説明

電子マニュアル表示装置

【課題】 容易に配線を識別することができる電子マニュアルの表示装置を提供する。
【解決手段】 ベクター画像記述言語で記述した配線図を備え、ブラウザプログラムにより閲覧することができるよう構成された電子マニュアルを格納する記憶装置を備える。配線表示装置は、ディスプレイ装置に表示された配線図上の部品がユーザにより選択されることに応じて、選択された部品を強調表示し、ユーザによる強調表示を選択する操作に応じて、前記選択された部品から伸びる配線を強調表示する。配線表示装置は、さらに配線が強調表示された状態において、ユーザによるグレー表示を選択する操作に応じて、ディスプレイ装置に表示されている配線図上で前記選択された部品およびこの部品から伸びる配線以外の要素を薄いグレーでの表示に切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の整備や故障診断に使用する電気配線図を含む電子マニュアルの表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車整備マニュアルなどのマニュアル類は、たとえば特許文献1に記載されているように、電子データ化することによって膨大な資料を比較的簡単に検索し閲覧することができるようになってきている。自動車で使用される電子制御システムが高度化し複雑化するにつれて、配線図集をも含めてマニュアルをモニタ画面に表示する電子データ化が進行している。
【0003】
この種の配線図の利用は、たとえば故障診断時に、まず故障の事象から故障原因を推定し、関連すると思われるシステム部分を画面に表示し、モニタ画面に表示されたシステム構成に基づいて順次確認作業を行うという手順がふまれることが多い。
【0004】
従来においては、電子マニュアルについて、配線図をシステム機能ごとに区別して画面表示し、画面表示されている配線図中のコネクタやピン配置を他の画面の配線図にリンクさせて画面の切り替えを効率的に行うなどの工夫がなされている。また、配線図をカラー表示し、実配線に使われている配線コードの色に対応する色で配線を表示することが行われている。
【0005】
ところが、上記のような工夫をしても、配線図が複雑化するにしたがって、配線および部品の配置が混みいってくるため、目視による確認が困難になる。また、配線を色別に表示しても、複雑な配線図の中に同色系の配線が混在することは避けられず、判別しづらくなることがある。
【0006】
さらに故障原因を推定することが難しいケースでは、故障箇所から順に配線をたどっていって原因となる箇所を探す地道な確認作業が必要となり、システム別に区別して表示するだけでは、システム間に亘る配線について確認を行うことが困難であった。
【0007】
たとえば、ブレーキ関係のシステムのみを表示する回路図の場合、燃料噴射関係のシステムは表示されないが、実際の車の配線では電源配線、アース配線は共通しており、回路的には複数のシステムが相互に影響を受ける。
【0008】
一例として、サージ破壊という現象が発生した場合を考えると、実際の故障箇所は、サービススタッフが車を点検し壊れた部品を見つけることにより特定できるが、その部品が壊れた原因を特定するには、故障箇所を起点として車両全体の配線図にわたって接続関係をチェックしながら原因を推測する必要がある。その際、電子マニュアルの配線表示がシステムごとになっていると確認作業に手間取るという問題があった。
【0009】
これに対して、回路図をシステム別に区別することなく、全体回路図を表示することも考えられるが、全体の配線図は複雑で情報量が膨大であり、モニタ画面にスクロール表示するにしても確認作業が大変難しいという問題があった。
【特許文献1】特開2004-29932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、この発明は、容易に配線を識別することができる電子マニュアルの表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明の配線表示装置は、ブラウザプログラムを組み込んだコンピュータと、このコンピュータに接続されたディスプレイ装置と、ベクター画像記述言語で記述した配線図を備え、前記ブラウザプログラムにより閲覧することができるよう構成された電子マニュアルを格納する記憶装置を備える。配線表示装置は、ディスプレイ装置に表示された配線図上の部品がユーザにより選択されることに応じて、選択された部品を強調表示する手段と、ユーザによる強調表示を選択する操作に応じて、前記選択された部品から伸びる配線を強調表示する手段とをそなえる。配線表示装置は、さらに配線が強調表示された状態において、ユーザによるグレー表示を選択する操作に応じて、ディスプレイ装置に表示されている配線図上で前記選択された部品およびこの部品から伸びる配線以外の要素を薄いグレーでの表示に切り替えるグレー表示手段を備える。
【0012】
この発明の一形態によると、配線図の配線は実際の配線の色に従った色で表示され、グレー表示の操作がされるときは、選択された部品から伸びる配線だけが実際の配線の色に従った色で表示される。
【0013】
また、この発明のもう一つの形態によると、選択された部品がディスプレイ装置の画面の中央に表示されるようにする操作手段をさらに備える。
【0014】
さらに、この発明の一つの形態によると、配線表示装置は、配線図を拡大、縮小表示する操作手段をさらに備える。
【0015】
この発明の一形態では、配線表示装置は、部品および配線を、システム機能別に選択して表示するための操作手段をさらに備える。
【0016】
この発明によると、電子マニュアルの配線図から選択した部品に関し、この部品に直接接続されている配線が強調表示され、さらにこの部品および配線以外の構成要素を薄いグレー表示に切り替えることができるので、画面上で選択された部品およびその配線を明瞭に認識することができ、その他の部分はグレー表示されているので、必要に応じて他の部分との関わりを認識することが可能になる。これにより、不具合の原因となる配線の探索作業が容易になる。
【0017】
また、この発明によると、自動車の全配線図とか広範囲の配線図のように大規模な配線図を局部的に画面に表示し、画面をスクロールさせて所望の箇所を表示させる形態の電子マニュアルにおいても、選択された部品およびその配線をその他の配線との対比において明瞭に認識することができる。
【0018】
この発明の一形態では、ディスプレイ装置の画面に表示される配線は、実際の配線コードと同じ色で表示されるので、実体配線との対応が容易である。この場合、全体の配線が薄くグレー表示され、関心のある配線だけが色表示されるので、色の識別力を利用して配線の追跡(トレース)を行うことが可能になる。
【0019】
また、この発明の一形態では、特定した部品をディスプレイ装置の画面の中央に移動させることができるので、特に全体回路図表示などで表示の縮尺を小さくした場合の位置確認が容易になり、配線の追跡が容易になる。
【0020】
この発明の一実施形態では、全体の配線表示の中で、たとえば、燃料噴射系、ブレーキ系、ヘッドライト系といったシステム単位で表示を残すことができるので、全体を考慮しての確認作業が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に図面を参照して、この発明の実施形態を説明する。図1は、この発明の配線表示装置の一実施例の全体的な構成を表す機能ブロック図である。配線表示装置は、パーソナルコンピュータ(パソコン)などの汎用コンピュータにプログラムを組み込むことによって実現される。図1は、そのようなコンピュータの機能ブロック図である。CPU11は、プロセッサであり、RAM13はランダムアクセスメモリでプロセッサに作業領域を提供し、データおよびプログラムを一時記憶する。ROM15は、読み取り専用メモリでコンピュータのBIOSなど基本的なプログラムを格納している。
【0022】
配線表示装置を実現するコンピュータは、アプリケーション・プログラムおよびデータを格納するための大容量の不揮発性の記憶装置27を備える。典型的には記憶装置27は、ディスク記憶装置である。このコンピュータは、ディスプレイ装置21、キーボード23およびマウス25を備える。
【0023】
電子マニュアルプログラム29は、記憶装置27に格納されている。配線表示装置の動作状態においては、電子マニュアルプログラムは、一つの機能ユニットとして働くので、図1では機能ブロックで示している。
【0024】
電子マニュアルプログラムは、ベクトル画像記述言語で書かれている。ベクトル画像は、画像を点の集合ではなく、線や面などの図形の集合として扱うので、見る環境に応じて最適な表示が可能である。ベクトル画像記述言語の代表的な例は、スケーラブル・ベクトル・グラフィックス(Scalable Vector Graphics、略称SVG)である。SVGは、XMLベースの2次元ベクトル画像の記述言語である。SVGで作成した画像ファイルは、他のXML文書に埋め込んで使用することができる。この実施例では、配線の画像はSVGで作成され、XHTMLで記述された電子マニュアルに埋め込まれている。
【0025】
ブラウザプログラム31は、この実施例では、SVGで作成された配線図を含む電子マニュアルを閲覧するためのプログラムであり、電子マニュアルをディスプレイ装置上に表示するためのものである。このブラウザプログラム31は、汎用のブラウザプログラム、代表的にはマイクロソフト社のインターネット・エクスプローラ(商標)、をベースとして用い、これにSVG対応用にAdobe社から提供されているプラグイン・プログラムSVGView(商標)を追加することで構成することができる。
【0026】
電子マニュアルプログラム29は、部品強調表示機能29a、配線強調表示機能29bおよびグレー表示機能29cを備えている。次に図2以下を参照しながら、これらの機能を説明する。
【0027】
図2は、この発明の一実施例の電子マニュアルの一つの具体的なスクリーン画面を示す。電子マニュアルプログラム29(図1)を起動すると、ブラウザプログラム31が起動し、マニュアルのトップページがディスプレイ装置21に表示される。トップページは、図2の回路図の部分がデザイン画像になっている。トップページの左端にあるメニュー、すなわち、Top、General Information、Select Options、Circuit Schematics、Power/Ground、Search Parts、のメニューからCircuit Schematics(配線図)にカーソルを当ててクリックすると、配線図メニューがプルダウン表示される。配線図メニューは、複数の大きなシステムに分かれている。すなわち、配線図メニューには、Engine(エンジン)、Fuel and Emissions(燃料および排気)、Suspension(サスペンション)、HVAC、Body(車体)、Interior Lights(室内灯)、All Circuit Schematic(全体配線図)などが含まれる。
【0028】
いま、このうちのEngineをクリックすると、エンジンのサブシステムに関する配線メニューがプルダウン表示される。図2では、ACM(Active Control Engine Mount)システム、Ground Cables(設置ケーブル)、Ignition Switch(点火スイッチ)、Starting System(起動システム)がプルダウン表示された状態が示されている。
【0029】
こうして表示されたメニューからACMシステムの文字列にカーソルを当ててクリックすると、図2の中央に示される配線図が表示される。この図面でそれぞれの配線は、実際の車両で使われている色で表示される。この画面には、水平方向のスクロールバー55および垂直方向のスクロールバー57が備えられており、見たい配線箇所が表示されるよう、画面をスクロールさせることができる。
【0030】
カーソルを部品ABC61に当ててクリックすると、この部品61が強調表示される。一実施例では、強調表示は、部品61の枠を赤色にし、この枠を点滅させる形態で行われる。図1の部品強調機能29aがこの機能を実現する。
【0031】
次に画面の下方にある、「直接接続」のボタンをクリックすると、画面は、図3に示す形態に変化する。図3では、部品61に直接接続されている配線が強調表示されている。一実施例では、この強調表示は、部品61に接続されている配線に赤色の縁を追加し、白黒印刷の際に強調表示の部分が他の部分とは明確に判別できるようにされており、画面表示では、この縁を点滅させる形態で行われる。図1の接続配線強調表示機能29bがこの機能を実現する。強調表示される配線は、部品61のピンから行き先のピンまでの配線、つまりピンからピンまでの配線である。
【0032】
図3の表示形態において、画面の下方にある「グレー表示」のボタンにカーソルを当ててクリックすると、画面は図4に示す表示に変化する。図4では、図3で強調表示されていた部品および配線以外の部品および配線の表示が薄いグレーに変化している。これと同時に図3で強調表示されていた部品および配線は、強調表示が解消され、図2と同じ表示形態に戻されている。図1のグレー表示機能がこの機能を実現する。こうして、ユーザは、選択した部品61およびこれに接続された配線を、その他の配線をバックグラウンドに見ながら、明確に認識することができる。
【0033】
また、図3で部品61が選択された状態で、「全体回路」ボタンをクリックすると、図5に示すように、部品61を画面中央に配置して画面強調表示している状態で全体回路図が表示される。この表示状態で「グレー表示」ボタンをクリックし、上述のようなグレー表示を行うことができる。
【0034】
この場合、ディスプレイ装置の画面に回路図全体を表示することはできないので、この実施例では、初期値として10%の縮小を適用して縮小表示を行う。この縮小の倍率は、倍率選択機能を用いて変更することができる。
【0035】
選択された部品61の画面中の表示位置をスクロールバー55、57で移動させたとき、部品61を選択し、「中央移動」ボタンをクリックすることにより、部品61を画面の中央にもってくることができる。
【0036】
この実施例では、全体回路図表示について、ACMシステムを選択してから、全体回路図に至る順序で説明したが、配線メニューから「All Circuit Schematic(全体回路図)」を選択することにより、最初に全体回路図を表示させることができる。
【0037】
以上にこの発明を具体的な実施例について説明したが、この発明はこのような実施例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の一実施例の電子マニュアル表示装置の機能ブロック図。
【図2】実施例における配線図の一表示形態を示す図。
【図3】実施例における配線図の別の表示形態を示す図。
【図4】実施例における配線図のさらに別の表示形態を示す図。
【図5】全体回路図の表示モードの一例を示す図。
【符号の説明】
【0039】
11 プロセッサ(CPU)
21 ディスプレイ装置
29 電子マニュアルプログラム
31 ブラウザプログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラウザプログラムを組み込んだコンピュータと、
前記コンピュータに接続されたディスプレイ装置と、
ベクター画像記述言語で記述した配線図を備え、前記ブラウザプログラムにより閲覧することができるよう構成された電子マニュアルを格納する記憶装置と、を備え、
前記ブラウザプログラムにより前記ディスプレイ装置に表示された配線図上の部品がユーザにより選択されることに応じて、該選択された部品を強調表示する手段と、
ユーザによる強調表示を選択する操作に応じて、前記選択された部品から伸びる配線を強調表示する手段と、
前記配線が強調表示された状態において、ユーザによるグレー表示を選択する操作に応じて、前記ディスプレイ装置に表示されている配線図上で前記選択された部品および該部品から伸びる配線以外の要素を薄いグレーでの表示に切り替えるグレー表示手段と、
を備える電子マニュアル表示装置。
【請求項2】
前記配線図の配線は実際の配線の色に従った色で表示され、前記グレー表示の操作がされるときは、前記選択された部品から伸びる配線だけが実際の配線の色に従った色で表示される、請求項1に記載の電子マニュアル表示装置。
【請求項3】
前記選択された部品が前記ディスプレイ装置の画面の中央に表示されるようにする操作手段をさらに備える、請求項2に記載の電子マニュアル表示装置。
【請求項4】
前記配線図を拡大、縮小表示する操作手段をさらに備える、請求項2に記載の電子マニュアル表示装置。
【請求項5】
部品および配線を、システム機能別に選択して表示するための操作手段をさらに備える、請求項1に記載の電子マニュアル表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−217779(P2009−217779A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63727(P2008−63727)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】