説明

電動車

【課題】目標走行速度と検出走行速度との差だけでなく、電動車の走行負荷からもインホイール・モータ9に入力すべき最適なトルク指令信号を直接決定することにより、応答性や追従性の高い速度制御を行うことができる電動車を提供する。
【解決手段】加速度取得手段15により、検出走行速度の変化から加速度を求め、走行負荷取得手段16により、この加速度とインホイール・モータ9の出力トルクとから電動車の走行負荷を求め、トルク指令信号制御手段14により、この走行負荷に対応して、目標走行速度と検出走行速度との差をなくす加速度を得るための出力トルクが発生するように、インホイール・モータ9に入力すべきトルク指令信号を決定する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者が足でペダルを踏んでペダルを回転させる等して目標走行速度を指示する電動車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
運転者が足でペダルを踏んでペダルを回転させたときのペダル回転速度を検出し、このペダル回転速度に応じた速度で走行するように電動モータを駆動制御する電動車が従来から開発されている(例えば、特許文献1参照。)。ハンドルのアクセルグリップを手で持って回したときの回転角度や、床のアクセルペダルを足で踏んだときの踏み込み角度を検出し、これら回転角度や踏み込み度に応じた速度で走行するように電動モータを駆動制御する電動車も考えられている。
【0003】
ここで、電動バイク等の電動車でよく用いられるブラシレスDCモータでは、モータの駆動制御を行うモータ駆動回路にトルク指令信号として入力される制御電圧の値に比例して出力トルクが大きくなるように制御されるのが一般的である。そして、アクセルグリップの回転角度等に応じた制御電圧をブラシレスDCモータのモータ駆動回路にトルク指令信号として入力するようにした場合には、運転者自身がアクセルグリップの回転角度を調整して所望する速度で走行するように制御する。
【0004】
これに対して、上記のように、アクセルグリップの回転角度等に応じて目標となる走行速度(目標走行速度)を指示する場合には、電動車の実際の走行速度がこの目標走行速度に一致するように、トルク指令信号である制御電圧を制御するトルク指令信号制御手段を別途装備して、このトルク指令信号制御手段によりブラシレスDCモータの速度制御を行う必要がある。
【0005】
このような電動モータの速度制御の方法として、ブラシレスDCモータのトルク指令信号である制御電圧をそれぞれ一定の割合で上げたり下げたりする方法を考える。なお、ブラシレスDCモータは、制御電圧が4.1Vで出力トルクが最大となり、制御電圧が1.1V以下で出力トルクが0になるものとする。この制御方法によれば、目標走行速度を6km/hとして平坦地で発進する場合には、図4に示すように、まず初期値として電動モータの制御電圧を3Vに設定し、この制御電圧を一定の割合で上げる。すると、1秒後には、走行速度が4km/hを超えるので、制御電圧を一定の割合で下げるが、加速は継続しているので走行速度はさらに上昇する。ただし、制御電圧の低下により加速は減少するので、1.6秒後には走行速度が低下し始める。そこで、制御電圧を1.1Vより僅かに大きい程度のまま維持すると、走行速度も6km/h付近で安定し定速走行を行うようになる。
【0006】
しかしながら、上り坂で発進する場合には、図5に示すように、電動モータの制御電圧を3Vから一定の割合で上げることにより1.7秒後に走行速度が4km/hを超えるが、これによって制御電圧を一定の割合で下げると、上り坂による走行抵抗が大きいために、走行速度は、さらに少し上昇した後に5km/hに達することなく低下を始め、2.3秒後には再度4km/hより遅くなる。そこで、制御電圧を再び一定の割合で上げるが、この制御電圧の上昇の割合が小さいために、走行速度はさらに低下して停車してしまう。
【0007】
電動車の発進時には大きな加速が必要となり制御電圧を上げて出力トルクも大きくするが、平坦地の場合には、定速走行時には出力トルクはほとんど必要ないので制御電圧も下げなければならない。しかし、上り坂で発進する場合には、電動車に大きな走行負荷が加わるので、定速走行時にも制御電圧をある程度上げて出力トルクを発生させる必要があるため、坂道等により大きな走行負荷が加わる場合に対応できず、電動車が停止することになる。
【0008】
このため、目標走行速度と実際の走行速度との差に比例させて、電動モータの制御電圧を上げ下げする割合を変更する比例制御(PID制御におけるP制御)を行えば、走行負荷が大きく変化して走行速度が大幅に低下したとしても、この走行速度と目標走行速度との差が大きくなるので、電動モータの制御電圧を上げる割合も大きくすることができ、上り坂で電動車が停止するようなことがなくなる。
【0009】
もっとも、このような比例制御だけでは、目標走行速度が急に大きく変更された場合の応答性や、走行負荷の大きな変動に対する追従性は十分ではない。しかも、この応答性や追従性を高めるために、電動モータの制御電圧を上げる割合(ゲイン)をさらに大きくすると、フィードバック制御の安定性が悪くなる。
【0010】
そこで、上記比例制御に微分制御(PID制御におけるD制御)を加えることが考えられる。微分制御では、目標走行速度と実際の走行速度との差の時間的な変化、即ち走行速度が目標走行速度に近づくときの加速度を検出し、例えば走行速度が目標走行速度になかなか近づかない場合や、むしろ遠ざかろうとしているような場合には、そのときの目標走行速度と走行速度との差による制御電圧の上昇率よりもさらに大きく制御電圧を上げることにより、応答性や追従性を高めることができる。なお、積分制御(PID制御におけるI制御)は、応答性や追従性との関わりがほとんどないので、ここでは説明を省略する。
【特許文献1】特開平8−108881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、上記比例制御に微分制御を加えたPID制御等の場合にも、目標走行速度と実際の走行速度との差やその微分値(加速度)のみに基づいて電動モータの制御電圧を制御しているので、例えばなだらかな坂道や急な坂道等による走行負荷の大きさの違いについては考慮されず、このような走行負荷の変動については、実際の走行速度が目標走行速度になかなか追従しない等のように微分値の変化が不十分であることを検出してからでなければ対応できないため、応答性や追従性が必ずしも十分ではないという問題があった。また、このような精密な制御を行うためには、短い時間間隔での制御が必要となり、電動車の実際の走行速度を検出する装置にも精密なものが必要となり、コストアップの要因となるという問題もあった。
【0012】
即ち、電動車の実際の走行速度は、そのときの電動モータの出力トルクによる推進力から走行負荷を差し引いた力によって変化するものであるにもかかわらず、従来は、走行負荷の大きさを考慮せずに走行速度の変化だけに基づいて制御を行っていたためにこのような問題が発生する。
【0013】
具体的には、電動車の加速度aは、電動車の質量をmとし、電動車に加わる力をFとすれば、a=F/m(F=ma)の関係にある。そして、電動車に加わる力Fは、電動モータの出力トルクによる電動車の推進力をPとし、この電動車を引き戻そうとする力である走行負荷をLとすると(下り坂の場合、走行負荷Lは負となる)、F=P−Lの関係にあるので、加速度aはa=(P−L)/mの関係となる。しかも、電動車の質量mは走行中は定数となるので、走行負荷Lが分かれば、電動車がこの先どの程度の加速度aを必要とするかに応じて推進力Pを決定することができる。つまり、電動車がどの程度加速すべきか等が分かれば、現在の走行負荷からこの先に必要となる電動モータの最適なトルク指令信号(制御電圧)を直接決定することができるにもかかわらず、従来は、走行負荷を考慮せずに、電動モータのトルク指令信号を現状からある程度変化させてみて、これによる走行速度の変化(加速度)を検出してトルク指令信号をさらに変化させるかどうかを決めるという回りくどい速度制御を行っていた。
【0014】
本発明は、走行速度から求めた加速度と電動モータの出力トルクとから電動車の走行負荷を求め、この走行負荷から電動モータの最適なトルク指令信号を直接決定することにより、応答性や追従性の高い速度制御を行うことができる電動車を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1の発明は、運転者の操作によって目標走行速度が指示され、トルク指令信号によって出力トルクが制御される電動モータにより駆動される電動車において、この電動車の走行速度を検出する走行速度検出手段と、この走行速度検出手段が検出した検出走行速度の単位時間当たりの速度変化から加速度を求める加速度取得手段と、この加速度取得手段が求めた加速度と、電動モータの出力トルクとから電動車の走行負荷を求める走行負荷取得手段と、この走行負荷取得手段が求めた走行負荷に対応して、目標走行速度と検出走行速度との差をなくす加速度を得るための出力トルクが発生するように、電動モータに入力すべきトルク指令信号を決定するトルク指令信号制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項2の発明は、前記目標走行速度が、運転者が足でペダルを踏んでペダルを回転させたときのペダル回転速度に応じて指示されるものであることを特徴とする。
【0017】
請求項3の発明は、前記トルク指令信号が制御電圧であることを特徴とする。
【0018】
請求項4の発明は、前記加速度取得手段、前記走行負荷取得手段及び前記トルク指令信号制御手段が、予め作成された表に基づいて、それぞれ加速度、走行負荷及びトルク指令信号を決定するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、走行負荷取得手段は、加速度と出力トルクとから走行負荷を求めることができる。そして、トルク指令信号制御手段は、目標走行速度と検出走行速度との差をなくすためには電動車にどのような加速度が必要であるかが判断できるので、このような加速度を得るために最適な電動モータのトルク指令信号を、この走行負荷に対応して決定することができる。従って、それまでの電動モータのトルク指令信号を変化させて調整するのではなく、坂道や風等により電動車が受けている走行負荷から直接トルク指令信号を決定するので、目標走行速度の変化に対する応答性や走行負荷の変動に対する追従性の極めて高い速度制御を行うことができるようになる。
【0020】
ここで、電動車の加速度aと推進力Pと走行負荷Lと質量mは、a=(P−L)/mの関係にある。そして、電動モータのトルク指令信号と出力トルクには一般に特定の関係(比例関係等)があり、この出力トルクと電動車の推進力Pにも特定の関係(比例関係等)にあるので、いずれかが分かれば他のものも一意に決定される。また、電動車の質量mは、電動車の車体質量に搭乗者の体重や積荷の重さを加えたものであるため、走行中は定数である。従って、この電動車の質量mは、例えば電動車の車体質量に運転者の体重として人の標準体重を加えて予め設定しておいたり、この設定を運転開始時に適宜変更することができ、電動車に搭乗者や積荷の質量を測定する検出器を設けている場合には、電動車の車体質量にこの検出値を加えて設定することができる。
【0021】
この結果、走行負荷取得手段は、現在の電動モータのトルク指令信号から出力トルクと推進力Pを求めることができるので、加速度取得手段が求めた加速度aとこの推進力Pとから走行負荷Lを求めることができる。また、トルク指令信号制御手段は、この先検出走行速度を目標走行速度に速やかに一致させるために必要となる加速度aと、この走行負荷取得手段が求めた現在の走行負荷Lから、この先必要となる推進力Pを決定することができ、この推進力Pからトルク指令信号を求めて電動モータに入力することができる。
【0022】
なお、電動モータの出力トルクを制御するトルク指令信号は、例えばブラシレスDCモータのモータ駆動回路が駆動電力の供給端子以外に出力トルクを制御するための制御電圧入力端子を有している場合には、この制御電圧入力端子に入力する制御電圧が該当する。また、整流子を有するDCモータの場合には、駆動電力の電圧と出力トルクとの間にほぼ比例関係があるので、この駆動電力の電圧をトルク指令信号とすることもできるし、このDCモータに供給する駆動電力の電圧をモータ駆動回路が制御する場合においては、このモータ駆動回路に対して制御すべき電圧を指示するための制御電圧をトルク指令信号とすることもできる。しかも、ブラシレスDCモータであっても、モータ駆動回路が駆動電力の供給端子しか有さず、この駆動電力の電圧と出力トルクとの間がDCモータと同様の比例関係となるように制御するようなものの場合も、このDCモータの場合と同じである。
【0023】
また、トルク指令信号は、出力トルクを制御するための信号であればよいので、制御電圧等の電圧値に限らず、例えばパルス数やこのパルスによって表現されるディジタル値等によって出力トルクを制御するものであってもよい。
【0024】
また、走行負荷取得手段は、電動モータの出力トルクをトルク指令信号からではなく、この電動モータの実際の出力トルクを検出するトルク検出器から得るようにしてもよい。例えばブラシレスDCモータのモータ駆動回路には、このような出力トルクを検出して出力するものがある。特に、電動モータのトルク指令信号と出力トルクとの間に、制御可能な相関関係はあっても、いずれかが分かれば他のものも一意に決定されるというような特定の関係がない場合に、このようなトルク検出器によって検出した出力トルクを用いる必要が生じる。
【0025】
請求項2の発明によれば、最大のアクセル操作をするには、ペダルを高速で回転させる必要があるので、適度な速度で運転がしやすい電動車を提供することができる。
【0026】
請求項3の発明によれば、トルク指令信号として制御電圧を用いることにより、トルク指令信号の取り扱いが簡単で、操作しやすく、誤動作を防止することができる。
【0027】
請求項4の発明によれば、加速度取得手段と走行負荷取得手段とトルク指令信号制御手段とが、それぞれ予め作成された表に基づいて、対応する加速度と走行負荷とトルク指令信号とを決定するので、計算処理が不要となり、演算能力の低い処理装置を用いて実現することができる。また、例えばトルク指令信号制御手段の場合に、目標走行速度と検出走行速度との差を、目標走行速度が検出走行速度以上である場合と、目標走行速度が検出走行速度未満である場合との2つの場合だけに分けるようにすれば、表の大きさ(容量)も小さくて済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の最良の実施形態について図1〜図2を参照して説明する。
【0029】
本実施形態は、図1に示すような電動車について説明する。この電動車は、操舵輪である一輪の前輪1と駆動輪である一輪の後輪2とを備えると共に、この後輪2の左右に一対の補助輪3、3を備えた四輪車である。各補助輪3は、後輪2よりも少し径の小さい従動輪であり、電動車のフレームに対して下方に付勢された状態で上下動自在に取り付けられている。
【0030】
この電動車は、運転者がサドル4に跨がってハンドル5を両手で握ることにより前輪1の操舵を行いながらペダル6を足で踏んで回転させるようになっている。ただし、この電動車は、自転車や電動アシスト自転車のようにペダル6を漕いだときの回転力を後輪2に伝えて駆動するのではなく、荷台7の下に収納された蓄電池8によって後輪2の車軸に直結されたインホイール・モータ9を回転させてこの後輪2を駆動するようになっている。そして、ペダル6は、足で踏んで漕いだときの回転速度をペダル回転速度検出器10で検出し、このペダル回転速度検出器10が検出した回転速度に応じてインホイール・モータ9の速度制御を行うようになっている。
【0031】
インホイール・モータ9は、ブラシレスDCモータからなる。ブラシレスDCモータは、DCモータ(直流電動機)の整流子(ブラシを用いる)をなくし、ロータ(回転子)の回転角をホール素子等で検出して、内蔵するモータ駆動回路によりコイルの電流の方向を切り替えるようにしたものである。また、ここで用いるブラシレスDCモータのモータ駆動回路は、蓄電池8から駆動電力の供給を受けると共に、後に説明するトルク指令信号も制御電圧として入力するようになっていて、この制御電圧の電圧値に比例した出力トルクを得るように駆動制御を行う。ただし、制御電圧と出力トルクとの関係は、実際には、制御電圧がある程度の電圧値になるまでは出力トルクが0のままで、この電圧値を超えてから線形関係となるようなものである。なお、ブラシレスDCモータのモータ駆動回路には、速度制御機能を備えたものもあるが、ここでの速度制御は従来からのPID制御等によるものであるため、このようなブラシレスDCモータは使用する必要がない。
【0032】
上記ペダル回転速度検出器10が検出したペダル6の回転速度は、図2に示すように、目標走行速度取得手段11に入力されるようになっている。ペダル回転速度検出器10は、例えば鉄製の歯車の各歯の接近を磁気センサで検出する磁気方式や、スリットを形成した円盤に光を当てて透過光を検出する光学方式等のロータリ・エンコーダを用いたり、回転速度に応じた電圧を発生するダイナモ等を用いることができる。
【0033】
目標走行速度取得手段11は、ペダル回転速度検出器10から送られて来たペダル6の回転速度を目標走行速度に変換するものである。ペダル6の回転速度は、これによって目標となる電動車の走行速度を指示するものであるため、予め定められた規則(例えば比例関係)に従って目標走行速度に変換される。従って、目標走行速度取得手段11は、ペダル6の回転速度を計算式の演算や表(テーブル)を用いた換算等によって目標走行速度に変換することができる。
【0034】
駆動輪である上記後輪2のモータケース(ハブ部分)の円周端縁部分に対向するフレーム部分には、モータ端縁部分の磁性体の凹凸を検知してタイヤの回転を検知する電磁ピックアップップ式の近接センサである後輪回転速度検出器12が取り付けられ、この後輪回転速度検出器12が検出した後輪2の回転速度は、検出走行速度取得手段13に入力されるようになっている。なお、この後輪回転速度検出器12は、ペダル回転速度検出器10と同様に、後輪2の車軸(インホイール・モータ9の回転軸)に直接又は伝動装置を介して取り付けたロータリ・エンコーダやダイナモ等を用いることもできる。また、インホイール・モータ9のモータ駆動回路が回転速度を外部に出力できる場合には、後輪回転速度検出器12に代えて、この回転速度の出力を用いてもよい。
【0035】
検出走行速度取得手段13は、後輪回転速度検出器12から送られて来た後輪2の回転速度を検出走行速度に変換するものである。後輪2のタイヤの直径(本実施形態では直径が20インチのタイヤを用いる)を円周率倍して求めた円周長に、後輪回転速度検出器12が検出した後輪2の回転速度を乗算すれば、電動車の実際の走行速度を算出することができる。なお、後輪2のタイヤの空気圧等によって円周長は変化し、また、後輪2がスリップすれば走行速度には関係のない回転を行うので、後輪2の回転速度から電動車の実際の走行速度を示す検出走行速度に変換する際には、適宜の補正を行ってもよい。ただし、本実施形態では、このような演算処理に代えて、表1を用いて後輪2の回転速度を検出走行速度に変換している。
【0036】
【表1】

【0037】
この表1は、「間隔時間」の列と「走行速度」の列を左右に並べた対応表である。「間隔時間」の列には、間隔時間(単位は秒)が順に設定され、「走行速度」の列には、同じ行の間隔時間に対応する走行速度(単位はkm/h)が設定されている。また、「間隔時間」の列の各間隔時間は、1行下の間隔時間を超え当該間隔時間以下の時間を示している。ただし、「間隔時間」の列の最上行の空欄は、1行下の間隔時間(表1では0.2128秒)を超える全ての時間を示し、最下行の間隔時間は、当該間隔時間(表1では0.0266秒)以下の全ての時間を示す。また、ここでは表1を簡単にするために行を間引いて示しているが、実際に用いられる表では、「走行速度」の列の走行速度が0km/hから25km/hまで1km/hごとのステップで設定されている。
【0038】
後輪回転速度検出器12は、モータケース端縁部分にある磁性体の凹凸(円周上に9箇所、等角度間隔で配置されている)に接近するたびにパルスを発生し、このパルスの発生間隔の時間が後輪2の回転速度を示すことになる。従って、検出走行速度取得手段13は、このパルスが送られて来るたびに、前回のパルスから今回のパルスまでの時間を計測し、表1の「間隔時間」の列から計測した時間に該当する間隔時間を検索すると共に、「走行速度」の列における検索した間隔時間と同じ行の走行速度を読み出し、これを検出走行速度として出力する。なお、後輪回転速度検出器12から初めてパルスが送られて来た場合には、時間の計測ができないので、検出走行速度を0とする。
【0039】
上記目標走行速度取得手段11で変換した目標走行速度と、検出走行速度取得手段13で変換した検出走行速度は、トルク指令信号制御手段14に入力されるようになっている。トルク指令信号制御手段14は、インホイール・モータ9にトルク指令信号として入力する制御電圧を決定するものである。そして、従来は、このトルク指令信号制御手段14がこれらの目標走行速度と検出走行速度の差のみに基づいて、例えばPID制御等によりトルク指令信号としての制御電圧を決定していた。しかしながら、本実施形態のトルク指令信号制御手段14では、加速度取得手段15と走行負荷取得手段16とで求めた走行負荷に対応して、これらの目標走行速度と検出走行速度の差をなくす加速度を得るための出力トルクが発生するように、トルク指令信号としての制御電圧を決定する。
【0040】
このため、検出走行速度取得手段13で変換した検出走行速度は、加速度取得手段15にも入力されるようになっている。また、この加速度取得手段15が出力した加速度は、走行負荷取得手段16に入力されるようになっている。そして、この走行負荷取得手段16には、トルク指令信号制御手段14が出力したトルク指令信号としての制御電圧も入力されるようになっている。
【0041】
加速度取得手段15は、検出走行速度取得手段13から送られて来た検出走行速度の単位時間当たりの速度変化、即ち加速度を求めるものである。加速度は、検出走行速度を微分したり、デジタルシステムでは、サンプリングごとに前回の検出走行速度との差をサンプリング間隔で除算すれば求めることができるが、ここでは、検出走行速度が異なる時間間隔で送られて来るので、前回の検出走行速度と今回の検出走行速度との差を前回から今回までの時間間隔で除算する必要がある。そこで、本実施形態では、表2を用いて加速度を求めている。
【0042】
【表2】

【0043】
この表2は、見出し行の走行速度(単位はkm/h)と見出し列の加速度(単位はm/s)との各組合せに対応する間隔時間(単位は秒)を行列にした表である。見出し行の各走行速度は、検出走行速度取得手段13が前回変換した検出走行速度であり、行列の各間隔時間は、検出走行速度取得手段13が今回検出走行速度を変換するまでの間隔時間である。そして、見出し列の各加速度の行には、それぞれの列の前回の検出走行速度が当該加速度によって変化した場合に、今回検出走行速度を変換するまでに要するであろう時間を示す間隔時間が設定されている。従って、加速度が0の行は、今回の検出走行速度が前回と同じであった場合を示すので、表1の「間隔時間」の列を行に変更したものと同じになる。また、行列の各間隔時間は、1行下の間隔時間を超え当該間隔時間以下の時間を示していることも表1の場合と同じである。ただし、ここでも表2を簡単にするために行と列を間引いて示すと共に右側の列を一部省略している。なお、この表2では、電動車が加速する場合の正の加速度のみを示すが、減速の場合の負の加速度についても同様の表が用いられる。
【0044】
加速度取得手段15は、検出走行速度取得手段13から検出走行速度が送られて来るたびに、前回送られて来た検出走行速度を表2の見出し行の走行速度から検索し、この走行速度の列から前回と今回の間に要した時間(この時間は検出走行速度取得手段13から取得してもよいし、改めて計測よい)に該当する間隔時間を検索し、この間隔時間と同じ行の見出し列の加速度を読み出して出力する。なお、検出走行速度取得手段13から初めて検出走行速度が送られて来た場合には、前回の検出走行速度が存在しないので、加速度を0とする。
【0045】
走行負荷取得手段16は、加速度取得手段15から送られて来た加速度と、トルク指令信号制御手段14から送られて来たトルク指令信号としての制御電圧に基づいて、走行負荷を求めるものである。電動車の加速度aと推進力Pと走行負荷Lと質量mは、a=(P−L)/mの関係にあり、推進力Pは、インホイール・モータ9の制御電圧に比例する出力トルクに比例し、質量mは、本実施形態では電動車の車体質量に人の標準体重を加えて予め設定した定数であるため、加速度aと制御電圧が分かれば走行負荷Lを算出することができる。ただし、本実施形態では、表3を用いてこの走行負荷を求めている。
【0046】
【表3】

【0047】
この表3は、見出し行の加速度(単位はm/s)と見出し列の制御電圧(単位はV)との各組合せに対応する走行負荷(単位はN)を行列にした表である。ただし、ここでも表3を簡単にするために行と列を間引いて示している。なお、この表3でも、正の加速度のみを示すが、負の加速度についても同様の表が用いられる。また、この表3では、正の走行負荷のみが設定されているが、実際には負の走行負荷も設定する。
【0048】
走行負荷取得手段16は、加速度取得手段15から加速度が送られて来るたびに、この加速度とそのときの制御電圧とを表3の見出し行と見出し列から検索し、検索した加速度の列と検索した制御電圧の行が交差する部分の走行負荷を読み出して出力する。
【0049】
上記トルク指令信号制御手段14は、目標走行速度取得手段11で変換した目標走行速度と、検出走行速度取得手段13で変換した検出走行速度と共に、この走行負荷取得手段16が求めた走行負荷も入力する。そして、目標走行速度と検出走行速度との差を速やかになくすために必要となる加速度を求め、現在の走行負荷の元でこの加速度を得るために必要な制御電圧を決定する。即ち、上記のように、電動車の加速度aと推進力Pと走行負荷Lと定数である質量mは、a=(P−L)/mの関係にあるので、加速度aと走行負荷Lが分かれば推進力Pを算出することができ、この推進力Pからトルク指令信号としての制御電圧を求めることができる。ただし、本実施形態では、表4を用いてこの制御電圧を求めている。
【0050】
【表4】

【0051】
この表4は、「走行負荷」の列と、加速時の「制御電圧」の列と減速時の「制御電圧」の列を左右に並べた対応表である。「走行負荷」の列には、走行負荷(単位はN)が順に設定され、加速時と減速時の「制御電圧」の列には、それぞれ同じ行の走行負荷に対応するトルク指令信号としての制御電圧(単位はV)が設定されている。ただし、ここでも表4を簡単にするために行を間引いて示している。なお、この表4でも、正の加速度のみを示すが、負の加速度についても同様の表が用いられる。また、この表4でも、正の走行負荷のみが設定されているが、実際には負の走行負荷も設定する。
【0052】
トルク指令信号制御手段14は、走行負荷取得手段16から走行負荷が送られて来るたびに、表4の「走行負荷」の列からこの走行負荷を検索する。そして、検出走行速度が目標走行速度より遅いために加速が必要な加速時であるか、又は、検出走行速度が目標走行速度以上であるために定速走行又は減速が必要な減速時であるかを判断し、加速時の場合には加速時の「制御電圧」の列における検索した走行負荷と同じ行の制御電圧を読み出し、減速時の場合には減速時の「制御電圧」の列における検索した走行負荷と同じ行の制御電圧を読み出して決定する。このようにして決定された制御電圧は、トルク指令信号としてそのままインホイール・モータ9に入力される。
【0053】
なお、上記トルク指令信号制御手段14や目標走行速度取得手段11、検出走行速度取得手段13、加速度取得手段15、走行負荷取得手段16は、マイクロコンピュータによって構成することができる。また、表1〜表4も、このマイクロコンピュータのメモリ上に格納された多次元配列等によって実装することができ、この多次元配列等へのアクセスによって必要とする値を求めることができるので、計算処理が不要となり、演算能力の低いが安価なマイクロコンピュータを用いることが可能となる。
【0054】
上記構成により、本実施形態のトルク指令信号制御手段14は、目標走行速度と検出走行速度との差に応じて、電動モータに入力すべき最適な制御電圧(トルク指令信号)を直接決定することができる。目標走行速度と検出走行速度との差からは、これらの差を速やかになくすために電動車にどのような加速度が必要かが推測できる。そして、電動車の加速度aと推進力Pと走行負荷Lと質量mは、a=(P−L)/mの関係にあり、質量mは走行中は定数であるため、必要な加速度aと電動車が受ける走行負荷Lが分かれば推進力Pも決定され、これに基づいてインホイール・モータ9に入力すべき最適な制御電圧も決定することができる。従って、それまでインホイール・モータ9に入力していた制御電圧を変化させて調整するのではなく、坂道や風等により電動車が受けている走行負荷から直接制御電圧を決定するので、目標走行速度の変化に対する応答性や走行負荷の変動に対する追従性の極めて高い速度制御を行うことができるようになる。
【0055】
なお、上記実施形態では、後輪回転速度検出器12で検出した後輪2の回転速度を検出走行速度取得手段13によって検出走行速度に変換する場合を示したが、この検出走行速度は、路面に対する電動車の移動速度であるため、後輪2とは別にスリップ等の生じにくい走行速度検出用の車輪を設けたり、順次撮影した路面パターンを画像処理することにより走行速度を検出する等の全く別の方法で検出走行速度を求めてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、トルク指令信号制御手段14が、表4を用いて、目標走行速度と検出走行速度との差から加速時か減速時かの2種類に分類し、それぞれのケースについて走行負荷から制御電圧を決定する場合を示したが、例えば減速時を定速走行時と本来の減速時に分類することもできるし、加速時や減速時をそれぞれその加速と減速の程度ごとにさらに細分類することもできる。また、逆に走行負荷をその大きさで複数に分類し、それぞれのケースについて、目標走行速度と検出走行速度との差に基づき比例制御(P制御)やこれに積分制御を加えたPI制御等の従来の速度制御を行うようにしてもよい。この場合、走行負荷の大きさに応じて、例えば走行負荷が大きい場合には比例制御のゲインを大きくする等の相違を持たせることができる。
【0057】
また、上記実施形態では、インホイール・モータ9がブラシレスDCモータである場合を示したが、制御電圧等のトルク指令信号によって出力トルクが制御される電動モータであれば、この電動モータの種類は任意である。さらに、このように後輪2の車軸に直結されたインホイール・モータ9に限らず、伝動装置を介して後輪2を駆動する他の駆動用の電動モータを用いることもできる。
【0058】
また、上記実施形態では、トルク指令信号制御手段14や加速度取得手段15、走行負荷取得手段16等をマイクロコンピュータによって構成する場合を示したが、これらの構成は任意であり、通常のディジタル回路やアナログ回路、その他の制御手段によって構成することもできる。
【0059】
また、上記実施形態では、ペダル6の回転速度によって目標走行速度を指示する電動車の場合を示したが、例えばハンドル5の手で握るグリップの回転角によって目標走行速度を指示する等、運転者の操作によって目標走行速度を指示するものであれば、どのようなものであってもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、電動車が前輪1と後輪2と左右の補助輪3、3からなる四輪車である場合を示したが、この電動車は、電動モータによって駆動される駆動輪がどこかに少なくとも1輪ある車両であればよく、例えば補助輪3、3のない二輪車や、前後二輪ずつの四輪車、前後いずれかが二輪の三輪車等、どのような車両であってもよい。
【実施例】
【0061】
上記実施形態で示した電動車の実施例によるシミュレーション結果を示す。このシミュレーションは、上り坂で発進を行う場合であり、図5に示した従来例の場合と同様の条件で行った。ただし、目標走行速度は4km/hとした。
【0062】
また、電動車が動き出して後輪回転速度検出器12からパルスが2回出力されるまでは加速度取得手段15による加速度の算出ができないため、加速度が算出されるまでの制御電圧は、走行負荷が0の場合の加速時の値を最初に出力し、その後、0.05秒経過するたびに0.05Vを加算して出力する方法とした。
【0063】
実施例の電動車は、図3に示すように、発進時には表4の加速時となるので、インホイール・モータ9の制御電圧を初期値の3.45V(走行負荷が0N)から4.10V(走行負荷が35N)まで徐々に上げることにより1.7秒後に検出走行速度が目標走行速度の4km/hを超える。すると、表4の減速時となるので、そのときの走行負荷が25Nとなり制御電圧が3.45Vに下がる。しかも、これによって検出走行速度が下がり始め加速度が僅かに負となるので、制御電圧も0.85Vまで下がる。しかし、2.0秒後に検出走行速度が目標走行速度の4km/hよりも僅かに遅くなると、再び表4の加速時となり、制御電圧も3.65Vに回復し、以降は検出走行速度が目標走行速度の4km/h付近を推移するように、制御電圧が調整される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであって、電動車の構成を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すものであって、電動車の速度制御の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例を示すものであって、上り坂発進時の制御電圧と走行速度との関係を示すタイムチャートである。
【図4】従来例を示すものであって、平坦地発進時の制御電圧と走行速度との関係を示すタイムチャートである。
【図5】従来例を示すものであって、上り坂発進時の制御電圧と走行速度との関係を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0065】
1 前輪
2 後輪
3 補助輪
4 サドル
5 ハンドル
6 ペダル
7 荷台
8 蓄電池
9 インホイール・モータ
10 ペダル回転速度検出器
11 目標走行速度取得手段
12 後輪回転速度検出器
13 検出走行速度取得手段
14 トルク指令信号制御手段
15 加速度取得手段
16 走行負荷取得手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の操作によって目標となる走行速度(以下「目標走行速度」という)が指示され、トルク指令信号によって出力トルクが制御される電動モータにより駆動される電動車において、
この電動車の走行速度を検出する走行速度検出手段と、
この走行速度検出手段が検出した走行速度(以下「検出走行速度」という)の単位時間当たりの速度変化から加速度を求める加速度取得手段と、
この加速度取得手段が求めた加速度と、電動モータの出力トルクとから電動車の走行負荷を求める走行負荷取得手段と、
この走行負荷取得手段が求めた走行負荷に対応して、目標走行速度と検出走行速度との差をなくす加速度を得るための出力トルクが発生するように、電動モータに入力すべきトルク指令信号を決定するトルク指令信号制御手段とを備えたことを特徴とする電動車。
【請求項2】
前記目標走行速度が、運転者が足でペダルを踏んでペダルを回転させたときのペダル回転速度に応じて指示されるものであることを特徴とする請求項1に記載の電動車。
【請求項3】
前記トルク指令信号が制御電圧であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動車。
【請求項4】
前記加速度取得手段、前記走行負荷取得手段及び前記トルク指令信号制御手段が、予め作成された表に基づいて、それぞれ加速度、走行負荷及びトルク指令信号を決定するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−158090(P2010−158090A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333744(P2008−333744)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【Fターム(参考)】