説明

電子加速器をベースにしたマルチエネルギー貨物検査システム

同じエネルギーの線形加速器と比べて、より小型で、より効率的で、より安価な小型電子加速器を備えた、マルチエネルギーを用いた貨物検査システムである。このシステムは、コンテナの元素含有量を認識する性能を強化したものであり、隠された爆発物や核分裂性物質を見つけるために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貨物検査システムに関するものであり、特に、貨物専用コンテナの元素含有量を認識するための改良された能力を有する電子加速器を使用した貨物検査システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
テロ活動に対する関心の高まりを背景に、通関時(points of entry)における貨物検査と、禁制品、特に爆発物及び核分裂物質の特定のための、より効率的で、より効果的なシステムを提供することに対する感心が高まっている。飛行機内への持ち込みかばんや手荷物による禁制品の密輸は周知であり、以前からの継続的な懸念事項である一方、あまり公にされていないが、同じく深刻な脅威は、大型貨物専用コンテナを使用した国境を越えた禁制品の密輸及び船による禁制品の密輸である。
【0003】
大型コンテナの内容物を管理するシステムの開発は、2つの異なる方向に進められてきた。
【0004】
1.第1の方向は、制動放射線を発生させる高エネルギー(2.5〜9MeV)の高周波電子線形加速器(RF linac〔RFライナック〕)のX線機器への追加である。
【0005】
RFライナックでは、荷電粒子を加速するために、電磁波が使用されている。RFライナックには、進行波型と定常波型の2つのタイプがある。進行波型ライナックは、波の速度を加速された粒子の速度まで減速させるダイヤフラムを有した円形導波管である。0.5MeVを超えるエネルギーを有する電子の速度は光の速度とほぼ同じである。定常波型ライナックは、電磁波の波長の半分に近い長さを有する複数の空洞を結合した結合空洞の連鎖である。ほとんどの電子RFライナックは10〜10.5cmの波長(すなわち、周波数が2998〜2856MHz)で動作し、この波長域は、S帯と呼ばれる。進行波型ライナックで電子ビームを10MeVに加速するためには、その長さは2.2〜2.5mである必要があり、粒子の集束用に導波管の上にソレノイドを取り付ける必要がある。定常波型ライナックで同じビームエネルギーにまで電子ビームを加速するためには、その長さはおおよそ2倍短くてよく、集束用ソレノイドを必要としない。しかしながら、高出力サーキュレータによって反射される波からRF源を保護しなければならない。いずれのタイプのライナックでも、加速場を作り出すには、2.5〜3MWのパルスRF電力消費が必要であり、1〜1.5MWのRF電力がビームに伝達されるため、貨物検査用ライナックに必要な合計RF電力は3.5〜4.5MWになる。電磁波の波長を短くする、すなわちC帯(5.5〜25cm)にすることで、加速場を作り出すために必要となるライナックの長さはおおよそ2倍、RF電力はおおよそ1.5倍少なくて済む。
【0006】
RFライナックは制動放射線(bremsstrahlung radiation)を発生させる。制動放射(または制動輻射)は、いわゆる制動放射用ターゲットに電子がぶつかる際に発生する。最大数の光子を発生させるために、ターゲットは厚さ1.5〜2mmで、高い融点をもつ重元素の物質、例えばタングステン(tungsten)やタンタル(tantalum)から作られている。10MeVでは、電子エネルギーの8〜10%がX線放射のエネルギーに変換される。発生したX線放射のエネルギースペクトルは連続的であり、終点エネルギー(end-point energy)は電子エネルギーと等しく、エネルギーの減少とともに光子の数は増加する。X線エネルギースペクトルはいわゆるエネルギーフィルター(制動放射用ターゲットの後に取り付けられる軽元素吸収体)を使用することで強めることができる。
【0007】
制動放射線を発生させる2.5〜9MeVのRFライナックにより、コンテナエリア全域にわたる高エネルギーX線の吸収の変化または散乱因子(scattering factor)を検出することが可能になり、したがって、コンテナの内容物の画像を再現することができる。現在、この技術をベースにした100以上のシステムが、主に世界中の海港に設置されており、禁制品の発見に使用されている。
【0008】
2.第2の方向は、核過程(低速及び高速中性子の捕獲及び散乱、高エネルギー単色X線吸収、光核反応、遅延中性子のレジストレーション(delayed neutron registration))を含む、より複雑なプロセスに基づいている。開発されている方法は、コンテナの内容物の詳細を再現することを目的としておらず、むしろ爆発物または核分裂物質がコンテナに入っていた場合に警報信号を発生することを目的としている。低速中性子捕獲をベースにした初期の設備は1980年代に開発され、空港に設置され、現在、誤認警報が少ないが、高出力で稼働できる製品はない。その主な理由としては、核反応断面積(cross-section)(確率)が小さいため、低水準の応答信号となること、適切なパラメータのプローブ粒子源が欠如していること、及び粒子検知器の能力が限られていることが挙げられる。
【0009】
(いくつかの中国のシステムを除いて)世界中で稼働している多くの貨物検査システムでは、ヴァリアンメディカルシステムズ社(Varian Medical Systems)製のLinatron−Mの商品名で販売される機械を使用した上述の第1の方向で開発されたシステムが設置されている。この機械は、当初は医薬品及び欠陥検査のために開発されたもので、長年にわたって広く使用されてきた。1.9,3,6及び9MeVの固定電子ビームエネルギーの改良型が製造されている。9MeVの機械のサイズ及び重量は、次の通りである。
【0010】
高さ 幅 長さ 重量
(cm) (cm) (cm) (kg)
加速ヘッド 64 30 142 150
変調器 122 92 76 150
RF源 34 61 107 136
冷却/温度調節器 51 71 62 75
コントロール 18 48 30 10

この表の1行目からもわかるように、Linatron−Mの加速ヘッドによって占有される容積は6.4m×3.0m×14.2m=273m3である。9MeVのビームを作り出すLintaron−Mには、およそ5MWのクライストロンが必要である。
【0011】
最近、第1の方向で開発されたものが提案されている。この提案では、異なるエネルギーの2つの電子ライナックが交互に動作して、コンテナの同じ箇所を照射する2つの終点エネルギーの制動X線放射を発生させる。X線の吸収または散乱断面積エネルギー依存度が元素ごとに異なることが、例えば、爆発物中の窒素(nitrogen)や核分裂性物質中のプルトニウム(plutonium)のような軽元素または重元素が異常に含まれていることを認識するための基礎となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、交互に動作する2つの異なるエネルギーの電子ライナックが、コンテナの同じ箇所を照射する2つの終点エネルギーの制動X線放射を発生する、上述の第1の方向をさらに改良したものである。本発明によれば、電子加速器の独自の設計により、従来使用された2つの異なるレベルを超えてエネルギーを変化させることを可能にしている。
【0013】
本発明の電子加速器は、およそ1000Hzの繰り返し周波数で、4〜10MeVの範囲内で4段階にエネルギーを変化させることができるビームを発生するのに使用される。したがって、本発明は、貨物検査で禁制品を発見するために、マルチエネルギー技術を採用する。
【0014】
本発明では、同等のエネルギーのシングルライナックより小型で、より効率的で、より安価なユニークな線形加速器が使用される。それと同時に、本発明の線形加速器は4台のライナックを置き換えることができるので、本加速器に備えられたX線源は、同等のライナックをベースにしたX線源よりほぼ一桁も安価である。1つや2つではなく、複数の終点エネルギーを使用することで、元素の認識性能を大きく向上させている。
【0015】
本発明のマルチエネルギー貨物検査システムは、元素含有量の認識性能が向上しており、およそ0.5m/sの速度で移動しているコンテナの元素含有量を認識することができ、隠された爆発物や核分裂性物質を検出することに使用できる。
【0016】
これら及びその他の利点は、最大電子エネルギーが10MeVであるレーストラック型マイクロトロンを備えた小型のマルチエネルギー電子加速器から構成された本発明の貨物検査システムによって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による貨物検査システムの概略図である。
【図2】図1の貨物検査システムで使用される線形加速器の概略図である。
【図3】N(窒素)、Fe(鉄)及びU(ウラン)のエネルギーの質量減衰係数を示すグラフである。
【図4】4,6,8及び10MeVの電子エネルギーに対する制動放射スペクトルを示すグラフである。
【図5】準単色の制動放射差スペクトルを示すグラフである。
【図6】準単色スペクトルの減衰測定を示すグラフである。
【図7】N(窒素)、Fe(鉄)及びU(ウラン)のエネルギーの質量減衰係数を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明を説明する。はじめに図1を参照すると、本発明の貨物検査システム10が図示されている。貨物検査システム10は、電子加速器11を備えている。電子加速器11は、制動X線放射のビームを発生させるタングステン(tungsten)やタンタル(tantalum)などの高原子番号の物質からなる制動放射ターゲット12に衝突する電子源を提供する。貨物専用コンテナなど、スキャンする対象であるオブジェクト13は、制動放射源12と検出器14の間を移動する。オブジェクト13を透過した放射線は、そのオブジェクト及びその内容物によって、異なる度合で吸収または散乱され、減衰(attenuation)が検出器14によって感知される。X線の吸収または散乱断面積のエネルギー依存度が元素ごとに異なることが、例えば、爆発物中の窒素(nitrogen)や核分裂性物質中のプルトニウム(plutonium)のような軽元素または重元素が異常に含まれていることを認識するための基礎となっている。
【0019】
図2に詳細に図示されている電子加速器11は小型の10MeVレーストラック型マイクロトロン(RTM)15である。RTM15は電子ビームを発生させる電子銃16と、通過することでビームが加速される線形加速器(ライナック)17と、ビームを偏向させて、ライナックに戻しビームを通過させることを複数回行うための一対のエンドマグネット18及び19とから構成されている。RTMは複数のファストキッカーマグネット20も有している。
【0020】
RTM15の稼動時は、電子銃16が最大エネルギーが10MeVである電子ビームを発生させる。電子銃16からのビームは電子ライナック17に入り、そこで加速される。ライナック17から出た後、ビームは、エンドマグネット18によってライナック17に戻るように偏向される。ビームがライナック17から出ると、さらに他のエンドマグネット19によって、複数あるうちのひとつのファストキッカーマグネット20に向かって偏向される。ビームはファストキッカーマグネット20からエンドマグネット18に戻され、そこからライナック17を通過する軌道を繰り返し、エンドマグネット19の補正ダイポール(correcting dipoles)に戻る。RTMは適切なRF、真空、高電圧、冷却及びコントロールを行う各システムのもとで稼動される。
【0021】
RTMの物理的、操作上のパラメータは次の通りである:
ビームエネルギー 4,6,8,10MeV
動作周波数 2856MHz
同期エネルギー利得 2MeV
エンドマグネットの磁場 0.4T
入射エネルギー 40keV
パルスRF電力 1600kW
平均ビーム電流 100μAまで
繰り返し率 1000Hzまで
RTM寸法 750×250×140mm
RTM重量 <60kg
本発明のRTMは、ライナックと円形加速器の利点を兼ね備えている。RTMは高強度、狭スペクトルで、正確に一定のエネルギーの電子ビームを発生させる。従来の機械と比べて、より小型で軽い重量で、電力消費も少ない。この加速器を貨物検査システムに利用した場合の主な利点は、各動作サイクルにおいて一定の段階ごとに取り出されたビームエネルギーを変更することができることであり、最大1000Hzの繰り返し周波数で続けることができ、ビームの質を維持している。
【0022】
RTMは、ライナック17と偏向マグネット18及び19との組み合わせであり、この組み合わせは電子ビームが同じライナックで複数回加速されるように構成されている。もし同じエネルギーを得るためにビームがライナックをN回通過した場合、ひとつのライナックだけの場合と比べると、加速場を作るのに必要となるその長さ及びRF電力はN倍少なくなる。結果として、RTMはライナックだけの場合に比べて、より小型で安価でより効率的になる。平均電力が高いビーム(数kW以上)を発生させる場合に、RTMの使用は電流不安定性による制限を受けるが、RTMは平均電力が低・中程度の場合に最も適しており、その典型例が貨物検査システムである。
【0023】
本発明のRTMは、次の(a)〜(c)の理由から小型にすることができる。(a)入射方法が特別な入射や及び複数の補正ダイポール(compensation dipoles)を必要としないため、エンドマグネット間の距離をおよそ2倍縮めることができる、(b)両トランスバースプレーン(both transverse planes)におけるRFフォーカシング(RF focusing)を備える加速構造がRTMの光学系を単純化して、長手方向の寸法を20〜30%短くすることができる、(c)エンドマグネットが希土類永久磁石(REPM)の素材からできており、これによってマグネットの体積を2〜3倍少なくすることができる。また、本発明のRTMは、次の(a)〜(c)の理由から軽量にすることができる。(a)1回の通過で2MeVのエネルギー利得しか発生させないので、10MeVのライナック加速構造と比べると5〜6倍軽くすることができる、(b)RTMに供給するパルスRTM RF電力が10MeVライナックの場合よりも3〜4倍少ないので、RF源及び変調器の重量が少ない、(c)REPM素材で作られたエンドマグネットが電磁石よりも50%軽い。
【0024】
重量を減らし、寸法を短くして加速器の工学的設計を単純にするために、RTMの要素は正確に機械加工された土台に配置され、加速器全体は内部寸法がおよそ750mm×250mm×140mmで、ターボ分子ポンプで真空にされた真空箱に収められている。主なRTMの要素(エンドマグネット、ライナック、土台)の合計重量は、60kgを超えない。
【0025】
各動作サイクルで取り出されたビームエネルギーの変更は、各軌道に設置されているファストキッカーマグネット20によって達成されており、照射プログラムによる励起はRTM RFシステムの動作に同期されている。制動放射ターゲットでの電子ビームの大きさを小さく保つために、パルス四重極(pulsed quadrupoles)が使用される。
【0026】
本発明のRTMは、従来技術と比べると、大きさ及び重量に大きな利点がある。これまでに製造されたパルスRTM(ただし、原理を実証するために実験室に最初に設置される設備(first proofing principle laboratory installations)は除かれる可能性がある)は50〜150MeVの範囲で動作する。およそ9〜10MeVが標準的なエネルギーである円形マイクロトロンは、本発明のRTMと比較すると巨大であり、取り出されたビームエネルギーの高速変更ができない。電子ライナックは調整された出力エネルギーで使用可能であるが、この調整は、定常波構造の場合は、RF源の電力変更、ビーム装填の変更、またはカップリングセルの再調整により行い、また、マルチセクションライナックの場合には、RF電力/位相の変更により行う。いずれの場合も、本発明のRTMのビームの品質とエネルギー切替速度とは比較にならない。
【0027】
加速ヘッドの占有体積が273m3である上述したLinatron−Mと比較すると、本発明によるRTMの加速ヘッドの占有体積は、およそ10倍も少ない1.4m×2.5m×7.7m=27m3であり、Linatron−Mは、2.5倍重い。Linatron−Mが9MeVを発生させるのにおよそ5MWのクライストロンが必要となるが、本発明による加速器では、1.6MWのクライストロンで足り、そのため、RF、冷却装置及び変調器は小型で軽量にできる。
【0028】
したがって、本発明は、現在使用されているライナックに比べてより小型で、およそ3倍軽量で、およそ3倍効率的である貨物検査システム用の10MeV電子加速器を提供する。本発明のビームエネルギーは、1000Hzの繰り返し周波数により2MeV刻みで4〜10MeVの範囲で変更可能である。これによって被検査オブジェクトの元素組成を検知する貨物検査のために、マルチエネルギー技術の採用が可能になる。
【0029】
全てのシステム(RF、変調器、冷却装置、コントロール)を含めて、現在入手可能な10MeVビームエネルギーのライナックの値段は、製造者によって異なるが、百万〜3百万ドルの範囲内である。全てのシステムを含む本発明によるRTMはかなり安価になるはずである。RTMはマルチエネルギー技術によって、最大4つまでライナックを置き換えることができる。そのため、同等のライナックベースのシステムと比べるとおよそ10倍の費用削減となる。
【0030】
[動作理論]
貨物に隠された禁制品を認識するためには、特定の物質に固有に関連付けられた曝露信号(exposure signal)に対する反応(response)を取得しなければならない。外部放射によって原子核を調べることは、特定の物質の「指紋」をとるひとつの方法である。しかしながら、原子核による方法では、コンテナの内容物を視覚化することはできず、残留放射能は可能である。そのため、X線源として2〜10MeVの電子加速器をベースにした標準的な貨物検査システムの性能を拡張することが非常に望ましい。10MeV未満のエネルギーをもつ電子によって生じるX線スペクトルでは、ほとんどの原子核についてエネルギーレベルが光核反応の閾値に足らないため、特定の物質に固有の一意の標識(label)として、原子的な過程に依存して検出を行わざるをえない。このことは、以前は50〜200keVのエネルギー範囲において二重エネルギー法(dual energy method)によって行われており、最近では、この方法は4〜9MeVのより高い範囲に適用されている。X線の吸収断面積のエネルギー依存度が元素ごとに異なることが、軽元素または重元素が異常に含まれていることを認識するための基礎となっている。図3は質量減衰係数のエネルギー依存度を示している(μ/ρ)。μは減衰係数であり、ρは1〜20MeVのエネルギーの範囲での窒素(nitrogen)、鉄(iron)、ウラン(uranium)の物質密度である。対生成過程(pair production process)は、およそ1MeV以上のエネルギーに対する減衰係数の依存度が異なることの主な原因である。すなわち、エネルギーとともに窒素(nitrogen)は減衰し、ウラン(uranium)は増大する。
【0031】
1〜10MeVの範囲で高い繰り返し周波数に応じてエネルギーが変化する単色X線源があるとすると、放射された貨物の各位置ではエネルギーの減衰係数のエネルギー依存度だけが計測でき、統計上の誤差によって定義される確率によって、コンテナ全体にわたる実効原子番号の分布が推定される。しかし、そのようなX線源は存在しない。したがって、図4に示すように、制動放射ターゲットに衝突する異なる電子エネルギーごとに、連続スペクトルの制動放射線を用いて検出を行わなければならない。制動放射スペクトルの最大または終点エネルギーは電子エネルギーと同等である。
【0032】
光核反応研究において、制動放射の連続スペクトルを使用して断面積のエネルギー依存度を取得するという似たような問題があったことは、しばらくの間よく知られていた。しかしながら、この問題は異なる終点エネルギーで計測した反応収率の違いを利用することで解決された。要するに、この手法は、図5に示した準単色X線スペクトルを使用する手法と同等である。準単色スペクトルの最大値は、減算されたスペクトルの終点エネルギーと等しい有効エネルギーに位置づけられる。
【0033】
このように、二重エネルギー法において2つの電子エネルギーだけを使用することは、ひとつの有効エネルギーにおいてのみ減衰係数を測定することと等しいことは明白である。I=I0exp(−μeffeff)の式で、減衰係数とともに、X線フラックスの減衰を決定する物質の有効厚さteffが不明なために、二重エネルギー法の物質認識性能には限界がある。
【0034】
しかしながら、同じコンテナエリアに放射する制動放射線を発生する複数の電子エネルギーを使用することで性能は高められた。異なる4つの電子エネルギーの場合、差を利用することで、減衰積μeffeffは3つの有効X線エネルギーにおいて見積もることができる(図6)。有効厚さが一定であると仮定するとμeffの相対エネルギー依存度を得ることができる。本発明によれば、GEANTコードによる広範なコンピュータシミュレーションを行って、物質の認識のためのマルチエネルギー技術の詳細を入念に決定し、未加工の検知器情報の開発のための高い生産性のソフトウェアを作成する。
【0035】
マルチエネルギー電子加速器を備えた貨物検査システムにおける物質の認識のためにマルチエネルギー技術を採用する本発明を使用することによって、有効物質減衰係数のエネルギー依存度を取得できる可能性があるため、二重エネルギー法に比べて物質の認識性能が2倍または3倍向上する。同時に、本発明によれば、最大1000Hzの繰り返し周波数のパルスビームにより、貨物検査システムの生産性が20〜30%向上する。
【0036】
本発明については、貨物専用コンテナのような大型のオブジェクトの検査に関して説明してきたが、マルチエネルギー技術は小型及び中型のオブジェクトを検査できる低いエネルギー(50〜200keV)範囲にも適用可能である。
【0037】
図7は、質量減衰係数のエネルギー依存度(μ/ρ)を示している。μは減衰係数であり、ρは1〜1000keVのエネルギーの範囲での窒素(nitrogen)、鉄(iron)及びウラン(uranium)の物質密度である。このエネルギーの範囲では、光電相互作用がX線減衰の主な原因であり、原子番号Zに対する質量減衰係数の強い依存度が引き起こされる。この原子番号Zに対する強い依存度が、小型または中型のオブジェクトの物質認識においての二重エネルギー法が成功していることの基礎となっている。重元素を正確に認識するために特に重要なのは、減衰係数に見られ、特定の原子殻の励起に関連付けられた吸収ピークである。さらなる改良としては、低いエネルギーにおける複数の制動放射スペクトルのフィルタリングの実現性を大幅に高めることがあり、このことによって、本質的なスペクトル波形の修正が可能となる。
【0038】
このように、複数の準単色X線スペクトルを使用すると、物質認識の性能の向上と、誤認警報信号の回数を減らすことにつながることは明らかである。上述の制動放射差スペクトル技術は、このエネルギーの範囲に適用することができる。しかしながら、レーストラック型マイクロトロン10を使用して、50〜200keVの低エネルギーの電子ビームを生成することが、経済的にも技術的にも見合わない場合があり、二重エネルギー法で使用する電子ビームの発生技術を使用してもよい。他の方法としては、相対論的電子(relativistic electrons)に対する強力なレーザービームのコンプトン散乱(Compton scattering)によって発生される準単色X線放射を使用して、適切な低エネルギーの電子ビームを発生させることができる。
【0039】
当然のことながら、ここで説明した実施の形態は本発明の代表的なものにすぎず、本発明を特定の実施の形態に限定することは意図しておらず、本発明は添付の特許請求の範囲に属する全ての実施の形態を含むものである。付加的利点及び修正は、当業者であれば容易に想定されるであろう。したがって、より広範な態様の本発明は、ここで示され、記述された詳細情報及び説明に役立つ実例に限定されない。それゆえに、添付の特許請求の範囲及び均等な範囲において定義された全体的な発明の概念の精神と範囲から逸脱することなく、様々な修正が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大電子エネルギーが10MeVであるレーストラック型マイクロトロンを備えた小型のマルチエネルギー電子加速器を備えることを特徴とする貨物検査システム。
【請求項2】
前記電子加速器が、少なくとも3つの異なった電子エネルギーの電子ビームを発生させることを特徴とする請求項1に記載の貨物検査システム。
【請求項3】
前記電子加速器が4つの異なった電子エネルギーの電子ビームを発生させるが、前記各電子エネルギーのいずれもが10MeVを超えないことを特徴とする請求項2に記載の貨物検査システム。
【請求項4】
前記マイクロトロンが、補正ダイポール(compensation dipoles)を使用せずに線形加速器に電子ビームを直接入射する電子銃を備えることを特徴とする請求項1に記載の貨物検査システム。
【請求項5】
前記マイクロトロンが、
電子ビームを作り出す電子銃と、
前記電子ビームを加速する線形加速器と、
前記電子ビームを偏向させて、前記線形加速器に戻して前記電子ビームを通過させることを複数回行うための一対のエンドマグネットを備えていることを特徴とする請求項1に記載の貨物検査システム。
【請求項6】
前記マイクロトロンが、両トランスバースプレーン(both transverse planes)にRFフォーカシング(RF focusing)を備えることを特徴とする請求項1に記載の貨物検査システム。
【請求項7】
前記マイクロトロンが、希土類永久磁石素材から成るエンドマグネットを備えることを特徴とする請求項1に記載の貨物検査システム。
【請求項8】
前記マイクロトロンからの電子ビームが向けられ、それに反応して制動放射線を発生させる制動放射ターゲットと、
オブジェクトからの放射線の減衰を感知する検出器を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の貨物検査システム。
【請求項9】
前記マイクロトロンの長さが、実質的に10メートルより短いことを特徴とする請求項1に記載の貨物検査システム。
【請求項10】
前記マイクロトロンの重量が、実質的に60kgより少ないことを特徴とする請求項1に記載の貨物検査システム。
【請求項11】
マルチエネルギーを用いた貨物専用コンテナの内容物を検査する方法であって、
第1のエネルギーレベルの第1の放射線を前記コンテナに向けるステップと、
交互に第2のエネルギーレベルの第2の放射線を前記コンテナに向けるステップと、
交互に第3のエネルギーレベルの第3の放射線を前記コンテナに向けるステップと、
各エネルギーレベルで向けられた前記放射線に応じた前記コンテナからの前記放射線を検出するステップと、
前記コンテナの前記内容物を決定するために、検出された放射線を分析するステップとを実施することを特徴とするマルチエネルギーを用いた貨物専用コンテナの内容物検査方法。
【請求項12】
交互に第4のエネルギーレベルの第4の放射線を前記コンテナに向けるステップを更に実施することを特徴とする請求項11に記載の貨物専用コンテナの内容物検査方法。
【請求項13】
前記第1のエネルギーレベル、前記第2のエネルギーレベル及び前記第3のエネルギーレベルのいずれもが10MeVを超えないことを特徴とする請求項11に記載の貨物専用コンテナの内容物検査方法。
【請求項14】
前記第1の放射線、前記第2の放射線及び前記第3の放射線の全てが、3つの異なるエネルギーレベルの電子ビームを発生させることが可能な1つの電子加速器を用いて発生されることを特徴とする請求項11に記載の貨物専用コンテナの内容物検査方法。
【請求項15】
最大電子エネルギーが10MeVであるレーストラック型マイクロトロンを備えた小型のマルチエネルギー電子加速器を用いて前記放射線が発生されることを特徴とする請求項14に記載の貨物専用コンテナの内容物検査方法。
【請求項16】
電子ビームを作り出す電子銃と、
前記電子ビームが加速される線形加速器と、
前記電子ビームを偏向させ、前記線形加速器に戻して前記電子ビームを通過させることを複数回行うための一対のエンドマグネットを備える前記マイクロトロンによって前記複数の放射線が発生されることを特徴とする請求項15に記載の貨物専用コンテナの内容物検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−510484(P2009−510484A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540026(P2008−540026)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【国際出願番号】PCT/US2006/038495
【国際公開番号】WO2008/048246
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(508097467)ハザードスキャン インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】