説明

電子基板と、その電子基板を備える航空機

電子基板は、重なった少なくとも2つの導電層(2′)を備えていて、その2つの導電層の間には絶縁層(3′)があり、その2つの導電層(2′)は、それぞれ、有用な導電部(7′)と、その有用な導電部の周囲に位置する導電部(6′)とを備えていて、これら導電部(6′、7′)の間には電気的な絶縁部(8′)が存在し、2つの導電層(2′)のうちの第1の導電層の絶縁部(8′)は、その2つの導電層(2′)のうちの第2の導電層の絶縁部(8′)に対してずれている。航空機は、このような少なくとも1つの電子基板が内部に配置された区画(10′)を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば航空機に搭載される装置に組み込まれる電子基板に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示したように、重ねられた少なくとも2つの導電層を備えていて、その導電層が電気的な絶縁層3によって互いに分離された電子基板がすでに知られている。
それぞれの導電層2は、少なくとも1つの周辺導電部6と、有用な中央導電部7とを備えていて、後者は、エレクトロニクス素子4、5に電気的に接続することができ、絶縁部8によって周辺導電部6から分離されている。絶縁部8のサイズと材料は、周辺導電部6と中央導電部7が電気的に十分に絶縁されるように選択される。
絶縁層3の材料とサイズも、導電層2の間が電気的に十分に絶縁されるように選択される。
このような電子基板では、絶縁部8は互いに重ねられ、隣り合った2つの絶縁部8の間には介在絶縁層3の一部が挿入される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、同じタイプの電子基板で、同程度の信頼性を持つが、熱の放散に関しては改善された性能を有するものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで本発明は、重なった少なくとも2つの導電層を備えていて、その2つの導電層の間には電気的な絶縁層があり、その2つの導電層は、それぞれ、有用な導電部と、その有用な導電部の周囲に位置する導電部とを備えていて、これら導電部の間には電気的な絶縁部が存在する電子基板において、2つの導電層のうちの第1の導電層の絶縁部が、その2つの導電層のうちの第2の導電層の絶縁部に対してずれていて、その2つの導電層のうちの第1の導電層の有用な導電部の一部が、その2つの導電層のうちの第2の導電層の絶縁部の鉛直線上に位置することと、その2つの導電層のうちの第2の導電層の周辺部の一部が、その2つの導電層のうちの第1の導電層の絶縁部の一部の鉛直線上に位置することを特徴とする電子基板を提案する。
【0005】
1つの層と別の層で絶縁部がずれているため、2つの層のうちで(動作しているときに熱源となるエレクトロニクス素子が電気的に接続されている)一方の層の有用な導電部を他方の層の周辺部に“近づける”ことができる。(熱の良導体ではない)絶縁部はもはや重なっていないため、上記の従来の電子基板におけるように同じ領域にこれら絶縁部を積み重ねることと結び付いた熱障壁の効果が著しく小さくなる。なぜなら一方の層と他方の層でこれら絶縁部がずれているため、異なる2つの層上に位置していて絶縁部に対して互いに反対側にある2つの(熱の良導体でもある)電気的な導電部を隔てる距離を小さくできるからである。そのため伝導による熱の移動を、1つの層から別の層へとこれらの導電部の間で実現することができる。
【0006】
エレクトロニクス素子に由来して有用な導電部によって運ぶことによって放散させるベき熱はしたがって隣り合った層の方向に向けてより効果的に排出することができる。
したがって本発明の電子基板により、2つの対立する要求、すなわち十分に熱を放散させる能力を保持しながら電気的にうまく絶縁するという要求に応えることができる。
したがってこの構成により、過熱の危険性を回避しつつ、熱をよりよく放散させることが保証される。この場合には熱の放散が主として伝導によってなされるため、これは、特にエレクトロニクス素子が気密区画内に配置されている場合にそのエレクトロニクス素子の動作の信頼性を大きくするのに寄与する。
【0007】
好ましい特徴によれば、簡単かつ便利であるようにするとともに、製造上および利用上の理由により、2つの層の絶縁部は同じサイズである。
好ましい別の特徴によれば、上に示したのと同じ理由により、ずれは、同じ層の導電部を隔てる距離とほぼ等しい。
【0008】
このようにして本発明の電子基板は、十分な電気的絶縁を保証しつつ、隣り合った2つの層で絶縁部に対して互いに反対側にある2つの導電部の間の距離を小さくすることで熱の放散が容易になるように最適化される。この場合、これら2つの層は互いにより近くなるが、それでも重なっていないため、電気的絶縁を低下させる危険性のある導電層間の容量カップリングは完全に回避される。
【0009】
好ましいさらに別の特徴によれば、
− 本発明の電子基板は少なくとも3つの導電層を備えていて、その導電層の絶縁部は、層ごとに、1つの方向に、次は反対方向にと交互にずれている;および/または
− 絶縁部はエポキシからなる;および/または
− 絶縁層は、ガラス繊維をベースとした絶縁材料からなる;および/または
− 1つの絶縁部の幅は、1つの絶縁層の厚さよりも大きい;および/または
− 1つの絶縁部の幅と1つの絶縁層の厚さの比は5よりも大きい;および/または
− それぞれの層ごとに、有用な導電部をエレクトロニクス素子に電気的に接続できる。
【0010】
本発明は、第2の側面として、上に説明した少なくとも1つの電子基板が内部に配置された区画を備える航空機も目的とする。
【0011】
好ましい別の特徴によれば、上に説明したのと同じ理由で、
− 区画は気密区画である;および/または
− 区画の中に配置されたそれぞれの電子基板の少なくとも1つの周辺部は、航空機のフレームに電気的に接続されている。
【0012】
以下添付の図面を参照した単なる例示としての実施態様に関する詳細な説明を行なう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の電子基板の概略断面図である。
【図2】本発明の電子基板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図2に示した本発明の電子基板1′はボード支持体(図示せず)を備えており、その上に複数の(銅製)導電層2′が配置されている。これら導電層2′の間には、(例えば“FR4”という名称で知られる材料からなる)織ったガラス繊維をベースとした絶縁材料からなる厚さdの絶縁層3′が挿入されている。
図示した例では、この電子基板1′は、同じタイプの他の電子基板とともに、航空機の気密区画10′の中に配置されている。
【0015】
それぞれの導電層2′は、周辺導電部6′と有用な中央導電部7′を備えており、中央導電部7′はエポキシからなる絶縁部8′によって周辺導電部6′と分離されている。
上方導電層の中央導電部7′の上にはエレクトロニクス素子4′、5′が固定されていて、これらエレクトロニクス素子は、この中央導電部に電気的に接続されるか、ビア(図示せず)を通じて下方の中央導電部7′に電気的に接続されている。
【0016】
周辺導電部6′は装置または航空機のフレームに電気的に接続されているのに対し、中央導電部7′のほうは、絶縁部8′のおかげでフレームから絶縁されている。そのためこの電子基板は浮いた状態の装置を形成し、能動素子4′と5′を支持する部分はフレームから絶縁されている。
絶縁部8′は、航空機の分野において搭載される装置の場合のように特にこの装置が大きな高度に達したとき、同じ導電層2′の周辺導電部6′と中央導電部7′の間の十分な電気的な絶縁を保証する所定の幅Dを有する。
【0017】
図示した例では、同じ導電層2′の周辺導電部6′と中央導電部7′の間が1600Vで絶縁されているようにするため、幅Dは800μmに等しい。
距離dのほうは、隣り合った2つの導電層2′ができるだけかさばらないようにしつつ十分に絶縁されるように選択する。この距離は距離Dよりも小さい。なぜならここで用いる材料FR4は、エポキシよりも絶縁能力が優れているからである。図示した例では、距離dは80μmに等しいため、比D/dは10に等しい。
【0018】
ここで得られる平面/フレームの絶縁電圧は500Vに等しい。
したがってこの構成により、優れた電気的絶縁が得られるとともに、電磁的適合性の観点からして優れた性能も得られる。
【0019】
本発明による電子基板では、絶縁部8′は、その絶縁部の幅Dに等しい距離だけ互いにずれている。ずれる方向は、1つの導電層から別の導電層に移ると逆になるため、この電子基板は図2に示したように櫛状の構造を有する。
したがって上方導電層2′の有用な中央導電部7′の一部は、その直下の導電層2′の絶縁部8′の鉛直線上に位置し、この層の周辺導電部6′は、上方導電層の絶縁部8′の鉛直線上に位置する。
【0020】
層ごとにこのようにずれているため、それぞれの絶縁部8′は、すぐ隣にある導電層2′の導電部6′または7′の一部の鉛直線上に位置し、導電部6′または7′のその部分自身は、向かい合っている隣の導電層2′の絶縁部8′の鉛直線上に位置する。以下同様である。
したがって導電層2′の周辺導電部6′は、隣りにある導電層2′の中央導電部7′により近くなり、周辺導電部6′を隣りにある導電層の中央導電部7′と隔てる最小距離は、絶縁層3′の厚さdに等しい。この厚さdは、図2に参照番号9′の二重矢印で示してある。
【0021】
したがって導電層間の絶縁部8′のずれは、同じ導電層の周辺導電部6′と中央導電部7′を隔てる距離に等しいため、これら2つの部分6′と7′は互いに最も近くなるが、重なることはない。その結果、異なる層の周辺導電部6′と中央導電部7′の間の(電気的絶縁を損なう)容量カップリング現象を回避しつつ熱の放散が促進される。
【0022】
距離dは距離Dよりも非常に小さいため、熱伝導が大きく改善される。実際、1つの層から別の層へと、すなわち1つの層の中央導電部7′から隣の層の周辺導電部6′へと熱は容易に排出されるであろう。この場合に通過すべき(熱の良導体ではない)絶縁体の最小距離は、従来技術ではDに等しい距離(すなわち同じ導電層の2つの部分6′と7′を隔てる距離)であるのに対してそれよりも小さなd(参照番号9′)になる。
【0023】
したがって従来の電子基板では、絶縁部8が重なっているために断熱性が大きいという理由で熱の排出は主として導電層のある(図1で水平な)面内で起こるのに対し、本発明の電子基板では、絶縁部8′がずれているために導電層のある面を横断して(すなわち図2で鉛直方向に)熱を排出することができる。
したがって熱の排出は、1つの層から別の層へとはるかに容易に実現できるため、この電子基板は許容可能な温度条件に維持され、エレクトロニクス素子の正常な動作が保証される。
【0024】
このような電子基板は、特に航空機のバックアップ計算器で使用される。航空機では、例えば同じ電気的絶縁で、電子基板の周辺部の熱抵抗が、従来の絶縁構造(図1)の場合と比べて櫛状の構造(図2)では半分になることが観察できた。
さらに、この櫛状の構成だと、プリント回路板上で追加の製造コストが生じないこともわかるであろう。したがって実現する上で特に経済的かつ実用的である。
【0025】
図示しない変形例では、隣り合った2つの導電層の2つの絶縁部8′のずれは幅Dよりも小さいため、絶縁部の一部だけが対応する導電部の鉛直線上に位置する。
図示しないさらに別の変形例では、絶縁部同士のずれは、1つの層から別の層へと向きが交互になるのではなく、常に同じ方向になる、および/または2つの導電層の2つの絶縁部のずれは、幅Dよりも大きい。
図示しないさらに別の変形例では、絶縁部は、1つの層と別の層でサイズが異なる。
【0026】
状況に応じて他の多くの変形例が可能であり、この点に関し、本発明が図示して説明した実施態様に限定されないことに注意されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重なった少なくとも2つの導電層(2′)を備えていて、その2つの導電層の間には電気的な絶縁層(3′)があり、その2つの導電層(2′)は、それぞれ、有用な導電部(7′)と、その有用な導電部の周囲に位置する導電部(6′)とを備えていて、これら導電部(6′、7′)の間には電気的な絶縁部(8′)が存在する電子基板において、
前記2つの導電層(2′)のうちの第1の導電層の絶縁部(8′)が、その2つの導電層(2′)のうちの第2の導電層の絶縁部(8′)に対してずれていて、
その2つの導電層(2′)のうちの第1の導電層の有用な導電部(7′)の一部が、その2つの導電層(2′)のうちの第2の導電層の絶縁部(8′)の鉛直線上に位置しており、
その2つの導電層(2′)のうちの第2の導電層の周辺部(6′)の一部が、その2つの導電層(2′)のうちの第1の導電層の絶縁部(8′)の一部の鉛直線上に位置する、
ことを特徴とする電子基板。
【請求項2】
前記2つの導電層の絶縁部(8′)が同じサイズである、ことを特徴とする請求項1に記載の電子基板。
【請求項3】
前記ずれが、同じ導電層(2′)の導電部(6′、7′)間を隔てる距離(D)とほぼ等しい、ことを特徴とする請求項1または2に記載の電子基板。
【請求項4】
少なくとも3つの導電層(2′)を備えていて、その導電層の絶縁部(8′)が、層ごとに、1つの方向に、次は反対方向にと交互にずれている、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電子基板。
【請求項5】
前記絶縁部(8′)がエポキシからなる、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電子基板。
【請求項6】
前記絶縁層(3′)が、ガラス繊維をベースとした絶縁材料からなる、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電子基板。
【請求項7】
1つの絶縁部(8′)の幅(D)が、1つの絶縁層(3′)の厚さ(d)よりも大きい、ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電子基板。
【請求項8】
1つの絶縁部(8′)の幅(D)と1つの絶縁層(3′)の厚さ(d)の比が5よりも大きい、ことを特徴とする請求項7に記載の電子基板。
【請求項9】
それぞれの導電層(2′)ごとに、前記有用な導電部(7′)をエレクトロニクス素子(4′、5′)に電気的に接続できる、ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の電子基板。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の少なくとも1つの電子基板が内部に配置された区画(10′)を備える航空機。
【請求項11】
前記区画(10′)が気密区画である、ことを特徴とする請求項10に記載の航空機。
【請求項12】
前記区画(10′)の中に配置されたそれぞれの電子基板の少なくとも1つの周辺部(6′)が、航空機のフレームに電気的に接続されている、ことを特徴とする請求項10または11に記載の航空機。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−519755(P2010−519755A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550301(P2009−550301)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000211
【国際公開番号】WO2008/129155
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(506355257)エアバス フランス (117)
【Fターム(参考)】