説明

電動過給機

【課題】回転体のアンバランスを増加させることなく、モータ性能の低下がなく、容易に高速回転できる電動過給機を提供する。
【解決手段】タービンインペラ11を一端に有するタービン軸12と、タービン軸で回転駆動されるコンプレッサインペラ14と、タービンインペラ、タービン軸及びコンプレッサインペラを囲むハウジングと、ハウジング内に固定されたモータステータ24と、モータステータで回転駆動されるモータロータ22とを備える。モータロータ22は、コンプレッサインペラ14の内径側に嵌め合いにより固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機を内蔵した電動過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機により密度を高めた空気を機関(エンジン)に供給することを過給(supercharging)といい、このうち排気エネルギにより圧縮機の駆動仕事をまかなうものを排気タービン過給機(exhaust‐gas turbocharger)と呼ぶ。
【0003】
排気タービン過給機は、一般的に、軸受ユニットを挟んで配置された圧縮機(コンプレッサ)とタービンからなり、圧縮機はコンプレッサインペラを、タービンはタービンインペラをそれぞれ内蔵する。コンプレッサインペラとタービンインペラは、軸受ユニットで支持された連結軸(シャフト)で互いに連結されており、エンジンの排ガスでタービンインペラを回転駆動し、この回転力を連結軸を介してコンプレッサインペラに伝達し、コンプレッサインペラで空気を圧縮してエンジンに過給するようになっている。
【0004】
上述した排気タービン過給機において、低速回転時の加速を補助するために電動機を内蔵したものが既に提案されている(例えば特許文献1、2)。以下、このような電動機を内蔵した排気タービン過給機を単に「電動過給機」と呼ぶ。
【0005】
特許文献1のターボチャージャは、図4に示すように、タービン51とコンプレッサ52を連結するシャフト53上に取り付けられた発電・電動用の回転子54と、ハウジング55内に取り付けられた固定子56とから構成される発電機と、固定子を冷却するため固定子を取り囲むハウジングの内部に形成された冷却用の水ジャケット57とを備えたものである。
【0006】
特許文献2のモータアシストスーパーチャージャは、図5に示すように、コンプレッサホイール61の軸方向延長部に支持された複数の磁石62と、この磁石62から半径方向外方に間隔を隔てハウジング63で支持された複数のステータ巻き線64を有するものである。
【0007】
【特許文献1】特開2000−130176号公報、「発電・電動機を備えたターボチャージャ」
【特許文献2】米国特許第5,870,894号明細書、「MOTOR−ASSISTED SUPERCHARGING DEVICES FOR INTERNALCOMBUSTIONENGINES」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電動過給機では、内蔵した電動機によりシャフトで連結されたコンプレッサインペラとタービンインペラを回転駆動するため、電動機の回転子(モータロータ)をこれらに対してアンバランスが小さくなるよう、偏芯を小さく固定する必要がある。
【0009】
しかし、特許文献1のようにシャフト53に回転子54(モータロータ)を直接固定する場合、以下の問題点があった。
(1)モータロータとシャフトとの隙間を大きくすると、モータロータが偏った状態で組み立てられることがあるために、アンバランスが大きくなる傾向がある。
しかし、逆に同心を得ようとして締まり嵌めとすると、組立時、シャフトに応力が生じ、軸曲がりによるアンバランスが生じるおそれがある。
【0010】
また、特許文献2のようにコンプレッサホイール61の延長部のまわりに磁石62(モータロータ)を固定する場合には、以下の問題点があった。
(2)モータロータの内周側に位置する材料が一般的に非磁性体部材(コンプレッサインペラの部材;アルミ合金等)であり、モータの磁気回路形成に寄与しないため、十分な体積の磁気回路を確保することが難しく、モータ性能が低下する。
(3)モータロータ外周の固定位置の直径が大きくなるため、モータロータにかかる遠心応力が大きくなり、高速回転が困難である。
【0011】
本発明はかかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、シャフトで連結されたコンプレッサインペラとタービンインペラに対してアンバランスの増加がなく、シャフトの軸曲がりが生じるおそれがなく、モータ性能の低下がなく、容易に高速回転できる電動過給機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、タービンインペラを一端に有するタービン軸と、タービン軸で回転駆動されるコンプレッサインペラと、タービンインペラ、タービン軸及びコンプレッサインペラを囲むハウジングと、該ハウジング内に固定されたモータステータと、該モータステータで回転駆動されるモータロータとを備えた電動過給機であって、
前記モータロータは、コンプレッサインペラの内径側に嵌め合いにより固定されている、ことを特徴とする電動過給機が提供される。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記モータロータは、タービン軸を囲む貫通孔のある中空円筒形のスリーブを有し、
前記コンプレッサインペラは、前記スリーブの軸方向端部を嵌め合いにより固定する中空円筒孔を有する。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明の構成によれば、モータロータが、コンプレッサインペラの内径側に嵌め合いにより固定されているので、モータロータはコンプレッサインペラに対して軸のずれを最小とすることができる。
【0015】
また、モータロータとコンプレッサインペラを嵌め合いにより一体化することにより、組立時の部品点数を1点減らすことができ、組立が容易となる。
さらにこの嵌め合いを強くしても、シャフトはコンプレッサインペラを介して回転駆動されるので、シャフトの曲がりによるアンバランスは生じる恐れがない。
【0016】
また、本発明の構成によれば、モータロータが、コンプレッサインペラの内径側に嵌め合いにより固定されているので、インナースリーブに十分な体積を持たせることが可能となり、十分な磁気回路を確保できる。また、モータロータをタービン軸の回り、又は近接して配置できるために、一般的に磁性体であるタービン軸を磁気回路の一部として用いることが可能となるため、高いモータ性能を保持することができる。
【0017】
さらに、モータロータをタービン軸の回り、又は近接して配置できるので、モータロータの外周の直径を小さくでき、容易に高速回転が可能である。
【0018】
従って、本発明によれば、シャフト(タービン軸)で連結されたコンプレッサインペラとタービンインペラを空転することなく確実に回転駆動することができ、シャフトの軸曲がりが生じるおそれがなく、モータ性能の低下がなく、容易に高速回転できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施例を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明の電動過給機の全体構成図である。この図において、本発明の電動過給機10は、タービン軸12、コンプレッサインペラ14、およびハウジングを備える。ハウジングは、この例では、ベアリングハウジング16、タービンハウジング18、及びコンプレッサハウジング20からなる。
【0021】
タービン軸12は、タービンインペラ11を一端(図で左端)に有する。この例において、タービンインペラ11はタービン軸12に一体的に形成されているが、本発明はこれに限定されず、タービンインペラ11を別に取り付ける構成であってもよい。
【0022】
コンプレッサインペラ14は、タービン軸12の他端(図で右端)に軸端ナット15により一体で回転するように連結されている。
【0023】
ベアリングハウジング16は、タービン軸12を軸受メタル17aで回転可能に支持する。また、タービン軸12は、スラストカラー17b及びスラストベアリング17c,17dにより軸方向に移動しないように支持されている。さらに、ベアリングハウジング16は、軸受メタル17a、スラストカラー17b及びスラストベアリング17c,17dを潤滑するための図示しない潤滑油流路を有している。
【0024】
タービンハウジング18は、タービンインペラ11を回転可能に囲み、かつベアリングハウジング16に連結されている。このタービンハウジング18は、内部に外部から排ガスが導入されるスクロール室18aと、スクロール室18aからタービンインペラ11まで排ガスを案内する環状に形成された流路18bを有する。
さらに、流路18bには、複数のノズル翼19が周方向に一定の間隔で配置されている。このノズル翼19は、可変ノズル翼であり、その間に形成される流路面積を変化できることが好ましいが、本発明はこれに限定されず固定ノズル翼やノズルのない形式であってもよい。
【0025】
コンプレッサハウジング20は、コンプレッサインペラ14を回転可能に囲み、かつベアリングハウジング16に連結されている。このコンプレッサハウジング20は、内部に圧縮空気が導入されるスクロール室20aと、コンプレッサインペラ14からスクロール室20aまで圧縮空気を案内する環状に形成された流路20bを有する。
【0026】
上述した構成により、エンジンの排ガスでタービンインペラ11を回転駆動し、この回転力をタービン軸12を介してコンプレッサインペラ14に伝達し、コンプレッサインペラ14で空気を圧縮してエンジンに過給することができる。
【0027】
図1において、本発明の電動過給機10は、さらに、モータロータ22およびモータステータ24を備える。
モータロータ22とモータステータ24によりブラシレスの交流電動機が構成される。
この交流電動機は、タービン軸12の高速回転(例えば少なくとも10〜20万rpm)に対応でき、かつ加速時の回転駆動と減速時の回生運転ができることが好ましい。また、電動過給機の最高回転数(たとえば20万rpm以上)までの機械的な安定性を確保されている。
【0028】
図2は、図1の部分拡大図である。この図に示すように、本発明において、モータロータ22は、コンプレッサインペラ14の回転軸を含む側面に嵌め合いにより固定されている。
すなわち、この例では、モータロータ22は、タービン軸12を囲む貫通孔のある中空円筒形のスリーブ22aを有する。
またコンプレッサインペラ14は、スリーブ22aの軸方向端部(図で右端)を嵌め合いにより固定する中空円筒孔14aを有する。
【0029】
モータロータ22のスリーブ22aとコンプレッサインペラ14の中空円筒孔14aとの嵌め合いは、運転時においても隙間が発生することのないような締まり嵌め(例えば直径締め代、0.01mm以上)にするのがよい。
また、スリーブ22aの内面とタービン軸12の外面との間は、わずかな隙間を有するのがよい。
【0030】
図3は、図2と同様の、本発明の別の実施形態図である。
この図において、モータロータ22は、タービン軸12とコンプレッサインペラ14の間に位置し、これらを同心に連結する円筒形のスリーブ22bを有する。
タービン軸12とスリーブ22bとの連結は、この例では軸端部の嵌め合いとネジの螺合である。しかし本発明はこれに限定されず、同心かつ強固に連結できる限りで他の手段でもよい。
モータロータ22のスリーブ22bとコンプレッサインペラ14の中空円筒孔14bとの嵌め合いは、図2と同様に運転時においても隙間が発生することのないような、十分強い締まり嵌め(例えば直径締め代、0.01mm以上)にするのがよい。
その他の構成は図2と同様である。
【0031】
上述した本発明の構成によれば、モータロータ22のスリーブ22a、22bが、コンプレッサインペラ14の内径側に嵌め合いにより固定されているので、この嵌め合いによって、コンプレッサインペラとモータロータの重心のずれを最小にすることができる。コンプレッサインペラは一般的にタービン軸と軽い締め代を持って締結してあるため、タービン軸との重心のずれも最小となる。
【0032】
また、モータロータ22のスリーブ22a、22bとコンプレッサインペラ14を嵌め合いにより一体化することにより、組立時の部品点数を1点減らすことができ、組立が容易となる。
【0033】
また、本発明の構成によれば、モータロータ22が、コンプレッサインペラ14の内径側に嵌め合いにより固定されているので、インナースリーブに十分な体積を持たせることが可能となり、十分な磁気回路を確保できる。また、モータロータ22をタービン軸12の回り、又は近接して配置できるために、一般的に磁性体であるタービン軸を磁気回路の一部として用いることが可能となるため、高いモータ性能を保持することができる。
さらに、モータロータ22をタービン軸12の回り、又は近接して配置できるので、モータロータの固定位置の直径を小さくでき、容易に高速回転が可能である。
【0034】
従って、本発明によれば、シャフト(タービン軸12)で連結されたコンプレッサインペラ14とタービンインペラ11を空転することなく確実に回転駆動することができ、シャフトの軸曲がりが生じるおそれがなく、モータ性能の低下がなく、容易に高速回転できる。
【0035】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の電動過給機の全体構成図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】本発明の別の実施形態図である。
【図4】特許文献1のタービチャージャの構成図である。
【図5】特許文献2のモータアシストスーパーチャージャの構成図である。
【符号の説明】
【0037】
10 電動過給機、11 タービンインペラ、12 タービン軸、
14 コンプレッサインペラ、14a 中空円筒孔、15 軸端ナット、
16 ベアリングハウジング、17a 軸受メタル、17b スラストカラー、
17c,17d スラストベアリング、
18 タービンハウジング、18a スクロール室、18b 流路、
19 ノズル翼、20 コンプレッサハウジング、20a スクロール室、
20b 流路、22 モータロータ、
22a、22b スリーブ、24 モータステータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンインペラを一端に有するタービン軸と、タービン軸で回転駆動されるコンプレッサインペラと、タービンインペラ、タービン軸及びコンプレッサインペラを囲むハウジングと、該ハウジング内に固定されたモータステータと、該モータステータで回転駆動されるモータロータとを備えた電動過給機であって、
前記モータロータは、コンプレッサインペラの内径側に嵌め合いにより固定されている、ことを特徴とする電動過給機。
【請求項2】
前記モータロータは、タービン軸を囲む貫通孔のある中空円筒形のスリーブを有し、
前記コンプレッサインペラは、前記スリーブの軸方向端部を嵌め合いにより固定する中空円筒孔を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の電動過給機。
【請求項3】
前記モータロータは、タービン軸とコンプレッサインペラの間に位置し、これらを同心に連結する円筒形のスリーブを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の電動過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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