説明

電動車両のモータマウント構造

【課題】電動車両のモータマウント構造において、モータを備えるパワートレインの揺動を減少させるとともに、パワートレインから車体に伝わる振動を低減することにある。
【解決手段】フロントクロスフレーム部(12)をフロントフロア(6)と縦壁部(7)との連結部(26)に設けられるフロントクロスメンバ(27)に連結し、リヤクロスフレーム部(13)をリヤフロア(8)の下面側に沿うとともにデファレンシャル装置(16)の上方を車両幅方向に延びるリヤクロスメンバ(28)に固定し、サブフレーム(9)の前後方向の長さを短縮してサブフレーム(9)の剛性を高め、かつリヤクロスフレーム部(13)の後方の空間を拡大している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動車両のモータマウント構造に係り、特にモータが備えられたパワートレインを支持する電動車両のモータマウント構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両においては、モータが備えられたパワートレインを弾性的に支持するために、マウント構造を設けている。
このマウント構造としては、例えば、パワートレインを、前後左右で4点支持するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−81009号公報
【0004】
特許文献1に係る車両のモータマウント構造は、リヤフロアの下方に配置したサブフレームに、マウント装置を介してパワートレインを支持したものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記の特許文献1では、パワートレインの前端部及び後端部を、フロントマウント及びリヤマウントでサブフレームに支持しているため、サブフレームの前後長が長くなり、サブフレームの剛性が低下するという不都合があった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、モータを備えるパワートレインの揺動を減少させるとともに、パワートレインから車体に伝わる振動を低減する電動車両のモータマウント構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、フロントフロアとこのフロントフロアに縦壁部を介して連結されるリヤフロアとを設け、このリヤフロアの下方には車両前後方向に延びる左右一対の左サイドフレーム部及び右サイドフレーム部とこれら両サイドフレーム部の間を連絡する前後一対のフロントクロスフレーム部及びリヤクロスフレーム部とを備えるサブフレームを配置し、デファレンシャル装置を備える変速機をモータの車両幅方向側部に連結したパワートレインをマウント装置によって前記サブフレームに支持した電動車両のモータマウント構造において、前記フロントクロスフレーム部を前記フロントフロアと前記縦壁部との連結部に設けられるフロントクロスメンバに連結し、前記リヤクロスフレーム部を前記リヤフロアの下面側に沿うとともに前記デファレンシャル装置の上方を車両幅方向に延びるリヤクロスメンバに固定し、車両前後方向及び車両上下方向の位置が前記パワートレインの重心を通り車両幅方向に延びる水平線に近接するように配置した左サイドマウント及び右サイドマウントによって前記パワートレインの車両幅方向両側部を前記左サイドフレーム部及び右サイドフレーム部に支持し、前記パワートレインの前後に該パワートレインのロール運動を規制するフロントマウントとリヤマウントとを配置し、前記フロンマウントを前記フロントクロスフレーム部の車両幅方向中央部に取り付け、前記リヤマウントを前記サブフレームの後方側に配置される他のクロスメンバに取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明の電動車両のモータマウント構造は、モータを備えるパワートレインの揺動を減少させるとともに、パワートレインから車体に伝わる振動を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1はサブフレームに支持されたパワートレインの斜視図である。(実施例)
【図2】図2は電動車両の後部の左側面図である。(実施例)
【図3】図3は電動車両の後部の底面図である。(実施例)
【図4】図4は電動車両の後部の正面図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明は、モータを備えるパワートレインの揺動を減少させるとともに、パワートレインから車体に伝わる振動を低減する目的を、フロントクロスフレーム部をフロントフロアと縦壁部との連結部に設けられるフロントクロスメンバに連結し、リヤクロスフレーム部をリヤフロアの下面側に沿うとともにデファレンシャル装置の上方を車両幅方向に延びるリヤクロスメンバに固定して実現するものである。
【実施例】
【0011】
図1〜図4は、この発明の実施例を示すものである。
図3、図4において、1は商用車等のRR車(リヤドライブ車)からなる電動車両(以下「車両」という)、2は車体、3Lは左後輪、3Rは右後輪である。
車体2は、車両前後方向Xに延びる左右一対の左サイドメンバ4及び右サイドメンバ5を備える。
この車体2には、図2に示すように、フロントフロア6と、このフロントフロア6に縦壁部7を介して連結されるリヤフロア8とが設けられる。
このリヤフロア8の下方には、サブフレーム9が配置される。
このサブフレーム9は、図1、図2に示すように、車両前後方向Xに延びる左右一対の左サイドフレーム部10及び右サイドフレーム部11と、これら両サイドフレーム部10・11の間を連絡する前後一対のフロントクロスフレーム部12及びリヤクロスフレーム部13とを一体にして備える。左サイドフレーム部10・右サイドフレーム部11には、後部位で上方に立ち上がる立上部10A・11Aが形成されている。従って、リヤクロスフレーム部13は、フロントクロスフレーム部12よりも高い位置に配置される。
このサブフレーム9には、パワートレイン14がマウント装置15によって支持される。つまり、サブフレーム9は、パワートレイン14を囲むように閉回路形状に構成される。
【0012】
パワートレイン14は、図1に示すように、デファレンシャル装置(モータギヤボックス)16を備える変速機17をモータ18の車両幅方向Yの左側部に連結して構成され、その長手方向が車両前後方向Xに対して直交する方向である車両幅方向Yに向かって配置されている。
変速機17の上方には、図2に示すように、バッテリ(12V)19が配置される。
マウント装置15は、ゴムマウント構造であって、パワートレイン14の左側部を左サイドフレーム部10に支持する左サイドマウント20と、パワートレイン14の右側部を右サイドフレーム部11に支持する右サイドマウント21と、パワートレイン14の前部中央をフロントクロスフレーム部12に支持するフロントマウント22と、パワートレイン14の後部中央を後述するサスペンション用クロスメンバ29に支持するリヤマウント23とからなり、パワートレイン14を車体2に4点で弾性的に支持させるものである。リヤマウント23は、リヤマウントブラケット24を介してデファレンシャル装置16に固定されている。
フロントマウント22の前方には、図2に示すように、モータ18に電力を供給するバッテリユニット25が配置される。
【0013】
図2に示すように、フロントクロスフレーム部12は、フロントフロア6と縦壁部7との連結部26に設けられるフロントクロスメンバ27に連結される。
一方、リヤクロスフレーム部13は、リヤフロア8の下面側に沿うとともにデファレンシャル装置16の上方を車両幅方向Yに延びてリヤフロア8に設けられたリヤクロスメンバ28に固定される。
図3、図4に示すように、パワートレイン14の車両幅方向Yの両側部は、車両前後方向X及び車両上下方向の位置がパワートレイン14の重心Gを通り車両幅方向Yに延びる水平線HLに近接するように配置したサイドマウントである左サイドマウント20及び右サイドマウント21によって左サイドフレーム部10及び右サイドフレーム部11に支持される。
パワートレイン14の前後には、該パワートレイン14のロール運動を規制するフロントマウント22とリヤマウント23とが配置される。
フロンマウント22は、フロントクロスフレーム部12の車両幅方向中央部に取り付けられる。
リヤマウント23は、サブフレーム9のリヤクロスフレーム部13の後方側に配置された他のクロスメンバとしての、リヤフロア8に設けられたサスペンション用クロスメンバ29に取り付けられる。
【0014】
このように、フロントクロスフレーム部12をフロントフロア6と縦壁部7との連結部26に設けられるフロントクロスメンバ26に連結し、リヤクロスフレーム部13をリヤフロア8の下面側に沿うとともにデファレンシャル装置16の上方を車両幅方向Yに延びるリヤクロスメンバ28に固定したため、サブフレーム9の前後方向の長さを短縮してサブフレーム9の剛性を高め、かつリヤクロスフレーム部13の後方の空間を拡大することができる。
そして、左サイドマウント20・右サイドマウント21によりパワートレイン14をパワートレイン14の重心Gを通り車両幅方向Yに延びる水平線HLを中心にロール運動するように支持し、パワートレイン14のロール運動をフロントマウント22とリヤマウント23とによって規制する。
そのため、パワートレイン14のロール運動時に、左サイドマウント20・右サイドマウント21からサブフレーム9に伝達する振動を低減することができる。
また、リヤマウント23をサブフレーム9の後方に配置される他のクロスメンバであるサスペンション用クロスメンバ29に連結したため、サブフレーム9を車両後方へ延長することなく、リヤマウント23をロール運動の中心から離れた位置に配置でき、ロール運動によってリヤマウント23に入力する荷重を減少させることができる。
このため、リヤマウント23のばね定数を低く設定することが可能となり、パワートレイン14から車体2に伝わる振動を低減できる。
また、リヤマウント23を、サブフレーム9に邪魔されずに、サスペンション用クロスメンバ29に組み付けでき、その組付性を向上できる。
【0015】
前記サブフレーム9は、図1に示すように、パイプ(管部材)によって環状(閉回路状)に形成されている。
これにより、サブフレーム9の曲げ剛性を向上させて、フロントクロスメンバ27及びリヤクロスメンバ28から車体2に伝達する振動を低減することができる。
【0016】
前記リヤクロスフレーム部13は、車両幅方向Yでモータ18側に位置する部分13Aが、デファレンシャル装置16側に位置する部分13Bに対して車両前方に位置するように中間部13Mで湾曲した形状である。
上記のように、リヤクロスフレーム部13を湾曲した形状とすることによって、サブフレーム9の周長を短縮してサブフレーム9の振動を抑制することができる。
【0017】
図1、図2に示すように、リヤクロスフレーム部13は、車両幅方向Yで、モータ18側に配置されるモータリヤ側取付ブラケット30と、デファレンシャル装置16側に配置されるデフリヤ側取付ブラケット31とによってリヤクロスメンバ28に固定される。
また、モータ18側に配置されるモータリヤ側取付ブラケット30は、リヤクロスフレーム部13から車両後方に突出されている。つまり、モータリヤ側取付ブラケット30は、長手方向の後部分30Bがリヤクロスフレーム部13に対して前部分30Fよりも大きくなるように配置される。一方、デファレンシャル装置16側に配置されるデフリヤ側取付ブラケット31は、リヤクロスフレーム部13から車両前方に突出されている。つまり、デフリヤ側取付ブラケット31は、長手方向の前部分31Fがリヤクロスフレーム部13に対して後部分31Bよりも大きくなるように配置される。
このように、リヤクロスフレーム部13に対する2つのモータリヤ側取付ブラケット30・デフリヤ側取付ブラケット31の突出方向を夫々変えることによって、モータリヤ側取付ブラケット30・デフリヤ側取付ブラケット31の変形を抑制でき、サブフレーム9から車体2に伝わる振動を低減できる。
【0018】
また、図1に示すように、フロントクロスフレーム部12は、車両幅方向Yで、モータ18側に配置されるモータフロント側取付ブラケット32と、デファレンシャル装置16側に配置されるデフフロント側取付ブラケット33とによってフロントクロスメンバ27に固定される。この場合、モータフロント側取付ブラケット32及びデフフロント側取付ブラケット33は、フロントクロスフレーム部12に車両後方に向かって配置されている。
また、図3、図4に示すように、デファレンシャル装置14には、左後輪3Lと右後輪3Rとに連結する後車軸34が連結している。
【産業上の利用可能性】
【0019】
この発明に係る電動車両のモータマウント構造を、他のRR車としての乗用車にも適用可能である。
【符号の説明】
【0020】
1 車両
2 車体
6 フロントフロア
7 縦壁部
8 リヤフロア
9 サブフレーム
10 左サイドフレーム部
11 右サイドフレーム部
12 フロントクロスフレーム部
13 リヤクロスフレーム部
14 パワートレイン
15 マウント装置
16 デファレンシャル装置
17 変速機
18 モータ
20 左サイドマウント
21 右サイドマウント
22 フロントマウント
23 リヤマウント
24 リヤマウントブラケット
26 連結部
27 フロントクロスメンバ
28 リヤクロスメンバ
29 サスペンション用クロスメンバ
30 モータリヤ側取付ブラケット
31 デフリヤ側取付ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントフロアとこのフロントフロアに縦壁部を介して連結されるリヤフロアとを設け、このリヤフロアの下方には車両前後方向に延びる左右一対の左サイドフレーム部及び右サイドフレーム部とこれら両サイドフレーム部の間を連絡する前後一対のフロントクロスフレーム部及びリヤクロスフレーム部とを備えるサブフレームを配置し、デファレンシャル装置を備える変速機をモータの車両幅方向側部に連結したパワートレインをマウント装置によって前記サブフレームに支持した電動車両のモータマウント構造において、前記フロントクロスフレーム部を前記フロントフロアと前記縦壁部との連結部に設けられるフロントクロスメンバに連結し、前記リヤクロスフレーム部を前記リヤフロアの下面側に沿うとともに前記デファレンシャル装置の上方を車両幅方向に延びるリヤクロスメンバに固定し、車両前後方向及び車両上下方向の位置が前記パワートレインの重心を通り車両幅方向に延びる水平線に近接するように配置した左サイドマウント及び右サイドマウントによって前記パワートレインの車両幅方向両側部を前記左サイドフレーム部及び右サイドフレーム部に支持し、前記パワートレインの前後に該パワートレインのロール運動を規制するフロントマウントとリヤマウントとを配置し、前記フロンマウントを前記フロントクロスフレーム部の車両幅方向中央部に取り付け、前記リヤマウントを前記サブフレームの後方側に配置される他のクロスメンバに取り付けたことを特徴とする電動車両のモータマウント構造。
【請求項2】
前記サブフレームをパイプによって環状に形成したことを特徴とする請求項1に記載の電動車両のモークマウント構造。
【請求項3】
前記リヤクロスフレーム部は、車両幅方向で前記モータ側に位置する部分が前記デファレンシャル装置側に位置する部分に対して車両前方に位置するように中間部で湾曲した形状であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動車両のモークマウント構造。
【請求項4】
前記リヤクロスフレーム部を車両幅方向で前記モータ側に配置される取付ブラケットと前記デファレンシャル装置側に配置される取付ブラケットとによって前記リヤクロスメンバに固定し、前記モータ側に配置される取付ブラケットを前記リヤクロスフレーム部から車両後方に突出させる一方、前記デファレンシャル装置側に配置される前記取付ブラケットを車両前方に突出させたことを特徴とする請求項1に記載の電動車両のモータマウント構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−126168(P2012−126168A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277184(P2010−277184)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】