説明

電子加速器及びこれを備えたX線発生装置

【課題】簡素な構成でありながら、加速管で後ろ向きに加速された電子によるビーム出射手段の損傷等を防止できる電子加速器及びこれを備えたX線発生装置を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る電子加速器11は、電子ビームBを出射するビーム出射手段13と、電子ビームBの進行方向を前記電子ビームBの進行方向に対し所定の方向に偏向する偏向磁場を形成する磁場形成手段14と、偏向磁場により偏向された電子ビームBが入射する位置に配置され、この入射した電子ビームBを高周波により加速可能な加速管15とを備え、偏向磁場は、加速管15から戻ってきた電子の経路上に形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波によって電子を加速する電子加速器及びこれを備えたX線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高周波によって電子を加速する電子加速器として、図5に記載のものが知られている(非特許文献1参照)。この電子加速器100は、電子ビームを出射するビーム出射手段101と、このビーム出射手段101が出射した電子ビームを加速する加速管102とを備える。具体的に、ビーム出射手段101は、電子を発生させる電子発生部103と、この電子発生部103で発生させた電子を加速してビーム状に引き出す引出電極104とを有する。加速管102は、高周波源(図示省略)が接続され、この高周波源から供給される高周波を当該加速管102内部で共振させて高周波電場(定在波電場)を形成する。
【0003】
このように構成される電子加速器100では、電子発生部103で発生させた電子が引出電極104によって電子ビームとして引き出され、内部に高周波電場の形成された加速管102に入射する。加速管102に入射した電子ビームは、前記高周波電場によって加速され、出射口105から出射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Proceeding of the 2nd Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan and the 30th Linear Accelerator Meeting in Japan,p397,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の電子加速器100では、電子ビームを構成する電子のうち、加速管102内部に形成された高周波電場の加速位相に乗った電子は前方(出射口105)に向けて加速されるが、高周波電場の減速位相に乗った電子は電子ビームの出射方向と逆向きに(後方に向けて)加速される。この逆向きに加速された電子は、加速管102に入射する電子ビームに沿って加速管102から後方に向かい、ビーム出射手段101の電子発生部103に衝突する。この衝突により電子発生部103では発生する電子量が不安定になったり、電子発生部103自体が損傷する場合がある。
【0006】
このような問題を解消するために、ビーム出射手段101と加速管102との間にプレバンチャー及びバンチャーを設け、これにより電子ビームを高周波電場の加速位相と同期するようにバンチ化し、高周波電場の加速位相にだけ電子を供給できるようにパルス状の電子ビームを加速管102に入射させることで後方側に加速される電子をなくすことが考えられた。
【0007】
しかし、このようなプレバンチャーやバンチャーを備えた装置は、複雑な構造となるため大型化する。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、簡素な構成でありながら、加速管で後ろ向きに加速された電子によるビーム出射手段の損傷等を防止できる電子加速器及びこれを備えたX線発生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、上記課題を解消すべく、本発明は、電子ビームを出射するビーム出射手段と、前記電子ビームの進行方向を前記電子ビームの進行方向に対し所定の方向に偏向する偏向磁場を形成する磁場形成手段と、前記偏向磁場により偏向された前記電子ビームが入射する位置に配置され、この入射した電子ビームを高周波により加速可能な加速管とを備え、前記偏向磁場は、前記加速管から戻ってきた電子の経路上に形成されていることを特徴とする。
【0010】
このようにビーム出射手段からの電子ビームを加速管へ向けて偏向させた偏向磁場と同じ磁場を加速管から戻ってきた電子が通過するように偏向磁場が形成されることで、戻ってきた電子は偏向磁場によりビーム出射手段と異なる方向へその進行方向が偏向され、これにより前記戻ってきた電子のビーム出射手段への衝突が抑制される。
【0011】
詳細には、ビーム出射手段から出射された電子ビームは、偏向磁場により進行方向が偏向されて加速管に入射する。加速管に入射した電子ビームは、加速管内部に形成された高周波電場により加速されて前方側に出射されるが、加速管に入射した電子ビームを構成する電子の一部は、高周波電場の減速位相によって後方に向けて加速される。この後方側に加速された電子は、加速管に入射する電子ビームに沿って戻り、偏向磁場に入射する。この戻ってきた電子は、その進行方向が前記加速管に入射する電子ビームの進行方向と異なるため、同一の偏向磁場中で受ける力の向きが前記加速管に入射する電子ビームと異なり、ビーム出射手段と異なる方向へ向けてその進行方向が偏向される。そのため、前記戻ってきた電子のビーム出射手段への衝突が抑制され、その結果、ビーム出射手段の損傷等が防止できる。即ち、電子ビームの経路上においてビーム出射手段と加速管との間に偏向磁場を形成するだけで、バンチャーやプレバンチャー等の複雑な機構を用いることなく、加速管で後ろ向きに加速された電子によるビーム出射手段の損傷を防止することができる。
【0012】
尚、本発明において、前方とは加速管から出射される加速された電子ビームの進行方向であり、後方とは前記加速された電子ビームの進行方向とは反対向きの方向のことをいう。
【0013】
本発明に係る電子加速器においては、電子の進行を止めるためのビームダンプをさらに備え、このビームダンプは、前記加速管から戻ってきた電子が前記偏向磁場を通過したあとに到達する位置に配置されるのが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、加速管から戻ってきて偏向磁場を通過した電子をビームダンプに受けさせることにより、この戻ってきた電子の衝突に起因する電子加速器を構成する他の部材の発熱や損傷等が防止される。
【0015】
前記磁場形成手段には、前記ビーム出射手段から出射された電子ビームのビーム軸と前記加速管に入射する偏向後の電子ビームのビーム軸とを含む偏向面を挟むように互いに間隔をおいて対向する一対の磁石が配置される。
【0016】
かかる構成によれば、所望の偏向磁場を容易に形成することができ、この偏向磁場により偏向面に沿って電子ビームを加速管に向けて偏向すると共に加速管から戻ってきた電子をビーム出射手段側と反対側に向けて偏向することができる。
【0017】
前記ビーム出射手段は、電子を発生させる電子発生部とこれら発生させた電子をビーム状に引き出す引出電極とを有し、前記加速管は、前記電子ビームが入射する入射口を有し、前記一対の磁石は、当該磁石間に入射する電子ビームに対する出射する電子ビームの偏向角が90°であり、前記偏向面と直交する方向から見て、各磁石のビーム入射側端面とビーム出射側端面とのなす角が37°で且つ前記ビーム入射側端面に対する前記電子ビームの入射角及び前記ビーム出射側端面に対する前記電子ビームの出射角がそれぞれ26.5°であり、偏向半径をRとしたときに、前記電子発生部と前記ビーム入射側端面における電子ビーム入射位置との距離が2Rで、且つ前記ビーム出射側端面の電子ビーム出射位置と前記入射口との距離が2R若しくは2Rよりも短いのが好ましい。
【0018】
かかる構成によれば、前記一対の磁石により形成される偏向磁場が焦点距離を2Rとする2重収束レンズを構成するため、前記の位置に配置されることにより、サイズの小さな(例えば、直径0.2mm程度)電子発生部から引出電極により発散状態で引き出された電子ビームは、偏向磁場を通過することによって収束状態となり、加速管の入射口でx方向及びy方向において共に焦点を結び、径の小さなビームとなる。これにより、電子発生部で生じた電子が径の小さな入射口(例えば、直径2mm程度)内にロスなく若しくは僅かなロスで進入することができる。尚、本発明において、x方向とは、電子ビームの進行方向と直交し且つ偏向面に沿う方向をいい、y方向とは、電子ビームの進行方向と直交し且つ偏向面とも直交する方向をいう。
【0019】
また、サイズの大きな(例えば、直径1mm程度)電子発生部から引出電極により発散状態で出射された電子ビームは、加速管の入射口手前で一旦収束して径が最小となるため、磁石のビーム出射側端面の電子ビーム出射位置と前記入射口との距離を2Rよりも短くなるように変更して入射口の位置を前記電子ビームが一旦収束する位置にすることで、収束して高密度となった電子ビームを入射口から加速管に入射させることが可能となる。
【0020】
また、上記課題を解消すべく、本発明は、薄膜ターゲットに電子ビームを透過させてX線を発生させるX線発生装置において、上記いずれかの電子加速器と、この電子加速器で加速された電子ビームの経路上に前記薄膜ターゲットを保持する保持手段とを備えることを特徴とする。
【0021】
このようにビーム出射手段から加速管へ向かう電子ビームの経路上で且つ加速管から戻ってくる電子の経路上に偏向磁場を形成することにより、バンチャーやプレバンチャー等の複雑な機構を用いることなく、加速管で後ろ向きに加速された電子によるビーム出射手段の損傷を防止することができる電子加速器を用いることで、当該X線発生装置の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上より、本発明によれば、簡素な構成でありながら、加速管で後ろ向きに加速された電子によるビーム出射手段の損傷等を防止できる電子加速器及びこれを備えたX線発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係るX線発生装置の概略構成図である。
【図2】前記X線発生装置における各電子の移動経路を示す図である。
【図3】前記X線発生装置における電子加速器のビーム出射手段のサイズの小さい電子発生部から加速管の入射口までの電子の軌道を示す図であって、(a)はx方向における電子の軌道を示し、(b)はy方向における電子の軌道を示す。
【図4】前記X線発生装置における電子加速器のビーム出射手段のサイズの大きい電子発生部から加速管の入射口までの電子の軌道を示す図であって、(a)はx方向における電子の軌道を示し、(b)はy方向における電子の軌道を示す。
【図5】従来の電子加速器の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0025】
本発明に係るX線発生装置は、薄膜ターゲットに電子ビームを透過させてX線を発生させる装置である。具体的に、図1及び図2に示されるように、X線発生装置10は、加速された電子ビームBを出射する電子加速器11と、この電子加速器11で加速された電子ビームBの経路上にターゲットTを保持するターゲット保持手段12とを備える。尚、本実施形態に係る電子加速器11は、X線発生装置10に組み込まれて使用されるものに限らない。即ち、電子加速器11は、加速された電子ビームBを用いる他の装置に組み込まれてもよい。
【0026】
ターゲットTは、電子ビームBが照射されることによりX線が発生するものである。このターゲットTは、本実施形態ではタングステンで形成された薄膜が用いられるが、これに限定されない。即ち、ターゲットTは、電子ビームBが照射されることによりX線が発生し易い素材であればよく、モリブデン等の重元素の金属で形成された薄膜であってもよい。尚、ターゲットTは、電子ビームBが照射されることによって高温となるため、高融点の金属で形成されることが好ましい。
【0027】
電子加速器11は、電子ビームBを出射可能な電子銃(ビーム出射手段)13と、電子ビームBの進行方向を偏向する偏向磁場を形成する磁場形成手段14と、電子ビームBを加速する加速管15と、電子を受け止めるビームダンプ16とを備える。
【0028】
電子銃13は、熱電子や電解放射電子等を発生させる電子発生部13aとこれら発生した電子をビーム状に引き出す引出電極13bとを有し、電子発生部13aで発生させた熱電子等をビーム状に収束させて出射するものである。
【0029】
磁場形成手段14は、一対の偏向マグネット14a,14aを有し、これら一対の偏向マグネット14a,14a間に偏向磁場が形成される。この一対の偏向マグネット14a,14aは、偏向半径がRの90°偏向タイプのマグネットである。即ち、一対の偏向マグネット14a,14aは、当該偏向マグネット14a,14a間に入射する電子ビームBのビーム軸C1の方向と、出射する電子ビームBのビーム軸C2の方向とのなす角が90°となり、偏向半径(ビーム軸Cが一対の偏向マグネット14a,14a間で描く円弧状経路の半径)がRとなるように電子ビームを偏向する。
【0030】
具体的に、一対の偏向マグネット14a,14aは、電子銃13から出射された電子ビームBのビーム軸C1と加速管15に入射する偏向後の電子ビームBのビーム軸C2とを含む偏向面(図1における紙面)を挟むように互いに間隔をおいて対向するように配置されている。
【0031】
詳細には、各偏向マグネット14aは、偏向面と直交する方向(図1における紙面と直交する方向)から見て台形に形成されており、ビーム入射側端面17aとビーム出射側端面17bとのなす角が37°で且つビーム入射側端面17aに対する電子ビームB(詳細には、電子ビームBのビーム軸C1)の入射角及びビーム出射側端面17bに対する電子ビームBの出射角(詳細には、電子ビームBのビーム軸C2)が26.5°となるように形成されている。本実施形態では、各偏向マグネット14aは、電磁石により構成されている。
【0032】
この一対の偏向マグネット14a,14aは、電子銃13の電子発生部13aとビーム入射側端面17aとの距離が2Rで、且つビーム出射側端面17bと加速管15の入射口18との距離が2Rとなるように配置される。詳細には、前記偏向面と直交する方向から見て、電子発生部13aとビーム入射側端面17aにおける電子ビームB(より詳細には電子ビームBのビーム軸C1)の入射位置p1との距離が2Rで、且つビーム出射側端面17bにおける電子ビームB(より詳細には電子ビームBのビーム軸C2)の出射位置p2との距離が2Rとなっている。
【0033】
このように一対の偏向マグネット14a,14aが配置されることにより、これら偏向マグネット14a,14aが形成する偏向磁場が焦点距離を2Rとする2重収束レンズを構成するため、サイズの小さな(例えば、直径0.2mm程度)電子発生部13aから引出電極13bにより発散状態で引き出された電子ビームBは、偏向磁場を通過することにより収束状態となり、加速管15の入射口18でx方向及びy方向において共に焦点を結び、径の小さなビームBとなる(図3(a)及び図3(b)参照)。これにより、電子発生部13aで生じた電子が径の小さな入射口18(例えば、直径2mm程度)内にロスなく若しくは僅かなロスで進入することができる。尚、本発明において、x方向とは、電子ビームBの進行方向と直交し且つ偏向面に沿う方向をいい、y方向とは、電子ビームBの進行方向と直交し且つ偏向面とも直交する方向をいう。
【0034】
また、サイズの大きな(例えば、直径1mm程度)電子発生部13aから引出電極13bにより発散状態で引き出された電子ビームBは、加速管15の入射口18手前で一旦収束して径が最小となった後に再度発散し、入射口18の位置では電子発生部13aと同じビーム径となる(図4(a)及び図4(b)参照)。ここで、加速管15の位置をビーム軸C2に沿って後方側に移動させる、即ち、偏向マグネット14aに近づけてビーム出射側端面17bの電子ビーム出射位置p2と入射口18との距離を2Rよりも短くして入射口の位置を前記電子ビームBが一旦収束する位置に変更することで、収束して高密度となった電子ビームBを入射口18から加速管15に入射させることが可能となる。これにより、前記サイズの大きな電子発生部13aを用いても、形の小さな高密度の加速電子ビームを得ることが可能となる。
【0035】
加速管15は、高周波によって電子ビーム(荷電粒子)Bを加速するものである。この加速管15には、高周波を供給可能な高周波源(マイクロ波源)20が接続されている。加速管15は、電子ビームBの加速方向に延びる管状体によって構成され、一方の端部に電子ビームBが入射する入射口18と、他方の端部に加速された電子ビームBが出射される出射口19とを有する。また、加速管15は、その内部に電子ビームBの加速方向に沿って並ぶ複数のセル15aを備える。各セル15aは、内部に共振空洞sを有し、加速される電子ビームBのビーム軸C2に沿って隣り合う共振空洞s同士が連通するように構成されている。各セル15aは、共振器としても働く。即ち、加速管15に高周波が供給されることによって、各セル15aの共振空洞sで共鳴し、周期的な高電圧、即ち、高周波電場(定在波電場)が発生する。この周期的な高電圧によって共振空洞s内の荷電粒子、即ち、電子ビームBを構成する各電子に加速方向又は減速方向への力が働く。尚、本実施形態の加速管15は、高周波を供給されることにより内部に定在波電場が形成されるよう構成されるが、これに限定されず、高周波を供給されることにより内部に進行波電場が形成されるように構成されてもよい。
【0036】
ビームダンプ16は、加速管15から戻ってきた電子の進行を止めるためのものである。具体的に、ビームダンプ16は、熱伝導の良い銅で形成された構造体の表面をカーボンで覆うことにより構成されている。このように軽元素であるカーボンに衝突させることによって電子の進行を止めることで、電子停止時のX線の発生を抑制することができる。このビームダンプ16は、必要に応じて水冷可能に構成される。
【0037】
このように構成されるビームダンプ16は、加速管15から戻ってきた電子が偏向磁場を通過したあとに到達する位置に配置される。具体的に、本実施形態のビームダンプ16は、電子銃13に対して一対の偏向マグネット14a,14aを挟んで反対側の位置において一対の偏向マグネット14a,14a間を塞ぐような姿勢で配置されている。
【0038】
ターゲット保持手段12は、電子加速器11で加速された電子ビームBの経路上でターゲットTを保持するものである。このターゲット保持手段12は、電子ビームBに対して傾斜した姿勢でターゲットTを保持する。
【0039】
以上のように構成されるX線発生装置10では、以下のようにしてX線が出射される。
【0040】
高周波源20から所定の周波数の高周波が加速管15に供給されると、内部で共振して高周波電場(本実施形態においては定在波電場)が形成される。このとき、各セル15aでは、内部に周期的な高電圧が発生する。この状態で電子銃13から電子ビームBが出射され、当該電子ビームBは、一対の偏向マグネット14a,14a間を通過して加速管15に到達する。具体的に、電子ビームBは、一対の偏向マグネット14a,14a間に形成されている偏向磁場によりその進行方向を前記偏向面に沿って加速管15の入射口18に向けて偏向される。加速管15に到達した電子ビームBは、内部に高周波電場が形成された加速管15に入射口18から入射し、加速位相の高周波電場によって加速される。
【0041】
詳細には、各セル15a内に発生する高電圧(高周波電場)が電子ビームBに対して加速位相のときに当該セル15aを通過している電子が加速される。この高電圧が減速位相に変わったときには、加速位相の電圧によって加速された電子は、隣り合うセル15a,15a間に位置し、セル15a内に形成された減速位相の電圧には影響されない。そして、次のセル15a内に進入したときには、当該セル15a内の電圧が加速位相になっている。このように電子ビームBを構成する電子のうち、加速される電子は、各セル15aにおいて次々に加速される。このように周期的に位相が変化する高電圧(高周波電場)によって電子ビームBを構成する電子が加速されることにより、電子ビームBはパルス状となって加速される(図2参照)。
【0042】
加速された電子ビームBは、出射口19から出射され、加速された電子ビームBの経路上に保持されるターゲットTに到達する。この電子ビームBは、加速されることによって高エネルギーとなっており、ターゲットTを透過する際にX線を発生させる。
【0043】
一方、加速管15において、電子ビームBを構成する電子の一部は、高電圧が減速位相のときに各セル15a内を通過することにより減速方向に(即ち、後方側(図2において左側)へ向けて)加速される。このようにして後方側へ加速された電子は、加速管15内に入射する電子ビームBに沿って入射口18から加速管15を出て偏向磁場に戻る(図2の矢印α参照)。この加速管15から戻ってきた電子は、電子ビームBと進行方向が異なるため、偏向磁場中では電子ビームBと異なる方向に力を受けてその進行方向が偏向される。具体的には、戻ってきた電子は、偏向面に沿ってビーム出射手段13側と反対側に向けて偏向される(図2参照)。
【0044】
このようにして偏向された電子は、偏向磁場を通過したあと、この電子の到達位置に配置されたビームダンプ16に衝突してその進行が停止する。
【0045】
以上のように本実施形態では、電子銃13から加速管15へ向かう電子ビームBの経路上で且つ加速管15から戻ってくる電子の経路上に偏向磁場を形成することにより、バンチャーやプレバンチャー等の複雑な機構を用いることなく、加速管15で後ろ向きに加速された電子による電子銃13の損傷を防止することができる電子加速器11を用いることで、当該X線発生装置10の小型化を図ることができる。
【0046】
即ち、本実施形態に係るX線発生装置10の電子加速器11では、電子銃13からの電子ビームBを加速管15へ向けて偏向させた偏向磁場と同じ磁場を加速管15から戻ってきた電子が通過するように偏向磁場が形成されることで、戻ってきた電子は偏向磁場により電子銃13と異なる方向へその進行方向が偏向され、これにより前記戻ってきた電子の電子銃13への衝突が抑制される。これにより、電子加速器11の簡素化及び小型化を図ることができる。
【0047】
詳細には、電子銃13から出射された電子ビームBは、偏向磁場により進行方向が偏向されて加速管15に入射する。加速管15に入射した電子ビームBは、加速管15内部に形成された高周波電場により加速されて前方側に出射されるが、加速管15に入射した電子ビームBを構成する電子の一部は、高周波電場の減速位相によって後方に向けて加速される。この後方側に加速された電子は、加速管15に入射する電子ビームBに沿って戻り、偏向磁場に入射する。この戻ってきた電子は、その進行方向が加速管15に入射する電子ビームBの進行方向と異なるため、同一の偏向磁場中で受ける力の向きが加速管15に入射する電子ビームBと異なり、電子銃13と異なる方向へ向けてその進行方向が偏向される。そのため、前記戻ってきた電子の電子銃13への衝突が抑制され、その結果、電子銃13の損傷等が防止できる。即ち、電子ビームBの経路上において電子銃13と加速管15との間に偏向磁場を形成するだけで、バンチャーやプレバンチャー等の複雑な機構を用いることなく、加速管15で後ろ向きに加速された電子による電子銃13の損傷を防止することができる。
【0048】
また、本実施形態では、電子加速器11がビームダンプ16を備えることで、加速管15から戻ってきて偏向磁場を通過した電子を当該ビームダンプ16に受けさせることにより、この戻ってきた電子の衝突に起因する電子加速器11やX線発生装置10を構成する他の部材の発熱や損傷等が防止される。
【0049】
尚、本発明の電子加速器11及びこれを備えたX線発生装置10は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0050】
例えば、磁場形成手段14の具体的構成は限定されない。即ち、上記実施形態では、電磁石により一対の偏向マグネット14a,14aが構成されているが、永久磁石等が用いられてもよい。
【0051】
また、一対の偏向マグネット14a,14aの偏向角は限定されない。例えば、上記実施形態では、一対の偏向マグネット14a,14aは、90°偏向であるが、これに限定される必要はなく、180°や45°等の異なる偏向角であってもよい。即ち、電子銃13から加速管15へ向う電子ビームBと加速管15から戻ってきた電子とが共通の磁場を通過するように構成されていればよい。
【0052】
また、上記実施形態では、焦点距離が2Rとなるように偏向磁場が2重収束レンズを構成するがこれに限定されない。即ち、x方向又はy方向のいずれかが収束するように磁場形成手段14を構成してもよい。このように構成されると加速管15に入射する電子ビームBにロスが生じるが、電子ビームBと加速管15から戻ってきた電子とが通過する共通の偏向磁場が形成されていれば前記戻ってきた電子の電子銃13への衝突は防止できる。
【符号の説明】
【0053】
10 X線発生装置
11 電子加速器
12 ターゲット保持手段
13 電子銃(ビーム出射手段)
13a 電子発生部
13b 引出電極
14 磁場形成手段
14a 偏向マグネット
15 加速管
16 ビームダンプ
17a ビーム入射側端面
17b ビーム出射側端面
18 入射口
20 高周波源
B 電子ビーム
C1 ビーム軸
C2 ビーム軸
T ターゲット
R 偏向半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを出射するビーム出射手段と、
前記電子ビームの進行方向を前記電子ビームの進行方向に対し所定の方向に偏向する偏向磁場を形成する磁場形成手段と、
前記偏向磁場により偏向された前記電子ビームが入射する位置に配置され、この入射した電子ビームを高周波により加速可能な加速管とを備え、
前記偏向磁場は、前記加速管から戻ってきた電子の経路上に形成されていることを特徴とする電子加速器。
【請求項2】
電子の進行を止めるためのビームダンプをさらに備え、
このビームダンプは、前記加速管から戻ってきた電子が前記偏向磁場を通過したあとに到達する位置に配置されることを特徴とする請求項1に記載の電子加速器。
【請求項3】
前記磁場形成手段は、前記ビーム出射手段から出射された電子ビームのビーム軸と前記加速管に入射する偏向後の電子ビームのビーム軸とを含む偏向面を挟むように互いに間隔をおいて対向する一対の磁石を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電子加速器。
【請求項4】
前記ビーム出射手段は、電子を発生させる電子発生部とこれら発生させた電子をビーム状に引き出す引出電極とを有し、
前記加速管は、前記電子ビームが入射する入射口を有し、
前記一対の磁石は、当該磁石間に入射する電子ビームに対する出射する電子ビームの偏向角が90°であり、前記偏向面と直交する方向から見て、各磁石のビーム入射側端面とビーム出射側端面とのなす角が37°で且つ前記ビーム入射側端面に対する前記電子ビームの入射角及び前記ビーム出射側端面に対する前記電子ビームの出射角がそれぞれ26.5°であり、偏向半径をRとしたときに、前記電子発生部と前記ビーム入射側端面における電子ビーム入射位置との距離が2Rで、且つ前記ビーム出射側端面の電子ビーム出射位置と前記入射口との距離が2R若しくは2Rよりも短いことを特徴とする請求項3に記載の電子加速器。
【請求項5】
薄膜ターゲットに電子ビームを透過させてX線を発生させるX線発生装置において、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電子加速器と、
この電子加速器で加速された電子ビームの経路上に前記薄膜ターゲットを保持する保持手段とを備えることを特徴とするX線発生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−165544(P2011−165544A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28591(P2010−28591)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】