説明

電子サイクロトロン共鳴イオン源装置

【課題】ECRイオン源を用いて、原子内包フラーレンを容易に形成し、かつイオンビームとして引き出し、分析するECRイオン源装置を提供する。
【解決手段】常温で気体の物質と、高融点の物質のガスのECRプラズマを生成可能なECRチェンバ部1aと、フラーレンガス供給用の蒸発源108を有するプロセスチェンバ部1bと、イオン引き出しメッシュ電極104と、イオンアパーチャ107とを備え、イオン引き出しメッシュ電極104とイオンアパーチャ107への印加電圧を制御することにより、ECRプラズマのプラズマポテンシャルを制御し、ECRプラズマからイオンのみをプロセスチェンバ部1bへ抽出し、当該イオンをフラーレンにイオン注入し、フラーレン誘導体を生成すると同時に、イオンアパーチャ107よりイオンビーム94として引き出し、分析するECRイオン源装置50。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子サイクロトロン共鳴イオン源装置に関し、特に、医療分野・ナノエレクトロニクス分野等に使用できる電子サイクロトロン共鳴イオン源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子内包フラーレンやヘテロフラーレンなどのフラーレン誘導体は、磁気共鳴映像法(MRI:Magnetic Resonance Imaging)の映像媒体、生体内トレース媒体、有機磁性体、有機超伝導体などに応用可能である。
【0003】
原子内包フラーレンやヘテロフラーレンなどのフラーレン誘導体は、従来、アーク放電法やレーザー蒸発法などにより生成されていた。近年、窒素イオンのイオン注入による、フラーレンの窒素誘導体の生成が報告されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2、特許文献1および特許文献2参照。)。
【0004】
一方、電子サイクロトロン共鳴(ECR:Electron Cyclotron Resonance)イオン源を用いたフラーレンプラズマおよびフラーレンビームの生成と、窒素フラーレンやヘテロフラーレンなどのフラーレン誘導体の生成についても報告されている(例えば、非特許文献3および非特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−112580号公報
【特許文献2】特開2007−5021号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. Abe et al.: “Effects of ion energy on production of nitrogen-C60 compounds by ion implantation”, JJAP 45, (2006) pp.8340-8343
【非特許文献2】T. Kaneko et al.: “An electron cyclotron resonance plasma configuration for increasing the efficiency in the yield of nitrogen endohedral fullerenes”, Physics of Plasmas 14, 110705 (2007)
【非特許文献3】S. Biri et al.: “Fullerenes in electron cyclotron resonance ion sources”, REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS 77, 03A314 (2006)
【非特許文献4】S. Biri et al.: “Production of multiply charged fullerene and carbon cluster beams by a 14.5GHz ECR”, REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS VOLUME 73, NUMBER 2 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、ECRイオン源を用いて、原子内包フラーレンを容易に形成し、かつイオンビームとして引き出し、分析する方法を見出した。
【0008】
本発明の目的は、ECRイオン源を用いて、原子内包フラーレンを容易に形成し、かつイオンビームとして引き出し、分析する電子サイクロトロン共鳴イオン源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、常温で気体の物質と、高融点の物質それぞれのガスを導入可能でかつ前記それぞれのガスのECRプラズマを生成可能なECRチェンバ部と、前記ECRチェンバ部の下流側に配置され、フラーレンガスを供給可能な蒸発源を有するプロセスチェンバ部と、前記ECRチェンバ部と前記プロセスチェンバ部との間に配置され、前記ECRチェンバ部内で生成された前記それぞれのガスのECRプラズマを抽出するメッシュ電極と、前記プロセスチェンバ部の下流側に配置され、電圧印加可能なイオンアパーチャとを備え、前記メッシュ電極と前記イオンアパーチャへの印加電圧を制御することにより、前記ECRプラズマのプラズマポテンシャルを制御し、前記ECRプラズマからイオンのみを前記プロセスチェンバ部へ抽出する電子サイクロトロン共鳴イオン源装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ECRイオン源を用いて、原子内包フラーレンを容易に形成し、かつイオンビームとして引き出し、分析する電子サイクロトロン共鳴イオン源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るECRイオン源装置の模式的全体構成図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る電子サイクロトロン共鳴イオン源装置のECRチェンバ部、プロセスチェンバ部およびイオンビーム引き出し・検出部の模式的拡大構成図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るECRイオン源装置のECRチェンバ部およびプロセスチェンバ部の電位分布を示す模式図。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るECRイオン源装置を用いて形成されるフラーレン誘導体として、原子内包フラーレンの模式的構造図。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るECRイオン源装置のイオン引き出しメッシュ電流Im(mA)とメッシュ電圧Vm(V)の関係を示す図。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るECRイオン源装置のイオンアパーチャ電流Ia(mA)とアパーチャ電圧Va(V)の関係を示す図。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係るECRイオン源装置のファラデーカップ電流If(mA)とアパーチャ電圧Va(V)の関係を示す図。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係るECRイオン源装置のボート印加電流IB(A)とボート温度T(°C)の関係を示す図。
【図9】本発明の第1の実施の形態の変形例1に係るECRイオン源装置のECRチェンバ部、プロセスチェンバ部およびイオンビーム引き出し・検出部の模式的拡大構成図。
【図10】本発明の第1の実施の形態の変形例2に係るECRイオン源装置のECRチェンバ部、プロセスチェンバ部およびイオンビーム引き出し・検出部の模式的拡大構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各部の厚みと平面寸法との関係、各部の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0013】
又、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50の模式的全体構成は、図1に示すように表され、ECRチェンバ部1a、プロセスチェンバ部1bおよびイオンビーム引き出し・検出部2aの模式的拡大構成は、図2に示すように表される。
【0015】
本発明の第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50の模式的全体構成は、図1に示すように、ECRチェンバ部1aとプロセスチェンバ部1bからなるECRイオン源部1と、イオンビーム引き出し・検出部2aとイオンビーム質量分析部2bからなるビーム輸送・質量分析部2と、ビーム検出・減速・堆積部3とを備える。
【0016】
また、図2に示すように、ECRチェンバ部1aの後部にプロセスチェンバ部1bが配置され、また、プロセスチェンバ部1bの後部にイオンビーム引き出し・検出部2aが配置されている。
【0017】
(ECRイオン源部)
第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50は、図2に示すように、常温で気体の物質と、高融点の物質それぞれのガスを導入可能でかつそれぞれのガスのECRプラズマを生成可能なECRチェンバ部1aと、ECRチェンバ部1aの下流側に配置され、フラーレンガスを供給可能な蒸発源108を有するプロセスチェンバ部1bと、ECRチェンバ部1aとプロセスチェンバ部1bとの間に配置され、ECRチェンバ部1a内で生成されたそれぞれのガスのECRプラズマを抽出するプラズマメッシュ電極102およびイオン引き出しメッシュ電極104と、プロセスチェンバ部1bの下流側に配置され、電圧印加可能なイオンアパーチャ107とを備え、プラズマメッシュ電極102およびイオン引き出しメッシュ電極104とイオンアパーチャ107への印加電圧を制御することにより、ECRプラズマのプラズマポテンシャルを制御し、ECRプラズマからイオンのみをプロセスチェンバ部1bへ抽出する。
【0018】
ECRプラズマから抽出されたイオンは、プロセスチェンバ部1b内において、蒸発源108から蒸発したフラーレン中性粒子にイオン注入される。
【0019】
また、第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50は、図2に示すように、イオンアパーチャ107の下流側に配置され、ECRチェンバ部1aで生成したイオンおよびフラーレン中性粒子にイオン注入されたフラーレン誘導体イオンをイオンビーム94として抽出可能なイオン引き出し電極112と、イオン引き出し電極112の下流側に配置され、イオンビーム電流を検出するファラデーカップ114とを有するイオンビーム引き出し・検出部2aを備え、フラーレン中性粒子にイオン注入すると同時に、フラーレン誘導体イオンをイオンビームとして引き出し・検出することができる。
【0020】
また、第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50は、図1に示すように、イオン引き出し電極112とファラデーカップ114との間には、アインツェルレンズ118と、スリット15を備えていても良い。
【0021】
フラーレンガスは、C60で表される構造には限定されず、ヘテロフラーレン、イオン化フラーレンなどのフラーレン誘導体のガスが含まれる。
【0022】
ECRプラズマから抽出され、プロセスチェンバ部1b内において、蒸発源108から蒸発したフラーレン中性粒子にイオン注入されるイオンは、例えば、水素原子、ヘリウム原子、窒素原子、酸素原子、フッ素原子、ネオン原子、塩素原子、アルゴン原子、クリプトン原子、キセノン原子、ラドン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、白金原子、亜鉛原子、銅原子、金原子、銀原子、スカンジウム原子、チタン原子、マンガン原子、パラジウム原子、イットリウム原子、ルテニウム原子、ローレンシウム原子のいずれかのイオンである。
【0023】
ECRチェンバ部1aは、プラズマを生成するECRチェンバ100aと、ECRチェンバ100aのすぐ外周に配置され、ECRチェンバ100aの動径方向で荷電粒子を閉じ込めるための多極(六極)永久磁石6と、多極(六極)永久磁石6の外周に配置され、ECRチェンバ100aの軸方向で荷電粒子を閉じ込めるための一対の電磁石5と、ECRチェンバ100a内にマイクロ波を導入するためのマイクロ波導波管8と、イオン化対象の物質を供給するガス導入口9とを有している。多極(六極)永久磁石6と電磁石5間には、絶縁体22aが配置され、互いに絶縁されている。
【0024】
一対の電磁石5は、ミラーコイルから構成されていても良い。このミラーコイルの電流値は、約500Aであり、最大磁場強度は、例えば、約0.642T、最小磁場強度は、例えば、約0.265Tである。
【0025】
マイクロ波導波管8によって導入されるマイクロ波周波数は、例えば、8〜10GHz程度である。マイクロ波出力パワーは、約50W〜100W、反射パワーは、約10W〜18Wである。また、マイクロ波導波管8によって導入される最大マイクロ波パワーは、約350Wである。
【0026】
尚、ECRチェンバ100aは、フラーレン蒸気導入口7が接続され、フラーレン蒸発用抵抗加熱炉(図示省略)からのフラーレン蒸気が導入可能な構成を備えていても良い。
【0027】
ここで、ガス導入口9から供給されるイオン化対象物質のガス源としては、少なくとも以下の(a)、(b)に示す2種類からなる。
【0028】
(a)常温で気体のガス、例えば、水素、ヘリウム、窒素、酸素、フッ素、ネオン、塩素、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンである。
【0029】
(b)高融点(高昇華点)物質のガス供給のための誘導加熱ガス源であり、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、白金、亜鉛、銅、金、銀、スカンジウム、チタン、マンガン、パラジウム、イットリウム、ルテニウム、ローレンシウムである。
【0030】
また、ECRチェンバ部1aには、低融点(低昇華点)物質のガス供給のための抵抗加熱ガス源として、例えば、フラーレン類、フェロセン類等のガスも導入可能であり、かつそれぞれのガスのECRプラズマを生成可能な構成を備えていても良い。
【0031】
ECRイオン源よるイオン化はマイクロ波放電をきっかけとして起こる。マイクロ波導波管8を介してECRチェンバ100a内にマイクロ波電力を供給すると、荷電粒子がイオンと電子になり、荷電粒子が磁場中でサイクロトロン運動をしながら衝突運動をする。その際、特に電子のサイクロトロン周波数とマイクロ波の周波数が一致する場合に、マイクロ波エネルギーを電子が共鳴的に吸収する電子サイクロトロン共鳴が起こり、電子エネルギーが高いレベルに保持される。このような磁場中でトラップされた電子が中性粒子やイオンと衝突することでイオン化が起こる。
【0032】
電子と同様に磁場中ではイオンもサイクロトロン運動をしている。電子が磁場中でトラップされるようにイオンも磁場中でトラップされている。しかしながら電子に比べてイオンの質量は桁違いに大きいため、トラップの効率は低い。
【0033】
しかしながら、第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50においては、ECRチェンバ100aの内径を、他の一般的なECRイオン源装置よりも大きくしてあるため、イオンの閉じ込め効率も高い。
【0034】
したがって、第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50においては、低圧力で高イオン密度のプラズマを生成できる。これによりイオン注入による原子内包フラーレンなどのフラーレン誘導体の生成効率を高くすることができる。
【0035】
第1の実施の形態に係るECRイオン源装置において、ECRチェンバ100aの内径は、例えば、約10cm〜約15cmであり、長さは、約350mmである。
【0036】
また、ECRイオン源部1の圧力は、例えば、約1.4×10-3(Pa)〜5×10-5(Pa)、ビーム輸送・質量分析部2の圧力は、例えば、約1.4×10-4(Pa)〜3.6×10-5(Pa)、ビーム検出・減速・堆積部3の圧力は、例えば、約7×10-5(Pa)〜9.0×10-5(Pa)である。
【0037】
プロセスチェンバ部1bは、ECRチェンバ部1aとの区切り位置に配置された一対のメッシュ電極(102、104)と、常温では固体で低融点(低昇華点)の物質(フラーレン類)のガスを供給できる蒸発源108と、電圧印加可能なイオンアパーチャ107とを備える。
【0038】
蒸発源108は、例えば、タングステンボート106上に配置されたフラーレンパウダーで形成される。タングステンボート106には、抵抗加熱交流電圧源11が接続されて、タングステンボート106を加熱する構成が採用されている。
【0039】
一対のメッシュ電極(102、104)は、プラズマメッシュ電極102と、イオン引き出しメッシュ電極104から構成される。ECRチェンバ100a側に配置されるプラズマメッシュ電極102は、ECRチェンバ部1aの外壁と同電位になされている。ECRチェンバ部1aの外壁には、図1に示すように、加速電圧Evが印加されていることから、プラズマメッシュ電極102にも加速電圧Evが印加されている。加速電圧Evの値としては、例えば、約5kV以下である。
【0040】
プロセスチェンバ100b側に配置されるイオン引き出しメッシュ電極104にはプラズマメッシュ電極102の電位レベルに対して負のメッシュ電圧Vmが印加される。イオン引き出しメッシュ電極104に印加されるメッシュ電圧Vmは、イオン引き出し直流電圧源10によって供給される。尚、イオン引き出しメッシュ電極104には、イオン引き出し高周波電圧源10aから、高周波信号により変調された電圧が、メッシュ電圧Vmに重畳されて供給されていても良い。
【0041】
このように、イオン引き出しメッシュ電極104にはプラズマメッシュ電極102の電位レベルに対して負のメッシュ電圧Vmが印加されることによって、正電荷をもったイオンのみをECRチェンバ100aから、プロセスチェンバ100bに引き出すことが可能となる。
【0042】
ECRチェンバ100a内で生成されたガスプラズマ90は、プラズマメッシュ電極102およびイオン引き出しメッシュ電極104を通過して、プロセスチェンバ100b内に、ガスイオン92として導入される。尚、イオン引き出しメッシュ電極104に、イオン引き出し高周波電圧源10aから、高周波信号により変調された電圧が供給されている場合には、ECRチェンバ100a内で生成されたガスプラズマ90は、高周波変調された状態で通過して、プロセスチェンバ100b内に、ガスイオン92として導入される。この場合、ガスイオン92には、高周波信号によって供給されたエネルギーレベルの高い状態が保持される。
【0043】
プロセスチェンバ部1bにおいて、イオンアパーチャ107にもプラズマメッシュ電極102の電位レベルに対して負のアパーチャ電圧Vaを印加し、イオンアパーチャ107にイオンを照射させることができる。イオンアパーチャ107に印加するアパーチャ電圧Vaにより、イオンの照射エネルギーを制御することができる。イオンアパーチャ107に印加するアパーチャ電圧Vaは、イオンアパーチャ供給電圧源12から供給される。
【0044】
蒸発源108により生成されたフラーレンガスはイオンアパーチャ107に効率的に堆積させ、それに対しイオンを照射し、イオン注入によりフラーレン誘導体110を生成することができる。ここでフラーレン誘導体110には、原子内包フラーレンやヘテロフラーレンなどが含まれる。
【0045】
第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50のECRチェンバ部1aおよびプロセスチェンバ部1bからなるECRイオン源部1の電位分布は、模式的に図3に示すように表される。図3において、プラスの符号は、イオンを表し、マイナスの符号は、電子を表す。
【0046】
マイクロ波導波管8およびガス導入口9からECRチェンバ部1a内およびプラズマメッシュ電極102までは、図3に示すように、一定電位に保持されている。この一定電位の値は、ECRイオン源部1の外壁に印加される加速電圧Evに等しく、例えば、5kV以下程度である。イオン引き出しメッシュ電極104には、イオン引き出し直流電圧源10が接続されて、Evに対して負電位となるメッシュ電圧Vmが供給されている。さらに、イオンアパーチャ107には、イオンアパーチャ供給電圧源12が接続されて、さらにEvに対して負電位となるアパーチャ電圧Vaが供給されている。結果として、プロセスチェンバ部1b内において、イオン引き出しメッシュ電極104とイオンアパーチャ107間には、Va−Vm=Virrad.の値に等しいイオン照射電圧が印加されている。さらに、イオン引き出し電極112には、イオン引き出し電位13として、例えば、接地電位を供給することによって、イオンアパーチャ107とイオン引き出し電極112間には、外部引き出し電圧Vext.が印加されている。ECRチェンバ部1a、プロセスチェンバ部1bに正の高電圧を印加し、それより下流側全体を接地することにより、イオンアパーチャ107とイオン引き出し電極112との間に電位差を生じさせ、イオンをイオンビーム94として引き出すことができる。引き出したイオンビーム電流値はファラデーカップ114に接続されたピコアンメータ16によって検出する。
【0047】
第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50を用いて形成されるフラーレン誘導体として、原子内包フラーレンの模式的構造は、図4に示すように表される。図4の例は、炭素原子126を配置したC60で表されるフラーレン内に内包原子124からなるイオンが内包された構造を示す。内包原子124からなるイオンは、例えば、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、白金原子、亜鉛原子、銅原子、金原子、銀原子、スカンジウム原子、チタン原子、マンガン原子、パラジウム原子、イットリウム原子、ルテニウム原子、ローレンシウム原子からなるイオンである。
【0048】
尚、フラーレンとしては、C60で表される構造には限定されず、例えば、C70, C74, C76, C78, C84, …、或いはヘテロフラーレンなどのフラーレン誘導体、イオン化フラーレンC60-2nq+(C60+, C58+, C56+,…, C602+, C582+, C562+,…, C603+, C583+, C563+,…)などフラーレン類全般が含まれる。
【0049】
第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50を用いて形成される原子内包フラーレンは、磁気共鳴映像法(MRI:Magnetic Resonance Imaging)の映像媒体、生体内トレース媒体、有機磁性体、有機超伝導体などに応用可能である。
【0050】
(イオン引き出しメッシュ電流Imとメッシュ電圧Vmの関係)
第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50において、イオン引き出しメッシュ電極104に印加されるメッシュ電圧Vmと、イオン引き出しメッシュ電極104を導通するイオン引き出しメッシュ電流Imとの関係は、図5に示すように表される。図5は、イオンアパーチャ107に供給されるアパーチャ電圧Va=0(V)とした時の、イオン引き出しメッシュ電流Imとメッシュ電圧Vmの関係を示している。イオン引き出しメッシュ電流Im=0(mA)となるメッシュ電圧Vmの値は−2(V)程度であり、メッシュ電圧Vmの最適値は、約−2(V)であることがわかる。
【0051】
(イオンアパーチャ電流Iaとアパーチャ電圧Vaの関係)
第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50において、イオンアパーチャ107に印加されるアパーチャ電圧Vaと、イオンアパーチャ107を導通するイオンアパーチャ電流Iaとの関係は、図6に示すように表される。図6は、メッシュ電圧Vm=−2(V)とした時の、イオンアパーチャ電流Iaとアパーチャ電圧Vaの関係を示している。イオンアパーチャ電流Ia>0となる条件より、イオン注入を引き起こすために必要なアパーチャ電圧Vaは、−10(V)以下であることがわかる。
【0052】
(ファラデーカップ電流Ifとアパーチャ電圧Vaの関係)
第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50において、ファラデーカップ114に接続されたピコアンメータ16において測定されるファラデーカップ電流Ifとアパーチャ電圧Vaの関係は、図7に示すように表される。図7は、メッシュ電圧Vm=−2(V)とした時の、ファラデーカップ電流Ifとアパーチャ電圧Vaの関係を示している。ファラデーカップ電流Ifの最大値は、メッシュ電圧Vm=−2(V)、アパーチャ電圧Va=0(V)の時に得られることがわかる。
【0053】
(ボート印加電流IBとボート温度Tの関係)
第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50において、タングステンボート106に供給されるボート印加電流IBとボート温度Tの関係は、図8に示すように表される。図8の領域Aの近傍から明らかなように、ボート印加電流IB=37〜40(A)において、ボート温度T=350〜400(℃)が得られることがわかる。
【0054】
(ビーム輸送・質量分析部)
第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50は、図1に示すように、イオンビーム引き出し・検出部2aの下流側に配置された質量分離用電磁石17を有するイオンビーム質量分析部2bを備え、イオンビームの質量分析を行うことができる。
【0055】
イオンビーム質量分析部2bは、質量電荷比2000までのイオンを輸送可能である。
【0056】
質量分離用電磁石17は、質量電荷比2000までのイオンを輸送可能とする分析用扇形磁石半径を有し、扇形磁石磁場を発生することができる。
【0057】
ビーム輸送・質量分析部2は、図1に示すように、イオン引き出し電極112,アインツェルレンズ118,スリット15,ファラデーカップ114からなるイオンビーム引き出し・検出部2aと、質量分離用電磁石17からなるイオンビーム質量分析部2bとを備える。尚、図1において、イオンビーム引き出し・検出部2a内の参照番号22bは、絶縁体を示し、絶縁体22bによって、イオンビーム引き出し・検出部2aにおける前後は、絶縁されている。
【0058】
イオン引き出し電極112には、例えば、接地電位となるイオン引き出し電位13が供給されている。
【0059】
アインツェルレンズ118は、アインツェルレンズ供給電圧源14に接続されている。アインツェルレンズ供給電圧源14から供給される電圧値は、例えば、約5.1kVであり、電流値は、略0.0mAである。
【0060】
スリット15には、上下、左右からイオンビームを絞る工夫が施されている。スリット15のスリット幅は、例えば、約10mmである。
【0061】
ファラデーカップ114には、ピコアンメータ16が接続されており、ピコアンメータ16の電流値を計測することによって、イオンビーム電流値を測定することができる。実際に質量分析する際には、ファラデーカップ114は取り外される。質量分離用電磁石17によって、生成されたイオンを質量分析することができる。
【0062】
イオンビーム質量分析部2bは、5keVのイオンビームについて、質量電荷比2000までのイオンを輸送可能である。
【0063】
質量分離用電磁石17は、質量電荷比2000までのイオンを輸送可能とする分析用扇形磁石半径を有し、扇形磁石磁場を発生することができる。
【0064】
(ビーム検出・減速・堆積部)
第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50は、図1に示すように、イオンビーム質量分析部2bの下流側に配置され、質量分析後のイオンビームを検出し、前記イオンビームを減速し、イオンビーム堆積を行うビーム検出・減速・堆積部3を備える。
【0065】
ビーム検出・減速・堆積部3は、質量分離用電磁石17の下流側に配置されたスリット18と、スリット18の下流側に配置され、減速用高圧電圧源20に接続された減速用電極120と、減速用電極120上に配置され、イオンビームを堆積する堆積基板122とを備える。
【0066】
ビーム検出・減速・堆積部3は、図1に示すように、スリット18と、ファラデーカップ128と、減速用電極120上に配置された堆積基板122とを備える。スリット18には、上下、左右から質量分析されたイオンビームを絞る工夫が施されている。スリット18のスリット幅は、例えば、約10mmである。
【0067】
ファラデーカップ128には、ピコアンメータ19が接続されており、ピコアンメータ19の電流値を計測することによって、質量分析されたイオンビーム電流値を測定することができる。実際に堆積する際には、ファラデーカップ128は取り外される。減速用電極120には、減速用高圧電圧源20が接続され、正の電位が供給されることによって、質量分析されたイオンビームを堆積基板122上にソフトランディングさせることができる。堆積基板122としては、例えば加工の容易な導電性シリコン基板などを適用することができる。
【0068】
第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50は、図1に示すように、イオンビーム輸送に必要なイオン光学系と質量電荷比により質量分離するための扇形構造の質量分離用電磁石17と、イオン電流値検出のためのファラデーカップ128と、質量分析後イオンビームの減速のための減速用電極120と、イオンビーム堆積のための堆積基板122と、堆積基板122を固定する基板ホルダ(図示省略)を装備している。この装置構成によりイオンアパーチャ107からイオン引き出し電極112により引き出したイオンビームを扇形構造の質量分離用電磁石17により質量分離することが可能となり、任意の質量電荷比のイオンを分析し、減速用電極120によりイオンビームを減速させ堆積基板122上に任意のイオンビームの堆積を行うことが可能となる。
【0069】
(変形例1)
第1の実施の形態の変形例1に係るECRイオン源装置50aのECRチェンバ部1a、プロセスチェンバ部1bおよびイオンビーム引き出し・検出部2a部分の模式的拡大構成は、図9に示すように表される。図9に示すように、ECRチェンバ部1aの後部にプロセスチェンバ部1bが配置され、また、プロセスチェンバ部1bの後部にイオンビーム引き出し・検出部2aが配置されている。
【0070】
第1の実施の形態の変形例1に係るECRイオン源装置50aは、図9に示すように、プロセスチェンバ部1bの内壁全体を加熱するヒータ116を備え、プロセスチェンバ部1b内でフラーレンがガスとして存在し続ける確率が高めている。
【0071】
第1の実施の形態の変形例1に係るECRイオン源装置50aは、フラーレンガスに対するイオン注入を行う装置の改良例であり、図9に示すように、イオン引き出しメッシュ電極104を除くプロセスチェンバ100bの内壁全体を加熱できる機構としてヒータ116を導入した点に特徴を有する。その他の構成は、第1の実施の形態に係るECRイオン源装置と同様であるため、重複説明は省略する。
【0072】
イオン引き出しメッシュ電極104を除くプロセスチェンバ100bの内壁全体を加熱できる加熱機構として、例えば、ヒータ116を導入したことによって、プロセスチェンバ100b内でフラーレンがガスとして存在し続ける確率が高くなる。このため、フラーレンがプロセスチェンバ100bの内壁やイオンアパーチャ107へ堆積することなく、ECRチェンバ部1a内で生成したガスプラズマ90をガスイオン92として抽出し、フラーレンガス93に対して、イオン注入を行うことができる。蒸発源108により生成されたフラーレンガス93に対して、イオン注入によりフラーレン誘導体110を生成することができる。その結果として、フラーレン誘導体の収集量を高めることができる。ここでフラーレン誘導体には、原子内包フラーレンやヘテロフラーレンなどが含まれる。
【0073】
第1の実施の形態の変形例1に係るECRイオン源装置50aにおいても、第1の実施の形態と同様のイオンビーム質量分析部2bおよびビーム検出・減速・堆積部3を適用することができるため、重複説明は省略する。
【0074】
(変形例2)
第1の実施の形態の変形例2に係るECRイオン源装置50bのECRチェンバ部1a、プロセスチェンバ部1bおよびイオンビーム引き出し・検出部2a部分の模式的拡大構成は、図10に示すように表される。図10に示すように、ECRチェンバ部1aの後部にプロセスチェンバ部1bが配置され、また、プロセスチェンバ部1bの後部にイオンビーム引き出し・検出部2aが配置されている。
【0075】
第1の実施の形態の変形例2に係るECRイオン源装置50bは、図10に示すように、プロセスチェンバ部1bに、マイクロ波導波管93aを配置し、フラーレンガス93をプラズマ化したフラーレンガスプラズマ93bを生成し、当該フラーレンガスプラズマ93bとECRチェンバ部1a内で生成したガスプラズマ90のイオンとの衝突反応を促進させている。
【0076】
第1の実施の形態の変形例2に係るECRイオン源装置50bは、図10に示すように、プロセスチェンバ100bに、マイクロ波導波管93aを配置し、フラーレンガス93をプラズマ化したフラーレンガスプラズマ93bを生成できる点に特徴を有する。第1の実施の形態の変形例2に係るECRイオン源装置50bにおいては、フラーレンガスプラズマ93bとECRチェンバ100aで生成したガスプラズマ90のイオンとの衝突反応を行うことができる。その他の構成は、第1の実施の形態に係るECRイオン源装置50と同様であるため、重複説明は省略する。
【0077】
マイクロ波導波管93aにより導入されるマイクロ波の周波数は、例えば、約2.45GHzである。2.45GHzとする理由は、無磁場でもフラーレンガスプラズマ93bを生成可能なため、マイクロ波導波管8によるECRチェンバ部1a内のプラズマ生成条件とプロセスチェンバ部1b内のプラズマ生成条件を独立に制御可能となるからである。だたし、多極(六極)永久磁石6と一対の電磁石5の磁場により、プロセスチェンバ100b内でECR点を作ることも可能である。
【0078】
第1の実施の形態の変形例2に係るECRイオン源装置50bにおいては、イオン−イオン衝突反応により生成した物質のイオンをイオンビームとして引き出すことが可能である。その結果として、フラーレン誘導体の収集量を高めることができる。また、フラーレンイオン、ECRイオン源によるイオン、生成物イオンそれぞれの定量評価が可能であり、生成収率等も算出可能である。
【0079】
第1の実施の形態の変形例2に係るECRイオン源装置50bにおいては、イオン−イオン衝突反応により生成した物質のイオンには、原子内包フラーレンイオン、フラーレン誘導体イオンやヘテロフラーレンイオンなどが含まれる。
【0080】
第1の実施の形態の変形例2に係るECRイオン源装置50bにおいても、第1の実施の形態と同様のイオンビーム質量分析部2bおよびビーム検出・減速・堆積部3を適用することができるため、重複説明は省略する。
【0081】
本発明の第1の実施の形態およびその変形例によれば、ECRイオン源は荷電粒子の閉じ込め効果が高いため、低圧力下でも安定して高強度のイオンを供給できる。これはイオン注入効率を高め、生成物への不純物の混入も最小限に抑えることができる。また、生成と同時に生成物を分析することができる。
【0082】
本発明の第1の実施の形態およびその変形例によれば、ECRチェンバで生成したイオンをフラーレンに対してイオン注入し、フラーレン誘導体を生成すると同時に、ECRチェンバで生成したイオンもしくはフラーレン誘導体イオンをイオンビームとして引き出し、分析する電子サイクロトロン共鳴イオン源装置を提供することができる。
【0083】
本発明の第1の実施の形態およびその変形例によれば、ECRイオン源を用いて、原子内包フラーレンを容易に形成し、かつイオンビームとして引き出し、分析する電子サイクロトロン共鳴イオン源装置を提供することができる。
【0084】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1の実施の形態およびその変形例によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0085】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置を用いて形成される原子内包フラーレンは、MRIの映像媒体、生体内トレース媒体、有機磁性体、有機超伝導体などに適用可能であることから、本発明の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置は、ナノテクノロジー・材料科学分野に適用可能であり、医療分野・ナノエレクトロニクス分野等の幅広い適用分野がある。
【符号の説明】
【0087】
1…ECRイオン源部
1a…ECRチェンバ部
1b…プロセスチェンバ部
2…ビーム輸送・質量分析部
2a…イオンビーム引き出し・検出部
3…ビーム検出・減速・堆積部
5…電磁石
6…多極(六極)永久磁石
7…フラーレン蒸気導入口
8、93a…マイクロ波導波管
9…ガス導入口
10…イオン引き出し直流電圧源
10a…イオン引き出し高周波電圧源
11…抵抗加熱交流電圧源
12…イオンアパーチャ供給電圧源
13…イオン引き出し電位
14…アインツェルレンズ供給電圧源
15、18…スリット
16、19…ピコアンメータ
17…質量分離用電磁石
20…減速用高圧電圧源
22a,22b…絶縁体
50、50a、50b…電子サイクロトロン共鳴(ECR)イオン源装置
90…ガスプラズマ
92…ガスイオン
93…フラーレンガス
93b…フラーレンガスプラズマ
94…イオンビーム
100a…ECRチェンバ
100b…プロセスチェンバ
102…プラズマメッシュ電極
104…イオン引き出しメッシュ電極
106…タングステンボート
107…イオンアパーチャ
108…蒸発源
110…フラーレン誘導体
112…イオン引き出し電極
114、128…ファラデーカップ
116…ヒータ
118…アインツェルレンズ
120…減速用電極
122…堆積基板
124…内包原子
126…炭素原子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で気体の物質と、高融点の物質それぞれのガスを導入可能でかつ前記それぞれのガスのECRプラズマを生成可能なECRチェンバ部と、
前記ECRチェンバ部の下流側に配置され、フラーレンガスを供給可能な蒸発源を有するプロセスチェンバ部と、
前記ECRチェンバ部と前記プロセスチェンバ部との間に配置され、前記ECRチェンバ部内で生成された前記それぞれのガスのECRプラズマを抽出するメッシュ電極と、
前記プロセスチェンバ部の下流側に配置され、電圧印加可能なイオンアパーチャ
とを備え、前記メッシュ電極と前記イオンアパーチャへの印加電圧を制御することにより、前記ECRプラズマのプラズマポテンシャルを制御し、前記ECRプラズマからイオンのみを前記プロセスチェンバ部へ抽出することを特徴とする電子サイクロトロン共鳴イオン源装置。
【請求項2】
前記ECRプラズマから抽出されたイオンは、前記プロセスチェンバ部内において、前記蒸発源から蒸発したフラーレン中性粒子にイオン注入されることを特徴とする請求項1に記載の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置。
【請求項3】
前記イオンアパーチャの下流側に配置され、前記ECRチェンバ部で生成したイオンおよび前記フラーレン中性粒子にイオン注入されたフラーレン誘導体イオンをイオンビームとして抽出可能なイオン引き出し電極と、前記イオン引き出し電極の下流側に配置され、イオンビーム電流を検出するファラデーカップとを有するイオンビーム引き出し・検出部を備え、
前記フラーレン中性粒子にイオン注入すると同時に、前記フラーレン誘導体イオンをイオンビームとして引き出し・検出することを特徴とする請求項1に記載の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置。
【請求項4】
前記イオン引き出し電極と前記ファラデーカップとの間には、アインツェルレンズと、スリットを備えることを特徴とする請求項3に記載の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置。
【請求項5】
前記常温で気体の物質のガスは、水素、ヘリウム、窒素、酸素、フッ素、ネオン、塩素、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンのいずれかであり、前記高融点の物質のガスは、鉄、コバルト、ニッケル、白金、亜鉛、銅、金、銀、スカンジウム、チタン、マンガン、パラジウム、イットリウム、ルテニウム、ローレンシウムのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置。
【請求項6】
前記ECRチェンバ部は、低融点の物質のガスとして、フラーレン類、フェロセン類のガスも導入可能でかつ前記それぞれのガスのECRプラズマを生成可能であることを特徴とする請求項1に記載の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置。
【請求項7】
前記フラーレンガスは、C60で表される構造には限定されず、ヘテロフラーレン、イオン化フラーレンなどのフラーレン誘導体のガスが含まれることを特徴とする請求項1に記載の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置。
【請求項8】
前記ECRプラズマから抽出され、前記プロセスチェンバ部内において、前記蒸発源から蒸発したフラーレン中性粒子にイオン注入されるイオンは、水素原子、ヘリウム原子、窒素原子、酸素原子、フッ素原子、ネオン原子、塩素原子、アルゴン原子、クリプトン原子、キセノン原子、ラドン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、白金原子、亜鉛原子、銅原子、金原子、銀原子、スカンジウム原子、チタン原子、マンガン原子、パラジウム原子、イットリウム原子、ルテニウム原子、ローレンシウム原子のいずれかのイオンであることを特徴とする請求項2に記載の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置。
【請求項9】
前記イオンビーム引き出し・検出部の下流側に配置された質量分離用電磁石を有するイオンビーム質量分析部を備え、イオンビームの質量分析を行うことを特徴とする請求項3に記載の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置。
【請求項10】
前記イオンビーム質量分析部は、質量電荷比2000までのイオンを輸送可能であることを特徴とする請求項3に記載の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置。
【請求項11】
前記質量分離用電磁石は、質量電荷比2000までのイオンを輸送可能とする分析用扇形磁石半径を有し、扇形磁石磁場を発生することを特徴とする請求項9に記載の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置。
【請求項12】
前記イオンビーム質量分析部の下流側に配置され、質量分析後のイオンビームを検出し、減速し、堆積を行うビーム検出・減速・堆積部を備えることを特徴とする請求項9に記載の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置。
【請求項13】
前記ビーム検出・減速・堆積部は、前記質量分離用電磁石の下流側に配置されたスリットと、前記スリットの下流側に配置され、減速用高圧電圧源に接続された減速用電極と、前記減速用電極上に配置され、前記質量分析後のイオンビームを堆積する堆積基板とを備えることを特徴とする請求項12に記載の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置。
【請求項14】
前記プロセスチェンバ部の内壁全体を加熱するヒータを備え、前記プロセスチェンバ部内でフラーレンがガスとして存在し続ける確率を高めたことを特徴とする請求項1に記載の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置。
【請求項15】
前記プロセスチェンバ部に、マイクロ波導波管を配置し、フラーレンガスをプラズマ化したフラーレンガスプラズマを生成し、当該フラーレンガスプラズマと前記ECRチェンバ部で生成したガスプラズマのイオンとの衝突反応を行うことを特徴とする請求項1に記載の電子サイクロトロン共鳴イオン源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−277871(P2010−277871A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129921(P2009−129921)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年3月30日 社団法人応用物理学会発行の「2009年(平成21年)春季 第56回応用物理学関係連合講演会予稿集 第2分冊」に発表
【出願人】(501061319)学校法人 東洋大学 (68)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】