケット221に比較して、中心線CFRからの距離が大きい。そして、前側の二つのブラケット221,222の間であって、上側からの平面視においてボス58およびハンドルブラケット56と左前のブラケット222の間には、第一信号線715および副電力線713を位置決めした状態に保持する保持部226が設けられる。保持部226の構成は特に限定されるものではないが、たとえば、第一信号線715および副電力線713に取り付けられるグロメット717を挟持できる二本の爪や突起が適用される。
【0039】
一方、たとえば図6に示すように、インバータ3の四隅部には、ロアハウジング22と同様に、取付ボス701,702,703,704に取付けるためのブラケット31,32,33,34が設けられる。後側の二つのブラケット33,34は、それぞれ斜め後ろ側に向かって延出する。後側の二つのブラケット33,34の最後端は、インバータ3の後側の面よりも後方に位置する。右前のブラケット31は、前方に向かって延出する。左前のブラケット32は、左斜め前に向かって延出する。
【0040】
ロアハウジング22の四箇所のブラケット221,222,223,224のそれぞれには、棒状の取付ボス701,702,703,704が、上側に向かって略垂直に起立するように取り付けられる。換言すると、棒状の取付ボス701,702,703,704は、駆動用電動機2の回転出力軸24の延出の向き(=下向き)とは反対側(=上向き)に起立する。そして、四本の取付ボス701,702,703,704の上端に、インバータ3の四箇所のブラケット31,32,33,34のそれぞれが取り付けられる。たとえば、ロアハウジング22の四箇所のブラケット221,222,223,224と、インバータ3の四隅部のブラケット31,32,33,34には、上下方向に貫通する貫通孔が形成される。一方、四本の取付ボス701,702,703,704の両端には、ネジ孔が形成される。そして、ネジによって、ロアハウジング22の四箇所のブラケット221,222,223,224に取付ボス701,702,703,704が着脱可能に固定されるとともに、取付ボス701,702,703,704の上端に、インバータ3の四隅部のブラケット31,32,33,34が着脱可能に固定される。取付ボス701,702,703,704の上下方向寸法は、駆動用電動機2の上下方向寸法よりも大きい。そして、取付ボス701,702,703,704の上端は駆動用電動機2のアッパハウジング23の上側の面よりも上方に位置する。このため、駆動用電動機2の上側の面とインバータ3の下側の面とは接触せず、所定の間隔をおいて離間する。このような構成であると、駆動用電動機2が発する熱がインバータ3に伝達しにくくなる。したがって、インバータ3が、駆動用電動機2の発する熱の影響を受けることを防止または抑制できる。また、インバータ3と駆動用電動機2とが離間していると、インバータ3の下側の面と駆動用電動機2との上側の面とが外気に晒されるとともに、それらの間を空気が通過できる。したがって、駆動用電動機2とインバータ3の冷却効率の向上を図ることができる。さらに、インバータ3は、取付ボス701,702,703,704を介して駆動用電動機2に取り付けられており、モータハウジング21に直接的に接触していない。このため、駆動用電動機2の振動がインバータ3に伝わりにくい。したがって、駆動用電動機2の振動がインバータ3に与える影響を小さくできる。たとえば、振動によってインバータ3の電気回路や電子回路が損傷することを防止または抑制できる。
【0041】
次に、操舵ハンドル5の組み付け構成について説明する。操舵ハンドル5は、操船者Pが船舶9を操舵するステアリング操作のためのハンドルである。操舵ハンドル5は、たとえば、図4、図9、図10、図11に示すように、ボス58およびハンドルブラケット56を介して駆動用電動機2のロアハウジング22に一体に設けられる。そして、操舵ハンドル5は、船外機本体11の前側(=駆動用電動機2の前端)から、前側に向かって延出する。たとえば、図4に示すように、ボス58は、ロアハウジング22の前部の下側の面に取り付けられており、前側に向かって突起する。たとえば、上側からの平面視において、ボス58の前端は、駆動用電動機2の前端よりも前側に位置する。なお、駆動用電動機2のロアハウジング22の下側の面は、クランプブラケット603から上方に離間した位置にある。このため、ボス58は、駆動用電動機2のロアハウジング22の下側の面から直線的に前方に向かって突起する。すなわち、ボス58とクランプブラケット603との干渉を避けるために、ボス58を湾曲または屈曲させる必要がない。このため、ボス58の構成の単純化を図ることができるから、強度を維持しつつ軽量化を図ることができる。ボス58の前端には、ハンドルブラケット56が取り付けられる。そして、操舵ハンドル5の後端部(=基端部)が、ハンドルブラケット56に連結される。操舵ハンドル5は、駆動用電動機2のロアハウジング22の下側の面とほぼ同じ高さであって、クランプブラケット603よりも高い位置に設けられる。すなわち、操舵ハンドル5の下側の面およびロアハウジング22の下側の面と、クランプブラケット603の上側の面とは、左右からの側面視において、上下方向に所定の距離をおいて離間している。そして、操舵ハンドル5より低く、取付部602のクランプブラケット603より高い位置に、接続ケーブル710が配策される。すなわち、接続ケーブル710は、高さ方向でボス58およびハンドルブラケット56および操舵ハンドル5と重ならない。なお、接続ケーブル710の配策の構成については後述する。
【0042】
操舵ハンドル5の後端部とハンドルブラケット56とは、たとえばヒンジを用いた機構よって連結されており、水平方向には相対的に回転できないが、上下方向には相対的に回転できる。したがって、操舵ハンドル5を水平方向に回転させることによって、船外機本体11を、スイベルブラケット601を中心として水平方向に回転させることができ、船舶9の進行方向を変えることができる。また、操舵ハンドル5は、ヒンジを中心として前端側(=先端側)を持ち上げるようにして、駆動用電動機2の側に折りたたむことができる。操舵ハンドル5の前端部には、スロットルグリップ54が設けられる。スロットルグリップ54は操舵ハンドル5に対してツイスト可能に設けられる。そして、操船者Pは、スロットルグリップ54をツイストする量を調整することで、駆動用電動機2の回転数を調整することができる。さらに操舵ハンドル5には表示部57が設けられる。
【0043】
また、たとえば、図6、図7、図10、図11に示すように、上側からの平面視において、駆動用電動機2の回転出力軸24およびドライブシャフト41の中心(=ステアリングの回転中心、中心線Cv)と、操舵ハンドル5の左右方向位置が一致する。すなわち、操舵ハンドル5の軸線の延長線上に、駆動用電動機2の回転出力軸24およびドライブシャフト41の中心が位置する。このような構成によれば、ステアリングする際に、操舵ハンドル5のステアリングの角度を左右で均等にすることができる。したがって、操作性の向上を図ることができる。さらに、このような構成によれば、ステアリングの操作の際に、ハンドルブラケット56やボス58に、過大な曲げモーメントがかかることが防止できる。
【0044】
次に、船外機本体11への接続ケーブル710の配策の構成について説明する。船外機本体11には、接続ケーブル710を位置決めした状態に保持するケーブル保持具25が設けられる。ケーブル保持具25は筒状の部材であり、その内部に接続ケーブル710を収容することによって、接続ケーブル710を所定の位置に保持する。ケーブル保持具25は、略水平で略前後方向に延伸する部分(この部分を「水平部」と称する)と、水平部251の後部において上側に向かって立ち上がる部分(この部分を「起立部」と称する)とを有する。水平部251は、たとえば図4、図7、図8に示すように、上下方向については駆動用電動機2のロアハウジング22と取付部602の間に位置する。また、水平部251は、左右方向については、駆動用電動機2の回転出力軸24およびドライブシャフト41の左側(=船舶9の前進方向に向かって左側)に位置する。そして、上側または下側からの平面視において、水平部251は、駆動用電動機2のロアハウジング22の左右方向寸法が最大となる箇所において、その外形線よりも回転出力軸24の側に位置する。すなわち、水平部251は、ロアハウジング22の左端よりも、右側に奥まった位置に設けられる。ケーブル保持具25の前端は、前後方向については取付部602のチルトピン604よりも前側に位置し、左右方向については操舵ハンドル5よりも左側に位置し、上下方向については取付部602よりも上側であって操舵ハンドル5およびロアハウジング22よりも下側に位置する。このように、水平部251は、上下方向については、ボス58およびハンドルブラケット56および操舵ハンドル5と重ならない位置に設けられる。また、起立部252の上端は、たとえば図3と図5と図7に示すように、上側からの平面視において、インバータ3の左側であって、ジャンクションボックス38の後側に位置する。
【0045】
ケーブル保持具25は、複数のブラケット254によって、駆動用電動機2のロアハウジング22の下側に釣り下げられるような態様で取り付けられる。そして、たとえば図4、図7、図8に示すように、ケーブル保持具25の水平部251のうち、前後方向において少なくともチルトピン604の近傍が、ブラケット254によって駆動用電動機2のロアハウジング22に固定される。チルトピン604がチルトアップおよびチルトダウンの回転中心となるから、ケーブル保持具25は、チルトアップおよびチルトダウンの回転中心の近傍において、ブラケット254によって駆動用電動機2に固定される。
【0046】
接続ケーブル710に含まれる第一主電力線711は、船外機本体11の前部で、かつケーブル保持具25の内部において、第一主電力線711と副電力線713と第一信号線715と分岐する。分岐した第一主電力線711は、ケーブル保持具25に収容された状態で、取付部602の上方、操舵ハンドル5とボス58とハンドルブラケット56と駆動用電動機2のロアハウジング22の下方、駆動用電動機2の回転出力軸24の左側(=船舶9の前進方向に向かって左側)に配策される。そして第一主電力線711は、駆動用電動機2の左斜め後方で上側に向かって立ち上がり、後側から回り込むようにして、ジャンクションボックス38の後側の面からその内部に引き込まれる。そして、第一主電力線711は、ジャンクションボックス38を介してインバータ3に電気的に接続される。このような構成であると、高電圧の直流電流が流れる第一主電力線711を、操船者Pから遠ざけることができる。たとえば図12に示すように、操船者Pは、一般的には船外機本体11の右側前方に位置し、左手によって操舵ハンドル5を操作する。このため、第一主電力線711が、ロアハウジング22の左下側を通過し、後側から回り込むようにしてジャンクションボックス38に引き込まれる構成であると、第一主電力線711は、インバータ3および駆動用電動機2を挟んで操船者Pの反対側に位置する。このように、第一主電力線711を、操船者Pから離れた位置に配策することができる。したがって、このような構成によれば、操船者Pが第一主電力線711に触れることを防止できる。また、ジャンクションボックス38は、インバータ3の左側に設けられる。たとえば図6に示すように、ジャンクションボックス38は、駆動用電動機2の左右方向寸法が最大の箇所に設けられる。具体的には、駆動用電動機2が略円形であり前後方向の中心において左右方向寸法が最大となるため、ジャンクションボックス38は、駆動用電動機2の前後方向の中心(図6においては中心線CLRで示す)に設けられる。したがって、上側からの平面視において、ジャンクションボックス38は駆動用電動機2の外形線からはみ出さないか、または、はみ出す量が最小になる。
【0047】
このように、上側からの平面視において、ケーブル保持具25とジャンクションボックス38のいずれも、駆動用電動機2の外形線からはみ出す部分の寸法が小さい。このため、船外機本体11をステアリング操作した場合であっても、ケーブル保持具25とジャンクションボックス38とが、船舶9上の空間に入り込んで圧迫することがない。したがって、船舶9上のスペースの有効利用を図ることができる。
【0048】
第一信号線715と副電力線713とは、たとえば図3と図5と図8に示すように、駆動用電動機2のロアハウジング22の前側において、一纏まりとなって第一主電力線711から分岐する。たとえば、ケーブル保持具25の前端近傍の上側の面に開口部253(=貫通孔)が形成され、第一信号線715はこの開口部253を通じて上側に引き出される。この開口部253は、ケーブル保持具25の水平部251を固定するブラケット254のうち、チルトピン604の近傍に設けられるブラケット254よりも前側に形成される。分岐した第一信号線715と副電力線713とは、インバータ3を経由して操舵ハンドル5に引き込まれる。具体的には、分岐した第一信号線715と副電力線713とは、ボス58とハンドルブラケット56と左前の取付ボス702との間を通過し、インバータ3の前側の面に達する。第一信号線715と副電力線713とには、グロメット717が取り付けられており、このグロメット717が駆動用電動機2のロアハウジング22の保持部226に取り付けられる。このため、第一信号線715と副電力線713とが、ボス58およびハンドルブラケット56と、ロアハウジング22の左前のブラケット222および左前の取付ボス702の間に位置決めされて保持される。そして第一信号線715と副電力線713とは、インバータ3の前側の面からその内部に引き込まれる。なお、ロアハウジング22に設けられる左前のブラケット222は、右前のブラケット221に比較して、中心線CFRからの距離が大きい。このため、左前のブラケット222とボス58およびハンドルブラケット56との間には、第一信号線715と副電力線713とを配策するスペースが確保される。また、第一信号線715と副電力線713は、前側の二つの取付ボス701,702の間に配策されるから、操船者Pなどが左右方向外側から触れることが防止される。このように、ケーブル保持具25から引き出された第一信号線715と副電力線713とは、前側の二つの取付ボス701,702によって保護される。
【0049】
また、たとえば図4と図6に示すように、ケーブル保持具25の開口部253は、チルトピン604の直上または直上よりも後寄りの上側であって、ハンドルブラケット56よりも後方に形成される。そして、第一信号線715と副電力線713とメインスイッチ線714とは、開口部253の位置において第一主電力線711から分岐する。そして、第一主電力線711から分岐した第一信号線715と副電力線713とは、ハンドルブラケット56よりも後方において、インバータ3に向かって配策される。このような構成であると、船外機本体11をチルトアップした場合であっても、第一信号線715と副電力線713とメインスイッチ線714とは、船外機本体11とクランプブラケット603に挟まれることがない。さらに、ケーブル保持具25は、チルトアップの回転中心の近傍において、ブラケット254によって駆動用電動機2のロアハウジング22に固定される。このため、チルトアップした場合であっても、ケーブル保持具25のチルトピンの近傍の箇所が変位や変形することが防止される。このため、接続ケーブル710が、船外機本体11とクランプブラケット603に挟まれることを確実に防止できる。さらに、操舵ハンドル5を上下方向に揺動させた場合であっても、操舵ハンドル5が第一主電力線711から分岐した第一信号線715と副電力線713とに接触しない。したがって、第一信号線715と副電力線713との損傷を防止できる。
【0050】
インバータ3の内部において、第一信号線715と副電力線713とがインバータ3に接続されるとともに、第一信号線715からインバータ3を介して第二信号線716が分岐する。そして、第一信号線715はインバータ3の前側の面から外部に引き出され、インバータ3に引き込まれる際に通過する経路とほぼ同じ経路を通過して下側に向かい、ボス58およびハンドルブラケット56の左側からその下側に回り込む。そして、第一信号線715と副電力線713とは、ハンドルブラケット56に引き込まれてその内部を通過し、さらに操舵ハンドル5の内部に引き込まれる。操舵ハンドル5の内部に引き込まれた第一信号線715は、エマージェンシースイッチ52と、シフトスイッチ53と、スロットルセンサ111と、表示部57とに電気的に接続される。また、副電力線713は、表示部57に電気的に接続される。
【0051】
第一信号線715からインバータ3を介して分岐した第二信号線716は、インバータ3の前側の面から外部に引き出される。そして、第二信号線716は、インバータ3の前側に沿って下方に向かい、駆動用電動機2のアッパハウジング23の上側の面の前端近傍からその内部に引き込まれる。駆動用電動機2の内部に引き込まれた第二信号線716は、センサ26と信号を送受信可能に電気的に接続される。
【0052】
第一主電力線711から分岐したメインスイッチ線714は、ハンドルブラケット56の下側からその内部に引き込まれ、さらにハンドルブラケット56の内部を通過して操舵ハンドル5の内部に引き込まれる。そして、操舵ハンドル5の内部に引き込まれたメインスイッチ線714には、メインスイッチ51が信号を送受信可能に電気的に接続される。
【0053】
なお、第一主電力線711から分岐した副電力線713および第一信号線715が、船外機本体11の前部でさらに二つに分岐する構成であってもよい。この場合には、二つに分岐した第一信号線715と副電力線713の一方は、インバータ3に引き込まれる。そして、インバータ3の内部において、第一信号線715と副電力線713とがインバータ3に電気的に接続されるとともに、第一信号線715からインバータ3を介して第二信号線716が分岐する。二つに分岐した第一信号線715と副電力線713の他方は、メインスイッチ線714とともにハンドルブラケット56を通じて操舵ハンドル5に引き込まれる。そして、操舵ハンドル5の内部において、第一信号線715が、表示部57と、エマージェンシースイッチ52と、シフトスイッチ53と、スロットルセンサ111とに電気的に接続されるとともに、副電力線713が表示部57に電気的に接続される。
【0054】
このように、接続ケーブル710は、操舵ハンドル5とハンドルブラケット56とボス58の左下方においてケーブル保持具25に収容される。このような構成であると、接続ケーブル710は、操舵ハンドル5などよりも低い位置にあり、高さ方向に重ならないから、操船者Pが操舵ハンドル5を操作した場合であっても、接続ケーブル710が操舵ハンドル5などに接触しない。このため、接続ケーブル710によって円滑なステアリング操作が妨げられることがない。したがって、ステアリング操作の操作性の向上を図ることができる。また、操舵ハンドル5は、接続ケーブル710よりも上側に位置するから、ハンドルブラケット56を中心として上側に向かって折り畳んだ場合にも、接続ケーブル710に接触しない。そして、ステアリング操作や折り畳みの際において、接続ケーブル710が操舵ハンドル5に接触しないから、接続ケーブル710に無理な力が掛かって損傷することを防止できる。また、接続ケーブル710は、ケーブル保持具25に収容された状態で船外機本体11に位置決めされて保持される。このため、船外機本体11がステアリング操作された場合や、チルトアップ操作された場合であっても、接続ケーブル710が動いたり位置ずれしたりすることが防止される。さらに、このような構成であると、高電圧の直流電流が流れる第一主電力線711を操船者Pから遠ざけることができる。一般的に、図12(a)(b)に示すように、操船者Pは船外機本体11の右前方に位置し、左手によって操舵ハンドル5を操作する。このため、第一主電力線711は、駆動用電動機2の回転出力軸24を挟んで、操船者Pの反対側に位置する。したがって、操船者Pが第一主電力線711に触れることが防止または抑制される。したがって、安全性の向上を図ることができる。また、ケーブル保持具25の前端がチルトピン604よりも前側に位置するため、接続ケーブル710は、ケーブル保持具25に収容された状態で、取付部602とロアハウジング22の間(特に、取付部602の上側)を通過する。このような構成によれば、たとえば船外機本体11がチルト操作された場合であっても、接続ケーブル710が船外機本体11と取付部602や船舶9のトランザムボード91に挟まれることを防止できる。したがって、接続ケーブル710の損傷が防止される。
【0055】
次に、駆動用電動機2とインバータ3との電気的な接続構成について説明する。駆動用電動機2とインバータ3とは、電力線によって交流電流を供給可能に接続される。説明の便宜上、この電力線を「第二主電力線」と称する。インバータ3が変換した交流電流は、第二主電力線712を通じて駆動用電動機2に供給される。第二主電力線712は、インバータ3の後端部(=上側からの平面視において、駆動用電動機2の外形線からはみ出している部分)において、インバータ3と駆動用電動機2とを電気的に接続する。このように、第二主電力線712は、インバータ3の端部であって、操舵ハンドル5の反対側の端部(=操舵ハンドル5から遠い側の端部)に設けられる。第二主電力線712は、左右方向については、後側の二つの取付ボス703,704の間に配設される(たとえば、図5と図8を参照)。また、第二主電力線712は、前後方向については、後側の二つの取付ボス703,704の後端よりも前側に配設される(たとえば、図4と図8を参照)。第二主電力線712は、インバータ3の後端部の下面から、下方に向かって略垂直に引き出される。駆動用電動機2の後端には端子部231が設けられており、第二主電力線712はこの端子部231に接続される。このように、船外機本体11の後側に複数の取付ボス703,704が設けられ、これら複数の取付ボス703,704どうしの間に、第二主電力線712が設けられる。
【0056】
ロアハウジング22の後側の二つのブラケット223,224は、ロアハウジング22の本体部よりも後側に突出している。同様に、インバータ3の後側の二つのブラケット33,34も、インバータ3の後側の面から後側に向かって突出している。そして、後側の二つの取付ボス703,704は、インバータ3の後側の面および駆動用電動機2の後端よりも後側に突出した位置に配設される。このため、第二主電力線712は、左右方向については後側の二つの取付ボス703,704の間に位置し、前後方向については、後側の二つの取付ボス703,704の最後端よりも前側に位置する。たとえば、図6に示すように、第二主電力線712は、後側の二つの取付ボス703,704の最後端どうしを結ぶ直線よりも前側に位置する。また、たとえば図4に示すように、側面視においては、第二主電力線712は後側の二つの取付ボス703,704に隠れて見えない。また、たとえば図5や図8に示すように、第二主電力線712は、インバータ3の後端部の下側の面から、下方に向かって引き出される。このため、第二主電力線712は、インバータ3の後側の面よりも前側に位置し、上側からの平面視においては、インバータ3の後端近傍に隠れて見えない(たとえば図5参照)。
【0057】
また、たとえば図7と図8に示すように、ロアハウジング22の下側の面には、ロアハウジング22から後側に向かって突起するキャリングハンドル605が取り付けられる。キャリングハンドル605の最後端は、インバータ3の後側の二つのブラケット33,34と、ロアハウジング22の後側の二つのブラケット223,224と、後側の二つの取付ボス703,704の最後端よりも後側に位置する。また、キャリングハンドル605の左右方向寸法は、後側の二つの取付ボス703,704の間の隙間の左右方向寸法よりも大きい。このため、たとえば図7に示すように、下側からの平面視においては、後側の二つの取付ボス703,704の間の隙間に、キャリングハンドル605が重畳する。したがって、下側からの平面視においては、第二主電力線712および端子部231は、キャリングハンドル605に隠れて見えない。さらに、下側からの平面視においては、後側の二つの取付ボス703,704とキャリングハンドル605の間には、隙間が形成されない。このため、キャリングハンドル605によって、操船者Pなどが船外機本体11の後側から第二主電力線712に接近することが防止される。また、船外機本体11を船舶9から取り外して地面や床等などに置く場合には、キャリングハンドル605によって第二主電力線712が保護される。さらに、船外機本体11が地面や床などに置かれている状態において、誤って船外機本体11上に異物を落下させた場合であっても、キャリングハンドル605によって、第二主電力線712に異物が接触することが防止される。このように、キャリングハンドル605によって、第二主電力線712が損傷などしないように保護される。
【0058】
このように、第二主電力線712は、インバータ3の端部であって、操舵ハンドル5の反対側の端部に設けられる。操船者Pは、操舵ハンドル5を用いて本船外機1を操作するから、第二主電力線712は操船者Pから大きく離れた箇所に位置する。したがって、操船者Pが第二主電力線712に接触すること防止または抑制できる。さらに、第二主電力線712は、後側の二つの取付ボス703,704の最後端と、インバータ3の後側の面と、キャリングハンドル605の最後端のいずれよりも前側に奥まった位置に配設される。換言すると、第二主電力線712は、後側の二つの取付ボス703,704と、インバータ3と、キャリングハンドル605とにより、上下および左右を囲まれる。このため、このような構成によれば、上下および左右から第二主電力線712に接触することが防止される。第二主電力線712は、その上下および左右が囲まれているから、図12(a)(b)に示すように、操船者Pが操舵ハンドル5を操作しても、第二主電力線712は操船者Pから見える位置には移動しない。したがって、操船者Pが第二主電力線712に接触することを防止できる。
【0059】
また、第一信号線715と第二信号線716とメインスイッチ線714とは、駆動用電動機2およびインバータ3の前側の面に沿うように配策される。すなわち、信号を送信する線は、インバータ3の前側に集約されて配策される。一方、第二主電力線712は、駆動用電動機2およびインバータ3の後側の面に配策される。換言すると、インバータ3が変換した交流電流を駆動用電動機2に供給するための第二主電力線712は船外機本体11の後側に配策され、制御/電源ユニット12と船外機本体11とを信号を送受信可能に接続する第一信号線715は、船外機本体11の前側に配策される。このように、第一信号線715と第二信号線716とメインスイッチ線714とは、第二主電力線712から大きく離れた位置に配策される。第二主電力線712は、インバータ3が変換した交流電流が流れるため、高調波のノイズを発することがある。しかしながら、第一信号線715と第二信号線716とメインスイッチ線714とは船外機本体11の前側に配策され、第二主電力線712は船外機本体11の後側に配策される。換言すると、第一信号線715と第二信号線716とメインスイッチ線714とは、インバータ3および駆動用電動機2を挟んで第二主電力線712の反対側に設けられる。このため、第二主電力線712がノイズを発する場合であっても、第一信号線715と第二信号線716とメインスイッチ線714とが、その影響を受けることを防止または抑制できる。特に、インバータ3は、上側からの平面視において前後方向に長い長方形の形状を有し、第一信号線715と第二信号線716とメインスイッチ線714とがインバータ3の長手方向の一方の端面に集約して配策され、第二主電力線712が他方の端面に配策される。このため、第一信号線715および第二信号線716と、第二主電力線712との距離を大きくすることができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明したが、前記実施形態は、本発明の実施にあたっての具体例を示したに過ぎない。本発明の技術的範囲は、前記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。たとえば、前記実施形態においては、駆動用電動機として三相交流誘導電動機を示したが、駆動用電動機は交流電動機であればよく、その種類は限定されない。また、前記実施形態においては、インバータが上側からの平面視において略長方形の形状を有する構成を示したが、インバータの形状は限定されない。インバータは、上側からの平面視において、後端部を除いて駆動用電動機の外形線の内側に収まるような寸法および形状であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、動力源として交流電動機を備えるとともに、直流電流を交流電流に変換して交流電動機に供給するインバータを備える電動船外機に関する。
【符号の説明】
【0062】
1:本船外機、11:船外機本体、12:制御/電源ユニット、122:電池部、2:駆動用電動機、21:モータハウジング、22:ロアハウジング、221:右前のブラケット、222:左前のブラケット、223:右後のブラケット、224:左後のブラケット、225:軸挿通孔、226:保持部、23:アッパハウジング、24:回転出力軸、3:インバータ、31:右前のブラケット、32:左前のブラケット、33:右後のブラケット、34:左後のブラケット、38:ジャンクションボックス、4:推進部、41:ドライブシャフト、5:操舵ハンドル、701:右前の取付ボス、702:左前の取付ボス、703:右後の取付ボス、704:左後の取付ボス、710:接続ケーブル、711:第一主電力線、9:船舶、91:トランザムボード、P:操船者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電流を交流電流に変換するインバータおよび前記インバータが変換した交流電流によって駆動する駆動用電動機を有する船外機本体と、
前記船外機本体の前記インバータに直流電流を供給する電池部および前記船外機本体を制御する制御部を有し、前記船外機本体とは別体に構成される制御/電源ユニットと、
前記制御/電源ユニットの前記電池部と前記船外機本体の前記インバータとを直流電流を供給可能に接続する電力線と、前記船外機本体と前記制御/電源ユニットに設けられる制御部とを信号を送受信可能に接続する信号線とを含み、前記船外機本体と前記制御/電源ユニットとを電気的に接続する接続ケーブルと、
を備え、
前記インバータが変換した交流電流を前記駆動用電動機に供給するための他の電力線が前記船外機本体の後側に配策され、前記信号線が前記船外機本体の前側に配策されることを特徴とする電動船外機。
【請求項2】
前記船外機本体の前側には、前側に向かって延出する操舵ハンドルが設けられ、
前記操舵ハンドルには、駆動用電動機に供給する交流電流を制御するためのスロットルグリップと、前記スロットルグリップの状態を検出するシフトスイッチおよびスロットルセンサと、前記電池部および前記駆動用電動機の状態を表示する表示部と、が設けられることを特徴とする請求項1に記載の電動船外機。
【請求項3】
前記制御/電源ユニットの制御部と、前記操舵ハンドルの表示部および前記インバータとはコントローラエリアネットワークまたはElectric Vehicle Controllerによって接続されることを特徴とする請求項2に記載の電動船外機。
【請求項4】
前記シフトスイッチおよび前記スロットルセンサと前記表示部とは信号を送受信可能に接続され、
前記表示部は、前記シフトスイッチおよび前記スロットルセンサから前記表示部に送信された信号をコントローラエリアネットワークの信号またはElectric Vehicle Controllerの信号に変換することを特徴とする請求項3に記載の電動船外機。
【請求項5】
前記船外機本体には前記駆動用電動機の状態を検出するセンサが設けられるとともに、前記センサと前記インバータとは信号を送受信可能に接続され、
前記インバータは、前記センサから前記インバータに送信された信号をコントローラエリアネットワークの信号またはElectric Vehicle Controllerの信号に変換することを特徴とする請求項3に記載の電動船外機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−39888(P2013−39888A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179049(P2011−179049)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】