説明

電子デバイス用誘電体

【課題】 高温超伝導フィルタに適した高Qf値を有する電子デバイス用誘電体を提供する。
【解決手段】 組成式を(1-X)LaAlO3-XSrTiO3と表し、0<X≦0.2を満足し、誘電率が24以上、Qf値が300,000GHz以上の誘電体特性を有する複合酸化物の単結晶材料の(110)面を電界面としたことを特徴とする電子デバイス用誘電体。この電子デバイス用誘電体は、準ミリ波以上の高周波帯域で誘電体材料としてQf値が大幅に向上するとともに高温超伝導フィルタに適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、準マイクロ波、マイクロ波・ミリ波領域において、通信用フィルタ、発信器などに用いられる電子デバイス用誘電体に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体材料は、マイクロ波、ミリ波等の高周波領域において広く利用されている。これらに要求される特性としては、特に、高周波での誘電損失が小さいこと、すなわち高Qf値を有することが要求される。
【0003】
このような高周波用誘電体材料として、LaAlO3-SrTiO3系誘電体磁器(特許文献1)が提案されている。この材料は、原料となる酸化物粉末を仮焼後、粉砕、成形を経て焼結することによって得られ、その構造は、LaAlO3-SrTiO3固溶体からなるペロブスカイト型結晶を主相とする多結晶体である。
【0004】
一方、高周波用高温超伝導フィルタなどに用いられる材料として、MgO単結晶やLaAlO3単結晶が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-71171号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】MWE 2000 Microwave Workshop Digest 337-340 「High Temperature Superconducting Filter For Wireless Base Station」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、通信周波数の高周波化が進むにつれ、電子デバイスにおける損失の低減が要求されている。また、準ミリ波以上の高周波帯域では、誘電体の損失が電子デバイスの損失へ強い影響を与えるため、誘電体材料の高Qf化が望まれている。
【0008】
しかしながら、特許文献1にかかるLaAlO3-SrTiO3系誘電体磁器は、高いQf値を有するものの、多結晶体であるため、高温超伝導フィルタに用いることはできない。
【0009】
また、MgO単結晶は大気中の水分と反応して劣化し易いため、耐久性に劣るという問題がある。さらに、LaAlO3単結晶は、耐久性には優れるものの、現状のQf値ではMgO単結晶の値より低いという問題がある。
【0010】
この発明は、従来の誘電体材料が有する問題を解決し、高Qf値を有する電子デバイス用誘電体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、高Qf値を有する電子デバイス用誘電体材料を目的に、LaAlO3-SrTiO3系誘電体磁器について鋭意検討を加えた結果、LaAlO3に少量のSrTiO3を添加した組成物より複合酸化物の単結晶が得られ、その特定組成の(1-X)LaAlO3-XSrTiO3単結晶材料は、誘電体材料としてQf値が大幅に向上するとともに高温超伝導フィルタに適用できることを知見し、発明を完成した。
【0012】
すなわち、この発明は、組成式を(1-X)LaAlO3-XSrTiO3と表し、0<X≦0.2を満足し、誘電率が24以上、Qf値が300,000GHz以上の誘電体特性を有する複合酸化物の単結晶材料の(110)面を電界面としたことを特徴とする電子デバイス用誘電体である。
【0013】
この発明で用いる単結晶材料は、組成式を(1-X)LaAlO3-XSrTiO3と表し、0<X≦0.2を満足する溶融液より、フローティング・ゾーン法(以下FZ法という)またはチョクラルスキー法(以下CZ法という)によって、さらには不活性ガス雰囲気中、あるいは種結晶にLaAlO3単結晶を用いて、複合酸化物の単結晶を育成したものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によると、単結晶の電界面を(110)面にすることにより、高いQf値を有する電子デバイス用誘電体となる。さらに、この誘電体を高温超伝導フィルタなどに用いることにより、デバイスの損失を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明で用いる単結晶材料は、LaAlO3に特定量のSrTiO3をドープすることで単結晶化したもので、従来のLaAlO3単結晶に比べ、誘電体特性のQf値が大幅に向上する効果を有し、組成式を(1-X)LaAlO3-XSrTiO3と表し、0<X≦0.2を満足することを特徴とする。
【0016】
(1-X)LaAlO3-XSrTiO3 の組成式において、Xが0ではQf値が向上せず、Xが0.2を超えると単結晶が生成されず、かつQf値の向上が望めないので好ましくない。より好ましい範囲は、0.075≦X≦0.2である。
【0017】
この単結晶材料の製造方法は、焼結体又は溶融液より、公知のFZ法またはCZ法によって、複合酸化物の単結晶として育成する。
【0018】
FZ法の場合、(a)組成式を(1-X)LaAlO3-XSrTiO3と表し、0<X≦0.2を満足する焼結体を準備する工程、(b)該焼結体の下部に種結晶を対向配置する工程、(c)焼結体と種結晶を加熱溶融する工程、(d)焼結体と種結晶とを接触させる工程、(e)種結晶を回転させながら引き下げる工程からなる。
【0019】
FZ法における、(a)焼結体を準備する工程における焼結体は、上述の限定理由に基づく組成式を満足する必要がある。焼結体を準備する工程として、例えば、以下のような製造方法を採用することができる。
出発原料となる各酸化物粉末を所望の割合となるように秤量する。
各酸化物粉末に純水またはアルコールを加え混合、粉砕を行う。
混合物を仮焼する。
仮焼粉を粉砕する。
粉砕粉を所望の成形手段によって成形する。
成形体を焼結する。
【0020】
上記の(a)準備工程における好ましい実施形態として、(2)の工程における混合、粉砕後の混合粉の平均粒径は、0.7μm〜1.4μmが好ましい。(3)の工程における焼結温度は1100℃〜1400℃が好ましく、仮焼時間は2〜6時間が好ましい。(4)の工程における粉砕粉の平均粒径は、0.8μm〜4.0μmが好ましい。(5)の工程における成形密度は3.0g/cm3〜5.2g/cm3が好ましい。(6)の工程において、焼結雰囲気は、大気中あるいは酸素濃度50%〜100%の雰囲気中が好ましく、焼結温度は1500℃〜1700℃、特に1550℃〜1650℃が好ましく、焼結時間は1〜50時間が好ましい。これらの好ましい条件を選定することにより、得られる電子デバイス用誘電体単結晶のQf値を向上させることができる。
【0021】
FZ法において、焼結体および種結晶は、白金線により装置に固定することが望ましい。白金線を用いることによって、白金と焼結体および種結晶との反応を防止することができる。FZ法における(b)〜(e)工程については、公知の手段を適宜採用することができる。
【0022】
CZ法の場合、(イ)組成式を(1-X)LaAlO3-XSrTiO3と表し、0<X≦0.2を満足する原料を準備する工程、(ロ)原料をるつぼに挿入し、加熱して融液となす工程、(ハ)該融液に種結晶を接触させる工程、(ニ)種結晶を回転させながら引き上げる工程からなる。
【0023】
CZ法において、種結晶は白金線により装置に固定することが望ましい。白金線を用いることによって、種結晶との反応を防止することができる。CZ法における(ロ)〜(ニ)各工程については、公知の手段を適宜採用することができる。
【0024】
この単結晶材料の製造方法において、FZ法及びCZ法は、不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。不活性ガス雰囲気中で行うことにより、Qf値をさらに増加させることができるとともに、るつぼの損傷防止、固定用白金線の反応防止などを図ることができる。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが好ましい。
【0025】
FZ法及びCZ法において、種結晶にはLaAlO3単結晶を用いることが好ましい。LaAlO3単結晶を種結晶として用いることにより、均質な(1-X)LaAlO3-XSrTiO3単結晶を得ることができる。もちろん、育成した(1-X)LaAlO3-XSrTiO3単結晶を使用することもできる。
【0026】
上述の製造方法によって得られる、組成式を(1-X)LaAlO3-XSrTiO3と表し、0<X≦0.2を満足する単結晶材料は、電子デバイス用誘電体材料として高いQf値を有するが、当該単結晶の(110)面を電界面とすることによって、さらにQf値を向上させることができる。(110)面を電界面とするには、例えばX線回折法により単結晶材料の結晶面を特定し、それに基づいて切断加工を行うとよい。
【実施例】
【0027】
実施例1
出発原料として、La2O3、Al2O3、SrCO3、TiO2の粉末を準備した。組成式(1-X)LaAlO3-XSrTiO3のXが、それぞれ0、0.025、0.05、0.075、0.1、0.2、0.3となるように配合し、純水中で混合した後に乾燥し、平均粒径1.1μmの混合粉を得た。
【0028】
次いで、該混合粉を組成に応じて1400℃で4時間仮焼した。得られた仮焼粉を湿式粉砕によって中心粒径が1.7μmに粉砕した後、粉砕粉を乾燥させた。乾燥粉にPVAを添加、混合した後、造粒装置によって造粒した。
【0029】
得られた造粒粉を一軸プレス装置により、成形密度3.5g/cm3に成形した。成形体を300℃〜700℃で脱バインダー後、酸素濃度80%の雰囲気中において、1650℃で10時間焼結し、焼結体を得た。
【0030】
得られた焼結体を、不活性ガス雰囲気中でFZ法により単結晶を製造した。具体的には、得られた焼結体をφ5mm×10mmに加工し、白金ワイヤーによって赤外線加熱装置に固定した。また、焼結体の下部にLaAlO3単結晶を種結晶として固定し、双方を赤外線イメージ炉で溶融させた。溶融後、焼結体と種結晶とを接触させ、互いに逆方向に回転させながら種結晶を引き下げ、複合酸化物単結晶を成長させた。
【0031】
得られた複合酸化物単結晶をφ5mm×3mmに加工し、試験片を得た。得られた試験片をネットワークアナライザを用いてH&C法によって誘電率、Qf値、τf値を測定した。測定結果を表1に示す。なお、表1において、番号の横に*印を付したものは比較例であり、Xが0及び0.3の場合である。また、結晶面が(100)、(111)面の場合については参照例である。
【0032】
実施例2
酸素雰囲気中でFZ法を実施する以外は、実施例1と同じ方法で複合酸化物単結晶を製造した。得られた単結晶をφ5mm×3mmに加工し、試験片を得た。実施例1と同じ方法によって得られた試験片の誘電率、Qf値、τf値を測定した。測定結果を表2に示す。なお、表2において、番号の横に*印を付したものは比較例であり、Xが0及び0.3の場合である。また、結晶面が(100)、(111)面の場合については参照例である。
【0033】
表1及び表2から明らかなように、この発明による複合酸化物単結晶は、比較例に比べ、Qf値が大幅に向上しており、特に、0.075≦X≦0.2の範囲において顕著である。また、結晶面が(110)面の場合にQf値が向上していることが分かる。
【0034】
また、実施例2のように、酸素雰囲気中でFZ法を実施しても優れたQf値を有するが、実施例1のように、不活性ガス雰囲気中でFZ法を実施すると、さらにQf値を高めることができる。
【0035】
実施例3
出発原料として、La2O3、Al2O3、SrCO3、TiO2の粉末を準備した。組成式(1-X)LaAlO3-XSrTiO3のXが、それぞれ0、0.025、0.05、0.075、0.1、0.2、0.3となるように配合し、純水中で混合した後に乾燥し、平均粒径1.1μmの混合粉を得た。
【0036】
得られた混合粉末を、不活性ガス雰囲気中でCZ法により単結晶を製造した。具体的には、得られた混合粉末をるつぼに挿入し、不活性ガス雰囲気中で高周波誘導加熱して融液となした後、LaAlO3単結晶を種結晶として該融液に接触させ、種結晶を回転させながら引き上げて、複合酸化物単結晶を成長させた。
【0037】
得られた複合酸化物単結晶をφ5mm×3mmに加工し、試験片を得た。得られた試験片をネットワークアナライザを用いてH&C法によって誘電率、Qf値、τf値を測定した。測定結果は、実施例1の表1に示す各試験片と同等の特性を示すことを確認した。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0040】
FZ法またはCZ法により、容易に複合酸化物単結晶材料を製造することができ、近年要求されるQf値が高い電子デバイス用誘電体単結晶が得られるので、準マイクロ波、マイクロ波・ミリ波領域の通信用フィルタ、発信器などに適しており、特に、準ミリ波以上の帯域の高温超伝導フィルタ用として最適であり、それら電子デバイスの性能を向上させることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式を(1-X)LaAlO3-XSrTiO3と表し、0<X≦0.2を満足し、誘電率が24以上、Qf値が300,000GHz以上の誘電体特性を有する複合酸化物の単結晶材料の(110)面を電界面としたことを特徴とする電子デバイス用誘電体。
【請求項2】
高温超伝導フィルタに用いることを特徴とする請求項1に記載の電子デバイス用誘電体。


【公開番号】特開2010−208938(P2010−208938A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74624(P2010−74624)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【分割の表示】特願2004−146344(P2004−146344)の分割
【原出願日】平成16年5月17日(2004.5.17)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】