説明

電動車両のモータ搭載構造

【課題】走行性能を考慮した適正な位置に電動モータを搭載する。
【解決手段】電動車両Cは、電動モータ1と、電動モータ1の駆動力を伝達する伝達機構2と、電動モータ1から伝達機構2を介して入力される駆動力を左右の車輪に伝達する差動機構3と、差動機構3と左右の車輪とを連結する一対のドライブシャフト4とを備え、差動機構3が車幅方向中央部に位置するように上記一対のドライブシャフト4の長さが設定されている。電動モータ1は、差動機構3の上側に当該差動機構3と平面視で重なるように配設されるとともに、車両の前後方向に延びる出力軸42を有し、伝達機構2は、電動モータ1の出力軸42の駆動力を差動機構3に伝達可能なように当該電動モータ1および差動機構3の前側または後側に配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用の駆動源として車両に搭載され、電力の供給を受けて作動する電動モータと、当該電動モータの駆動力を伝達する伝達機構と、上記電動モータから上記伝達機構を介して入力される駆動力を左右の車輪に伝達する差動機構と、当該差動機構と上記左右の車輪とを連結する一対のドライブシャフトとを備えた電動車両のモータ搭載構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より厳しさを増すエネルギー事情を背景にして、例えば電気自動車や燃料電池車といった、電力を利用して走行する車両(電動車両)に関する研究・開発がさかんに行われている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、電動モータを駆動源とした電動車両において、電動モータやこれに付随する部品をどのように取り付けるかという点に着目した提案がなされている。具体的に、同文献では、電動モータをモータマウントを介して前輪用のサスペンションメンバに取り付けた上で、さらに、この電動モータの前方斜め上方に空気コンプレッサを取り付けるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−161260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に示される構成では、車両の走行性能(安定性や旋回性)が損なわれるおそれがあった。すなわち、車両の走行性能を考慮すれば、重量の大きい部品はできるだけ車両の中心寄りに配設することが望ましいが、上記特許文献1では、電動モータのさらに前方に空気コンプレッサが取り付けられるため、車両の前端に近い位置に重量物が存在することによるヨー慣性モーメントの増大に起因して、車両の旋回性能が悪化するとともに、ピッチング等(段差を乗り越えたとき等に車両の前部が上下に揺れる現象)が起き易くなる等の問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、走行性能を考慮した適正な位置に電動モータを搭載することが可能な電動車両のモータ搭載構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、走行用の駆動源として車両に搭載され、電力の供給を受けて作動する電動モータと、当該電動モータの駆動力を伝達する伝達機構と、上記電動モータから上記伝達機構を介して入力される駆動力を左右の車輪に伝達する差動機構と、当該差動機構と上記左右の車輪とを連結する一対のドライブシャフトとを備えた電動車両のモータ搭載構造であって、上記差動機構が車幅方向中央部に位置するように上記一対のドライブシャフトの長さが設定され、上記電動モータは、上記差動機構の上側に当該差動機構と平面視で重なるように配設されるとともに、車両の前後方向に延びる出力軸を有し、上記伝達機構は、上記電動モータの出力軸の駆動力を上記差動機構に伝達可能なように当該電動モータおよび差動機構の前側または後側に配設されていることを特徴とするものである(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、出力軸が車両の前後方向を向く縦置きの姿勢で電動モータを配置するとともに、その出力軸の駆動力が伝達機構および差動機構に伝達されるように、電動モータの前側または後側に伝達機構を配置し、さらに、電動モータの下側に差動機構を重ねて配置したため、一対のドライブシャフトの間に取り付けられる差動機構の位置を車幅方向中央部に設定することにより(つまり一対のドライブシャフトの長さを略等しく設定することにより)、上記電動モータ、伝達機構、および差動機構を、全て車幅方向中央部でかつドライブシャフトと略同じ前後位置に配設することができる。
【0009】
このため、上記電動モータ、伝達機構、および差動機構からなる比較的重量の大きい部品群が左右のいずれかに片寄って配置されることがなく、車両の左右の重量バランスを良好に維持できるとともに、一対のドライブシャフトと略同じ前後位置に上記部品群を配置することにより、ヨー慣性モーメントを低減でき、車両の旋回性能が悪化するのを効果的に防止することができる。
【0010】
本発明のモータ搭載構造は、好ましくは、車両の左右両側部において前後方向に延びる一対のサイドフレームと、上記一対のサイドフレームと上記電動モータとを連結する連結部材とをさらに備える(請求項2)。
【0011】
この構成によれば、電動モータの取付剛性が向上し、電動モータをより安定的に車両に搭載することができる。また、電動モータの駆動時の振動が、連結部材やサイドフレームを介して車体の各部に分散して伝達され、その過程で振動エネルギーが吸収されるため、電動モータの振動が車室まで伝達されるのを効果的に防止でき、乗り心地の向上を図ることができる。
【0012】
上記電動モータが、車両の前部に配設される場合、上記サイドフレームとしては、上記ダッシュパネルよりも前方に延びるように配設された一対のフロントサイドフレームが好適である。この場合、車両の前部に、車室の前壁を構成するダッシュパネルと、上記ダッシュパネルに沿って車幅方向に延びるように配設されたダッシュクロスメンバと、フロントサスペンション用の部品として車幅方向に延びるように配設されたフロントサスクロスメンバとが設けられ、上記電動モータが、上記フロントサイドフレーム、ダッシュクロスメンバ、およびフロントサスクロスメンバにそれぞれ連結されることが好ましい(請求項3)。
【0013】
この構成によれば、電動モータの取付剛性をより一層向上させることができるとともに、電動モータから車室に伝わる振動をより一層低減することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、上記差動機構の後方でかつ上記電動モータよりも低い位置に、ステアリング装置のタイロッドが車幅方向に延びるように配設されている(請求項4)。
【0015】
この構成によれば、仮に電動車両の要求仕様等に応じて電動モータを大型化する必要が生じた場合でも、タイロッドの位置を変更することなく、電動モータとステアリング装置との干渉を確実に防止することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、上記電動モータとは別に、これと横並びに配置された付加電動モータが車両に搭載され、上記伝達機構は、上記2つの電動モータの各出力軸と連結される一対の入力部と、当該一対の入力部と上記差動機構の入力軸とを連動連結する出力部とを有している(請求項5)。
【0017】
この構成によれば、2つの電動モータのいずれかもしくは両方を選択的に作動させ、その駆動力を入出力部を介して差動機構に伝達することにより、車両の走行状態等に応じて出力特性を多様に変化させることができる。この場合、2つの電動モータが存在することで、電動モータを含む部品群の重量はより増大することになるが、車幅方向中央部でかつドライブシャフトと略同じ前後位置に上記電動モータ等が配置されているため、車両の走行性能に及ぼす影響を最小限に抑えることができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、上記電動モータの出力軸が上記伝達機構だけでなく車両用の補機にも連結されている(請求項6)。
【0019】
この構成によれば、電動モータの駆動力を利用して車両用の補機をも駆動することができるので、補機専用のモータを別個に設ける必要がなく、部品コストの削減等を図ることができる。
【0020】
上記電動モータが車両の後部に配設されている場合には、上記電動モータよりも低い位置に、リヤサスペンション用のトーションビームが車幅方向に延びるように配設されていることが好ましい(請求項7)。
【0021】
この構成によれば、車両の走行に伴ってトーションビームが上下動しても、このトーションビームが電動モータと干渉するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明の電動車両のモータ搭載構造によれば、走行性能を考慮した適正な位置に電動モータを搭載することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるモータ搭載構造が適用された電動車両の平面図である。
【図2】上記電動車両の側面図である。
【図3】上記電動車両の前部を拡大して示す側面断面図である。
【図4】上記電動車両に搭載される電動モータ、伝達機構、および差動機構を示す斜視図である。
【図5】上記電動モータ、伝達機構、および差動機構の分解斜視図である。
【図6】上記伝達機構の内部構造を示す断面図である。
【図7】上記電動モータ、伝達機構、および差動機構の車体への取付構造を説明するための分解斜視図である。
【図8】本発明の第2実施形態を説明するための図である。
【図9】本発明の第3実施形態を説明するための図である。
【図10】本発明の第4実施形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<実施形態1>
図1および図2は、本発明の第1実施形態にかかる電動車両のモータ搭載構造を示す図である。これらの図に示すように、当実施形態の電動車両Cは、外部(例えば家庭用電源)から供給された電力をバッテリ7に充電し、このバッテリ7の電力により電動モータ1を作動させて駆動輪を駆動する電池式電気自動車である。なお、図1および図2では、電動モータ1を車室CRよりも前方に搭載し、この電動モータ1により前輪F,Fを駆動する例を例示している。
【0025】
上記電動車両Cは、上記電動モータ1およびバッテリ7以外に、電動モータ1の下面に取り付けられた差動機構3と、電動モータ1と差動機構3とを連動連結する伝達機構2と、差動機構3と左右の前輪Fとを互いに連結する一対のドライブシャフト4とを備えている。
【0026】
上記電動モータ1とバッテリ7とは、図外の電力供給回路を介して電気的に接続されており、電動モータ1は、バッテリ7から供給される電力により駆動される。そして、電動モータ1の駆動力が、伝達機構2、差動機構3、およびドライブシャフト4を介して左右の前輪Fに伝達されることにより、各前輪Fが回転して電動車両Cが駆動されるようになっている。
【0027】
上記電動モータ1の近傍には、上記電力供給回路の一部として、電力を交流から直流、または直流から交流に変換するインバータ5(図2)が設けられている。すなわち、バッテリ7の充電電力を電動モータ1に供給する際には、バッテリ7からの直流電力がインバータ5で交流電力に変換されてから電動モータ1に供給される一方、電動モータ1で発電された回生電力をバッテリ7に充電する際には、電動モータ1からの交流電力がインバータ5で直流電力に変換されてからバッテリ7に供給される。
【0028】
なお、詳しい図示は省略するが、インバータ5は、後述する一対のフロントサイドフレーム14どうしを連結する部材67(図3)の上に固定されている。
【0029】
上記バッテリ7は、車体のフロアパネルに沿って設けられたバッテリ支持フレーム11に搭載されている。バッテリ支持フレーム11は、車両の前後方向の延びる前側フレーム11aと、前側フレーム11aの後端部と連続し、車幅方向に延びる後側フレーム11bとを有している。より具体的に、前側フレーム11aは、フロアパネルの車幅方向中央部を上方に隆起させたフロアトンネル71(図2)と対向するように設けられ、後側フレーム11bは、車室後部のフロアキックアップ部72(後述する後席シート75の支持部)と対向するように設けられている。そして、前側フレーム11aとフロアトンネル71との間の空間、および、後側フレーム11bとフロアキックアップ部72との間の空間をそれぞれ埋めるように、バッテリ7が並べて配置されている。
【0030】
このように、電動車両Cは、電動モータ1を駆動源とする点や、電動モータ1用の電力を充電するバッテリ7が車体の各所に設けられるという点で、内燃機関を動力源とする従来の自動車と異なるが、車体の基本的なフレーム構造は、従来の自動車と同様である。
【0031】
すなわち、電動車両Cは、車室CRの前壁を構成するダッシュパネル13と、ダッシュパネル13よりも前方のスペース(モータルーム)内に設けられ、その左右両側部において車両の前後方向に延びるように配設された一対のフロントサイドフレーム14(本発明にかかるサイドフレームに相当)と、各フロントサイドフレーム14の前端部どうしを連結するように車幅方向に延びるバンパーレインフォースメント15と、各フロントサイドフレーム14の後端部と連続し、フロアパネルの底面に沿って前後方向に延びるように配設された一対のフロアフレーム16と、各フロントサイドフレーム14の後端部と連続し、フロアパネルの左右両端部に沿って前後方向に延びるように配設された一対のサイドシル17と、各サイドシル11の後端部と連続し、車体後部の左右両側部において前後方向に延びるように配設された一対のリヤサイドフレーム18とを備えている。また、上記ダッシュパネル13の前面(車室CRと反対側の面)には、車幅方向に延びる断面ハット状のダッシュクロスメンバ19(図3)が取り付けられている。なお、図1では、フロアパネル(71,72)およびダッシュパネル13を省略して図示している。
【0032】
上記フロアパネル上には運転席シート74および後席シート75が前後に並べて配設されており、運転席シート74の前方には、ステアリング装置30が設けられている。
【0033】
上記ステアリング装置30は、ステアリングハンドル31、ステアリングシャフト32、およびタイロッド33を有している。ステアリングシャフト32とタイロッド33とは図外のステアリングジョイント等を介して連結されており、ステアリングシャフト32の回転運動がタイロッド33の車幅方向の変位に変換され、これに応じて左右の前輪Fの角度が調整されるようになっている。
【0034】
上記タイロッド33は、上記差動機構3の後方で、かつ電動モータ1よりも低い位置に配設されている。
【0035】
上記電動車両Cの前部および後部には、前輪F用のフロントサスペンション20と、後輪R用のリヤサスペンション25が設けられている。
【0036】
上記フロントサスペンション20は、いわゆるストラット式のサスペンション装置であり、左右の前輪Fに一端部が連結される一対のコントロールアーム(ロアコントロールアーム)21と、車幅方向に延びるように配設され、両端部が一対のフロントサイドフレーム14の下面に連結されたフロントサスクロスメンバ22とを有しており、上記各コントロールアーム21の他端部がフロントサスクロスメンバ22にそれぞれ連結されている。
【0037】
リヤサスペンション25は、いわゆるトーションビーム式のサスペンション装置であり、左右の後輪Rに一端部が連結される一対のトレーリングアーム26と、車幅方向に延びて各トレーリングアーム26どうしを連結するトーションビーム27とを有している。
【0038】
次に、図3〜図7を用いて、上記電動モータ1、伝達機構2、および差動機構3の具体的構成について説明する。
【0039】
上記電動モータ1は、例えば3相の交流同期モータ等からなり、内部の電機子コイル等を覆うケーシング41と、ケーシング41から車両前方に突出する出力軸42とを有している。ケーシング41は、その下端部の左右両側辺部に沿って突設されたフランジ部43を有するとともに、複数の取付片44a,44b,44cを各所に有している。各取付片44a,44b,44cおよびフランジ部43には、ボルトを取り付けるための1つまたは複数の締結孔がそれぞれ設けられている。
【0040】
上記伝達機構2は、特に図6に示すように、ケーシング46と、その内部に配設された入力ギア47および出力ギア48と、各ギアの軸部47a,48aを回転可能に支持する複数の軸受49を有している。
【0041】
上記入力ギア47および出力ギア48は、外径の異なる平歯車からなり、互いに噛み合った状態で対向配置されている。上記入力ギア47の軸部47aには、上記電動モータ1の出力軸42と嵌合可能な嵌合孔50が設けられている。また、上記出力ギア48の軸部48aの先端には、この軸部48aをケーシング46の外側まで延長するように延びる出力軸51が設けられている。
【0042】
そして、上記電動モータ1の出力軸42の駆動力が上記嵌合孔50を介して入力ギア47に入力されると、その入力された駆動力は、入力ギア47と出力ギア48のギア比に応じた減速比で減速された上で、出力ギア48の出力軸51へと伝達される。
【0043】
上記伝達機構2のケーシング46は、複数の取付片53a,53bを有しており、各取付片53a,53bには、ボルトを取り付けるための締結孔が設けられている。また、上記ケーシング46の下部には、2つの締結孔53cが設けられている。
【0044】
上記差動機構3は、リングギアやサイドギア等からなるギア機構54と、これを覆うケーシング55とを有している。ギア機構54の入力側には、図6に示すように、上記伝達機構2の出力軸51が嵌合する嵌合孔57が設けられており、上記出力軸51の駆動力が嵌合孔57を介して上記ギア機構54に入力されるようになっている。そして、出力軸51からギア機構54に入力された駆動力は、所定の伝達経路を経て左右のドライブシャフト4に分配される。
【0045】
上記差動機構3のケーシング55は、その上端部の左右両側辺部に沿って突設されたフランジ部58と、複数の取付片59a,59bとを有している。各取付片59a,59bには、ボルトを取り付けるための締結孔がそれぞれ設けられている。また、上記ケーシング55の下部には、2つの締結孔59c(図5)が設けられている。
【0046】
以上のような電動モータ1、伝達機構2、および差動機構3は、互いに固定されて一体化される。具体的には、特に図5に示すように、電動モータ1の取付片44aと伝達機構2の取付片53aとが面合わせされた状態で各取付片の締結孔に共通のボルトが取り付けられるとともに、電動モータ1のフランジ部43と差動機構3のフランジ部58とが面合わせされた状態で各フランジ部の締結孔に共通のボルトが取り付けられ、さらに、伝達機構2の締結孔53cと差動機構3の締結孔59cとに共通のボルトが取り付けられることにより、電動モータ1、伝達機構2、および差動機構3が互いに固定される。
【0047】
またこのとき、電動モータ1の出力軸42が伝達機構2の嵌合孔50に嵌合されるとともに、伝達機構2の出力軸51が差動機構3の嵌合孔57に嵌合される(図6)。これにより、バッテリ7から電力の供給を受けて電動モータ1が作動し、電動モータ1の出力軸42が回転したときに、この出力軸42の駆動力が、伝達機構2内のギア47,48、および差動機構3内のギア機構54を介して左右のドライブシャフト4および前輪Fに伝達され、電動車両Cが駆動されるようになっている。
【0048】
上記電動モータ1は、図3および図6等に示すように、その出力軸42が車両の前後方向に一致するような姿勢(より具体的には出力軸42の先端が車両の前方を向く姿勢)で取り付けられる。また、伝達機構2は、上記電動モータ1の出力軸42と連結可能なように、電動モータ1の前側に配置され、差動機構3は、上記伝達機構2の出力軸51と連結可能なように、伝達機構2の後側でかつ電動モータ1の下側に配置される。
【0049】
上記のように電動モータ1、伝達機構2、および差動機構3が固定されることにより、電動モータ1は、差動機構3の真上、つまり差動機構3の上側でこれと平面視で重なる位置に配置されるとともに、伝達機構2は、電動モータ1および差動機構3の前側に配置されることになる。
【0050】
以上のようにして一体化された電動モータ1、伝達機構2、および差動機構3は、後述する連結部材61,65を介して車体に取り付けられる。なお、以下では、これら一体化された電動モータ1、伝達機構2、および差動機構3を指す場合に、まとめてモータユニットUという場合がある。
【0051】
上記モータユニットUは、図1に示すように、車幅方向の中央部に配置される。すなわち、左右のドライブシャフト4の長さが略等しく設定されることにより、左右のドライブシャフト4の間にある差動機構3が、車幅方向中央部に配置される。また、その結果として、差動機構3の真上に取り付けられる電動モータ1や、電動モータ1および差動機構3の前側に取り付けられる伝達機構2も、車幅方向の中央部に配置されることになる。
【0052】
図1、図3、図7を用いて、上記モータユニットUの車体への取付構造について詳しく説明する。モータユニットUは、第1連結部材61(本発明にかかる連結部材に相当)を介して左右のフロントサイドフレーム14に連結されるとともに、第2連結部材65を介してダッシュクロスメンバ19およびフロントサスクロスメンバ22に連結される。
【0053】
上記第1連結部材61は、車幅方向に延びる本体部62と、本体部62の車幅方向外端部に一体に取り付けられたフランジ部63とを有している。このような第1連結部材61は、上記モータユニットUの前部の左右両側に1つずつ用意され、モータユニットUと左右一対のフロントサイドフレーム14とをそれぞれ連結するように取り付けられる。
【0054】
具体的に、各連結部材61の本体部62には、電動モータ1の取付片44b、伝達機構2の取付片53b、および差動機構3の取付片59aにそれぞれ対応する3つの締結孔62aが設けられている。また、第1連結部材61のフランジ部63には、フロントサイドフレーム14の取付部(同フレーム14の上面に設けられた図外の締結孔)に対応する締結孔63aが設けられている。
【0055】
そして、上記本体部62の締結孔62aと、上記取付片44b,53b,59aの各締結孔とに共通のボルトが取り付けられることにより、上記本体部62がモータユニットUの前部に固定されるとともに、上記フランジ部63の締結孔63aとフロントサイドフレーム14とに共通のボルトが取り付けられることにより、上記フランジ部63がフロントサイドフレーム14に固定される。このように、第1連結部材61の一端部(本体部62)がモータユニットUに固定され、かつ他端部(フランジ部63)がフロントサイドフレーム14に固定されることにより、モータユニットUが第1連結部材61を介してフロントサイドフレーム14に連結される。
【0056】
上記第2連結部材65は、側面視で逆L字状のプレート材からなり、その各部に4つの締結孔65a,65b,65c,65dを有している。このような第2連結部材65は、上記モータユニットUの後部の左右両側に1つずつ用意され、モータユニットUとダッシュクロスメンバ19、およびモータユニットUとフロントサスクロスメンバ22とをそれぞれ連結するように取り付けられる。
【0057】
すなわち、上記各連結部材65の締結孔65aは、電動モータ1の取付片44cに対応し、締結孔65bは、差動機構3の取付片59bに対応している。また、締結孔65cは、ダッシュクロスメンバ19に取り付けられた取付片19a(図3)に対応し、締結孔65dは、フロントサスクロスメンバ22に取り付けられた取付片22aに対応している。
【0058】
そして、上記締結孔65aと上記取付片44cの締結孔とに共通のボルトが取り付けられるとともに、上記締結孔65bと上記取付片59bの締結孔とに共通のボルトが取り付けられることにより、第2連結部材65がモータユニットUの後部に固定される。また、上記締結孔65cと上記取付片19aの締結孔とに共通のボルトが取り付けられることにより、第2連結部材65がダッシュクロスメンバ19に固定される。さらに、上記締結孔65dと上記取付片22aの締結孔とに共通のボルトが取り付けられることにより、第2連結部材65がフロントサスクロスメンバ22に固定される。このように、第2連結部材65の各部がモータユニットU、ダッシュクロスメンバ19、フロントサスクロスメンバ22にそれぞれ固定されることにより、モータユニットUが第2連結部材61を介してダッシュクロスメンバ19およびフロントサスクロスメンバ22に連結される。
【0059】
以上説明したように、当実施形態(第1実施形態)の電動車両Cは、電力の供給を受けて作動する電動モータ1と、電動モータ1の駆動力を伝達する伝達機構2と、電動モータ1から伝達機構2を介して入力される駆動力を左右の前輪Fに伝達する差動機構3と、差動機構3と左右の前輪Fとを連結する一対のドライブシャフト4とを備える。そして、上記差動機構3が車幅方向中央部に位置するように一対のドライブシャフト4の長さが設定されるとともに、上記差動機構2の上側でかつこれと平面視で重なる位置に、出力軸42が車両の前方を向く姿勢で上記電動モータ1が配設され、かつ、上記出力軸42の駆動力を差動機構2に伝達可能なように当該電動モータ1および差動機構2の前側に上記伝達機構2が配設されている。このような構成によれば、車両の走行性能を考慮した適正な位置に電動モータ1を搭載できるという利点がある。
【0060】
すなわち、上記第1実施形態では、出力軸42が車両前方を向く縦置きの姿勢で電動モータ1を配置するとともに、その出力軸42の駆動力が伝達機構2および差動機構3に伝達されるように、電動モータ1の前側に伝達機構2を配置し、さらに、電動モータ1の下側に差動機構3を重ねて配置したため、一対のドライブシャフト4の間に取り付けられる差動機構3の位置を車幅方向中央部に設定することにより(つまり一対のドライブシャフト4の長さを略等しく設定することにより)、上記電動モータ1、伝達機構2、および差動機構3を、全て車幅方向中央部でかつドライブシャフト4と略同じ前後位置に配設することができる。
【0061】
このため、上記電動モータ1、伝達機構2、および差動機構3からなる比較的重量の大きい部品群(モータユニットU)が左右のいずれかに片寄って配置されることがなく、車両の左右の重量バランスを良好に維持できるとともに、一対のドライブシャフト4と略同じ前後位置に上記部品群(モータユニットU)を配置することにより、ヨー慣性モーメントを低減でき、車両の旋回性能が悪化するのを効果的に防止することができる。
【0062】
また、一対のドライブシャフト4の間の差動機構2の上側に電動モータ1が配置されるため、電動モータ1の設置高さが比較的高くなり、車両の水没時に電動モータ1がショートする危険性を効果的に低減することができる。
【0063】
また、上記第1実施形態では、電動モータ1と、その左右に存在する一対のフロントサイドフレーム14とが、第1連結部材61を介して互いに連結されているため、電動モータ1の取付剛性が向上し、電動モータ1をより安定的に車両に搭載することができる。また、電動モータ1の駆動時の振動が、第1連結部材61やフロントサイドフレーム14を介して車体の各部に分散して伝達され、その過程で振動エネルギーが吸収されるため、電動モータ1の振動が車室CRまで伝達されるのを効果的に防止でき、乗り心地の向上を図ることができる。
【0064】
さらに、上記第1実施形態では、電動モータ1が、第2連結部材65を介してダッシュクロスメンバ19およびフロントサスクロスメンバ22にも連結されているため、電動モータ1の取付剛性をより一層向上させることができるとともに、電動モータ1から車室CRに伝わる振動をより一層低減することができる。
【0065】
また、上記第1実施形態では、差動機構3の後方でかつ上記電動モータ1よりも低い位置にステアリング装置30のタイロッド33が配設されているため、仮に電動車両Cの要求仕様等に応じて電動モータ1を大型化する必要が生じ、電動モータ1の後端部がよりダッシュパネル13に近接するような配置関係になったとしても、タイロッド33の位置を変更することなく、電動モータ1とステアリング装置30との干渉を確実に防止することができる。
【0066】
なお、上記第1実施形態では、電動モータ1を、その出力軸42が車両の前方を向くような姿勢で配置するとともに、この電動モータ1の前側に伝達機構2を配置したが、電動モータ1の出力軸42の向きは、車両の前後方向と一致する向きであればよく、必ずしも前向きでなくてもよい。例えば、上記第1実施形態と異なり、電動モータ1の出力軸42の向きを後向きに設定し、電動モータ1の後側に伝達機構2を配置してもよい。このことは、後述する他の実施形態でも同様である。
【0067】
<実施形態2>
図8は、本発明の第2実施形態を説明するための図である。本図に示すように、当実施形態におけるモータユニットUは、電動モータ1と、これと横並びに配置された付加電動モータ1’と、これら2つの電動モータ1,1’の少なくとも一方の駆動力を伝達可能な伝達機構2と、電動モータ1または1’から伝達機構2を介して入力される駆動力を左右のドライブシャフト4に伝達する差動機構3とから構成される。
【0068】
上記伝達機構2は、上記2つの電動モータ1,1’の各出力軸(図示省略)と連結される一対の入力ギア47A,47B(本発明にかかる一対の入力部に相当)と、各入力ギア47A,47Bと噛み合い状態で配置される出力ギア48(本発明にかかる出力部に相当)とを有している。上記電動モータ1と入力ギア47Aとの連結部、および、付加電動モータ1’と入力ギア47Bとの連結部には、それぞれ図外のクラッチが設けられており、当該クラッチのON/OFFに応じて、各電動モータ1,1’と入力ギア47A,47Bとの間が断続されるようになっている。
【0069】
車両の走行時には、上記クラッチの少なくとも一方がON状態とされることで、電動モータ1,1’の少なくとも一方の駆動力が入力ギア47Aまたは47Bに入力され、この入力された駆動力が出力ギア48を介して差動機構3に伝達されることになる。
【0070】
以上のような第2実施形態の構成によれば、車両の走行状態等に応じて、出力特性を多様に変化させることができる。
【0071】
例えば、電動モータ1および付加電動モータ1’を同一容量のモータで構成しながら、入力ギア47A,47Bの歯数を異ならせることにより、電動モータ1の作動時と付加電動モータ1’の作動時とで、減速比を変化させることが可能である。すなわち、入力ギア47A、出力ギア48を経由する伝達経路の減速比と、入力ギア47B、出力ギア48を経由する伝達経路の減速比とが異なることで、電動モータ1を作動させたときに得られる出力トルクと、付加電動モータ1’を作動させたときに得られる出力トルクとが異なるため、要求される出力トルクに応じて選択的に各電動モータ1,1’を作動させることにより、走行状態に応じた適正な出力トルクを得ることができる。なお、電動モータ1,1’の一方が作動している間、停止しているもう一方の電動モータについては、入力ギア(47Aまたは47B)との間のクラッチがOFFにされ、モータとギアとの連結が遮断される。
【0072】
もちろん、上記と同様のことは、入力ギア47A,47Bの歯数を同一としながら、電動モータ1および付加電動モータ1’の容量を異ならせることによっても、実現可能である。
【0073】
また、通常時は電動モータ1のみを作動させておき、特に高い出力が要求されるときにのみ、電動モータ1に加えて付加電動モータ1’を作動させるようにしてもよい。
【0074】
いずれにせよ、上記のように電動モータ1と付加電動モータ1’という2つのモータを車両に搭載することで、より幅広い出力特性を得ることが可能になる。この場合、2つのモータが存在することで、モータユニットUの重量はより増大することになるが、車幅方向中央部でかつドライブシャフト4と略同じ前後位置にモータユニットUが配置されているため、車両の走行性能に及ぼす影響を最小限に抑えることができる。
【0075】
<実施形態3>
図9は、本発明の第3実施形態を説明するための図である。この第3実施形態では、電動モータ1の出力軸42の駆動力が、伝達機構2だけでなく、車両用の補機にも伝達されるようになっている。なお、車両用の補機としては、例えばエアコン用のコンプレッサや、冷却水用のポンプ等を挙げることができる。
【0076】
具体機に、当実施形態では、電動モータ1の出力軸42が、伝達機構2を突き抜けて外部に突出するように設けられ、その先端にギア80が取り付けられている。そして、このギア80と噛み合うギア81に止着された軸を介して、車両用の補機に駆動力が伝達されるようになっている。なお、伝達機構2の入力ギア(図6の符号47に相当)は、上記出力軸42の途中部に止着されている。
【0077】
以上のような第3実施形態の構成によれば、電動モータ1の駆動力を利用して車両用の補機をも駆動することができるので、補機専用のモータを別個に設ける必要がなく、部品コストの削減等を図ることができる。
【0078】
<実施形態4>
上記第1実施形態では、電動モータ1、伝達機構2、および差動機構3からなるモータユニットUを車両の前部に搭載し、電動モータ1の駆動力によって左右の前輪Fを駆動するようにしたが、例えばモータユニットUを車両の後部に搭載して後輪Rを駆動してもよい。その場合の具体例を、第4実施形態として図10に示す。
【0079】
図10に示す第4実施形態では、後輪R用の左右一対のドライブシャフト(図示省略)の間に差動機構3が配置されるとともに、この差動機構3の上側に重ねて電動モータ1が配置され、さらに、これら電動モータ1および差動機構3の後側に伝達機構2が配置されることでモータユニットUが構成されており、このモータユニットUの位置は、車幅方向中央部に設定されている。
【0080】
上記モータユニットU(電動モータ1)は、その取付剛性を充分に確保するために、上記第1実施形態で示した第1連結部材61と同様の連結部材を介して、左右一対のリヤサイドフレーム18と連結されている。この場合、リヤサイドフレーム18が、本発明にかかる「サイドフレーム」に相当する。
【0081】
また、モータユニットUが上記のような位置に配置されていることで、リヤサスペンション25用のトーションビーム27の高さは、電動モータ1の高さよりも低くなっている。これにより、車両の走行に伴ってトーションビーム27が上下動しても、このトーションビーム27が電動モータ1と干渉するのを防止することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 電動モータ
1’ 付加電動モータ
2 伝達機構
3 差動機構
4 ドライブシャフト
13 ダッシュパネル
14 フロントサイドフレーム(サイドフレーム)
18 リヤサイドフレーム(サイドフレーム)
19 ダッシュクロスメンバ
20 フロントサスペンション
22 フロントサスクロスメンバ
25 リヤサスペンション
27 トーションビーム
30 ステアリング装置
33 タイロッド
42 (電動モータの)出力軸
47A,47B 入力ギア(一対の入力部)
48 出力ギア(出力部)
C 電動車両
F 前輪(車輪)
R 後輪(車輪)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の駆動源として車両に搭載され、電力の供給を受けて作動する電動モータと、当該電動モータの駆動力を伝達する伝達機構と、上記電動モータから上記伝達機構を介して入力される駆動力を左右の車輪に伝達する差動機構と、当該差動機構と上記左右の車輪とを連結する一対のドライブシャフトとを備えた電動車両のモータ搭載構造であって、
上記差動機構が車幅方向中央部に位置するように上記一対のドライブシャフトの長さが設定され、
上記電動モータは、上記差動機構の上側に当該差動機構と平面視で重なるように配設されるとともに、車両の前後方向に延びる出力軸を有し、
上記伝達機構は、上記電動モータの出力軸の駆動力を上記差動機構に伝達可能なように当該電動モータおよび差動機構の前側または後側に配設されていることを特徴とする電動車両のモータ搭載構造。
【請求項2】
請求項1記載の電動車両のモータ搭載構造において、
車両の左右両側部において前後方向に延びる一対のサイドフレームと、
上記一対のサイドフレームと上記電動モータとを連結する連結部材とをさらに備えたことを特徴とする電動車両のモータ搭載構造。
【請求項3】
請求項2記載の電動車両のモータ搭載構造において、
車室の前壁を構成するダッシュパネルと、
上記ダッシュパネルに沿って車幅方向に延びるように配設されたダッシュクロスメンバと、
フロントサスペンション用の部品として車幅方向に延びるように配設されたフロントサスクロスメンバとをさらに備え、
上記サイドフレームは、上記ダッシュパネルよりも前方に延びるように配設された一対のフロントサイドフレームであり、
上記電動モータは、車両の前部に配設されるとともに、上記フロントサイドフレーム、ダッシュクロスメンバ、およびフロントサスクロスメンバにそれぞれ連結されていることを特徴とする電動車両のモータ搭載構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電動車両のモータ搭載構造において、
上記差動機構の後方でかつ上記電動モータよりも低い位置に、ステアリング装置のタイロッドが車幅方向に延びるように配設されていることを特徴とする電動車両のモータ搭載構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電動車両のモータ搭載構造において、
上記電動モータとは別に、これと横並びに配置された付加電動モータをさらに備え、
上記伝達機構は、上記2つの電動モータの各出力軸と連結される一対の入力部と、当該一対の入力部と上記差動機構の入力軸とを連動連結する出力部とを有していることを特徴とする電動車両のモータ搭載構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電動車両のモータ搭載構造において、
上記電動モータの出力軸が上記伝達機構だけでなく車両用の補機にも連結されていることを特徴とする電動車両のモータ搭載構造。
【請求項7】
請求項1または2記載の電動車両のモータ搭載構造において、
上記電動モータが車両の後部に配設されており、
上記電動モータよりも低い位置に、リヤサスペンション用のトーションビームが車幅方向に延びるように配設されていることを特徴とする電動車両のモータ搭載構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−86630(P2012−86630A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233642(P2010−233642)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】