説明

電圧非直線性抵抗体磁器組成物および電子部品

【課題】CV積が低く、種々の特性のバラツキを小さくすることができ、しかも結晶粒子の粒成長が抑制された電圧非直線性抵抗体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】主成分として酸化亜鉛を含有し、酸化亜鉛100モルに対して、副成分として、Coの酸化物をCo換算で0.05原子%超30原子%未満、Srの酸化物をSr換算で0.05原子%超20原子%未満、Rの酸化物(Rは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1つ)を、R換算で0.01原子%超20原子%未満、Siの酸化物をSi換算で0.01原子%超10原子%未満、含有し、Al、GaおよびInを含有しないことを特徴とする電圧非直線性抵抗体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば積層チップバリスタの電圧非直線性抵抗体層などに好適に用いられる電圧非直線性抵抗体磁器組成物と、該電圧非直線性磁器組成物を電圧非直線性抵抗体層として用いる電子部品とに、関する。
【背景技術】
【0002】
電圧非直線性抵抗体層を有する電子部品の一例としてのバリスタは、たとえば静電気などの外来サージ(異常電圧)やノイズなどを吸収または除去し、電子機器等のIC回路を保護するために使用されている。
【0003】
近年、デジタル信号の高速化および通信速度の高速化がますます進んでいる。特に、HDMIなど非常に高速な信号ラインに対してバリスタが用いられる場合、バリスタの静電容量が大きいと、この静電容量の存在のために伝送される信号が減衰し、伝送される信号がなまるなど、正確な伝送が阻害されるという問題があった。
【0004】
また、回路の駆動電圧の低電圧化も進んでおり、バリスタ電圧が高いと、サージやノイズを抑制できず、回路を保護できないという問題があった。
【0005】
そのため、低電圧駆動回路におけるサージやノイズを抑制しつつ、正確な信号伝送を実現するために、静電容量が小さく、かつバリスタ電圧も低いバリスタ、すなわち、静電容量Cとバリスタ電圧Vとの積(CV積)が小さいバリスタが望まれている。
【0006】
特許文献1には、ZnOを主成分とし、副成分として、Pr、Co、Cr、Al等、SiおよびCa+Srを特定の割合で含む電圧非直線抵抗体が開示されている。しかしながら、特許文献1には、この電圧非直線抵抗体の静電容量は記載されておらず、CV積を小さくできるかどうかは不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−246207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、CV積が低く、種々の特性のバラツキを小さくすることができ、しかも結晶粒子の粒成長が抑制された電圧非直線性抵抗体磁器組成物、および該組成物を用いた積層チップバリスタなどの電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る電圧非直線性抵抗体磁器組成物は、
主成分として酸化亜鉛を含有し、
前記酸化亜鉛100モルに対して、副成分として、
Coの酸化物を、Co換算で、0.05原子%超30原子%未満、
Srの酸化物を、Sr換算で、0.05原子%超20原子%未満、
Rの酸化物(ただし、Rは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1つ)を、R換算で、0.01原子%超20原子%未満、
Siの酸化物を、Si換算で、0.01原子%超10原子%未満、含有し、
Al、GaおよびInを含有しないことを特徴とする。
【0010】
本発明では、上記の特定の組成および含有量とすることで、特に、Siの酸化物を含有させ、かつAl等を含有させないことで、種々の特性を良好としつつ、それらの特性のバラツキを低減でき、しかも結晶粒子の粒成長を抑制することができる。
【0011】
本発明に係る電子部品は、上記に記載の電圧非直線性抵抗体磁器組成物から構成される電圧非直線性抵抗体層を有する。
【0012】
本発明に係る電子部品としては、特に限定されないが、積層チップバリスタ、ディスクバリスタ、バリスタ複合素子などが例示される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層チップバリスタの断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施例および比較例に係る試料について、焼成温度と、結晶粒子の平均粒子径と、の関係を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の実施例および比較例に係る試料について、焼成温度と、バリスタ電圧のC.V.値と、の関係を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明の実施例および比較例に係る試料について、焼成温度と、非直線係数のC.V.値と、の関係を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の実施例および比較例に係る試料について、焼成温度と、静電容量のC.V.値と、の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の実施例および比較例に係る試料について、焼成温度と、CV積のC.V.値と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0015】
積層チップバリスタ
図1に示すように、電子部品の一例としての積層チップバリスタ2は、内部電極層4,6と層間電圧非直線性抵抗体層8と外側保護層8aとが積層された構成の素子本体10を有する。この素子本体10の両端部には、素子本体10の内部に配置された内部電極層4,6と各々導通する一対の外部端子電極12,14が形成してある。素子本体10の形状は、特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよいが、通常、縦(0.6〜5.6mm)×横(0.3〜5.0mm)×厚み(0.3〜1.9mm)程度である。
【0016】
内部電極層4,6は、各端面が素子本体10の対向する2端部の表面に露出するように積層してある。一対の外部端子電極12,14は、素子本体10の両端部に形成され、内部電極層4,6の露出端面にそれぞれ接続されて、回路を構成する。
【0017】
素子本体10において、内部電極層4,6および層間電圧非直線性抵抗体層8の積層方向の両外側端部には、外側保護層8aが配置してあり、素子本体10の内部を保護している。外側保護層8aの材質は、層間電圧非直線性抵抗体層8の材質と同じであっても異なっていても良い。
【0018】
内部電極層
内部電極層4,6に含有される導電材は、特に限定されないが、PdまたはAg−Pd合金で構成してあることが好ましい。合金中のPd含有量は95重量%以上であることが好ましい。内部電極層4,6の厚さは、用途に応じて適宜決定すればよいが、通常0.5〜5μm程度である。
【0019】
外部端子電極
外部端子電極12,14に含有される導電材は、特に限定されないが、通常、AgやAg−Pd合金などを用いる。外部端子電極12,14の厚さは、用途に応じて適宜決定すればよいが、通常10〜50μm程度である。
【0020】
層間電圧非直線性抵抗体層
層間電圧非直線性抵抗体層8は、本実施形態に係る電圧非直線性抵抗体磁器組成物で構成される。該電圧非直線性抵抗体磁器組成物は、主成分としての酸化亜鉛と、副成分として、Coの酸化物と、Srの酸化物と、Rの酸化物と、Siの酸化物とを有しており、かつAl、GaおよびInを含有していない。
【0021】
主成分としての酸化亜鉛(ZnO)は、電圧−電流特性における優れた電圧非直線性と、大きなサージ耐量とを発現する物質として作用する。
【0022】
Coの酸化物はアクセプター(電子捕捉剤)として働き、電圧非直線性を維持する物質として作用する。酸化亜鉛100モルに対するCoの酸化物の含有量は、Co換算で、0.05原子%超30原子%未満、好ましくは0.1〜20原子%、より好ましくは0.1〜10原子%である。
【0023】
Coの酸化物の含有量が少なすぎると、バリスタ特性を得ることが困難になる傾向にあり、多すぎると、バリスタ電圧が増大すると共に電圧非直線性が低下する傾向にある。
【0024】
Srの酸化物はアクセプター(電子捕捉剤)として働き、電圧非直線性を維持する物質として作用する。酸化亜鉛100モルに対するSrの酸化物の含有量は、Sr換算で、0.05原子%超20原子%未満、好ましくは0.1〜10原子%、より好ましくは0.1〜5原子%である。
【0025】
Srの酸化物の含有量が少なすぎると、CV積(静電容量Cとバリスタ電圧Vとの積)が大きくなってしまう傾向にあり、多すぎると、主成分である酸化亜鉛と反応しやすくなり、焼成温度によっては溶融してしまう傾向にある。
【0026】
Rの酸化物は、結晶粒界への酸素の拡散速度を早める物質として作用する。これを添加することにより焼結体の焼結を十分に行うことができる。
【0027】
Rの酸化物を構成するR元素としては、ScおよびPmを除く、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、少なくともPrを含むことがより好ましい。酸化亜鉛100モルに対するRの酸化物の含有量は、R換算で、0.01原子%超20原子%未満、好ましくは0.05〜10原子%、より好ましくは0.1〜5原子%である。
【0028】
Rの酸化物の含有量を、上記の範囲にすることにより、組成物を半導体化状態に維持できるとともに、結晶粒界への酸素拡散速度を早めることができる。
【0029】
Siの酸化物は、CV積を変化させることなく、種々の特性(たとえば、静電容量、バリスタ電圧、非直線係数など)のバラツキを低減する効果を有するとともに、結晶粒子の粒成長を抑制する効果も有する。特性のバラツキを低減することで、製品の歩留まりを向上させることができる。
【0030】
酸化亜鉛100モルに対するSiの酸化物の含有量は、Si換算で、0.01原子%超10原子%未満、好ましくは0.05〜5原子%、より好ましくは0.05〜1原子%である。
【0031】
Siの酸化物の含有量が少なすぎると、結晶粒子の異常粒成長が生じてしまい、結晶粒子の大きさが不均一になってしまう。その結果、良好なバリスタ特性が得られない傾向にある。一方、Siの酸化物の含有量が多すぎると、バリスタ電圧が増大し、電圧非直線性が低下する傾向にある。
【0032】
なお、後述する積層チップバリスタの製造方法として、印刷法やシート法を採用する場合には、Siの酸化物の含有量は、5原子%以下であることが好ましい。
【0033】
また、本実施形態に係る電圧非直線性抵抗体磁器組成物は、Al、GaおよびInを含有しない。これらの元素が含有されると、静電容量が高くなってしまい、CV積が大きくなるため、好ましくない。
【0034】
なお、本明細書では、バリスタ電圧とは、1mAの電流が流れる時の電圧をいう。また、バリスタ特性(電圧非直線性)とは、電子部品に徐々に増大する電圧を印加する際に、素子に流れる電流が非直線的に増大する現象をいう。
【0035】
層間電圧非直線性抵抗体層8の厚みや積層数等の諸条件は、目的や用途に応じ適宜決定すればよい。本実施形態では、層間電圧非直線性抵抗体層8の厚みはたとえば5〜100μm程度であり、積層数はたとえば10〜50程度である。また、外側保護層8aの厚みは、たとえば100〜500μm程度である。
【0036】
本実施形態では、電圧非直線性抵抗体磁器組成物の組成を上記に示す組成とすることで、以下に示すような特性を実現することができる。すなわち、基準温度25℃、測定周波数1MHzおよび入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsで測定された静電容量(C)と、流れる電流が1mAの時に測定されるバリスタ電圧(V)と、の積であるCV積を、好ましくは1700以下、より好ましくは1500以下、さらに好ましくは1300以下とすることができる。また、非直線係数(α)を好ましくは14以上、より好ましくは15以上、さらに好ましくは17以上とすることができる。
【0037】
積層チップバリスタの製造方法
次に、本実施形態に係る積層チップバリスタ2の製造方法の一例を説明する。
【0038】
本実施形態では、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部端子電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0039】
まず、電圧非直線性抵抗体層用ペースト、内部電極層用ペースト、外部端子電極用ペーストをそれぞれ準備する。電圧非直線性抵抗体原料(電圧非直線性抵抗体磁器組成物粉末)を準備し、これを塗料化して、電圧非直線性抵抗体層用ペーストを調製する。
【0040】
電圧非直線性抵抗体層用ペーストは、電圧非直線性抵抗体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0041】
電圧非直線性抵抗体原料としては、上記した主成分および副成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0042】
電圧非直線性抵抗体原料中の各成分の含有量は、焼成後に上記した電圧非直線性抵抗体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。これらの原料粉末は、通常、平均粒子径0.3〜2μm程度のものが用いられる。
【0043】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0044】
また、電圧非直線性抵抗体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0045】
内部電極層用ペーストは、上述した各種導電材あるいは焼成後に上述した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上述した有機ビヒクルとを混練して調製される。また、外部端子電極用ペーストも、この内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0046】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0047】
印刷法を用いる場合は、電圧非直線性抵抗体層用ペーストを、PET等の基板上に所定厚みで複数回印刷して、グリーンの外側保護層8aを形成する。
【0048】
次に、この外側保護層8aの上に、内部電極層用ペーストを所定パターンで印刷して、グリーンの内部電極層4を形成する。次に、この内部電極層4の上に、上記と同様にして電圧非直線性抵抗体層用ペーストを所定厚みで複数回印刷して、グリーンの層間電圧非直線性抵抗体層8を形成する。
【0049】
次に、層間電圧非直線性抵抗体層8の上に、内部電極層用ペーストを所定パターンで印刷して、グリーンの内部電極層6を形成する。内部電極層4,6は、対向して相異なる端部表面に露出するように印刷する。
【0050】
最後に、内部電極層6の上に、上記と同様にして電圧非直線性抵抗体層用ペーストを所定厚みで複数回印刷して、グリーンの外側保護層8aを形成する。その後、加熱しながら加圧、圧着し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0051】
また、シート法を用いる場合は、電圧非直線性抵抗体層用ペーストを用いてグリーンシートを成形し、その後、このグリーンシートを所定の枚数積層して、図1に示す外側保護層8aを形成する。
【0052】
次に、この外側保護層8aの上に、内部電極層用ペーストを所定パターンで印刷して、グリーンの内部電極層4を形成する。同様にして、別の外側保護層8aの上に、グリーンの内部電極層6を形成する。
【0053】
これらを、グリーンシートを所定の枚数積層して形成された層間電圧非直線性抵抗体層8を間に挟み、かつ内部電極層4,6が対向して相異なる端部表面に露出するように重ね、加熱しながら加圧、圧着し、所定形状に切断してグリーンチップとする。
【0054】
次に、このグリーンチップを脱バインダ処理および焼成して、焼結体(素子本体10)を作製する。
【0055】
グリーンチップの脱バインダ処理は、通常の条件で行えばよい。たとえば、空気雰囲気において、昇温速度を5〜300℃/時間程度、保持温度を180〜400℃程度、温度保持時間を0.5〜24時間程度とする。
【0056】
グリーンチップの焼成は、通常の条件で行えばよい。たとえば、空気雰囲気において、昇温速度を50〜500℃/時間程度、保持温度を1000〜1400℃程度、温度保持時間を0.5〜8時間程度、冷却速度を50〜500℃/時間程度とする。保持温度が低すぎると緻密化が不充分となり、保持温度が高すぎると内部電極の異常焼結による電極の途切れを生じる傾向がある。
【0057】
上記のようにして得られた焼結体(素子本体10)に、たとえばバレル研磨やサンドブラストにより端面研磨を施し、外部端子電極用ペーストを塗布して焼成し、外部端子電極12,14を形成する。外部端子電極用ペーストの焼成条件は、たとえば、空気雰囲気中で600〜900℃にて10分〜1時間程度とすることが好ましい。
【0058】
このようにして製造された本実施形態の積層チップバリスタ2は、たとえば高速伝送回路等に接続され、静電気などの外来サージ(異常電圧)やノイズなどを、吸収または除去して、該回路等の保護のために使用される。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得る。
【0060】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層チップバリスタを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層チップバリスタに限定されず、上記組成の電圧非直線性抵抗体磁器組成物で構成してある電圧非直線性抵抗体層を有するものであれば何でも良い。
【0061】
また、図1に示すように、内部電極層が1対のみの積層チップバリスタに限定されない。図1では、内部電極層が1対のみであるが、内部電極が複数対積層してあってもよく、あるいは内部電極が多数積層してある積層チップバリスタであってもよい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0063】
実施例1
まず、主成分原料(ZnO)および副成分原料を準備した。副成分の原料としては、酸化物、炭酸塩および炭酸塩の水和物などを用いた。
【0064】
次に、これらの原料を、主成分である酸化亜鉛100モルに対して、焼成後の組成が表1に示す量となるように配合して、有機バインダ、有機溶剤、可塑剤を加え、ボールミルにより約20時間湿式混合して、スラリーを作製した。
【0065】
このスラリーをドクターブレード法により、PETフィルム上に30μmの厚さのグリーンシートを作製し、塗布した前記グリーンシート上に、パラジウムペーストを用い、スクリーン印刷にて、所望の形状になるように印刷し、乾燥して、図1に示す内部電極4を形成した。次に、図1に示す内部電極6を、同様に形成した。
【0066】
さらに、最外層となる外側保護層8aは、同じ組成のグリーンシートを複数枚重ねて形成した。
【0067】
その後、これらを加熱、圧着した後、所定のチップ形状となるように切断してグリーンチップとした。
【0068】
このグリーンチップに対して、脱バインダ処理を、350℃で2時間の条件で行った後、1175℃で2時間空気中において焼成し、積層チップバリスタ素体となる焼結体を得た。
【0069】
次いで、得られた焼結体の両端にAgを主体とした電極ペーストを塗布し、800℃で焼き付けして端子電極12,14を形成した。このようにして、図1に示す断面図の構成をした積層チップバリスタを得ることができた。得られたバリスタ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、電圧非直線性抵抗体層の厚み65μm、内部電極層に挟まれた電圧非直線性抵抗体層の数は1とした。また、内部電極層の重なり面積は1.3mmであった。
【0070】
得られたバリスタ試料を用いて、バリスタ電圧、非直線係数および静電容量を測定した。
【0071】
バリスタ電圧
バリスタ試料を直流定電圧電源に接続し、バリスタ試料の両電極間に作用する電圧を電圧計で測定すると共に、バリスタ試料に流れる電流を電流計にて読みとることにより、バリスタ電圧(V1mA )を求めた。具体的には、バリスタ試料に流れる電流が1mAの時に、バリスタ試料の電極間に作用する電圧を電圧計により読みとり、その値をバリスタ電圧とした。単位はVとした。本実施例では、100V以下を良好とした。結果を表1に示す。
【0072】
非直線係数(α)
非直線係数は、バリスタ試料に流れる電流が0.1mAから1mAまで変化した場合のバリスタ試料の電極間にかかる電圧と電流の関係を示しており、次式から求めた。本実施例では、14以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0073】
α=log(I/I0.1 )/log(V/V0.1)=1/log(V/V0.1
【0074】
なお、Vは、バリスタ試料にI=1mAの電流を流した場合のバリスタ電圧を意味し、V0.1は、バリスタ試料にI0.1=0.1mAの電流を流した場合のバリスタ電圧を意味する。この非直線係数αが大きいほど、バリスタ特性に優れている。
【0075】
静電容量
静電容量(C)は、バリスタ試料に対し、基準温度25℃でデジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1MHz,入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件下で測定した(単位はpF)。本実施例では、100以下を良好とした。結果を表1に示す。
【0076】
CV積
CV積は、上記で得られたバリスタ電圧(V)と静電容量(C)との積を求めることにより算出した。CV積は小さいほど好ましい。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1より、副成分の含有量が本発明の範囲外である場合には(試料番号1、8〜10、15、16、21、22および27)、バリスタ電圧、非直線係数、静電容量およびCV積の少なくとも1つが劣っている傾向にあることが確認できた。
【0079】
なお、試料番号15は、Srの酸化物の含有量が多すぎるため、Srの酸化物が主成分である酸化亜鉛と反応して溶融してしまい、特性を評価することができなかった。また、試料番号22は、Siの酸化物の含有量が少なすぎるため、結晶粒子が粒成長してしまい、特性が得られなかった。試料番号26は、電圧非直線性抵抗体層をシート成形により形成したため、特性が得られなかったが、たとえば、圧縮成形等により形成される電圧非直線性抵抗体層を有するバリスタであれば所望の特性が得られる。
【0080】
これに対し、副成分の含有量が本発明の範囲内である場合には(試料番号2〜7、11〜14、17〜20、23〜25)、バリスタ電圧、非直線係数、静電容量およびCV積の全てが良好であることが確認できた。
【0081】
実施例2
ZnO100モルに対し、Coの酸化物をCo換算で0.5原子%、Srの酸化物をSr換算で0.5原子%、Prの酸化物をPr換算で0.1原子%、Siの酸化物をSi換算で0.05原子%、AlをAl換算で、表2に示す量を添加した以外は、実施例1と同様にして、積層チップバリスタ試料を作製し、上記の評価を行った。結果を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
表2より、Alを含有させた場合、その含有量が微量であっても、静電容量が急激に大きくなり、その結果、CV積が大きくなってしまい、好ましくないことが確認できた。
【0084】
実施例3
ZnO100モルに対し、Coの酸化物をCo換算で1.2原子%、Srの酸化物をSr換算で0.5原子%、Prの酸化物をPr換算で0.5原子%、含有させ、焼成温度を1125℃、1150℃、1175℃とした以外は実施例1と同様にして、積層チップバリスタ試料(試料番号51)を作製した。また、ZnO100モルに対し、Coの酸化物をCo換算で1.2原子%、Srの酸化物をSr換算で0.5原子%、Prの酸化物をPr換算で0.5原子%、Siの酸化物をSi換算で0.028原子%、含有させ、焼成温度を1125℃、1150℃、1175℃とした以外は実施例1と同様にして、積層チップバリスタ試料(試料番号52)を作製した。
【0085】
すなわち、試料番号51(比較例)と試料番号52(実施例)との違いは、Siの酸化物が含有されているかいないかである。試料番号51および試料番号52について、以下に示す方法で平均粒子径の測定を行った。
【0086】
平均粒子径の測定は、電圧非直線性抵抗体層の断面が現れるように、バリスタ試料を切断し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、SEM写真を撮影した。このSEM写真をソフトウェアにより画像処理を行い、誘電体粒子の境界を判別し、各誘電体粒子の面積を算出した。そして、算出された誘電体粒子の面積を円相当径に換算して粒子径を算出した。得られた粒子径の平均値を平均粒子径とした。なお、粒子径の算出は、20個の誘電体粒子について行った。結果を図2に示す。
【0087】
さらに、試料番号51および試料番号52について、バリスタ電圧、非直線係数および静電容量を、それぞれ10個の試料に対して測定し、その測定値のバラツキをC.V.値(変動係数)として評価した。測定条件は実施例1と同様とした。また、バリスタ電圧および静電容量の測定値から、CV積のバラツキもC.V.値として評価した。
【0088】
バリスタ電圧についてのC.V.値を図3、非直線係数についてのC.V.値を図4、静電容量についてのC.V.値を図5、CV積についてのC.V.値を図6にそれぞれ示す。なお、C.V.値は、次の式で表され、C.V.値が大きいほどバラツキが大きいことになる。
C.V.値=(標準偏差/平均値)×100
【0089】
図2より、Siの酸化物を含有させることで、結晶粒子の粒成長を抑制できることが確認できた。また、粒成長を抑制する効果は、焼成温度が高くなるほど大きいことが確認できた。
【0090】
図3〜6より、Siの酸化物を含有させることで、特性のバラツキを低減できることが確認できた。また、特性のバラツキを低減する効果は、焼成温度が低いほど大きくなる傾向にあることが確認できた。
【符号の説明】
【0091】
2… 積層チップバリスタ
4,6… 内部電極層
8… 層間電圧非直線性抵抗体層
8a… 外側保護層
10… 素子本体
12,14… 外部端子電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として酸化亜鉛を含有し、
前記酸化亜鉛100モルに対して、副成分として、
Coの酸化物を、Co換算で、0.05原子%超30原子%未満、
Srの酸化物を、Sr換算で、0.05原子%超20原子%未満、
Rの酸化物(ただし、Rは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1つ)を、R換算で、0.01原子%超20原子%未満、
Siの酸化物を、Si換算で、0.01原子%超10原子%未満、含有し、
Al、GaおよびInを含有しないことを特徴とする電圧非直線性抵抗体磁器組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の電圧非直線性抵抗体磁器組成物から構成される電圧非直線性抵抗体層を有する電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−219283(P2011−219283A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87191(P2010−87191)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】