説明

電子ビーム照明装置、および該照明装置を用いた電子ビーム露光装置

【課題】 ビームの位置精度の劣化や遮蔽電極の溶融の問題を解消し、スループットの向上や装置コストの低減が期待できる電子ビーム照明装置及びそれを備えた電子ビーム露光装置を提供する。
【解決手段】 電子源の電子放出表面には電子放射効率の異なる照射有効領域2と照射制限領域1が形成されている。照明有効領域2は電子ビーム露光法において、露光に寄与する有効な電子放射領域であり、照射制限領域1は露光には直接寄与せず、制限されていなければ電子銃またはカラム内のアパーチャ電極で遮蔽される電子ビームを放射する領域である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス製造のリソグラフィ工程において用いられる電子ビーム照明装置、および該照明装置を備えた電子ビーム露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体メモリデバイス製造の量産段階においては、高い生産性を持つ光ステッパが用いられてきたが、線幅が0.2μm以下の1G、4GDRAM以降のメモリデバイスの生産においては、光露光方式に代わる露光技術の1つとして、解像度が高い電子ビーム露光法が期待されている。
【0003】
従来の電子ビーム露光法は、単一ビームのガウシアン方式と可変成形方式とが中心であった。これら電子ビーム露光方法は、生産性が低いことから、マスク描画や超LSIの研究開発、少量生産のASICデバイスの露光等に用いられてきた。
【0004】
この様に、電子ビーム露光法の量産化への課題は、生産性を如何に向上させるかであったが、近年、この課題解決の1つの方法として、部分一括転写方式が提案されている。これら可変形成方式又は、部分一括転写方式の露光装置は図8の(a)に示すように、電子源7bとウエネルト電極8と接地電極9とアパーチャ10aを備える電子銃20および、偏向器13、照明レンズ11a,11b、アパーチャ10b(又は電子ビームマスク15)で構成する照明装置21と、電子ビームマスク15を通った電子ビームを偏向器14を経てステージ17上のウエハ16に投影する投影レンズ12を備える投影レンズ系22とを有する。特に部分一括転写方式の露光装置は、メモリ回路パターンの繰り返し部分を数μm領域にセル化することで、露光のショット回数を低減できることから、描画の生産性を向上することが出来る。
【0005】
一方、露光装置の生産性と同時に露光線幅精度の確保は、露光装置として実用上重要な要素であることから、露光領域の照射強度の一様性は、全露光領域において、0.5%以下にすることが要求されている。この一様性の高い照射電子ビームを得るためには、電子銃から放射する数10mradの電子ビームの中から、特性の良い数mradの開き角の領域の電子ビームをアパーチャ10bで遮蔽することにより、照射ビームとして取り出していた(図8の(b)参照)。
【0006】
近年、生産性の更なる向上のために、露光領域を更に大きくする方式が提案されている。例えば、電子ビーム散乱マスクを用いた電子ビーム転写方法:SCALPEL(S.D.Berger et. al. "Projection electron beam lithography: A new approach." J. Vac. Sci. Technology B9, 2996, (1991))は、高速電子ビーム露光の一つの露光方法である。この方式は、従来の可変成形方式やセル露光方式に比べて露光面積が2500倍以上も大きいことから、クーロン効果による電子−電子相互作用の影響を低減できるため、照射電子ビーム電流を従来露光方法に比べて1桁以上高くして露光することが可能であり、高い生産性が期待できる。しかし、この電子ビーム露光方法は、広い露光領域において一様性の高い照射強度が要求される。また、照射電流の増大に伴い、電子源から発生した電子ビームを電子銃とカラム内のアパーチャで遮蔽する電子ビーム量が増大することとなった。
【0007】
一方、円弧ビームを用いた電子ビームマスク転写装置(特許出願平成8年283814号参照)においては、露光領域の幅は数mmであり、前記転写露光(SCALPEL)に比べ約6倍以上大きくできることから、マスクとウエハの走査露光により高速露光が可能であるが、広い領域を一様に照明するために、電子銃から放射した電子ビームの周辺ビームの一部がリング状または円弧状ビームとして露光の照射用ビームに用いられていた。特に、電子銃から一様に放射する電子ビームを用いた場合、放射電子ビームの利用効率が、1/1000程度となり、発生電子ビームのほとんどの電子ビームを電子銃とカラム内のアパーチャで遮蔽すると言った問題が生じていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の露光方式では、照射ビームが少なく、電子銃やカラム内の途中のアパーチャ電極で電子を遮蔽していても問題にならなかったが、前記生産性の高い露光方式では、ウエハ上の照射ビーム電流が数10μAと従来露光方法に比べて1桁以上大きな電流で露光することになり、アパーチャ電極で遮蔽する電子電流は数mAと大きな値となった。
【0009】
そのため、従来の、放射電子ビームを途中のビーム遮蔽電極で遮蔽する方法では、遮蔽電極の温度上昇・電極の溶解問題が発生するだけでなく、カラム内温度の上昇や遮蔽した電子の散乱によるカラム内のチャージアップ現象が、露光性能で重要なビームの位置精度の劣化原因に繋がることから、照射電流を大きくしてスループットを改善することが難しかった。更に、電子発生装置電源負荷が従来の電子発生装置と比べて大きくなることで、電源の高安定化や低価格化を難しくしていた。
【0010】
本発明の目的は、熱電子源からの電子ビームを成形するアパーチャで遮蔽される電子ビームを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、電子放出面から電子を発生し、該電子を加速する電子銃を備え照射領域に照射する電子ビーム照明装置において、前記電子銃は熱電子源を有し、該電子源の電子放出面は、前記照射領域に対応した照射有効領域と照射制限領域とから成り、且つ、該照射有効領域と照射制限領域の表面は、電子放出効率の異なる材料からなることを特徴とする。
【0012】
具体的な電子放出面の表面材料の構成としては、前記電子放出面において、電子放出効率の差が仕事関数の差であり、前記照射制限領域の仕事関数が、前記照射有効領域の仕事関数より、1.0eV以上大きいことを特徴とした。また、前記照射有効領域が電子放出効率の高い硼化ランタンであり、前記照射制限領域が、前記照射有効領域の材料と高温で反応することのない、炭素またはそれを含んだ材料からなることを特徴とした。さらに、前記電子放出面の照射有効領域と照射制限領域が共に高融点金属からなり、照射有効領域の材料が、単原子層陰極材料からなり、照射制限領域が、W、またはPt、Pdからなることを特徴とした。
【0013】
上記のような照射制限領域を持つ電子放出面の形成方法としては、前記照射制限領域の表面材料を、蒸着、イオンビームスパッタ、イオンプレーティング、またはイオン注入の手段によって形成することで、前記照射制限領域の表面が形成されていることを特徴とする。
【0014】
さらに、上記のような電子ビーム照明装置の熱電子源の電子放出面形状としては、前記電子放出面が平面形状であって、表面の周囲に前記照射制限領域を配置した形状であることを特徴とした。これは面状露光領域による電子ビーム露光装置に好適である。
【0015】
また、露光領域が円弧状である露光方式においては、前記電子放出面が平面形状であって、表面に前記照射有効領域をリング状、または部分円弧に形成した形状であることを特徴とするものや、前記電子放出面が凹形状であって、最表面に前記照射有効領域をリング状、または円弧状に備え、その照射有効領域の周囲に前記照射制限領域を備えた形状であることを特徴とするものや、前記電子放出面が凸または凹の曲面形状であって、表面に前記照射有効領域をリング状、または円弧状に備え、その照射有効領域の周囲に前記照射制限領域を備えた形状であるものが好ましい。
【0016】
また、露光領域の縦横比が異なる露光方式においては、前記電子放出面が平面形状であって、表面に前記照射有効領域を直線に形成した形状であることを特徴とするものが好ましい。
【0017】
さらに、電子ビームをマルチ化して複数の露光領域を同時に露光する露光方式に対しては、前記電子放出面に前記照射有効領域が離散的に配置されたことを特徴とするものが好ましい。
【0018】
(作用)上記のとおりの発明では、電子銃の熱電子源の電子放出面に電子放出効率の異なる照射有効領域と照射制限領域を設け、照射有効領域を露光に寄与する有効な電子放射領域とし、照射制限領域を、露光には直接寄与せず、制限されていなければ電子銃またはカラム内のアパーチャ電極で遮蔽される電子ビームを放射する領域とした。これにより、放射電子の照射利用効率を上げることができる。さらに、カラム内のアパーチャ電極に照射される電子ビーム量が大幅に低減するので、電子ビーム照射によるカラム内温度上昇、カラム内のチャージアップ、アパーチャの溶融等の問題を解決することが出来る。また、必要なビームだけをカラム内に取り出すことで、電子−電子相互作用によるビーム解像性能の劣化を防ぐことが出来る。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、熱電子源からの電子ビームを成形するアパーチャで遮蔽される電子ビームを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態による電子ビーム照明装置の、電子放出表面に照射有効領域と照射制限領域を備えた電子源の形状を示した図である。
【図2】本発明の実施の形態による電子ビーム照明装置の電子源の電子放出表面に照射制限領域を形成するための製法例を説明する図である。
【図3】本発明の実施の形態による電子ビーム照明装置の電子源を露光方式に適用したときの電子銃特性を説明するための図であり、(a)は電子源の電子放出表面から放出した電子の軌道を模式的に示し、図1の(a)で示した電子源を適用した時の電子銃特性を示している。
【図4】本発明の実施の形態による面状電子ビームを照射する電子ビーム照明装置を備えた電子ビームマスク転写露光装置の例を示した図である。
【図5】図1の(b)に示すようなリング状の照射有効領域を電子放出面に形成した電子源を電子銃に用いたときの角度分布特性を示す図である。
【図6】図1の(e)に示すようなリング状の照射有効領域を凹形状の電子放出面に形成した電子源を電子銃に用いたときの角度分布特性を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態による円弧状電子ビームを照射する電子ビーム照明装置を備えた電子ビームマスク転写露光装置の例を示した図である。
【図8】従来の電子ビーム露光装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の電子ビーム照明装置について具体的に説明する。
【0022】
(原理説明)
まず、電子ビーム照明原理を一例を挙げて説明する。
【0023】
電子源の電子放出表面から放射した電子ビームは、電子銃で加速、集束され、クロスオーバを形成する(後に説明する図3(a)参照)。電子ビーム露光装置では、このクロスオーバから発散する電子ビームのある角度成分をウエハ上の照射領域に照射する照射電子ビームとして取り出している。電子源の電子放出表面の位置とクロスオーバから発散するビームの角度成分とは略対応していることから、露光に寄与する照射電子ビームを、熱電子源の電子放出表面位置と対応付けることが出来る。
【0024】
そこで、電子放出表面において、露光に寄与する有効な電子放射領域を電子放出表面の照射有効領域とし、また、露光には直接寄与せず、制限されていなければ電子銃またはカラム内のアパーチャ電極で遮蔽される電子ビームを放射する領域を照射制限領域とした。そして電子放出表面の前記照射有効領域と照射制限領域とに電子放射効率の差を設けることによって、放射電子の照射利用効率を上げることが出来る。
【0025】
具体的には、熱電子放出表面の仕事関数に差を設けることによって、前記照射有効領域と照射制限領域の電子発生効率に差を設けることとした。
【0026】
熱電子源からの放射する電子の電流密度は、Richardsonの式で導かれる。
【0027】
[数1]
J=AT2exp(−W/kT)
J:電流密度A:Richardsonの式の定数T:熱カソードの絶対温度W:カソード表面の仕事関数k:Boltzman定数そこで、電子放射表面において、電子放射効率の高い照射有効領域の仕事関数をWa、その効率の低い照射制限領域の仕事関数をWbとすると、両領域の仕事関数の差は、
【0028】
[数2]
ΔW=Wb−Wa両領域の電子放出効率の比Rは、
【0029】
[数3]
R=Jb/Ja=exp(−ΔW)
で示すことが出来る。
【0030】
一例として、電子放出表面の照射有効領域に電子放出効率の高い材料として硼化化合物(ここでは、LaB6 を例とした)を用い、放射制限領域に電子放射効率の低い材料として炭素を用いた場合、それぞれの仕事関数は、LaB6 (硼化ランタン)が、略2.7eV、炭素が、略4.7eVであることから、両領域の仕事関数の差は、
【0031】
[数4]
ΔW=(WC−WLaB6)=2.0eV
両領域の電子放出効率の比は、
【0032】
[数5]
R=JC/JLaB6=0.14
となり、照射有効領域と照射制限領域の電子放出効率に有効な差をつけることが出来る。しかも、炭素は、LaB6 に対して高温でも反応しない、安定な材料であることから、熱的安定性の高い装置が提供できる。
【0033】
さらに他の例として、高融点金属を熱電子源とした場合について示す。特に、ここでは、電子放射面の照射有効領域の材料に単原子層陰極材料として代表されるTh-Wを、また照射制限領域の表面材料に炭素を用いた場合、Th-Wの仕事関数は、2.63eVであり、両領域の仕事関数の差は、
【0034】
[数6]
ΔW=(WC−WTh-W)=1.4eV
両領域の電子放出効率の比は、
【0035】
[数7]
R=JC/JTh-W=0.07
となり、高融点金属材料を熱電子源とした場合でも有効であることが分かる。
【0036】
また、Th-W(仕事関数2.63eV)とW(仕事関数4.5eV)の高融点材料を照射有効領域と照射制限領域材料にそれぞれ適用しても、ΔWが1.87eVであるので有効な組合わせである。単原子層陰極の他の組合わせとして、前記Th-W以外の材料、例えばZr-W(仕事関数3.14eV)、Th-W2C(仕事関数2.18eV)、Cs-W(仕事関数1.4eV)、Ba-W(仕事関数1.63eV)などを用いることができる。
【0037】
また、Wの代わりに、Pt(仕事関数5.3eV)やPd(仕事関数4.8eV)の高融点材料を用いることも出来る。
【0038】
つまり、電子放出効率の比を0.4以下にするには、電子放出表面の仕事関数の差ΔWを1.0eV以上大きく設定すれば良いことが分かる。
【0039】
(実施の形態)
次に、電子ビーム露光方式の露光領域に適合した本発明による電子放出表面の構造と、その特性、および適用装置例について図面を用いて説明する。
【0040】
図1は、電子ビーム露光方法に合わせて、電子放出表面に照射有効領域と照射制限領域を備えた電子源の形状を示した図であり、図1の(a)〜(d)と(h)は、平面からなる電子放出表面に照射制限領域1を形成した例を示している。また、図1の(e)〜(g)は電子放出表面を加工して凹面、および曲面形状を形成した例を示す。これらの図に示す様々な形状の照射制限領域1を除いた照射有効領域2の形状は図1の(a)では平面内円形、(b)では平面内リング状、(c)では平面内直線状、(d)では平面内複線状、(e)では凹面上内リング状、(f)では凸曲面内リング状、(g)では凹曲面内リング状、(h)では平面内多点状となっている。
【0041】
このように様々な電子放出面形状の電子源の中で、面状ビームを露光ビームとする露光法では、図1の(a)に示すものが適している。また、図1の(b),(e),(f),(g)に示したリング状の照射有効領域2を持つ電子源は、円弧状ビームを用いた露光法に適している。ライン状の照射有効領域2を持つ図1の(c)における電子源は、露光領域の縦横比が異なる露光法に適している。さらに、電子ビームをマルチ化して複数の露光領域を同時に露光する露光方法に対しては、照射有効領域2を離散的に配置した図1の(d),(h)の電子源が適当である。
【0042】
図2は、前記電子放出表面に照射制限領域を形成するための製法例を説明する図で、ここでは図1の(b)に示した電子源の照射制限領域を形成する場合を示す。電子源の照射有効領域の材料として、表面サイズが0.5〜2mmφのLaB6 単結晶(100)を用いている。照射制限領域は、図2の(a)〜(e)に示すように、半導体プロセスと類似した方法で形成することが出来る。つまり、LaB6 単結晶3の表面にレジスト4を塗布し、所望する照射制限領域の形状にパターンニングした後、レジストが除去されたLaB63表面とレジストパターン部5上に低電子放出効率材料をコーティングし、その後、レジストパターン部5を剥離する。
【0043】
特に図2の(d)に示した工程では、照射制限領域の形成として、炭素を電子放出表面にコーティングしている。電子源の表面材料の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法の何れの方法でも良い。また、コーティング膜の厚さは、電子放出表面の仕事関数を変えることが目的であることから、極めて薄くてよく、例えば、数nmから数十nmの厚さで十分な特性を得ることが出来る。この厚さは、電子源の電子放出表面に形成される静電界の分布を乱すことがないため、放出電子の電子軌道が影響されることはない。
【0044】
また、別の表面形成方法として、約60keVの低エネルギーの炭素イオンをLaB6 表面に注入することで、仕事関数を上げることが出来る。このイオン注入による電子放出表面の改質手法は、特に表面状態が安定しているため、前記表面形成方法の中でも、特に安定で高寿命特性が得られることと、照射有効領域と照射制限領域の境界に段差が生じないため、放出電子の電子軌道にその境界が影響することはない。
【0045】
図3は、前記電子源を露光方式に適用したときの電子銃特性を説明するための図である。図3の(a)は、電子源の電子放出表面から放出した電子の軌道を模式的に示している。電子源7aは面状電子源であり、表面から放出された電子は、電子銃20を構成するウエネルト電極8や接地電極9等によって加速、集束され、クロスオーバCOを形成すると同時にある放射角をもって電子銃20より放射する。その後、電子ビーム露光に使用する照射ビームは、放射電子ビームの中から均一性の高い領域を得るために電子銃とカラム内のアパーチャ電極で遮蔽して形成される。
【0046】
図3の(b)は面状露光のための電子源として、図1の(a)で示したものを用いた時の電子銃特性を示している。面状露光に用いる電子放射ビームは、露光領域の電子ビーム照射強度の一様性を上げるために、中心軸から数mradの特性の良い放射電子ビームを用いている。従来の照射制限領域を持たない場合の放射電子の角度分布特性は図3の(b)中に点線で示されている。これは、2分の1の強度分布を持つ放射半角が、約50mradの開き角を持っている。それに対して、本発明の電子源では電子放出表面に照射制限領域を設けることで、図3の(b)中に実線で示した角度分布特性に示すように、放射半角を約10mradにすることが出来る。
【0047】
図4は、前記面状電子ビームを用いた電子ビームマスク転写露光装置の例を示している。この図で示される露光装置は、電子銃20および、放射電子ビームの中から一様性の高い強度領域を得るためのアパーチャ10a、照明レンズ11a,11b、遮蔽して電子ビームマスク15上に矩形の電子ビームSBを形成する矩形アパーチャ10cで構成する照明装置21と、電子ビームマスク15を通った電子ビームをアパーチャ10eで大きさの制限をすると共にステージ17上のウエハ16に投影する投影レンズ12a,12bで構成する投影レンズ系22とを有する。この露光装置では、電子源の電子放出面に照射制限領域を設けることで照明装置21に入射する電子ビームEBは電子銃20のところで制限されている(図3(b)参照)。従って、カラム内のアパーチャ10cに照射される電子ビーム量を大幅に低減することが出来ることから、電子ビーム照射によるカラム内温度上昇、カラム内のチャージアップ、アパーチャの溶融等の問題を解決することが出来る。
【0048】
図5は、図1の(b)に示すようなリング状の照射有効領域を電子放出面に形成した電子源7aを電子銃20に用いたときの角度分布特性である。この図における実線は本発明の特性、点線は従来の特性を示している。従来の方法では電子放出表面全体から放射した電子の中から、リング状に放射電子ビームを切り出して照射電子ビームを形成していた。これに対し、本発明では電子源の電子放出表面にリング状の照射有効領域を形成する照射制限領域を平らな結晶表面に設けることで、リング内側の露光に寄与しない放射電子ビームを、電子銃とカラム内のアパーチャでなく、電子放出面のところで制限することが出来る。
【0049】
また、図6は、前記リング状の照射電子ビームの効率をさらに向上させる方法として、電子源の電子放出表面に図1の(e)に示す凹形状を用いた場合の角度分布特性を示している。この凹形状の電子源の特性としては、電子放出面周辺の電界を強めることで、空間電荷効果による影響を低減し、電流密度を高めることが出来る。図6中の点線は、照射制限領域を持たない電子源からの角度分布特性を示している。実線は、電子源に図1の(e)に示した凹面電子放出表面に照射制限領域を持った電子源を用いた場合の角度分布特性である。この様に、凹形状の電子放出面の最表面にリング状の照射有効領域を形成することで、電子銃からの放射電子の利用効率を向上することが出来る。
【0050】
図7は、前記円弧状ビームを用いた電子ビームマスク転写露光装置の例を示している。この図で示される露光装置は、電子銃20および、放射電子ビームの中から一様性の高い強度領域を得るためのアパーチャ10a、照明レンズ11a,11b、遮蔽して電子ビームマスク15上に円弧状の電子ビームCBを形成する円弧形状アパーチャ10dで構成する照明装置21と、電子ビームマスク15を通った電子ビームをアパーチャ10eで大きさ制限すると共にステージ17上のウエハ16に投影する投影レンズ12a,12bで構成する投影レンズ系22とを有する。この装置では、照明装置21で形成されたマスク面上の円弧状ビームCBは、円弧形状アパーチャ10dの像が電子ビームマスク面上で結像する様に構成されている。投影レンズ系22は、円弧状のビームを用いることで像面湾曲収差を大幅に低減できることから、図4で示した面状電子ビームを用いた場合の露光領域の幅(円弧ビームの長さ)を10倍以上大きくすることができ、その結果、大電流照射ビームによる高速電子ビーム描画を可能とする。本方式では、図5および図6に示すリング状ビームを用いることで、照明レンズ内に入射する電子ビーム量を大幅に低減できることから、カラム内の円弧形状アパーチャ10dに照射される電子ビーム量を大幅に低減することが出来る。従って、電子ビーム照射によるカラム内温度上昇、カラム内のチャージアップ、アパーチャの溶融等の問題を解決することが出来る。
【0051】
なお、本発明は、マスク転写の方法だけでなく、ビーム束を複数用いて複数の露光領域を同時に露光するマルチビーム露光方式においても、各露光領域の位置に基づいて図1の(d),(h)に示す様に、電子源の電子放出面に照射有効領域を離散的に設けることは、同様の理由で有効である。
【0052】
以上、実施の形態による本発明は、広い露光領域を持つ高速電子ビーム露光装置において、電子源から発生した放射電子ビームの利用効率が優れており、遮蔽ビーム量が低減するため、電子銃およびカラム内のチャージアップが減少し、ビームの位置精度が向上する。さらに、遮蔽ビームによる温度上昇が低減し、電子銃とカラムの熱的安定性が向上するだけでなく、遮蔽電極の溶融問題が解決する。このことから露光領域に大きな照射電流が投入できるためスループットの向上が期待できる。また、電子発生装置の電源負荷が低減できるため、装置コストを下げることが出来る。
【符号の説明】
【0053】
1 照射制限領域
2 照明有効領域
3 LaB6単結晶
4 レジスト
5 レジストパターン部
6 低電子放出効率材料
7a 電子源
8 ウエネルト電極
9 接地電極
10a,10b,10e アパーチャ
10c 矩形アパーチャ
10d 円弧形状アパーチャ
11a 第1照明レンズ
11b 第2照明レンズ
12a 第1投影レンズ
12b 第2投影レンズ
15 電子ビームマスク
16 ウエハ
17 ステージ
EB 電子ビーム
SB マスク面上の矩形ビーム
CB マスク面上の円弧ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子放出面から電子を発生し、該電子を加速する電子銃を備え照射領域に照射する電子ビーム照明装置において、前記電子銃は熱電子源を有し、該電子源の電子放出面は、前記照射領域に対応した照射有効領域と照射制限領域とから成り、且つ、該照射有効領域と照射制限領域の表面は、電子放出効率の異なる材料からなることを特徴とする電子ビーム照明装置。
【請求項2】
前記電子放出面において、電子放出効率の差が仕事関数の差であり、前記照射制限領域の仕事関数が、前記照射有効領域の仕事関数より、1.0eV以上大きいことを特徴とする請求項1に記載の電子ビーム照明装置。
【請求項3】
前記電子放出面において、前記照射有効領域が電子放出効率の高い硼化ランタンであり、前記照射制限領域が、前記照射有効領域の材料と高温で反応することのない、炭素またはそれを含んだ材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子ビーム照明装置。
【請求項4】
前記電子放出面の照射有効領域と照射制限領域が共に高融点金属からなり、照射有効領域の材料が、単原子層陰極材料からなり、照射制限領域が、W、またはPt、Pdからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子ビーム照明装置。
【請求項5】
前記照射制限領域の表面材料を、蒸着、イオンビームスパッタ、またはイオンプレーティングによって形成することで、前記照射制限領域の表面が形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の電子ビーム照明装置。
【請求項6】
前記照射制限領域の表面材料を、イオン注入の手段によって形成することで、前記照射制限領域の表面が形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の電子ビーム照明装置。
【請求項7】
前記電子放出面が平面形状であって、表面の周囲に前記照射制限領域を配置した形状であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電子ビーム照明装置。
【請求項8】
前記電子放出面が平面形状であって、表面に前記照射有効領域をリング状、または部分円弧に形成した形状であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電子ビーム照明装置。
【請求項9】
前記電子放出面が平面形状であって、表面に前記照射有効領域を直線に形成した形状であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電子ビーム照明装置。
【請求項10】
前記電子放出面が凹形状であって、最表面に前記照射有効領域をリング状、または円弧状に備え、その照射有効領域の周囲に前記照射制限領域を備えた形状であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電子ビーム照明装置。
【請求項11】
前記電子放出面が凸または凹の曲面形状であって、表面に前記照射有効領域をリング状、または円弧状に備え、その照射有効領域の周囲に前記照射制限領域を備えた形状である請求項1から6のいずれか1項に記載の電子ビーム照明装置。
【請求項12】
前記電子放出面に前記照射有効領域が離散的に配置されたことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電子ビーム照明装置。
【請求項13】
請求項7から12のいずれか1項に記載の電子ビーム照明装置を用いた電子ビーム露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−152645(P2009−152645A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91979(P2009−91979)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【分割の表示】特願平10−349021の分割
【原出願日】平成10年12月8日(1998.12.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】