説明

電動車両

【課題】リップル電流の発生が低減された電動車両を提供する。
【解決手段】電動車両100は、蓄電装置10と、蓄電装置10の電力を用いるインバータ20と、インバータ20によって駆動されるモータジェネレータ30と、インバータ20を制御する制御装置50とを備える。制御装置50は、蓄電装置10の温度と蓄電装置10の充電状態SOCとに基づいて、モータジェネレータ30の上限トルクを設定する。好ましくは、制御装置50は、充電状態SOCが高いほど、トルクと回転数で表される平面上において使用禁止とする領域を拡大することによって、上限トルクが大きくなる動作領域を狭くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動車両に関し、特に電池によって駆動されるモータを含む電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平7−231651(特許文献1)には、負荷の電流脈動に対してバッテリーの電流放出を抑えると共に、バッテリー出力に重畳されるリップルを低減し、バッテリーの放電可能容量を増大することができる電気自動車用電源装置が開示されている。
【0003】
この電気自動車用電源装置は、バッテリーの出力電流をオンオフするスイッチング素子と、このスイッチング素子による断続電流を平滑するインダクタンスコイルと、スイッチング素子に並列接続するフリーホイールダイオードとを含むチョッパ回路と、このチョッパ回路の入力側とバッテリーとの間に設けたインダクタンスコイルとを含む。
【0004】
そして、チョッパ回路の作動に伴ってバッテリー出力に重畳されるリップルが、インダクタンスコイルによって低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−231651号公報
【特許文献2】特開2008−259309号公報
【特許文献3】特開平10−164884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特開平10−164884号公報に記載された電気自動車用電源装置は、電池出力部分に重畳するリップル電流を低減するためのフィルタ回路としてインダクタンスコイルを設けている。
【0007】
しかしながら、フィルタ回路によってリップル電流を低減させると、フィルタ回路の発熱のために流せる電流が制限されたり、車両重量がフィルタ回路分増加するため車両の動力性能に制限が加わったりするおそれがある。
【0008】
この発明の目的は、リップル電流の発生が低減された電動車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、要約すると、電動車両であって、電池と、電池の電力を用いるインバータと、インバータによって駆動されるモータと、インバータを制御する制御装置とを備える。制御装置は、電池の温度と電池の充電状態とに基づいて、モータの上限トルクを設定する。
【0010】
好ましくは、制御装置は、充電状態が高いほど、トルクと回転数で表される平面上において使用禁止とする領域を拡大することによって、上限トルクが大きくなる動作領域を狭くする。
【0011】
好ましくは、制御装置は、電池の温度が高いほど、トルクと回転数で表される平面上において使用禁止とする領域を拡大することによって、上限トルクが大きくなる動作領域を狭くする。
【0012】
より好ましくは、制御装置は、平面上において、第1の領域では第1のキャリア周波数でインバータを制御し、第2の領域では第1のキャリア周波数よりも低い第2のキャリア周波数でインバータを制御する。制御装置は、第2の領域のうちの使用禁止とする領域を拡大することによって、動作領域を狭くする。
【0013】
より好ましくは、使用禁止とする領域は、リップル電流が許容値を超える領域である。
より好ましくは、制御装置は、冷却水の温度に応じて第1の領域と第2の領域との境界を変更する。
【0014】
さらに好ましくは、制御装置は、冷却水の温度が低いほど第1の領域を拡大する。
好ましくは、制御装置は、電池の劣化度合いが進むほど、トルクと回転数で表される平面上において、上限トルクが大きくなる動作領域を広くする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リップル電流の発生が抑制された電動車両が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電動車両の全体ブロック図である。
【図2】リップル電流と電池内部抵抗Rとの関係を説明するための図である。
【図3】車両状態Aにおける出力トルク上限ラインを説明するための図である。
【図4】車両状態Bにおける出力トルク上限ラインを説明するための図である。
【図5】実施の形態1で制御装置50が実行する制御を説明するためのフローチャートである。
【図6】図5のステップS3で選択されるマップの一例を示した図である。
【図7】実施の形態2で制御装置50が実行する制御を説明するためのフローチャートである。
【図8】図7のステップS14で選択されるマップの一例を示した図である。
【図9】実施の形態3で制御装置50が実行する制御を説明するためのフローチャートである。
【図10】図9のステップS25で選択されるマップの一例を示した図である。
【図11】電池劣化情報Zを考慮した場合の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一の符号を付してその説明は繰返さない。
【0018】
[実施の形態に共通する電動車両の構成]
図1は、電動車両の全体ブロック図である。
【0019】
図1を参照して、電動車両100は、蓄電装置10と、エアコン22と、DC/DCコンバータ24と、インバータ20と、モータジェネレータ30と、駆動輪35と、冷却装置26とを備える。電動車両100は、さらに、電圧センサ42と、電流センサ44と、温度センサ46と、車輪速センサ37と、制御装置50とを備える。
【0020】
蓄電装置10は、車両を走行させるための電力を蓄える直流電源である。蓄電装置10は、互いに並列接続されたリチウムイオン電池10A、10Bを含む。リチウムイオン電池10A、10Bは、直列に接続されていても良い。なお、リチウムイオン電池の代わりに、たとえば、ニッケル水素電池などの二次電池を使用してもよい。蓄電装置10は、図示されない充電器を用いて車両外部の電源によって充電される。また、電動車両100の制動時や下り斜面での加速度低減時にも、モータジェネレータ30によって発電される電力がインバータ20を経由して蓄電装置10に充電される。
【0021】
また蓄電装置10は、蓄えられた電力をインバータ20に出力する。インバータ20は、制御装置50からの信号PWIに基づいて、蓄電装置10から供給される直流電力を三相交流に変換してモータジェネレータ30へ出力し、モータジェネレータ30を駆動する。
【0022】
電動車両100の制動時等には、インバータ20は、モータジェネレータ30によって発電される三相交流電力を信号PWIに基づいて直流に変換し、蓄電装置10へ出力する。インバータ20は、たとえば、三相分のスイッチング素子を含む三相PWM(パルス幅変調)インバータによって構成される。
【0023】
モータジェネレータ30は、力行動作および回生動作可能な電動発電機である。モータジェネレータ30は、たとえば、ロータに永久磁石が埋設された三相交流同期電動発電機によって構成される。モータジェネレータ30は、インバータ20によって駆動され、走行用の駆動トルクを発生して駆動輪35を駆動する。また、電動車両100の制動時等には、モータジェネレータ30は、電動車両100の有する運動エネルギを駆動輪35から受けて発電を行なう。
【0024】
エアコン22は、蓄電装置10から電力を受けて車室内を空調する。DC/DCコンバータ24は、蓄電装置10からの電力を受けて図示しない補機類に対して電源電圧を供給する。
【0025】
電圧センサ42は、蓄電装置10の電圧VBを検出し、その検出値を制御装置50へ出力する。電流センサ44は、蓄電装置10に入出力される電流IBを検出し、その検出値を制御装置50へ出力する。温度センサ46は、蓄電装置10の温度TBを検出し、その検出値を制御装置50へ出力する。
【0026】
制御装置50は、モータ回転数センサ31によってモータジェネレータ30の回転数NMを検出することによって移動距離や車速を計算する。なお、制御装置50は、車輪速センサ37を用いて移動距離や車速を計算してもよい。車輪速センサ37は、駆動輪35の回転角に伴い発生するパルスを出力する。このパルスの数を制御装置50が数えて走行距離Lおよび車速を計算することができる。
【0027】
制御装置50は、電圧センサ42、電流センサ44および温度センサ46からそれぞれ電圧VB、電流IBおよび温度TBの検出値を受ける。そして、制御装置50は、インバータ20を駆動するためのインバータスイッチング指令信号を生成し、その指令信号を信号PWIとしてインバータ20へ出力する。
【0028】
また、制御装置50は、電圧VBおよび電流IBの各検出値に基づいて、蓄電装置10のSOC(State Of Charge:充電状態、残存容量、蓄電量とも言う)を算出する。SOCの算出方法としては、蓄電装置10の開回路電圧(OCV)とSOCとの関係を用いて算出または推定する方法や、電流IBの積算値を用いて算出または推定する方法等、種々の公知の手法を用いることができる。
【0029】
電気自動車では、航続距離を稼ぐため、内部抵抗が小さく電池容量の大きいリチウムイオン電池10A,10Bを並列接続し、容量を確保している。そのため、インバータ20から見た蓄電装置10のインピーダンスは、他の電池を使用し電圧を昇圧してインバータに供給するようなハイブリッド自動車等と比べて小さい。インピーダンスが小さいと、インバータのスイッチングによるリップル電流が増大する。
【0030】
電池出力部分に重畳されるリップル成分は、フィルタ回路で低減させるのが一般的であるが、フィルタ回路が発熱し電流制限をする必要が生じたり、フィルタ回路の重量分が車両重量に加わったりすることによって、車両の動力性能に制限が加わる。
【0031】
そこで、本実施の形態ではフィルタ回路を用いずにリップル成分が低減されるように、リップル電流に起因するパラメータの変化に合わせて、駆動トルクの上限値を決める駆動力線を可変とする。駆動力線を可変とすることで、一律に駆動トルクを制限してしまうよりも使用可能な駆動力範囲が拡大する。
【0032】
図2は、リップル電流と電池内部抵抗Rとの関係を説明するための図である。図2に示すように、リップル電流は、電池内部抵抗Rが小さいほど大きくなる傾向がある。そして電池内部抵抗Rは、種々の電池の状態を示すパラメータ(温度、SOCなど)によって変化するため、電池内部抵抗Rが小さい場合には出力トルク上限を下げ、電池内部抵抗Rが大きい場合には出力トルク上限を上げるようにモータ制御を行なう。そうすることにより、ユーザの希望する出力トルクを出力できる機会が増える可能性が高まる。
【0033】
図3は、車両状態Aにおける出力トルク上限ラインを説明するための図である。図3の平面の縦軸にはモータトルク、横軸にはモータ回転数が示されている。モータトルクが大きい領域(トルクY1〜Y2)は、インバータキャリア周波数fc=f1でインバータが制御される。そしてモータトルクが小さい領域(トルク0〜Y1)は、インバータキャリア周波数fc=f2(ただしf2>f1)でインバータが制御される。
【0034】
リップル電流はトルクが大きい(インバータキャリア周波数fc=f1)ときに発生しやすいが、トルクが小さい(インバータキャリア周波数fc=f2)ときには発生しにくい。したがって、モータトルクが小さい領域(トルク0〜Y1)では使用禁止領域は設けられていない。
【0035】
モータトルクが大きい領域(トルクY1〜Y2)には、使用禁止領域が設けられるので、出力トルク上限ラインMAは、図3で示すようにモータ回転数が低い領域ではトルクY2まで出力可能であるが、モータ回転数が高い領域ではトルクY1に上限値が設定される。
【0036】
図4は、車両状態Bにおける出力トルク上限ラインを説明するための図である。車両状態Bは、図3の車両状態Aよりも電池の内部抵抗Rが大きくなっている状態である。
【0037】
図4の平面の縦軸にはモータトルク、横軸にはモータ回転数が示されている。図3と同様に、モータトルクが大きい領域(トルクY1〜Y2)は、インバータキャリア周波数fc=f1でインバータが制御される。そしてモータトルクが小さい領域(トルク0〜Y1)は、インバータキャリア周波数fc=f2(ただしf2>f1)でインバータが制御される。
【0038】
リップル電流はインバータキャリア周波数fcが小さいときに発生しやすく、インバータキャリア周波数fc大きいときには発生しにくい。したがって、モータトルクが小さい領域(トルク0〜Y1)では使用禁止領域は設けられていない。
【0039】
モータトルクが大きい領域(トルクY1〜Y2)には、使用禁止領域が設けられるので、出力トルク上限ラインMBは、図4で示すようにモータ回転数が低い領域ではトルクY2まで出力可能であるが、モータ回転数が高い領域ではトルクY1に上限値が設定される。ただし、図3と比較すると、使用禁止領域が狭くなっている分使用可能領域が増えている。
【0040】
たとえば、モータ回転数N=N1である場合に出力可能なモータトルクは、図3の車両状態Aでは範囲TQ1であったが、図4の車両状態Bでは範囲TQ2に増加する。また、フィルタ回路を挿入した場合では、出力可能範囲は全体的に制限され、範囲TQ2のトルクを出力することは不可能となる。
【0041】
[実施の形態1]
図5は、実施の形態1で制御装置50が実行する制御を説明するためのフローチャートである。図5のフローチャートの処理は、所定のメインルーチンから一定時間ごとまたは所定の条件が成立するごとに呼び出されて実行される。
【0042】
図1、図5を参照して、処理が開始されるとまずステップS1において、制御装置50は温度センサ46から電池温度TBを取得する。続いてステップS2において、制御装置50は、種々の公知の手法を用いて算出または推定されている蓄電装置10のSOCを取得する。
【0043】
そして、ステップS3では制御装置50は、電池温度TBおよびSOCに基づいてリップルによる上限トルクを示すマップを選択する。
【0044】
図6は、図5のステップS3で選択されるマップの一例を示した図である。
図6を参照して、電池温度TB=20℃、…、60℃におけるマップが上から順に示されている。たとえば電池温度TB=20℃のマップには、SOC=20%,40%,60%,80%のトルク上限ラインが示されている。これらはSOCが高くなるほど動作禁止領域が拡大するように設定されている。
【0045】
また、電池温度TB=60℃のマップにも、SOC=20%,40%,60%,80%のトルク上限ラインが示されている。これらもSOCが高くなるほど動作禁止領域が拡大するように設定されている。そして、同じSOCのラインを比較すると、電池温度TB=60℃のほうが電池温度TB=20℃よりも、動作禁止領域が拡大している。
【0046】
このようなマップとしている理由は、電池温度TBが高いほど電池の内部抵抗Rが小さくなるのでリップルが発生しやすいからであり、また。SOCが高いほど電池の内部抵抗Rが小さくなるのでリップルが発生しやすいからである。
【0047】
言い換えると、電池温度TBが小さくまたSOCが低い車両状態では、リップルを考慮したモータトルクの制限を行なわないで済む。
【0048】
再び図5を参照して、ステップS3でマップが選択されたのちには、ステップS4において選択したマップによって使用可能な回転数とトルクの範囲が決定され、ステップS5において処理はメインルーチンに戻される。なお、この決定された範囲はリップルを考慮して制限されたものである。したがって、インバータの性能やモータジェネレータの性能などによる制限がさらにメインルーチンまたはそれから分岐したサブルーチンによって考慮され、これによりトルクがさらに制限される場合もある。
【0049】
実施の形態1によれば、電池温度TBが小さくまたSOCが低い車両状態では、リップルを考慮したモータトルクの制限を行なわないで済むので、ユーザの要求通りの車両挙動を実現できる可能性が高まる。
【0050】
[実施の形態2]
図7は、実施の形態2で制御装置50が実行する制御を説明するためのフローチャートである。図7のフローチャートの処理は、所定のメインルーチンから一定時間ごとまたは所定の条件が成立するごとに呼び出されて実行される。
【0051】
図1、図7を参照して、処理が開始されるとまずステップS11において、制御装置50は温度センサ46から電池温度TBを取得する。続いてステップS12において、制御装置50は、種々の公知の手法を用いて算出または推定されている蓄電装置10のSOCを取得する。
【0052】
さらに、ステップS13において、制御装置50は、冷却装置26から冷却水の温度TWを取得する。冷却装置26は、インバータ20に加えてモータジェネレータ30や充電器等の車載機器の冷却を行なう。
【0053】
そして、ステップS14では制御装置50は、電池温度TBと、SOCと冷却水の温度TWとに基づいてリップルによる上限トルクを示すマップを選択する。
【0054】
図8は、図7のステップS14で選択されるマップの一例を示した図である。
図8で示されるマップには、図4に示した車両状態BのマップMBに対して、キャリア周波数を切換える境界トルクY1がトルクY1Cに上昇し、使用禁止領域が図4よりも狭くなった状態が示されている。
【0055】
電池温度TBおよびSOCによってキャリア周波数fc=f1で制御される部分の使用禁止領域が可変とされる点については、実施の形態1と同様であるので説明は繰返さない。実施の形態2では、実施の形態1でおこなったマップの選択に加えて、インバータのキャリア周波数領域の変化に合わせて、モータ上限トルクを変更する。たとえば、マップMB(TW=T1)に比べてマップMC(TW=T2)は冷却水温TWが低い状態とする。このようにすれば、冷却水温TWが低い状態において使用禁止領域がさらに狭くなる。
【0056】
再び図7を参照して、ステップS14でマップが選択されたのちには、ステップS15において選択したマップによって使用可能な回転数とトルクの範囲が決定され、ステップS16において処理はメインルーチンに戻される。なお、この決定された範囲はリップルを考慮して制限されたものである。したがって、インバータの性能やモータジェネレータの性能などによる制限がさらにメインルーチンまたはそれから分岐したサブルーチンによって考慮され、これによりトルクがさらに制限される場合もある。
【0057】
実施の形態2によれば、実施の形態1で奏する効果に加えて、さらに冷却水温TWが低い車両状態では、リップルを考慮したモータトルクの上限値が大きくなるので、ユーザの要求通りの車両挙動を実現できる可能性が高まる。
【0058】
[実施の形態3]
実施の形態2では、電池温度TB、SOC、冷却水温度TWを考慮した。実施の形態3では、電池の劣化による内部抵抗の増加をさらに考慮する。さきに説明したように電池の内部抵抗Rが増加すればリップルが発生しにくくなるので、トルク制限を行なう必要がなくなる場合もある。
【0059】
図9は、実施の形態3で制御装置50が実行する制御を説明するためのフローチャートである。図9のフローチャートの処理は、所定のメインルーチンから一定時間ごとまたは所定の条件が成立するごとに呼び出されて実行される。
【0060】
図1、図9を参照して、処理が開始されるとまずステップS21において、制御装置50は温度センサ46から電池温度TBを取得する。続いてステップS22において、制御装置50は、種々の公知の手法を用いて算出または推定されている蓄電装置10のSOCを取得する。
【0061】
さらに、ステップS23において、制御装置50は、冷却装置26から冷却水の温度TWを取得する。冷却装置26は、インバータ20に加えてモータジェネレータ30や充電器等の車載機器の冷却を行なう。
【0062】
実施の形態3では、制御装置50はさらにステップS24において電池劣化情報Zを取得する。電池劣化情報Zは、たとえば、蓄電装置10を設置または交換した日付を内部の不揮発メモリなどに記憶しておき、現在の日付と記憶されている日付とを比較することによって電池の使用期間がどれくらいであるかを示すものである。なお、電池の状態(電池温度TBやSOC等)をある測定条件にしたときに内部抵抗を測定して電池劣化情報Zを得てもよい。
【0063】
そして、ステップS25では制御装置50は、電池温度TBとSOCと冷却水の温度TWと電池劣化情報Zとに基づいてリップルによる上限トルクを示すマップを選択する。
【0064】
図10は、図9のステップS25で選択されるマップの一例を示した図である。
図10で示されるマップには、電池温度TB=20,40,60℃、電池使用期間が新品、1年〜10年、冷却水温度TW=T1,T2,T3の各々について、図6に示したようなSOCが変化したときの上限トルクの変化を示すマップがマトリクス的に配置されている。なお、図10で示されるマップでは電池劣化情報Zとして電池使用期間を採用している。
【0065】
図11は、電池劣化情報Zを考慮した場合の効果を説明するための図である。図11には、マップMDは電池劣化情報Zを考慮したことにより、図8で説明したマップMCの使用禁止領域が使用可能となったことが示されている。たとえば、電池が新品であればマップMCであったのが、5年使用した電池であればマップMDに示すように内部抵抗の増加によってリップル発生領域が狭くなった結果使用禁止領域が無くなるようなことが考えられる。
【0066】
再び図9を参照して、ステップS25でマップが選択されたのちには、ステップS26において選択したマップによって使用可能な回転数とトルクの範囲が決定され、ステップS27において処理はメインルーチンに戻される。なお、この決定された範囲はリップルを考慮して制限されたものである。したがって、インバータの性能やモータジェネレータの性能などによる制限がさらにメインルーチンまたはそれから分岐したサブルーチンによって考慮され、これによりトルクがさらに制限される場合もある。
【0067】
実施の形態3によれば、実施の形態1、2で奏する効果に加えて、経年劣化した電池を使用する場合は、さらにリップルを考慮したモータトルクの上限値が大きくなるので、ユーザの要求通りの車両挙動を実現できる可能性が高まる。
【0068】
最後に、図1等を参照して実施の形態1〜3について総括する。電動車両100は、蓄電装置10と、蓄電装置10の電力を用いるインバータ20と、インバータ20によって駆動されるモータジェネレータ30と、インバータ20を制御する制御装置50とを備える。制御装置50は、蓄電装置10の温度と蓄電装置10の充電状態SOCとに基づいて、モータジェネレータ30の上限トルクを設定する。
【0069】
好ましくは、図6に示すように、制御装置50は、充電状態が高いほど、トルクと回転数で表される平面上において使用禁止とする領域を拡大することによって、上限トルクが大きくなる動作領域を狭くする。
【0070】
好ましくは、図6に示すように、制御装置50は、蓄電装置10の温度が高いほど、トルクと回転数で表される平面上において使用禁止とする領域を拡大することによって、上限トルクが大きくなる動作領域を狭くする。
【0071】
より好ましくは、図6に示すように、制御装置50は、平面上において、第1の領域では第1のキャリア周波数でインバータ20を制御し、第2の領域では第1のキャリア周波数よりも低い第2のキャリア周波数でインバータ20を制御する。制御装置50は、第2の領域のうちの使用禁止とする領域を拡大することによって、動作領域を狭くする。
【0072】
より好ましくは、図3、図4、図6、図8の使用禁止とする領域は、リップル電流が許容値を超える領域である。
【0073】
より好ましくは、図8に示すように、制御装置50は、冷却水の温度に応じて第1の領域と第2の領域との境界を変更する。
【0074】
さらに好ましくは、図8に示すように、制御装置50は、冷却水の温度が低いほど第1の領域を拡大する。
【0075】
好ましくは、図10、図11に示すように、制御装置50は、蓄電装置10の劣化度合いが進むほど、トルクと回転数で表される平面上において、上限トルクが大きくなる動作領域を広くする。
【0076】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0077】
10 蓄電装置、10A,10B リチウムイオン電池、20 インバータ、22 エアコン、24 コンバータ、26 冷却装置、30 モータジェネレータ、31 モータ回転数センサ、35 駆動輪、37 車輪速センサ、42 電圧センサ、44 電流センサ、46 温度センサ、50 制御装置、100 電動車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池と、
前記電池の電力を用いるインバータと、
前記インバータによって駆動されるモータと、
前記インバータを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記電池の温度と前記電池の充電状態とに基づいて、前記モータの上限トルクを設定する、電動車両。
【請求項2】
前記制御装置は、前記充電状態が高いほど、トルクと回転数で表される平面上において使用禁止とする領域を拡大することによって、前記上限トルクが大きくなる動作領域を狭くする、請求項1に記載の電動車両。
【請求項3】
前記制御装置は、前記電池の温度が高いほど、トルクと回転数で表される平面上において使用禁止とする領域を拡大することによって、前記上限トルクが大きくなる動作領域を狭くする、請求項1に記載の電動車両。
【請求項4】
前記制御装置は、前記平面上において、第1の領域では第1のキャリア周波数で前記インバータを制御し、第2の領域では前記第1のキャリア周波数よりも低い第2のキャリア周波数で前記インバータを制御し、
前記制御装置は、前記第2の領域のうちの使用禁止とする領域を拡大することによって、前記動作領域を狭くする、請求項2または3に記載の電動車両。
【請求項5】
前記使用禁止とする領域は、リップル電流が許容値を超える領域である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の電動車両。
【請求項6】
前記制御装置は、冷却水の温度に応じて前記第1の領域と前記第2の領域との境界を変更する、請求項4に記載の電動車両。
【請求項7】
前記制御装置は、前記冷却水の温度が低いほど前記第1の領域を拡大する、請求項6に記載の電動車両。
【請求項8】
前記制御装置は、前記電池の劣化度合いが進むほど、トルクと回転数で表される平面上において、前記上限トルクが大きくなる動作領域を広くする、請求項1に記載の電動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−17361(P2013−17361A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150065(P2011−150065)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】