説明

電子スリップ制御可能な車両用制動システムを制御するための方法

本発明は電子的なスリップ制御が可能な車両用制動システムを制御するための方法に関し、ブレーキマスターシリンダと、少なくとも1つのホイールブレーキを備え、ブレーキ径路と、電子制御機器と、該電子制御機器によって駆動制御可能なバルブユニットと、駆動モータを操作するための油圧発生器と、ブレーキマスターシリンダの操作を検出する少なくとも1つのセンサ素子と、ホイールブレーキの制動圧を変調するためのバルブユニットと、圧力媒体リザーバを含んでいる。ここではブレーキマスターシリンダの操作を用いて自動的な制動過程の間に少なくとも1つのバルブユニットがホイールブレーキにおける制動圧の変調のために駆動制御され、それによってホイールブレーキから圧力媒体が圧力媒体リザーバへ流出されさらに油圧発生器の駆動モータの駆動制御も行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念による、電子的なスリップ制御が可能な車両用制動システムを制御するための方法に関している。
【背景技術】
【0002】
電子スリップ制御可能な車両用制動システムは従来技術の1つに数えられている。このドライバの意志に係わらず車両の個々の車輪を制動させる公知の車両用制動装置には、例えば車両の安定した走行状態を維持するための電子制御式車両安定性制御システム(VSC)や、駆動輪のスリップ状態を解消するための電子制御式車両スリップ制御システム(TRC)、または先行車との適切な車間距離又はそのための適切な速度を実現するオートクルーズコントロールシステム(ACC)などがある。この種の車両用制動システムの公知の構造は図1に示されている。
【0003】
図1の電子的なスリップ制御が可能な車両用制動システムは、フットペダルないしフットブレーキペダル12毎にドライバによって操作可能なブレーキ倍力装置10とこれに後置接続されているブレーキマスターシリンダ14を含んでいる。このブレーキマスターシリンダ14には、同じタイプの2つの油圧式ブレーキ径路16,18が接続されている。各ブレーキ径路16,18は、それぞれ2つのホイールブレーキ20,22;24,26の操作のために用いられている。これらのホイールブレーキ20〜26内で予め占められている制動圧の変調は、電子制御機器28によって駆動制御されるソレノイドバルブを用いて行われる。それに対して各ホイールブレーキ20〜26の上流側油圧径路には、圧力形成を可能にする増圧バルブ30が設けられており、また各ホイールブレーキ20〜26の下流側油圧径路には圧力低減を可能にする減圧バルブ32が設けられている。ブレーキ径路16,18の減圧バルブの排出側は共通の還流管路34に開口している。この還流管路34には圧力媒体リザーバ36が接続されている。前記還流管路34は圧力発生器38の吸入側に通じている。この圧力発生器38は、駆動制御可能な駆動モータ39によって操作され、高圧下の圧力媒体をホイールブレーキ20〜26の増圧バルブ30若しくはブレーキマスターシリンダ14に供給する。
【0004】
圧力発生器38の吸入側はさらに吸入管路40に接続されている。この吸入管路40は、圧力媒体リザーバ36から供給される圧力媒体の体積が所要の制動圧の形成にはまだ不十分であると判断されたときに、油圧発生器38をブレーキマスターシリンダ14に接続させる。この吸入管路40はいわゆる高圧切替弁42によって制御可能である。
【0005】
さらに各ブレーキ径路16,18はいわゆる切替弁44を備えている。この切替弁はブレーキマスターシリンダ14と増圧バルブ30の間に接続されており、これは自動制動過程の場合のホイールブレーキ20〜26からブレーキマスターシリンダ14への油圧径路の遮断に用いられている。
【0006】
ソレノイドバルブは電子的に駆動制御されていない状態において図1に示されているような基本位置をとる。ブレーキ径路16,18の高圧切替弁42と減圧バルブ32は遮断位置にあり、それに対して切替弁44と増圧バルブ30は通流位置または開放位置をとる。これによりドライバによるフットブレーキペダル12の操作によって、ホイールブレーキ20〜26における制動圧の形成が踏力毎に可能となる。
【0007】
制動圧の変調、例えば車両の複数の車輪のうちの1つの制動圧が油圧媒体の供給によって過度に高まり、ホイルロックを引き起こしそうになった場合の制動圧の変調に対しては、該当する車輪のブレーキ径路16,18の増圧バルブ30が電子制御機器28によって駆動制御され、その遮断位置に切替えられる。それと同時に減圧バルブ32がその開放位置にもたらされ、油圧発生器38の駆動モータ39が駆動制御される。該当するホイールブレーキ20〜26からの圧力媒体は、これによってそれまで空だった圧力媒体リザーバ36に流出し、その中に一時的に蓄えられる。同時にこの圧力媒体は、圧力媒体リザーバ36から油圧発生器38によって吸い取られる。ホイールブレーキ20〜26内の減圧は、ホイルロックした車輪が再び回転運動を再開するまで行われる。このことはホイール回転数センサ(図示せず)に基づいて検出可能である。このセンサからはその測定信号が電子制御機器28に供給される。減圧された圧力媒体は、油圧発生器38によって圧縮され、ブレーキ径路16,18の閉じられた増圧バルブ30の方向に移動するか若しくはブレーキマスターシリンダ14に戻される。それにより、その後の生じ得る制動圧増加の際に再び利用され得る。
【0008】
前述してきた車両用制動システムは、ドライバの意志に依存することなく、つまりフットブレーキペダル12の操作に依存することなく、自動的に制動過程を行うことが可能なものである。この自動的な制動過程においては、切替弁44が電子制御機器28によって遮断位置に切り替えられ、それに伴い、目下形成されているブレーキマスターシリンダ14とホイールブレーキ20,22;24,26との間の油圧接続が中断される。ここでの制動圧の形成は、油圧発生器38の駆動モータ39の駆動制御だけで行われる。例えばドライバが、そのような自動制動過程の期間中の制動圧を、システムによって設定された制動圧よりも高めようとしてフットブレーキペダル12を付加的に操作した場合には、ドライバは通常の常用ブレーキ動作に対して変更されたペダル操作特性(踏力/距離−特性曲線)による不快な感触を知覚しなければならない。このときドライバは、車両制動システムにおいて既に油圧発生器38によって形成された制動圧のための遮断位置に保たれた切替弁44との接続と、高圧切替弁42の開放を介した油圧発生器38による圧力媒体の比較的僅かな吐出量に基づいて、通常の常用ブレーキングのときよりも堅くなった感じのペダル感覚を知覚してしまう。
【0009】
しかしながらフットブレーキペダル12のペダル操作特性(踏力/距離特性曲線)は、車両用制動システムのそのつどの作動状態に依存して様々に異なってしまうため、制動圧の細かい調量は難儀であり、ドライバをいらだたせる。
【0010】
それ故に本発明の課題は、自動的な制動過程中の車両用制動システムを操作するための方法において、少なくとも通常の常用ブレーキ動作過程の場合とほぼ同じ、フットブレーキペダル12のペダル操作特性(踏力/距離特性曲線)が簡単に得られるように改善を行うことである。
【0011】
前記課題は請求項1の特徴部分に記載の本発明によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】電子制御式のスリップ制御が可能な公知の車両用制動システムの油圧系統を概略的に示した図
【図2】図1と同様の車両用制動システムにおいて自動的な制動過程中に同時にフットブレーキペダル12も操作されているケースを表した図
【図3】本発明による駆動制御方法を説明するためのフローチャート
【0013】
発明の開示
本発明によれば、車両用制動システムにおいて特別な油圧構成要素を何ら必要とさせることなく、車両用制動システムのあらゆる作動状態において、少なくともほぼ同じペダル操作特性がいつでも達成される利点が得られる。また油圧装置の製造についても、電子制御式のスリップ制御が可能な公知の車両用制動システムに通常用いられている装置がそのまま利用でき、特別な付加的手段を講じる必要はない。さらに本発明によれば、車両用制動システムのその他のブレーキング制御機能との不所望な相互作用が起きる心配もない。本発明によれば、車両用制動システムの全ての作動条件のもとで、少なくともほぼ同じペダル操作特性が、制御技術的な手段のみで達成され得る。このことにより、本発明は非常に低コストでの提供が可能である。
【0014】
以下の明細書では、従属請求項にも記載されている本発明のさらなる利点若しくはさらなる有利な構成を詳細に説明する。
【0015】
実施例の説明
電子制御式のスリップ制御が可能な車両用制動システムの個々の構成要素については既に図1の説明に関連して説明してきているので、以下の明細書では、図1で使用した参照符号をそのまま利用して図2及び図3の実施例を説明する。
【0016】
既に図1に基づいて基本構成が説明してある、図2による車両用制動システムでは、自動的な制動過程が作動している状態にあるものとする。この作動状態は、特に次のことによって特徴付けられる。すなわち、切替弁44が電子制御機器28によって駆動制御され、その遮蔽位置に切り替えられている。それによりこの切替弁44は、ブレーキ径路16,18のホイールブレーキ20〜26と、ブレーキマスターシリンダ14との間の油圧接続を中断させる。さらに高圧切替弁40も電子制御機器28によって駆動制御され、それによってこの弁は通流位置におかれる。これにより、油圧発生器38の吸入側がブレーキマスターシリンダ14と接続される。駆動制御された油圧発生器38は、付加的な圧力媒体をブレーキマスターシリンダ14から吸入し、それを制動圧形成のために圧縮する。油圧発生器38の圧力側は、基本位置として開いた状態の増圧バルブ30を介してブレーキ径路16,18のホイールブレーキ20〜26と接続し、それに対して減圧バルブ32は、制動圧の形成を許容するために最初は閉じられた位置にある。圧力媒体リザーバ36内に圧力媒材は存在せず、圧力媒体リザーバ36とホイールブレーキ20〜26の接続は閉じられた減圧バルブ32のために形成されない。フットブレーキペダル12がドライバによって操作されていない場合には、制動圧の形成は圧力発生器38の操作のみから行われる。
【0017】
図3に示されている本発明による方法の第1のステップ50では、本願の車両用制動システムの自動的な制動過程が、前述したような各構成要素に対する電子的な駆動制御信号に基づいて確定される。
【0018】
ここで実施されている自動的な制動過程の作動期間中に、ドライバがさらに強力な制動過程を望み、このドライバによってフットブレーキペダル12のさらなる付加的な操作がなされた場合には、フットブレーキペダル12のその操作が例えば圧力センサ46を用いて識別される。この圧力センサ46は、ブレーキマスターシリンダ14と切替弁44ないし高圧切替弁42との間の少なくとも1つのブレーキ径路16,18に組み込まれたものである。前記圧力センサ46は、フットブレーキペダル12の操作に起因する、ブレーキ径路16,18の該当部分の圧力上昇を検出し、それが記憶される。ここでは前記圧力センサの代わりに、フットブレーキペダル12に結合させてその操作距離を検出する距離センサが用いられてもよい。それに使用されるセンサ46の出力信号は(これはドライバに望まれている車両減速度にも比例している)、電子制御機器28に供給され、そこで評価される。
【0019】
前記2つのステップ50、52が、電子制御機器28においてポジティブな結果に導かれた場合には、制御機器28は、ブレーキ径路16,18内に存在する減圧バルブ32の少なくとも1つを駆動制御し、それを通流位置へ切り替える(ステップ54)。それにより、付加された制動圧のもとで圧力媒体がホイールブレーキ20〜26から圧力媒体リザーバ36へ流出する。それと同時にホイールブレーキ20〜26内で想定される圧力低下を回避するために、減圧バルブ32に対する駆動制御信号を用いて油圧発生器38の駆動モータ39も駆動制御される(ステップ56)。この場合の油圧発生器38の駆動モータ39に対する駆動制御信号は、電子制御機器28によって次のように算出される。すなわちその際に生じる車両減速度が、ブレーキマスターシリンダ14の操作に相応する車両減速度、若しくはマスタシリンダ14の操作前に生じていた車両減速度からの最大値に相応するように算出される(ステップ58)。代替的に電子制御機器28によって行われるバルブユニット30,32の駆動制御と油圧発生器38の駆動モータ39の駆動制御を相互に調整して、車両減速度がブレーキマスターシリンダ14の操作に相応して生じるようにすることも可能である。
【0020】
機能的には減圧バルブ32の少なくとも1つの駆動制御による制動圧下に置かれたブレーキ径路16,18に圧力媒体リザーバ36の油圧容量が結び付けられる。この圧力媒体リザーバ36に流出する圧力媒体は、油圧発生器38の操作によって補償される。この油圧発生器38の操作はフットブレーキペダル12の操作距離にも作用する。
【0021】
本発明の第1の実施形態によれば、プロポーショナルバルブとして構成された減圧バルブ32が用いられ、それに応じて電子制御機器28によりその遮蔽位置と通流位置の間で複数の任意の中間位置へもたらすことが可能になる。その場合には還流管路34において種々の大きさの通流断面が利用される。このようなプロポーショナルバルブ方式の減圧バルブ32の適用は、電子制御機器28によって実施される減圧バルブ32の駆動制御信号の変調により、様々なペダル操作特性(踏力/距離特性曲線)の実現を可能にする。
【0022】
本発明の第2の実施形態によれば、切替弁として従来方式で構成された減圧バルブ32が用いられる。このバルブはクロック制御が可能であり、低コストでもある。従ってこのケースの場合の所望のペダル操作特性は、電子制御機器28による減圧弁32の開放時間の制御とクロック周波数の変更によって可変に設定できる。
【0023】
さらに本発明による方法を用いれば、車両用制動システムの選択された減圧バルブ32のみの駆動制御が滞りなく行える。例えば車両のリアアクスルのホイールブレーキ20,26の減圧バルブ32のみが駆動制御される場合、一方では、リアアクスルのホイールブレーキ20,26への制動圧が、特に速度の適応化と車間距離制御(オートクルーズコントロール;ACC)の間は非常に低くなるが、他方では、油圧発生器38を介してフロントアクスルのホイールブレーキ22,24に制動圧形成をもたらす圧力媒体体積が供給されるため、車両の総減速度に対する作用がドライバに不快に感じられることはない。
【0024】
もちろん前記実施例においては、本発明の基本的な考察から逸脱することなく、さらなる補足や改善構成も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバによって少なくとも間接的に操作可能なブレーキマスターシリンダ(14)と
少なくとも1つのホイールブレーキ(20,22;24,26)を備え前記ブレーキマスターシリンダ(14)に接続されているブレーキ径路(16,18)と、
電子制御機器(28)と、
車両用制動システムのホイールブレーキ(20〜26)における制動圧を変調するために前記電子制御機器(28)によって駆動制御可能なバルブユニット(30,32)と、
前記電子制御機器(28)によって駆動制御可能な駆動モータ(39)を操作するための油圧発生器(38)と、
ブレーキマスターシリンダ(14)の操作を検出する少なくとも1つのセンサ素子(46)と、
ホイールブレーキ(20〜26)における制動圧を変調するためのバルブユニット(30,32)と前記油圧発生器(38)の吸入側との間に設けられている圧力媒体リザーバ(36)とを含んでいる、電子的なスリップ制御が可能な車両用制動システムを制御するための方法において、
ブレーキマスターシリンダ(14)の操作を用いて、自動的な制動過程の間に、少なくとも1つのバルブユニット(30,32)が、ホイールブレーキ(20〜26)における制動圧の変調のために駆動制御され、
前記駆動制御によってホイールブレーキ(20〜26)から圧力媒体が圧力媒体リザーバ(36)へ流出し、それと平行して油圧発生器(38)の駆動モータ(39)の駆動制御も行われるようにしたことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電子制御機器(28)によってバルブユニット(30,32)の駆動制御と油圧発生器(38)の駆動モータ(39)の駆動制御が相互に調整され、該調整によって、ブレーキマスターシリンダ(14)の操作に相応する車両減速度若しくはマスタシリンダ(14)の操作前に生じていた車両減速度からの最大値に相応する車両減速度が得られる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記電子制御機器(28)によってバルブユニット(30,32)の駆動制御と油圧発生器(38)の駆動モータ(39)の駆動制御が相互に調整され、該調整によって、ブレーキマスターシリンダ(14)の操作に相応する車両減速度が得られる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記バルブユニット(30,32)は、ホイールブレーキ(20〜26)の制動圧を変調するために、前記制御機器(28)によって駆動制御可能な少なくとも1つのプロポーショナルバルブを含んでいる、請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記バルブユニット(30,32)は、ホイールブレーキ(20〜26)の制動圧を変調するために、前記制御機器(28)によってクロック制御可能な少なくとも1つの切替弁を含んでいる、請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記バルブユニット(30,32)は、ホイールブレーキ(20〜26)の制動圧を変調するために、ホイールブレーキよりも上流の油圧径路に設けられている増圧バルブ(30)と、ホイールブレーキよりも下流の油圧径路に設けられている減圧バルブ(32)を含んでいる、請求項1から5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記バルブユニット(30,32)は、車両のアクスル、特にリアアクスルのホイールブレーキ(20〜26)の制動圧を変調するために単独で駆動制御される、請求項1から4いずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−515271(P2011−515271A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501158(P2011−501158)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/050882
【国際公開番号】WO2009/118208
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】