説明

電子写真感光体及び画像形成装置

【課題】本発明は、環境の温度変化でも、高速で繰り返し画像形成を行った場合でも安定した画像の得られる有機感光体を提供することを目的とする。
【解決手段】円筒形状の導電性基体上に、感光層を有する電子写真感光体において、前記導電性基体が下記一般式(1)で示されるマンガン窒化物で構成されることを特徴とする電子写真感光体。
一般式(1)
Mn(3+a)CuZnSn
〔式中、a、b、c、d、e、fはそれぞれ、0≦a≦0.2、0≦b、0≦c、0≦d、a+b+c+d=1、e+f=1、及び0.8≦e≦1を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンタ等に用いられる電子写真方式の画像形成に用いられる電子写真感光体、当該電子写真感光体を搭載した画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真感光体としては有機感光体が広く用いられている。有機感光体は可視光から赤外光まで各種露光光源に対応した材料が開発しやすいこと、環境汚染のない材料を選択できること、製造コストが安い事など他の電子写真感光体に対して有利な点があるほか、素材の設計の改良によって耐久性の向上が検討され、現在の感光体の主流となっている。一方、電子写真用導電性基体としては、円筒形状やベルトの形状のものが用いられているが、周辺の電子写真プロセス要素を配置しやすいことや、必要な寸法精度を比較的容易に得ることができる等の利点があることから、円筒形状のものが広く用いられている。円筒形状の導電性基体としてはアルミ、ニッケル等の金属、ポリアミド等樹脂に導電性フィラーを混合した複合材料などが知られているが、加工が比較的容易であることや、寸法精度が比較的得やすいことから、アルミを用いたものが最も広く用いられている。
【0003】
一方、電子写真方式の画像形成装置はオフィスでの使用に留まらず、より高速で繰り返しの画像形成をオンデマンドで印刷するいわゆるプリントオンデマンドと呼ばれる軽印刷の分野にも参入してきた。プリントオンデマンドの用途では、高画質化の要求が高くなってきており、この要求に応えるために、書き込みの像露光の解像度を高くした高密度露光を行うことが行われている。このような高密度露光を行うための手段として、発光ダイオード(以下、LEDと記す。)等の発光素子をアレイ状に配列したプリントヘッドを用いて、感光体に近い位置から露光する方式が提案され、近年LEDアレイの改良によって高い密度の露光を行うことができるようになった。
【0004】
ところが、LEDアレイを用いたプリントヘッドのような焦点深度の浅い近接露光系を、アルミを用いた円筒形状の基体を用いた感光体に対して使用する場合には、アルミを用いた円筒形状の導電性基体が比較的大きな熱膨張係数を持つため、使用する環境の温度変化や連続プリント時の温度上昇によってその外径が変化し、LEDアレイを用いたプリントヘッドのような焦点深度の浅い近接露光系を使用した場合には、露光ビームの結像にずれを生じる。近年、高画質化の要求に応えるため、より一層の高密度の露光を行う場合には、環境の温度変化による僅かな結像ずれの結果として生じる画質変化が新たな課題になってきた。また、有機感光体を用いた場合に、使用する環境が高温度であった場合や、連続プリント時の温度上昇によって、画像上に黒ポチ状の欠陥が発生するという問題があり、近年の高画質の要求から、更に改良が求められるようになってきた。
【0005】
この様な背景のもと、感光体の高速安定性や繰り返し特性を改良する技術が多く検討されている。電子写真感光体の高速安定性や繰り返し特性を改良する方法としては、高分子電荷輸送物質や、電荷輸送層中に添加剤を配合する技術が検討されている。(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、これらの技術を用いた場合には、繰り返し画像形成を行い、多数枚のプリントを作成した場合の感光体の電気特性の変化をある程度抑制することができるだけで、露光系の物理的な寸法変化による画質変化を解決することはできておらず、また黒ポチ発生の問題も解決できていなかった。
【特許文献1】特開2001−142241号公報
【特許文献2】特開2005−140948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、使用環境が変化したり、高速で繰り返し画像形成を行ったりした場合でも安定したドット再現性の得られる感光体およびそれを用いた画像形成装置を提供することを目的とする。また、本発明は、高温環境下や高速で繰り返し画像形成を行った場合の黒ポチ発生を抑えて、背景に欠陥のない高画質な画像を得ることのできる感光体およびそれを用いた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、使用する環境の温度変化による、ドット再現性の変化や黒ポチの発生が導電性基体の性質に起因することに着目し、基体の材料に関して鋭意検討したその結果、逆ペロフスカイト構造を持つ下記一般式(1)に示すマンガン窒化物で構成される導電性基体を使用することで前記課題が解消されることを見出したのである。
【0009】
本発明は、以下に記載の構成により達成される。
【0010】
請求項1に記載の発明は、『円筒形状の導電性基体上に、感光層を有する電子写真感光体において、前記導電性基体が下記一般式(1)で示されるマンガン窒化物で構成されることを特徴とする電子写真感光体。』というものである。
【0011】
一般式(1)
Mn(3+a)CuZnSn
〔式中、a、b、c、d、e、fはそれぞれ、0≦a≦0.2、0≦b、0≦c、0≦d、a+b+c+d=1、e+f=1、及び0.8≦e≦1を表す。〕
請求項2に記載の発明は、『電子写真感光体の周辺に少なくとも帯電手段、露光手段、現像手段を有し、繰り返し画像形成を行う画像形成装置において、前記露光手段がLEDアレイ又はエレクトロルミネッセンスアレイを用いたプリントヘッドを用いたデジタル方式の像露光手段であり、且つ、前記電子写真感光体が請求項1項に記載の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置。』というものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、使用する環境の温度変化による、ドット再現性の変化が少なく、かつ、黒ポチのない高画質の画像を長期にわたり安定して得ることのできる耐久性にすぐれた感光体およびそれを用いた画像形成装置を提供することができた。
【0013】
本発明の効果が発現する理由としては、以下のように推定している。本発明の基体は熱膨張率が比較的小さいことから、使用環境の温度変化や連続プリント時の温度上昇による露光ドットの結像ずれの影響がなくなることで、高密度な露光を行った場合のドット再現性の変化が大幅に改善される。また、逆ペロフスカイト構造を持つ一般式(1)に示すマンガン窒化物は組成が均質で、かつ緻密な固体であるため、これを用いた基体から感光層への不均一な電荷の注入が起こりにくく、その結果黒ポチの発生が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明は、円筒形状の導電性基体上に、感光層をこの順に有する電子写真感光体において、前記導電性基体が下記一般式(1)で示されるマンガン窒化物で構成されることで達成される。
【0016】
一般式(1)
Mn(3+a)CuZnSn
〔式中、a、b、c、d、e、fはそれぞれ、0≦a≦0.2、0≦b、0≦c、0≦d、a+b+c+d=1、e+f=1、及び0.8≦e≦1を表す。〕
本発明の逆ペロフスカイト構造を持つマンガン窒化物で構成される導電性基体は、図1のような結晶構造を有するもので、理想的には立方晶系の単位格子をもち、立方晶の各頂点にCu、Zn、Snから選ばれる金属原子が配置し、立方晶の体心にN原子が配置し、さらに、N原子を中心としてMn原子が立方晶の各面心に配置している。立方晶の各頂点にCu、Zn、Snから選ばれる金属原子が配置していることで、高い電気伝導性を示すのでこの材料を用いることで、電子写真の基体に必要な電気伝導性を確保することができる。
【0017】
本発明の逆ペロフスカイト構造を持つ上記一般式(1)に示すマンガン窒化物で構成される導電性基体の作成方法は、特にこれらに限定されるものではないが、固相反応法、物理蒸着、化学蒸着、スパッタリング、レーザーアブレージョン、ゾル−ゲル等の製法を用いることができる。これらの中でも、固相反応法は、均質なものが得られ、生産性、製造コストの観点から優れているため好ましい。固相反応法で上記一般式(1)に示すマンガン窒化物を作製する際に、窒素成分の少ないガス中で800℃以上好ましくは900℃以上の高温で熱処理することで、電子写真方式感光体としての使用可能な環境の温度に対して、比較的小さい熱膨張率を有するものを得ることができる。
【0018】
次に、本発明に係る電子写真感光体を構成する感光層について説明する。本発明に係る電子写真感光体では、感光層の層構成を特に限定するものではなく、公知の材料や層構成のものを選択することができるが、感光層としては、素材設計に自由度があり、LEDアレイ等のデジタル露光の光源に対して感度を有し、かつ、高い耐久性を有したものが得やすいことから、有機感光体を用いることが好ましい。有機感光体の中でも、導電性基体上に中間層、電荷発生層、電荷輸送層の順に層形成を行った積層構造のものが、高い感度を有することから特に好ましい。また、この様な感光層上に耐久性の更なる向上等の必要に応じて保護層を形成することもできる。
【0019】
(感光体の層構成)
本発明に係る電子写真感光体を構成する感光層は、その層構成を特に制限するものではなく、たとえば以下に示すものがある。
(1)導電性基体上に、電荷発生層と電荷輸送層を順次積層した層構成
(2)導電性基体上に、電荷輸送材料と電荷発生材料とを含有する単層の層構成
(3)導電性基体上に、中間層、電荷発生層、電荷輸送層を順次積層した層構成
(4)導電性基体上に、中間層、電荷輸送材料と電荷発生材料とを含有する感光積層した層構成。
【0020】
本発明に係る電子写真感光体は、上記(1)〜(4)いずれの層構成のものでもよく、これらの中でも、導電性基体上に、中間層、電荷発生層、電荷輸送層順次設けて作製された層構成のものが特に好ましい。
【0021】
次に、本発明に係る電子写真感光体を構成する導電性基体、感光層(中間層、電荷発生層、電荷輸送層)について、及び、感光層を構成する部材について説明する。
【0022】
(導電性基体)
本発明で用いられる導電性基体は、上記一般式(1)で示されるマンガン窒化物で構成された円筒形状のものである。円筒の外径は10〜500mm、好ましくは12〜160mm、より好ましくは20〜100mmのものが周辺プロセスの設計のしやすさ、作製の容易さ、寸法精度確保の観点から用いられる。円筒形状の肉厚は0.3〜10mm、好ましくは0.5〜5mm、より好ましくは0.7〜3mmのものが作製の容易さ、寸法精度の観点から用いられる。また、円筒形状の端部にインロー形状を付加してフランジの装着性を向上させることができる。
【0023】
(中間層)
本発明では、必要により、導電性基体と感光層の中間にバリア機能と接着機能を有する中間層を設けることができる。中間層は、カゼイン、ポリビニルアルコール、ニトロセルロース、エチレン−アクリル酸共重合体、ポリアミド、ポリウレタン及びゼラチン等のバインダ樹脂を公知の溶媒に溶解させて浸漬塗布等により形成させることができる。前記バインダ樹脂の中でもアルコール可溶性のポリアミド樹脂が好ましい。
【0024】
また、中間層には抵抗調整の目的で各種導電性微粒子や金属酸化物を含有させることができる。例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化ビスマス等の各種金属酸化物。スズをドープした酸化インジウム、アンチモンをドープした酸化スズ及び酸化ジルコニウムなどの超微粒子を用いることができる。これら金属酸化物を1種類もしくは2種類以上混合して用いることができる。2種類以上混合して用いる場合には、固溶体または融着の形態をとってもよい。この様な金属酸化物は、数平均一次粒径が0.3μm以下のものが好ましく、0.1μm以下のものがより好ましい。
【0025】
中間層の形成に使用可能な溶媒としては、前述した導電性微粒子や金属酸化物等の無機粒子を良好に分散させ、ポリアミド樹脂をはじめとするバインダ樹脂を溶解するものが好ましい。具体的には、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール、sec−ブタノール等の炭素数2〜4のアルコール類が、バインダ樹脂として好ましいとされるポリアミド樹脂に対して良好な溶解性と塗布性能を発現させることから好ましい。また、保存性や無機粒子の分散性を向上させるために、前記溶媒に対して以下の様な助溶剤を併用することができる。好ましい効果が得られる助溶媒としては、たとえば、メタノール、ベンジルアルコール、トルエン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0026】
塗布液形成時のバインダ樹脂濃度は、中間層の膜厚や生産速度に合わせて適宜選択することができる。また、無機粒子等を分散させたとき、バインダ樹脂に対する無機粒子の混合割合は、バインダ樹脂100質量部に対して無機粒子を20〜400質量部とすることが好ましく、50〜200部とすることがより好ましい。
【0027】
無機粒子の分散手段は、超音波分散機、ボールミル、サンドグラインダ、及び、ホモミキサ等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0028】
また、中間層の乾燥方法は、溶媒の種類や形成する膜厚に応じて公知の乾燥方法を適宜選択することができ、特に熱乾燥が好ましい。
【0029】
中間層の膜厚は、0.1〜15μmが好ましく、0.3〜10μmがより好ましい。
【0030】
(感光層)
前述した様に、本発明に係る電子写真感光体を構成する感光層は、電荷発生機能と電荷輸送機能を1つの層に付与した単層構造の他に、電荷発生層(CGL)と電荷輸送層(CTL)に感光層の機能を分離させた層構成のものがより好ましい。この様に、機能分離型の層構成とすることにより、繰り返し使用に伴う残留電位の上昇を小さく制御できる他、各種の電子写真特性を目的に合わせて制御し易いメリットがある。負帯電性感光体は中間層の上に電荷発生層(CGL)、その上に電荷輸送層(CTL)を設ける構成をとり、正帯電性感光体は前記層構成の順が負帯電性感光体と逆の構成となる。好ましい感光層の層構成は前記機能分離構造を有する負帯電感光体である。
【0031】
以下に、感光層の具体例として機能分離型の負帯電感光体の感光層の各層について説明する。
【0032】
(電荷発生層)
本発明で形成される電荷発生層は、電荷発生物質とバインダ樹脂を含有するもので、電荷発生物質をバインダ樹脂溶液中に分散させてなる塗布液を塗布して形成されたものが好ましい。
【0033】
電荷発生物質は、スーダンレッドやダイアンブルー等のアゾ原料、ビレンキノンやアントアントロン等のキノン顔料、キノシアニン顔料、ペリレン顔料、インジゴ及びチオインジゴ等のインジゴ顔料、フタロシアニン顔料等があり、これらに限定されるものではない。これらの電荷発生物質は単独もしくは公知の樹脂中に分散させる形態で使用することができる。
【0034】
電荷発生層を形成するバインダ樹脂としては、公知の樹脂を用いることができ、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、並びにこれらの樹脂の内2つ以上を含む共重合体樹脂(例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂)及びポリ−ビニルカルバゾール樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
電荷発生層の形成は、バインダ樹脂を溶剤で溶解した溶液中に分散機を用いて電荷発生物質を分散して塗布液を調製し、塗布液を塗布機で一定の膜厚に塗布し、塗布膜を乾燥して作製することが好ましい。
【0036】
電荷発生層に使用するバインダ樹脂を溶解し塗布するための溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、テトラヒドロフラン、1−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ピリジン及びジエチルアミン等を挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
電荷発生物質の分散手段としては、超音波分散機、ボールミル、サンドグラインダ及びホモミキサ等が使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
バインダ樹脂に対する電荷発生物質の混合割合は、バインダ樹脂100質量部に対して電荷発生物質1〜600質量部が好ましく、50〜500部がより好ましい。電荷発生層の膜厚は、電荷発生物質の特性、バインダ樹脂の特性及び混合割合等により異なるが0.01〜5μmが好ましく、0.05〜3μmがより好ましい。なお、電荷発生層用の塗布液は塗布前に異物や凝集物を濾過することで画像欠陥の発生を防ぐことができる。前記顔料を真空蒸着することによって形成すこともできる。
【0039】
(電荷輸送層)
本発明で形成される電荷輸送層は、少なくとも層内に電荷輸送物質とバインダ樹脂を含有するものであり、電荷輸送物質をバインダ樹脂溶液中に溶解、塗布して形成される。
【0040】
電荷輸送物質は、公知の化合物を用いることが可能で、たとえば、以下の様なものが挙げられる。すなわち、カルバゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、ピラゾリン化合物、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、ベンジジン誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリ−1−ビニルピレン及びポリ−9−ビニルアントラセン等。これらの化合物を単独あるいは2種類以上混合して使用することができる。
【0041】
また、電荷輸送層用のバインダ樹脂は公知の樹脂を用いることが可能で、たとえば、以下の様なものがある。すなわち、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリルニトリル共重合体樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体樹脂等が挙げられる。これらの中でもポリカーボネート樹脂が好ましく、さらに、BPA、BPZ、ジメチルBPA、BPA−ジメチルBPA共重合体等のタイプのポリカーボネート樹脂が耐クラック性、耐磨耗性、帯電特性の視点から好ましいものである。
【0042】
電荷輸送層は塗布法に代表される公知の方法で形成することが可能であり、たとえば、塗布法では、バインダ樹脂と電荷輸送物質を溶解して塗布液を調製し、塗布液を一定の膜厚で塗布後、乾燥処理することにより所望の電荷輸送層を形成することができる。
【0043】
上記バインダ樹脂と電荷輸送物質を溶解する溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ピリジン及びジエチルアミン等が挙げられる。なお、電荷輸送層形成用の塗布液を作製する際に使用する溶媒は上記のものに限定されるものではない。
【0044】
バインダ樹脂と電荷輸送物質の混合比率は、バインダ樹脂100質量部に対して電荷輸送物質を10〜500質量部とすることが好ましく、20〜100質量部とすることがより好ましい。
【0045】
電荷輸送層の厚さは、電荷輸送物質やバインダ樹脂の特性、及び、これらの混合比等により異なるが、5〜40μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。
【0046】
電荷輸送層中には、公知の酸化防止剤、電子導電剤、安定剤等を添加することが可能で、たとえば、酸化防止剤は特願平11−200135号公報、電子導電剤や安定剤は特開昭50−137543号公報、同58−76483号公報等に記載のものが使用できる。
【0047】
また、本発明に係る電子写真感光体を構成する中間層、電荷発生層、電荷輸送層、保護層等の各層は公知の塗布方法により形成することができる。具体的には、浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ブレードコーティング法、ビームコーティング法、スライドホッパー法等が挙げられる。
【0048】
〔画像形成装置〕
次に、本発明に係る電子写真感光体を用いた画像形成装置について説明する。
【0049】
本発明の効果を実現する画像形成装置は、少なくとも、前述した電子写真感光体、前述した電子写真感光体表面を帯電する帯電手段、帯電手段により帯電された電子写真感光体表面に像露光を行い潜像形成を行う露光手段、露光手段により形成された潜像を顕像化してトナー画像を形成する現像手段、現像手段により電子写真感光体表面に形成されたトナー画像を用紙等の転写媒体あるいは転写ベルト上に転写する転写手段、を有するものである。
【0050】
図2は、本発明に係る電子写真感光体が搭載可能なカラー画像形成装置の一例を示す断面構成図である。
【0051】
図2のカラー画像形成装置1は、タンデム型カラー画像形成装置と称せられるもので、4組の画像形成部(画像形成ユニット)10Y、10M、10C、10Bkと、無端ベルト状中間転写体ユニット7と、給紙搬送手段21及び定着手段24とからなる。画像形成装置の本体Aの上部には、原稿画像読み取り装置SCが配置されている。
【0052】
イエロー色の画像を形成する画像形成部10Yは、第1の像担持体としてのドラム状の感光体1Yの周囲に配置された帯電手段(帯電工程)2Y、露光手段(露光工程)3Y、現像手段(現像工程)4Y、一次転写手段(一次転写工程)としての一次転写ローラ5Y、クリーニング手段6Yを有する。マゼンタ色の画像を形成する画像形成部10Mは、第1の像担持体としてのドラム状の感光体1M、帯電手段2M、露光手段3M、現像手段4M、一次転写手段としての一次転写ローラ5M、クリーニング手段6Mを有する。シアン色の画像を形成する画像形成部10Cは、第1の像担持体としてのドラム状の感光体1C、帯電手段2C、露光手段3C、現像手段4C、一次転写手段としての一次転写ローラ5C、クリーニング手段6Cを有する。黒色画像を形成する画像形成部10Bkは、第1の像担持体としてのドラム状の感光体1Bk、帯電手段2Bk、露光手段3Bk、現像手段4Bk、一次転写手段としての一次転写ローラ5Bk、クリーニング手段6Bkを有する。
【0053】
前記4組の画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Bkは、感光体ドラム1Y、1M、1C、1Bkを中心に、回転する帯電手段2Y、2M、2C、2Bkと、像露光手段3Y、3M、3C、3Bkと、回転する現像手段4Y、4M、4C、4Bk、及び、感光体ドラム1Y、1M、1C、1Bkをクリーニングするクリーニング手段5Y、5M、5C、5Bkより構成されている。
【0054】
前記画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Bkは、感光体1Y、1M、1C、1Bkにそれぞれ形成するトナー画像の色が異なるだけで、同じ構成であり、画像形成ユニット10Yを例にして詳細に説明する。
【0055】
画像形成ユニット10Yは、像形成体である感光体ドラム1Yの周囲に、帯電手段2Y(以下、単に帯電手段2Y、あるいは、帯電器2Yという)、露光手段3Y、現像手段4Y、クリーニング手段5Y(以下、単にクリーニング手段5Y、あるいは、クリーニングブレード5Yという)を配置し、感光体ドラム1Y上にイエロー(Y)のトナー画像を形成するものである。また、本実施の形態においては、この画像形成ユニット10Yのうち、少なくとも感光体ドラム1Y、帯電手段2Y、現像手段4Y、クリーニング手段5Yを一体化するように設けている。
【0056】
帯電手段2Yは、感光体ドラム1Yに対して一様な電位を与える手段であって、本実施の形態においては、感光体ドラム1Yにコロナ放電型の帯電器2Yが用いられている。
【0057】
像露光手段3Yは、帯電器2Yによって一様な電位を与えられた感光体ドラム1Y上に、画像信号(イエロー)に基づいて露光を行い、イエローの画像に対応する静電潜像を形成する手段であって、この露光手段3Yとしては、感光体ドラム1Yの軸方向にアレイ状に発光素子を配列したLEDやエレクトロルミネッセンス発光素子と結像素子(商品名;セルフォックレンズ)とから構成されるプリントヘッド、あるいは、レーザ光学系等が用いられる。なかでも、アレイ状に発光素子を配列したLEDやエレクトロルミネッセンスと結像素子(商品名;セルフォックレンズ)とから構成されるプリントヘッドでは、装置が小型化できるとともに、発光素子の配列間隔を狭くすることで高解像度の書き込みに対応できるため好ましい。
【0058】
無端ベルト状中間転写体ユニット7は、複数のローラにより巻回され、回動可能に支持された半導電性エンドレスベルト状の第2の像担持体としての無端ベルト状中間転写体70を有する。
【0059】
画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Bkより形成された各色の画像は、一次転写手段としての一次転写ローラ5Y、5M、5C、5Bkにより、回動する無端ベルト状中間転写体70上に逐次転写されて、合成されたカラー画像が形成される。給紙カセット20内に収容された転写材(定着された最終画像を担持する支持体:例えば普通紙、透明シート等)としての転写材Pは、給紙手段21により給紙され、複数の中間ローラ22A、22B、22C、22D、レジストローラ23を経て、二次転写手段としての二次転写ローラ5bに搬送され、転写材P上に二次転写してカラー画像が一括転写される。カラー画像が転写された転写材Pは、定着手段24により定着処理され、排紙ローラ25に挟持されて機外の排紙トレイ26上に載置される。ここで、中間転写体や転写材等の感光体上に形成されたトナー画像の転写支持体を総称して転写媒体という。
【0060】
一方、二次転写手段としての二次転写ローラ5bにより転写材Pにカラー画像を転写した後、転写材Pを曲率分離した無端ベルト状中間転写体70は、クリーニング手段6bにより残留トナーが除去される。
【0061】
画像形成処理中、一次転写ローラ5Bkは常時、感光体1Bkに当接している。他の一次転写ローラ5Y、5M、5Cはカラー画像形成時にのみ、それぞれ対応する感光体1Y、1M、1Cに当接する。
【0062】
二次転写ローラ5bは、ここを転写材Pが通過して二次転写が行われる時にのみ、無端ベルト状中間転写体70に当接する。
【0063】
また、装置本体Aから筐体8を支持レール82L、82Rを介して引き出し可能にしてある。
【0064】
筐体8は、画像形成部10Y、10M、10C、10Bkと、無端ベルト状中間転写体ユニット7とから成る。
【0065】
画像形成部10Y、10M、10C、10Bkは、垂直方向に縦列配置されている。感光体1Y、1M、1C、1Bkの図示左側方には無端ベルト状中間転写体ユニット7が配置されている。無端ベルト状中間転写体ユニット7は、ローラ71、72、73、74を巻回して回動可能な無端ベルト状中間転写体70、一次転写ローラ5Y、5M、5C、5Bk、及びクリーニング手段6bとから成る。
【0066】
本発明の画像形成装置は電子写真複写機、レーザプリンター、LEDアレイ又はエレクトロルミネッセンスアレイを用いたプリンタ等の電子写真装置一般に適応するが、更に、電子写真技術を用いたプリントオンデマンド用途の軽印刷にも幅広く適用することができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明の様態はこれに限定されない。なお、下記文中「部」とは「質量部」を表す。
【0068】
1.円筒形状の導電性基体の作製
MnN粉体、Cu粉体、Sn粉体、C粉体を原料とし、固相反応法により910℃にて10時間焼生して、Mn3.1Cu0.4Sn0.5(N0.90.1)の組成を有する直径60mm、長さ362mm、厚さ1.5mmの本発明の円筒状基体1を作製した。
【0069】
MnN粉体、Cu粉体、Sn粉体を原料とし、固相反応法により920℃にて10時間焼生して、
MnCu0.55Sn0.45Nの組成を有する直径60mm、長さ362mm、厚さ1.5mmの本発明の円筒状基体2を作製した。
【0070】
MnN粉体、Cu粉体、Sn粉体を原料とし、固相反応法により、アルゴンガス圧力1atmの条件で、910℃にて10時間焼生して、
MnCu0.5Sn0.5Nの組成を有する直径60mm、長さ362mm、厚さ1.5mmの本発明の円筒状基体3を作製した。
【0071】
A6063材質のアルミ合金製の円筒材料を旋盤で切削加工して、直径60mm、長さ362mm、厚さ1.5mmの比較例のアルミ合金製基体4を作製した。
【0072】
2.感光体の作製
〈中間層〉
下記中間層分散液を同じ混合溶媒にて二倍に希釈し、一夜静置後に濾過(フィルター;日本ポール社製リジメッシュ5μmフィルター)し、中間層塗布液を作製した。
【0073】
ポリアミド樹脂CM8000(東レ社製) 1部
無機粒子:酸化チタン(数平均一次粒径35nm:シリカ・アルミナ処理及びメチルハイドロジェンポリシロキサン処理の酸化チタン) 3部
メタノール 10部
を混合し、分散機としてサンドミルを用い、バッチ式で10時間の分散を行い、中間層分散液を作製した。
【0074】
上記塗布液を用いて円筒状基体1上に、乾燥膜厚1.0μmとなるよう塗布した。
〈電荷発生層:CGL〉
電荷発生物質(CGM):前記CGM−1 24部
ポリビニルブチラール樹脂「エスレックBL−1」(積水化学社製) 12部
2−ブタノン/シクロヘキサノン=4/1(v/v) 300部
上記組成物を混合し、サンドミルを用いて分散し、電荷発生層塗布液を調製した。この塗布液を浸漬塗布法で塗布し、前記中間層の上に乾燥膜厚0.5μmの電荷発生層を形成した。
〈電荷輸送層(CTL)〉
下記構造の電荷輸送物質 225部
ポリカーボネート(Z300:三菱ガス化学社製) 300部
酸化防止剤(Irganox1010:日本チバガイギー社製) 6部
ジクロロメタン 2000部
シリコンオイル(KF−54:信越化学社製) 1部
を混合し、溶解して電荷輸送層塗布液1を調製した。この塗布液を前記電荷発生層の上に浸漬塗布装置で塗布し、110℃70分の乾燥を行い、乾燥膜厚20.0μmの電荷輸送層を形成し、本発明の感光体1を作製した。
【0075】
【化1】

【0076】
3.感光体2、3、4の作製
感光体1の作製において、円筒状基体1の代わりに、円筒状基体2を用いた以外は感光体1と同様にして本発明の感光体2を作製した。感光体1の作製において、円筒状基体1の代わりに、円筒状基体3を用いた以外は感光体1と同様にして本発明の感光体3を作製した。感光体1の作製において、円筒状基体1の代わりに、円筒状基体4を用いた以外は感光体1と同様にして比較例の感光体4を作製した。
《評価》
作製した感光体1〜4を用いて画像評価を行った。評価機としては、フルカラー複合機bizhub PRO C6500(コニカミノルタビジネステクノロジーズ(株)製)の露光系を中心波長760nm、焦点深度±20μmのLEDラインプリントヘッドに換装した改造機に装着し、評価機を10℃/20%RH、20℃/60%RH、35℃/85%RHの3種類の環境に設置して実写を行った。また、評価機内部の感光体近傍に測温センサを設置して温度を測定し、測定値を感光体温度とした。
(1)画像評価
(ドット再現性)
LEDプリントヘッドを変更して露光ビーム径を変化させ、書き込みの解像度を1200dpi、2400dpi及び4800dpi、の3水準で変化させ、モノクロのハーフトーン画像を出力して評価した。
【0077】
画像評価はそれぞれの環境で評価の1枚目と連続1,000枚実写後の1,000枚目について行った。
評価基準
ランクA:1200dpi、2400dpi及び4800dpiのハーフトーン画像が明瞭に(各ドットが独立して)再現されている(ドット再現性が非常に良好であり、非常に高画質)。
【0078】
ランクB:1200dpi及び2400dpiのハーフトーン画像が明瞭に再現されているが、4800dpiのハーフトーン画像は明瞭さ(各ドットの独立性)が不十分(ドット再現性が良好であり、画質が良好)。
【0079】
ランクC:1200dpiのハーフトーン画像が明瞭に再現されているが、2400及び4800dpiのハーフトーン画像は明瞭さが不十分(ドット再現性が不足しており、画質が不十分)。
【0080】
ランクD:1200dpiのハーフトーン画像でも明瞭さ(各ドットの独立性)が不十分(ドット再現性が大幅に不足しており、画質が全く不充分)
(黒ポチ)
評価機をモノクロ画像を出力する状態として、A3サイズの全面白地画像を出力し、感光体周期の黒ポチをカウントし、その数を記録した。基準は下記の通りとし、3以上をOKレベルとした。
【0081】
5:0個
4:1〜2個
3:3〜10個
2:11〜30個
1:31個以上。
【0082】
評価結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1に示す様に、本発明に係る電子写真感光体の構成を満たす「実施No.1〜3」の感光体は、いずれも使用環境の温度変化に対し、ドット再現性も黒ポチ発生も良好なことが確認された。一方、本発明の構成を満たさない「実施No.4」の感光体はいずれかの評価項目が基準を満たさず、本発明の効果を発現できないものであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】逆ペロフスカイト構造を示す。
【図2】カラー画像形成装置の断面構成図である。
【符号の説明】
【0086】
1 画像形成装置
21 感光体
22 帯電手段
23 現像手段
24 転写極
25 分離極
26 クリーニング装置
30 LEDアレイプリントヘッド
45 転写搬送ベルト装置
50 定着手段
250 分離爪ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の導電性基体上に、感光層を有する電子写真感光体において、前記導電性基体が下記一般式(1)で示されるマンガン窒化物で構成されることを特徴とする電子写真感光体。
一般式(1)
Mn(3+a)CuZnSn
〔式中、a、b、c、d、e、fはそれぞれ、0≦a≦0.2、0≦b、0≦c、0≦d、a+b+c+d=1、e+f=1、及び0.8≦e≦1を表す。〕
【請求項2】
電子写真感光体の周辺に少なくとも帯電手段、露光手段、現像手段を有し、繰り返し画像形成を行う画像形成装置において、前記露光手段がLEDアレイ又はエレクトロルミネッセンスアレイを用いたプリントヘッドを用いたデジタル方式の像露光手段であり、且つ、前記電子写真感光体が請求項1項に記載の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−66349(P2010−66349A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230575(P2008−230575)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】